( ゚д゚ ) 面倒臭いオタクのこだわり (-_-)

その1

1 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/01/25(水) 23:46:57 ID:VCQqwHrU0

 VIP大学、構内カフェ。



(-_-)

( ゚д゚ )



 向かい合う男たちが、二人。





 ――こんな噂を知っているかな。

2 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/01/25(水) 23:47:20 ID:VCQqwHrU0


(-_-) 「趣味でファンタジー小説を書いている男がいたとする。……いや、別に小説じゃなくて漫画でもいいし、
      男じゃなくて女でもいいんだけど、とにかく何らかの創作活動を行っている人間がいたとしよう」


(-_-) 「ひとつの物語を作るっていうのは、つまりひとつの世界を作るってことだ。
      紙とペン、もしくはパソコンひとつで世界を作る。神様みたいなもんだよ」


(-_-) 「でも、素人の創作ってのは、たいてい完結しない。途中で放り出してしまう。そうなると……」


(-_-) 「その物語は……その世界は、永遠に終わらないまま、放置されることになる。物語の登場人物からすれば、たまったもんじゃない」

 
(-_-) 「だから――物語を書くのを、途中で投げ出した作者を。神様であることから逃げた作者を、『物語』は許さない」


(-_-) 「完結しないまま放り出された物語は、『作者』を捕まえて……物語の中に、取り込んでしまう」


(-_-) 「そうして取り込まれた作者は、結末を迎えられないまま、放置された物語の中で……永遠に、生き続けることになる」

3 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/01/25(水) 23:47:44 ID:VCQqwHrU0


 そういう噂を、知っているかな――

 

( ゚д゚) 「……知ってるか、知ってないか、っていうより……」

( ゚д゚) 「これは、なんの話だ?」

(-_-) 

( ゚д゚)

(-_-) 「……俺、いちおーあれじゃん。アニ研部入ってるじゃん。知ってると思うけど」

( ゚д゚) 「知ってるけど……」

(-_-) 「いやさ、呪いのアニメ作っちまったんだよね、俺ら」

( ゚д゚)

4 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/01/25(水) 23:48:08 ID:VCQqwHrU0


( ゚д゚) 


( ゚д゚) 「呪いのアニメ?」


(-_-) 「呪いのアニメ」


( ゚д゚) 

(-_-)





  
  ( ゚д゚ ) 面倒臭いオタクのこだわり (-_-)





    ※この話は『ブーンがアルファベットを武器に戦うようです』の重大なネタバレを含む恐れがあります

5 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/01/25(水) 23:48:44 ID:VCQqwHrU0



( ゚д゚) 「……呪いのビデオ的な」

(-_-) 「まあ、うん。逆貞子みたいな……」

( ゚д゚) 

( ゚д゚) 「逆貞子って何?」
(-_-) 「いや、うん……」






     ――貞子も伽耶子と戦うこの時代に――

    ( ゚д゚ ) 面倒くさいオタクのこだわり (-_-)

    ※ホラーじゃないです


    ※この話は『ブーンがアルファベットを武器に戦うようです』の重大なネタバレを含む恐れがあります

6 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/01/25(水) 23:49:09 ID:VCQqwHrU0


(-_-) …… 私立ファイナル大学経済学部二年生。アニメーション研究会所属。探偵。

( ゚д゚ ) …… 私立ファイナル大学法学部二年生。ヒッキーの友人。探偵。

川д川 …… 私立ファイナル大学文学部二年生。シャーマン。

o川*゚ー゚)o …… 私立ファイナル大学社会学部三年生。アニメーション研究会部長。被害者。

(´・ω・`) …… 大人気アニメ『ショボ勝ち』に登場するキャラクター。容疑者。

( ^ω^) …… 大人気アニメ『ショボ勝ち』に登場するキャラクター。容疑者。

ξ゚听)ξ …… 大人気アニメ『ショボ勝ち』に登場するキャラクター。容疑者。

 その他ここに名前のない登場人物も …… 展開上必要になったら生えてきます

7 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/01/25(水) 23:49:36 ID:VCQqwHrU0



 ヒッキーはアニメーション研究会なるサークルに所属しているのだが、今回の件はそこで起きた問題のようだった。
 空き教室に俺を呼びつけたヒッキーが、スクリーンとDVDデッキの用意をしながら話す。

(-_-) 「おまえ部長と会ったことあったよね? キュートさん」

( ゚д゚) 「ある」

 アニ研の部長はたしか素直キュートという三年生だったはずだ。いつだったか、ヒッキーに用があって部室を訪れたときに一度会っている。
 長い黒髪に黒縁の眼鏡、知的でクールに見える風貌。

o川*^ー^)o 『どうぞ、ゆっくりしていってね』

 とお茶を淹れてもらったそこまでは知的な大和撫子に見えた。
 が。

8 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/01/25(水) 23:49:59 ID:VCQqwHrU0



o川*゚ー゚)o 『ところで、ミルナくん。君もヒッキーくんのお友達ってことは、『ショボンはZだがYで勝つ』は見てたりするのかな?』

( ゚д゚) 『ああ、まあ……。ショボン大将が裏切るってくらいは知ってます』

o川*゚ー゚)o 『おぉ、それ知ってるならまずいネタバレはほとんど大丈夫ってことじゃん!』


 そこから4時間、素直キュートという女は『ショボ勝ち』がいかに素晴らしいアニメであるかを延々と語り続けた。

 2時間ほど経ったところでさすがに聞き苦しくなり「あの、俺4限講義入ってんすけど……」と言ってはみたのだが、
 素直部長は「わかってる」とだけ言って席を立つと部室の鍵を閉めカーテンを閉め切って戻ってきた。
 そこから折り返しの2時間は無心で脳内五目並べをプレイすることにより耐えた。


( ゚д゚) 『すごい人だったな……』

(-_-) 『いやさ、おまえアニ研部の部長がオタクじゃないとでも思ってたの』

 帰り道、疲労感をむき出しに呟いた俺を見て、ヒッキーは呆れたようにそんなことを言ったものだが……。

9 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/01/25(水) 23:50:31 ID:VCQqwHrU0



( ゚д゚) 「その部長が、どうかしたのか」

(-_-) 「その部長についての話なんだよね」

 今、この部室に部長の姿はない。
 ヒッキーは一枚のDVD-ROMを指先にひっかけ、くるくると回している。

(-_-) 「知っての通り部長はオタクで、『ショボ勝ち』にだだハマりしてるわけね。『ショボンはZだがYで勝つ』」

( ゚д゚) 「知ってる」

(-_-) 「で、ここはアニ研部。だから、部長が実権を握るこのアニ研部、今年の学祭は何するつもりだったのかっていうと……
      『ショボ勝ち』の二次創作アニメを作って、それを公開する予定だったんだ。五分くらいのショートアニメね」

10 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/01/25(水) 23:50:55 ID:VCQqwHrU0


( ゚д゚) 「学祭で二次創作って大丈夫なのか」

(-_-) 「それ俺も聞いた。著作権とかいろいろ大丈夫なのかなーって」

(-_-) 「o川*゚ー゚)o 『万一大丈夫じゃなかったら私が片乳落とすから』」

( ゚д゚) 「あの人は本当になんなんだ?」

(-_-) 「部長だよ、責任感も強いしっかりした部長。……とにかくまあ、『ショボ勝ち』好きなのは部長だけじゃなくてアニ研部全体そうだったから。
      みんな賛成したんだよね。だからまあ学祭に向けて、みんなでいっしょーけんめいアニメ描いてた。……ん、だけど……」

(-_-) 「製作途中で、部長がぶっ倒れたんだ」

( ゚д゚) 「倒れた? そんなに過酷だったのか」

(-_-) 「いや、盲腸」

( ゚д゚) 「あ、そう……」

11 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/01/25(水) 23:51:21 ID:VCQqwHrU0



(-_-) 「ま、もともと部長の仕事は多かったから。いってみれば総監督みたいな立場なわけで、
      あと盲腸もストレスが原因っていうから、あんまり笑うわけにもいかないんだけど……
      それと、あれね。学祭めがけて頑張るあまりに学生が体ぶっ壊しましたじゃ体裁よくないからさ、
      一時はあわや企画凍結の危機まで行ったんだよ。先生ににらまれて」

( ゚д゚) 「そんなに?」

(-_-) 「そんなに。だから盲腸だってわかったときは、まあ命にかかわるような病気じゃなくてよかったってことで一安心。……だったんだけど」

( ゚д゚) 「だったんだけど?」


 ――手術は、何事もなくうまくいったらしいんだけど。


 だけど――――

12 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/01/25(水) 23:51:44 ID:VCQqwHrU0





(-_-) 「部長が、麻酔から目覚めない」




(-_-) 「ほんとに意味わかんないんだって。身体には何の異常もない。
      脳波とかも見てみたけど、むしろこの上ないほど健康体。なのになんでか目を覚まさない」

( ゚д゚) 「……なんだそれは?」

(-_-) 「なんなんだろうね。それ一番聞きたいの担当の医者か先輩の親だと思う」


 話が見えてくるような、見えてこないような――


( ゚д゚) 「……それが”呪いのアニメ”のせいだと言いたいのか?」

(-_-) 「それは、そうと、なんだけど」

13 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/01/25(水) 23:52:07 ID:VCQqwHrU0


 露骨に空々しい声色で話題を切り替えると、ヒッキーはポケットからスマートフォンを取り出した。

(-_-) 「部長が盲腸の手術したの、ちょうど先週の金曜日なんだけど。
      その日俺は何してたのかって言うと、ここ、部室でひたすらアニメの絵描いてたわけよ」

( ゚д゚) 「部長が倒れたのに?」

(-_-) 「いや、そんときの進捗状況がサバにサバを読んで四割くらいだったから……。
      『帰ってきて作業がまったく進んでなかったらそれこそ部長が憤死する』ってことで、ひとり部室に残ってせっせと」

( ゚д゚) 「ごくろうさん」

(-_-) 「ありがと。で……」

 スマートフォンを机の上に置き、トントンと指で二度叩いて示す。

(-_-) 「そのとき部室で目撃した、『信じられない光景』の動画が。ここにあります」

( ゚д゚) 

(-_-) 

( ゚д゚) 「……見ても大丈夫なやつか?」

(-_-) 「グロ動画とかではないよ」

14 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/01/25(水) 23:52:31 ID:VCQqwHrU0


 そして再生を始めたスマートフォンの画面に――

 まず映ったのは、天井。

『――うっわ! うっわなんだこれ。なんだこれ!? やべえ!』

 続いて、床。
 画面が無茶苦茶に揺れていて、ヒッキーの声も上ずっているが――


『――――いやあああああああああああ!!!』


 直後響き渡った女の悲鳴と同時に、カメラのピントもぴたりと合った。

15 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/01/25(水) 23:52:59 ID:VCQqwHrU0


(´・ω・`) 『捕まえた……捕まえたぞ……ッ!』

o川;゚ー゚)o 『な、なにこれ、なんなの!? あたしの身体……え、ええ!? 身体!』


(;-_-) 『やっっっっっべえ! まっじやべえ! なんだこれ! 意味わからん』


 ビデオに映るアニ研部部室。作業机とおぼしきデスクの上には、一枚のDVD−ROMが置かれていて――その机の前に。
 一人の男が、部長の首根っこを掴んで、立っていた。
 ちがう。
 浮いていた。


 興奮したヒッキーの手持ち撮影、映像はブレている。が――それでも明らかにおかしい点が、ふたつある。

16 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/01/25(水) 23:53:23 ID:VCQqwHrU0


o川;゚ー゚)o 『す、透け……透けて! なに、なんなの!? ――ヒッキーくん! ヒッキーくん、助けて!』

 まずひとつ――男に取り押さえられている部長の身体が、
 まるで幽霊か何かのように、ぼんやりと透けてしまっていること。

 もうひとつは――

(´・ω・`) 『やっと捕まえたぞ、無責任な創造主め……! 逃げられると思うなよ。俺たちの世界でゆっくり悔いていけ!』

 部長を捕まえているこの男の身体も、部長と同じように透けていて、しかしこちらの男はそもそもの話――
 まるで二次元キャラクターの等身大パネルか何かのように平板で、絵そのもののような質感をしていること。
 というか、もっと直接的に言ってしまうなら――

 その男が――大人気アニメ『ショボ勝ち』に登場するキャラクター、ショボンそのものの姿をしていたこと。

17 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/01/25(水) 23:53:45 ID:VCQqwHrU0



(´・ω・`) 『そこのヒョロガリはどうでもいい、責任者はこの女だ。……止めようとしても、もう、遅い!』

 カメラのほう――カメラを持つヒッキーのほうに鋭い視線を向けてから、ショボンは指をパチンと鳴らした。
 すると――――

 部長が悲鳴を上げる間もなく、ショボンと部長、二人の身体は光の渦となり――
 机の上に置いてあった、DVD−ROMの中へと。吸い込まれていくように、消えた。




 そこで動画の再生も終わる。

18 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/01/25(水) 23:54:09 ID:VCQqwHrU0


(-_-) 


( ゚д゚) 


(-_-) 


( ゚д゚) 


 しばらく無言で見つめ合ったのち、ヒッキーがゆっくりと口を開いた。


(-_-) 「……いやさ、作業してたらね、あれ? なんか今窓の外光った? って。思って見たら、
      なんか、なんか窓の外に浮いてんだよ。二人。っていうか飛んできてる」

(-_-) 「なんじゃこりゃって思ってさ、なんかわかんねえけどとりあえず動画撮るかって思って。
      思ったらもう次の瞬間さ、窓すり抜けて、部屋ん中入ってきて。それでこれ」

( ゚д゚)

19 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/01/25(水) 23:54:32 ID:VCQqwHrU0



(-_-) 

( ゚д゚) 「……このDVDは……」

(-_-) 「……部長、病院で見れたら喜ぶかなって……できたとこまでを、とりあえず、DVDに焼いたとこだったんだよね……」

( ゚д゚) 「……」

(-_-) 「……まあ……つまり、だよ」

(-_-) 「どういうわけだか意思を持ったこのアニメは……、部長がぶっ倒れて、病院に運び込まれたことを知った。そして」

(-_-) 「総監督である部長が倒れたことで、『自分たちの製作はここで打ち切られる』と。そう誤解した。あとは最初に言った通り……」

(-_-) 「"創造主"の側にどんな事情があるのかなんて、"被造物"からすれば知ったこっちゃない。
      物語を書くのを、途中で投げ出した作者を。神様であることから逃げた作者を、『物語』は許さない――」

(-_-) 「完結しないまま放り出されると思ったこのアニメは、そうはいくかと『作者』を捕まえて……」

20 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/01/25(水) 23:54:55 ID:VCQqwHrU0




(-_-) 「アニメの中に、取り込んでしまった」


( ゚д゚) 


(-_-) 



(-_-) 「……いや……一週間経ったらさすがに冷静になったんだけど……」

(-_-) 「…………どうにか……しなきゃ、まずいでしょ……これ……」

( ゚д゚) 「どうにかって……」

(-_-) 「……」

 ヒッキーの手の中にあるDVD-ROMの表面には――
 黒マジックで『パンドラの箱(部長)』と、殴り書きがされていた。

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