( ^ω^)千年の夢のようです

('A`):東方不死

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170 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 16:58:11 ID:upfhhKc.0


 昔 むかし ちいさな山のなかで

 村の者が 誰も近付かないやうな
 浅くて深ぁい 森のなかに
 ひとりの若い山人が すんでおりました
 

171 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 16:59:14 ID:upfhhKc.0

 その山人は 樹をきり 獣をかり
 川みずをのんでは ねとこにつく

 村の者も だぁれも 山人と
 ろくに口も ききゃあしません

 くるひも くるひも 山人はひとり……
 

172 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:00:37 ID:upfhhKc.0

 なにせ山人を おとなは みていません
 はてさて
 在るのに居ないとは これ異かに

 村のこどもが 胆をためそうと
 山にたちいると 顔をみたといいます

 ですが おとなが覗きにいくと
 どこを歩いても いつ歩いても
 切りたおされた樹ぃや
 獣をめしたあとが のこるばかり
 ときに村をあらす 妖怪のほねばかり
 

174 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:01:44 ID:upfhhKc.0

 はじめこそ これはたたりだ
 いやさ 山のかみのいたずらだ と
 うわさしていた村のひとびとも


 《かみさまが獣をよく喰ふまいよ》


 といふ誰かのことばに うなずいて
 てっきり村の者たちは
 山人がてまえかってに すみついたんだ

 ……そう思ふことにしたそうな
 

175 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:02:28 ID:upfhhKc.0

 おとなの心配をよそに 子はあつまり
 山人のところへ あそびにいくといふ


 《山人あめたべた》 《山人にくとった》
      《山人うたぅた》


 どうやら害はなかろうと おとなも
 《あぶないことはするでないよ》
 と声かけるに とどまっておりました
 

176 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:03:22 ID:upfhhKc.0


 そんなある日 村のかわ上のほうがくで

 おおきな おおきな おぉーきな
 太陽をさえぎるほど おおきな太陽が

 よるをひき連れて 山にふってきます
 空をさいて 山をにじり 海をあらします


 おとなは残った子らをひっぱって

 《もうだめだぁ このよはおわりだあ》

 はばからず 泣いて
 ただ ただ うずくまっていました


 

177 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:04:08 ID:upfhhKc.0
( ^ω^)千年の夢のようです


- 東方不死 -

178 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:05:32 ID:upfhhKc.0



美しいものには棘がある。

華は寒暖から身を防ぐために棘を持ち、
明確な敵意をもったものに対して、その棘を剥き出しにする。


だが、それは人が後世に作りあげた空想だ。


本来の目的は違う。
己の力だけでは成長できないその華は、
寄り添った別の花に棘を巻き付けながら、利己的に生き永らえるためその棘を持つのだ。


巻き付かれた花は傷付き倒れ、
それを糧にして華はより強く、大きくなる。


<ヽ`∀´>


今日も一人、
そんな華の前にのこのこと現れた。

179 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:06:14 ID:upfhhKc.0

<ヽ`∀´> 「…御師が言っていたのはここニダね」


背中に巨大な太極図…陰陽印を背負うのは
大柄だが、見た目より柔らかな物腰の男。

辺りを支配する月と宵闇。
肌寒い秋夜に都合の良い厚手の和装。
口の広がった袖を、胸元に絡ませながら
正面に見据えるのは…古くより現存する湖。


<ヽ`∀´> 「見た目は綺麗な湖ニダが…」
 

180 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:07:10 ID:upfhhKc.0


約10年 ──。
この湖が大陸の闇と囁かれ始めてから
それだけの月日が流れていた。

数多の白魔導士が原因を調査してきたが
未だ解明と解決には至らない。


底深くにある何か…。
その存在が年々、力を増しては
解呪に挑む者の精神を崩壊させるケースも珍しくない。

観光地として身を休める旅人の憩いの場は
過去に "美しい湖" として名を馳せていた。


今では、その外観から似つかわしくない
曰く付きの場所として、人々から
── "偽りの湖" と呼ばれている。

 

181 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:08:19 ID:upfhhKc.0

<ヽ`∀´> 「こうも広いと、ウリだけの力でなんとかできるような結界は張り切れないニダ」


呟きながら、男…ニダーは
風のない湖の周りを一周しながらも、ある方角に集中させるように短かな鉄串を立てていく。

歩いてはざくり、歩いてはざくり、と……
男の何気無い動作は、大地の点穴を的確に刺していった。


峨嵋刺と呼ばれるその串は、両端が鋭く研ぎ澄まされた、東方に伝わる隠し武器の一つ。

島国のお伽噺話では頻繁に目にする鬼……
そして女性が心に秘め持つ鬼の角…
その角をモチーフとして製造された、文字通りの "暗鬼" 。


<ヽ`∀´> 「解呪ではなく、まずは惡氣点をずらして端に寄せてみよう。
攻か、防か……御師には攻であれと教わってはいるニダが」
 

182 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:09:17 ID:upfhhKc.0

ニダーは峨嵋刺で構築した場から離れると、
月を見上げ、影を見下ろした。


師から伝授されし風水術。

星や天地に備わる魔導力を借りることの出来る東方の魔法を、彼は行使する。

計り終えた立ち位置の上、
風も吹かないのに背中の太極図がなびいた。


<ヽ`∀´> 「北東鬼門に穴は開けた。
どれだけ強大な穢れなのか…ウリも確かめてみるニダ」


静かな湖畔に風が舞う……
大きくなるざわめきは歪な水面が起こす波。

波長どころか基の性質のまったく異なる二つの魔導力は、ぶつかり合わず、
湖を型どる蒼を湾曲させながら割った。


<ヽ`∀´> 「…」

          だが……それだけだ。

183 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:10:35 ID:upfhhKc.0

鬼門に流れゆく穢れは水と油のように。
彼の魔法と交わらないまま重心を傾けて、いまだ水面を制圧している。

ニダーは湖の底を覗いてみるが、さしたる発見もなく、次の動向を迫られた。


<ヽ`∀´> 「…重いけど、激しくはない。
まさか何もないはずは無いが …」

<ヽ`∀´> 「……ニダ」


そして己が感じ取ったものを優先する。

だがそこには、
誰が、いつ、湖に何をしたのか……
解呪の詳細は引き継がれていない。

それを取りまとめる国という機関はあれど、
現在はその機能を著しく停止している。


<ヽ`∀´> 「【デスペル】!」


それがニダーの仇となった。
せめて流れを寄せず、最初から解呪の魔法を放っていれば……

反動で押し寄せる穢れた津波が、その身に降りかかることもなかった。
 

184 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:11:27 ID:upfhhKc.0

── 眼前、鼻先。

<ヽ;゚∀゚> 「イ、イゴムォーーっ?!」


迫る手のひらの影。 うねる亡者の腕。
人ひとりを事も無げに握り潰せるほどの巨大さは、その圧力だけでニダーを後退らせた。

瀬戸際で接触を防いだのは両手に添えた双峨嵋刺。
加えて皮肉にも ──
今も継続する、鬼門点穴による引き寄せがなければ間に合わなかっただろう。


<ヽ;゚∀゚> 「ぐっ……ぎぎ!」

【デスペル】は風水魔法ではない。
彼の魔導力に吸い寄せられた湖の穢れは
目の前にぶら下げられた魔導力を【ドレイン】すべく、ニダーもろとも握り潰そうとする。

嵐吹き荒ぶかのように揺れる水面が、湖の体裁を保たなくなりつつある。


<ヽ; >∀゚> 「〜〜っ! こんなの聞いてないニダ!!」


ニダーの魔導力が光の粒となって湖の中に吸い込まれ、溶けていく。

偽っているのは見た目だけではない…
内包する穢れも、
秘める禍々しさも、
湖はもはや一介の人間が手を出せるような代物ではなくなっていた。

命を危機に晒されて始めて気が付く彼の思惑、そして自惚れた我が心。

185 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:12:28 ID:upfhhKc.0

『ニダー、俺達には時間がない。
お前なら間違いないからこそ頼む』

『何でも良い……人や獣を吸い込むという
魔の湖からその秘密を暴いて、収穫があれば持って帰ってきてくれ』


師の言葉が脳裏によぎる。
あの時、浮かんだ疑問を口にしていれば今頃どうなっただろう。
不出来な弟子と罵られながら過ごした修行時代を思い出し、反骨精神を奮い起たせる。



<ヽ;゚∀´> 「……ぐぎぎ」

ニダーも、この湖のことをまったく知らなかったわけではない。
周辺の生態系が緩慢ながら崩されてきたことくらいなら、大陸の行く先々で耳にしていた。

しかし彼の生まれる以前から、
果敢な戦士として…そして風水の使い手として活躍してきた師からの懇願が、
まだ若いニダーの心にどこか驕りを付けた。


<ヽ;゚∀´> 「…?!」


その時、湖の水面に浮かび上がる固形物。
── まだ闇を秘めているのかと、膠着状態ながら警戒を強める。

カチカチと震える双峨嵋刺を持つ腕の中、ぼんやりと考えるニダーではあったが
一方で冷静な思考が、固形物の正体を見極めようと努めていた。

時にそれは生死を分かつ "未練、執着" とも呼ばれるのかもしれない。

<ヽ;゚∀´> 「……あれは」

脳の処理速度だけが加速した世界で、捉えた輪郭が告げる見知った正体。


人の形。 その方角、南西裏鬼門。

186 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:13:24 ID:upfhhKc.0


一度発動した魔導力は継続してその効果を発揮しない。
少しずつデスペルの効力が薄まると共に、
亡者の腕が興味を失い、ニダーへの強襲は力を失っていく。

反して手伝うように、
継続して穢れを吸い寄せる風水魔法が、亡者の芯を向こう側へと引きずり込む。

<ヽ;゚∀´> 「っオ!」

ニダーは好機とみるや一歩下がると同時、素早く腕を振り上げた。
袖口から飛び出す複数本の峨嵋刺が、
その固形物の横をすり抜け ──巻く。


<ヽ;゚∀゚> ( 間に合えっ!)


人がいるとなれば放っておけなかった ──そこに師の言葉など関係ない。
そのまま勢いを殺さず、ニダーは更に大きく飛び退いた。


キリキリと袖先で鳴る音は、嘶く亡者の声にかき消える。

転がり離れる身体が砂を絡めて汚れていく。
受け身をとる余裕もなかった。
ひたすらに…、その場から逃れる。


── ォォン…  ── ォォン…
            ── オ オ ン …


            あとに残るは
     耳にこびりついた呻き声だけ…。

 

187 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:14:35 ID:upfhhKc.0


やがて鎮まりかえった偽りの湖…。


<??;゚∀゚> 「ハアーッ、ハアーッ…」

自由を取り戻した身体とは対照的に、心は得たいの知れぬ何かに縛られる。


ニダーは恐ろしかった。

これは単純な死の恐怖とは違う。
道半ばの魂を…自分という個を吸い取る、ただそれだけのために存在する亡者が……
手のひらの影が己を食むかのように
ばっくりと開かれていたのを、目の当りにしたあの瞬間が。


口内に溜まった唾液を呑み込もうとして…
しかし拒絶を表した喉頭によって反流し、無様に咳き込んでしまう。
 

188 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:15:36 ID:upfhhKc.0

<ヽ;`∀´> 、「けほっ…げほっ……」


何の目的かは知らないが…もし元凶がどこかにいるならば責任を取らせたい。
赤の他人がこんなものに関わるべきではなかった…と、ニダーはそう胸中で毒づいた。

こんなところに送り出した師への憤りも少なからずあるが。


<ヽ`∀´> 「── はぁ」


しばしの間、彼は片膝をつき、荒れた呼吸が整い終わると顔をあげた。

辿る視線は、袖口から繋がる炭素鋼に巻き付く人間。
結わく峨嵋刺が尾となり、回収を為したのだが……


<ヽ;`∀´> 「…何ニダ?」


炭素鋼に食い込む腕がピクピクと、筋肉の収縮を伝え抗う。
── 生きている。
あの穢れた湖に沈んでいたはずなのに?

ニダーは恐る恐る、うつ伏せているその人間の顔を覗き込んだ。

 

189 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:16:29 ID:upfhhKc.0






        「…ふひ、ひ」( ∀`)


砂に埋まるべたべたの横顔から、
邪に尖る奥歯を見せつけて

          "ポイズン" は嘲った。
 

190 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:17:12 ID:upfhhKc.0
------------


〜now roading〜


('A`)

HP / F >> C
strength / D
vitality / A
agility / A
MP / C
magic power / B
magic speed / C
magic registence / A


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191 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:18:23 ID:upfhhKc.0


ギュルギュルと響く機械音…。
末端のネジ一本からエンジンに至るまで。
街道を走る小型電動貨車が、土埃を舞わせながら木々をすり抜け駆けて往く。

固い土を踏みつけるたびに沈む車体。
しかし中にある運転座席や、後部荷台を思うほど揺らすことはなかった。


大陸戦争にも利用された運搬車ではあるが、その全てを廃棄されることは少ない。
むしろ堂々と現存しながら、この時代の人々の暮らしに役立てられている。


('A`)「…」

<ヽ`∀´> 「……」


広い荷台にはたった二人。

砂を払い切り、汚れの目立たなくなった服の上から、白く襟の立った上着を羽織ったニダー。
背中の太極図は一回り大きく見えるが表情は俯き、暗い。

そして乾きつつあるもののボロボロの黒い防弾衣に、炭素鋼と峨嵋刺で両腕ごと縛られたポイズン。
空を仰ぐ視線、口許は貼り付けたような薄ら笑い。

一見真逆に見える彼らに共通しているのは、濁った瞳。
 

192 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:19:28 ID:upfhhKc.0

('A`)「…なぁ?」


沈黙が支配する空間で、先に口を開いたのはポイズンだ。
当然ながら…なんとなく気まずいなどといったくだらない理由からではない。


('A`)「いい加減なにか喋れよ。 お前の名前でもなんでもいいから」


ふひひ、と洩らしながら命令口調でニダーに声をかける。
興味があるなどというくだらない理由からでもない。


<ヽ`∀´> 「…ニダー」

('A`)「よぉ〜やく喋ったか。 なにセンチしてんだか」

<ヽ`∀´> 「君には関係ないニダよ」


それだけ答えてニダーはまた俯く。
窓はなく、四隅に備えられた仄かな光源だけが、閉鎖的な荷台の二人をじっと見下ろしていた。

193 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:20:34 ID:upfhhKc.0

('A`)「……」

('A`)「ふひ」


ポイズンは笑う。
自分の状況にさして頓着せず、なぜ緊縛されているのかも、この電動貨車の行き先にも興味がない。


ただ直感だけ。
この後はお愉しみな出来事がきっとあると。
無為自然に過ごしていれば、いつも自分の元には愉快な奴が現れる。

自分はそういう世界にいるのだ。

この腐れた脳みそを使うのはその時で良い。
策士は策に溺れる。
臆病者は想い出に縛られる。
弱者は起きてもいないことを不安がる。

……なんと揃いも揃って馬鹿ばかり。
そんな愚かしいことは一切する理由がない。
死なばもろとも消えてゆくのだから。
      ── たとえ不死であろうと。


久し振りの揺れに車酔いしたわけでもないだろうが、ポイズンはどこか鬱陶しげに壁に寄り掛かると、冷えた感触がこめかみから伝えられる。
それは彼にとって思いのほか心地好かった。


( A` )「……タバコある? ひひっ」

 

194 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:21:22 ID:upfhhKc.0

<ヽ`∀´> 「…ここは火気厳禁ニダ」

( A` )「ぁーそー」


「ツマンネ」と吐き捨てるポイズンの横顔を見て、ニダーは少しだけ探りをいれた。


<ヽ`∀´> 「なんで湖の中にいたニダ?」

('A`)「君には関係ないズラよ」

<ヽ#`∀´> 「…」

('A`)「怒んなよ、ジョーダンじょーだん」

('A`)「まあ寒中水泳ってやつだ」


垂れ下がった目尻でヘラヘラとしたその調子は、何か隠しているようにも見える。
そんなポイズンを凝視して、一言──


<ヽ`∀´> 「… "長寿の法" 」

('A`)「はあ?」

<ヽ`∀´>「……いや、なんでもないニダ」


…どうやら投げ掛けた単語はかすりもしなかったらしい。
ポイズンの表情は微動だにしなかった。

その後は少しだけ雑談を試みるも、さしたる情報すら得られそうもないまま時間は過ぎていく。


<ヽ`∀´> 「……」


どうしたものかと、ニダーの思考は貨車の外へと浮かんで、そのまま消えてしまった……。

 

195 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:23:00 ID:upfhhKc.0


数日後、電動貨車から降ろされた山中のとある屋形の前。


「お帰りなさいませ、ニダー殿」


出迎えた剣士達は一様に脇差しを携え、先に歩くニダーを一瞥すると道を開ける。

葉を少なくした大木の下にはその場に不釣り合いな些か仰々しい機械類が置かれているものの、ポイズンの関心は別のところにあった。


('A`)「…サクラか」ボソッ

<ヽ`∀´> 「こっちに来るニダよ」


ニダーにそう誘われるも、二本の足をすぐには動かさない。
辺りを囲む剣士から刀の柄で背中を押され、やっと身体を揺らして歩きだした。
両腕は解放されなかった。

屋形内を回り込むように続く長廊下から見えるのは、やはり庭先に咲くサクラの花…。

天道虫が非力な羽を休めている。



<ヽ`∀´> 「サクラを知ってるニダね」

('A`)「……?」

('A`)「なんだ、そりゃあ」


今度はキョトンとした顔でニダーの顔を見返す。
ポイズンの反応の違いに対して、訝し気に首を捻りながらもニダーはそれ以上話し掛けなかった。

196 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:24:26 ID:upfhhKc.0

「ご苦労だったな、ニダー」

長廊下の角を曲がると、新たに続く直線の中腹で、白い髭を蓄えた背の高い老人が腕を組んでいるのが見える。


<ヽ`∀´> 「御師様、戻りました」

( `"ハ´) 「応。 収穫物は…そいつか」

('A`)「ぉ〜コイツがお前の言ってた師匠ってやつか」

(`"ハ´ ) ギロリ


── その老人。
かつてこの地域を取りまとめていたバルケン公を成敗し、その後の安寧を作り直すに貢献した一人。


<ヽ`∀´> 「ニダ……あの、御師さ ──」

( `"ハ´) 「3つ目に入れ、彼がお待ちアル。
2、1、1、1、5」

<ヽ`∀´> 「……」


言い切り顎をしゃくると、それきりシナーは無表情のまま廊下の柱に寄り掛かった。

齢にして90を超えたシナーから、孫ほどに歳の離れた弟子であるニダーの会話はそれで終わる。

…労いの言葉はない。
身を案ずる様子もない。

ポイズンを収穫物と言ってのけたことに対する、ニダーの疑問もかき消される。
眼をつむり、弟子の顔を見るまでもなく、シナーはじっとして動かない。

198 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:25:30 ID:upfhhKc.0


廊下に面した襖部屋を開け進んでいく。

('A`)「おめーバカにされてんじゃあねえか。 あ?」


<ヽ`∀´> 「……」

ニダーは応えない。
ただ無造作に襖を引き、ポイズンを先に進ませてから自分が入るという動作を繰り返す。


('A`)「…ぁ、図星だったか? ごめんなぁ、ふひひ!」

♪〜 ('A`)「弟子なんだろ、いつかは師匠なんて越えるもんだぜ」


ポイズンは流暢に言葉を続ける。
ニダーはそんな彼を相手にしない。


('A`)「少なくとも俺には師弟愛だのどーだのは感じなかったけどな」

<ヽ`∀´> 「…もうすぐ着くニダ」


('A`)「……。    ふひひ」




('A`)「…殺しちゃえよ」


 

199 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:26:45 ID:upfhhKc.0


何度も明け開いた襖の向こう…
物理法則に沿わない方角へと続く廊下の先に、垂れ幕で区切られた大部屋が鎮座する。

ニダーが「失礼します」と一声かけると、張りのない、短い返事が咳き込む音に混じって返ってきた。


(-@"∀@) 「ご苦労だったねえ」

<ヽ`∀´> 「ご気分はいかがニダ?」

(-@"∀@) 「良くは、ない」


ごっぷごっぷと、耳障りに痰の絡む濁音が広間に響く。
シワだらけの老人…アサピーはしばらくの間、喋ることもできず生理現象と争っている。


(-@"ц@) 「ぐぅ〜、ごけぇッ!」

(-@"∀@) 「…ぺっ! ……ぅー…。」

('A`)「…」

('A`)「ジジイ、うるせえぞ」

<ヽ;`∀´> 「こら! 控えるニダよ!」

(-@"∀@) 「よい…。 ングッ 私ですら同じ思いなのだからな」


若々しかった過去の姿は無く…
もはや墓の前にたつ骨と皮の残骸は、ポイズンの言葉にも動じる様子はない。

200 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:27:51 ID:upfhhKc.0

(-@"∀@) 「……君が、湖から引き揚げられた者か」

(-@"ц@)',: 「そうか…聞いた通り ──ゴッホ!」

(;'A`)「きったねえーなあ〜」

(-@"∀@) 「……ぐっぐっぐ…」


眼鏡の奥から鋭い眼光が射す。
隠さず咽が鳴った。
── ついに求めていたものを目の前にしたかのように。


(-@"∀@) 「ニダー、君はもう下がってよい」

<ヽ`∀´> 「…は」

(-@"∀@) 「シナー、連れていきなさい」

('A`) ハ ´) 「応」


いつのまにか、ポイズンの背後には老戦士シナーの姿。



            ド
             ス
               ッ
                !
直後、後頭部に貫く痛みが走る。
 ──尺半ばまで刺さった峨嵋刺。
そこでポイズンの意識はぶっつりと ──…… ..

201 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:28:33 ID:upfhhKc.0


 

202 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:29:16 ID:upfhhKc.0





           《山人、どこや?》

(推奨BGM:A Return, Indeed... (Piano) )
http://www.youtube.com/watch?v=jPT4hh9BesE&sns=em

203 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:30:32 ID:upfhhKc.0

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《山人ー!》やまひとー

        《相手せいー!》
            あいてせいー


……静かな森の山に響き渡るのは、まだ澄んだ…誰かを呼ぶ声。
キンキンと高い音波が山の空気と起伏に反射し、無遠慮に木霊する。

風の弱い日はいつもこうだった。
島国であるこの土地には湿気が多く、僅かな冷涼を求めて日陰に身を潜める習慣がある。


だが彼が住み着いてからというもの。
もののついでと言わんばかりに、飽きもせず彼を捜し回る遊戯が流行ってしまったらしい。
歳を取ればくだらないことも、幼な子にとってみれば新鮮で好奇心を満たす、悦ばしい日々の出来事なのだろう。
 

204 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:31:38 ID:upfhhKc.0

《山人ー!》 や
         まひと 

      《どこじゃー?》ど
               こ
               じ
                ゃ


彼を求め、見えぬ手は鳴り止まない。
この遊戯は男を見つけるまで続けられる。

島国には四季があり、人が万年過ごしやすい環境とはお世辞にもいえない。
変化に耐えきれず身体に異変をきたす者や、不幸に見舞われ、一年を憂鬱に思い起こさせる時季が必ずやって来ることを嘆く者も在る。


   風暖かく、
   しかし大陸から病を運んでくる春。

   陽強く、
   しかし恵みをより引き立たせる夏。

   想い猛り、
   しかし決して叶えることのない秋。

   白雪舞う、
   しかし魂を誘っては永遠をよぶ冬。

 

205 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:32:44 ID:upfhhKc.0

彼が此処に辿り着いたのは遥か遠い冬。
今でも目をつむれば、白い結晶が溶けて赤く染まるような…傷付き疲れ果てた身体を引き摺っていたことを思い出す。

その時、山の麓の童に姿を見られたのが運のつきだった。
いくら施しを拒絶しても言葉は通じず、まるで自分勝手に振る舞う年端もいかぬ童たちは、彼の面倒を見る代わりにあることをねだった。


    《山人、うたうとぅてくれ》


この島国では唄に特別な想いを注ぐという。
 ── 悦びも、哀しみも。
      ── 怒りも、愉しみも。
言霊を詠んではころころと、目まぐるしく表情を取り替えていく。 それはまるでこの島の四季のようだと…根負けした彼は思った。
 

206 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:33:34 ID:upfhhKc.0


          《きゃはは》ゃはは

     《へたくそ!》たくそ!

《真面目にやってえ》ってえ


彼には唄の才能がなく、なんど月を見送っても、いくら陽が暮れようとも、みなの好奇心を満足させることは出来なかった。
そのたびに『もうやめだ』と彼が言っても、童たちの大合唱によって拒否を遮られる。
彼には注ぐ心がないのだと、みなが言う。

彼も否定しなかった。
注ぐものがなければ唄は吟えないのなら、きっと己れはそうなのだと。 だからもう諦めろと。


     《山人げんきだせ》


差し出されたのは一粒の飴…。
"白い花" と呼ばれたそれを、男は戸惑いながらも受け取った。 だが検討違いの慰めに、
『己れは何も落ち込んじゃあいない』と否定する。


  《さぁさ 山人あいてせい》てせい

 

207 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:34:20 ID:upfhhKc.0


ある日のこと、童の一人が尋ねた。


    《山人はなにがすきだ?》
…好きなものなんてない。

    《愉しいことすきか?》
…愉しいことなんてない。

    《嬉しいことすきか?》
……嬉しいと、思ったことがない。

    《怒ったりするのか?》
怒るほど誰かに期待しちゃあいない……。

    《そんなの哀しくないか》
……。 そんな風に考えたこともないな。

 

208 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:35:33 ID:upfhhKc.0

彼は自分に嘘はつかなかった。

長い月日のなか他人を欺くのは、正体を隠し、退屈を紛らわせるためだったが、自分自身を偽ったところでなんの意味もない。
無駄なことは好きだが、無意味なことには無関心。 そうやって長い間、気の遠くなるほど間延びした命を淡々と享受した。


この島国に来た理由を忘却し、ひたすらに生きる無意味さを、退屈しのぎによってまた忘却する……。
いつしか彼はその存在意義をも深淵に沈ませ、宙ぶらりと世界を漂うようになってしまった。


長い時間を生き過ぎた。 人が人としてもつべき心は…もう渇き切ったのではないか。

風が吹けばカサカサと崩れてしまう。
水を与えても吸い込む前にむせて吐き出してしまう。
土に還したくても周りと交ざり合うことが出来ない。


ならばいっそのこと燃やしてしまえばいい。
いたずらに摩擦を起こし、生命が命足るに必要不可欠な酸素という名の魂の血路を奪い、時には彼自身も火種の泥を被ってゆく。
 

209 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:36:46 ID:upfhhKc.0


《山人おるかー》るかー


   《山人うたつくってきたぞぅ》ぞぅ



……今日もまた、山のなかに。 麓に住む童たちが彼を捜し回る声がする。


《山人もこれならうたえるな》

      《山人はてがかかるな》


不死でも腹は減る。 男はやはり退屈しのぎに頭を割った獣のにくをたべながら、遠くて近いその音に、ただ静かに聞き耳をたてた…。



     《山人みぃつけたー》

              つけたー


 

210 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:37:29 ID:upfhhKc.0


 

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