■( ^ω^)プロメテウスの火を灯すようです
└第二話
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112 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 20:37:26 ID:caUVze8M0
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〜interlude〜
――ホログラフの再生が終わると、部屋の中は一斉に吐き出された溜息で満たされた。
( ´ー`)「世界の真実をつまびらかにする、か。全く…英雄にでもなったつもりか?
今の世の中、こんな演説で誰が魔術の実在を信じると思っておるのだ。馬鹿馬鹿しい」
掃除の行き届いたフロア。
円卓の中央には、立体映像投影機から浮かび上がる一人の男の姿。
白銀の髪に黄色い瞳。およそ、この世のものとは思えない、浮世離れした美貌の男。
(’e’)「馬鹿馬鹿しい事ですが、被害は無視できない。メディアジャックの混乱に乗じて、既に真新都周辺の支部の幾つかが襲撃され、死傷者も出ています」
( ゚¥゚)「VIPとか言ったか。たかだか10人程のテロリストたちが、支部を落としたというのか」
(’e’)「俄かには信じがたい事ですが、現場から上がってきた報告を見る限りでは、構成員の殆どが“到達者”級の使い手だと見受けられます」
( ´ー`)「“到達者”級だと…?確かに、それ程の力を持つ者達ならば1人で支部の1つや2つ、落として見せるだろうが……」
( ゚¥゚)「“到達者”級ともなれば、連盟内でもそれなりの立場にある者ばかりだ。
その動向はどうした所で目立つ筈。どうして今に至るまで感づけなかった」
(’e’)「それについては目下の所調査中となっております。
“到達者”級など早々居るものでもありませんから、直ぐにでも報告が上がってくるかと思いますが……」
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113 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 20:38:45 ID:caUVze8M0
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( ゚¥゚)「ふん。だといいがな。“到達者”級だろうが何だろうが、兎に角早急に対処することだ。
対テロ警戒宣言など発令させおって…表の世界の役人どもに、これ以上の借りを作るわけにもいかん」
(’e’)「“御老体”の皆様はなんと…?」
( ´ー`)「一週間だ。それ以上対テロ警戒宣言を継続させることは、国民感情の面からも無理だと言っておる」
( ゚¥゚)「それ以前に密葬教会の連中も黙っておらんだろう。あまり長引くようならば、奴らの介入も視野に入れておかねばならないが……」
( ´ー`)「極東支部…その中でもニホンは数少ない、教会の影響力が弱い地域だ。今回の事で奴らに付け入られるようなことがあってはならん」
(’e’)「今の所、密葬教会からの公式の発表は届いておりません。ですが、水面下で既に動き始めている使徒たちが居る可能性も考慮すべきでしょう」
( ゚¥゚)「水面下で動いていないと考える方が不自然だろうよ。奴らは何時もそうだ。
事後承諾で破壊と殺戮をばら撒き、その尻拭いを我々がさせられたのも両手の指で足りんほどだ」
( ´ー`)「教会の介入となると、魔生種共――“エキドナの腕”からは何か連絡はあるか?」
(’e’)「十三氏族は我々連盟と共闘路線を取ることを表明してきました。他の種族からはまだ公式声明は届いておりませんね」
( ゚¥゚)「ヴァンプ共が……これは、意外というべきか。魔術が普及すれば、奴らにも利はあるだろうに」
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114 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 20:42:01 ID:caUVze8M0
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(’e’)「VIPは魔術の普及と同時に魔生種との共存も謳っております。それが、彼らの中の保守派の逆鱗に触れたようですね。
“あくまでも我々は人類の敵対者として生きる”との事のようです」
( ´ー`)「魔性の矜持と言う奴か。吸血種と言うのもどうして難儀な生き物よな。しかし、そうなってくるといよいよ密葬教会の動向に注意せねばならん」
( ゚¥゚)「現地で教会の使徒とヴァンプ共が出くわして見ろ。今回のVIPの襲撃どころではない被害が出るぞ」
(’e’)「流石にそこまで大事にすれば、教会の連中とて知らぬ存ぜぬは通せないでしょう。無論、何事も無いのが一番ですが」
( ´ー`)「今の所、テロリスト共は“到達者”級の手練れの集まりである、という事しか判明していない。
組織規模や活動基盤なども不透明な現状では、“真祖殿”にご足労願った所で無用な混乱を招くだけであろ」
( ゚¥゚)「“貴族”の紳士淑女の皆様には、“力が必要な時にはこちらから使いを出します”とでも言っておけ」
(’e’)「心得ました」
( ´ー`)「……さしあたってはVIPの陣容把握が最優先であろうな。これが分からぬことにはどれ程の人員を割いたものかも分からん」
( ゚¥゚)「聞けば、アジトを発見・包囲したものの一人として捕えられなかったというでは無いか。
青腕章まで動員しての作戦でそれでは、現地の支部員だけで対処するには荷が重いのではないか?」
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115 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 20:43:42 ID:caUVze8M0
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(’e’)「戦闘能力、という面で見れば確かに心許ないかもしれませんが、数だけはそれなりに残っております。
ですので、彼らには情報収集と支部周辺の防衛に専念してもらい、VIPの討伐そのものはそれに特化した精鋭を用いる事を打診したく――」
言って、たらこ唇が特徴的な小男は、円卓の向かい側を窺う。
今の今まで口を開くことの無かったその者は、自身に向けられた視線に気付くと、ぬらりとした眼光で小男をねめつけた。
( ゚д゚ )「“クルーリエ”を動かせと。貴様は、そう言うのか」
深く、重いバリトン。
精悍な顔立ちの中で目ばかりをぎらつかせて、男は言う。
瞳と、そのたった一言だけで、残りの三人を威圧するその様は、スーツを着た竜のようですらあった。
(;’e’)「か、彼らならば相手が“到達者”と言えども遅れを取ることはないでしょう。確実にVIPを掃討するならば、“クルーリエ”の動員は必至かと……」
( ゚д゚ )「なるほど、確かに。“クルーリエ”ならば、どのようなモノが相手だろうと…例え“純竜種”が相手だろうと打倒できるだろう。将来的にその力が必要になる“可能性”がある事も認めよう」
(;’e’)「え、ええ、ですから……」
( ゚д゚ )「だが、それは今ではないし、あくまで可能性は“可能性”でしかない。
今動かすのは、暗闇の中で何処に居るかもわからない鹿に向かって大砲を撃ちこむのと同じ。
下手をすれば“クルーリエ”の損耗を招く。それだけは看過出来ぬ」
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116 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 20:45:04 ID:caUVze8M0
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(;’e’)「……」
( ゚д゚ )「大砲を撃ちこむべきかどうか、撃ちこむなら何処に撃ちこむのか。それらを見極めるのが斥候であり、消耗品どもの仕事だ。“クルーリエ”の仕事ではない」
( ;´ー`)「……」
( ;゚¥゚)「……」
( ゚д゚ )「“クルーリエ”を、一山いくらの血袋共などと同列に語るな。
それとも、政治畑に肩まで浸かっていたせいで、その程度の実戦的判断も出来ないくらいに脳がふやけているのか?」
(;’e’)「出過ぎた事を申してしまいました。謝罪の言葉もありません」
( ゚д゚ )「……当分は賊どもの調査を最優先させろ。叩くならば、一気呵成。
奴らの戦力を把握したうえで、抵抗出来ない物量をぶつける。戦争とはそういうものだ」
抗弁する隙さえ与えずそこまで言うと、男は立ち上がる。
( ゚д゚ )「取りあえずは、政府の役人どもに対テロ警戒宣言の延長の打診でもしたらどうだ?
現状、ニホン地区の残存戦力で一週間以内に奴らを探し出すのは叶うまい」
( ;゚¥゚)「し、しかしどうやって……」
( ゚д゚ )「やり用など幾らでもあろう。貴様らは、それすら自分で考える脳も無いのか?」
にべも無く言い放つ男の事を、他の三人は苦い顔で見送るしかできない。
肩で風を切って男はそのまま退室すると、黄色い爬虫類の様なその目を細めた。
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117 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 20:47:12 ID:caUVze8M0
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( ゚д゚ )「――と言うわけだ。貴様らには引き続き現在の任務を優先してもらう」
「えーつまんなぁい」
男の言葉を受けて、ドアの脇、派手な格好の女が壁から背を離す。
(*゚ー゚)「せーっかくニホン旅行が出来ると思ってたのにぃ。アタシ一回、あのニュースカイツリーっての登ってみたかったんですけド」
室内だというのに淡い空色の日傘を挿した女は、紫色の唇を尖らせる。
傘と同色のゴチックドレスと、それに合わせたかのような青白い髪。
正気の沙汰とも思えない彼女のその格好にも、黄色い瞳の男が動じることは無かった。
(*゚ー゚)「アタシ一人ぐらいなら、動いても問題なかったんじゃないの?
ていうか、刻印なしの政治屋さんを捻るの、ぶっちゃけもう飽きたんですけど」
( ゚д゚ )「下らんことを言うな。現状、EU圏にこれと言った問題が無いとは言え、彼奴らの機嫌取りをしておくに越したことはない。
今回の真新都の件が陽動である可能性もあるのだからな」
(*゚ー゚)「陽動って、それを餌にVIPが他の国で暴れるってこと?えー、どうかなぁ」
( ゚д゚ )「まぁ、だとしてもどうでも良い事だ。貴様は引き続きフランスで任務に当たれ。クックルもモンゴルの人民解放戦線掃討を継続。
ディはドイツでネオナチ共の支援を維持。これは頃合いを見て手を引くべきだが……」
(*゚ー゚)「評議会代表っていうのも忙しいのねぇ。
あっちのゴタゴタ、こっちのゴタゴタ、そっちのゴタゴタ、幾つも首を突っ込まなきゃいけないから、ヒュドラにでもならなきゃ」
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118 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 20:49:21 ID:caUVze8M0
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( ゚д゚ )「血煙の中で玩具の杖を振り回しているよりよっぽどましだ。全ての戦場に足を運んでいては、それこそヒュドラでも首が足りん」
(*゚ー゚)「ふーん。それじゃあもうミルナっちが前線に立つ姿は見れないのかぁ。ちょっと残念」
( ゚д゚ )「あのような退屈極まる児戯にはほとほと飽いた。まだ盤上で駒の動きを眺めている方が、よっぽどか手慰みにもなるというものよ」
(*゚ー゚)「おぉ、なんか大物っぽい事言っている。流石は元クルーリエ筆頭、“赤のミルナ”様は尊大でいらっしゃる」
( ゚д゚ )「それで、言葉遊びにはもう満足したか?満足したのなら、他の者達にも先の件を通達しておけ。俺は暇ではない」
(*゚ー゚)「ちぇー!いっつもあたしばっかパシリみたいに使って。いつか絶対天罰が下るんだかんねー!」
悪戯っぽくあかんべーをしてみせると、青白い女は日傘をくるくると回してその場を後にする。
残されたミルナは、それを見送るでもなく窓の外を睨みつけていた。
( ゚д゚ )「“白煙の”フォックス…どうして、懐かしい顔を見たものだ」
廊下の窓の外には、夕焼けを望む大海原が広がる。
白い波が砕けて散る様を眺め、ミルナの酷薄な唇は、人知れず、愉悦の形に歪められていた。
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119 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 20:50:40 ID:caUVze8M0
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第二話
「Boy meats Girls」
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120 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 20:54:04 ID:caUVze8M0
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〜1〜
――倉庫の窓から見上げる空は、満天の星空だった。
( ^ω^)「……」
チカチカと瞬く星々たちの間に広がるのは、茫漠とした沈黙だけ。
真新都の、大都会の空だというのに、そこには騒々しさの欠片も無く、時折遠くで寄せる波音と、隣の部屋で眠るデレちゃんの息遣いが微かに聴こえてくるのみ。
昼にあれだけの戦いがあったというのに、夜は不気味なまでの静寂をすまし顔で浮かべていて。
だから僕は、自分がさっきしたことについて、否が応にも考えを巡らせねばならなくなっていた。
( ^ω^)「人を、殺した……」
12時間前の僕は、高校をサボって退屈しのぎを探すだけの、平々凡々な高校生でしかなかった。
テロリストに人質に取られて、魔術の存在を知って、選択を迫られて、それで、戦いに巻き込まれて。
それで。
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121 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 20:55:00 ID:caUVze8M0
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( ^ω^)「それで……」
この手はもう、一人分の血で汚れている。
それも、僕を助け出そうとしてくれた人の流した血で、真っ赤に汚れている。
今の僕を、父さんや母さんが見たらなんと言うだろうか。
クラスメートは?都村さんは?人殺しの僕を、矢張り彼らは糾弾するだろうか。
なじって、怒って、罵詈雑言を浴びせて、突き放すだろうか。
それとも慰めてくれるのだろうか。
お前が悪いんじゃない、お前は巻き込まれただけだ、緊急事態で仕方なかったんだと、僕の代わりに言い訳を並べてくれるだろうか。
どんな顔をされるにしたって、僕自身がどんな顔をして彼らに会えばいいのだろうか。
いや、そもそももう、彼らには会う事も出来ないかもしれないのだった。
( 。^ω^)「ぼ、く、は――」
じわり、涙が滲みそうになる。
ここに来るまでに流した混乱の涙と違って、それは僕の腹の底を、胸の内側を伝い落ちて水溜りを作る類の涙だ。
僕を責め、僕を憐れみ、僕を慰め、僕を糾弾する、僕の涙。
泣いて、何とかなるわけでもないのに。どうにもなりなどしないのに。
溢れそうになる涙を懸命に我慢して、僕は下唇を噛む。血が出る程に強く噛む。
まるでそれが、代償行為だとでも言うように、強く、強く。
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122 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:04:12 ID:caUVze8M0
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「――おはよう、いい夜ね」
唐突に掛けられた声に、慌てて眼元を拭う。
窓から差し込む月光が、戸口にもたれ掛ったツンの姿を照らし出していた。
ξ゚听)ξ「……けど、折角のいい夜が辛気臭い空気で台無し。
お月見でもしようかと思ったけど、やっぱやめようかしら」
当てつけのように言うツンは、両肩をすっぽりとケープで包んでいる。
ここに運び込んでから、治療術式を終えたデレちゃんが彼女に掛けたものだ。
何時、目を覚ましたのだろう。いや、何時から僕は見られていたのだろうか。
( うω^)「怪我は、もう大丈夫なの?」
ξ゚听)ξ「どこかの誰かさんが余計な事をしてくれたお蔭で、無事一命を取りとめたわ。感謝はしないけれど」
( ^ω^)「余計な事、か…確かに、そうだったかもね……」
ξ゚听)ξ「……」
尻すぼみな僕の言葉に、ツンは眉を顰める。
まだ会ってそんなに経ってないけれど、きっと彼女もこういううじうじした奴が嫌いなのだろう。
僕だって、自分が嫌いなのだから。
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124 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:10:10 ID:caUVze8M0
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ξ゚听)ξ「ホント、余計な事よ。
貴方は私が守るって言ってるのに、“チャンバー”は渡さないし、挙句自分で勝手に人を殺して、それで落ち込んでくれちゃって……」
( ^ω^)「……」
ξ )ξ「ばっかみたい。何の覚悟も無いくせに、一時の気の迷いで背負わなくていい罪なんかしょい込んで、勝手にいじけて……」
……ああ、まったくもってその通りだ。
こうなると分かっていなかった筈なんてないのに。
一時の流れに任せて、踏み外してはいけない道を踏み外して僕は――。
ξ゚听)ξ「言っとくけどね、それ、アンタ一人の責任じゃないから」
( ^ω^)「――え?」
ξ゚听)ξ「絶対に守るって言ったのは私なんだから、守れなくて貴方が手を汚しちゃった以上、それは私の監督不行き届きって事になるんだけど」
まさか、そんな言葉が出てくるなんて思ってもみなくて。
ξ゚听)ξ「勝手に一人で悲劇の主人公気取ってるみたいだけど、泣きたいのはこっちの方なわけ。
一般人は巻き込まない、ってあれだけ強く自分に言い聞かせてたのにさ、ホント、自分が嫌になるわ」
僕はただ、呆けたように口を開けているしか無くて。
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125 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:12:13 ID:caUVze8M0
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ξ゚听)ξ「だから、アンタの罪は私の罪。アンタが背負いきれない分は、私が背負う」
( ^ω^)「あ――」
ξ゚听)ξ「――だから、さっさとその辛気臭い面ひっこめなさいよ。綺麗な月が台無しじゃない」
だから僕は、ずかずかとやってきたツンが、隣に腰を下ろした時も、馬鹿みたいに泣く事しかできなかった。
( ;ω;)「あ…あ…あ……」
ξ゚听)ξ「ちょっと。言ってる傍からぐじぐじ泣いてんじゃないわよ。私はお月見がしたいって言って……」
( ;ω;)「あり…がとう…ありがとう……」
ξ゚听)ξ「……ったく」
ただ一つ、言えるなら。
ξ゚听)ξ「ほら、ハンカチ。それで顔拭ったら、とっとと寝なさい。アンタが寝るまでは、私もここでお月見することにしたわ」
この少女を守れてよかった。
その気持ちを確かめられたことだけで、きっと僕は救われていたのだ。
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126 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:15:55 ID:caUVze8M0
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〜2〜
――昼下がりの占部浦町は、勤め人が出払った後の、あの独特の静謐の中でまどろんでいる。
高級マンションや近代的な形の一戸建てがお行儀よく立ち並ぶ様子は、如何にもハイソなベットタウン然としていて、僕みたいな一介の高校生にとっては、どうにも気おくれのする街並みだ。
ξ゚听)ξ「確か、18階の……」
ζ(゚ー゚*ζ「726号室ですね」
ラ・トーレ占部浦。
全25階建て。黒光りする大理石建築の高級マンションのロビーは無人。
由緒ある洋館めいたロビーを抜けて、ツンとデレちゃんはエレベーターの前まで進む。
黒檀調のドアの横には、パスワードを入れる為のパネルが備え付けられていて、テレビでしかそんなものを見た事の無い僕は、思わず、
( ^ω^)「ほえー…ドラマみたい…」
とまあ、何とも間の抜けた声を漏らしてしまった。
( ^ω^)「ここが、昨日フォックスさんが言ってたネスト3…VIPのアジトなの?」
ξ゚听)ξ「ええ、そうよ。地下5階も含めて、このマンション丸ごとが私たちVIPの所有物。
表向きはまだ内装工事を終えてない事になっているから、私たち以外の住人は皆無ってわけ」
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127 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:16:58 ID:caUVze8M0
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( ;^ω^)「うぇえ!?地下5階まであるの!?ていうか丸ごと!?」
ξ゚听)ξ「そ。丸ごと。流石に一等地にマンション丸ごと買っちゃうと目立つから、正確には私たちの支援者のそのまた支援者の所有物、って事になるけれど」
( ^ω^)「支援者……」
ξ゚听)ξ「何事をするにもお金は掛かるもの。テロも同じ。どんな理想を掲げていても、巨視化していけば、詰まる所はマネーゲームでしかないのかもね」
自嘲気味に呟いて、ツンはエレベーターの回数表示を見る。
小さな箱の中で三人揺られながら、僕はツンの横顔をそっと窺う。
ξ゚听)ξ「……」
陶磁器のような白く滑らかな肌。
その中で、憂いを湛えて輝くマリンブルーの瞳は、何を思うのか。
結局答えてもらえなかったあの時の疑問が、脳裏でちらつく。
( ^ω^)「あの、ツンは――」
ζ(゚ー゚*ζ「着きましたね」
黒檀調のエレベータードアが開き、僕の言葉を遮る。
ホールや外観とは打って変わって、18階は落ち着いたアイボリーの大理石で整えられている。
人の気配が全くしない廊下を渡った僕たちは、ツンが言っていた726号室の前で足を止めた。
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128 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:18:46 ID:caUVze8M0
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こんこんこん、と3回。
二秒待ってから、ここんこんこんこんと4回。
応答の代わりにチェーンの外れる音がして、電子ロックの解除と共にマホガニー材のドアがゆっくり開く。
('A`)「あ、ツンちゃんデレちゃん…と、内藤くん……」
顔を覗かせたのは、確かドクオと呼ばれていた少年だ。
折れてしまいそうなほどに華奢で小柄な見た目は、14歳くらいに見える。
浅黒い肌と炭の様な黒髪は、中東系の出身という事だろうか。
閉じた左眼と、それを横断して顔の左半分を覆うファイヤパターンの紋様は、それとも南国の島国出身とかだろうか。
黒瑪瑙のような瞳には、僕たちの無事を知ってか安堵の色が浮かんでいた。
('∀`)「良かった。無事だったんだね。もうみんな集まってるよ」
ξ゚听)ξ「あら、私たちがビリっけつですって」
ζ(゚ー゚*ζ「あらあら。少しのんびりし過ぎたようですね」
('A`)「はは……」
ドクオさんに招かれて、僕たちは部屋の中に足を踏み入れる。
玄関から続く短い廊下。その先に広がる二十畳はありそうなリビング。壁一面の窓の向こうはバルコニーで、屋内プールまで完備。
高級マンションという事で豪華なものを想像してはいたが、実際のそれは僕の想像以上に絢爛たるものだった。
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129 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:20:39 ID:caUVze8M0
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ミ,,゚Д゚彡「これで全員か」
ダイニングキッチンのカウンターに行儀悪く腰掛けたフサギコさんが、林檎を丸かじりしてこちらを見る。
消し炭のような瞳は、僕の腰、制服のベルトに挟んだ“チャンバー”を認めると、すっと細められた。
ミ,,゚Д゚彡「……そうか。“引いた”んだな」
_
( ;゚∀゚)「……!」(^ω^; )
リビングの中央、ソファに腰掛けていたジョルジュさんが、ぎくりと肩を震わせる。
ミ,,゚Д゚彡「……で、どうだった。“童貞”を卒業した感想は」
_
( #゚∀゚)「フサァ!お前なぁ!」
ξ )ξ「待って、ジョルジュ」
激昂してフサギコさんに掴みかかるジョルジュさん。
彼を止めたのは、ツンの静かな、それでも凛とした声だった。
ξ゚听)ξ「彼が引金を引いてしまったのは、私が彼を守る事が出来なかったから。
そうしなければ、彼が死んでいたかもしれないからよ。だから、その責は全て私にある」
( ;^ω^)「え、いや――」
――それは違う。
異を唱えようとする僕を視線だけで黙らせて、ツンは続ける。
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130 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:22:46 ID:caUVze8M0
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ξ゚听)ξ「それで責められるなら、私こそが責められるべきだわ。今回の兼は、全て私の未熟さが招いた事。
罰があるというなら、何であれ受ける。だから――」
ミ,,゚Д゚彡「……だ、そうだが」
_
( #゚∀゚)「……っ」
苦しげな顔でツンと僕を交互に見やり、ジョルジュさんは重く長い溜息をつく。
沈痛な様子で目頭を揉む彼の口は、「やっぱりこうなってしもたか」と動いているようだった。
( ;^ω^)「あの、ジョルジュさん、聴いてください。ツンは全部自分に責任があるって言ってますけど――」
ξ#゚听)ξ「ちょっと――!」
_
( ;-∀-)「いや、ええ、分かっとる。大体どうなったかは、察しがつくわ。ああ、ああ、ホンマ、手に取るようにわかるわ」
( ;^ω^)「あう…だから、その…」
_
( ;-∀-)「まったく、どいつもこいつもこのクソガキどもは…ホンマしょーのない事ばかりしくさりよってからに……」
はぁ〜、ともう一度長い溜息をつくと、一転、ぽんと膝を叩いてこちらに向き直る。
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131 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:27:06 ID:caUVze8M0
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_
( ゚∀゚)「その様子やと、反省会はもう十分しましたって感じやな」
ξ;*゚听)ξ「は?」
_
( ゚∀゚)「ほうならもう、うちからガミガミ言う事は無い。こうなってまった以上、ブーン君にはうちらと一緒に泥被って貰うしかないんやからな」
( ^ω^)「……はい」
_
( ゚∀゚)「共犯者となったからには遠慮はせえへん。こっからは、殺すか殺されるかの世界や。
“殺されない”方法と“殺す”方法を覚えてもらう」
物騒な単語に、僕は生唾を飲み込む。
_
( ゚∀゚)「ええか、死ぬ気でついてこい。でないとじぶん、ホンマに死ぬで」
抜身の刃の様な、ジョルジュさんの双眸。
胡散臭いヤンキー中年で、気さくなおっさんで、僕みたいなガキにも親身になってくれる優しい大人で。
そんな色々な顔を持つジョルジュさんが今見せたそれは、初めての顔。
何人もの人の血を吸い、握りがボロボロになった刀の。人殺しの顔だった。
( ω )「わかり、ました――」
震えそうになる声を必死で抑えて、僕は何とかそれだけを口にする。
実際、足はもう震えていたし、歯の根も合うかどうか危うかったけれど、それでも何とか言葉にした。
言葉にして、音にして、そうして僕の中で、決別の儀式とすることで、やっと覚悟が固まったのだった。
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132 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:28:32 ID:caUVze8M0
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_
( ゚∀゚)「っちゅーわけで、ブーン君にはこれからみっちり鍛えてもらうわけやけど……」
打って変わって、ジョルジュさんは何時もの調子に戻る。
_
( ゚∀゚)「その教育係はツンちゃん、君に任せた」
ξ゚听)ξ「……私が?」
_
( ゚∀゚)「さっき、責任は自分にある言うてたな。ほんなら、ブーン君をこっちに連れてきた責任、果たしてもらおか」
ξ゚听)ξ「……ええ、その通りね。わかったわ。彼には私から魔術を教える」
_
( ゚∀゚)「うむうむ。ほいだら先ずは刻印からやな」
ξ゚听)ξ「そうね、先ずは刻印から――」
言いかけて、そこでツンの顔が真っ赤に染まる。
ξ;*゚听)ξ∂⁀σ「ってぅえぇえ!?ここ刻印!?私が!?彼に!?」
_
( ゚∀゚)「せや。ツンちゃんが、ブーン君に」
( ^ω^)「……刻印?」
確か、それがあれば誰でも魔術が扱えるとかなんとか言っていたような覚えがある。
けれど、どうしてツンはあんなに慌てているのだろうか。
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133 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:32:27 ID:caUVze8M0
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_
( ゚∀゚)「責任、とるんやろ?さっき言っとったよなあ?」
何やらしまらないにやにや笑いを浮かべるジョルジュさん。
わちゃわちゃと慌てるツンを見て、喜んでいるのだろうか。
ξ;*゚听)ξ「言った!言ったけど…ちょちょちょ、ちょっと待って!心の準備が……」
_
( ゚∀゚)「おうおう、好きなだけ準備しい。ほれ、深呼吸深呼吸」
ξ;*--)ξ「すぅー…はぁー…すぅー…はぁー…」
( ^ω^)「あの、なんでツンはあんなに慌てて…?」
ζ(゚ー゚*ζ「さあ…私にも皆目見当が……」
ξ*゚听)ξ「よ、よしっ。じんびおっけい」
( ^ω^)「お?」
ξ;*゚听)ξ「さ、さぁいくですわよ」
ハチャメチャな口調で言って、ツンは右手と右足を一緒に前に出すようなぎくしゃくした動き玄関に出る。
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134 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:34:49 ID:caUVze8M0
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( ^ω^)「あれ?ここじゃダメなの?」
ξ////)ξ「きょ、きょこはじゃダメなのだわよ!いいきゃらついてくりゅべっ!」
最後の方で舌を噛んだのか、悶えながらも部屋を出るツン。
そんなに緊張するほど難しい儀式か何かなのだろうか。
不可解に思いながらも、僕はツンの後を追って向かいの部屋の玄関潜る。
ξ;*゚听)ξ「まふはほほにふわっへ」
“先ずはここに座って”、だろうか。
726号室と似た造りの室内。白革のソファーをに座って、自分の隣をポンポンと叩くツンに従い、僕も腰を下ろす。
( ^ω^)「あの、刻印ってどういう……」
ξ;*゚听)ξ「へをほひ…あー痛い…目を閉じて下さいですなの」
( ;-ω-)「は、はぁ…」
言われるがままに目を閉じる。
一体なんだろう。これから何が始まるんだろう。そんな事を考えていると、ふわっとした香りが鼻孔を擽った。
眼を閉じている事で五感が敏感になっているから分かった。これは、桜の匂い。
多分、ツンがつけている香水だろう。
これまで色々ありすぎて全然意識する暇が無かったけれど、よくよく考えると僕はこんなに女の子と近づいた事なんて無かった。
耳をすまさなくてもツンの吐息が聴こえ、肌に触れる空気の数センチ先にツンの身体があるというこの状況。
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135 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:37:36 ID:caUVze8M0
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( ;*-ω-)「〜〜っ!」
意識した途端、心拍数が等比級数的に跳ね上がる。
やばい。なんだこれは、めっちゃドキドキする。
別段そんな、「そういう事」じゃないのだろうけれど、でも、状況的には健康な17歳の男児としては変に緊張してしまったりなんかりしないわけにもいかなくて――。
「そ、それじゃあこれから始めるます……」
耳元でささやくツンの声は、尻切れトンボになって掠れる。
始めるという言葉に、否が応にも背筋が緊張する。
( ;*-ω-)「……」
うわあ。思わず生唾を飲み込んでしまったぞ。きっと、その音だってツンに聴こえている。
どうしよう、きっと引かれる。気持ち悪い童貞野郎だと蔑まれてしまう。
ダメだ、平常心だ。平常心を心掛けろ、内藤文太郎。
何てことはない。何もやましいことなんてない。これは魔術的な儀式。魔術的な儀式なんだ。多分。
だから落ち着いて――。
( ;*^ω^)「ひょわっ!?」
ξ;////)ξ「ぴゃーっ!?」
僕の情けない悲鳴につられ、ツンもまた似たような変な音を口から出す。
悲鳴の原因は僕の左手。
そこに重ねられた、ツンの白い左手だ。
-
136 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:39:00 ID:caUVze8M0
-
ξ;////)ξ「びびびびっくらこぐでねが!このだらず!なんばしよっとね!」
( ;*^ω^)「ごごごごごめんお!ちょちょちょっと敏感なもので!」
ξ;*゚听)ξ「あーどでんした。心臓潰れるかと思ったばってん」
( ;*^ω^)「お、おう……」
各地方の方言がごちゃまぜになったハイブリッドバイリンガルな言葉を連ねるツン。
見た感じ、白人系だけど、日本について勉強する時に間違った覚え方をしてしまったのだろうか。
なんて、冷静な事を言っているけど、実際僕にも余裕はない。手を握られただけでこのありさま。初心な男子の悲しい性だ。
ξ;*゚听)ξ「……こほん。あ、改めまして。お手を拝借」
いよー、ぽんっと、一本締めを続けそうな台詞の後に、再びツンは僕の左手を握る。
白く細い指が僕を包む感触に、心臓ははち切れんばかりに高鳴る。
これ、お隣さんまで聴こえてるんじゃないかしらん。
バカみたいな事を考えて平静を保とうとすれば、ツンの握る手に力がこもって、更にドツボに嵌る。
――嗚呼、早く解放してくれ。
まるで僕の切なる願いを聞き届けたかのようにして、ツンの左手が桜色に輝いた。
( ^ω^)「あ――」
暖かい光を放つのは、紋様。
ツンの左手の甲に刻まれた、桜色の、花弁にも似た幾何学模様。
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137 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:40:54 ID:caUVze8M0
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ξ--)ξ「目を閉じて…何も考えないで…頭をからっぽにして」
言われるがままに、すっと目を閉じる。
すうっと入ってくるようなツンの声がまるでいざなうように、思考の水平へと僕を導く。
「何が見える?」
白い。白い水平線だ。
それ以外には何も見えない……。
「本当にそう?足元を見てみて」
……これは、なんだろう。
根っこか?木の根が、網の目のようにして張っている……。
「木の根っこ。貴方にはそう見えるの?」
いや、もっと言うとこれは…神経だろうか。
生物の教科書とかで見た、人の神経みたいなものが無数に…どこまでも…。
「そう。良いわよ。その調子。そのまま、それを受け入れて。それが貴方の新しい“思考の形”」
“思考の形”…?
この神経みたいなものが…?
「少し、痛むかもしれない。でもそれは、誰にでもあるもの。成長痛みたいなものだから、安心して――」
ぴしっ。鈍い痛みが、脳を駆け抜ける。
奥の方で一瞬走っただけのそれは、直ぐに這い上がってくるようにして巡り、脳髄を舐め回す灼熱のそれになった。
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138 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:42:01 ID:caUVze8M0
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痛い。痛い。痛い。熱い。熱い。熱い。
「大丈夫。大丈夫だから、目を開けちゃダメよ。抑えようとしないで、受け入れるの。自分の一部だと、馴染ませるの」
眼なんか開けてられない。
痛みでそれどころじゃない。
喉が渇く。頭が割れる。眼球がヒリヒリする。だというのにうなじは恐ろしいほどに凍えている。
痛い、熱い、寒い、気持ち悪い、苦しい、怖い、怖い、怖い。
「怖くない。何も怖いことなんて無い。変わる事を受け入れて」
でも痛いし熱いし胸がむかむかするし吐きそうだし脳みその奥がぞわぞわするしそれに自分が自分じゃないみたいで――。
「――大丈夫」
( ω )「――あ」
「大丈夫。私が、傍に居る」
その声を、聴いた。
意識は、白熱する地平の奥に飲み込まれて消えた。
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139 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:43:04 ID:caUVze8M0
-
〜3〜
――こっち、こっち、こっち。
時計の規則正しい音。
ぴちょん、ぴちょん、ぴちょん。
蛇口から水滴が滴る音。
( うω`)「む…う…ぅう……」
ゆっくりと、身を起こす。
羽毛の毛布と、ふかふかのベッド。
キングサイズのベッドの脇には、サイドテーブル。置時計の針は、3時40分に少し。
シルクのカーテンの隙間から零れる月明かりからして、今は深夜。
ここはどこだっけ、と考えかけた所で自分があの時気を失ったのだという事に思い至る。
( ^ω^)「なんか僕、ここ2、3日で気を失い過ぎじゃないかお……」
苦笑しつつ立ち上がろうとして、何やら脚の方が重たい事に気付いた。
ξ--)ξ「………」
ベッドの上、まるで覆いかぶさるようにして寝息を立てているのはツン。
傍らには水を張った水面器。彼女の手には、握りしめられたままの白いタオル。羽織ったガウンは、デレちゃん辺りが掛けたのか。
ここで、僕の看病をしていてくれたのだろう。
そのまま眠ってしまうなんて、いったい僕はどれだけの間気を失っていたのか。
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140 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:44:00 ID:caUVze8M0
-
( ^ω^)「……ありがとう」
呟いて、起こさないようにしてそっと髪を撫でる。
月明かりを反射して白金に輝くツンの髪は、繻子の様な触り心地だった。
ξ´兪)ξ「んぅ…ぴーたん…ぴーたんだけはお許し下せぇ……」
( ^ω^)「……なんじゃそりゃ」
珍妙な寝言にクスりとした所で、部屋のドアが控えめに開く。
そろりと覗いた頭は、カチューシャで前髪をアップにしたあの似非ヤンキー中年のものだった。
_
( ゚∀゚)「目ぇ、覚ましたかいな」
( ^ω^)「あの、僕はどれくらい寝てたんですか?」
_
( ゚∀゚)「んー、丸一日ってとこやな」
( ;^ω^)「ま、丸一日!?」
_
( ゚∀゚)「しーっ!声デカいねん!ツンちゃん起きてまうやろ!」
( ;^ω^)「す、すいません……」
慌てて声のボリュームを落とす僕と、そろりそろりと泥棒の様な足取りで部屋の中に入ってくるジョルジュさん。
しかし、丸一日だ。
確かツンと一緒にこの部屋に入ったのが昼の3時頃。
それが昨日の事だとして、述べ36時間もの間僕は意識を失っていたことになる。
オーロラ姫も真っ青の眠りっぷりだ。
-
141 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:44:59 ID:caUVze8M0
-
( ;^ω^)「も、もしかしてその間ずっとツンが看病しててくれたんですか?」
_
( ゚∀゚)「いやー若いってのはええねえ。おっちゃんももうちっと若かったら、ブーンくんの事つきっきりで看病してあげたんやけどなア」
( ;^ω^)「あ、いや、それは遠慮します」
_
( ゚∀゚)「しょぼぉん。フラれてもうた」
( ;^ω^)「……」
_
( ゚∀゚)「しっかしツンちゃんもウブやなぁ。手ぇ繋ぐだけやのに、わざわざ部屋まで変えよって。
おっちゃん、もしかしてお手々繋ぐ以上の事するんかと思ってびっくりしたわ」
大きな音にならないよう、しししっ、と器用に笑う不良中年。
思い出した途端、頬が急に熱っぽくなってきた。
_
( ゚∀゚)「ってぇ、まさかの図星か?」
( ;*^ω^)「なっ――」
_
( *゚∀゚)「どどどどこまで行ったん!?Aか!?Bか!?」
( ;*^ω^)「そそそそないなわけあらへんやろ!僕は――」
_
( *゚∀゚)=3「それともCかああああ!?」
-
142 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:46:09 ID:caUVze8M0
-
アキレス腱が切れた時の音は、大きなゴムが千切れ飛んだ時の音に似ている、というのを昔聞いた事がある。
ξ゚听)ξ「おはようございます、ジョルジュ“さん”」
まさに、そんな音を立てて、ジョルジュさんの上半身は仰け反り、起き上がりこぼしのようにして床に打ち付けられた。
_
(#)∀メ)「お、おぼろぼぼろぼ……」
……最も、この場合は床にへたばったまま、起き上がってくることは無さそうだったけれど。
ξ )ξ「所で内藤“くん”?」
( ;^ω^)「ひゃ、ふぁいっ!?」
妙に腰の据わった呼ばれ方をされたせいで、思わず声が裏返る。
ξ )ξ「昨日あったこと、正確には36時間と11分21秒前に私と貴方の間にあったことなんだけれど、これについて貴方はどのような見解をお持ちかしら。聞かせてくださる?」
( ;^ω^)「え、ええとその」
ξ゚听)ξ「 ど の よ う な 見 解 を お 持 ち か し ら 」
( ;^ω^)「わ、猥褻は無かった」
ξ゚听)ξ「……」
( ;^ω^)「……」
-
144 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:47:17 ID:caUVze8M0
-
ξ゚听)ξ「……宜しい」
( ;´ω`)「ほっ……」
腰に手を当てて神妙にうなずく少女を見るにつけ、「この子にだけは下手なことは言えないな」と、述懐する。
僕だってまだ、人間起き上がりこぼし(起き上がり機能オミット済み)にはなりたくないのだ。
ξ゚听)ξ「――それで、体の調子の方はどう?」
( ^ω^)「…ん。寝すぎてあちこち痛いけど、これと言って特に」
ξ゚听)ξ「…そう。それじゃあこれ、読める?」
サイドテーブルのランプを灯すと、ナイトガウンのポケットから紙片を取り出して、ツンは渡す。
メモ用紙の上を這っているのは、ミミズののたくったような字――ではない。
( ^ω^)「これ……」
字…記号…絵文字…大よそ、僕の知っているありとあらゆる言語や記号の、そのどれにも当てはまらないそれを、僕はなんと形容していいのかわからない。
図形であると言われれば図形にも見えるし、文字だと言われれば文字にも見える。
敢えて、一番近いものを上げるとするならば、それはウェブ上の文章が文字化けを起こした時のそれに似ていた。
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145 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:48:56 ID:caUVze8M0
-
ξ゚听)ξ「虚法符。近代魔術において、術式を構成する組成式を表す時に用いる、魔術師間での文字みたいなものよ」
( ^ω^)「ええと、ようは呪文を書くのに使う文字ってこと?」
ξ゚听)ξ「喩えが俗っぽいけれど、概ねその認識で間違ってないわ」
……なるほど。
( ^ω^)「でも、読むって言っても……」
ξ゚听)ξ「口に出して発音しようとはしないでね。発声器官を損ねるから。ただ、何となくでもいい、そこに書いてある事が理解できる?」
言われて、僕は再び文字化けの様な点と線の織りなす文字列へと目を落とす。
一瞬、目がちらつくような感覚の後、怪奇的な模様の群れが、瞳の奥の奥、脳みその中にぼんやりと浮き上がる様な錯覚を覚えた。
( ^ω^)「えっと、これ、鉄の玉…飛んで…飛ばす…ああ、なるほど…銃弾を作って撃つ…ってこと?」
ξ゚听)ξ「うん。正解。それは初級中の初級、弾丸術式の組成式。どうやら刻印はちゃんと定着したみたいね」
( ^ω^)「これは、どういうことなの?なんで僕は、こんな意味不明な落書きが読めるように……」
ξ゚听)ξ「だから、虚法符。貴方がそれを読んで理解できるのは、魔術刻印を開けたから」
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146 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:50:30 ID:caUVze8M0
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( ^ω^)「魔術刻印…魔術を使うために必要なものだって言ってたけど、結局それって何なの?」
僕の左手に浮かぶ、幾何学模様。
翼と盾にも見えなくもい形のそれは、薄闇の中でぼんやりと白い燐光を放っている。
ξ゚听)ξ「人間の身体には魔素という物質がある、ってのは前に話したかしら」
( ^ω^)「フォックスさんが、確かそんなことを言っていたような気がする」
ξ゚听)ξ「魔術は、自身の体内にある魔素を使って行う物理改変技術。
魔術刻印は、魔術の第一段階である所の“体内の魔素にアクセスして働きかける”為の、いわば魔術用の神経ってところね」
( ^ω^)「神経……」
意識を失う前に見た、白い水平線と網の目の光景を思い出す。
あれが、僕の身体の中を這いまわっている、という認識でいいのだろうか。
ξ゚听)ξ「それに対して術式は、それ単体では“虚”でしかない魔素に――って、今いっぺんに言ってもしょうがないわね」
小さな欠伸をかみ殺して、ツンは伸びをする。
ξ゚听)ξ「どうせ、これから嫌と言うほど教える事になるんだから。今はゆっくり休みなさい」
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147 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:53:09 ID:caUVze8M0
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( ^ω^)「と、言われましても、眠くないんだけど」
ξ゚听)ξ「知らないわよ。起きていたければ起きていれば?私は一度自分の部屋に戻って寝なおさせてもらうわ」
この部屋は好きに使っていいそうよ。
言いながらドアに手を掛け、そこでツンはこちらを振り返る。
( ^ω^)「ん?」
ξ゚听)ξ「――貴方は、絶対に死なせない。死なせないように、生き残る術を私が教える。だから、貴方も必死でついてきて」
薄明りを背にして、静かに、それでも決然とした意志を瞳に宿して、ツンは告げる。
言葉にしてそれへと答えるのに何となく違和感を覚えて、僕はそれに頷きを――しっかりとした頷きを返すことにした。
ξ゚ー゚)ξ「……うん。じゃあ、おやすみ」
( ^ω^)「うん、おやすみ」
閉じたドアをぼうっと見つめて、僕はこれからの事について思いを巡らせた。
いや、巡らそうとして止めた。
考えていたって、どうにもならない。
下手な事を考えてネガティブな気持ちにでもなるくらいなら、いっそ頭の中を真っ白にしていた方がいい。
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148 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:54:26 ID:caUVze8M0
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「――貴方は、絶対に死なせない。死なせないように、生き残る術を私が教える。だから、貴方も必死でついてきて」
そう、ツンが言ったように、今はただ――。
「あなたは――絶対に死なせない――やて」
今は、ただ……。
「生き残る術を、私が教えるやて――」
( ;^ω^)「い、ま、は、た、だ……」
_
( *゚∀゚)「ぶっはー!あかん!これはあかんでー!教えるて、何をおせーてくれるんですかー!ひゃー!ナニですか――」
げんこつ。
( ;^ω^)「あ……」
ξ#゚听)ξ「それじゃあ、改めてお休み」
_
(#)3メ)「おぼぼごぼごごごぼ」
……起き上がりこぼしは、もう二度と立ち上がれそうには無かった。
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149 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:55:50 ID:caUVze8M0
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〜4〜
――内藤。内藤文太郎。……欠席、と。えー、次、中野義男ぉ。
(゚、゚トソン「……」
教壇に立った七三分けの教師は、空っぽの席を見る事もせず、出席簿にペンを走らせる。
朝の気怠い空気が漂う教室は、何時もと変わらず。
何事も無かったかのように、今日と言う一日を始めようとしていた。
o川*゚ー゚)o「内藤君、今日もお休みだね」
後ろの席から背中を突いてくるのはキュートちゃん。
出席を取り終えた教師が退出するのを見てから、私は振り返る。
(゚、゚トソン「……どうせ、今日もサボりでしょう」
o川*゚ー゚)o「ふーん。旦那のことなのに、あんま興味ないんだ」
(゚、゚トソン「別に私はそう言うんじゃ……」
窓際の最前列。私の二個前の、主なき席を見つめる。
今日で一週間。
普段から授業をふけったり、学校そのものをサボったりすることが多いとは言え、こんなことは初めてだ。
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150 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:57:12 ID:caUVze8M0
-
o川*゚ー゚)o「でもさあ、流石に珍しいよね。我がクラスの問題児筆頭とは言え、一週間もサボったことなんて無いんじゃない?記録更新じゃん」
(゚、゚トソン「そう、ですよね。そう、思いますよね」
o川*゚ー゚)o「先生もさー、流石にこんだけ休んでるんなら、様子見に行ったりとかしないもんかねー。全然気にしてないみたいな感じでさー」
(゚、゚トソン「……」
o川*゚ー゚)o「あれって、教師からも匙投げられてるって事?
でもさ、こないだ爆破テロなんてあったのにそれはどうなのよ、っても思うんだよねー。白状って言うか」
のべつ幕無しに捲し立てるキュートちゃん。
彼女以外の生徒たちは、既に一限の授業へ向けて教科書を引っ張り出したり、シャープペンの芯の長さを調節したりしている。
言い換えれば、今、この教室の中で内藤君のことについて興味を抱いているのは、彼女だけだ。
教師でさえも、例外ではない。
職員室で、彼らがどんな話をしていたのか、私は知っている。
打っても響かないものは、関わるだけでも無駄だとでも言うように、
彼らは内藤君の事を意識の外に締め出していて、それがある種の不文律みたいになっている事を、私は知っている。
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151 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 21:58:51 ID:caUVze8M0
-
o川*゚ー゚)o「いいんちょ?」
ある意味、それは彼の自業自得なのかもしれない。
今、クラスメートが彼に関心を示さないのは、内藤君自身が彼らに興味を示さなかったことの裏返しだとも言えるし、
幾ら言っても聞かない生徒を教師たちが見放すのも、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。
キュートちゃんにしたって、パパラッチ根性の染みついた新聞部として、些細な好奇心で訊いているだけだろう。
(゚、゚トソン「……でも、仕方ないの一言で片づけていいのかな」
o川*゚ー゚)o「はえ?」
(゚、゚トソン「あ、いえ、何でもないんです。ただの、独り言」
o川*゚ー゚)o「あそ。――って言うかさ、親はなんか言わないのかな?
あたしなんて、1日ガッコさぼっただけで1週間もスマフォ没収されたんだよ。そこんとこ緩いんかな」
(゚、゚トソン「親……」
o川*゚ー゚)o「いいんちょはなんか知らないの?内藤君ちにプリント届けにとか行ってるんでしょ」
(゚、゚トソン「ええ、そうですけど……」
o川*゚ー゚)o「お父さんとかお母さんとかさ、どんな感じだった?」
(゚、゚トソン「それは……」
一瞬、言葉に詰まる。
他人の家の事情を口にするのは、少し気が引ける。
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152 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:02:10 ID:caUVze8M0
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(゚、゚トソン「内藤君、親元を離れて暮らしているんです。設楽葉町のアパートに、一人で」
o川*゚ー゚)o「へー、一人暮らしかー。いいなー、なんかそういうのって憧れるんだけど。
親からいちいち言われないだろうし、おやつも独り占め出来るしさ。あ、お菓子って言えば――」
(゚、゚トソン「……」
無邪気な顔で、キュートちゃんは言う。
けれど、本当に一人暮らしなんて良いものだろうか。
朝は誰にも起こしてもらえないし、洗濯だってコインランドリーがあるとはいえ自分でやらないといけない。
病気をしたら一人で病院に行かないといけないし、ご飯だって一人で食べないといけないし。
……それに、学校をサボったって、誰も叱ってくれないし。
o川*゚ー゚)o「だからね…って、いいんちょ聞いてる?」
(゚、゚*;トソン「ほ、ほわっ!?」
_,
o川*゚ 3゚)o「あー!やっぱり聞いてないんじゃん!」
(゚、゚;トソン「ごめんなさい。…それで、何の話です?」
o川*゚∀゚)o「あんね、今度入會宮港の50周年記念があるんだけど、その時にクイーンシベリア号の上で洋上パーティーがあるんだって!」
(゚、゚トソン「警戒宣言が解けたばっかりだというのにですか?……何というか、呑気ですね」
o川*゚ー゚)o「警戒宣言が解けたからこそだよ!ホントはあの爆破テロがあった日にやる筈だったんだけど、延期になってたんだって」
-
153 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:03:06 ID:caUVze8M0
-
(゚、゚トソン「はぁ。…それで、そのパーティーに私も付き合えと?」
o川*゚ー゚)o「えっとね、パーティーそのものはお金持ちの集まりなんだけど、ブリッジでは一般向けにバイキングなぞがありましてね……」
(゚、゚トソン「なるほど。それで、何時です?」
o川*゚ー゚)o「明後日!」
(゚、゚トソン「……あー、と、ごめんなさい、その日は塾があって……」
_,
o川*゚ 3゚)o「ぶぅー。付き合い悪いぞー」
(゚、゚トソン「その代り、今度何か奢りますから」
o川*゚ー゚)o「お、マジ?言ったな?言ったね?覚えたからね!約束だかんね!」
(゚、゚トソン「…はいはい」
今から私に何を奢らせようかと算段を巡らせるキュートちゃん。
さっきまで内藤君の事を話していた彼女も、今はケーキの事で頭がいっぱいになっている。
もしかしたら、今、内藤君の事を考えている人は、この街には居ないんじゃないだろうか。
それはなんだか、とても寂しい事に思えて。
(゚、゚トソン「……」
せめて私一人でも、彼の事を心配してあげなきゃいけないような。
そんな、気がして。
気付けば、私はケイタイを開いていた。
-
154 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:04:09 ID:caUVze8M0
-
〜5〜
――ばんっ、ばんっ、ばんっ。
ブレーカーの上がる大きな音と共に、地下駐車場の照明が奥から手前に向けて順繰りに点灯していく。
( ^ω^)「うおぉ…めっちゃ広い……」
ラ・トーレ占部浦の地下2階。
コンクリートの柱が等間隔で林立する空間に、車の影は無い。
確かに、ここなら思い切り身体を動かせるだろう。
ξ゚听)ξ「ホントは基礎理論の構築から順繰りに教えてあげたいんだけど、そんな時間も無いからね。実際に動きながら基礎は覚えてもらうわ」
( ^ω^)「おす!よろしくお願いします!」
ξ゚听)ξ「……なにそれ。――まあ、やる気があるのはいいけど……ん?」
呆れ顔を作りかけた所で、ツンの眉がピクリと上がる。
スカートのポケットをごそごそやって取り出したのは、僕のスマフォだった。
( ^ω^)「……電話?」
ξ゚听)ξ「んーん。メール。……見る?返信はしてもいいけど、するなら中身はチェックさせてもらうわよ」
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155 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:06:06 ID:caUVze8M0
-
( ^ω^)「送り主は誰になってる?」
ξ゚听)ξ「“都村さん”だって」
( ^ω^)「……」
ツンの元まで歩いて、僕はスマフォを受け取る。
メールを開けば、そこには何時もの決まり文句が並んでいた。
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「友達?」
( ^ω^)「……どうだろ」
ξ゚听)ξ「……仲、良かったの?」
( ^ω^)「……分かんない」
ξ゚听)ξ「返信、しなくていいの?」
( ^ω^)「……」
“今、何処に居ますか?ちゃんとご飯は食べていますか?明日は学校来れますか?”
少し逡巡した後、僕はスマフォの電源を落としてツンに返す。
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156 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:07:09 ID:caUVze8M0
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ξ゚听)ξ「……いいの?」
( ^ω^)「何時も、無視してるから。返信なんかしたら、逆に心配掛けちゃうかもだし」
ξ゚听)ξ「……そっか」
スマフォをスカートに戻すツンは、何故か僕よりも寂しそうな顔をしていた。
ξ゚听)ξ「もうちょっとして、貴方がVIPに慣れてきたら、スマフォも返してあげられると思う」
( ^ω^)「……うん」
ξ゚听)ξ「そしたら、その、メールくらいなら許すから……」
( ^ω^)「……うん」
ξ゚听)ξ「……だから」
珍しく、歯切れの悪いツンの言葉。
尻切れトンボのその先を探そうとして、やっぱり駄目だったような、そんな顔。
ξ゚听)ξ「……ねえ――」
( ^ω^)「さあ、早く始めよう。時間が無いんでしょ?」
ξ゚听)ξ「……そう、ね。――それじゃあ、始めましょうか」
その先を聴いたら、多分僕は動けなくなるから。
だから、今は。
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157 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:08:33 ID:caUVze8M0
-
ξ゚听)ξ「先ずは基本のおさらいから。魔術は、体内の魔素を利用して様々な物理的改変を引き起こす技術」
( ^ω^)「どのような物理改変現象を魔素に引き起こさせるか、それの設計図が組成式、だったっけ」
ξ゚听)ξ「パソコンのプラグラム言語に例えると分かりやすいかもね。脳と言うコンピューターに、組成式を打ちこみ、魔素がその通りに現実を捻じ曲げる」
( ^ω^)「この組成式が間違っていると、術式は上手く発現しない。
また、引き起こす現象に対して体内の魔素が不足していた場合も同様、だっけか」
ξ゚听)ξ「ええ、上出来よ。次は魔術の分類についてね」
言って、ツンは左手を前にかざす。
桜色の燐光が宙に描く、幾何学模様の組成式。
コンマ一秒、生み出された鉛玉が射出、コンクリの柱に小さな銃創を穿った。
ξ゚听)ξ「大きく分けて、魔術は事象魔術、錬成魔術、操接魔術の3つに分けられるわ。
それら複数のものを組み合わせた術式も沢山あるから、あくまでも大雑把な分類だけど」
( ^ω^)「因みに今の弾丸術式は、事象魔術って事でいいんだっけか」
ξ゚听)ξ「厳密には錬成術式と事象術式の折版だけど、殆どの魔術師には事象魔術として認識されてるわね」
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158 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:12:16 ID:caUVze8M0
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指をくるくる回して、ツンは続ける。
ξ゚听)ξ「ちょっと相応しくない例だったけど、ようは炎を生み出したり、雷撃を放ったり、冷気を操ったり、そう言った自然現象全般を扱った魔術の分野ね」
( ^ω^)「あの時追いかけてきた、連盟の魔術師たちが使ってたのも事象魔術だよね」
ξ゚听)ξ「そういうこと。最もオーソドックスな分野で、術式ごとに応用を効かせられるから、扱いこなせるようになれば便利よ。
無論、相応の知識と経験が必要だけれど」
( ^ω^)「ふむふむ」
ξ゚听)ξ「続いて錬成魔術。これは解り易いわね。物質を新しく造りだしたり、元からある物質の質量を増減させたりする術式の事」
( ^ω^)「錬金術、的な?」
ξ゚听)ξ「昔はそう呼ばれてたわね。さっきの弾丸術式も、元々は錬成術式によって弾丸を造りだし、それを小規模な爆裂術式とか空気圧縮術式なんかで撃ち出していたの」
( ^ω^)「でもそれじゃ手間が掛かり過ぎるから、“弾丸を生み出し、それを撃ち出す”という所までを一つの術式として、組成式を組みなおした、と」
ξ゚听)ξ「そんなわけで、現代魔術論では弾丸術式は事象魔術に分類される。
銃弾を“創り出す”事よりも、銃弾を“撃ち出す”事が目的の術式であるから」
まあ、あくまでも分類上の話だけどね、とツン。
ξ゚听)ξ「で、錬成魔術の続きね。さっきの弾丸術式が刹那的な殺傷を目的としたものであるのに対して、
錬成魔術は物質を創造・変化させ、それらを維持することに重きが置かれている」
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159 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:13:24 ID:caUVze8M0
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( ^ω^)「ツンの傷を治したデレちゃんの術式も、錬成魔術だっけか」
ξ゚听)ξ「治療術式は、錬成魔術の中でも特に“錬体魔術”と呼ばれているわね。
傷の治療、筋肉の増強、反射速度の向上などなど、体内物質を操作・創造して行うからこっちの分野ってわけ」
デレちゃんやツンがあの時見せた異常な身体能力も、ようはこの錬体魔術によるものだ。
ξ゚听)ξ「実戦魔術論において、こと錬体魔術は最も重要な分野と言っても過言じゃないわ。
どのような術式で戦うにしろ、身体能力を強化しておくことに越したことは無いもの」
( ^ω^)「何事も、体が資本ってわけだ」
ξ゚听)ξ「……で、次。操接魔術。これはちょっとややこしいわよ。
広義では、魔素を用いて他の生物・非生物と魔術刻印を繋ぐ術式、ってことになってるわね」
( ^ω^)「ツンが“アルキメデス”を動かしてたのがこれだよね」
ξ゚听)ξ「ええそうよ。ざっくばらんに言って、人形を操ったり動物を操ったり、人間を操ったり、そう言った類の術式がこれに含まれるわ」
( ;^ω^)「え、ちょ、人間も?」
ξ゚听)ξ「出来るわよ。忘却術式だって、結局は人間を“操っている”という事ではあるでしょう?」
( ;^ω^)「そ、そうだけど……」
ξ゚听)ξ「安心しなさい。魔術刻印が開いているなら、よっぽどのことが無い限り洗脳術式で操られる、なんて事は無いから」
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160 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:14:28 ID:caUVze8M0
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( ;^ω^)「ほ、ホントに?」
ξ゚听)ξ「あくまでも、対抗手段を知っていれば、だけど」
そこでツンは意地の悪い笑みを浮かべる。
ξ゚听)ξ「一応、その手の非人道的な術式は、連盟によって禁術指定されているけれど、彼らが私たちに遠慮してくれるかどうかって考えたら、覚えといて損は無いわね」
( ;^ω^)「も、勿論それも教えてくれるんだよね?」
ξ゚听)ξ「ええ、勿論よ。……と、言いたいところだけど」
( ;^ω^)「え?え?」
ξ゚听)ξ「まあ、実際に体験してみるのが一番手っ取り早いわね」
言うが否や、ツンは僕の頭を左の手で鷲掴みにすると、目を閉じる。
桜色の組成式が、今度は鎖の様な形を成してツンの左手を這い上れば、それが僕の額に触れた瞬間、強烈な吐き気が僕を襲った。
( ;゚ω゚)「な――こ――おぅ――ぇお――」
頭の中で、声がするような錯覚。はっきりとしたものではないが、それが僕に服従を命じていることだけは分かる。
気持ち悪い。止めろ。止めてくれ。うるさい、黙れ、喋るな、出て行け、ここからいなくなれ、僕の頭の中からいなくなれ。
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161 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:15:47 ID:caUVze8M0
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( ;゚ω゚)「で――ていけええええええええ!」
ばちっ。
叫ぶと同時、静電気が走ったかのような音。
見れば、僕の額に触れていた桜色の鎖は消えている。
頭の中を占めていたあの“聲”も、もう聞こえない。
( ^ω^)「あ、れ――?」
ξ゚听)ξ「これで分かったでしょ?ようは、対象に術式を拒否する意思があるなら、難しい理屈なんて必要ないのよ」
左の手をぷらぷらと振りながら、ツンはこともなげに言う。
ξ゚听)ξ「この手の術式は私の専門じゃないから、今の隷属術式はごくごく初等級なものだけれど、対処法は概ね変わらないわ。ただ――」
( ;^ω^)「た、ただ……?」
ξ゚听)ξ「意識を失っている所を狙われてしまった場合は、事情が変わってくる。
脳が眠るという事は無いのだけれど、意識して抵抗することは出来ないでしょう?」
( ;^ω^)「た、確かにそうだけど……」
ξ゚听)ξ「今、貴方は本能的に隷属術式に抵抗したと自分では思っているだろうけれど、その認識は正確ではない。
実のところは隷属術式に対抗する為の術式の組成式を、貴方自身が組み上げて発動したから抵抗できた、というのが正解」
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162 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:16:43 ID:caUVze8M0
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( ;^ω^)「いや、僕はその抵抗術式とやらを教わった覚えはないんだけど……」
ξ゚听)ξ「もともと、魔術を扱うことの出来る生物は皆、生命の本能としてこの手の術式に対する抵抗術式を遺伝子レベルで知っているの。
崩れそうな崖に近寄る者は居ないし、殴られそうになれば防御の構えを取る様な、いわば生存本能みたいなものね」
( ;^ω^)「生存本能、か。……確かに、眠っているときに刺されそうになっても、避ける事は出来ないもんね」
ξ゚听)ξ「同様に、魔術刻印を開けていなければ、組成式を組むことも出来ないから、抵抗できない。抵抗する術を持たない」
精神に干渉するだけあって非常に強力だけれど、使い所が限定されている点だけが救いだろうか。
ξ゚听)ξ「てな感じで、魔術の大まかな分類は終わり。これからは実戦に有効な術式を幾つか覚えてもらって、実戦形式の訓練といきましょう」
言って、ツンは虚法符がびっしり書かれたメモ用紙を僕に渡す。
その情報量だけでも軽い眩暈を憶えた。
ξ゚听)ξ「基本的な身体強化術式と弾丸術式、それと防御用の錬成術式幾つかと応急手当に使える治癒術式とそれと――」
( ;^ω^)「こ、これを全部覚えるの?」
ξ゚听)ξ「初歩中の初歩よ。こんな所で躓かないで。取りあえず頭に叩き込むだけでいいわ。使い方は身体で覚えてもらうから」
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163 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:17:35 ID:caUVze8M0
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まるでツンの言葉を待っていたように、彼女の背後の柱から姿を現すデレちゃん。
ζ(゚ー゚*ζ「一通り目を通しましたら、お声をおかけください。お相手は不肖ながらわたくしめが務めさせていただきます」
着ている給仕服に相応しいお辞儀の後、デレちゃんは蜂蜜のようにとろけてしまいそうなにっこり笑顔で、両手のガントレットを打ち合わせる。
( ;^ω^)「あ、あのお手柔らかにお願いします……」
ζ(゚ー゚*ζ「勿論、手心はくわえさせていただきますわ」
( ;^ω^)「……ほっ」
ζ(^ー^*ζ「治癒術式の術式弾頭は沢山用意がございます。腕の一本や二本、引きちぎれた所で、何も問題はございませんわ」
( ^ω^)「……」
天使のような悪魔の笑顔、という昔の歌の一節を、僕は思い出した。
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164 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:18:46 ID:caUVze8M0
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〜6〜
――モニターから顔を上げると、フォックスは後ろを振り返って問いかける。
爪'ー`)y‐「さて、彼はどの程度伸びると思う?」
( ・∀・)「何故それを俺に聞く。どうせすぐに死ぬ奴の事を考える程、俺は感傷的じゃない」
ラ・トーレ占部浦、25階。管理人室を埋めるモニターの一つ、地下駐車場の監視カメラに映っているのは、ブーンとデレの二人。
白黒の映像がぶれる程の速度で放たれたデレの拳を、ブーンはもつれる様な足取りで避ける。
苛立たしげに前髪をいじって、モララーは画面から目を反らした。
( ・∀・)「前にも言ったと思うが、我々には余裕が無いのだ。だというのにこの一週間は何だ。
動きらしい動きは何も無し。潜伏してほとぼりを冷ますとでも言うのなら、そのような手緩いやり方は理解しかねるな」
ミ,,゚Д゚彡「前半はさておき、後半は俺も同感だな。宣戦布告と同時に支部の幾つかを沈めたのはいいが、それっきり引きこもりとくれば何のための奇襲だったのか分からなくなる」
( ・∀・)「まさか、このガキの教育期間の為、などとは言うまいな」
モニターの中では、デレの回し蹴りを躱し損ねたブーンが盛大にコンクリ柱に打ち付けられている所だ。
慌てて駆けよったデレが、弾倉式術式手甲で賦活術式を発現させている。
鼻血を流しながらよろよろと立ち上がる少年の制服は、既にズタズタだった。
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165 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:19:35 ID:caUVze8M0
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爪'ー`)y‐「まさか。ブーン君が加入するのは完全に僕のプラン外だった。そしてこの一週間の潜伏は、元々のプラン。
彼と言うイレギュラーが加わったとはいえ、概ね僕の予定通り事は動いている」
ミ,,゚Д゚彡「なるほど。ならば俺たちにそれを伝えない事も予定に含まれているのか?」
表情を消したフサギコの、鉄(くろがね)のような視線が真っ直ぐにフォックスを貫く。
フォックスはアームチェアにかけたまま、相も変わらぬ様子で煙草を指の間で弄んでいる。
ミ,,゚Д゚彡「……つくづく食えん奴だ。あくまでも、手の内は俺たちにも晒さない手管。テロリスト共の頭を張るには確かに必要かもしれんな」
爪'ー`)y‐「まさか。買い被りだよ。今回の件を伏せていたのは、それが諜報活動に差し障る可能性があったからってだけだよ」
( ・∀・)「諜報活動、か。――ふん。そこのそいつは、そういう事か」
不愉快そうなモララーの視線の先には、安楽椅子に身をゆだねた貞子。
全身を弛緩させ、口を半開きにした少女の瞳は、虚空を映している。
爪'ー`)y‐「予定では、もうじき結果が出るはずだ。それが出たら、君たちのお待ちかねといこう」
フォックスの言葉が終わると同時、部屋のドアをノックする音。
爪'ー`)y‐「……噂をすれば何とやら。――それじゃあ、一足先に説明しようか。今回の、作戦についてをね」
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166 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:20:45 ID:caUVze8M0
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〜7〜
――貫くような痛みが全身を駆けまわる。
掴みかけた缶ジュースを危うく落としそうになって、僕は自販機の前に蹲った。
( ;>ω^)「だだだっ…!つぅー……何だ、これ……」
地下駐車場の入口付近。
ぼうっと光る自販機に背中を預けて、僕は一人全身の鈍痛に呻く。
五分ほど前に特訓を終えた後、全身の生傷はデレちゃんの治癒術式で完全に治してもらった。
だからこそ、どうして未だに身体のあちこちが痛むのかが分からない。
( ;^ω^)「まさか、デレちゃんが治せない程の大怪我を負ってたとかじゃないよね……」
それだったら洒落にならないな、なんて思いながら缶ジュースのプルタブを上げてごくごくと飲む。
乾いた体にコーラの炭酸が染みて、思わず親父臭くぷはーなんて言ったりなんかした所で、地上へ続くスロープの辺りに二人の人影を見つけた。
( ^ω^)「あれ?誰だろ」
薄暗い非常灯の中、目を凝らす。
小柄な痩躯をポンチョで覆った影は、ドクオさんだ。
彼が見上げるようにして話しているもう一人は、見たことが無い。
スーツを着た中年の男性で、これと言った特徴の無い中肉中背の外見は、何処にでもいるサラリーマンのようにも見えた。
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167 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:21:51 ID:caUVze8M0
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( ^ω^)「あの人も、VIPの構成員なのかな……」
僕が見ている間にもドクオさんたちは話を終えたようで、スーツの中年男性はそのまま通路脇のエレベーターの中へと吸い込まれていく。
残ったドクオさんは、小さくため息をついてからこちらへ向き直る。
自販機でジュースでも買おうと思ったのだろう。
僕に気付いたドクオさんは、小さく手を振りながら歩いてきた。
(;'A`)「おーい、ブーンくーん…ってうわ!どうしたのその服!」
( ^ω^)「あはは、ちょっとデレちゃん達と特訓を……」
ボロボロになったブレザーとズボンに、ドクオさんは黒真珠の様な目を見開く。
肉体の傷は治せても、服はそうもいかない。いや、恐らく直せる筈だけど、そんな事にいちいち術式を使いたくないのだろう。多分。
(;'A`)「デレちゃんと特訓って…ブーン君が?よく生きてたね…ぼくだって全力でやらないと半殺しにされるのに……」
( ;^ω^)「いやあ、流石に“全力で手を抜いて”もらってですけどね」
じゃなきゃ僕が生きてるわけがない。
('A`)「本当にお疲れ様。……にしても、制服、ボロボロだね」
( ;^ω^)「とほほですよ。着替えなんて持ってきてないし、かと言って買い物なんてしてる場合じゃなさそうだし……」
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168 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:22:45 ID:caUVze8M0
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('A`)「んー…それ以前に、良い生地使ってるし、これをもう着ないってのは勿体ないし……」
唇に指を当てて「むぅー」と唸って、ドクオさんは少し考え込む。
なんだかその様子は、彼が小柄な事もあって黒いハムスターかハリネズミのように見えた。
('A`)「……うん、やっぱり勿体ない。直そう」
( ^ω^)「あ、やっぱり魔術でぱっぱと直せたりするんですか?」
('A`)「ん?いや、出来る人は出来るんだろうけど…ほら、脱いで脱いで」
あれ?違うの?とは思いつつも、言われるがままにブレザーを脱ぐ。
僕が見ている横でドクオさんはポンチョの中から針を取り出すと、自分の髪を一本抜くや器用に針孔へ通してブレザーを繕い始めた。
( ;^ω^)「え?ドクオさんが縫うんですか?」
('A`)「そだよー。こう見えてお裁縫は得意なんだ」
こともなげに言って、ドクオさんは鼻歌交じりに裁縫針を繰る。
慣れた手つきで穴を塞いでいく様子は様になっていて、もしかしてデレちゃんが服を直さなかったのは、ドクオさんがメンバーの裁縫担当だからなんじゃないかと邪推してしまう所だ。
('A`)「ふんふふんふーん♪」
ちくちくと手を動かすその様を、僕はまじまじと観察する。
両足の間にぺたんとお尻を落とした座り方。
胸の前で一生懸命に両手を動かし針を繰る様子。
男にしては華奢ななで肩。よく見ると、艶のある黒髪。
そして、黒目がちな瞳と、幼く柔らかい顔立ち。
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169 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:24:11 ID:caUVze8M0
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( ;^ω^)「あ、あの、ドクオさんってお幾つですか」
('A`)「んー?19歳だよー」
( ;^ω^)「お、男の子、ですよね」
('A`)「うんー。どしてー?」
( ;^ω^)「あ、あははー。ですよねー」
落ち着け。落ち着け内藤文太郎。
何をドキドキしている。ドクオさんは男だ。今本人が言ったばかりじゃないか。
('A`)「ちくちくー♪ちくちくー♪」
14歳にしか見えなくても。
デレちゃんやツンを差し置いて裁縫が出来ちゃうほど女子力が高くても。
角度によってはエキゾチックな南国の少女に見えなくもないかもしれなくても。
そのドキドキは、錯覚だ。
( ;^ω^)「……男の子、ですよね」
('A`)「そだよー」
――畜生。Y染色体の馬鹿野郎。
('A`)「ん?どうしたのブーンくん?どっか痛いの?」
( うω^)「……胸が、痛いです」
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170 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:25:54 ID:caUVze8M0
-
もっと言うと、全身が。
( ^ω^)「そう言えば、デレちゃんに治癒術式を使って貰ったんですけど、まだなんか体のあちこちが痛むんですよね。なんででしょ」
('A`)「あ、もしかして特訓の時に筋力増強の術式とか使った?」
( ^ω^)「はい、それが無いとデレちゃんについていけるわけも無いんで」
('A`)「あー、それはねー、筋肉痛だねえ。まだ乳酸を散らす術式は教えてもらってないのかな?
それ無しで肉体強化術式なんか使っちゃダメだよー。僕だって肉離れ起こしちゃうもん」
ちょっと待ってね、と言って縫う手を止めると、ドクオさんは僕の胸に手を触れる。
か細い小指の端が乳首をかすめた瞬間、僕は自分の脳の快楽中枢を全力で呪った。
( ;*^ω^)「――ぅおおおぉおおおぉ……や、優しくしてくださいね……」
('A`)「大丈夫だよ。痛くなんかしないから」
何故か高鳴る胸の鼓動を必死で押さえて、ドクオさんの顔を見つめる。
幼い褐色の顔の左半分には、閉じられた左眼を横断して灰色の紋様が走っている。
そう言えば、初めて会った時もドクオさんは左目を閉じていたっけ。
取りとめもない事を考えることで、僕は胸の奥から沸き起こってくる“勘違い”を何とかいなそうと躍起になっていた。
するうち、ドクオさんの顔の紋様がぼんやりと光ると、ドクオさんに触れられている所から痛みがすぅっと引いていく。
体が楽になったのが表情に出たのか、僕の顔を見たドクオさんが「にへら」と笑った。
僕の心音が1オクターブ跳ね上がった。
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171 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:27:01 ID:caUVze8M0
-
('A`)「これで大丈夫だよね?」
( *^ω^)「は、はひ……」
('A`)「あれ?顔が赤いよ?もしかして、風邪だった?」
言うが否や、おでこを広げてドクオさんは顔を近づけてくる。
最後の何かを守り抜くため、僕は全力で身を引く。
( ;*^ω^)「いやいやいや違います!風邪なんかじゃないです!」
('A`)「そう?調子悪いなら言ってね?一応、これでも錬体術は専門分野だから」
( ;^ω^)「そ、その時はそうさせてもらいます」
小首を傾げてキョトンとするその仕草に、僕の理性がいよいよレッドアラートを叫び始めた。
これ以上は不味い。何か。何か、今すぐにでもここから立ち去る理由を考えねば。
( ・∀・)「ここに居たか、クソガキ共。ブリーフィングだ。早く来い」
( ;*^ω^)「モララーさああん!よっしゃああああ!大好きぃいいい!」
( ;・∀・)「ぬぉぁ!?なんだお前!は、離れろ!気持ち悪い!ホモかお前!」
( ;*^ω^)「ホモになりそうだったんですううう!ホモになるところだったんですよおおお!
うわああ助かりましたモララーさああん!大好きだあああ!」
( ;・∀・)「やっぱりホモじゃねえか!クソ、離せ!」
-
172 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:28:21 ID:caUVze8M0
-
_
( ゚∀゚)「おう、おめえらさっさと集まりぃや――って、なんやこれ」
('A`)「さあ…いきなりブーンくんがモララーさんに抱き付いて」
_
( ゚∀゚)「お前さん方、いつからそんなに仲良くなったんや」
( ;・∀・)「お、おいジョルジュ!見てないでこいつを引きはがせ!クソ!何処触ってやがる!」
( ;*^ω^)「ホモは嫌だ!ホモは嫌だあああ!うおおおおん!」
_
( ゚∀゚)「……」
( ;*^ω^)「僕はホモになんかなりたくないいいい!」
_
( ゚∀゚)「……いや、ホモやろ」
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173 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:29:53 ID:caUVze8M0
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〜8〜
――726号室の中は、ちりちりと焦げ付くような緊張感に包まれていた。
爪'ー`)y-「よし、これで全員だね。それじゃあ始めようか」
僕がドアを閉めたのを見て取り、壁一面の窓を背負ったフォックスさんが口火を切る。
部屋の各地に散らばったVIPの面々は、黙したままにこの銀髪のリーダーへと視線を向けた。
爪'ー`)y-「先ずは、今回の作戦の主目的について説明しよう」
言いながら、フォックスさんは背広の胸ポケットから一葉の写真を取り出す。
大窓にぺたりと貼り付けられたそれには、でっぷりと太った笑い顔の老人が写っていた。
爪'ー`)y-「彼の名前は宝剛三(たからごうぞう)。現内閣の閣僚で、内閣官房副長官を務める61歳の男性だ」
カンボーフクチョーカン。
常日頃から勉学という勉学を怠けつづけた僕にとって、それは馴染の無い響きだ。
国会中継でも点ければ聴こえてくる単語であるのに間違いはないのだけれど、如何せんそんなものを見るくらいならサスペンス劇場を見る。
無論、写真の中の顔にも覚えなんかない。
爪'ー`)y-「彼は定期的に財団統合体ヘルメスの役員と密会を重ねており、表の世界の“火消役”として魔術師連盟と深いつながりがあると思われる」
……“火消役”。詰まる所、魔術師連盟から賄賂や脅迫、その他諸々の方法によって、魔術師がらみの事件を上で揉み消したりしている人、と言うわけだ。
なるほど、そう言われると何だかこの笑ったブルドックみたいな面が、途端に悪人のそれに見えてきた。
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174 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:31:03 ID:caUVze8M0
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爪'ー`)y‐「今回の作戦は、彼の身柄を確保することを最優先に動いてもらう。殺したり殺されたりするのはNG。
連盟の腐敗を証明する生き証人だ。必ず、生きたままで確保すること」
( ´_ゝ`)「質問があるのだが、いいだろうか」
ぬぼーっとした顔の青年の名前は、確かアニジャさんだったか。
糸の様な薄い目と高い鼻が特徴的な彼は、恐らくは中華系の出身だろう。
瓜二つなオトジャさんとは双子だろうか。背格好から顔の形、髪型まで全部同じなので、着ている服でどっちかを見分けるしかない。
青いブルゾンを着ているのがアニジャさんで、緑の木こりっぽいベストを着ているのがオトジャさん。
……で、あってるよな。
爪'ー`)y‐「ん、なにかな、兄者くん」
良かった、あってた。
( ´_ゝ`)「“火消役”だったらこのおっさん以外にもいるだろうに、どうしてわざわざ官房副長官なんてガードの堅そうなところを狙うんだ?」
(´<_` )「確かにその通りだな、兄者」
( ´_ゝ`)「その通りだろう、弟者」
なんか、この人たち結構頻繁にこういうやり取りしてるけど、そういう芸風なのかな。
兄弟漫才…?
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175 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:33:02 ID:caUVze8M0
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爪'ー`)y‐「うむ、良い質問だね。確かにガードは堅いが、そのガードの堅さが今回は攻めやすさになってくるのさ」
フォックスさんが手の中の煙草をくるりと回すと、壁際で観葉植物の隣に凭れていたモララーさんが前へと進み出る。
彼が面倒くさそうにして大窓に貼ったのは、細かい注釈が幾つもついた船の見取り図だった。
爪'ー`)y‐「今回、目標は財団統合体ヘルメスの役員との会談の場所に、このクイーンシベリア号を選んだ」
クイーンシベリア号。
その名前は、真新都に住むものなら一度は聞いた事がある筈だ。
20年も前に都が推進した洋上観光促進運動の際に、その象徴として税金をあほほど無駄遣いして造り上げられた豪華客船がこの船だ。
当時は物珍しさからそれなりに盛り上がったらしいのだが、事実としてこれだけ大きな船を造って都の象徴としたところで、そう毎日乗りに来る人なんていない。
結局採算が合わなくなった為、現在は入會宮埠頭に繋がれ、船そのものを記念ミュージアムとして運営しているのが現実だ。
爪'ー`)y‐「明後日、このクイーンシベリア号の上で入會宮港の50周年記念式典が開かれる。
博物館として使われている内装も一時外され、一つの客船として近海までとはいえ実際に動かすそうだ」
( ´_ゝ`)「なるほど。海の上となれば、近づけるものも居ないだろうからな」
(´<_` )「だが、逆を返せば自分たちも逃げ場が無くなる、という事」
爪'ー`)y-「その通り。そこを僕らはつかせてもらうのさ」
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176 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:34:33 ID:caUVze8M0
-
人差し指を立てて、フォックスさんは続ける。
爪'ー`)y-「今回の作戦は、船上で実際に宝氏を確保する実働班と、陸(おか)や周辺海域上空で、哨戒および有事の陽動を行う補助班の二つに分かれて行う」
_
( ゚∀゚)「今回はて、前とそんな変わらへんやん」
爪'ー`)y‐「先ずは、補助班。これは兄者と弟者の流石兄弟」
( ´_ゝ`)「任されよ」
(´<_` )「うむ」
爪'ー`)y-「そしてツンちゃん」
ξ゚听)ξ「……」
爪'ー`)y-「以上、この三人は後で通達する持ち場で……」
ξ゚听)ξ「三人って言ったけれど、それはデレを含めないって事かしら」
爪'ー`)y-「そうだね。今回は、デレちゃんの白兵戦能力が実働班で必要になってくる。すまないね」
ξ゚听)ξ「……別に、謝られるような事じゃないけれど」
ζ(゚ー゚*ζ「ご安心ください、ツン様。決してツン様のお手を煩わせるような粗相はいたしませんので――」
ξ#*゚听)ξ「だから、そういうんじゃないって――」
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177 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:35:55 ID:caUVze8M0
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最後まで言い終わらないうち、自分がムキになっている事に気付いたツンは、あほらし、とでも言わんばかりに肩を竦める。
そう言えば、アニジャとオトジャで思い出したというわけではないけれど、結局ツンとデレちゃんはどういう関係なのだろう。
最初は双子の姉妹かとも思っていたけれど、ツン様と敬称を込めて呼ぶ様子なんかを見れば、どうにも主人と従者のような関係に思える。
実際の所はどうなのか。
爪'ー`)y-「そして、残りが実働班となるわけだが、こちらは細かく役分けさせてもらう。先ずはジョルジュ、フサギコ、モララー」
ミ,,゚Д゚彡「なんだ、今回は俺も実働班なのか」
爪'ー`)y-「君たちは船内の各所に散らばり、一般客に混じって待機。本命の確保役が動き出した所で、周囲の警護の魔術師達を引きつける役をやってもらう」
_
( ゚∀゚)「おう、良かったやないかい。お得意の囮役やで」
ミ,,゚Д゚彡「……だろうとは思ったさ」
爪'ー`)y-「これが予想される船内の警邏順路だ。確定情報ではないから当てにならないかもしれないけど、一応頭の片隅にでもとどめておいてくれ」
渡されたB5用紙を眺めて、三人は「なんだ、こんなものなのか」とでも言うような表情を一様に浮かべている。
ベテラン魔術師の余裕なのか、それとも本当に大したことないのか、僕みたいなぺーぺーには推し量ることも出来ない。
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178 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:37:46 ID:caUVze8M0
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爪'ー`)y-「さて、それじゃあいよいよ本命の確保役だ。これはドクオくんと貞子ちゃん、この二人に頼む」
('A`)「あ、僕と貞子ちゃんってことは――」
爪'ー`)y-「うん、必要事項は全て貞子ちゃんが把握しているよ。ドクオ君は貞子ちゃんが目標を確保したら、彼女と目標を連れて脱出することに専念してほしい」
(;'A`)「は、はい。わかりました」
川д川「……」
脇を締めて両手のひじを曲げる「頑張るぞー!」のポーズを取るドクオさん。超かわいい。
対する貞子さんはと言えば、フォックスさんの言葉にも、ドクオさんの「よ、よろしくね!」という健気な呼びかけにも何ら反応を返すことなく、
部屋の隅(比喩じゃなく、四隅のうちの一つに)に身体をうずめるようにして座り込んでいる。
結局、今ここに至るまでで、彼女が口を開いたところを僕はついぞ見たことが無い。
まるで海藻のお化け(失礼な言い方だけど)みたいな黒髪に隠れて、カサカサの唇だけしか見えないから、どんな人なのかもいまいち分からない。
サイズが合わなくて袖と裾があまりにあまりまくったトレーナーは、彼女の踝までを隠しているものだから、ああやって部屋の隅で体育座りなんかしていると座敷童に見えなくもない。
ない、ない、ない、で三つ続いたけれど、ついでに言わせてもらえるならば、体中のあちこちに革のベルトをぐるぐると巻きつけているそのファッションセンスも、あるか無しかで言えばない。
結局、僕が貞子さんについて知り得る情報は、なんか見た目からして病んでそうな事と、ドクオさんと組むことが多いという事くらいだった。
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179 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:38:58 ID:caUVze8M0
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爪'ー`)y-「さて、それでもってブーンくんとデレちゃんの二人は――」
( ;^ω^)「は、はひっ!」
名前を呼ばれた事で、取りとめもない思考から引きはがされる。
慌てたせいで変に声が裏返ってしまった。
爪'ー`)y‐「二人には、ドクオくんと貞子ちゃんが脱出する際に、その援護を担当してもらう。言わば足止め役って所だね」
ζ(゚ー゚*ζ「承知いたしました」
('A`)「あ、ブーンくん、デレちゃん、よろしくね」
( ;*^ω^)「こ、こちらこそよろしくお願いします」
小首を傾げてニコっとお願いされては、俄然頑張らないわけにもいかない。ホモじゃないけど。
ξ゚听)ξ「……」
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( ゚∀゚)「……?……!」
ξ゚听)ξ「……」
_
( ^∀^)「……」
ξ゚听)ξ「……」
_
(#)3メ)「……」
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181 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:41:22 ID:caUVze8M0
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爪'ー`)y-「……と言うわけで、ブリーフィングは以上だ。細かい部分はこれから配るオーダーで確認してくれ」
ぱんっと手を打ち鳴らすフォックスさん。
それを合図に、各自へとメモ帳の切れ端を手渡していくモララーさん。
僕に渡されたそれには、虚法符によってびっしりと細かい作戦プランが書きこまれていた。
( ;^ω^)「うひょー…こんだけ覚えなきゃいけないのか……」
ζ(゚ー゚*ζ「まだ学校のお勉強をしてた方がましでしたか?」
( ;^ω^)「……うーん、そうかも」
ζ(^ー^*ζ「うふふ」
ノ( *^ω^)「たはは」
ξ゚听)ξ「……」
口に手を当ててたおやかに笑うデレちゃんを見ていると、つい気が緩む。
思わず頬も一緒に緩みそうになっていると、横合いで見ていたツンが靴音も高くつかつかと歩み寄ってきた。
ξ゚听)ξ「ちょっとブーン、いいかしら」
( ;^ω^)「は、はえ?」
ξ゚听)ξ「随分と余裕があるみたいだけど、そんなので貴方本当に大丈夫?」
( ;^ω^)「あ、いや、その――」
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182 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:43:39 ID:caUVze8M0
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ξ゚听)ξ「いい?こないだみたいに巻き込まれたから仕方なく、とかじゃなく、今回は貴方にもきちんと役割があるのよ。貴方、それは自覚してる?」
( ;^ω^)「え、えと――」
ξ゚听)ξ「これは任務なの。任務である以上、“成功”と“失敗”があるわけ。
“生きる”か“死ぬか”の上に更にそれら付加要素があるわけ。“生き残った”上で“成功”もしなくちゃいけないわけ」
( ;^ω^)「あ、う……」
ζ(゚ー゚*;ζ「あ、あのツン様……」
ξ゚听)ξ「デレは黙っていて」
ζ(゚ー゚*;ζ「……失礼しました」
ξ゚听)ξ「ただでさえ、今回は私がついててあげられないっていうのに、そんな風にへらへらしてて、本当に貴方は自分の立場を自覚してるの?」
( ;^ω^)「ごめん、なさい……」
ξ゚听)ξ「さっきの訓練だって、結局デレの攻撃を躱せたのなんか最初の六発だけじゃない。
知識は教えたとはいえ、実戦も経験してない素人なんだからもっと危機感を持って――」
_
( ゚∀゚)「あーあー、まあそんくらいにしとき」
ξ゚听)ξ「あによ。ジョルジュは口を突っ込まないでくれる?ブーンの教育係を私に任せたのは貴方でしょ?今更口出しするっていうの?」
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183 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:46:40 ID:caUVze8M0
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( ゚∀゚)「おう、おう、口出しさせてもらうで。なんてかてうちは大人やからな。大人がガキに説教すんのはお仕事みたいなもんやろ」
ξ゚听)ξ「今回は私が代わりに引き受けると言ってるの。だから――」
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( ゚∀゚)「あーあーあー!まったくガキがいっちょ前に大人の真似なんかしよってからにー!」
こおのお、うおりゃーとばかりに、ジョルジュさんはツンの小金色の頭をわしゃわしゃと撫でくり回す。
何だかんだで小柄なツンは、飼い主にいじめられる子リスよろしく、ぐるぐると身体ごとシェイクされるのだった。
ξ#*゚听)ξ「ちょ、ちょっとやめっ!やめなさいって――っばっ!」
顔を真っ赤にしてジョルジュさんの手を跳ね除けると、きっとその顔を睨みつける。
ここまで良いように遊ばれてるツンは初めて見たけれど、これはこれで可愛げがあるので個人的にはそのままでいてほしい所だった。
ξ#゚听)ξ「ったく…何なのよ、調子狂う……」
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( ゚∀゚)「ええからツンちゃんは自分の準備しぃ。ブーンにゃうちからきちっと言っておくから」
ξ#゚听)ξ「――どうぞ、ご勝手に」
ふんっ、と鼻をならし、ぷいっ、とそっぽを向いて、ツンは部屋を出ていく。
既に他のメンバーも出払っていて、残された僕は、デレちゃんが見守る中でスカジャンにヘアバンドのヤンキー中年に真正面から見下ろされる形になっていた。
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184 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:48:19 ID:caUVze8M0
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( ;^ω^)「あ、あの、えと……」
やっぱり、怒られるんだろうか。
そう思っていた僕は、不意にジョルジュさんがぷっと笑い出したのを見て、思わず顔にはてなマークを浮かべた。
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( ゚∀゚)「ぷっ…あかん…やっぱおもろいわ……」
( ;^ω^)「え、あの、どういう…え…?」
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( ゚∀゚)「たったの二日でもう鬼嫁なっとるやん…あかん…まだわろたらあかん…聴こえてまう……」
ζ(゚ー゚*ζ「……?」
( ;^ω^)「……ジョルジュさん?」
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( ゚∀゚)「ああいやこっちの話やねん。…うぷっ…うくくっ……はーしんど!」
ζ(゚ー゚*;ζ「あの、お話が見えないのですが」
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( ゚∀゚)「いやー、すまんすまん!思ったより青春しとるやないか青少年!で、何の話やったかな!?」
( ;^ω^)「いや、僕たちに聞かれても……」
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( ゚∀゚)「あー、せやったせやった!ツンちゃんな、あれな、あれでもお前さんの事心配しとんねん!せやからそないなしゅん〜っとせんと!な!」
( ;^ω^)「は、はぁ……」
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185 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:54:03 ID:caUVze8M0
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( ゚∀゚)「何もお前さんが嫌いだからてあんなこと言っとるんやないで!せやろ、デレちゃん!」
ζ(゚ー゚*ζ「ええ、きっとツン様も内藤さまの身を案じているからこそ、あのような物言いになったんだと思いますわ」
( ;^ω^)「いや、流石にそれくらいは僕でもわかるって言うか……」
身近に似たような子が居たからよくわかる。
( ^ω^)「……」
ζ(゚ー゚*ζ「内藤さま…?」
( ;^ω^)「あ、いや、何でもない、よ?」
ζ(゚ー゚*ζ「……はぁ」
……都村さん、元気だろうか。
( ;^ω^)「っていうか、本当にただそれだけを言うために残ったんですか?」
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( ゚∀゚)「ん?あ、いやあーまあ、ちゃうねんけどな」
生返事で目をさ迷わせて、ジョルジュさんは鼻の頭をかく。
どう切り出したらいいか迷っているような、そんな様子だった。
……が、やがて僕の肩を掴むと、
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( ゚∀゚)「ツンちゃんはな、“成功”に拘ってたみたいやけどな、おっちゃんはお前さんが生き残る事を最優先で動かしてもらうで」
耳打ちでもってそう言った。
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186 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:54:58 ID:caUVze8M0
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( ^ω^)「えっと――」
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( ゚∀゚)「初めての任務や。あんまり色んなこと考えて、周りが見えんくなったら、それがそのまま死因になってまうかもしれん」
( ^ω^)「あ……」
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( ゚∀゚)「せやからブーン、お前は自分の目の前の事を、一つ一つこなすことに集中せえ。
他の奴らの事は、今はまだ考えんでええ。自分の出来る事を、ただ、それだけを考えとき」
その時、ジョルジュさんは僕の事を初めて「ブーン」と、「お前」と呼び捨てにした。
そうしてもって僕は、自分がこれから、「本当の意味で」VIPの一員となっていくことを、自覚することが出来た。
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( ゚∀゚)「それにな、心配せんでも隣にはデレちゃんがおるし、船の中にはうちやフサやん、モラやんもおる。お前ら年少組にヤバい相手は回さへん」
ζ(゚ー゚*ζ「ツン様に代わりまして、内藤さまは不肖わたくしめがお守りしますゆえ、何卒ご安心を」
( ^ω^)「――は、はいっ!」
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( ゚∀゚)「おぉ!ええ返事や!んん、気に入ったで!この作戦が終わったらうちが特別に稽古つけたるさかいな!」
( ;^ω^)「え」
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( ゚∀゚)「何を隠そううちは風魔の忍の技を現代に伝える――」
( ;^ω^)「あ、あの、訓練はツンとデレちゃんとで間に合っているので――」
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187 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:55:41 ID:caUVze8M0
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ζ(゚ー゚*ζ「そうですよ。まだ三次元機動どころか二次元格闘術の基礎すらままならないというのに、ジョルジュさんのお稽古では荷が重すぎます」
( ;^ω^)「うげっ、案外スパルタだった」
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( ^∀^)「だーっはっは!ええぞええぞ!もっと鬼嫁たちにビシバシしごかれとき!」
初めての任務を二日後に控えたその日。
初めて僕たちは、少しずつ歩み寄り始めたのだった。
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188 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/03(土) 22:57:17 ID:caUVze8M0
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To be continued
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