( ^ω^)プロメテウスの火を灯すようです
第一話



1 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 21:35:03 ID:C0CEqXh20

  ある日プロメテウスが人間界を見下ろしたところ、人間は無知と暗闇の中にいた。

  そこで、全能の神ゼウスの所へ行き、掛け合った。

  しかし、ゼウスは「無知というのは罪を知らないということだ。人間は、誰かが不幸だと思わせない限り、ずっと幸福なのだ」と言って、取り合ってもらえない。

  プロメテウスはそれでも、どうして人間に火の贈り物をしたらいけないのか、教えてもらいたかった。

  ゼウスは「もし人間に火を持たせたら、人間は神同様、強力な存在となろうとし、オリュンポスを荒らしにやってくるだろう」と答えた。

  しかし、プロメテウスは、この回答に満足せず、翌朝、日の出の火を少し盗んで人間に渡した。

  火を与えられて、人間は幸福になっただろうか。

  人間は洞窟から外に出た。夜道を照らす松明。調理された食物。

  赤々と燃える鍛冶場。鋤、剣、槍を作る。兜をかぶり、戦争に出かける。

  プロメテウスは人間に文明と技術をもたらした。

  人間は幸福になっただろうか。

2 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 21:36:04 ID:C0CEqXh20

〜Prologue〜

 

  ――貴方は魔法を信じるだろうか。

爪'ー`)y‐『もう一度問おう。諸君らは魔法と言う物を信じるだろうか?』

  街頭スクリーンに映し出された男の顔は、蠱惑的な微笑みを湛えてそう言った。

( ^ω^)「魔法、魔法…まほう、ねー」

  眼下のスクランブル交差点は、何時も通りの濁流。
  中には立ち止まってスクリーンを見上げている人も居たけど、殆どの人は僕みたいにスマフォをいじっていたり、電話してたり、或は鼻から進行方向しか見ていなかったりだった。

( ^ω^)「まあ、あったら面白いんだろうけど…っと」

  学校をサボって平日の昼間っからビルの屋上なんかにいると、実に様々な広告を目にすることが出来る。
  またぞろ、ハリウッドの新作予告だろうか。
  ぼんやりとそんなことを考えていると、掌の上でスマフォが踊った。

3 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 21:37:34 ID:C0CEqXh20
( ;^ω^)「のわっと――」

  危うく落としそうになりながらも、受信ボックスを開く。

( ^ω^)「……なんだ、都村さんか」

  Fromの先の名前を見れば、内容は予想がついた。

( ^ω^)「放っておいてくんないかなあ……」

  真面目、というやつなのだろうか。
  昨日、一昨日、その前の日、受信ボックスにずらりと並んだ都村さんの名前に溜息が出る。

『内藤君は、学校が嫌いなんですか?』

  何時だったか、折悪く下駄箱の前で鉢合わせた時に言われた言葉を思い出す。

( ^ω^)「別に――」

  別に、学校が嫌いな分けじゃない。

『じゃあ、その、えっと――』

  イジメとかでもない。

『じゃあどうして――』

4 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 21:39:54 ID:C0CEqXh20
  ありていに言えば――。

( ^ω^)「退屈が、嫌い」

  ぽかんとした顔の後に、重く、長い溜息が続いたのを覚えている。

  退屈。

  漠然とした、それでも深い所で僕をなんだかどんよりした気持ちにさせる、それはきっと退屈なのだった。

  一限をサボって近所の裏通りを探検したり、現国の授業中に体育館で一人バスケをしたり。
  学校に内緒でコンビニでバイトしてみたり、そのバイトをサボってマイナーラーメン屋巡りをしてみたり。
  それらは全て、僕なりの「退屈」に対する反抗なのだった。

  不真面目、なのだろうか。

( ^ω^)「別に、不真面目な分けじゃないんだよな。ただ、僕は退屈なだけで……」

  何か、心が浮き立つような事。
  例えばそう――。

( ^ω^)「魔法が現実にあったりなんかしたら――」

5 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 21:41:35 ID:C0CEqXh20
  まるで、その言葉に答えるように、街頭スクリーンが吠えた。

爪'ー`)y‐『喜べ諸君!魔法は実在する!』

  直後、繁華街の喧騒を吹き飛ばし――そう、まさに吹き飛ばし――轟音が響き渡った。

( ^ω^)「――えっ」

  向かって右側。
  街頭スクリーンの隣のビル。大手百貨店の名前がついたそれが、煙を上げている。

  看板。

  百貨店の、名前が刻まれた看板が、地面に、アスファルトを砕いて突き立っている。

爪'ー`)y‐『この言い回しもくどいだろうが、もう一度言う』

  人が、人の波が、逆巻き、どよもし、悲鳴、絶叫、紛糾、苦鳴、クラクション、怒号。

爪'ー`)y‐『魔法は、実在する』

( ;゚ω゚)「うわあああああああ!」

  まるで僕の悲鳴に合わせたかのように、隣のビルの屋上で爆炎が上がる。
  今度は三回、立て続けに。
  爆弾テロ。非現実的な響きで、とても信じたくなんかない単語。

6 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 21:43:06 ID:C0CEqXh20
爪'ー`)y‐『世界は――欺瞞に満ちている』

  誰か助けて!息子が瓦礫の下敷きになって……。救急車、救急車を……。いやそれより警察を……。
  轟音が、人々の頭上に降り注ぐ。
  窓ガラスが砕け、雨となって降りしきる。

爪'ー`)y‐『真実を知るものが全てを覆い隠し、知識持たぬ者の生き血を啜ってのうのうと大手を振って歩いている』

  混沌と化したスクランブル交差点を見下ろして、まるで彼らに語り掛けるようにしてスクリーンの男は謳う。

爪'ー`)y‐『だがそれも今日までだ!目覚めよ、眠れる人々よ!魔法は!魔術は!実在する!』

( ;゚ω゚)「なんだこれ――なんだこれ――なんだこれ――」

  手摺にしがみつき、僕は食い入るようにして街頭スクリーンを見つめていた。
  波打つ白銀の髪と、吸い込まれそうな黄色い瞳。細く、高い鼻梁。
  浮世離れした、大よそ非現実的な造形の美貌。
  その唇が紡ぐ、荒唐無稽な言葉。

爪'ー`)y‐『我らはVIP!神秘を知り、そしてそれをこの世につまびらかにする者だ!』

7 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 21:43:53 ID:C0CEqXh20

 

 

     ( ^ω^)プロメテウスの火を灯すようです

 

 
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8 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 21:44:44 ID:C0CEqXh20

 

 

第一話

「Vanguard of Intelligence People」

 

 
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10 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 21:46:28 ID:C0CEqXh20

〜1〜

  ――轟音。そして、頬を撫でる熱風。
  今度の爆発は近い。そう思った時には、既に「そいつ」は僕の隣に立っていた。

ミ,,゚Д゚彡「よう、坊主。お天道様も高いのに、こんな所でなにしてやがる」

( ;^ω^)「わっ――」

  分厚いボアのついたロングコートは黒。
  ボアに負けじと荒れ放題の癖毛頭。
  無精ひげの濃いその顔には、幾つもの傷跡。

ミ,,゚Д゚彡「サボりか?サボりはいかんな」

( ;^ω^)「え、あの――」

ミ,,゚Д゚彡「そんな不良坊主はぁ――」

  ごきり。

ミ,,゚Д゚彡「補導されても、文句は言えんな」

  それは、僕の右腕が折れる音だった。

( ;゚ω゚)「あああああああああああああ!」

11 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 21:47:48 ID:C0CEqXh20
  男が何時動いたのか、僕には分からなかった。
  右腕が灼熱するような痛みを叫んだ時には、既に男は背後に回っていて、僕の右腕を捻り上げていた。

( ;゚ω゚)「痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたいいだたいいいいあああ」

ミ,,゚Д゚彡「やかましい。男ならこれくらい我慢して見せろ」

  心底面倒くさそうな男の声。
  あまりにも場違いなその声音と、どくんどくんと脈打つような激痛。
  現実と非現実がごっちゃになってしまいそうな気持ちの悪い浮遊感。

「居たぞ!あそこだ!」

  別の声。
  朦朧とする視界の中で、僕は隣のビルの縁から跳ぶ人影を見た。

ミ,,゚Д゚彡「さあて、坊主。いっちょ気張って人質してくれよ」

  煙草臭い男の言葉が、耳に粘り付く。
  相前後、僕たちの前に三人の男女が降り立った。

(;-@∀@)「やっと追い詰めたぞ!」

ノハ#゚听)「大人しくお縄につきな!」

(;´∀`)「待て!相手は人質を取っている!」

12 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 21:49:32 ID:C0CEqXh20
  一人は眼鏡を掛けた白衣の青年。
  一人は黒いパーカーを着たバンドガール風の少女。
  一人はスーツに革靴のエリートサラリーマンめいた中年。
  統一性の無い恰好の彼らはしかし、皆一様に赤い腕章をしていた。

  腕章。
  赤地に、六芒星。
  その中心で、こちらを見つめる眼(まなこ)。

ミ,,゚Д゚彡「おうおう、流石は天下の連盟様。手が早いようで」

(;-@∀@)「貴様、一般人を巻き込んだ魔術テロなぞ、どういう神経をしている…!」

ミ,,゚Д゚彡「どうもこうもねえよ。さっきの演説を聴かなかったのか?それとも、臭すぎて聴く気にもならなかったか?」

ノハ#゚听)「御託なんてどうでもいんだよ!早くそのガキを離しやがれ!さもねえと――」

  ぶわっ。
  立ち昇る熱気に、目を疑う。
  少女の右手、その掌の中にあるものは炎。炎の塊。
  そして、彼女の手の甲で輝く幾何学的な模様――いや、紋様。

13 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 21:50:50 ID:C0CEqXh20
ミ,,゚Д゚彡「さもないと?」

  首筋に、熱。

( ;゚ω゚)「あ――え――?」

  直感で、煙草を押し当てられているのだと気付く。
  気付いた――が、しかし。
  何故、煙草……?

ミ,,゚Д゚彡「さもないとどうなるって?え?」

  ぴんっ、と。
  無精ひげ男が、三人の方へと煙草を弾いた。

(;-@∀@)「何を――」

( ;´∀`)「下がれ!」

  叫び、スーツの中年が、仲間を突き飛ばして右手を突きだす。
  瞬間、光の粒子が迸り、像を結ぶ。

  ――壁。

  何もない空間に、縦横2mほどのコンクリ製の壁が一瞬のうちに現れた。

14 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 21:53:49 ID:C0CEqXh20
ミ,,゚Д゚彡「――なんてな」

  三人を守る盾のようにして現れたコンクリ壁。
  その根元に、無精ひげが放り投げた煙草は、ぽとりと落ちる。

  コロコロと転がり、アスファルトにぶつかって止まる。

  ……止まった。

  それ以上は、何も起こらなかった。

ノハ;゚听)「――」

( ;´∀`)「――」

ミ,,゚Д゚彡「悲しむな。お前らの判断は正しいよ。魔術の実在を世界に暴露しようなんて狂ったことを言っているテロリストだ。
      何をしでかすか分かったもんじゃない」

  嘲笑うでもなく、ただ淡々と言って、無精ひげは片手で煙草を咥えると、ジッポで火を灯す。

ミ,,゚Д゚彡y−~「言うなれば、俺ぁ導火線を箱で隠した爆弾だ。導火線がどれだけ長いか見えないから、いつ爆発するかもわからない」

  その言葉に、眼鏡の青年がぎくりとした様子で転がった吸殻を見やる。
  既に火は消え、風に転がるだけのそれは、しかし、不気味なほどの存在感を持っているようだった。

15 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 21:56:05 ID:C0CEqXh20
( ;´∀`)「……早まるな。そんなことをすれば、君もただでは済まない」

ミ,,゚Д゚彡「俺が?タダで済まない?」

( ;´∀`)「そうだ。この距離で爆裂術式なぞ使ってみろ。君まで木端み――」

ミ,, Д 彡「――おい、お前。誰に口きいてやがる」

  僕の右腕を捻り上げる無精ひげの力が、更に強くなった。

ミ,, Д 彡「もっぺん言ってみろ。お前、今“この俺”に向かって言ったのか?」

( ;´∀`)「ひっ――」

  スーツの中年が、後ずさる。

ミ,, Д 彡「この俺が、てめえの爆裂術式を制御できずに?巻き込まれるって?お前、そう言ったのか?」

  じり、と空間が泡立つような感覚。

ミ,,゚Д゚彡「いいぜ。試してみようじゃないか。そうすればお前らも――」

( ;´∀`)「ま、待て!落ち着けフサギコ!」

  咄嗟にスーツの中年が口走ったその名に、二人が目を見開いた。

16 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 21:58:48 ID:C0CEqXh20
(;-@∀@)「フサギコ!?」

ノハ;゚听)「おいフサギコってあの――」

ミ,,゚Д゚彡「――あのフサギコだ」

  言葉尻を捕まえて、「フサギコ」は紫煙を吐き出す。
  しわがれ、ひび割れたその声に、少女の動揺は狼狽に変わろうとしていた。

ノハ;゚听)「そんな、フサギコって…だって、黒川作戦の…嘘だろ……」

( ;´∀`)「嘘じゃあない…彼が“スピットファイア”、フサギコその人だ」

ミ,,゚Д゚彡「おい、その呼び方はよせ。嫌味くせえ」

ノハ;゚听)「どうして…だって、だってアタシは……」

  今まで男勝りを通してきた少女の眼が、親に縋る幼子のそれに変わる。

ミ,,゚Д゚彡「どうしてもこうしてもねえ。今俺は、お前らの敵で、人質を取っていて、それはここからさっさととんずらこきたいからだ。オーライ?」

(;-@∀@)「理解…出来ない…あなたの様な英雄がどうしてこんな――」

17 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:00:15 ID:C0CEqXh20
ミ,,゚Д゚彡「理解しろなんて言ってねえ。これはテロだ。“分かってください”じゃない。“従え”ってことなんだよ」

  言いながら、フサギコは僕を拘束したままでじりじりと後退する。
  目の前で起こっていることの一割も理解できない僕は、「助けて」の言葉も口に出せず、されるがままに引きずられる。

( ;´∀`)「分かっているのか、フサギコ。魔術の存在を暴露しようというのは、連盟を…いや、世界を敵に回すことだぞ」

ミ,,゚Д゚彡y−~「世界を変えるんだ。それくらいのドンパチじゃなきゃ、嘘だろうよ」

  何でもない事のように吐き捨てて、そこでフサギコは煙草を一口呑み。

ミ,,゚Д゚彡「その為なら、俺たちは悪鬼羅刹にもなろう」

  ――飛翔。
  後方への跳躍。
  人間の脚力では考えられないようなそれの頂点で、フサギコは吸い掛けの煙草を放る。

(;-@∀@);゚听);´∀`)「――――」

  それは放物線を描いて落下し、遥か眼下、呆気にとられて屋上に立ち尽くす三人の頭上で。

  紅蓮の花吹雪となった。

18 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:01:43 ID:C0CEqXh20
( ;゚ω゚)「あっ――あっ――あっ――」

  前に、ネットで乗用車が爆発する瞬間を撮った動画を観たことがある。
  アメリカのぶっ飛んだジョーク番組のドッキリ企画か何かで、自分の車が爆発したと思っていたタレントは、種明かしをされた後ほっとしてから苦笑いを浮かべていた。

  ――良かった。僕の車じゃないのか。それにしたって君たち、僕を脅かす為にロールスロイスを爆破させるなんて、狂ってるんじゃないのか。

  僕じゃなくて良かった、なんて思えない。
  苦笑いなんて、浮かんでくるはずもない。

ミ,,゚Д゚彡「奴らが仕掛けてきたら、最悪お前さんを弾除けにせにゃいかんかった。良かったな坊主。優しい連盟さんたちに感謝だ」

  狂っている。

  ただ、ただ、狂っている。

( ;゚ω゚)「人殺し…人殺し……」

ミ,,゚Д゚彡「っと、しっかり掴まってろよ。お前さんにはまだまだ人質としての役割があんだからよ」

  跳躍の頂点を過ぎた僕たちの身体は、重力に引かれて弧を描く。
  隣のビルの給水塔に着地したフサギコは、その足で再跳躍。
  はす向かいのビルの壁を蹴り、その向かいのビルの看板を蹴り、三角跳びの要領で繁華街を離れて行く。

19 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:03:14 ID:C0CEqXh20
  通行人の驚いた顔。遠くで鳴り響くサイレンの音。
  それらをぐんぐん引き離し、街の喧騒を追きざりにした所で、フサギコの跳躍が止まった。

ミ,,゚Д゚彡「合流ポイントはここら辺だったか……」

  右腕に加えて首元まで締め付けられていてよく見渡せないが、そこは何処かの下町の路地裏だった。

  雨だれでくすんだモルタルの壁。
  錆びついたシャッターとひしゃげた郵便受け。
  あちこちに転がるビール瓶。饐えた吐しゃ物の臭い。
  うらぶれ具合から言って、丹井足町あたりだろうか。
  繁華街のある設楽葉町からと考えると、二駅ほど離れていることになる。

( ゚ω゚)「――」

  思考は、やけに冷静だった。
  いや、冷静なんじゃなくて、現実感が無かったのだ。
  ここまでの一連の出来事に、感情が追いついていけてなかった。
  人の気配の無い裏通りの静寂が、今になってオーバーフローした僕の脳みそに、否が応にも自分の置かれている状況を突き付けてくる。

( ;゚ω゚)「……僕を、殺すのかお」

  震える声でそれだけを絞り出すのが精いっぱいだった。

20 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:05:10 ID:C0CEqXh20
ミ,,゚Д゚彡「それは、向こうさんの出方次第だなぁ」

( ;゚ω゚)「あの人たちみたいに…僕も、殺すのかお……」

ミ,,゚Д゚彡「さあて。死にたくないならお祈りでもしとけ。どうか俺が、奴さんたちと出くわしませんように、ってな」

  人が、死んだ。
  魔法だか、魔術だかの爆発で、僕の目の前で人が死んだ。
  それは、多分この男の、フサギコの仕業だ。

  命が秤に乗ったやり取りに生返事で答えるこのフサギコという男に、僕は恐怖する。
  まるで人死にが出る事に対して特別な感情を抱かないこの男に、心底怖気が立った。

ミ,,゚Д゚彡「さて、そろそろ来るはずだが――」

  フサギコの言葉が呼び水であったかのように、路地の向こうから二人の人影が近づいてくる。
  刃の上に心臓を乗せられた心地で、僕はその歩みを見守る。

  ――奴らが仕掛けてきたら、最悪お前さんを弾除けにせにゃいかんかった。良かったな坊主。優しい連盟さんたちに感謝だ。

  どうか、その連盟とか言う人たちではありませんように。
  居るのかいないのか分からない神様に向かって、僕は必死になって願った。

21 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:06:32 ID:C0CEqXh20
ζ(゚ー゚*ζ「お待たせしました、フサギコ様」

ξ゚听)ξ「あいつらも結構しつこくてね。撒くのに少し手間取ったわ」

  現れたのは、瓜二つの少女だった。
  と言っても、共通しているのは顔のパーツと金髪に碧眼という点のみだ。

ζ(゚ー゚*ζ「――って、あら?」

  給仕服を着た背の高い方は、姉だろうか。
  緩く巻いて垂らしたツインテールと、柔らかい輪郭の眼元。
  立ち姿や手を頬に当てて喋るところから、おっとりとした性格が窺える。

ξ゚听)ξ「何よ、その子」

  その隣で憮然としている背の低い方は、恐らくは妹だろう。
  今時本当に居た事が驚かれる、「ドリル」のような短いツインテールと、ネコ科を思わせる釣り眼。
  不機嫌そうにこちらを睨みつける目線と、腰に当てた両手から、気性の荒さが見て取れる。

( ^ω^)「おっ――」

  全く同じ造形をしていながら、表情と佇まいだけでこんなにも人の顔という物は違って見えるのだなあ。
  場違いなことだとは分かっていながらも、僕はそんなアシンメトリーな彼女たちに見惚れていた。

22 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:07:48 ID:C0CEqXh20
ミ,,゚Д゚彡「いや、ちょいとご合席したよしみでね」

  カミソリのようなフサギコの声が、そんな僕の気持ちを現実に引き戻す。

ζ(゚ー゚*ζ「ご合席…?」

ξ゚听)ξ「ちょっと。どういうことか説明しなさ――」

  そうだ、この二人ならもしかしたら――。

( ;^ω^)「た、助けてください!この人、人殺しです!僕は人質にされて――」

  脇腹に、鈍い痛み。

( ;゚ω゚)「ガッ…!」

ミ,,゚Д゚彡「坊主。悪戯は宜しくねえな」

  拳を僕の脇腹にめり込ませて、恐ろしいまでの無表情で見下ろしてくるフサギコ。
  だが、次の瞬間そこには苦虫を噛み潰したような色が広がっていた。

ξ゚听)ξ「悪戯をしたのはどっちかしら。ねえ、フサギコ」

  何処から取り出したのか。
  フサギコの喉元にナイフを突きつけて、釣り目の少女はぴしゃりと言い放つ。
  前に怪しげな露店で見たことがある。
  アフリカ投げナイフと呼ばれるそれは、卍のような形状の刃を持っていて、今まさにフサギキの喉の皮を薄く裂いて血の筋を垂らしていた。

23 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:11:06 ID:C0CEqXh20
ξ゚听)ξ「ビルの爆破は、貴方たちが遊撃だからということで百歩譲りましょう」

  ただ、と付け加え、

ξ゚听)ξ「一般人を、こんな人質という形で巻き込むのは到底目を瞑れないわね」

  忌々しいものを見るようにして、その柳眉を逆立てた。

ミ,,゚Д゚彡「人道主義か?お優しい事だな」

ξ゚听)ξ「違うわね。人質なんて足枷と同じ。迅速かつ精密かつ慎重な作戦行動の妨げになると言っているの」

ミ,,゚Д゚彡「なるほど、そりゃごもっとも」

  肩を竦めて、フサギコは嘆息し、

ミ,,゚Д゚彡「それなら、ここで殺すか?」

  瞬間、少女の左の張り手がその頬を張り飛ばし――はしなかった。

ξ#゚听)ξ「……ふざけてると、殺すわよ」

  寸での所で握り止められた左手をぎりぎりと震わせ、少女は憎悪にも近い憤怒の形相でフサギコを睨む。
  自分へ向けられたものでないと分かっていながら、僕の足は自然と震えていた。

24 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:12:25 ID:C0CEqXh20
ζ(゚ー゚*ζ「……この場合、忘却術式で私たちの事を忘れてもらうのが最善かと思われますが」

ミ,,゚Д゚彡「ふざけてなどいない。ただ、記憶処理をしている時間が無いと言っているんだ」

  言って、フサギコは親指で天を指す。
  見れば、路地の壁と壁の間の空に、一羽の鴉が旋回している。
  気のせいかもしれないけれど、なんだか僕にはその鴉がこっちを見ているような気がした。

ミ,,゚Д゚彡「無論、ここで無駄話している暇も無いだろうな」

ξ#゚听)ξ「――ちっ」

  極めて淡々と告げるフサギコとは対照的に、釣り目の少女は軋む音が出そうな程に歯を食いしばっている。
  どういうことなのかは分からないが、僕の身柄が解放されそうにない事だけは何となく察せられた。

ξ#゚听)ξ「アジトについたら、分かっているわね」

ミ,,゚Д゚彡「ああ。好きなだけ協議してくれ」

  唾でも吐くようにして言い、釣り目の少女は僕たちの脇をすり抜けて駆けだす。
  おっとりした方もそれに続いたのを見てから、フサギコは僕へと視線を戻した。

ミ,,゚Д゚彡「そういうわけだから、お前さんは暫く昼寝でもしててくれ」

( ;゚ω゚)「えっ――」

  鳩尾にめり込む拳。
  「痛み」の二文字で脳みそが埋まる頃、僕の意識は途切れた。

25 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:14:38 ID:C0CEqXh20

  〜2〜

 

  ――額に、冷たい感覚。

「だから私は反対だったのよ!幾ら実績があろうと、彼に遊撃隊を任すべきではなかった!」

  瞼の裏がちかちかする。

「何も不味い所など無い。事実、確認出来る限りビル倒壊について一般の被害は出ていない」

  声が、聴こえる。

「今、ここにその被害者が居るじゃないの!」

「その事についてはたった今結論が出たばかりだろうが。蒸し返すなよ」

「だから――!」

( ´ω`)「う、うーん……?」

  眼を開く。
  薄ら暗い部屋。
  大きなファンがゆっくりと回る天井。
  身体の節々が、痛い。どうにも、板張りの床の上に寝ているようだ。

26 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:16:25 ID:C0CEqXh20
( ´ω`)「ここは……」

「あ、あの、目、覚ましたみたいですよ……」

  ゆっくりと、身を起こす。
  暗い部屋。
  椅子が上げられた丸テーブルが幾つか。木目調の壁際には、明かりの消えたダーツマシンが二つ。
  カラフルなボトルが並んだ酒棚と、長いバーカウンター。開店前のバー。そんな感じだ。
  _
( ゚∀゚)「ほれほれ、喧嘩はそこまでにしとき」

  1、2、3……9人の男女。
  僕を見つめる、18の瞳。

ξ-凵])ξ「子ども扱いは止めてくださるかしら」

ミ,,゚Д゚彡「……やれやれだ」

  その中に、見覚えのある顔を見つけ、僕は全てを思い出した。

( ;゚ω゚)「た、助けてください!お願いします!なんでもしますから、命だけは!殺さないで!」

  テロリスト。
  腰が抜けたままで後ずさりする僕を、彼らは何とも言えないような表情で眺めている。

27 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:19:00 ID:C0CEqXh20
ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫。私たちは貴方に危害を加えるつもりはありません。安心してください」

( ;゚ω゚)「で、でも人質って……」

ミ,,゚Д゚彡「……」

ζ(゚ー゚*ζ「その事についてなんですが……」

( ・∀・)「……」

(;'A`)「あ、あの、先ずは事情を説明してあげたほうがいいんじゃ……」

( ;^ω^)「えと、あの……?」

( ´_ゝ`)「ま、それが順当なんじゃないか?」

(´<_` )「さもありなん」

  頷き合った後には、視線の応酬。
  「で、誰が説明するの?」と言わんばかりのそれは、最終的には一点に収束された。
  _
( ゚∀゚)「……あい、あい、あい。わあったわあった。わあったから、そないに見つめんといて」

  嘘くさい関西弁。昇り龍の刺繍がドギツいスカジャン。カチューシャで上げられた前髪。
  趣味の悪いヤンキーがそのまま中年になったようなその胡散臭い男は、両手を上げて降参を示すと、僕の方へと向き直る。

28 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:20:58 ID:C0CEqXh20
  _
( ゚∀゚)「ええっと、先ずはうちらの身内が迷惑かけた事について謝らせてもらおか。すまんかったな、“ぶんたろう”くん」

 “このとーりや”と言い、ヤンキー中年は手を合わせて頭を下げる。
 ひょうきんぶってはいるが、表情は一応真面目なものだった。

( ;^ω^)「あ、あの、どうして僕の名前……」
  _
( ゚∀゚)「ああ、それも謝らなな。気を失っている間に、ちょろっとだけ荷物、改めさせてもろたわ」

  ヤンキー中年がひらひらと振っているのは、僕の生徒手帳だった。
  _
( ゚∀゚)「ないとうぶんたろう君、17歳。都立設楽葉高校、普通科」

( ;^ω^)「あ、あの“ふみたろう”です」

  よくある言い間違いだった。
  内藤文太郎、と書いてふみたろうと読む。
  学年が上がる度、その事でクラスメートにいじられたものだ。
  _
( ゚∀゚)「おお、せやったか。こらすまんな。……で、うちのことはまー、ジョルジュとでも呼んでくれや」

( ^ω^)「ジョルジュ…?」

  見た感じ、目の色や顔の造形からして彼は日本人…少なくともモンゴロイド系に見える。
  ハーフだろうか。

29 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:22:13 ID:C0CEqXh20
  _
( ゚∀゚)「おかんが“向こう”の出身でな。長岡ジョルジュや。ま、とりあえずよろしゅうな」

  にかっ、と笑ってジョルジュさんは手を差し出してくる。
  この手はなんだろうか、と少し考えてから、それが握手だと気付き、慌てて握り返した。

( ;^ω^)「こ、こちらこそ……」

  どうにも、調子が狂う。
  毒気を抜かれる、とはこういうことを言うのかもしれない。
  _
( ゚∀゚)「で、本題に入りたいんやけど、“ぶんたろう”くんは何処まで知ってるのかな?」

( ;^ω^)「あの、“ふみたろう”です」
  _
( ゚∀゚)「おお、すまんかった。――で?」

( ;^ω^)「――と、言われても……」

  実際、何も知らない。
  いや、「訳が分からない」という方が正確だろうか。

( ;^ω^)「えっと、貴方たちが魔法使いで、それで、テロリストで…連盟?とか言う人たちに追われてるってくらいで……」
  _
( ゚∀゚)「ふむ。まあ、そないな所やろな」

30 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:24:10 ID:C0CEqXh20
  自分で言ってて、改めて荒唐無稽な話だと思う。

  魔法。
  今になってしまえばもう信じるしかないが、そんなものが実在するなんて、いざ目の前にしてみなければ笑い話にもならないだろう。
  _
( ゚∀゚)「で、な。まだなあんも説明してないうちから、こないなこと言うのもなんやけど」

( ^ω^)「はい?」
  _
( ゚∀゚)「今日あったこと全部忘れて、このままお家に帰るか、それとも話を聞いてうちらの保護下に入るか、どっちがええ?」

( ^ω^)「……は?」
  _
( ゚∀゚)「ぶんたろうくんは、見たんやろ?フサやんと連盟の術師の戦いを」

( ^ω^)「……はい」
  _
( ゚∀゚)「これから話す事になるのは、そういう“殺し合い”の世界のお話や」

( ^ω^)「……」
  _
( ゚∀゚)「君はまだ学生さんや。ホンマなら、そないなモンと関わり合いになって、人生棒に振るべきやない、とおっちゃんは思う」

  そう言ったジョルジュさんの顔は、似非関西弁を話すヤンキー中年には似つかわしくない、真に迫ったものだった。
  例えるならば、何合も何合も打ち合って、それでも尚切れ味を失わない年季の入った日本刀。
そこには、確かに僕の事を親身に心配してくれている彼の誠意があった。

31 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:25:18 ID:C0CEqXh20
( ^ω^)「えっと……」

  彼の言葉は、最もだった。

ミ,,゚Д゚彡「……」

  殺し合いの世界。
  今でも、思い出すだけで足が震える。
  頬を打つ熱風。爆発で飛び散った瓦礫。
  退屈が嫌いで、退屈から逃げ出した先で目の当たりにした「非日常」。

  心底、恐ろしかった。

  僕が寝物語に夢想していた世界が、現実になればこれほどまでに恐ろしいものなのだと、思いもしていなかった。

  ――それでも。

( ^ω^)「それでも、僕は知らないふりは、出来ない…です」
  _
( ゚∀゚)「……ふぅむ?」

( ^ω^)「……その、魔法で今日の事を忘れたとしても、でも、殺し合いが行われているって現実が、変わるわけじゃないですよね」
  _
( ゚∀゚)「……せやな。せやけど、それは君とは関係ない所で起こる殺し合いや。ま、人質にされた身としては説得力がないかもしれんけども」

ミ,,゚Д゚彡「……ふん」

32 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:26:26 ID:C0CEqXh20
( ^ω^)「……また、何時今日みたいに巻き込まれるか分からない。命を…い、命を落とすかもしれない…
      その時、自分がどうして死んだのか、本当の理由を知らないなんて嫌だなって」
  _
( ゚∀゚)「はっはっは!信用されとらへんなあ。――しかし、記憶が無いってのは“本当の理由”があったことを知る由もない、ってことやで」

( ;^ω^)「だからって!今、未来にまた巻き込まれる可能性がある事を無視なんて出来ません!」
  _
( ゚∀゚)「……せやな。茶化してすまんかったわ」

  ジョルジュさんはそこで目を落とすと、誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。
  _
( ‐∀‐)「……ったく、こないなガキまで小賢しい事抜かしよる。ホンマ、大人は何をやっとるんやろな」

  その時の自嘲とも慚愧とも言える彼の表情。
  それは直ぐに消えてしまったけれど、何だかとても印象的だった。
  _
( ゚∀゚)「あいわかった。君の言う事も最もや。ほな、君が巻き込まれたのが、どないなもんかっちゅう所、説明しよか。身の振りようを決めるのはその後でもええやろ」

  ポンと膝を打ち、ジョルジュさんは手近なテーブルから椅子を下ろすと、背もたれに顎を乗せるようにして腰掛ける。

33 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:27:13 ID:C0CEqXh20
  _
( ゚∀゚)「先ずは、魔術についてやな。ぶんたろうくんも、見たんやろ」

( ^ω^)「はい。いきなり、何もない所にコンクリの壁が出来たり、手から炎が出たり……」
  _
( ゚∀゚)「うむ。君が見た通り、世間様が言う所の“魔法”は実在する」

ξ゚听)ξ「正確には魔術、だけどね」
 
  横合いから、金髪ドリルの少女が言を挟む。
  _
( ゚∀゚)「訂正おおきに。あくまでもうちらのは体系化された技術であるから、魔“術”と呼ぶのが正しいとかなんとか…まあ、そこら辺は今はおいとこか」

( ^ω^)「……はぁ」
  _
( ゚∀゚)「この魔術は、君が知らんかったように魔術を使う者…魔術師によって、秘匿されてきた。これがどうしてかっちゅうと――」

ξ‐凵])ξ「15世紀にヨーロッパで魔女狩りが盛んになってきたこと。それが、おおもとであり、本来の理由ね」
  _
( ゚∀゚)「そうそう…ってなんや、ツンちゃん、ホントは説明したかったんか?」

  にやにやと笑うジョルジュを無視し、金髪ドリルもといツンは言葉を続ける。

ξ゚听)ξ「15世紀以前までは、魔術は秘匿された存在ではなかった。これは魔生種も同じね」

34 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:29:19 ID:C0CEqXh20
( ^ω^)「ましょうしゅ?」

ξ゚听)ξ「ユニコーンや吸血鬼、妖怪、まあ、その辺。公儀では魔術を扱うことの出来る、人類以外の生物の総称よ」

( ;^ω^)「え!吸血鬼とかも実在するの!?」

ξ;゚听)ξ「え、ええ。これも、15世紀の魔女狩り以降…正確には、魔術師連盟の発足以降は、魔術師たちによって秘匿されることとなったわ」

  僕の反応に、若干引き気味な様子でツン。
  こほん、と咳払いをして仕切りなおす。

ξ゚听)ξ「世界的な宗教である所の、聖母教会は知ってるわよね」

( ^ω^)「うん。…アーメンとかラーメンとか」
  _
( ゚∀゚)「ザーメンとかな」

  ――げんこつ。

ξ゚听)ξ「彼らは、魔術師達や魔生種、およそ魔術的な存在の全てを“神の教えに背く異端”として狩る為に、戦闘組織を持つに至った」
  _
(#)∀゚)「密葬教会やな」

( ^ω^)「……」

  大きく腫れたジョルジュさんのほっぺは、とてもヒリヒリしてそうだった。

35 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:31:27 ID:C0CEqXh20
ξ゚听)ξ「魔術師連盟は、そんな密葬教会の異端狩りから身を守る為に、当時の魔術師達が集まって出来上がった相互扶助組織なの」

( ^ω^)「えーと、つまり、魔術を秘匿するのは、その密葬教会って所に狩られない為ってこと?」

ξ゚听)ξ「当時はね」

( ^ω^)「今は違うの?」

ξ゚听)ξ「ええ。……っていうか、ため口」

( ;^ω^)「……あ」

ξ‐凵])ξ「まぁ、いいけど。私も同い年だし」

( ;^ω^)「ご、ごめんなさい」

ξ゚听)ξ「……で、続きね。当初は狩られない為に隠れる必要があったけど、今は違う」
  _
( ゚∀゚)「地下に隠れ潜みながらも、魔術師たちは自分らの勢力をじわじわと拡大していっとった、ちゅーわけやな」

ξ゚听)ξ「そう。密葬教会も、魔術師だけでなく魔生種まで敵としていたから、どうしたって手が足りなくなる。
      18世紀に差し掛かる頃には、魔術師連盟は世界規模になるまでに肥大化していた」

36 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:32:37 ID:C0CEqXh20
( ;^ω^)「せ、世界規模……」

  確かに、先の爆発から連盟の魔術師が出てくるまでの時間を考えると、それも頷ける。
  僕が知らないだけで、この街にも魔術師は存在したのだ。

ξ゚听)ξ「こうなってくると、密葬教会も下手に手を出せなくなってきた。
      全面戦争なんてことになれば、双方ともに相当の被害が出るからね」
  _
( ゚∀゚)「せやから、不可侵条約を結んだっちゅーわけや。魔術の存在は世間に隠す。その代り、お互いに無用な流血は避けましょーってな」

  ――あれ?

( ^ω^)「……でも、それって本質的には発足の時と同じ理由じゃ…?」

ξ゚听)ξ「ええ、その通り。実際の所、連盟が魔術の存在を隠したい理由は、他にある」

  そこで一旦言葉を切ると、ツンはその流麗な眉を顰めた。

ξ゚听)ξ「――さて、魔術師以外に魔術の存在を隠すとなった時、欲しくなってくるのは何かしら」

( ^ω^)「え?」

  思っても居なかった問い掛けに、僕はしばし逡巡する。

37 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:35:54 ID:C0CEqXh20
( ;^ω^)「えーと、漫画とかだと大抵こういうのは政府が魔術の事を知っていて、国家ぐるみで隠蔽しているってのがよくあるけど……」

ξ゚听)ξ「……そう。今回みたいに街中で魔術を使った爆発テロがあった場合、真っ先に動くのは警察…そして、それを統括する所の政府」

( ;^ω^)「やっぱり、魔術師連盟は政府とぐるで、国家は魔術の事を知っていて――」

ξ゚听)ξ「確かに、貴方の言っている事は部分的にだけど当たっているわ。政府と連盟が組んで、魔術を隠蔽している」

  ――違うのは。

ξ゚听)ξ「違うのは、政府が魔術の存在を知らないという事」

( ;^ω^)「え…?」

  それは。
  それは一体、どういう――。

ξ゚听)ξ「世界財団統合体“ヘルメス”。表向き、魔術師連盟が名乗っている名前よ」

( ^ω^)「えーと……」
  _
( ゚∀゚)「まあ、高校生には馴染の無い言葉やろな。世界中の財団…ようは大金持ちが集まって、運営している世界規模の組織や」

38 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:37:13 ID:C0CEqXh20
ξ゚听)ξ「ジョルジュの説明は乱暴だけれど、概ねそういう認識で問題ないわ。
      重要なのは、彼らが世界規模の組織であるという事と、物凄くお金持ちだという事」

  ここまで言えば、何となく察しがつくでしょ?
  目を伏せ、ツンはそう呟く。

( ;^ω^)「それは、つまり、その、政府のお役人にお金を握らせて――」

ξ‐凵])ξ「それだけなら、まだ良かったんだけどね。彼らは、一番やってはいけないことをしてしまった」

( ;^ω^)「それって――」

  ここまでくれば、僕にもツンの次は予想がついていた。
  そして、やっぱり僕の予測は間違っていなかった。

ξ゚听)ξ「魔術を用いた、内政干渉よ」

  ……彼らは、自らの素性を隠して各国の上層部に接触し、こう言う。

  自分たちのやることに対して、口を挟むな。
  こっちはありとあらゆる手段で、お前たちを破滅させる術を持っている。
  その代り、君たちが沈黙を守ってくれるなら、こちらも君たちに幾分か力を貸そう。

39 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:38:20 ID:C0CEqXh20
ξ‐凵])ξ「紛争介入、内乱の誘発、敵対国の要人暗殺、具体例を挙げていけばキリがないけれど。
        概ね、各国の政府にとって彼らの存在は、世界規模のマフィアみたいなものかしら」

  違うのは、その得体の知れなさと強大さで、完全なアンタッチャブルと化している所。

ξ゚听)ξ「政治家たちも、薄々“魔法みたいなものが実在する”という事には感づいているんじゃないかしら。
       それでも、そこに敢えて触れようとはしない」

( ;^ω^)「それよりも、その力を利用しようとした、と……」

  生唾を、飲み下す。
  陰謀論じみた話だ。だが、実際に僕はこの歳になるまで魔術の存在を知らずに生きてきた。
  事実、なのだろう。到底、信じたくはないけれど。

ξ )ξ「世界は、貴方が思っているよりも陳腐な筋書きで動いている。だけれど、陳腐故に邪悪だわ」

  邪悪。
  その単語を口にしたときのツンの表情を、僕は多分忘れない。
  僕と同い年の少女が、これほどまでに憎悪に歪んだ顔をする事が出来るのか。

40 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:40:14 ID:C0CEqXh20
「故に、その邪悪を我らが正さねばならないのだ」

  声は、バーの奥から。
  見れば、カウンター脇には地下へと続く階段が口を開けている。
  こつん、こつん、こつん、と靴音を響かせて、彼はそこから姿を現した。

爪'ー`)y‐「――文明の転換期において、人類は常に新たな技術を得てきた」

  波打つ白銀の髪に、吸い込まれそうな黄色い瞳。細く高い鼻梁。
  浮世離れした、大よそ非現実的な美貌。
  街頭スクリーンに映っていたあの時の男が、そこには居た。

爪'ー`)y‐「治水技術の獲得により起こった文明は、灌漑技術を手にした事で農耕が発達、国と言う概念を作り上げた」

  銀髪の男は、火の点いていない細巻き煙草を指の間で弄びながら歩いてくると、僕たちの前まで来て足を止める。

爪'ー`)y‐「今、人類は新たな歴史の転換点に立とうとしている。かつて人間が火を手にした事で猿から進化したように……。
      人類は、魔術を手に入れる事で次の段階へ進まなければならない!」

( ;^ω^)「……」

爪'ー`)y‐「なればこそ、その魔術を秘匿し、あまつさえ自らの我欲の為だけに用いる今の連盟に正義は無し。ただ、これを討つのみ」

41 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:43:10 ID:C0CEqXh20
爪'ー`)y‐「我らはVIP。知恵もつ者達の先鋒に立ち、新たな時代を切り開く尖兵なれば!」

  高らかに謳い上げると、そこで銀髪の男は煙草に火を点けて咥える。

爪'ー`)y‐~「……」

( ;^ω^)「……」

爪;'Д`)y‐~「――ッゲホッ!エホッ!ゲッ!ゥエ!うぇー!無理!無理無理!やっぱダメだよこれ、僕には無理!」
  _
( ゚∀゚)「だから言ったやないですか…フォックスはんみたいなモヤシには合わないって」

爪;'Д`)y‐~「だってこうしないと貫禄がさぁ……」

( ^ω^)「……」

  ジョルジュさんに背中をさすられ、盛大にむせる銀髪の男を前に、僕はどういう顔をしていいものかと思案する。
  彼が着ているグレーのスーツも、よく見れば襟から値札が覗いていた。ゼロの数は、彼の名誉の為に敢えてここには記さないことにする。

爪;'ー`)y‐「と、とにかくだ。僕たちは魔術の世界的な普及の為に戦っている。そこの所は分かってくれたかな、ええと……」
  _
( ゚∀゚)「ぶんたろう」

爪'ー`)y‐「ぶんたろう…ぶんた…ぶん…ブーンくん」

( ;^ω^)「……はぁ」

  名前の事は、何だかもうどうでも良い。
  むしろ、何もかもがどうでも良いような気さえしてきた。

42 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:44:58 ID:C0CEqXh20
爪'ー`)y‐「ならば、それを知った君はどうする?」

( ^ω^)「あ――」

爪'ー`)y‐「戦いを望まないというなら、君の記憶を消して日常へ送り返してあげられる。だが、君が忘却を望まないのなら――その時は、僕たちと来てもらう」

( ^ω^)「貴方たちと……」

  テロリストと、行動を共にする。

爪'ー`)y‐「魔術の存在を知った以上、連盟や密葬教会は君を放っておかない。仮にこのまま君を帰したとして、どちらかが必ず君に接触してくる」

( ^ω^)「――魔術の秘匿の為、ですか」

  フォックスさんは、無言でうなずく。

爪'ー`)y‐「接触して来たのが連盟だったらまだいい。命まで取りはすまい。だが、密葬教会はそうじゃない」

  “場合によっては、記憶を消すよりも本人を消した方が手っ取り早いと彼らは考える。そもそも、魔術と、それに関わるあらゆるものの存在自体を、彼らは赦していないのだから”。

爪'ー`)y‐「何より僕らはテロリストだ。このまま君を帰して、将来連盟側に回られたりするような可能性は残せない。
      だからと言って君を殺すなんてのは、それは連盟や教会とやっていることは変わらない」

43 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:46:02 ID:C0CEqXh20
爪'ー`)y‐「あくまでも、我々VIPは君の意思を尊重しよう。その上で、先に言った通り諸々の事情も考慮しての二者択一だ。全てを忘れるか、それとも我々と共に来るか」

  どうするか。
  選択は、二つに一つ。
  記憶を消されて、仮初の平穏の下へと帰るのか。
  この事実を知った上で、彼らと共に血塗られた道の上を歩むのか。

( ^ω^)「あの、一つ教えてください」

爪'ー`)y‐「ん?なんだい?」

( ^ω^)「魔法…魔術の普及って言ってましたけど、それは誰にでも扱えるものなんですか?」

爪'ー`)y‐「無論だよ。人間の…いや、全ての生き物の体の中には魔術を扱うための“魔素”が流れている。刻印を貰い使い方さえ覚えれば、魔術は誰にでも扱える技術だ」

( ^ω^)「……!」

  魔術は誰にでも扱える。
  その言葉は、まるで一筋の光明のようにして僕の頭の中に降ってきた。

  魔術。空想の産物だとばかり思っていた力。夢見るだけでしかなかった超常の力。
  それが、僕にも扱える。

( ^ω^)「貴方たちについていけば、僕にも魔術の使い方を教えてくれますか…?」

爪'ー`)y‐「――ふむ」

  僕の問い掛けに、思案気な顔をするフォックスさん。

「寝言は寝て言えよ、ガキ」

  割り込む声は、唐突だった。

44 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:47:44 ID:C0CEqXh20
( ・∀・)「もう決まったことだから、敢えて口を挟むまいと思っていたが、もう付き合いきれん。
      何が本人の意思を尊重するだ、馬鹿馬鹿しい。さっさと放り出すなり拘束するなりしてしまえ」

声を上げたのは、壁際でダーツマシンにもたれ掛っていた青年だ。
Pコートを羽織ったコーカソイドらしき彼は、苛立ちを隠すことも無く僕を睨みつけている。
  _
( ゚∀゚)「おい、モララー……」

( ・∀・)「魔術を教えてくれるかだと?阿呆目が。貴様のようなガキにかかずりあっている暇など、俺たちには無いんだよ」

( ;^ω^)「あ…ぅ……」

爪'ー`)y‐「しかしだね、モララー君。我々の大前提は“魔術の世界的普及”なわけで……」

( ・∀・)「今はプラン全体に置いて最も重要である初動の時期だ。ここでの判断が我々の明暗を分けると言っても過言ではない」

  忌々しいものでも見るような、モララーという男の眼。
  青い瞳を満たしているのは、他者を見下す事に慣れた人間特有のそれだ。

( ・∀・)「我々の敵は連盟だけじゃない。世界を敵に回して戦っているのだ。ガキのお守りをしながらなど――」

ミ,,゚Д゚彡「モララー。決めるのはお前じゃない。黙っていろ」

( ‐∀‐)「ちっ……」

45 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:49:12 ID:C0CEqXh20
  捨て台詞の代わりに舌打ちを残し、モララーはそれきり黙り込む。
  それよりも、フサギコが僕の意思を尊重するかのような物言いをしたのが意外だった。

ミ,,゚Д゚彡「――で、どうする。坊主」

( ;^ω^)「あ――」

ミ,,゚Д゚彡「お前さんを拉致してきたような俺が言うのもなんだがな、坊主。決めるのはお前さんだ。
      話し合いの結果、あくまでもお前さんの意思を尊重しようと、そう決まった」

ξ゚听)ξ「……ふん。よく言うわ。どうせ最初から引き込むつもりで人質に取ったくせに」

( ;^ω^)「え?それって……」

ミ,,゚Д゚彡「さて、何のことだかな。それより、ちゃっちゃと決めるんだ。モララーじゃないが、俺たちはあまり暇じゃない」

  無精髭だらけの顔を近づけ、フサギコは僕を覗き込む。
  灰の中で燃える炭のような眼光が、僕をまっすぐに貫く。

( ^ω^)「僕は――」

  僕はどうする。
  僕はどうしたい。
  魔術の力には興味がある。世界の真実をこの目にしたいという気持ちは勿論ある。

  それでも。
  それでもだ。
  その先に待つのは、殺し合い。殺すか殺されるか。そんな世界だ。
  そんな世界に飛び込む覚悟が、僕にはあるだろうか――。

46 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:50:16 ID:C0CEqXh20
  _
( ゚∀゚)「なぁ、ブーン君。悩むくらいなら、やめといた方がええ」

( ^ω^)「ジョルジュ、さん……」
  _
( ゚∀゚)「うちらと来るっちゅうことは、お天道様の下を歩けなくなるっちゅう事や。もう友達や、君のおかんやおとんとも会えんくなるんやで」

ξ゚听)ξ「……」

  その言葉に、ツンが目を伏せる。
  _
( ゚∀゚)「今日いきなし魔術の存在を知った君に、そこまでして戦う理由があるかいな?
     うちがこないな事言うのもなんやけど、さっき言った連盟の悪事やらなんやらかて、うちらの作り話かもしれんねやで?」

( ;^ω^)「……え?」

( #・∀・)「おい、ジョルジュ貴様、何を――」
  _
( ゚∀゚)「ブーン君。悪いことは言わん。止めとき」

  会ってまだ数十分しか経っていないが、その時のジョルジュさんは今日で一番真剣な目をしていた。
  心の底から僕を気遣い、心配する、それは僕が未だ出会ったことの無い真摯な大人の表情だった。

47 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:53:32 ID:C0CEqXh20
ミ,,゚Д゚彡「……」

( ;^ω^)「僕は……」

  僕は、やっぱり――。

( ´_ゝ`)「あー、その悩んでる所悪いけど、もうぐだぐだしてられそうも無いぞー」

  ――僕の言葉を飲み込んだのは、間延びした声だった。

( ´_ゝ`)「“うちの子達”が言ってる。赤腕章共が、ここに近づきつつあるぞ」

  赤腕章。先の事を思い出す。つまり、魔術師連盟。
  彼らがこの場所を突き止めた。

  瞬間、バーの空気が変わった。

爪'ー`)y‐「――数は」

( ´_ゝ`)「んー、ちょい待ち…見えてる限り、正面に4、右のビルの屋上に3、左の路地に2…」

爪'ー`)y-「気付かれていると見て間違いないだろうね。…裏口ががら空きなのは罠と見るべきか……」

  眠たげな顔の男の報告に、フォックスさんは刹那の思考をめぐらせる。

48 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:54:19 ID:C0CEqXh20
爪'ー`)y-「気付かれた以上、ここは放棄する。フサと流石兄弟の遊撃隊は囮となり正面と左右の敵を引きつけてくれ」

( ´_ゝ`)「「了解ー」」(´<_` )

爪'ー`)y-「残りは裏口から脱出。モララーとジョルジュには先頭を務めてもらう。待ち伏せがあるようなら君たちが突破口を開け」
  _
( ゚∀゚)「……合点」

( ・∀・)「ちっ。もうここが突き止められるとはな。誰のヘマだ」

爪'ー`)y-「ドクオ君は貞子ちゃんと一緒に二番手だ。彼女の護衛は頼んだよ」

(;'A`)「は、はい!頑張ります」

川д川「……」

  次々と指示を飛ばしていくフォックスさん。
  その顔は先までの間の抜けた彼とはまるで違う、氷で出来た刃物のようだった。

爪'ー`)y-「その次はツンちゃんデレちゃん。二人はブーン君の護衛を最優先に動いてほしい」

ξ゚听)ξ「……了解」

( ;^ω^)「あ、う、えと――」

49 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:56:05 ID:C0CEqXh20
ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫ですよ。貴方は私とツン様が必ずお守りします。ですから、ご安心を」

( ;^ω^)「あ、その…え、えと……」

爪'ー`)y‐「しんがりは僕が務めさせてもらう。無事追っ手を振り切れたら、各自散開の後潜伏。
      合流地点はネスト3だ。三日後の午前零時までに合流できなかった者は死んだものとして扱う」

( ´_ゝ`)「だ、そうだ弟者よ」

(´<_` )「死ぬのは嫌だな、兄者よ」

爪'ー`)y‐「ブーン君の兼は一旦保留だ。合流後に考える」

( ・∀・)「生きていれば、な」

( ´_ゝ`)「暗に死んでくれていれば楽だと言っているな、弟者よ」

(´<_` )「おお怖い怖い」

( ;^ω^)「ぅあ…ぇ……」

爪'ー`)y‐「まだまだ始まったばかりの戦だ。各自、生き残ることを考えるように。以上」

  戸惑う僕を他所に、VIPの面々は脱出の準備へと取り掛かる。
  これから戦いが起こる。
  当たり前の顔をしてバーの方々へと散っていく皆の背中に、途方もない遠さを感じる。

50 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 22:58:16 ID:C0CEqXh20
ミ,,゚Д゚彡「おい、坊主」

  バーの入口、ドアの前に立ったフサギコさんが振り返り、僕へと棒のようなものを放って寄越す。
  ソフトボール大の透明な水晶玉に、伸縮式の柄がついたそれは、漫画やアニメなんかで見る魔法のステッキのように見えた。

( ^ω^)「これは……」

ミ,,゚Д゚彡「弾倉式術式杖…“チャンバー”。お前さんみたいな刻印の無い素人でも引金を引くだけで魔術が使える代物だ」
  _
( #゚∀゚)「おいフサ!お前何を渡して――」

ミ,,゚Д゚彡「護身用だ。連盟の連中がこいつを攻撃しないとは限らん。最も――」

  “奴らに向かって引金を引いたら、もう後戻りは出来ないと思え”。

( ;^ω^)「あ…っ……――」

( ´_ゝ`)「おやおや、旦那は随分とあの少年に入れ込んでいるようで」

(´<_` )「明日は雨だな」

ミ,,゚Д゚彡「そうだな。お前らの血の雨が降るやもしれん」

( ´_ゝ`)「「おお、怖い怖い」」(´<_` )

51 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 23:00:03 ID:C0CEqXh20
  軽口を叩きあいながら、フサさん達は玄関ドアを潜っていく。
  その背中を見届けてから、手の中へと目を落とした。

( ;^ω^)「引金を、引く――」

  水晶玉の下には、拳銃のそれに似たリボルバー式の弾倉と引金。
  引金を引けば、僕でも魔術が使える。

  僕でも、人が殺せる。

( ;^ω^)「あ…あ…あぁ……」

  狼狽える僕を嘲笑うように、遠くで爆音が響く。

爪'ー`)y‐「……始まったね。総員撤収開始!何としても生き延びろ!」

「「「「「  了  解  !  」」」」」

  それは、戦いの始まった音だった。

52 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 23:02:30 ID:C0CEqXh20

  〜3〜

 

  ――電車の中は、閑散としている。
  何時もは吊革さえ余っていない都営設楽葉線は、僕らを含めても両手の指で足りる程の人数が座るばかりだ。
  普段は清涼飲料水や学習塾のCMを流している車内モニターは、臨時ニュースで真新都全域において対テロ警戒宣言が出された事を繰り返している。

「テロリストたちの目的は依然はっきりとしておらず、警察はカルト宗教の過激派によるものと見て――」

「都民の皆様は、くれぐれも無用な外出は控え――」

ξ゚听)ξ「カルト宗教の過激派、か。……確かに間違ってないかもね」

  面白くもなさそうに呟いて、膝の上の縫いぐるみを撫でるツン。
  継ぎはぎだらけで、あちこち布の色が違うちぐはぐなそれは、デフォルメされた小悪魔だろうか。
  何と言葉を返したものか分からず、僕は黙ってその小悪魔の縫いぐるみを見ているしかなかった。

ξ゚听)ξ「……」

ζ(゚ー゚*ζ「……」

( ;^ω^)「……」

53 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 23:04:53 ID:C0CEqXh20
ξ゚听)ξ「入會宮町で降りたら、適当なビジネスホテルを探すわ」

( ;^ω^)「……」

ξ゚听)ξ「そうじゃなかったら漫画喫茶でも良い。取りあえず、腰を落ち着けられるなら、どこでも」

( ;^ω^)「……」

ξ゚听)ξ「……聞いてる?」

( ;^ω^)「あ、僕に言ってたの?」

ξ゚听)ξ「当たり前でしょ。他に誰が居るっての」

( ;^ω^)「え、いや……」

  憮然とした顔のツンに、僕は左隣に座るもう一人の少女を目だけで見る。

ζ(-、-*ζ「……」

  きちんと揃えた膝の上に両手を乗せたデレは、眠るように目を閉じたままさっきから微動だにしない。
  まさかとは思うが、この非常事態に眠っているわけではあるまい。
  瞑想か何かだろうか。魔術師の世界は分からない。
  ついでに言えば、どうして彼女が給仕服を着ているのかも分からない。
  魔術師の世界は分からない。

54 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 23:06:20 ID:C0CEqXh20
( ^ω^)「……そう言えば、ジョルジュさん達は大丈夫かな」

  フォックスさんの睨んでいた通り、裏口を抜け出た僕たちを待っていたのは、連盟の魔術師5人による猛攻だった。
  熱線や雷撃、炎の雨の中を潜り、僕たちはジョルジュさんとモララーさんの開けた包囲の隙間を縫って脱出に成功。
  皆が皆、バラバラになって逃げた中、僕たちは丹井足町の飲み屋街を駆け抜け、今こうして電車に乗っている。

ξ゚听)ξ「それは貴方が心配することじゃないわ」

( ;^ω^)「うっ……」

ξ゚听)ξ「でも、そうね……少なくとも、赤腕章如きに手こずる様な奴は、私たちの中には居ない。
      最低でも、全員藍腕章程度の実力は持っていると思うわ」

( ^ω^)「えーと、腕章の色でランク付けされてるってことかお?」

ξ゚听)ξ「そう。下から黒、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、白。
      単純に戦闘能力だけを指針にしたわけじゃないから、正確ではないけれど」

  “魔術は、元々殺し合いの道具じゃないから”。
  小さく呟くように付け加えると、ツンは縫い包みをぎゅっと抱きしめた。

55 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 23:08:15 ID:C0CEqXh20
( ^ω^)「……」

ξ゚听)ξ「それよりも、貴方は自分の事を心配した方がいいと思うけど」

  言われて、僕ははっとなる。
  連盟の襲撃でうやむやになっていたが、僕の立場は未だ宙ぶらりんのままだった。

ξ゚听)ξ「……貴方がどうしたいのかは知らないけど、私も貴方はこっちの世界に来ない方がいいと思う」

  前を向いたまま、ツンは滔々と言葉を次ぐ。

ξ゚听)ξ「どんな理想を掲げていようと、私たちがしているのは殺し合いよ。
      今さっき魔術の存在を知った貴方が、半端な理由で加わっていいものじゃない」

( ^ω^)「……」

ξ゚听)ξ「貴方は、私が守る。連盟の奴らが貴方に手を出そうとしても、私が絶対に守る」

  だから、その“チャンバー”の引き金だけは引かないで。

ξ゚听)ξ「……落ち着ける場所についたら、忘却術式を使いましょう。それで、そのまま貴方は家族の下に帰るの」

  ね?それでいいでしょう?
  そう言って、その時初めて彼女は僕に笑顔を向けた。
  ここまで、一振りの鋼のような張り詰めた佇まいを保っていた彼女の笑顔は、僕が想像出来ないほどに幼く、儚い形をしていて。

56 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 23:10:32 ID:C0CEqXh20
( ^ω^)「……」

  彼女は、どうして戦っているのだろう。
  僕と同じ歳の女の子が、ここまでしなければ理由は何なのだろう。
  そんなことばかりが頭を過って、はっきりとした返事を返す事が出来なかった。

ξ゚听)ξ「……」

  煮え切らない僕の態度に、彼女は何を思ったのだろうか。
  僅かに眉を顰め、窓の外へと視線を向けると、それきりツンが口を開く事は無かった。

57 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 23:12:37 ID:C0CEqXh20

  〜4〜

 

  ――そのうち、僕たちを乗せた電車は入會宮駅に停車した。

ξ゚听)ξ「……いくわよ」

  こちらを見もせずにツンが言うのにしたがって、僕たちは言葉少なに駅を出る。

  警戒宣言下の入會宮駅前は、電車内以上に人の影が少ない。

  設楽葉町での最初の爆発から3時間程が経ったのだろうか。
  夕暮れが迫る海沿いの町は、既に帰宅者たちの誘導も終わり、手持無沙汰に指示灯を弄ぶ警官たちが立っているばかりだ。

ξ゚ぺ)ξ「しまったわ。まさか、こんなに早く警戒態勢を敷かれるとは思ってなかった。これじゃホテルが開いてるかも怪しいわね」

  ツンの言葉の通り、ロータリーから見渡すだけでも明りの点いている店舗は見当たらない。
  開いているホテルを探し当てるよりも先に、警察に補導される方が早そうだ。

( ;^ω^)「ど、どうするの…?」

ξ゚ ‐゚)ξ「ちょっと待って。今考える」

ζ(゚ー゚*ζ「このままここで立ち尽くしているのも目立ちます。歩きながらにいたしましょう」

ξ゚听)ξ「それもそうね」

58 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 23:16:44 ID:C0CEqXh20
  警官の姿が少ない方を選びつつ、通りの裏へ裏へと僕たちは歩を進める。
  磯の香りが仄かに漂う入會宮町は、真新都の港湾部に位置する。
  目立たない道を選ぶうち、僕たちは海沿いの方へと進路を取っていた。

ξ゚听)ξ「確か、ここからだと倉庫街が近いわね」

  地図もスマフォも見ずに、ツンは言う。
  さっき見た看板からすると、現在地は入會宮町29番地だったろうか。
  商社ビルが林立する交差点の縁で、僕たちはベンチに座っていた。

( ^ω^)「ツンは、ここら辺の出身なの?」

ξ゚听)ξ「……いいえ。どうして?」

( ^ω^)「いや、地図も見ないでよく道が分かるなって……」

ξ゚听)ξ「別に。作戦領域となる可能性の有る地域の地理は、全部頭に叩き込んでるから」

( ;^ω^)「あ、そう……」

ξ゚听)ξ「…?」

ζ(゚ー゚*ζ「どうしました、ブーンさん。どこか、傷むのですか?」

( ;^ω^)「い、いや、何でもないです…なんでも……」

  僕なんて都営線の行き先さえうろ覚えなのに。
  改めて、自分と彼女たちの住む世界が違う事を認識させられた。

59 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 23:18:49 ID:C0CEqXh20
ξ゚听)ξ「取りあえず、倉庫街へ向かいましょ。あそこなら私たちが抑えてある倉庫があるわ」

( ^ω^)「……準備がいいんだね」

ξ゚听)ξ「当たり前でしょ。世界を敵に回すんですもの。下準備は幾らしてもしたりないくらいだわ」

  世界を敵に回す、か。

( ^ω^)「ねえ、訊いても良い?」

ξ゚听)ξ「何かしら」

( ^ω^)「どうして、二人は戦うの?」

  電車の中から気になっていた疑問を口にする。
  瞬間、今まで表情の無かったツンの顔に、明確な怒りが浮かんだ。

ξ#゚听)ξ「――それを聞いて、貴方はどうするというの?」

( ;^ω^)「え、あ、いや、聞いちゃいけない事だったならごめ――」

ξ#゚听)ξ「そうじゃない。私が言っているのは、それを聞いて貴方はどうするつもりかって事」

( ;^ω^)「え、あ――」

  声を荒げる事も無く、ただ、僕を真っ直ぐに睨みつけて、ツンは詰問する。
  それを聞いて、僕はどうするつもりだったのだろう。
  彼女たちが戦う理由を聞いて、僕は……。

60 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 23:20:25 ID:C0CEqXh20
ξ#゚听)ξ「……決めた。“チャンバー”、渡しなさい」

( ;^ω^)「え?」

ξ#゚听)ξ「そんなもの、貴方には必要ないわ。私は貴方が守る。だから渡しなさい」

( ;^ω^)「で、でも……」

  幼さの残る顔を憤怒に歪ませ、詰め寄ってくるツン。
  自分でも、どうしてそうしたのかわからない。
  気付けば僕は、伸ばされたツンの手から逃れるよう、後退していた。

ξ#゚听)ξ「……怒るわよ」

ζ(゚ー゚*ζ「ツン様!」

  デレの鋭い声に、ツンは即座に飛び退く。
  瞬間、寸前までツンが立っていた場所に鋼鉄の槍が突き立った。

( ;^ω^)「あ――あ――」

ξ#゚听)ξ「ちっ…!見つかった!……デレ!」

ζ(゚ー゚*ζ「はっ!」

  号令一下、忠実な猟犬のように駆け出すデレ。
  エプロンドレスの裾を靡かせる疾走の先には、道路を横断する歩道橋。
  見れば、手摺から身を乗り出した人影が、“チャンバー”の先をこちらへ向けていた。

61 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 23:23:32 ID:C0CEqXh20
ξ#゚听)ξ「逃げるわよ!」

( ;^ω^)「で、でもデレちゃんは――」

ξ#゚听)ξ「あの子なら一人で大丈夫だから!早く!」

  言いながら、ツンは僕の手を引く。
  降り注ぐ鋼の雨を難なく避けながら、デレは歩道橋へと近づいていく。
  僕が心配するような余地など、微塵も無かった。

( ;^ω^)「ま、待って――」

  17歳の女の子とは思えない力で、僕を引っ張って走るツン。
  握力も握力なら、足の方も並ではない。
  魔術の力なのだろう。足がもつれ、手首はすっぽ抜けそうになりながら、彼女に引きずられるようにして僕は必死に足を回転させた。

ξ゚听)ξ「追手が一人とは考えられない。最低でも2人…3人は居る筈。絶対に私の傍を離れないで」

  言いながら、ツンは小脇に抱えていたあの不格好な縫い包みを放り投げる。
  重力に引かれて落下する筈のそれは、予想に反してふわりと浮くと、僕たちの横を追走するようにして飛び始めた。

62 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 23:26:09 ID:C0CEqXh20
ξ゚听)ξ「取りあえず倉庫街までの最短ルートをクリアリングしないと――っ!」

  商社ビルの角を曲がったところで、唐突なブレーキ。
  慣性を無視したその動きに、勢い余って僕は転び掛ける。
  その身を、ツンが後ろに向かって突き飛ばしてくれたものだから、僕は今度こそ尻餅をついた。

( ;>ω^)「あだっ!」

ξ゚听)ξ「――下がってて」

  前を見た時、尻の痛みも吹き飛んだ。
  距離にして、僅かに20メートル弱。
  通る車も無い道路の真ん中を歩いてくる、一人の男。
  スーツにネクタイのビジネスマンが握るのは、一振りの日本刀。
  そして、腕に巻かれた緑色の腕章。

(‘_L’)「……アトランテ2よりアトランテ1へ。対象を発見した。これより状況をかい――」

  イヤホンマイクでの連絡を終える前に、男が右腕をふるう。
  金属と金属のぶつかる音。
  日本刀と鍔迫り合いをするのは、小悪魔の縫いぐるみ…ちんちくりんの両手から伸びた、3×3、合計6本のナイフだ。

(‘_L’)「パペッティア…ふむ。これは、比較的やり易そうだ」

  無表情に言って、男は縫い包みを押し返す。
  体重負けした小悪魔が、アスファルトに這う。

63 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 23:27:55 ID:C0CEqXh20
ξ゚听)ξ「さて、それはどうかし――らっ!」

  男が体軸を整える前に、ツンは既に動いていた。
  翳した彼女の左手。そこに刻まれた、幾何学模様を描く刺青が、桜色のほのかな光を放つ。

  ――直後、路上の縫いぐるみが膨らんだ。

(‘_L’)「むっ――!?」

  否、膨らんだというのでは生易しい。
  それは爆発的に……そう、まるで爆発でもするかのような速度で肥大化すると、一瞬のうちに5mにも迫る巨大な小悪魔へと――いや、文字通り悪魔へと変貌を遂げた。

( ;^ω^)「な――あぁ!?」

  二階建ての一軒家程もある悪魔が、巨大な釦の眼で男を見下ろす。
  一対の丸太のような腕。羽ばたくたびに街路樹をざわつかせる翼。
  縫い合わせられた口を開いて咆哮する姿は、まるで怪獣だ。

ξ゚听)ξ「叩き潰しなさい、アルキメデス!」

  主の命に従い、継接ぎだらけの悪魔「アルキメデス」は、足元の日本刀男目掛けてキルトの拳を振り下ろす。

(;‘_L’)「ちぃいっ――!」

  咄嗟に後ろへと飛び退く男だったが、「アルキメデス」のリーチは尋常なものではない。
  避けきれないと判断するや、彼は日本刀を頭上目掛けて振りぬいた。

(;‘_L’)「南無三!」

  男の握る日本刀が、青白い光を発する。
  同時、鋼の刃とキルトの拳が激突し――。

64 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 23:30:47 ID:C0CEqXh20
( ^ω^)「――え」

  あっさりと。
  あまりにもあっさりと、「アルキメデス」の拳は切り裂かれた。

( ;^ω^)「ええええ!?」

  確かに。
  確かに布だったら日本刀で斬れるのが当たり前なのだろうけれど。
  当たり前なのだろうけれど……。

(‘_L’)「……む?なんだ、他愛ない。強化術式の一つでも使っていると思ったが……」

  切り裂いた当人も、手応えの無さに違和感を覚えているようだった。
  が、それも一瞬の事。
  「アルキメデス」の傷口から溢れて降り注ぐ綿の雨の中を駆け抜け、縫い包みの左足にとり付き。

(‘_L’)「裁断してくれるぞ、お化け人形!」

  気合い一閃。
  返す刃でもう一太刀。
  ×の字に切り付けられた脛から、溢れ出る綿、綿、綿。
  バランスを崩した「アルキメデス」の巨体が、左前方へとかしぎ始める。

(‘_L’)「世界を敵に回してまで戦おうというからどれほどのものかと思えば――」

( ;^ω^)「そ、そんな――!」

65 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 23:32:09 ID:C0CEqXh20
ξ )ξ「――何か、勘違いしているんじゃないの?大きいだけじゃ、ただの的じゃない」

( ^ω^)「……え?」

ξ゚听)ξ「戦いは――数よ!」

  ひらり、舞い踊ったツンの両手。
  放たれたのは、先にフサギコの喉に突き付けたアフリカ投げナイフ。
  片手3本、両手で6本が更に3回。
  乱れるように飛ぶ刃は、次々と「アルキメデス」の巨体を引き裂き、キルトの体躯をバラバラにしていく。
  血飛沫の代わりに噴き出すのは、綿、綿、綿……いや、違う。

( ;^ω^)「これは……!」

  飛び散り、舞い散る綿。
  その一つ一つが、桜色の光と共に姿を変えていく。
  それは小さな小さな「アルキメデス」。
  元の大きさ程の、大量の「アルキメデス」。

(;‘_L’)「なっ……!分裂…いや、元からこれが狙いか!」

ξ#゚听)ξ「“圧し潰せ”!アルキメデス!」

  巨大な母体から零れ落ちた無数の「アルキメデス」たちが、手に手に刃を握り男へと殺到する。
  四方八方、頭上からも迫るキルトの軍勢。

  それはまさに、縫い包みによる「圧殺」だ。

66 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 23:36:08 ID:C0CEqXh20
(;‘_L’)「おおおおおぉおおぉぉお!」

  雄たけびを上げた男の身体が、青白い光に包まれる。
  瞬間、「アルキメデス」の集中豪雨の只中から男の姿が消えた。

( ;^ω^)「――何処へ!?」

  慌てて視線をさ迷わせる。
  「アルキメデス」の軍団から50m程も向こう、歩道の街燈の下。
  全身を切り裂かれ、ボロボロになった背広を脱ぎ捨てる男の姿がそこにあった。

ξ゚听)ξ「神経の電磁加速…なるほどね。雷撃系の事象術師ってわけ」

(;‘_L’)「はぁ…はぁ…」

ξ゚听)ξ「でも、その様子じゃ上手く扱えてないわね。元々後衛なのに、日本刀なんて持ち出して錬体術師の真似事?」

(;‘_L’)「ぐ……」

ξ゚听)ξ「――舐められたものね」

  「アルキメデス」の軍団が、ツンの前方で凹の形に陣を組む。

ξ#゚听)ξ「生兵法で私の軍勢を破ろうなど、思い上がりも甚だしいと心得なさい!」

  大喝一声。
  100にも迫るキルトの小悪魔たちが、雪崩のようにして男へと突撃する。
  120のナイフ。35の槍。45の斧。各々が手にした凶器を振りかざし、ただ一人の敵へ目掛け。

67 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 23:41:01 ID:C0CEqXh20
「戦いは数、ね」

  ――目掛け。

ノハ#゚听)「まったくもってその通りだぜ!」

  ごうっ。
  炎の砲弾が「アルキメデス」達の中央に着弾、キルトの小悪魔たちを飲み込んだ。

( ;゚ω゚)「なっ――!」

ξ#゚听)ξ「伏兵…いや、援軍!」

  炸裂した火炎に弄られて、「アルキメデス」達は呆気ない程あっさりと焼け崩れていく。

ノパ听)「…やれやれ、耐火術式でも張られてたらどうしようかと思ったが。流石にこれだけの数にいちいち術式を仕込んではいられなかったようで助かったぜ」

(;‘_L’)「た、助かったヒート!」

  火炎弾を放った主は、パーカーのフード越しに頭をかくと、街燈の上からひらりと降り立つ。
  真っ赤に染めた髪と、バンドガールらしきその格好は、ヒートと呼ばれた彼女が、先に設楽葉町で僕たちの前に現れた赤腕章の魔術師に間違いない。
  あの爆発の中でも、彼女は生きていたのだ。
  それは、喜ぶべき事なのだろう。普通ならば。

69 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 23:47:44 ID:C0CEqXh20
ノハ‐听)>「…ったく、フィレンクトさんはデスクワークが領分でしょうが。
      前線には向いていないんだから、大人しくオフィスで私がこれから壊す備品の勘定でもしててくれよな」

(;‘_L’)「しかし、私も緑腕章の端くれとしてだな――」

┓ノパ听)┏「あーあー、上司へのごますりと判子押ししか能の無いお役人がなんか言ってるが聴こえねー。
       アタシの中で燃えるロックの魂がうるさくて何も聴こえねー……って」

  漫談めいたやり取りをしていたヒートは、そこで僕の存在に気付いたようだった。

ノハ;゚听)「おい、お前!昼のガキだろ!大丈夫か!?怪我とかしてねえか!?」

( ;^ω^)「あ――」

(;‘_L’)「何、どういうことだ?」

ノハ#゚听)σ「だー!俺らの報告聴いてねえのかよ!VIPに人質に取られたパンピーのガキが居るって言っただろうが!
      あいつがそのガキだ!」

(;‘_L’)「な、本当なのか少年!」

( ;^ω^)「あ、ぅ――ぇ――」

70 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 23:49:59 ID:C0CEqXh20
  僕は、逡巡する。
  僕は、人質なのかと自問自答する。
  答えを求めて、ツンの顔をふり仰ぐ。

ξ )ξ「……」

  彼女は、答えない。
  ただ、無言で立ち尽くし、拳を握りしめるだけ。
  彼女の周囲に、寄り添うように、残り少なくなった「アルキメデス」達が集まってくる。

ノハ#゚听)「安心しろ!今助けてやるからな!だからそこから動くなよ!」

  “貴方は、私が守る。連盟の奴らが貴方に手を出そうとしても、私が絶対に守る”。

  二人とも、同じだ。
  戦いを知らない僕の為に。
  力を持たない僕を守る為に。
  命を懸けて、戦火の前に立ちふさがっている。

( ^ω^)「ぼ――」

  僕は、なんだ。
  何なんだ、僕は。
  自分の向かう道も自分で決められず、あっちにふらふら、こっちにふらふら。
  巻き込まれただけだという立場に甘えて、言われるがままにしか動けないで。

( ;^ω^)「僕は――」

71 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 23:57:47 ID:C0CEqXh20
(#‘_L’)「其処だぁっ!」

  ずぶり。
  それは、本当に嫌な音だった。
  電磁加速、とツンは言っていた。
  自分の肉体を電流で加速させての急接近。
  多分、このフィレンクトとか言う人はそれくらいしか出来ないのだろう。
  でも、その速さは目で追えるようなものではなかった。

ξ )ξ「かっ――」

  事実、彼女の背中から日本刀の刃が伸びているのを見るまで、僕は彼の動きに気付けなかったのだから。

( ^ω^)「あ…あ……」

(;‘_L’)「ふぅ…大丈夫か、少年。もう大丈夫だ、だから――」

( ゚ω゚)「あああああああああああああああああああああ!」

  後ろ腰のベルトから、“チャンバー”を抜く。
  水晶をフィレンクトの腹に向けて、引金を引く。
  水晶が、淡く輝く。

  どんっ。

(;‘_L’)「な――ぜ――」

  フィレンクトの背中から生えた、鋼鉄の槍。
  僕が放った、鋼鉄の槍。

72 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/25(金) 23:59:15 ID:C0CEqXh20
ノハ;゚听)「な、何を――」

( ;゚ω゚)「わああああああああああ」

  分けも分からないまま、我武者羅に引金を引く。
  どんっ。どんっ。どんっ。
  戦車が使う徹甲弾を更に細く、小さくしたような鋼の槍が、僕が引金を引くたびに水晶玉の先から撃ち出される。
  狙いも何もない滅茶苦茶な射撃は、逆にそれが幸いして、何処へ飛んでくるか分からない鋼槍に、ヒートは動けないでいるようだった。

( ;゚ω゚)「僕は!僕はぁあああああ!」

  “落ち着ける場所についたら、忘却術式を使いましょう”。

  “それで、そのまま貴方は家族の下に帰るの”。

ξ^ー^)ξ『ね?それでいいでしょ?』

( #;ω;)「よくねえんだお!そんなんで良いわけねえんだお!ふざけんなお!ふざけんなお内藤文太郎!」

  戦う理由なんて知るもんか。
  誰が正義で、誰が悪かなんて、知るもんか。
  あの時彼女は笑っていたんだ。
  殺し合いの只中に居るというのに。戸惑い怯える僕を安心させる為に、笑ってくれたんだ。

  そうだ。
  その時に僕はきっと――。

73 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/26(土) 00:02:12 ID:7a/j7GGM0
ノハ#゚听)「てめぇ…!自分が何をしているかわかって――!」

( #;ω;)「うるせーお!近づくんじゃねえお!ツンは絶対に殺させない!僕が絶対に守るんだお!絶対に!絶対に!」

ノハ#゚听)「こ――のっ――!」

  鋼槍の弾幕を避けながら、ヒートは右腕をふるう。
  荒ぶる火球が、アスファルトを焦がし、僕へと迫る。

  避けられない。

  当たり前だ。
  僕はただの、“チャンバー”を持ったガキなのだから。

  それに、例え避けられたって、絶対に動くもんか。

( #;ω;)「ツンは、僕が守るんだおおおおおおおお!」

  だって、後ろには――。

ξ )ξ「な――に――やって――んのよ――」

  後ろには――。

74 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/26(土) 00:05:58 ID:7a/j7GGM0
ξ#゚听)ξ「何やってんのよこの馬鹿あああああ!」

  どうっ。
  まるでそれは、間欠泉の爆発のよう。
  迫りくる火球。それを遮ったのは、「アルキメデス」の生き残りによって出来た、キルトの壁だった。

ノハ#゚听)「ちっ!まだ余力がありやがったか!……だが!」

  最期の小悪魔たちを焼き払ったヒートが、追撃の火球を放つべく振りかぶる。

  ――だが。

「ツン様!」

  頭上を飛び越える影。
  飛翔の頂点で蹴り足の形をとったそれは、砲弾のように飛び込み。

ζ(゚ー゚*ζ「御覚悟を――!」

  ヒートの胸板に着地、全運動量の全てを叩きこんだ。

ノハ;゚Д゚)「ぐがっ――!?」

  一体、その華奢な身体の何処にそれほどの力を秘めていたのだろう。
  デレの跳び蹴りを真正面から受けたヒートの身体は、まるでワイヤーに引っ張られるようにして吹き飛ぶ。
  華奢な身体は先に自分が立っていた街燈へ直撃、ポールを九の字に曲げてアスファルトに転がった。

76 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/26(土) 00:08:13 ID:7a/j7GGM0
( ;ω;)「デ…レ…ちゃん……」

  蹴りの反動を宙返りで殺して着地すると、デレちゃんは僕たちの下へと駆け寄ってくる。
  モノトーンの給仕服は所々が破け、血が滲んでいた。

ζ(゚ー゚*;ζ「申し訳ありません、手間取りました。お二人ともご無事ですか!?」

( ;ω;)「ツンが…ツンが……」

  「アルキメデス」の壁で火球を防いだ後、ツンは糸が切れたようにして地に伏したままで目を開けない。
  桜色をしたキャミソールワンピースの左胸は朱色に染まり、傷口からは未だに命の欠片が流れ続けている。
  荒い呼吸と時折上下する薄い胸が、辛うじて彼女が生きていることを告げるのみだ。

ζ(゚ー゚*;ζ「これは――」

  柔和な顔を険しくし、デレちゃんは自分の右袖をまくる。
  袖の下から現れたのは、彼女の華奢な腕には不釣り合いなほどに無骨なシルエットの手甲(ガントレット)。
  デレちゃんが金属で覆われた右掌を傷口にあてがうと、手首についたリボルバー式の弾倉が回転。
  空薬莢が吐き出されると同時、傷口を白い光の粒子が包み込んだ。

77 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/26(土) 00:14:10 ID:7a/j7GGM0
ζ(゚ー゚*;ζ「肺が貫かれています。止血と応急処置は施しましたが、落ち着いた場所で本格的な治療術式を施す必要があります」

( ;ω;)「ツンは――ツンは、助かるのかお?」

ζ(゚ー゚*;ζ「ええ、早急に治療出来れば…ですから……」

  デレちゃんの言葉に、強張っていた肩の力が抜ける。
  そのまま膝から崩れそうになって、ふっと地面を見た瞬間、ツンの傍らに横たわる男の姿に、僕は自分が何をしたかを思い出した。

( ;ω;)「あ――あ――あ――」

  ツン同様に、胸に空いた穴から黒血を滂沱と流すフィレンクト。
  胸板を貫いていた鋼槍は、既に光の粒となって消えている。
  それでも、僕がしたことが消えたわけではない。

( ;ω;)「僕は――人を――」

  ――殺そうとした。

( ;ω;)「あああああああああああ!」

  感触なんて残ってない。
  ただ引金を引いただけだから。
  それでも結果だけは残っている。
  何処までも、何処までも残り続けて、きっと僕の背中を追いかけてくるのだ。

  何処までも。何処までも。

78 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/26(土) 00:15:49 ID:7a/j7GGM0
( ;ω;)「僕は――!僕は――!」

ζ(゚ー゚*;ζ「内藤さま!落ち着いて!落ち着いてください!」

( ;ω;)「僕は、人を!この手で人を…!」

ζ(゚ー゚*;ζ「今ここに長く留まるのは危険です!早く倉庫街へ!」

  “奴らに向かって引金を引いたら、もう後戻りは出来ないと思え”。

  “だから、そのチャンバーの引き金だけは引かないで”。

( ;ω;)「でも!だって!あの時こうしてなきゃ、ツンは!ツンは!」

ζ(゚ー゚*;ζ「 内 藤 さ ま ! 」

  ――強く、肩を揺さぶられ、僕はようやっと目の前の彼女に気付いた。

( ;ω;)「あ……」

  煤と血飛沫で汚れ、それでも尚綺麗なデレちゃんの顔。
  その中で潤んだように輝く碧眼の瞳が、僕を真っ直ぐ見つめている。

79 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/26(土) 00:18:42 ID:7a/j7GGM0
ζ(゚ー゚*ζ「内藤さまの行いは、きっと赦されることは無いでしょう。ツン様もきっと、お怒りになる――」

  ――でも。

ζ( ー *ζ「――それでも、私は貴方に感謝します。ツン様の命を救って頂いた事を。何の慰めにもならないかもしれませんが……」

  “それでも、貴方のお蔭で助かった命もある事を、決して忘れないで下さい”。

( ;ω;)「僕が…助けた……」

ζ(゚ー゚*ζ「さあ、掴まってください。増援が来る前に早くここを離脱しないと」

  ツンと僕を抱えると、デレちゃんはアスファルトを蹴りつけ砲弾のように飛翔する。
  見れば、エプロンドレスの裾から覗く彼女の編み上げブーツの踵には、手甲と同じように回転式弾倉がついている。
  高度が落ちそうになる度、リボルバーが空薬莢を吐き出して、デレちゃんは宙を蹴るようにして飛ぶのだった。

( _L )「――」

  眼下では、倒れ伏したフィレンクトとヒートの姿が、どんどん小さくなっていく。
  ヒートの方はともかく、フィレンクトはもう助かるまい。
  いや、もしかしたら彼らの仲間が見つけて、九死に一生を得る可能性も無きにしも非ずだろう。
  だけど、僕の中ではもう、彼は死んでいるのだ。

  間違いなく、僕が殺したのだ。

80 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/26(土) 00:21:59 ID:7a/j7GGM0
  あの時、フィレンクトを討たなかったら。
  その時は、恐らくツンが死んでいた。
  例えデレちゃんが到着したところで、2対1ではツンを抱えて逃げることも出来なかっただろう。

  あの時、フィレンクトを討ったから。
  今こうして、ツンは一命を取りとめ、デレちゃんの腕の中で温もりを失わないでいる。

  そうして僕は、戻ることの出来ない道へと足を踏み出したのだ。踏み出してしまったのだ。

  フィレンクトを討たなかったら、もしかしたらまた、日の当たる世界に戻れたかもしれないのに。

  それでも僕は、血に塗れた世界の方を選んでしまったのだ。

( うω;)「僕は…人殺しだ……」

ζ( 、 *ζ「……」

  溢れる涙を返り血で汚れた手で拭い、僕は嗚咽する。
  遠く、摩天楼の上に宵闇が迫る空の上。
  デレちゃんは何も言わず、ただ、ただ強く僕を抱きしめてくれていた。



81 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/26(土) 00:23:02 ID:7a/j7GGM0

 

 

To be continued

 

 
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