( ^ω^)千年の夢のようです

川 ゚ -゚):先駆者の踏む骸

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19 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 21:16:40 ID:WEBAMmVw0


蒼い海の上を羽ばたく生き物はいつもどこへいくのか。

同属ですら、すれ違う一瞬、挨拶もなく、
ただ元気な姿をみることで想像するしかない。


今日をつつがなく遊回し飽きた頃、
彼らは巨大な夕日に身を焼き尽くされるがごとく姿を消しはじめる。
おそらくは存在意義…その酷使した翼を休めるべく、彼らは彼らの住まう世界へと戻るのだろう。


去りゆく眼下に広がった、いつもと同じ日常を過ごす地上の者たちにも同じことがいえた。

一時を共有し、夜の帳と共に眠りについたとしても…
陽が昇れば多くを忘れ、一握りの思い出を胸に今日という一日をまた生きる。

そんな一週間前に食べたものすら曖昧な記憶力に、人間はすべてを頼ろうとする。


誰がどうした? 彼がそうなった?
好奇心がなければ言葉も交わさず、興味がなければ瞬く間に忘却してしまうくせに、
人間はやたら多くを知りたがる。


……どこへ辿り着くかもわからぬ、虚しく残酷な好奇心。

20 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 21:18:08 ID:WEBAMmVw0
愚かしいことに。
知ろうとすれば知るほど今度は、
指をくわえて結末を待つだけの無謀さを嫌でも思い知らされる。


あらゆる想定に行動を備える者もいれば、
本能のまま、来るものを拒まぬ姿勢で過ごす者もいる。
――だがそれすら。
等しく自分の世界でしか物事を見ない証拠に他ならぬことを、いつか気付ける日がくるのだろうか…?


川 ゚ -゚)
     《コツ…コツ…》

たったいまブーツを鳴らして歩くクーは、ずっと考えている。
少なくとも…記憶のあらん限り。


人間のもつ、他の動物とは恐らく決定的に異なる部分。

ヒトという種のためでなく、自分のためでもない…。
昨日まで何も知らなかった隣人のために、
今日を共に生きるための感情を分け与えるという性質。


川 ゚ -゚) 「少し遅くなってしまったな」


自己を犠牲にしてでも誰かに寄り添う心。
誰もが大なり小なり抱えていて、ある日、不意に湧き上がる "情" だ。
はみだし者のチンピラも、性を自覚する前の幼子も、
死を控えた老人にも、それはいつか芽生えるものだ。


だからこそ悩み、病み、時に自ら命を投げ出してしまうこともあるかもしれない。
幸い生き永らえたとしても知らず知らずのうちに歪み、
その気もないのに周囲を傷付ける刃を研いでしまう者もいるかもしれない。


誰かと時間を共にするからには、そういったリスクもある。
喜びと哀しみは表裏一体だ。

21 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 21:23:43 ID:WEBAMmVw0
しかして天道様の明るみに晒されてすらそんな有り様なのだ。
陰に残る、止まないざわつきも居場所を変えるだけで本質は何も変わらない。


いくら声高らかに正義を唱えても、
見失った到着点には永遠辿り着くことはない。


ならばせめて、自分のために堂々と生きられるだろうか?
どういうわけか、月下であれば赦されることも、
なぜか陽の下では憚られるような錯覚に陥るのも人間の性だった。


(゚- ゚ 川 「…」

川 ゚ -゚) 「……」


だからこそ、というべきか。
人は新しいものなどありはしない、言い尽くされた日常を求める。
飽き飽きしつつも不満のない生活を望む。


クーが歩いているこの西の都も、それを反映するかの如し同じ風景を映し出す。

宵に紛れて往来する人は徐々に少なくなっていく。
幸せの総数が限られているのか、
都に入ったときよりも表情に微笑をたたえる者が増えている気がした。


それはまるで…この場にいない者の分まで笑っているかのように見えた。

22 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 21:25:22 ID:WEBAMmVw0

《コツ…コツ…》と、低めのヒールを取り付けたブーツ底が鳴らす鐘。
無限の夜空に点在する星のように、空白とリズムを刻む。


((  川 ゚ -゚)


クーとすれ違う、通りすがりの見知らぬ男が振り向いた。
道端で毛繕いする野良猫すらチラリと彼女の機嫌を窺い、
しかし警戒に値しないと判断したのか野生の習性へと身を戻す。


両端に建ち並ぶ商店のシャッターはすでに閉じていた。

裏路地からは食材を煮込んだ残り香が漂っている。
勝手口からまばらに出てくるのは…
例外なくあくびを噛み締め、帰路につく直前の店主たちだろうか。

…そんな彼らも思わず口を塞ぐことを忘れ、クーに視線を注ぐ。


歓楽区の灯りに佇む美女――いやそれどころか、
娼婦には持ち得ない美しさと高貴さが滲むその雰囲気に、思わず唾を飲み込んだ。

23 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 21:28:10 ID:WEBAMmVw0
そんな住人たちの反応など意に介さず、なおも踵を鳴らして彼女は歩く。

すでに刻は日を跨いでいた。
辺りから人の影が見えなくなっても、ひたすらに商業区内を奥へ…奥へと。
 《コツコツコツコツ…
        コツコツコツコツ…》
何度も路地を曲がり、目的地となる行き止まりに辿り着く頃には
彼女の歩調は大きく、そして速くなっていた。
いつの間にか手には錫杖が握られ、シャラリと尖った音をたてる。


川 ゚ -゚) 「…」


足を止めて仁王立つ。
上下に揺れる肩が、荒くなった息を整えようと空に訴える。


ゆったりなびく黒髪の毛先と裏腹に、忙しなく巡らせる視線に飛び込むのは
[closed factory]の文字を掲げるモナー工房…。

しかし掛けられたその札の意味も虚しく、
扉は薄く開かれ、中からは暖かな空気と灯りが漏れる。

      コンコンッ  
川 ゚ -゚)つ|´


一見して風景は周囲に溶け込んでいる…、ノックの音だけを空回らせて。
待ってみても、工房内からは一切の物音もしない。
…時刻はもう真夜中になるのだから当たり前なのだが。


川 ゚ -゚)

24 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 21:28:59 ID:WEBAMmVw0
――不安。
だけでなく、違和、異物、焦燥と…。
ぞくぞくと胸中が騒ぎだしていることを知るのは主たる彼女だけだ。


川 ゚ -゚) 「【シールド】、【バリア】」


表情を引き締め、物理防御壁と魔法防御壁を同時に張る。
幾何学模様のプリズムが亀の甲羅を象り、その上からオーロラを纏った。

別々の魔導力を行使したことで錫杖に付けられた二つのリングが発光し、
溜め込んでいた魔導力が一時的に失われる。


川 ゚ -゚) 「モナー、入るぞ?」

25 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 21:31:19 ID:WEBAMmVw0
モナー工房に静寂は滅多に訪れない。

クーの知る彼は、灯りをつけっぱなしで眠りこける癖など無いし、
まして依頼人を待たず、更に迂闊に工房を留守にするような意識の低い者ではない。

舞い込み続ける依頼の陰で、
余暇があれば職人としての技量を研ぎ澄ませるような…良くも悪くも堅物だ。


クーは扉をゆっくり押し、その身体ごと進入すると中の様子を窺う。


(゚- ゚ 川 「…」


そうやってエントランス、客間を順番に開け放ち、工房奥の扉に手を伸ばした直後のことだった。
    《ガダ
         ダッ!!》
強い衝撃が建物全体を襲う。
異物を排除するかのような人為的振動。


::川 ゚ -゚)つ:: 「…【フォース】!」
             《ギィン!》

崩れ落ちようとする脚に力を入れ、
クーは伸ばしていた手のひらをそのままに魔導力を解き放った。
もう一方に握る錫杖のリングからは耳障りな金属音が鳴り響くも、
先の衝撃で既にひび割れていた壁の倒壊に紛れた。

しかし、クーの身を離れた魔導力はそれだけに止まらない。
収まりつかぬ暴力へと変換され、残る内部の物質を砕く。


川 ゚ -゚)つ 「何者かは知らないが表に出ろ。 ここはモナーだけの聖域だ」


声に呼応するかのようにひらけていく風塵…。

ぶら下がる鎖や竈に傷はなく、
しかし横殴りに吹き飛ばされた工具が反対側の壁へと散らばっていた。


見れば部屋の隅でうつ伏せに倒れたモナーの姿。
――同時、その傍らに佇む男の姿があった。

26 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 21:32:03 ID:WEBAMmVw0
川 ゚ -゚) 「……お前」


モナー以外の…向こう側にいた存在もろとも破壊しようと先制に放った魔法だったが、
その目論みは果たされなかった。

それどころか。


川 ゚ -゚) 「いつ以来か…久し振りだな。 だがこんなところで何をしている?」




           (^ω^ )


半壊した部屋の中心に佇む不死の仲間。
無傷のブーンは平然とそこに立ち、クーを見つめていた。
大剣デュランダルを無造作に握って。


川 ゚ -゚) 「モナーに何をした」

(^ω^ )「僕じゃないお…来たときには、もう」

川 ゚ -゚) 「だったら尚更だ、どうしてここに――」

(;メメ ∀ )「…ぅ」

川 ゚ -゚) 「モナー!」


ブーンの脇を抜け、クーは駆け寄った。
抱き抱えたモナーの身体には赤黒い痣が浮き、細かな切り傷が無数に浮かぶ。
間違ってもそれは【フォース】のダメージ痕ではない。


            (^ω^ )

27 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 21:34:46 ID:WEBAMmVw0
川 ゚ -゚) 「大丈夫か、なにがあった?」

(;メメ´∀`)「……ぁ、ぁ…クー?」

川 ゚ -゚) 「良かった…事故か、それとも…?」

(;メメ´∀`)「ゃ………槍」

川 ゚ -゚) 「槍?」


クーは辺りを見回す。

短めにぶら下がる照明はまだ少し揺れている。
指向性の強い光が当てられた両壁にはこれまでモナーの拵えてきた、
種類豊富な武器やアクセサリーがところ狭しと並べられ、
そのすべてがスライド式のクリアケースに収められている。

そのなかには槍も置いてある。
いずれも定期的に手入れされているのか、刃の部分は鞘に被せられ、しかし埃汚れなどは見受けられない。

隙間なく、綺麗に陳列されている。


川 ゚ -゚) 「すべてあると思うが…」


モナーは首を振ってそれを否定した。
代わりに震える手で指したのは……作業場の中央に鎮座する竈。

上部から挿し容れられるよう、
天井の四方から繋ぐための鎖が設置されているものの、いまは所在なさげに宙を泳いでいた。


(;メメ´∀`)「…うぅ……」

川; ゚ -゚) 「…」

28 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 21:37:26 ID:WEBAMmVw0
項垂れるモナーの瞳を覗くも、彼から窺えるのは驚愕の表情だけ。


次に思い浮かべたのはブーンだが、
彼がそれらしいものを気にしたり、持っていた様子はなかった。

槍は携帯性の悪さからひどく目立つ。
たとえば持ち出すにしても、隠し持てるような得物ではない。


そこでやっとクーは気が付いた。

ブーンの姿が見当たらないのだ。
目を離したほんのわずかな間に、工房はクーとモナーの二人だけが息している。


川; ゚ -゚) 「なんだというんだ」


ともかく錫杖を脇に【ヒール】を詠唱。
淡い光がモナーを包み、傷を癒やそうと魔導粒子が収束していく。

しかし、痣を避けるその流動はクーの不安を煽った。


川 ゚ -゚) ( これは呪術の傷…だがモナーは )

(;メメ´∀`)「…ご…ごめん、指輪はまだ…」

川 ゚ -゚) 「そっちはいいよ、それよりもまずは状況を話してくれないか。
痛みがひいてからゆっくりでいい」

(;メメ´∀`)「槍が……生きてたモナよ」

(;メメ´∀`)「不死者を出せ……そう言ってた」


川 ゚ -゚)


川; ゚ -゚) 「…なんだと?」


 

29 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 21:42:17 ID:WEBAMmVw0

工房を出たクーは夜の【ロータウン】を走る。
数分前に比べれば強く叩かれるブーツの底が、整備されていない路地のタイルをガツ、ガツと削る。


『化け物モナ…。(´∀`メメ;)
 気を失う前にみえたのは、黄色い瞳と――』


( 化け物… )    三   川 ゚ -゚) 


慣れない疾走に長い黒髪がなびく。
手入れ済みの艶やかさが宵の寒気を吸い込み、張り詰めた緊張を演出した。
はためく外套は防寒具の役目を忘れ、口元からは白い息が流れた。

槍が化け物なのか…。


( アサウルス……? )   三 川 ゚ -゚) 


自然とその単語を思い浮かべ、クーは首をかしげた。
……どこで知ったのだろう?
名前は知っているのに、記憶からは何も引き出せない。


こんな時、クーは思考をさっさと切り替える。
自分の記憶ほどあてにならないものはない。
現状を把握するならば、客観的に見直してみるのだ、と。


…モナーの赤黒い痣は呪術の跳ね返り。
…魔導力そのものによるダメージ。


それはまるで "偽りの湖" における穢れのような――


           「!!」 (゚- ゚ 川


――今まさに街のどこかで膨張し続けている、
赤黒い魔導力…【ウラミド】の波動と同じものだ。



(推奨BGM:Fire Above the Battle)
https://www.youtube.com/watch?v=GmR3AALCPzo

30 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 21:43:28 ID:WEBAMmVw0
----------


( <●><●>) 「……不完全な魔法で貴方をきちんと始末できなかった "私達" の責任ということはわかってます。
……申し訳ありません」


いまは昔、赤い森の惨劇から続く怨念。

かつてナナシはショボンを庇い、
闇のブリザード…【リベンジフロスト】をその身に受けてしまった。
生粋の呪術師にも制御できない【ウラミド】の暴走によって。


( <●><●>) 「今の私であれば、もっと完璧に仕上げてみせます。
……この、未完成だった身体に託された先祖達すべての魔導力で」


ナナシという青年の人生も、ずいぶんと永く停められていた。
それなのに…やっと目覚めて間もなく。
この日、悲劇と報復が再開しようとしている。

かつては土塊だったワカッテマスの怨念が、赤い森の一族を騙る。



ワカッテマス。
生まれもった使命に奔走し…
――見せかけの自意識に踊らされて――
定められた呪いを遂行するだけの "哲学ゾンビ" と成り果てつつある泥人形。



ミ,,゚Д゚彡 「でやあああっ!」


時を加速させたように、ワカッテマスの眼前まで全身を運ぶ。



ナナシ。
生まれ堕ちた境遇ゆえか…
――運命に翻弄されては未だ幸を掴めぬ――
定められた不可視の呪いに抗いながらも、今を必死に生きるひとりの人間。



それは獣よりも速く、
それは獣よりも力強く、
ツヴァイヘンダーを突きだした。

31 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 21:46:09 ID:WEBAMmVw0
川 ゚ -゚) 「!」


クーの瞳が彼らを捉えたのはまさにその時。
塀の下…視程に収まっているのはどちらも人間の形をしていたが、洩れる波動は偽れない。


川; ゚ -゚) 「…ちっ」


本来ならば詠唱すら惜しみ、すぐにでもリングに溜め込んだ魔導力を放ちたかった。
だが手前にいる青年が邪魔をして、強力な魔法は躊躇われる。

時間はない。



( <●><●>) 「……【リベンジフロスト】」

川 ゚ -゚)つ 「封じろ…っ、【サイレス】!!」



 

32 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 21:47:06 ID:WEBAMmVw0




 

33 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 21:48:12 ID:/giCWiAc0

( <●><●>) 「……まさか、」

ミ,,゚Д゚彡


ワカッテマスは、フラりと身体を後ろによろめかせ……一歩下がっただけでまた立ち尽くす。
ナナシのツヴァイヘンダーの切っ先は、届かなかった。


( <●><●>) 「まさか私が冷や汗というものをかけるとは知りませんでした」

( <●><●>) 「……詠唱を途中で止めなければ、倒れていたのはこちらの方でしたね」

ミ,,゚Д゚彡


前傾姿勢でツヴァイヘンダーを長く前に突き出したナナシは動かない。
…………その全身は、蝋で塗り固めたように凍っていた。


( <●><●>) 「……中途半端な詠唱と魔法ゆえに、いずれまた目覚めてしまうことはわかってます。
……ですから」


この時、ワカッテマスは思い違いをしていた。


彼の詠唱と魔法が中途半端だったのではない。
クーによって魔導力の噴出を留められた結果なのだ。


【サイレス】は対象となる者の魔導力の出入り口を塞ぐ。
指先、手のひら、身体全体に至るまで。
真逆のベクトルをぶつけることで、一時的に波動を相殺することができる。


( <●><●>) 「【フォース】」

34 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 21:49:35 ID:/giCWiAc0
魔導力の波は確かにワカッテマスの身を巡った。
だが発動には至らない。


( <●><●>)


( <●><●>) 「……?」


…その結果、彼はナナシに止めを刺せない。
文字通り静寂が場を支配する。
いうことを利かぬ我が手を不思議そうにまじまじ眺めていた。


( <●><●>) 「……なぜ?」


辺りから聴こえる硬い足音。
彼がそれに意識を向けた時にはもう遅い。


【サイレス】は魔法の出入口を塞ぐだけだ。
種類を選ばない代わりに、
身体に内包される魔導力の流れそのものをコントロールすることは出来ない。


真の意味で魔法の仕組みを理解できるのは、好奇心あふれる研究熱心な魔導師に限られた。
だから――経験値のない、土塊だったワカッテマスは自身の異変にすら気付けない。


"哲学ゾンビ" に、未知の体験は突破することができない。


川 ゚ -゚) 「間に合って良かった。
あんな特殊な魔導力ならどこにいても見付けられるさ」

(<●><●> ) 「!」


ワカッテマスの頭上、不死の女王が錫杖を振るう。
その姿は愚か者に天罰を与える女神の如く。


川 ゚ -゚) 「アイツに頼んだ依頼が後回しにされてると思えば…
どうりでキナ臭くてたまらないわけだよ」

35 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 21:50:39 ID:RR8t2NkE0
整備されていないロータウンの地形は入り組んでいる。
最短距離を駆けたクーだったが近接叶わず、そのまま少し離れた塀の上からワカッテマスを威圧した。


( <●><●>) 「……」

       《ズキッ――》
妖しく光る闇色の眼。
モナーの言葉を思い出しながら、
吸い込まれそうなほどに大きな瞳孔を見たとき、クーの後頭部に走る痛み。


川 ゚ -゚) ( モナーのいう槍…とは違うだろうが )


向かい合う瞳には見覚えがある。
ワカッテマスから放たれる赤黒い魔導力…【ウラミド】の残滓が如実に物語る。


( <●><●>) 「……これはこれは女王様」
      《ズキッ――》
川 ゚ -゚) 「…」

( <●><●>) 「……まだ貴方の出番ではありませんよ。
引っ込んでいてください、まだ一人足りていないのですから」


あれは三十年前だったろうか…。
大陸中を苦しめた流行り病があったのは。
   《ズキ ンッ》
そして同時に思い出す。 七十年前の大陸戦争を。

  _,   《 ズ キ ン ――》
川 ∩ -゚) 「…っ」


眼球より奥から打ち響く頭痛が激しさを増していく。
ハンマーのような鈍器で、鉄の扉を叩きつけるような…。
ロックされた鍵穴に、見当違いの針をぐりぐり刺し込まれるような…。

36 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 21:52:05 ID:RR8t2NkE0
  _,
川 ∩ -゚) 「…不思議なものだ、こうも真逆に感じるとは」

( <●><▲>) 「……はあ?」
  _,
川 ゚ -゚) 「以前お前に見せてもらった呪術とは全然違うな」

( <●><●>) 「そうですか、お会いした憶えは私にはありませんが……
かつての "私" がお世話になったのかもしれませんね」


口許を弧月に歪ませるワカッテマス。
…そんな彼を見ている間は激痛も受け入れられた。
この程度を痛がる権利は無いのだと、どこかで誰かの声がする。

        ・・・・・・・・
…だからクーに、今のワカッテマスと会話するつもりは更々ない。


( <●><●>) 「ああ、それとも【ウィルス】をばら蒔いた頃ですかね」
  _,
川 ゚ -゚)


流行り病の蔓延した当時…確かに人命が多く失われた。
そのなかに含まれる賢者達……彼らの死を思い出して、頭痛はさらに悪化していく。

37 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 21:53:18 ID:RR8t2NkE0
  _,
川 ゚ -゚) 「モナーには最低限の治療をしておいた。
こいつが片付いたらお前にも手伝ってもらうぞ」


クーは思う。
ブーンはどうしてなにも告げず姿を消したのか。
動機が判らない。
ブーンがクーを避ける理由に見当がつかない。


( <●><●>) 「モナー…? はて、存じませんが」
  _,
川 ゚ -゚) 「それにしてもなんだ、その薄汚れた格好は」

( <●><●>) 「……??」


さすがに悦に入っていたワカッテマスが怪訝な顔をし始める。


彼女の目的はモナーに依頼した指輪の回収。
ブーンのことも、ワカッテマスのことも、気にならないといえば嘘になる。

だがそれは同時に、解決するに適した人物が自分以外にいることを知っている。

  _,
川 ゚ -゚) 「…そろそろなにか喋ってくれないか? 手元の材料だけではなかなか判別がつかないんだ」

( <●><●>) 「……なんなのですか、一体」

「…んー悪い、ちと考え事してたもんで」



   そう、たとえばこの男のように。


  _
( ゚∀゚)∩ 「…よう」

38 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 21:55:12 ID:RR8t2NkE0
再会――と形容するかは分からないが――、
ただでさえ大きな瞳を見開き、驚きを隠せない様子のワカッテマス。

ジョルジュも同じ気持ちなのだろう。
歯切れ悪く、彼の名を呼んだ。
本来、二人が現実に対面することなどあり得なかったのだから当然かもしれない。

  _,
川 ゚ -゚) 「久しぶりだな。 しかし、お前までどうしてこんなところに」
  _
( ゚∀゚) 「いやぁちょいと野暮用で…って、どうした、大丈夫?」


今の今まで、ジョルジュは自身で破壊したダットログの設備修復に追われていた。
…いつもならばビシッと着こなすはずのブランドスーツは袖が綻び、裾も黒ずんでいる。

ワカッテマスが二人を交互に睨み付けた。

  _
( ゚∀゚) 「…二人してそう睨むなよ…」
  _,
川 ゚ -゚) 「ふむ、やはりコイツがお前の言っていた片割れか」


クーの錫杖がシャラリと鳴った。 彼女の警戒は解かれない。


ワカッテマスにとって…前門の虎、後門の狼。
ナナシという餌に釣られた結果、喜ばしくない状況を生み出してしまった。


( <●><●>) ))
  _
( ゚∀゚) 「おーっとあまり動くなよ…【ドッジ】!」
  _,
川 ∩ -゚)
《ズキン…ッ》

39 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 21:58:17 ID:RR8t2NkE0
頭痛に気をとられるクーに代わってジョルジュの制止は早かった。
さらには呪術で身体能力を高め、即座に動けるよう備えている。

大人しく従うワカッテマスだが、その傍らには氷付けのナナシ。
ジョルジュにとっては人質になり得る知人だからこそだ。


( <●><●>) 「……大事ですか、彼が?」
  _
( ゚∀゚) 「まんざら知らない仲じゃあないんでな」

( <●><●>) 「私よりも?」
  _
( ゚∀゚) 「…」


ワカッテマスは時間を稼ぐ必要がある。
このままでは魔法が使えない。
ジョルジュに挑むどころか、クーから自身の身を守る術も限られている。

  _,
川 ゚ -゚) 「槍はどこだ」

( <●><●>) 「……? 存じません」
  _,
川 ゚ -゚) 「しらばっくれるなら期待通りの結末を迎えさせてやるが」

(<●><●> ) 「本当に存じませんよ。
……私にしてみれば、彼を見付けてここに居るだけですから」


そういったワカッテマスの腕が少しナナシに向けられただけで、クーの錫杖のリングに輝きが灯る。
圧力をかけるように、ジョルジュも一歩近づいた。


二人同時を相手に、魔法の封じられた呪術師が敵う道理はない。
それでも、ワカッテマスから怯えや狼狽は見られない。

40 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 21:59:43 ID:RR8t2NkE0
  _,
川 ゚ -゚) 「…」

( <●><●>) 「仇ですから、私の一族の」

  _     《ズキンッ――》
( ゚∀゚) 「違う、ナナシはお前の仇なんかじゃない」


怨念の肯定は即座に否定される。
ワカッテマスが眼光鋭く睨み付けるが、ジョルジュは一歩も引かなかった。


本物の和香は彼の中にある。
ジョルジュにとって、
目の前のワカッテマスを…過ちを…このまま見過ごすことは出来なかった。



     隔たれた真実は繋がり、
     すでにその大半を紐解かれている。

     …しかしそれを知るのは観測者のみ。



( <●><●>) 「恐縮ですがね女王様…しらばっくれているのは貴女のほうでは?」
  _,
川 ゚ -゚) 「…なに?」

(<●><●> ) 「……もう一人の私も。
仇でないなら、私に遺されたこの感情はなんだというのです?」
  _
( ゚∀゚) 「それは…」


 

41 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 22:00:41 ID:RR8t2NkE0
誤解――――。
呆気なく突き詰めてしまえば、ただその一言につきる。
しかしこの時ジョルジュは一瞬、答えに窮した。


当時こそ彼の記憶には残らない…一族に呪われし深い闇と常に向き合っていたのは、
他でもないワカッテマスのほうだ。

不本意に生まれ、
   他人の記憶に苦しみ、
      味方すら誰一人いない…、
鮮血の世界で孤独に生きた和香。

  _
( ゚∀゚) 「――…遺された記憶をどう思うかはお前次第のはずだろ」


人格を統合して以来。
いや、正しくはそれよりも前からずっと、ジョルジュは考えて続けていた。


和香には延々に託され、ジョルジュには継がれなかった一族としての記憶…。
その差は一体なんだったのか?

苦しみ続けて歪んだ怨念の象徴を尻目に、
自分だけが悠長に眠っては気まぐれに目を覚まし、正義感を振りかざしていた。
和香だけに負の遺産を押し付け、己は遊び呆けていたようなものだ。


だが、夢の中で交わした和香との約束を忘れた日は一日たりともない。
想っては奮い立ち、同時に苛まれる年月を彼なりに過ごしてきた。

  _
( ゚∀゚) 「本物のお前ですら、薄々気付いていたんだぞ…」

42 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 22:02:34 ID:RR8t2NkE0
( <●><●>) 「だから消えて、私がここにいます」
  _
( ゚∀゚)o 「だったら…」
  _
(  ∀ )o 「だったらそれこそが、お前の選んだ責任ってもんじゃないのか?」


一人ひとりの観る景色はとても狭く、歪だ。

慈夜と和香を含め、赤い森の一族が殺されたのは事実。
発端となる大陸戦争が起きたのも史実。
   ……ならば、起因と全貌は?

  _,
川 ∩ -゚) 「…」


クーはなにも言わない。
いや、言えなかった。

ただ収まる気配のない頭痛を堪えつつ、
その視線は【ウラミド】に染まるワカッテマスの瞳孔に向けられている。

             ∧ 
( <●><▲>) 「私の目標は、ザ赤い森で一族の命を奪った者……。
女王の問うたものが、私の探シものと同じかどうかは保証しませんがね」
             ュ 
(´・ω・`)          ッ
   ∪彡         !! 
             ∨ 
  _
(;゚∀゚) 「!!」
  _,
川;∩ -゚) 「!!」


( <●><▲>)

     グラッ
(( (; < ><▲>)

43 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 22:03:56 ID:RR8t2NkE0
歪めたその表情に加わるのは苛立ちか…。
生々しい音に引き摺られ、ワカッテマスの身体が崩れ落ちる。


(´・ω・`) 「求めるものも定まらない…なら、
君の存在価値もそろそろ終わるべきじゃないかな」


背後からワカッテマスを深々裂いた神速。
辺りにビチビチとばら蒔かれる泥の血が、やがて変色。
ショボンの肩にかかった反り血も、土気色から紅色へと変わる。


(´・ω・`) 「…!!」


――直後、先制したはずのショボンは飛び退いた。

さっきまでいた場所へと突き出された腕。
袖から覗く鋭利な爪。
曲線が弧月を思わせる。

研ぎ澄まされたその刃は、不死者の肉体すら容易に貫くだろう。


(; < ><▲>)⊃ 「……」

「…意外そうな顔してるね」 (・ω・` )

(; < ><▲>) 「……いえいえ。
判ってはいたのですがね。
……随分頼りなくなったものだと思っただけです」

44 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 22:06:15 ID:RR8t2NkE0

ワカッテマスはかつて、人間の臓物を媒体とした土塊を製造していたことがある。


これまで行ってきたその実験は、
村人だろうと賢者だろうと――そして不死者であろうと、問題なく奏功した。
一時は彼の復讐心を癒し、かつ従順な手駒を都度に増やしたものだ。


人物のすり替えによって周囲を騙すことはもちろん、
仕込んだ【ウィルス】を土塊の消滅と共に爆発させる…。
時間差で発動する魔導力が、流行り病として蔓延し、抵抗力のない者から命を奪った。


さらに優秀なのは、作り物の忠誠心であろうと発現するGC(ガードコンディション)。

"誰かを守る" という感情が引き起こす魔導力の奇跡は、
数が多ければ多いほど…近くにいればいるほどに効力を発揮する。

ここまで誰に語られることのない戦いにおいても、ワカッテマスは幾度となく恩恵を得てきた。


(; < ><▲>) ( ……こちらはね )


だが、不死者に手を出したのは早計だったと彼は悔いている。

土塊が不死を継承しなかった上、
本体の不死者はいくら殺してもこの世から居なくならなかった。


"奴" もまた、ワカッテマスを追い続けていたのだから。

45 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 22:08:02 ID:RR8t2NkE0

(; < ><▲>) 「それもまたしばらくの辛抱としましょう」


恐らく今のワカッテマス自身…、魂こそあれど、土塊の特性を持ったままだ。
一度は消滅しかけ、しかし【ウラミド】によって生き永らえた半死の生命……。

今度こそ死ねば終わりではないかという危機感くらいはある。


永きに渡る不死者との攻防によって、壁となる土塊の数も減っていた。
GCすら先のショボンの不意打ちも防げないほどの、
今や運頼みと言わざるを得ない奇跡となってしまっている。


(´・ω・`) 「辛抱だなんて悠長な時間は与え――…?!」

(; < ><▲>) 「……くく」


それでも、彼は嘲笑う。

  _
(;゚∀゚) 「!! おいショボン、肩…!」

(;´・ω・`) 「っ!」


ジョルジュに言われるまでもなく、いやがおうにも気付く。
眩暈をこらえて頭を抱えるショボンは乱暴に肩口を破った。


( < ><▲>) 「くく……くくっくっく」

46 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 22:09:42 ID:RR8t2NkE0
ワカッテマスから浴びた反り血がブスブスと焼け、臭気を放つ。

毒魔法の【ポイズン】…それよりもはるかに猛毒。
地に捨てた外套と留め金が液状化し、やがて蒸発していく。


深々と抉れたアスファルトから露になる、どこかの建物へと続く配水管に幸いとして傷はない。
乱雑で老朽化の激しい【ロータウン】も、
行き交う人々が踏みしめるための路面は無駄に厚みがあったらしい。

  _
(;゚∀゚) 「……!! 【ドッジ】!」


ぽっかりと空いた穴と、溶けていく路面を埋めるようにたちこめる蒸気と魔導力。
睨み合うワカッテマスとショボンを差し置いて、ジョルジュはいち早く気が付いた。


…だがその反応すら間に合うかどうか。

47 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 22:11:58 ID:RR8t2NkE0
(;< ><▲>)「……」


さっきの笑みはどこへやら…ワカッテマスも言葉を失っていた。
闇に影射す彼の顔が、呆けるように空を見上げている。

  _,
川;゚ -゚)つ 「その傷で逃げられるなら逃げてみるか?」


高く、高く……。
彼らを中心に囲み据えながら激しく唸り、猛る灰色の群れ。

天を衝くそれらの正体は、ワカッテマスの毒の穴――その地中から出ずる八岐大蛇を模した複数の頭骨だった。

【ロータウン】のあらゆるビルを頭上遥かに越える位置で、
ただでさえ広くない空を埋めつくしては十六の瞳を光らせ号令を待つ。

  _,
川;∩ -゚)つ 「悪いが…長々と付き合うつもりはない。
この機会に賢者たちの仇をとらせてもらうとしよう」


クーの魔導力によって出現した大地の怪物。
三人…いや、四人を取り囲みながら長い首を蛇のようにくねらせ、
八頭が定めるのは一つの狙い。

噴き出す泥血を堪え、やっとワカッテマスも跳んだ。


(; < ><●>) 「……私にはわかってますよ。
そうやって貴女は苦しみから逃げて、逃げて…」


(; < ><○>) 「逃げるためだけに目の前のものをことごとく破壊してきたことをね!!」
  _,   .%
川; - )つ/ 「逃がさん、【グランデス】!」

         _
  三    ̄;゚∀゚) 「ばッ、かやろう…!」


 

48 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 22:13:29 ID:RR8t2NkE0

    《ギ イ ィ ン!》



振るわれた錫杖の音色と、眩き輝くリングが導となりて……。

その日、クーの魔導力が【ロータウン】の一部を貫いた。




"苛立ち" という感情を【魔導力】に替えて。


 

49 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/02/19(金) 22:14:11 ID:RR8t2NkE0
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〜now roading〜


川 ゚ -゚)

HP / D
strength / E
vitality / E
agility / C
MP / B
magic power / B
magic speed / C
magic registence / C


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