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1 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:00:39 ID:4gBII52M0
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夏で連想するもの。
海か、山か、スイカか、プールか。
やっぱり、お祭りか花火かな。
けたたましく鳴いていた蝉が静かになって。
かわりに人々の声が賑やかでやかましくて。
熱気と非日常的な空気。
妙に眩しいたくさんの電飾。
体に悪そうな、甘ったるい味。
でもその味が、妙に忘れられなくて。
大切な思い出の一部にもなっていて。
【清夏のようです】
夏の日。
夏の夜。
夏の夢。
いつでも記憶の中では、夏の風の、さわやかな匂いを感じられる。
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2 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:02:31 ID:4gBII52M0
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みんみんじゃわじゃわ、蝉がけたたましく鳴く夏の昼前。
ちりちり、ベランダに下げられた風鈴が鳴っている。
開け放たれたガラス戸、ぴっちり閉じられた網戸。
ぬるい空気が出たり入ったり。
首を振る扇風機に合わせて、一人の少年が頭を動かしている。
うっすらと汗をかきながら、恨めしそうに黙するエアコンを睨んだ。
省エネだか何だか知らないが、こうも暑いのになぜ許された道具が扇風機と団扇だけなのか。
ジュースもアイスも勝手に手を出すと叱られる。
許されるのはお茶、しかも推奨されるのは常温。
(;,゚Д゚)「あー……づー……いー……」
ぱたぱたと団扇も同時に用いるが、ぬるい。
涼しいには程遠い生ぬるい空気の流れ。
ついには夏休みの宿題を放り投げて、扇風機の前に倒れ込む。
倒れ込んだところで涼しくはならないし、寧ろ風が当たらず暑さは増した。
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3 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:04:24 ID:4gBII52M0
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(,,゚Д゚)「かーちゃんアイス食ったの気付くもんなぁ……やだなぁ怒られんの……」
残量が減れば気付いて当然なのだが、幼心にはそれが理不尽にすら感じる。
少年はしぶしぶ起き上がり、腕に張り付いた宿題のプリントを剥がして捨てる。
そして、せめてもの反抗にと、扇風機の首振り機能を止めた。
(,,゚Д゚)「あ゙ぁ゙〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
(,,゚Д゚)
(,,゚Д゚)「ぼ〜く〜ど〜ら〜え〜〜も」
「おーい!! ギーッコー─────!!!」
(;,゚Д゚)「ヘァアイ!!!」
( ・∀・)「ギッコー!」
(゚Д゚,;)「おぉぉうモラどうしたおい何だこの野郎」
( ・∀・)「学校のプール行こーぜ!」
(゚Д゚,,)「行く!」
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4 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:06:11 ID:4gBII52M0
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( ・∀・)「今日から開放だからさ、一番乗りしようぜ!」
(゚Д゚,,)「水着とってくる!」
( ・∀・)「おう! 長岡も待ってるし急いでなドラえもん!」
(゚Д゚,,)
( ・∀・)
,_
(゚Д゚,*)「聞いてんなよ……しね……」
( ・∀・)「聞こえたんだからしょうがないだろ……聞かれて恥ずかしいならすんなよ……」
網戸越しに悪友の一人と会話して、どたどたとプール一式を掴んで家から飛び出す。
外に出ると周囲を見回し、適当な人物を見つけると声を上げた。
(,,゚Д゚)「伊藤のねーちゃーん!!」
('、`*川「ん? どしたのギコ君」
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5 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:08:21 ID:4gBII52M0
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(,,゚Д゚)「俺プール行くから! 家頼んだー!!」
('、`*川「あんた留守番でしょうに……学校のプール?」
(,,゚Д゚)「うん!」
( ・∀・)「一番乗りするんだ!」
('、`*川「はいはい、おばさん帰って来たら言っとくから」
(,,゚Д゚)「頼んだー!!」
( ・∀・)「行ってきます!!」
('、`*川「いっといでー」
('、`*川
('、`*川「学校のプールねぇ……市民プールは遠いからなぁ……」
('、`*川「……まぁ人んちでも宿題は出来るか……涼めないけど……」
ばたばたと走って行く小さな二つの背中を見送り、
近所の女子高生は図書館に行く予定を諦めて、少年宅に上がり込む。
人んちに勝手に上がり込む文化も、まだ多少残っている様な土地柄だった。
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6 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:10:17 ID:4gBII52M0
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ここは、有り体に言えば半端な田舎だ。
大きな山は無く、海は遠い。
田畑や森林に囲まれているが、自転車や車で少し行けば便利な店や施設がある。
中途半端な都会さが混じった、間違いの無い田舎。
だが澄んだ水の流れる川があり、木々が多く、夏には規模の大きな花火大会もある。
子供達にしてみれば、今時では珍しい川で水遊び、森林で虫取りを楽しめる場だ。
不便さが残るので、恐らく住みたいと言う人間は少ないだろうが。
夏になると、田畑は濃い緑に覆われる。
わさわさと繁る緑、大振りな実をつけるトマトやナス、胡瓜。
さすがに井戸水でとはいかないが、良く冷やしてかぶりつけば、瑞々しい歯応えと味を楽しめる。
スイカやトウモロコシはさすがに無い、スイカがあっても小ぢんまりとした、精々漬物用だ。
しかし近所に、趣味で桃を作っているお宅がある。
規模は大きくないが丁寧に作られており、量が出来れば毎年近所に配るのだ。
子供達はそれを心待ちにして、熟した桃が届いたと知ると、目一杯に遊んで帰宅する。
汗だくで喉はからからの状態になり、良く冷えた桃を良く洗い、皮剥きもそこそこにかぶりつく。
それはもう、この世のものとは思えないほどに美味いものだ。
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7 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:12:00 ID:4gBII52M0
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ざわざわ、さらさら。
畑の側に広がる田んぼは、眩しい程に瑞々しい緑を風になびかせる。
真っ青な空に田んぼの緑は良く映え、まるでざわざわとたゆたう水面の様だ。
胸を締め付けるような爽やかな美しさは、その姿を一日ごとに変えて行く。
田植え前の、水の張られた田んぼ。
良く晴れた日は、その広い広い水溜まりに空を丸ごと写し込む。
稲が育ち、爽やかな緑を風に遊ばせる田んぼ。
ざわざわ揺らされるその姿と音は、妙に涼やかな気分にさせてくれる。
たわわに米が実り、頭を垂れる稲穂に満ちた田んぼ。
眩しいほどの金色、朝日を受け、夕日を受け、その目映い美しさは圧巻だ。
クソ田舎ではあるが、四季折々、田舎は田舎なりに美しさ、楽しさに満ちている。
市民プールが車で行く距離なのは少々痛いが。
_
( ゚∀゚)「ギーッコー! モーララー!」
(,,゚Д゚)「長岡ー! おらー!!」ガッス
_
(;#)∀゚)そ「いっだぁい!?」
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8 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:13:40 ID:4gBII52M0
-
_
(;#)∀゚)「なに!? なにすんの!? 俺なんかした!?」
(,,゚Д゚)「夏休み前にお前俺の牛乳飲んで謝らなかったな」
_
( ゚∀゚)「あ、ごめん」
(,,゚Д゚)「うずまきパンすげー喉こするんだぞ」
_
( ゚∀゚)「すまん、ソーリー、さーせん」
(,,゚Д゚)「しの?」
_
( ゚∀゚)「いやん」
( ・∀・)「良いから行こうよ、一番乗り出来なくなる」
(,,゚Д゚)「お前そんなに一番乗りが良いのか」
_
( ゚∀゚)「お子さまめ」
( ・∀・)「ぶっとばすぞ」
_
( ゚∀゚)「近道していこうぜ、林のとこ抜けて」
(,,゚Д゚)「どんくらい人居ると思う?」
( ・∀・)「あんまり居なさそう」
_
( ゚∀゚)「貸し切りだったら最高なのになー」
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9 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:15:21 ID:4gBII52M0
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ばたばたとあぜ道を駆け抜けて、三人は学校にたどり着く。
幸い一番乗りだったらしく、更衣室には荷物も人影もない。
誰かが来る前にと急いで着替えを済ませて、全力のストレッチ。
腰洗い槽に浸かり、妙に冷たいシャワーを浴びながら、水泳帽を意味もなく濡らして揉みつつ
少年たちは冷たい水に身体を慣らして、プールへて進んで行く。
_
( ゚∀゚)「ギッコ25m泳げる?」
(,,゚Д゚)「泳げる」
_
( ゚∀゚)「俺も泳げるようになったから競争しようぜ」
(,,゚Д゚)「お前とはあんま競争したくないなー」
( ・∀・)「っしゃー一番乗り!」
(,,゚Д゚)「テンション上がってんなー」
_
( ゚∀゚)「小学生かよ」
(,,゚Д゚)「小学生だよ」
( ・∀・)「なぁギッコ、ちょっと良い?」
(,,゚Д゚)「あー?」
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10 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:16:21 ID:4gBII52M0
-
( ・∀・)゙「泳ぎ教えてくんない……?」
(,,゚Д゚)「まだ苦手なの水泳……」
( ・∀・)「泳げなくはないけどさぁ、なんか苦手で……ギッコ泳ぎ得意だろ、頼むよ」
(,,゚Д゚)「長岡にも言えば?」
( ・∀・)「やだ、こいつの教え方わけわからん、バーンってやってバシャーとか言われる」
_
( ゚∀゚)「グーンってやってザバーだろ」
(・∀・#)「それがわけわかんないの!!」
_
( ゚∀゚)「えー」
(・∀・#)「えーじゃねーよ!!」
_
( ゚∀゚)「びー」
( ・∀・)「泳ご」
(,,゚Д゚)「おう」
_
( ゚∀゚)「お前ら冷たくない?」
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12 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:17:52 ID:4gBII52M0
-
教師がプールサイドの隅で書類仕事をしているのを横目で見ながら、三人は改めて体操。
そして全力で飛び込んで、しこたま叱られるのだった。
一応は居るが、参加者も少なくさして監視の必要が無い教師は、日傘の下で別の仕事。
たまに生徒を見て、たしなめたり叱ったりと言う程度だ。
泳ぎを教える気は恐らく全く無いだろう。
三人の生徒はわいわいと、泳いだり水をかけあったりとはしゃぐばかり。
こちらも恐らく、泳ぎを教える気は無いのだろう。
( ・∀・)「んじゃギッコ、水泳教えてよ」
_
(σ゚∀゚)゙
(,,゚Д゚)「長岡に」
( ・∀・)「ヤだ」
_,,
( ゚∀゚)
(,,゚Д゚)「俺より長岡のが泳げるし」
_
( ゚∀゚)゙
( ・∀・)「ヤだ」
_,,
( ゚∧゚)
-
13 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:19:31 ID:4gBII52M0
-
(,,゚Д゚)「慣れれば雑な教え方も味わい深くなるかも」
_
( ゚∀゚)゙
( ・∀・)「ヤだ」
_,,
( ゚Д゚)
(,,゚Д゚)「そうは言っても案外分かるかも」
_
( ゚∀゚)゙
( ・∀・)「ヤだ」
_,,
( ゚皿゚)
(,,゚Д゚)「意外と感覚でどうにかなるかも」
_
( ゚∀゚)゙
( ・∀・)「絶対ヤだ」
_,,
( ゚益゚)
(,,゚Д゚)(さっきから長岡の顔芸が面白い……)
( ・∀・)(俺も思ってた……)
-
15 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:20:50 ID:4gBII52M0
-
(*゚ー゚)「あつーい」
(*゚∀゚)「あっちーなー」
( ・∀・)「あっ、女子来た」
_
( ゚∀゚)「おーい!お前らも遊びに来たのかー!」
(*゚∀゚)「おー長岡達だ、遊びに来たー!」
(*゚ー゚)「つーちゃん、泳ぎ教えて?」
(*゚∀゚)「まかせろー!」
_
( ゚∀゚)「俺も教える」
(*゚∀゚)「何でだよ」
_
( ゚∀゚)「モラが教えさせてくんない」
(*゚∀゚)「お前の教え方わけわかんねーもん」
_
( ゚∀゚)「女子にまで言われた……入水しよ……」
(*゚∀゚)「教えて良いから死のうとすんな」
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17 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:22:04 ID:4gBII52M0
-
( ・∀・)「しぃちゃんまだ泳げないんだな」
(,,゚Д゚)「女子をちゃん付けで呼んでんのかよお前」
( ・∀・)「お前も最近までそうだたったじゃん」
(,,゚Д゚)「小さい頃の話だろ……」
( ・∀・)「小さい頃からしぃちゃんと仲良いだろ? 泳ぎ教えてあげれば?」
(,,゚Д゚)「……やだよ、あいつすぐ泣くし」
( ・∀・)「最近そうでもなくね?」
(,,゚Д゚)「知るか、お前も練習しろや」
( ・∀・)「ギッコさぁ、しぃちゃんと親戚なんだろ? もうちょい優しくすれば?」
(,,゚Д゚)「っせーな……親戚つってもほぼ他人だし歳一緒なだけだろ」
( ・∀・)「昔は仲良く」
(#,゚Д゚)「だーうっせうっせ! さっさと泳げや!!」
( ・∀・)「なにキレてんだよガキじゃあるまいし」
(#,゚Д゚)「小五はガキだろ!!」
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18 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:24:04 ID:4gBII52M0
-
同級生の、しぃと言う少女とギコは幼い頃から友人であり、遠めの親戚だ。
女子の中では一番仲が良く、一緒に遊ぶ事も多かった。
しかし小学校の中学年にもなると、男女は完全に別グループになってしまう。
それだけでも自然と疎遠になり、極めつけは男女別に行われた保健体育の授業だった。
定番中の定番である原因と、あとは、とあるきっかけ1つで。
何となく、一緒に遊ぶと言う感じでは無くなってしまった。
(,,゚Д゚)(しゃーねーよな)
(,,゚Д゚)(女子と男子は一緒に遊ぶもんじゃねーし)
(,,゚Д゚)(中学行ったら、もっと話さなくなるだろうし)
(,,゚Д゚)(普通の事だよ、たぶん)
(,,゚Д゚)(あいつすぐ泣くし)
(,,゚Д゚)(一緒に遊んでんの見られたら恥ずかしいし)
(,,゚Д゚)(しょーがねーよな)
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20 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:25:29 ID:4gBII52M0
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しかし、とギコは横目でしぃを追う。
可愛らしい顔形、大きな目に小さな鼻、いつでも微笑む唇。
しんなりとした細い手足に、競泳タイプの水着に包まれた、女子らしくなってきた身体。
ばしゃばしゃと水を蹴る足。
妹に掴んでもらってる手。
息苦しそうに水からあげられる顔。
不思議と、遠目からでもその姿はよく見えた。
妹と男友達から水泳を教わっているしぃは、運動が得意ではない。
どちらかと言うと、本を読んだり机に向かう事の方が好きだ。
性格は大人しく、泣き虫で、そのくせ頑固なところがある。
昔からそうなんだ。
後ろをくっついてきて、すぐ泣いて、迷惑ばっかり。
でもあの頃は、そうは思わなかった気がする。
前はもっと、一緒に遊んだし、一緒に笑ったし。
しぃが泣いた時、どうにかして泣きやませようと四苦八苦していて。
結局手を繋いで、二人でワンセットで行動して。
あの頃は嫌じゃなかった筈なんだ、泣き止んだ時の彼女の笑顔が好きだったから。
いつからだろう、それを疎ましく思うようになったのは。
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22 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:26:29 ID:4gBII52M0
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いつだったかな。
一緒に祭りに行った時だったか。
いつものように、二人で並んで夜店を見て回っていた。
傍らには、白地に花の模様の浴衣、赤くてひらひらした帯、少し照れ臭そうに笑うしぃ。
しぃはリンゴ飴が好きで、小振りなそれを片手に握って、もう片手をギコと繋いでいた。
けれど何かの拍子に、しぃがリンゴ飴を落としてしまう。
それに対して泣きじゃくるしぃと、多くはないお小遣いを握りしめるギコ。
『待ってて』と告げて、しぃの手から、するりとギコの手が抜けた。
遠くなる背中と、落としたリンゴ飴と、心細さ。
結局しぃは待っては居なくて、駆け出したギコの背中を追い掛けてついていってしまった。
店の前で小さなリンゴ飴を買うギコと、ぽろぽろ涙をこぼしながらそれに追い付くしぃ。
『待っててって言ったのに』
『だってギコくん、いきなり行っちゃうから』
泣きじゃくる幼馴染みは、あんまりにも寂しがり屋で。
いつでも側に居なくてはいけない気がして。
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23 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:27:41 ID:4gBII52M0
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『ギッコ、お前またしぃと一緒なの?』
『嫁さん置いてっちゃ駄目だろギッコ』
二人の距離感をからかわれる事が増えて。
それに対して、しぃは恥ずかしそうに黙り込むだけで。
何だか窮屈に感じてしまって。
何だか息苦しくなってしまって。
何だか、急に居心地が悪くなってしまって。
ギコはリンゴ飴を握ったまま、他の友達と回ると告げ、一人で走り出す。
下駄と浴衣の少女は、サンダルと普段着の少年には、もう追い付けなかった。
サンダルと足の間に、小石が挟まって痛くて。
ギコくん、ギコくん。
後ろから、泣きながら呼ぶ声が、まだ耳にへばりついて。
あれからだ。
しぃと、距離を取るようになったのは。
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24 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:28:32 ID:4gBII52M0
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あれから、あの日の事は口にも出していない。
しぃと目をあわせる事すら減って、最初は気にしていた周囲も次第に興味を無くした。
話す事も、遊ぶ事も、一緒に過ごす事も無くなった。
未だに、あの時ひとり置いていってしまった事を謝れていないと言う、罪悪感の蓄積。
話しかける事も出来ない、そんな罪の意識が余計に疎遠にさせた。
罪悪感は表面からは消えても、ずっとずっと、腹の底にわだかまり続ける。
罪悪感から、しぃに声をかけられないギコ。
しぃの方も恐らく、勇気が無くてギコに話しかけられないまま年月が過ぎてしまったのだろう。
─────それにしても、ああ。
水しぶきと、夏の日差しを浴びてきらきらしている。
楽しそうに笑う彼女は、水に溶けて消えてしまいそうなくらいに瑞々しくて、健康的で。
眺めていると、とくとく、熱を感じた。
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25 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:29:40 ID:4gBII52M0
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( ・∀・)「ギッコってさ」
(,,゚Д゚)「んー」
( ・∀・)「しぃちゃんと仲良かっただろ」
(#,゚Д゚)「だから!!」
( ・∀・)「なんで疎遠になってんの?」
(#,゚Д゚)「…………」
( ・∀・)「……喧嘩したなら仲直りしろよな」
(#,゚Д゚)「してねーし……」
( ・∀・)「長岡のアホとかがさ、からかったんだろ」
(,,゚Д゚)「…………」
( ・∀・)「やっぱモヤモヤすんのってさ、何かイヤじゃん」
(,,゚Д゚)「……まぁな」
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26 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:30:34 ID:4gBII52M0
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( ・∀・)「俺な、好きなコ居るんだ」
(,,゚Д゚)「……ふーん」
( ・∀・)「お前はさ、からかったりしないだろ、ああ言うバカ達みたいに」
(,,゚Д゚)「長岡、いいやつだけどな」
( ・∀・)「いいやつがバカじゃないとは限らないから」
(,,゚Д゚)「それな」
( ・∀・)「ギッコさ、しぃちゃん好きだろ」
(,,゚Д゚)「ねぇよ」
( ・∀・)「昔からずっと仲良いし、好き同士だと思ってた俺」
(,,゚Д゚)「お前さ、なんなの?」
( ・∀・)「何が?」
(,,゚Д゚)「女子が好きとかどうとか、恥ずかしくないのかよ、男として」
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28 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:31:34 ID:4gBII52M0
-
( ・∀・)「俺はさ、そのコの事を好きなの恥ずかしくない」
(,,゚Д゚)「…………」
( ・∀・)「何で恥ずかしいんだよ、相手に失礼だろそんなの」
(,,゚Д゚)「……知るかよ」
( ・∀・)「君の事が好きなのが恥ずかしいですなんて、最低だろ、そんな男」
(,,゚Д゚)「お前がなに言ってんのかよくわかんねーよ……」
( ・∀・)「別にお前が誰が好きでも良いけどさ」
(,,゚Д゚)「だから」
( ・∀・)「好きじゃないとか、恥ずかしいとか、そんな嘘ついたり情けない事だけは言うなよ」
(,,゚Д゚)「……だからわっかんねーよ……そんなの……」
( ・∀・)「言わなきゃいつまでも分からなそうだもんお前」
(,,゚Д゚)「んだよそれ……悟ってんなよ……」
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29 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:32:36 ID:4gBII52M0
-
妙に大人びた友人の言葉が、なぜだかやたらに居心地悪く感じた。
まだ知りたくないような、まだ目をそむけていたいような、触れてはいけない内容な気がして。
胸の辺りがもやもやと、気持ちの悪い感覚に飲み込まれる。
プールサイドで膝を抱えて、きらきらと光を反射させる水面を眺める。
向こう側で友人達がはしゃぐと、それに合わせて波が立つ。
その波に、太陽の光はきらきら、きらきらと踊るように飛び散るのだ。
それが何だか妙に眩しくて、目を細める。
賑やかな蝉の声も、友人の声も、遠い気がした。
夏は真っ白だ。
眩しすぎて、何もみえない。
けれど瞼を下ろすと、世界は黒と赤に沈む。
息苦しくて、何も見えやしない。
ああもう、この友人は、どうしてこんなに面倒な話をするんだろう。
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30 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:33:40 ID:4gBII52M0
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目蓋を下ろしたまま、ぐるぐると考える。
どうしてあの時、あんな事したんだろう。
だって何だか恥ずかしくて、息苦しくて、嫌になってしまったから。
どうして、まだ泣いているしぃを置いていってしまったんだろう。
だってしぃはすぐに泣くし、一緒にいるとからかわれるから。
どうしてあの日の事を思い出すと、こんなにも胸が痛いんだろう。
だって、
うっすらと目蓋を持ち上げる。
視線の先には、妹とはしゃぐ彼女。
楽しそうに笑う彼女を見ると胸の奥が、ぞわぞわ。
締め付けられるような、ざわざわ何かが広がるような、変な感覚。
しぃは、可愛いから。
自分が泣かせてしまうと、すごくすごく、嫌な気分になる。
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31 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:34:32 ID:4gBII52M0
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そうだ、しぃは可愛いんだ。
目は大きいし、作りは整ってるし、身長は普通くらいで、細くて、軽くて、脚が長くて
泣き虫だけど、大人しくて、勉強が得意で、女らしくて、ボタンも縫い付けられるし
声も可愛いんだ、動作も、泣き虫なくせにしゃんとした背筋で、ああもう、挙げきれない。
ああそうだよ、分かってたよ、ほんとはずっと分かってたよ、知ってたよ
でも恥ずかしくて嫌だったんだ、自覚したくなかったんだ、こんなの誰にも言えやしないから。
だってそうだろ。
男が、女のこと好きとか、そう言うの普通は誰にも言えないよ、恥ずかしいだろ。
それなのにあいつは、あのバカは、平然と好きな奴が居るとか言えるんだ。
何でだよ、どうしてそんな事言えるんだよ、バカじゃないのか。
ああ、でも、さ
友人が言うなら、俺が言っても良いんじゃないか。
ああ、でも、ああ。
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32 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:35:29 ID:4gBII52M0
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ざぶん。
あまりに頭がぐるぐると、まとまらない思考をするものだから
ギコは抱えていた膝を解いて、プールの中へと飛び込んだ。
頭を冷やそう。
あまりにも思考がとっちらかる。
バカみたいに遊ぼう。
呆れた顔でこっちを見てくる友人に水をぶっかけて。
やり返して、やり返されて、怒って笑って、何も考えずに遊ぼう。
そうじゃないと、そうじゃないと。
そうじゃないともう、目が、彼女を追いかけてしまうから。
日が上りきり、これから下ると言う辺りまで、思考を全て捨てるように水遊びを満喫した。
プールから上がり、教師へ挨拶をしてから帰り支度を始める。
寄り道をするなと一応は釘を刺されたが、皆が小銭を持ってきているのだ。
当然、帰りに近所の店に寄って帰るつもりで来ている。
スポーツタオルを頭に乗せたまま、帰り道にある店まで歩く。
まだ日差しは強く、火照った肌を更に焼いた。
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33 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:36:47 ID:4gBII52M0
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(,,゚Д゚)「あっちー」
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( ゚∀゚)「やっとついたー」
('、`*川「あ、お帰り」
(,,゚Д゚)「伊藤のねーちゃん店番?」
('、`*川「あんたんちで留守番終わったら今度は店番よ、お駄賃もらえるけどさ」
_
( ゚∀゚)「伊藤のねーちゃんアイスくれー」
(*゚∀゚)「くれー」
('、`*川「はいはい120円よー」
イトウヤと言う駄菓子や文房具、トイレットペーパーなどの日用品を売る店。
そこが子供達の溜まり場であり、店番の女子高生とも顔馴染み。
各々がアイスを買い、店番はそれの対応をしながら参考書を眺める。
この数年、店番の制服が変わったくらいで、同じような光景が繰り返されていた。
店先の熱せられたベンチに座り、アイスの封を切る。
冷たいだの甘いだの、口々に感想を漏らしながら。
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34 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:37:57 ID:4gBII52M0
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( ・∀・)「ギッコそれ好きだよな、割れるやつ」
(,,゚Д゚)「アイスはソーダが一番うまい気がする」
( ・∀・)「それ雪見大福の前で言うなよ」
(,,゚Д゚)「お前はいっつもそれな……」
( ・∀・)「好きなんだよなぁ……」
(*゚∀゚)「長岡お前いっつもそれな」
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( ゚∀゚)「そろそろ先輩って呼べよな」
(*゚∀゚)「うっせー長岡」
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( ゚∀゚)「おっぱいアイスぶつけんぞ」
(*゚∀゚)「アイス無駄になるからやめろや」
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( ゚∀゚)づ○「ほーらおっぱいアイスだぞー!」
(*゚∀゚)「うっざ! くそうっざ! 冷たいしくっつけんな!」
_
三(づ゚∀゚)づ○「おらおらー!」
ドンッ "(;*゚o゚)「きゃっ」
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35 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:39:06 ID:4gBII52M0
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(*゚∀゚)「こっち来んなドアホ! しね!!」
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( ゚∀゚)「しねはあんまりだろ!?」
(*゚∀゚)「うっせー襟足! なんかなげーんだよ!」
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( ゚∀゚)「髪型関係なくない!?」
(*゚ー゚)「あー……」
( ・∀・)「あ」
(,,゚Д゚)「? どしたん」
(*゚ー゚)「アイス落ちちゃった……」
(,,゚Д゚)「あのバカ二匹……」
( ・∀・)「大丈夫?」
(*゚ー゚)「うん……アイスもったいないね」
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36 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:40:27 ID:4gBII52M0
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(,,゚Д゚)「ほら」
(*゚ー゚)「え?」
(,,゚Д゚)「片方やるよ」
(*゚ー゚)「……いいの? 減っちゃうよ?」
(,,゚Д゚)「いいから食えよ、溶けるし、また落とすぞ」
(*゚ー゚)「でも、」
(,,゚Д゚)「お前泣くとうるさいから、はよ食え」
(*゚ -゚)!
(*^ヮ^)「えへへ……ありがとギコくん」
(,,゚Д゚)「? おう」
(*^ー^)「ソーダも美味しいね」
(,,゚Д゚)「おう」
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37 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:41:54 ID:4gBII52M0
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咄嗟に差し出した手には、二つに割れるアイスの片割れ。
少し驚いた顔をしてから、彼女は笑顔でそれを受け取った。
お互いがほっとしたような、むず痒いような気持ちになって。
それでも何だか、前みたいに出来た気がして、落ち着ける。
なんだ、あんがい簡単じゃないか。
さっきまであんなに悩んでたけど、いざその状況になれば、自然と身体が動く。
隣にちょこんと腰かけた彼女の湿った髪が、さわさわと風に揺らされる。
塩素と、汗と、水と、彼女の匂い。
薄い緑色のワンピース、一番上のボタンがあいていて、平らな胸と鎖骨が見えた。
視線を下ろせば、服越しにも、その体格が女子らしくなっている事に嫌でも気付かされる。
ぺたんとした胸の上部から、ふんわりとした膨らみまでの流れが見える。
頬から流れた汗が、胸へと。
視線をそらして、溶けかけのアイスを頬張る。
とくとく。
胸の奥の熱を、ソーダアイスで冷やした。
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38 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:43:11 ID:4gBII52M0
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まるで、疎遠になっていた期間なんてなかったみたいに、隣に座る。
目が合えば、照れ臭そうに微笑んでくる。
恥ずかしくてすぐに目をそらすが、嫌な気分はしなかった。
このまま、謝れないかな。
あの時、置いていってごめん、とか。
今ならきっと、彼女も笑って許してくれる気がして。
乾いた唇を湿らせて、唾液を飲み下す。
妙に緊張しながら、口を開いて
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( ゚∀゚)「あー! ギッコとしぃがイチャついてんぞー!」
あ、
(*゚∀゚)「まじかよ姉ちゃん熱々だな!」
ああ、
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39 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:44:10 ID:4gBII52M0
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ああそうだ、何をしているんだろう。
今は二人きりではないし。
人を囃し立てるタイプのバカが、二人も居るのに。
何をしているんだろう。
(*゚ -゚)「や、やめてよ……」
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( ゚∀゚)「ひゅーひゅー!」
(*゚∀゚)「さすが姉ちゃん大人だな!」
_
( ゚∀゚)「なに? アレか!? 付き合ってんのかお前ら!?」
(*゚∀゚)「まじで!? 聞いてないんだけど姉ちゃん!!」
_
( ゚∀゚)「ギッコ彼女は大事にしろよー!!」
(;・∀・)「あーもう! バカ共やめろよ!」
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40 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:44:58 ID:4gBII52M0
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状況や心情を察して、何も言わずに眺めていた友人が声を荒くする。
そんな制止の声も、悪気も無く囃し立てる友人の声も、妙に遠く感じた。
頭の芯が冷えていく。
アイスが溶けて、手を汚す。
羞恥と、後悔と、憤りと、情けなさ。
何もかもない交ぜになって、頭の中と胸の奥をぐるぐると。
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( ゚∀゚)「お前ら結婚しろ結婚!」
(*゚∀゚)「姉ちゃんブーケこっちにくれよー!」
(;・∀・)「おいっ!!」
ふと、脳裏によみがえる、あの時の声。
無意識にベンチから立ち上がり、俯いたまま唇を震わせて。
(*゚ -゚)「あ……」
口を開いて。
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41 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:46:03 ID:4gBII52M0
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( ゚∀゚)「彼女置いてどこ行くんだよギッコ!」
(*゚∀゚)「姉ちゃん泣かせんなよギッコ!」
(;・∀・)「お前らマジさぁ! いい加減に!!」
言葉が、
(,, Д )「…………誰が」
_
( ゚∀゚)「へ?」
(#, Д )「ッ 誰が好きになるかよ! こんなブス!!」
言葉が、勝手に、出てしまって。
(*゚ -゚)「……」
ああ、これ。
ついさっき、友人に『言うなよ』と言われていた言葉だ。
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42 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:47:32 ID:4gBII52M0
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我に返って、自分の言葉の意味に気付いた。
ぶわ、と、嫌な汗が全身を濡らした。
見開いた目を上げて、友人を見る。
バカが言いやがった、という顔で、こちらを見ていた。
恐る恐る、傍らの少女に視線をやった。
俯いていた。
口の中が乾く。
声は出なくて。
ぱっ、と、彼女が顔をあげた。
(*^ー^)
彼女は、微笑んでいた。
目尻に少しだけ、涙が浮かんでいた。
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44 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:49:18 ID:4gBII52M0
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(;, Д )「……ぁ…………」
(*^ー^)「ごめんね」
(;, Д )「…………」
(*^ー^)「アイス、ありがと」
ベンチから立ち上がり、妹の方へ歩いていく。
その背中を見る事すら出来なくて、手から、溶けたアイスが滑り落ちる。
ぺしゃり。
皆に背中を向けて、走ってその場から逃げ出した。
頭に乗せていたスポーツタオルが、はらりと地面に落ちる。
しんと静まり返ったその場の空気。
何も言えなくなった友人は、タオルを拾い上げながら地面に広がるアイスを見ていた。
(ああ、アイス、当たってる)
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45 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:50:25 ID:4gBII52M0
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胸がきりきりと痛む。
掴まれて、絞られてるみたいな痛み。
恥ずかしいんだか、腹立たしいんだか、わけがわからなくなって思わず走り出した。
胸は痛むし、顔は暑いし、頭の芯から背中にかけてが冷たく感じて。
とにかくそれらを感じたくなくて、誤魔化したくて、走る足を止められなかった。
息が上がる。
あいつらふざけんな。
胸が詰まる。
何であいつ黙ってんだよ。
足がもつれる。
何で俺は。
ずしゃ、と。
ゆるい坂道、顔面から地面へ突っ込んだ。
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46 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:51:55 ID:4gBII52M0
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ごろごろ、数回ほど不格好に転がって、うつ伏せに止まる。
荒いコンクリートの道は、容赦無く膝や肘に傷を作った。
身体を動かして、じゃり、と手に砂と埃と濡れた感触を感じる。
何だか動けなくて、その姿勢のまま突っ伏した。
痛い。
膝も、肘も、胸も頭も全部痛い。
恥ずかしくて、苦しくて、腹立たしくて、悔しくて、いたたまれなくて、申し訳なくて。
不意に込み上げた涙を、砂っぽい手で擦って無理矢理に止めた。
強く唇を噛み締めて、地面を睨む。
泣くなんて情けないし、男らしくないし。
あいつが泣いてなかったのに、自分が泣くなんて出来ないし。
きゅうぅ。
あれ、おかしいな。
胸の痛いのが、強くなった。
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47 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 21:53:01 ID:4gBII52M0
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溶けていく。
アイスも、世界中も、頭のなかも。
どろどろに溶けて、混ざって、真っ暗で。
足元からずぶずぶと、溶けた世界に沈んで行く。
痛い、熱い、苦しい、助けて。
もがくように腕を伸ばしても、何も掴めず、とぷん。
息が詰まって、苦しくて、もう何も吸い込めなくて吐き出せない。
彼女の目尻に浮かんだ涙が胸に刺さる。
いつもみたいに微笑む勇気はどこから湧いていたんだろう。
ごめんな、ごめんなしぃ、ごめん、嘘だから。
あんなの嘘だから、お前の事嫌いとかじゃないから。
お前は可愛いから、誰よりも可愛いから。
だからしぃ、お願いだから、そんな風に笑わないで。
胸が、苦しいから。