( ^ω^)千年の夢のようです

从 ゚∀从:いつか帰る場所で

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828 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/10/24(土) 23:54:32 ID:zg.i7l6Q0
----------



その状態を、なんと呼べば良いのだろう。

 

829 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/10/24(土) 23:55:17 ID:zg.i7l6Q0


      从 ゚∀从



何もない…?  ――そうではない。
正しくは直黒にまみれた空間がある。


そのせいで彼女は、自身の二本足がしっかりと存在しているかも分からない。


      ::从;゚∀从::


手持ち無沙汰…などという余裕はとても持てない。

現にいまも彼女には闇がべったりと絡み付き、その身体を拘束しているかのようだった。

 

831 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/10/24(土) 23:57:41 ID:zg.i7l6Q0

アサウルス体内。

…正確には、
名瀬がアサウルスごと、世界をまるまる飲み込んだ太陽の内側。

差し込む光のないその場所は死後を連想するほど静かで、
外気…それどころか温度を感じさせることすら拒絶した。


実は意識を失ったまま、いまも空を落下している最中ではないか…。
それとも海の底へと沈んでしまい、混濁とした意識が乖離して夢でも視ているのか…。

高岡自身はなにも知らず、
"自分は死を迎えてしまった" と認識している。

だから瞳を開けばまた、あの世界で――


       ::从 ∀从::


彼女はそう考え、しかしすぐに止めた。


誰もいない部屋…
壊れゆく塔…
支えのない空…
迫る腐海と、黒い巨獣。


恐怖満ちる今しがたまでの境遇と比べれば、
ここはある種の平和をもたらしているといえる。

とはいえ、そこに立つだけでも孤独は助長され、
呼吸を忘れてしまうほどの閉塞感を覚えるのも事実だった。

グランドスタッフから投げ出されたあの時の感覚など、
比較にもならない浮遊感が高岡を襲い続ける。


       ::从∀゚;从::

「センセぇ…………」
    「…名瀬センセー……?」


       ::从;゚∀从::

「……誰か…、いないの……?」

832 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/10/24(土) 23:58:52 ID:zg.i7l6Q0
口走るさきから虚空へと消えてしまう自身の声にまで不安を駆られる、
音の反響すらない…ひたすらに黒い場所。

朧気な四肢の感覚から、此処はやはり夢の中なのだと脳が信号を発し始めていた。


       从 ゚∀从 "


――だがそれを引き留める、現実へのトリガー。


       从 ゚∀从
        つ"


 

833 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/10/25(日) 00:00:13 ID:TxThKRSo0
       《…世界は神が作り出した》



それは下腹部で蠢く、異質な鼓動。


       从 ゚∀从 「…」
        つ


己の意志とは無関係に…
ドクっ、 ドクっ、 と鳴り報せる命の鐘。


       从 ゚∀从


まばたきほどの微々たる感触でしかなかったものが、
いざ意識し始めると不思議と存在感を…愛しさを増していく。


…心当たりがあった。
しかし、こんな状況下でやっと手に入るとは夢にも思っていなかった。


それは世界の終わりを通告された日、諦めたはずの夢…。




さらに――もうひとつ気付いたことがある。

834 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/10/25(日) 00:01:19 ID:TxThKRSo0
       《…偉大な神は真っ暗闇な世界を憂いて》



            ∵

从 ゚∀从 「!」


心に余裕が出来たわけでもなかろうが…わずかに見上げた先で、闇に隠れた光の粒子。
そんな小さな輝きに、愛しき人の面影を見付けてしまう。


       ∫……すまなかった∫

从 ゚∀从 「…」

       ∫ここは巣だ。
        君…、君を私は…………∫

从 ゚∀从


从 ゚∀从 「いいよ、無理に喋らなくても」


震えぬ鼓膜の頭の奥に流れ込んでくる聞き覚えのある声。

へへっ、と高岡が笑うと、
いつもの無表情に隠された困惑の色が届いた。


从 ゚∀从 「あー、そっか助けてくれたんだ…。
ありがとね、センセー」


              ∵

从 ゚∀从
 

835 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/10/25(日) 00:02:02 ID:TxThKRSo0
       《己の眼球を取りだし》



              ∵

从 ゚∀从 「みんなも居るの?」


たった今、観測者は高岡ただ一人。
たとえ他者にとって成立しない会話であっても、彼女にさえ解れば問題ない。


从;゚∀从 「……待って、その前に!
結局どうなったのか、教えてくれないかな」


……語ることがあるとすれば。

アサウルス、そして高岡たちの世界をドレインした名瀬は、
その膨大な魔導力によって太陽のなかで "巣" を構築した。


宙闇である此処には素直や伊出たち…
そしてアサウルスすらも【魂】として内包されている。


从 ゚∀从 「…センセーは…どうなってるんだ
?」


一度ひらいた太陽は永劫閉じることはない。
いつまでも、いつまでも…
生命を燃やし続けるべく、溜め込んだ魔導力の放出を続ける。


…そうして、いつかは枯渇してしまう。
餌の供給なき魔導力には終わりが来る。

836 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/10/25(日) 00:02:44 ID:TxThKRSo0
       《その虹彩からは光を》



从 ∀从 「なんで……そんなことしたんだよ」


       ∫……たす…けたか…た∫

从 ∀从


アサウルスが餓えで死ぬことはない。
…その代わり、名瀬の魔導力によって此処に生かされる高岡は
エネルギー供給がなければいずれ死んでしまう。

彼の蓄えた感情…【魔導力】が底をついた時、ついに高岡には正真正銘の死が訪れることとなる。


从 ∀从


从 ∀从 "


从 ゚∀从


名瀬は此処では星となり神となる。
アサウルスという一生物が、王として君臨するのはそういう意味だ。

837 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/10/25(日) 00:03:41 ID:TxThKRSo0
       《瞳孔からは闇を》



从 ゚∀从σ 「…あのさ、あれは、なに?」


前方…真下…、それとも真上。
彼女の視界の範疇で毒々しい紫霧が現れていた。

つい先程まで、無かったはずなのに。


       ∫[か…がみ]∫

从;゚∀从 「!! …あれがっ?!」



彼女は慌てて駆け寄るも思わず気が逸り、少しだけつまづいた。


[かがみ]と呼ばれる――しかし目の前のそれは気体の集合体だった。
額縁はもちろん鏡面なども当然見当たらない。

高岡の知る一般的な鏡とは趣が異なる。
それでもしばらくの間、目を奪われていた。


从 ゚∀从 「…」


評議会…つまりは人類が最後に求めた、切り札であり元凶。
海底にあるべきもの。 …海底にて求めようとしたもの。


よくみると、[かがみ]はほのかに光る粒子を散らせている。
まるで動くものに反応し舞いあがる、密室に射しこむ光に生きる塵のように。


「……これが、そうなんだな」

838 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/10/25(日) 00:05:02 ID:TxThKRSo0
       《硝子体は大地を》



川 ゚ -゚) 「もっとこう、物体的な感じを想像していたんだが」

从∀゚ 从 「クー…

Σ 从∀゚;从     って、ドクオ?!」


振り向いた先には友がいた。
その足元にも、鬱田が転がっている。
……上半身だけの、残酷な姿ではあるが。


( A )

川゚- ゚ ) 「息はある。
…なにかを探してるみたいに、さっきからずっとこんな調子だよ」


鬱田は焦点の合わない虚ろな瞳で、素直へと顔を向けて呆けている。
意識を感じさせる所以は片腕を不自然に伸ばす指先が、
微々しくも何かを掴もうとするような動きを見せていたせいだ。


川 ゚ -゚) 「それより。
これに飛び込むはずだったのか、私たちは」

       ∫も…う、……ぃ∫

川 ゚ -゚) 「?」

       ∫原初の…望…は……届い…た∫

( A )

       ∫あと……実行…るの…み∫

 

840 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/10/25(日) 00:06:57 ID:TxThKRSo0
       《水晶体は海を産んだ》



脳裏に漂う音の正体が名瀬であることを素直も理解している。
…高岡にそうしたのと同様、名瀬は各自の【魂】へと個別に語りかけていた。


「クー…、ハイン…?」


後ろを振り向く二人は、それが伊出の声であるとすぐに気が付いた。
伊出もまた皆をみて安堵に顔を緩ませる…。
だがそれも次の瞬間には脆く崩れさる。


川 ゚ -゚) 「ツン、無事か」

ξ;゚听)ξ 「ドクオもいるのね。
ねえ、ブーンは…どこかで見なかった??」

从 ゚∀从 「…えっ…」


内藤の腕と共にアサウルスに飲み込まれた彼女の手の中には、なにも残っていない。

半死体の鬱田ですらここにいる。
ならば動けず、空間のどこかで助けを求めているのかもしれない。


川 ゚ -゚) 「すまない、私は見かけてない」

从 ゚∀从 「俺も…」

ξ;゚听)ξ 「居ないのよ……どこにも」

从 ゚∀从 「センセー、知らない?」

从 ゚∀从

从 ゚∀从 「……センセー?」


このとき――いくら高岡が呼び掛けても応えは響かなかった。
どんなに目を凝らしても、名瀬の面影を見付けることは叶わなかった。


空間の主たる名瀬。
彼ならば判らぬはずもないという希望。
三人のなかでそれが徐々に薄らいでいく。

841 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/10/25(日) 00:10:50 ID:TxThKRSo0
       《世界は神の眼球として生まれ変わり、》



人は迷い、問い掛け、答えを得ることで一縷の安定を築き上げる。
……必ず答えが得られるものだという、根拠のない奇跡的前提の元に。

だが突き付けられる、闇。


从;゚∀从 「…」

川 ゚ -゚) 「……あまり猶予はない、かもしれないな」

ξ;゚听)ξ 「先生の力が足りていないってこと…?」


空間の維持、そして行動には、主たる名瀬にエネルギーがなくてはならない。

名瀬からの供給を途絶えさせないためには、
此処や、【かがみ】を通して、常に感情を届けなくてはならない。


川 ゚ -゚)  从∀゚ 从 「……ツン」


内藤だけがここにいない――ともすれば、伊出には困難な条件かもしれない。

魂さえあれば、名瀬によってこの空間にて生かされるはずだった。
元より瀕死の鬱田がいまなお死なないのはそういう仕組みだ。

ならば――内藤はどうなってしまった?


三人が同じ結論に達し、慌てて否定する材料を捜している。

一度失ったかと思えば己だけが生き永らえ、
なおも奈落でじっくりと、喪失を噛み締めろとでもいうのか。

高岡からすれば、内藤を名瀬に置き換えるだけで想像に容易い。


"从∀゚ 从    (( 川 ゚ -゚)
ξ )ξ 


どこも一緒だ……元の世界も、此処も。

誰かにとってありふれた一寸先の没未来となることもあれば、
誰かにとっては一握りのチャンスへと姿を変えることもある。

842 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/10/25(日) 00:12:27 ID:TxThKRSo0
       《また神の瞼の下に埋め直された》



从 ゚∀从 「クー?」

       (゚- ゚ 川 「私が先に行こう」


淀みのない歩みと、歪みのない声で素直はそう言った。

[かがみ]の前に立ち、長く美しい黒髪が一度だけ伸縮する。
顎を上げ、何もない宙をふと仰いだのだと、二人には分かった。


       川 - ) 「――――」

从;゚∀从つ 「クー!」


だが素直の足は二度と止まらなかった。
友に背を向けたまま唇を動して…
後ろ手を軽く振ると、そのまま[かがみ]という靄に飛び込んでいった。


    从;゚∀从つ
ξ )ξ
   ( A )


素直は評議会で与えられた【現】の意味を、彼女なりにずっと考えていた。


いま出来ることは、いまにしか出来ない。
昨日の自分には不可能で、明日の自分にも不可能かもしれない。

だから "いま" なのだ。
…それは同時に、最も移ろいやすく愚かな決断にもなる諸刃。


かつては過去の自分が吐いてしまった不謹慎な言葉の尻拭い。
これからの名瀬の空間…そして[かがみ]の効力。

薄氷の上を歩く選択肢しかない彼女は、それでも悦び尖兵として役目を請け負ってみせた。



「これが役割というものなんだろう。
…ならせめて私は、自分で求めて、自分で何者かになりたい」
 

843 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/10/25(日) 00:16:16 ID:TxThKRSo0
       《神の体温を得たことで》



靄に消えたその言葉は、高岡たちに届いただろうか?


从 ゚∀从 「…あ」


すると余韻なく、[かがみ]に異変が起こりはじめた。
みるみると靄の濃度が色を強くしていく。

確かな指先で瞼をこすった高岡の細い腕が、うつ向く伊出の肩にぶつかった。


共有した視線の先では、次第に闇に同化せんと集圧する紫煙。
目を凝らせば内側へ、内側へと捻られるベクトルを感じ取れる。

   ぎゅ
      る
   り   ぎ
    る
      ゅ
         ぅ。

――寄せては返す、圧しては膨れる。
うねり蠢く[かがみ]の不定形さから、悪意といえるものは発されていない。


むしろ高岡の胸中に呼び起されたのは――

  (▼・ェ・▼)   (∪^ω^∪)

…名瀬の部屋に置いた二体を造るとき、内を覗けばこうして綿を詰めていたのだろう。

『ねぇねぇこれ、ブーンに似てない? ……ツンが見たら欲しがるかなあ』
『…どうだろうか』

…その日、隣で眺めていた名瀬の戸惑いも、今ではもうずっと昔のことのように思える。


まもなく四方に噴き出し、具現する一枚の大鏡。
あれほどあった靄が、大人しく鏡面の周囲で額縁の役目を引き受けた。


       ∫素直…現……彼女ガイれば…∫

       ∫過去…未来も、形にナル∫

844 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/10/25(日) 00:17:25 ID:TxThKRSo0
       《世界には暖かみが生まれた》



この[かがみ]の変質は【秩序】のカタチ。
不確かなものに対する畏怖の性質を、素直が払拭した。


ξ゚听)ξ 「名瀬先生、内藤は…」


取り戻された名瀬の声。
たとえ一時的な回復だとしても、力を得たのは間違いない――だが、


       ∫さあ未来…を創レ、伊出∫

ξ゚听)ξ 「…」

       ∫未来は…ダイ…ョ……かラ∫


感情を自らの内に留めていない名瀬は、
もはや呟き続けるだけの自動システムになりつつある。


ズリュ…
     ズリュ……

――しかしシステムであれば…人が創り、人の力でコントロールできる理論も存在する。

           ズリュ・・・
    (( (; A )


奇怪な音に振り向く高岡が目に捉えたのは、呆けていたはずの鬱田だった。
不可視の床に散らばる肉片が、彼の足跡を痛々しく赤黒く染めていく。

        ズ リ ュ ・ ・ ・ 。

         (( (; A )

从; ゚∀从 「おい、ドクオ!」


死を望み、命乞いをした弱者。
なんとも無様に這っている。

その身を千切りながらも腕を交互に突き出し、
闇とまぐわうその姿は不死の申し子に相応しい。

845 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/10/25(日) 00:18:13 ID:TxThKRSo0
       《だが神もまた真っ暗闇の中にいる》


              ズ...
               ( A )

ξ;゚听)ξ 「貴方も行くの? ブーンも…まだ来てないのよ?」

「…………、関係ねぇ」    ( A )


一瞬だけ止めた身体を再び這わす。
死の間際に霞む鬱田の声が、ここではよく通った。


「俺は… 俺のために生きて」 ( A )

从 ゚∀从

「俺のために、死にてぇんだけだ」 (( ( A


そう言い遺し、鬱田は身をよじりながら[かがみ]をくぐっていった。





ξ゚听)ξ 「…… ドクオ…」


目の前の[かがみ]に、先のような変化は訪れない。
そのせいではないとしても、
二人は鬱田という人物に、どこか諦めにも似た想いをひととき抱く。

昔からそうだったようで、もっとも理解しがたい友だったのかもしれない。
唯一、内藤だけは彼を認めていた気がする。


…だがしかし素直の時とは異なり。

彼がもたらすのは人の心――いやそれどころか
もっと根本的な。
"命" に関わるファクターであることを、彼女たちが思い知らされるのは今ではない。

846 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/10/25(日) 00:19:30 ID:TxThKRSo0
       《神が目を開ければ夜になり…》



从 ゚∀从
ξ゚听)ξ

       ∫次は、どっチ∫


…顔を見合わせる二人は動かない。

伊出には内藤を求める願望があり、
高岡には誰にも伝えていない企みがあった。


  『行かないなら、お先に失礼するよ』

从∀゚;从 「?!」ξ;゚听)ξ 

  『そのためにずっとあそこで待っていたんだからね』


直に届いたようにも聴こえ、にも拘わらず浮世離れした響きが辺りを走る。

伊出が振り向き確かめるよりも早く煌めいた光の風が、
二人の背を撫でて[かがみ]に吸い込まれていく。


       ∫君か、よクぞここマデ∫

  『貴方が恐かっただけだよ…でもそれももう終わりみたいだ』


かつて自殺を図ったはずの感情の持ち主を、名瀬は感嘆を示し迎え入れた。
…高岡には、なぜかそう感じた。

つり上げた眉に印象深い、ぶっきらぼうな顔が目に浮かぶ。


ξ;゚听)ξ 「――その声、ひょっとして」



  『予想と現実はこうも違う。
   …やり直すっていうのも、まんざら悪い気分じゃないね』

  『それと気を付けて。
   ここにはもう一匹いる、迫ってきている…。
   くれぐれも、名瀬先生の足手まといになったらいけないよ』

847 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/10/25(日) 00:21:41 ID:TxThKRSo0
       《目を閉じれば朝になる》



ξ゚听)ξ 「シャキン…」

从;゚∀从 「あいつ、腐海のなかで……」


簡単な話ではない。 …有史前例もない。

アーカイブに載らなかった彼の魂の行方と結末は、
評議会の誰がいても、過去のどんな研究学者も、
理解の範疇を越えた出来事だとして頭を破裂させかねないほどに。


事ここに至り、彼がおこなったのは史上初の不屈の体現といえる。
――しかしそれを奇跡と呼ばず、
わざわざ解明科学に傾倒する無粋な真似は、彼女たちがやらなくても良い。


       ∫魔導力には…その力があル∫

       ∫畏れルナ。 いまナら私がいル∫

ξ;゚听)ξ


人のもつ創造の可能性を有らん限り膨らませるのも、魔導力というものだ。


ξ゚听)ξ

从 ゚∀从 「…ツン」

   ξ゚听)ξ


       ξ゚ )ξ

从 ゚∀从 「ツン…!」


           ξ )ξ



(推奨BGM:A Return, Indeed... (piano version))
https://www.youtube.com/watch?v=WnKGdqolFhA
 

848 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/10/25(日) 00:27:39 ID:TxThKRSo0
       《……それでも神は続けた》



「…いまは怖くても、いまは一人でも……
 私は、最後にブーンがいてくれさえすれば大丈夫」

「そのための世界を創るなら、歩んでみる。
 もしも…ブーンが後で追い付いたら…よろしくね、ハイン」


迷いを振り切るように走り、続いて彼女も[かがみ]へと飛び込み消えた。


从 ゚∀从


評議会に未来を託された伊出は、これから何を創るのだろう…。
高岡の知る限り初めて、伊出は内藤と離れて大きな行動をすることになる。

ともかく彼女も、此処から旅立った…まるでなにかに急かされるように。


从 ゚∀从 「…………ツン…」

从 ゚∀从 「…シャキン、ドクオ……」

从 -∀从 「クー……     …ブーン、皆……」


一人を除いて、ついに高岡は友を全員見送った。

[かがみ]の向こう側で果たしてなにが起こるのか。
まだ、それは誰にもわからない。


       ∫…はやく…、まもなく奴が来る∫


[かがみ]へのエネルギーは主に名瀬が得る。
…だが、アサウルスもまたその特性として感情を察し、餌を求めてやってくる。
 ――名瀬という、巨大な餌を目掛けて。


忘れてはならない。 アサウルスは餓えで死なない。
これから此処は、遅かれ早かれ名瀬とアサウルスの戦場となる。

だからこそ、残りわずかな自我を振り絞り、心配そうな色で高岡の意識に語りかけた。

849 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/10/25(日) 00:28:32 ID:TxThKRSo0
       《力の限り、》



从 -∀从


从 ゚∀从


「お願いがあるんだけど」
…高岡が切り出す。


       沈黙で続きを促す名瀬。


「アタシは…此処にいたい」


       沈黙で、戸惑いを表す名瀬。


「感情はセンセーにもずっと必要なんでしょ?
皆と一緒に[かがみ]に入ることも考えたけど…」

「なるべく、なるべくさ、  …近くにいたいんだ」


       沈黙で、否定する名瀬。


「お腹のなかにも居るんだよ…。
センセーとしか、あんなことしてないから間違いはないし」


       沈黙で――驚愕を示す名瀬。


「子供の頃のアタシなら、単に誰かと笑って過ごせたらそれだけで満足だった。
…でも、でもさ…一度 "それ" を知っちゃったから……」

「好きな人と、時間と場所を一緒にする嬉しさ…。
格別で、とろけそうで、なにものにも代えがたいこの気持ちを」

 

850 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/10/25(日) 00:29:19 ID:TxThKRSo0
       《愛しきヒトのために、》



高岡は、無意識に両手を腹部に添える。
いや、もはや抱えている…といったほうが正しいか。

さっきまでは鼓動を感じる程度だったにも拘わらず、今では……。


       ∫…妊娠していた、のか∫


――常識はずれの成長速度。

人の時代に名瀬と呼ばれたアサウルス…その彼の創り出した空間。
感情を先走らせ、時間の概念すらまだ持たない此処では成り立ってしまう奇跡。


そもそもが、桁外れの願望を彼女が抱いているために。


「産みたいんだ…センセーとの子供。
ブーンのことも…ツンと約束したし」

「シャキンはどんな風になってでも、最後にはちゃんと生きてた。
ドクオだって、あんなになってもまだ生きてたんだ…」

       ∫…∫

「クーは、…大丈夫かなぁ。
ああ見えてアイツ、その場の雰囲気に流されやすいところがあるから……心配になる」

       ∫……此処では子は産めない。
        その代わりに――∫


独白する高岡を置いて、名瀬はその力を少しだけ使用した。


愛しき彼女のためだけに。

アサウルスの危険性から我が子を護るためだけに。


「……そっか」

「…………うん、ありがと、センセー」

 

851 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/10/25(日) 00:30:35 ID:TxThKRSo0
       《次の時代を創生するために、》





闇に覆われた世界で。




生まれたての小さな小さな魂が、


ふわりと胎内から漂い浮かぶ。




へその緒を連想させる、輝き繋いだ光の糸も、


母から離れ、[かがみ]に到達する頃、


やがては静寂の離別に運命を委ねる…。








       高岡は自分に良く似た、
       その金色の髪の毛を
       最後に瞳へと焼き付けた。



 

852 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/10/25(日) 00:31:32 ID:TxThKRSo0
       《帰ってきてね、と身勝手な願いを込めて》





 ゚∋゚


              ∵
       从∀゚ 从



高岡が名瀬を庇い、

アサウルスが高岡を喰らい、

名瀬は高岡を再生する。



永劫続くかと思わせる摂理の輪が、こうして此処に構築された。


 

853 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/10/25(日) 00:32:42 ID:TxThKRSo0



「……ごめんよ、アタシの赤ちゃん。
    ――ごめんね、まだちゃんと母親になってあげられなくて」



       ∫見守っている、必ず∫



「うん…、いつか二人で逢いにいくんだ。
      いまは此処でセンセーを助けないと」



       ∫新しい世界は、私が護るよ∫



「だからそれまで、どうか…どうか……」








  《みんなと同じ世界で、
        無事に、生きていて》






(了)

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