( ^ω^)ポケットモンスター学園のようです

Part1

Page1

2 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 22:30:09 ID:f3nl7ZIU0
 
 
 
 
 
   「遅いぞ、ブーン」
 
   「これだから、ボ教徒はのろまなのである」
 
   「ふえぇ……待ってらんないよぉ」
 
 
( ;^ω^)「ま、待ってほしいお! ほら、いま行くから――」
 
 
 
 まさかこの自分が、この廊下を渡るとは思っても見なかった。
 
 
 ――確かに、数年前から研究が始まったばかりの「ポケモン」、
 それらを総合的に扱う施設である「都市直轄型ポケットモンスター学園」の関係者が
 世界でもっともポケモンを知り尽くしている、と言っても過言ではない。
 僕のようなしがない高校生が、この廊下を歩くことはむしろ至極当然なのだ。
 
 まだ研究が進んでいる最中で、未発見のポケモンや未知なる力の存在は限りなく存在している。
 まさに、氷山の一角、と言うべきか。
 
 ほどけた靴ひもを結んでから、前方にいる三人に視線を遣わせる。
 僕の困り顔を見て察したのか、三人は形こそ異なる罵詈雑言を浴びせてくるものの、
 ほほえましいものでも見るかのような様子で、僕を待つ。
 靴ひもを結び終えた僕は、よし、と言って立ち上がっては彼らに向かって駆けだした。
 
 そんな僕の慌てぶりを見かねた女性が、訝しげな顔をした。
 
 
.

3 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 22:31:01 ID:f3nl7ZIU0
 
 
 
 
   「そんなに速く走ると――」
 
( ; ω )「ふぎゃっ!」
 
   「……言わんこっちゃない」
 
( ;^ω^)「あててて……」
 
 結んだばかりの靴ひもを踏んでしまい、またしても転んでしまった。
 これは動揺が為すものなのか。
 すかさず前方の男性が高らかに笑いあげ、その隣の少女が口元に手を当てくすくす笑う。
 どうしたものか、と額をさすりながら、靴ひもを結び、今度はゆっくり歩く。
 
 
   「急ぐ必要はない。 ……どうせ、連中も式典の準備やら何やらで大慌てだろうからな」
 
   「むしろ遅れた方が貫禄が出るのであるぞwwww」
 
   「かんろく、なんて難しい言葉、わかんないよぉ……」
 
   「ありえないwwwwwwwwww」
 
( ;^ω^)「お、お待たせ、だお」
 
   「ふえぇ……本当に待ったよぉ……」
 
   「よし、行くか」
 
 
.

4 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 22:32:16 ID:f3nl7ZIU0
 
 
 
 黒髪の女性が言うと、四人は――体勢や様子は違えど―― 一斉に足を踏み出しはじめた。
 この煌びやかな廊下も、残すところ十数メートル。
 一歩、また一歩と踏み出すにつれて僕の心臓の鼓動が忙しくなる。
 
 ほんとうにこれでいいのか、ほんとうに僕がなるのか――
 そんな事を考えると、自然と歩幅が短くなる。
 背も丸まってくるし、ただでさえ持っていない覇気も失せてくる。
 
 そんな僕の葛藤に気づいたのか、角刈りの男性が僕の背中をばしっと叩いた。
 僕は背骨に電撃が走ったかのような痛みに見舞われた。
 
 
 
   「今更しっぽを巻いて逃げるわけではあるまい?」
 
 
 続けて、続けてセミロングの少女が
 
 
   「シケたコトすンじゃねーぞ」
 
 
 追撃に、先陣を切っていた女性が
 
 
   「逃げるつもりなら………………刺す」
 
 
( ;^ω^)「あ、逃げませんから――ちょ、やめえええええ!!」
 
 
.

5 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 22:32:57 ID:f3nl7ZIU0
 
 
 
 「ったく……」と、僕に襲いかかろうとしていたその女性が舌打ちをしながら身を退いた。
 三人がそれぞれ僕の左右と後ろを囲むかのように立ち回って、僕を先頭に追いやるかのように、背中を押してきた。
 こうなっては逃げるどころではない。
 僕は甘受しなければならないのだ。
 恐れ多い、どころでは済まない、恐縮なんてレベルではない遠慮の感情が溢れてくる。
 
 しかし、これもひとつの「ストーリー」だとしたら?
 これが、ひとつの「冒険」だとしたら?
 僕は、このスタッフロールを見なければならない。
 そうしなければ、新たな「冒険」は始まらないからだ。
 
 意を決して、僕は扉の前に立つ。
 まさに「らしい」扉を前に、一度大きく息を吸い、ぐッと唾を呑み込んで、扉に手をかける。
 三人の視線が僕の背中に集中しているのを肌で感じながら、僕は、重い扉を、開いた。
 
 
 その先には――――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

6 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 22:33:46 ID:f3nl7ZIU0
 
 
 
 
    ┏━                                      ━┓
 
        ポ ケ ッ ト モ ン ス タ ー 学 園 の よ う で す
 
    ┗━                                      ━┛
 
 
            ┌─                    ─┐
 
                ―  第一章  謎の転校生  ―
 
            └─                    ─┘
 

                                          ,. '  ̄ `ヽ::::::...
                                         /       ',::::::::::
                                         !_γ⌒ヽ_ l::::::::::
                                            、 ̄ゝ __ノ ̄,':::::::
                                          ヽ . _ .. ' :::

 
 
.

7 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 22:34:41 ID:f3nl7ZIU0
 
 
 
 

 
 
 
川 ゚ -゚)「テスト」
 
( ;^ω^)「!」
 
 
 キッカケは、素直クール、彼女の一言からだった。
 学校の帰り道、近場の喫茶店に向かう途中でのことだ。
 
 長い黒髪を風に預け、絵になる様子である彼女が真顔で唐突にそう言ってきたのだから、僕はどきっとした。
 ときめいた、というわけでは断じてない。
 むしろ、プラスマイナスで捉えれば真逆の感情であった。
 
 下り坂の先の赤信号で、二人はぴたりと立ち止まる。
 そのときになって再び、彼女は言ってきた。
 
川 ゚ -゚)「テスト」
 
 視線を僕に向けることはなかったが、右手を僕に突きだしている。
 手をつなごう、なんて甘い展開では断じてない。
 むしろ、都合の善し悪しでいえば正反対の行動だった。
 
 僕はがばっと信号機を見る。
 いつもは気がつけば変わっている、そんな信号なのに、
 今に限ってはその赤いシグナルは固定されているのか――
 と疑わざるを得ないほど、すぐには光が変わってくれなかった。
 適当に言葉を濁しながら、信号が変わるのを待つ。
 
 
.

8 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 22:35:24 ID:f3nl7ZIU0
 
 
 
 しかし彼女はそれを許さない。
 視線は前方に固定させたまま、彼女は僕の首根っこをひっとらえて、
 こんなに細い腕のどこにそんな力があるのか、凄まじい握力で首を絞め始めた。
 僕はものの二秒で落ち――これでも耐えた方なんだ――彼女のその手をぺちぺちと叩く。
 表情をいっさい変えず、無言で彼女は手を離した。
 
 信号が、青に変わった。
 僕ら二人は、歩き出す。
 彼女が、次に、と言わんばかりに追撃をしてこないうちに僕は口を開くことにした。
 
 
( ;^ω^)「テスト……。 あ、そういえば、答案に訂正があったそうだお。 なんでも、毒タイプに虫技はいまひとつ……」
 
川 ゚ -゚)「問題ない。 私は百九十三点だ、そこも正答している」
 
( ;^ω^)「……さすが、特待生ですお」
 
川 ゚ -゚)「君はどうなんだ? ん?」
 
 横顔を僕に見せたまま、やはり無表情で彼女が問うてきた。
 答えなければ、厳しいオシオキ(決して嬉しくない)が待ちかまえることだろう。
 しかし、これにばっかりは答えることができないのだ。
 
 
.

9 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 22:36:11 ID:f3nl7ZIU0
 
 
 
 まず、彼女がこんなに僕のテストの点数に固執しているのには理由がある。
 そもそも、僕らが通っている「都市直轄型ポケットモンスター学園」、
 通称「ポケモン学園」、更に「ポケガク」と呼ばれている学校は、ある点において、世界で初の学校なのだ。
 
 というのも、いつの頃からか世界に住み着いているポケモン、彼らの研究が実に数年前から大きく進展し始めたのだ。
 当初は混沌とした状態で、科学の進歩のなかでも唯一進展の兆しが見えなかった「ポケモン科学」だが、
 数年前になんとかと言う博士が「十五タイプの法則」、続けて「十七タイプの法則」たる論文を発表し、
 そこから爆発的にポケモン科学が進展し出すようになった。
 
 それに際して、本格的な実験兼研究施設をつくろう、どうせなら教育という形で高校生たちを付き合わせよう
 ――本当は、秀才な生徒を集めて研究の進展を図るつもりらしいが――ということで建てられた学校、それがポケモン学園。
 世界で初のポケモンについて学ぶ♀w校、それがポケモン学園。
 そこに、僕が通っている。
 
 話が逸れたが、とにかく、ポケモン学園では年に二回、前期後期に分けられたテストが行われる。
 テスト、と云っても、ただ漠然と「授業で教わった内容をどれだけ覚えているかを試すもの」というわけではない。
 授業内容はさることながら、そこから自分なりの考え、つまり論文も書かされるという、半ば大学であるかのようなテストなのだ。
 だからこそ――というわけではないが――ポケモン学園の偏差値は、国内でもトップクラスの数値となっている。
 
 しかし、僕は、その、頭はあまりよろしくない。
 ポケモン学園に入学できたと知った当初、親は学校に事の真偽を確かめたほどである。
 僕も当時はうれしさしか感じなかったが、入学してはじめて、うれしさが苦痛に変わりつつあった。
 
 それもそうだ。
 毎回テストの点数が悪く、実技もいいわけではない。
 僕は今で二年生だが、進級できたこと自体奇跡だ、と担任に誉められた(怒られた?)ほど。
 そんな僕が、周りが秀才だらけのなか唯一おばかさん、ということがどれだけ悲惨なことか。
 
 そこで、今回のクールとの話に戻る。
 ここまで言えば、僕がテストの答案を見せたくない理由はわかるだろう。
 しかし、まだこれだけではないのだ、理由は。
 
 
.

10 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 22:37:29 ID:f3nl7ZIU0
 
 
 
 そして、そこに、彼女が僕のテストの結果に固執する理由が現れてくる。
 
 二年生になって、この素直クールという女性は、なんと「転入」してきた。
 偏差値お化けのこの学校に、他校から途中入学するだけで凄まじいのに、
 既にいくつかの論文を出して表彰されるほどの実績を持つ生徒だ。
 
 お陰で周りから孤立しまくり、昼もぽつんと一人で食べたりもしていた。
 ある日、僕は宿題をしてくるのをうっかり忘れ、彼女に借りた、なんてことがあった。
 そのときに一悶着あり、気がつけば友だちになっていたわけだが――
 
 友だちになって、ある日、僕は自分の頭がよろしくないのを告げた。
 ちょうどテストが行われる二週間前、である。
 するとクールはどんなお節介か、僕に勉強を教える、などと言い出したのだ。
 最初は僕も喜んで教わっていたが、その、彼女が天才すぎるせいか、言っている言葉が全く理解できない。
 教師でももう少し掻い摘んで説明するようなことを、矢継ぎ早に、まくし立てるように、言ってくる。
 
 
 たとえば
 
 
 川 ゚ -゚)『水タイプは炎タイプに能動的にも受動的にも強いが複合とされる形で草
      タイプが加わると能動性に違いは生じないが受動性には変化が生じ炎
      技を受けると水と草の相性が相殺し合ってノーマルタイプの受けるそれ
      と同数の威力を受けることになるが加えて相手が炎タイプの場合は「タ
      イプ一致の法則」のため与える筈の威力の半数ほどの威力を通常の数
      値に上乗せして威力換算されるためこの場合だと能動面では有利であ
      れ受動面では互角若しくは不利以下に陥るこの場合「能力の六項目」の
      ひとつ「すばやさ」が互いの有利不利に関わってくるのだがそもそも「すば』
 
 (  ゚ω゚)『うわああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!』
 
 
.

11 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 22:38:14 ID:f3nl7ZIU0
 
 
 
 むろん、僕は彼女の言っていた内容を何ひとつ理解していない。
 しかし形式上とはいえちゃんと教えてもらった≠アとに違いない。
 だから、彼女としても僕の点数を知らないわけにはいかないのだ。
 これが、彼女がしきりに僕に答案を手渡すよう言ってくる理由である。
 
 ――ここで点数がお粗末なものであれば、僕がクールからオシオキ(血を見るレベル)を受けるのは必至。
 そして、点数は二百点中の三十七点。
 これでも、前回よりは六点も上がったのだ。
 
 
 
( ;^ω^)「……ねえ、クールさん」
 
川 ゚ -゚)「もので釣る手は効かないぞ」
 
( ;^ω^)「じゃ、じゃあ――」
 
川 ゚ -゚)「罰ゲームを自ら志願するのも、だ」
 
( ;^ω^)「え、えっと」
 
川 ゚ -゚)「さあ、見せたまえ」
 
( ;ω;)「堪忍してくカバン漁っちゃらめええええっ!!」
 
 
.

12 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 22:39:04 ID:f3nl7ZIU0
 
 
 
 気がつけば、彼女は僕のカバンを漁っていた。
 カバンが奪われていることに気づかなかった僕も僕だが、勝手に人のバッグを漁るのはあまりよろしいことではない。
 しかしそんなマナーや周囲の目なんか気にせず、彼女は乱暴にカバンのなかをかき乱しては、答案用紙を探す。
 
 しかし、表面上では僕は焦った振りをするが、実際は安堵していた。
 こういうこともあろうかと、答案はカバンのなかには隠していないのだ。
 安全な隠し場所に隠しているため、たとえあのクールでも気づかない――
 
 
川 ゚ -゚)「まさか」
 
( ^ω^)「へ」
 
 すると、彼女は何かに勘づいたのか、僕の腰回りに手を伸ばしてきた。
 相手が他の美少女なら興奮する展開なのだが、相手が彼女だと、全く興奮なんてしない、できない。
 いや、容姿はスバラシイに違いないのだ。 しかし――
 
 なんて考えている間に、彼女は僕のボールホルダーからモンスターボールを奪い取った。
 モンスターボール。 人は、ポケモンを持ち歩く際は普通このカプセルのなかに住ませておく。
 違う、今はそんなことはどうでもよくて――
 
 
 
川 ゚ -゚)「出てこい」
 
( ^ω^)
 
 
 ――問題は、答案はそのモンスターボールのなかにいるポケモンに持たせている、ということだ。
 
 
 
.

13 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 22:39:45 ID:f3nl7ZIU0
 
 
 
 クールは、ボールの中央部の開閉スイッチを押して、なかから僕の唯一の手持ちを召喚した。
 茶色いボディと図々しい顔が特徴的なポケモンが、出てきた。
 手にくしゃくしゃの答案を握って。
 
 
 
 

           ____
        /      ヽ _
      i´ ̄( ̄`ー-‐´ ̄) ヽ
      ゝ   > (-)-o-(-) \    むにゃむにゃ……
     |   (_  (__人__) )  |
     |     ̄ i__i__i| ̄   |
      \          /
     ノ            \
   /´               ヽ

 
 
 
( ‐ω‐)「……?」
 
( ^ω^)「なんだお、もう家かお?www」
 
 
 
 分類名、ビーバーポケモン。
 種族名、ビーダル。
 ニックネーム――やる夫。
 
 
.

14 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 22:40:31 ID:f3nl7ZIU0
 
 
 
( ^ω^)「……あら、クーたん」
 
川 ゚ -゚)「やる夫、その答案をよこすんだ」
 
( ^ω^)「あ、はい」
 
 
( ^ω^)
 
( ;゚ω゚)「ああああああああああああああああ!!」
 
 
 
 ―――ビーダル、その名をやる夫。
 いつの間にか我が家のペット的存在になっていて、なぜか成長するにつれて顔が僕に似てきたポケモン。
 普通、ポケモンは人の言葉を使わない筈なのに、なぜかこいつだけはぺらぺらとしゃべる、よくしゃべる。
 僕の親父は「ビッパの頃から人間と触れ合ってきた賜物ではないのか」と楽観視しているが(ビッパとはビーダルの進化前の種族名だ)。
 
 僕はやる夫に「答案は隠しておけ」と何度も何度も言いつけた。
 クールに見つけられると大変なことになるからだ。
 しかし、なぜこうも呆気なく渡した。
 クールは、僕の答案を見て、今まで無だった表情がはじめて変化した。
 その間僕はやる夫をぽかぽか殴っていた。
 
 
.

15 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 22:41:28 ID:f3nl7ZIU0
 
 
 
( ;ω;)「なんで見せちゃうんだお! 隠しておけって言ったお!?」
 
( ^ω^)「手渡せばクーたんは屈むから、そのときちらっと服越しに胸の谷間が見えるんだお。 やる夫は天才だお」
 
( ;ω;)「ポケモンの分際で人間の女に欲情するんじゃないお!」
 
( ^ω^)「さすがの僕でもビーダルには萌えないお」
 
( ;ω;)「てめえいっぺん鳴いてみろ!」
 
( ^ω^)「ヴゥゥア゙ヴゥゥゥゥwwwwwwwww」
 
( ;ω;)「どう聞いてもビーダルじゃねーかお! 同族嫌悪かてめえ!」
 
 
川  - )「……」
 
 
.

16 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 22:42:31 ID:f3nl7ZIU0
 
 
 
( ^ω^)「後ろ見るお、後ろ」
 
( ;ω;)「あぁん!?」
 
( ;ω;)
 
(;ω; )
 
 
 
 後ろには、答案を両手で握りしめている美少女(鬼)が、その拳をぷるぷると震わせていた。
 
 
 
川  - )「……」
 
 
( ;ω;)
 
( ^ω^)
 
( ^ω^)「あ、あの、えっとね? 実は――」
 
( ^ω^)「ボールに戻るお」 カチッ
 
( ;゚ω゚)「あッてめえ後で覚えとけお!!」
 
 
.

17 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 22:43:11 ID:f3nl7ZIU0
 
 
 
川 ゚ -゚)「……ブーン?」
 
( ;゚ω゚)「あひゃいッ!!」
 
 
 ポケモンが欲情するほど可愛い可愛い素直クールちゃんが、僕の左肩にそっと手を置いた。
 ――しかし、そんな女子にボディタッチされたからといって、ぜんぜん嬉しくない。
 しかも、爪が肩に食い込んでいるのに、どうして青春を感じられようか。
 
 
川 ゚ -゚)「私が教えてこの点数ってことは……」
 
( ;゚ω゚)「……」
 
川 ゚ -゚)「この耳がオイタしたのかな?」
 
( ;゚ω゚)「……」
 
 
( ;゚ω゚)「………あの、どーして顔を耳に近づけるんすか」
 
 クールは背伸びをして、僕の左耳に顔を近づけていた。
 彼女の鼻息がかかるのがわかる。
 ちゃっかり彼女の胸も左腕に当たっているが、全く欲情しない。
 毒入りとわかっているリンゴを、わざわざ食べる人がいるのだろうか。
 
 僕が問うと、クールは「え?」と、吐息を漏らすかのようにちいさく囁いた。
 そして
 
 
.

18 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 22:43:54 ID:f3nl7ZIU0
 
 
 
 
川 ゚ -゚)「そりゃあ―――」
 
 
 
 
 直後、僕の左耳に激痛が走った。
 この野郎、思いっきりそこを噛みやがった。
 
 
 そして、僕の叫び声が町中にこだました。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

19 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 22:44:35 ID:f3nl7ZIU0
 
 
 
 

 
 
 
 僕はおしぼりを耳に当てた。
 特に血がでているわけでもないのだが、なんとなく、このひんやりとした感触をあてがいたかったのだ。
 おーんおーん、と泣いていると、向かいの席に就くクールが溜息を吐いた。
 溜息を吐きたいのはこっちの方だって。
 
川 ゚ -゚)「『飛行タイプは格闘タイプに強い』のがわからないのはまだわかるが……。
     『炎タイプは草タイプに強い』くらいは自然の摂理でわかるだろうに」
 
( ;ω;)「ひーん!」
 
 サンドイッチを片手に頬杖つく姿は、どこか様になります。
 やはり、彼女が美しいからでしょうか。
 ――じゃ、なくて。
 
 どういうわけか、会計は僕が委されることになってしまった。
 どうやら、僕のテストの出来が悪かったため、らしい。
 まるで母のような口振りでしれっと奢るよう命じてきた。
 僕の懐事情は、やる夫の生活費(餌代とか、ではなく、雑誌やゲーム代である)のせいもあってかかなり涼しいことになっている。
 だから、奢ってもらうには全く問題ないのだが、逆も然り、というわけにはいかないのだ。
 
 断ることができない場合は、想定していなかったが。
 
 
.

20 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 22:45:32 ID:f3nl7ZIU0
 
 
 
 クールがやれやれ、と首を振ったかと思えば、視線を僕に向けてきた。
 首を傾け、見下すかのような――憮然とした態度と表情で僕を見つめる。
 ああ、やはりこの人は不機嫌なのだな、と改めてわかった。
 
 僕がココアをすっとすすり終えたのを見計らって、クールは口を開いた。
 艶がかった髪を人差し指でくるくる捻りながら。
 
 
川 ゚ -゚)「転校してきた身としてはどうこう言えないのだが……どうして、君は進学できたんだ?」
 
( ^ω^)「僕自身が知りたいお……」
 
川 ゚ -゚)「あれか、実技」
 
( ^ω^)「お?」
 
 ポケモン学園は、ポケモンを総合的に扱うというだけあって、むろんそこで学べるのは知識だけではない。
 紙面上だけでなく、フィールドに実際にポケモンを繰り出しては、あれやこれやとご教授願えるのだ。
 紙面が知識とするなら、フィールドは実技。
 中学校で言うところの体育、といったところか。
 いや、一般教養として普通の人間の体育もないことはないのだが。
 
 
.

21 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 22:46:46 ID:f3nl7ZIU0
 
 
 
 そして、僕の手持ちは今のやる夫しかいない。
 残念ながら、見た目に反して強い――
 なんてことはなく、実に見た目に忠実な能力を兼ね備えている。
 
 ポケモンをレンタルして戦い、知識と実践を共に積むこともあるのだが、
 唯一の手持ちのやる夫でさえ使いこなせていない僕が他のポケモンを使いこなせる筈もない。
 一応、貸し出してくれるポケモンは皆利口で言うことは聞いてくれるのだが、どう戦えばいいかがわからない。
 詰まるところ、僕もやる夫も実技にはとことん疎いのだ。
 
 このことを告げると、クールはクチをぽかんと開けた。
 数秒、その、美少女(笑)にしては情けない姿を露呈していた。
 
 
川 ゚ -゚)「……君の取り得は、なんだ?」
 
( ;^ω^)「真顔で訊くなお! 結構がちでクるもんがあるお」
 
~川  - )~「君のぉぉーーー取り得はぁぁーーーなんですかぁぁーー?」 ユラユラ
 
( ;^ω^)「怖ぇお! おどけてるつもりだろうけど、怖ぇお!」
 
川 ゚ -゚)「どうして生き残れたのが不安なのだが……これだけは言えそうだな」
 
( ;^ω^)「立ち直りはやっ……なんだお?」
 
 
.

22 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 22:47:30 ID:f3nl7ZIU0
 
 
 
 訊くと、クールは左手をこちらに向けてきた。
 おしゃれに、名前はわからないが、ミサンガみたいなブレスレットみたいな皮のそれが数本つけられている。
 鎖みたいな輪もはめられているし、案外洒落っ気には神経を研ぎ澄ます人なのかもしれない。
 薬指に光る物はないのを見て――どこを見ている!
 
 彼女はそのまま、細い指の手を拳に変えた。
 肘がいい具合に曲がっている。
 拳を上下にゆらゆらさせるし、わけがわからない。
 それを顔で表現すると、彼女は言った。
 
 
川 ゚ -゚)「じゃーんけーん……」
 
( ;^ω^)「え? あ――」
 
 
 「ぽん」。
 無機質な声が発されると同時に、僕は直感でじゃんけんに応じた。
 左手はソファーの座面についていたので、右手を慌てて差し出す。
 
 グー? チョキ? パー?
 残念ながら、何を出したのかは実際にそれを見るまではわからなかった。
 つまり、無意識だったというわけだ。
 
 
.

23 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 22:48:14 ID:f3nl7ZIU0
 
 
 
 しかし。
 慌てて閉じた目をおそるおそる開くと、僕は虚を衝かれたような心地に陥った。
 そして、クールは「これ」が最初からわかっていたかのような口振りで
 
 
 
 
川 ゚ -゚)「運だけはいい、ということだ」
 
( ;゚ω゚)「……!」
 
 
 
 
 クールがパーで、僕がチョキ。
 そんな卓上空間での戦況を見せられて、僕はしばらく声がでなかった。
 
 
 
 

 
 
 
川 ゚ -゚)「……まあ、運は運だから、な」
 
( ; ω )「……」
 
 喫茶店をあとにして、再び僕らは帰路に就く。
 僕は四、五度目くらいになる溜息を吐いていた。
 
 
.

inserted by FC2 system