( ^ω^)千年の夢のようです

(´・ω・`):夢うつつのかがみ

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438 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/06/06(土) 19:21:03 ID:TjukTr1o0


『やった、ついに倒れたぞ!』


――そこには宙があった。


『皆は無事か?!』


果てはない。
…あるのはただ、彼方まで見渡す限り一面の闇。
それに抗うように点々と灯る小さな小さな光りだった。


『まだ近寄ってはならぬ!
第一衛兵長、騎兵隊長らで囲め!
あれだけのことをしでかしたのだ、万が一を考え――』


感触を確かめるべく手を伸ばすことは叶わない。
寒くもなく、暑くもない……そんな意識すらどこか遠い。


思考と乖離した、どこか身近な心の臓。
ドクドクと穴を開けて冷たいなにかを垂れ流している…そんな気がした。


『女王様! 女王様は無事かぁ!』

 

439 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/06/06(土) 19:22:56 ID:TjukTr1o0

      ( …なにが女王だ )


あるかどうかもわからぬ胸中に独りごちる。
舌打ちができない。

…比喩ではなく。
その身体は中心部に大穴を開けられたのだから。


( 、 トソン 『女王はご無事です。
貴殿方はこの不届き者の処置を…それを民衆も、女王も望んでおります』

『トソン殿、かたじけない…我々がもっと早く――』

( 、 トソン 『侍女たる我らに遠慮や配慮は無用。
さぁ、準備をしましょう、都の人々に伝えるのです……』


( 、 トソン 『賢者様殺害、その一連の犯人が死んだことを』



       ( …そうだったね )


呪術師が招いた、脆く短きディストピアの崩壊を告げる侍女の声。
目視できぬ表情…しかしその声色から、俗物らしく
《してやったり!》
とでも言い含んでいることだろう。


       ( はぁ、くだらない )



――思い、"彼" の意識はそこで呑まれる。

 

440 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/06/06(土) 19:23:44 ID:TjukTr1o0



"生まれて" はじめて。


若き不死は、今から長い夢に入る。


その死体の傍らで、粉砕した幾ばくかのオーブの欠片を散らかしたまま。


 

441 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/06/06(土) 19:25:40 ID:TjukTr1o0
( ^ω^)千年の夢のようです


- 夢うつつのかがみ -

442 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/06/06(土) 19:26:34 ID:TjukTr1o0


从 ー∀从      (・ω・` )



気がつけばそこに在た。
…辺りの風景は先ほど感じていたものと変わりはない。

     ―― 闇。

かつては星のように形を遺していたのだろうか…。
黒に残留する白い粒子に囲まれたショボンの前には、
いつか見た、跳ねっ返りの髪を垂らす女性が立っている。


从 ー∀从 ″

从 ゚∀从 「……おっ」

从 ゚∀从 「おいでなすったか」


乱暴に後頭部をかきながら、
「お前が来るのは珍しい」と囁いた。


(´・ω・`) 「…ハイン、リッヒ?」

从; ゚∀从 「……あれっ?」

443 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/06/06(土) 19:32:18 ID:TjukTr1o0
彼女は辺りを見回す。
地面も空も存在しない、頼りなき黒の空間にはショボンと二人だけだ。


从 ゚∀从 「なんで憶えてんだ??」

(´・ω・`) 「? …僕はそんなに記憶力に問題のあるタイプじゃないと思うけどね」

从 ゚∀从 「いや、そういうつもりじゃあないんだが……」

(´・ω・`) 「…常人からすれば随分と長い年月ではあるかもね。
あれは大陸戦争よりも前…ふたごじまのアサウルスを倒した後だったか」


こんなことを話すには意味がある。
ショボンは当たり前を口にするのがむしろ嫌いだった。
差し障りのない返答で間を繋ぎながら、ショボンはハインを観察する。

それは警戒心ではなく、目の前の彼女が表す戸惑いを受けてのものだ。


从∀゚ 从


ハインはやはり何かを否定するよう、ほんの少しだけ…かぶりを振った。


从 ゚∀从 「まあいいや。
せっかく来たんだ、ゆっくりしていけよ」

(´・ω・`) 「…そうだね」


答えながら――
ショボンの頭の中では一瞬だけ《パチリ》と音がした…気がした。


ゆっくりする……、休息をとる…?


(´・ω・`)


たしかになにもすることはない。
ここではなにもする必要がない…。

444 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/06/06(土) 19:33:26 ID:TjukTr1o0


(´・ω・`)


思考に蓋をされている気分だった。
違和感。
なにかがおかしい。


(´・ω・`)


だが、その何かは思い出せない。


(´・ω・`)


なぜ、思い出せないのかも思い出せない……。

 

445 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/06/06(土) 19:35:57 ID:TjukTr1o0
从 ゚∀从 「しばらくは俺と話でもするか?
いまなら俺も落ち着いて話していられる」

从 ゚∀从 「それとも一人、想い出にでも浸るか?
お前が望めば、いつもより多くの出来事を視ることも可能だろうな」

(´・ω・`)

(´-ω・`) 「そうだね、そうしよう」


ハインの提案に乗るようにショボンはわざとらしくニヒルに笑い、
その心では "思い出すという作業を棄てる" ことにした。


分からないことは仕方がない。
ならばそれはそれとして、確認できることがあるはずだ。
極めて単純な質疑であっても。


(´・ω・`) 「ここは、一体なんなんだ?
どうして君はここにいる?」
 

446 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/06/06(土) 19:38:55 ID:TjukTr1o0

从 -∀从

从 ゚∀从 「ここは…俺にも正直わからねえんだよなあ」


先程とは異なり、間はあれど、淀みのない口調でハインは答えはじめる。


(´・ω・`) 「自分がいる場所もわからないのかい?」

从 ゚∀从 「自らすすんで来た場所ではあるが、望んで来た場所じゃあないんでね」


ハインはお手上げ…というように、両手を軽くあげておどけてみせた。

若干の嫌味を混ぜこんだつもりのショボンの言葉にも、彼女は動じない。
言葉遊び的な回答の真意は解らないが、特に深入りするつもりはショボンにもなかった。


どうでもいいのだ。 自分が作り出す目的以外は。
彼はいつも永い間、そうやって生きてきたつもりだ。


从 ゚∀从 「だが本来、ここはお前ら "不死者が死んだ" ときに来る場所だ」

从 ゚∀从 「イコール、お前は死んだからここにいる」

(´・ω・`) 「だから、死んだらなぜ僕らはここに来るのさ」

从 ゚∀从


――今度こそ。
ハインはその動きをはっきりと止める。


从 ゚∀从 「……この空間でその質問をしたのは、お前がはじめてだ」


どことなく…笑っている気がする。



   まるで来る時がきたかのような、
   待ちわびた者の笑み。


 

447 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/06/06(土) 19:45:00 ID:TjukTr1o0
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(゚、゚トソン 「申し訳ありません、クー様。
此度は宮殿内にまで賊の侵入を許し、あまつさえ緊急用ドックの避難扉まで……」

川 ゚ -゚) 「いや、構わない。
私もちょうどそちらを壊してでも侵入するところだったからな」

('、`*;川 「面目も御座いません…、備えてあった【クーチラス】すら破壊され――」

川 ゚ -゚) 「お前も気にするな。
もはや年代遅れの自動戦車ごとき、また造ればいい」


水の都…
延々続くかのようなメインストリートを真っ直ぐ進むその奥に佇む、碧白き宮殿。
その内部。


川 ゚ -゚) 「死傷者は?」

('、`*;川 「はい!
衛兵からの報告では怪我人こそ多数出てしまいましたが、命に別状ある者はいなかったようです」

川 ゚ -゚) 「ここに運べ。 私が治療しよう」


【シールド】を施す紋章が刻まれた大扉
――横一文字に斬りつけられ、大破している――
の向こう側…。
両指を前に握りしめ、背筋を伸ばした女性が三人。

448 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/06/06(土) 19:46:02 ID:TjukTr1o0
ドーム型をした天井は、骨を支えるため放射線状に壁中で柱を組む。
180°視界の開けたこの大広間は普段は開放されており、一般人も自由に出入りができた。


都中と同じく白を基調とし、
薄碧のレリーフが彫られた壁面は眼に優しく、
しかし滞在する人々の姿を浮き上がらせる。

衛兵と侍女が許す限りは、女王との謁見も比較的寛容だ。


…しかし、いまここには彼女たちしか居ない。
まるでその身分を示すように、
クーと呼ばれた女性だけが玉座を背に、他二人へと向き合っていた。


川 ゚ -゚) ( …あれだけ暴れて、誰一人として死なせず突破したか )


クー。
不死者であり、現在は水の都の女王。


川 ゚ -゚) 「都の中でその他の被害を確認しているなら報告してくれ。
些細なことでも構わない」


――同時に。
彼女が大陸戦争を引き起こした一国の主であったことは、都の誰も知る由はない。
 

449 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/06/06(土) 19:47:06 ID:TjukTr1o0

(゚、゚トソン 「建築物、及び潜水艦などへの被害は微小。
数週間もあれば修復は可能との報告が上がってきています」

('、`*;川 「確認中のものとして、重要文化財にあたる物品の窃盗や破壊はいまのところ見られていません」

(゚、゚トソ 「以前、フォックス様より住民に配布されたオーブも、持ち運びされた様子はないと……」

川 ゚ -゚)


侍女らのいうオーブとは、
ワカッテマスの創り出した泥人形フォックスからの監視アイテム【ホークアイ】の亜種。


川 ゚ -゚) 「オーブとは?」

('、`*;川 「あっ! 失礼しました。
オーブについては女王不在時の処置として、賢者様から安全確保の名目により配布されておりまして――」


あえてクーは素知らぬ演技をした。
それはショボンからの願い事でもある。
 

450 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/06/06(土) 19:51:55 ID:TjukTr1o0

(´・ω・`) 『君が都を大切にしたいなら、時には騙し合いもしなくちゃならないと思うよ』

(´・ω・`) 『騙される民ならとことん騙してやればいい。
君が感情に正直でいることと、他者がそれに従順でいることはイコールにはならないはずだ』



クーにとっては、いらぬ苦労をかけられている気がしてならないが仕方ない。

わざわざ単独での暴動を引き受け、あまつさえ
《内側からしか開けることの叶わない避難口まで侍女を誘導することにより、
唯一その道を知っていてもおかしくない女王と外側から合流させる》
という、遠回しな作戦を成し遂げた、
同じ不死の若造に払う敬意くらいは示さねばならない。


川 ゚ -゚) ( …ブーンやツンとはまるで逆なんだな )


侍女ペニサスの報告は続いているものの、その言葉はクーの耳に届かない。
その脳裏では、
自分以外の者が一時でも一つの国を統治、掌握したかもしれない未来が描かれていた。


摂理からすればそれもまた致し方ない。
本来ならば人の世において不死の存在がイレギュラー。

だが統治者が変わるときは、国も大きく形を変えなければならない。
更に言うならば、クーは自身を決してイレギュラーだとは考えていない。

産まれてきたのだから意味をもつのだ。
彼女もまた世界を構成する部品…卑下する要素など、何一つ在りはしない。


川 ゚ -゚) 「そうか…では、そちらにも私が処置を新たに施そう。
あとですべてのオーブを持ってきてくれ」

('、`*;川 「す、すべて…ですか?!」

川 ゚ -゚) 「すべてだ。
人も、オーブも、一つ残らず必ず頼むぞ」


…不死者は果たしてどこから来るものなのか。
ショボンよりも古い存在の彼女の記憶からは、失くなっている。


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451 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/06/06(土) 19:53:38 ID:TjukTr1o0
从 ゚∀从 「―― こんな感じだ」

(´・ω・`) 「なかなか面白いものがあるね」


二人は顎を――ハインはショボンに比べるとより高く――上げ、
正面に浮かび陣取る空間へと目を向けていた。

彼ら以外に唯一、闇に浮かぶそれは薄紫のモヤに潜む円長形をしている。
ハインはそれを[かがみ]と呼んだ。


从 ゚∀从 「確証はないが、恐らくいまは現実の時間にリンクしてると思う」

(´・ω・`) 「…とは?」

从 ゚∀从 「仕組みは知らねえから答えられないぞ。
それと、俺単独ではクーの景色しか視れない」

(´・ω・`) 「僕にも視れるのかい?」

从 ゚∀从 「やってみな」


ハインの言葉のすぐあと、ショボンが[かがみ]に向かって一歩踏み出す。
視界一面は[かがみ]に埋め尽くされ、
替わりに下がったハインのことを思い出す前に、空間は歪み始める…。


从 ゚∀从 「…お前自身のことについてなら、過去が視れるだろう。
念じてみろ」

从 ゚∀从 「ただし強すぎる願いはやめとけ。
これはあくまで思い出を映
            す
           だ
        け
       の

   [かがみ]

        だ
       か

      ら



   な」
 

452 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/06/06(土) 19:54:22 ID:TjukTr1o0

 

453 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/06/06(土) 19:55:39 ID:TjukTr1o0



       風景が、
           歪む。

 

454 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/06/06(土) 19:57:31 ID:TjukTr1o0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「――  の?」


「――軍師どの!」


気が付けば…次第に誰かを呼ぶ声が聴こえはじめ、その音量は時間と共に肥大していく。
声色はひとつではなく……重なり、やがて明瞭さをも欠きはじめた。


「…ショボンどの!」


そんななか最後の呼び掛けがハッキリと耳に届く。
同時――皮膚を焼く熱、バチバチと鼓膜を打つ気泡音も。


若干の不快感を抑えながら無表情に顔をあげた。
植物の画が施された黒い首輪を装着した男が、ショボンの顔を覗き込んでいる。


      《くそっ一体だれが!》

「しっかり!! どうかご指示を。
森が…森が焼けているモナ!!」

(´・ω・`) 「…ああ、わかってる」




   《だれが?!
    呪術師どもに
    決まってるだろ!》


 

455 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/06/06(土) 20:03:51 ID:TjukTr1o0

……赤い森。
大陸戦争終盤に突如発覚した、
呪術師たちの反乱を発端とした――と、騙られる――ジェノサイドの舞台。

それがいま、空と大地を赤く染めていた。


(´・ω・`)つ 「森の住人を無理矢理にでも避難させろ!
こんなことは軍として望んではいない。
火の元を見掛け、もしそれが――」


時代は二つの大きな国が大陸を奪い合っていた。

ショボンは[空の軍]軍師として、部隊を率いてここにいる。
だが火の鳥游ぐ混乱の最中、瞬く間に発生した状況について誰一人として追い付くことが出来ていない。


「モナー! どうなってる!!
斥候隊に火炎ボトルや火炎放射銃でも配ったのか?!」

「入るたびに構造の変わるこの森は計り知れなかったから…
可燃障害物の除去用としてチームごとに配布はしたモナ」

「じゃあそれだな!
制御もできないようなとんだ不良品をつかませやがって!」

「そんな…、そんなことないはずモナ!
たとえ不具合が起きても、ここまで大規模に燃え広がるような武器なんて、モナは製造してないモナよ!」


モナーと呼ばれた男はヒステリックになる一歩前、心を沈めつつも激しく動揺する。


(´・ω・`) 「いちいち騒ぐんじゃない。
訓練を受けた国軍ならば、目の前のことに集中するんだ」


モナーの生業はアイテム調合…そして自動機械の製造。
しかし、決して人の命を殺めるための道具を造ったことはないと自負していた。

456 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/06/06(土) 20:05:02 ID:TjukTr1o0

モナーが "マッシュルーム" と名付け製造した大型のオートマトンがある。
下腹部に用途ごとの異なるアタッチメントを装着することで、人間には不可能な作業を難なくこなす。

それか戦場に投入されたとの話を聞いたのは、
ショボンに呼ばれ、城下町を二人で歩いている時に聞こえた人の声からだった。


『あれがモナーかぁ。
細工師って聞いてたけど、厳つい人なんだな…まるでウドの大木だ』

『知らないのか?
マッシュルームもあの人が一人で造ったらしいぜ』

『マジかよ! この前の中央区での戦場じゃあ、ずいぶんと敵軍を蹴散らしたらしいじゃないか!』

『ああ…あれがいくつもあれば、それだけでも勲章ものだろうな』

『なるほどねえ〜。 それで軍は彼を召集したってワケだ』


…本来あれは可動式除障害機として造り上げたものだった。
それなのに、いまや[空の軍]が誇る落城用突撃兵器などと呼ばれていることに、モナーは酷く悲しんだ。
 

457 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/06/06(土) 20:06:56 ID:TjukTr1o0
まだ若きモナーが開発したアイテムは、他にも数知れない。


単なる装飾品から…
素人にも扱え、かつ生活水準の向上をめざしての日常雑貨…
逆に専門性の高い、注文する当人以外にとってはなんの価値も見出だせない物すら造り上げた。

個人作業のため生産ペースに限界はあれど、依頼人たちは待ち続け、完成を喜んでくれた。
彼もそれで充分だと思っていた。

受け継いだ技術が他人に認められることは、
一族の生きた証明を認められることと同義だった。


『次戦に投入されるらしい新兵器は、半永久的に敵を燃やし尽くす火石だそうだ』


――だが大陸戦争は、そんな発明者の意に反し、彼と彼の発明品を利用していく。
交換不要なカンテラも、もはや悪魔の獄炎扱い。

今回使われた火炎ボトルもそうだ。
指向性をもたせ、日陰に強い木ばかりが育たぬように開発した森木の間引き用アイテム。
念入りに調整し、発火後の空気に触れれば約20秒以内に消化されるようにしていたはずだった。

【フレアラー】などの魔導力を意図的に加えでもしない限り、
いま森で起きているような大惨事にはなり得ない。
使い方次第でこんなにもなってしまうのかと…モナーは落胆している。


人殺しは、人が生み出す歪みの象徴。
戦争は……歪みの頂点なのかもしれない。


(´・ω・`) 「モナー、…モナー?」

「――あ、…」

(´・ω・`) 「落ち着け。 大丈夫か?」


ハッとして顔を上げた。
優しく声をかけてくれていたのは、祖父の故郷の恩人であるショボン。


――そう、ショボンだけは。
モナーにとって彼だけは、これまで信頼を裏切るような真似をしたことがなかった。

458 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/06/06(土) 20:07:59 ID:TjukTr1o0

モナーは深く呼吸した。
一度、二度。
…心拍数が平常に戻るのを感じる。

身体の大きい彼は、深呼吸によって全身に久しく酸素を送り込んだ気がした。
視界が少しだけクリアに感じられるようになった。


すると、サルビアよりも真っ赤な大火に自分の身を晒していることに改めて気付かされる。
…なぜか?
日に日に依頼人から裏切られる思いの中で、
いまや彼のためにモナーはここいると言っても良い。


(´・ω・`) 「一番、二番隊は僕と奥に進む。
残りは全員武器を収め、救助活動に専念しろ」

459 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/06/06(土) 20:08:39 ID:TjukTr1o0
指示を飛ばすショボンの背中を見つめながら、モナーだけが所在なさげに立ち尽くす。
心ない騎士の言葉が頭を反芻した。


「……」

( ´・ω) 「モナー、行こう。
誰も君を心から責めてなんていない…
あんなもの、単なる八つ当たりだ。 気にするなよ」

「…モナ」


彼らのルーツとなる孤島では独自の細工技術が培われていた。
ショボンが青年となり、身体的成長をピークに留める頃、
すでに当時の技術者が何人も大陸に遠征している。

ふたごじまという本来閉ざされた島…。
広く新しい繋がりを持たせることで、信仰とは異なる心の芯を創りだした一時代。


それは、
自身が背を丸め、何かに縋りつかずとも、
自信が背を押し、奮い起たせてくれる概念。


そんなショボンに付き添うモナーもその子孫の一人だ。
巡りめぐって軍師となったショボンの隣で、大陸戦争の一隅に加わっているのは稀なる偶然といえる。


「…ちっ、熱すぎる」

       「おい離れるなよ」


額から…、首裏から…、
背中、腰に至り……。
篭る熱を冷却しようと、身体の中の水分がとめどなく絞り出される。

460 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/06/06(土) 20:12:22 ID:TjukTr1o0
  (( (;´・ω・) 「…」

「……汗が止まらないモナ」

   「なあモナーさんよ。
    アンタ、こう…身体を冷蔵するようなアイテムは持ってないのか?」

「この暑さじゃあ水なんてすぐに温まってしまうモナよ」

    「じゃあ氷は? 小型の製氷機とか…」

「荷物がかさばりすぎる。
あれは水と風の魔導力を組み合わせて、波動を安定化させないといけないモナ。
持ち運べるサイズなんてとてもとても……」

       ボソッ 「…役立たずだな」

   「やめろ、モナーの言うことは確かだ。
   魔法の使えないお前が知らないだけさ」

          「…なんだと?」

「…… モナ」

(;´・ω・`) 「くだらない言い争いはやめろ。
…何が起こるか分からないんだ」


単体で氷の魔導力を発せられるのは、
大陸西に古来より鎮座し[氷河の牙]と呼ばれるアイスキャニオン…
そこから採れる "生きた氷塊" のみ。


歴史上、人間の魔導師が扱える魔導力は
炎… 水… 風… 土…
この4種に限られている。

その他の波動が発見できないのか、
それとも存在しないのかは定かではなかった。
ショボンも魔法を使えないため、詳しくはない。


なお獣の肉や根菜など、生活を送るために
食糧を冷凍保存する補助的アイテムの人工的な製造は出来るものの、
魔導力の循環を考慮するとどうしてもサイズが大きくなる。

461 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/06/06(土) 20:14:41 ID:TjukTr1o0
    「……持ってくればよかったですね」

(;´・ω・`) 「"生きた塊" を?
誰がこの現状を予測できたものか。
知ってたらそれこそ貨物車で運んできて、炎を消すために使うさ」


つまり…必要ならば直接採取に行くのだ。
すでにこの時代、商人たちのなかには傭兵を雇い、氷山と街を往復する者もいる。

幸い "生きた氷塊" は文字通り、
生命を感じさせるほどにしぶとく効果を発揮する。


誰もが同じく、手首に巻かれたリストバンドで汗をぬぐう。
しきりに辺りを見回しては目を凝らし、時には立ち止まった。


       (( (;´・ω・)


唯一ショボンだけが休むことなく足を動かし続けた。
その歩みは普段に比べても遅い…しかし、騎士たちは追い付くのに必死だった。

流れ落ちるまえに蒸発する汗…。
しかし気に留める様子もなく滴らせている。


「…みんな、少しペースが乱れてるモナ?
状況が状況だから大変だろうけど、軍師どのに頑張って追い付いてくるモナよ」

「わかってるさ、…おい皆!」


明け空すら埋めようとする炎の森。
紅い顋が揺らめく。
長く続く大陸戦争……屍の上を進むこともある。

それと比較しても森の異質な光景に怯みつつ、騎士同士が引ける腰を叩きあった。
少し坂になった道のりが、ショボンの背中を頼もしく、そして大きく見せる。

462 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/06/06(土) 20:15:46 ID:TjukTr1o0


           (;´-ω-`)_з


――真剣に職務を全うしているだけならば、彼の後世への遺恨もなかっただろう。

モナーも、騎士たちも、そう思っていた。
この軍師はいま、戦争の勝利と人命救助を秤にかけているだけなのだと。


(……この焼けつく熱) (;´・ω・)


――いつかのアサウルスの咆哮にも似た肌の感触。
それをひとり思い出しているとは露知らず。


 

463 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/06/06(土) 20:16:27 ID:TjukTr1o0
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〜now roading〜


(´・ω・`) ω・´)

HP / C
strength / C
vitality / B
agility / B
MP / C
magic power / A
magic speed / C
magic registence / B


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