(゚、゚トソンムジナのようですミセ*゚ー゚)リ

Part26

504 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/04/20(水) 18:24:27 ID:f3BgqBeU0


        Place: 草咲市 戸津釜町 字上弦 122-32 品のあるホテルの一室
    ○
        Cast: 本能寺ビーグル 戸景リザ 鈴木タムラ

   ──────────────────────────────────

505 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/04/20(水) 18:25:44 ID:f3BgqBeU0

 その女の腰には、蜥蜴のタトゥーがあった。
 四つん這いで身をくねらせ、尻尾を「6」のように丸めている。
 趣味のいいデザインでは無かったが、シンプルさには好感を持った。
 トカゲというのがいい。あるいはイモリや、ヤモリの類かもしれないが、似たようなものだろう。


∬* ヮ ) 「ねえ」


 女が首に手を回し付き湿度の高い声を吐く。
 身に着けた香水よりも甘い。
 鼻と耳の奥、脳幹にじりじりと痺れるような痛みを覚える。


∬* ヮ )「あなた、吸血鬼なんでしょう」


 頬が紅潮している。
 目じりを下げ、細めた目は潤んでいる。
 少々幼い印象は受けるが美人。あるいは艶のある女である。

 ただ少し、頭が悪い。
 自分が賢いと誤解し、あざとい企みを隠す。

 こういう女は、案外好きだ。
 吸血鬼に限らず、男というのは、いくらかバカな女を抱いてる方が気楽でいられる。
 対等な個人として付き合うには気が滅入るが、床の中ではこれくらいの方がよろしい。

506 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/04/20(水) 18:26:42 ID:f3BgqBeU0

▼・ェ・▼ 「よくわかったな」


 とりあえず話を合わせてやる。
 吸血鬼であるとばれたところで問題は無い。
 既にここはホテルの一室。鍵の閉じられた密室だ。
 仮に既に通報されていたとして、どうとでもなる。

 いま、この街の杭持ちは些事に構う余裕はない。
 売女まがいの女の通報で駆け付ける人員など、下っ端の雑魚程度だろう。


∬*‘ ヮ‘) 「むかし付き合ってた男が杭持ちでさ、教えてもらったのよ、吸血鬼の見分け方」

▼・ェ・▼ 「ほう。どこをどう見る?」

∬*‘ ヮ‘) 「見るってより、感じるの。吸血鬼に会うと、首筋のあたりがぞっとする」


 なるほどな、と納得する。
 人を襲う獣は数あれど、人間を主食とし、人間を襲うことを生業とする獣はそういない。
 本能が、感じるのだろう。目の前に立つ“捕食者”の脅威を。
 すべての人間に備わった感性では無いのだろうが、それの分かる種がいるのはむしろ自然だ。


▼・ェ・▼ 「わかっていてついてきたのか」

∬*‘ ヮ‘) 「この街の人間ならみんな知ってるわ。吸血鬼は確かに怖いけれど、無為に人を殺したりしない。そうでしょ?」

▼・ェ・▼ 「……最近はそうでないものも多いがな」

∬*^ ヮ^)「貴方がそんな“理性的でない”吸血鬼だとは思えないもの」

507 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/04/20(水) 18:27:31 ID:f3BgqBeU0

 女は、思いのほか品よく笑った。
 
 確かに、吸血鬼は人の血を吸う。
 金などの代償に血を買うことが出来なければ襲って食うこともあるだろう。
 ただし、だからと言ってそう簡単に殺しはしない。

 人が家畜の乳牛をそうそう殺さないのと同じ理由だ。
 殺すよりも生かしておいた方が得が多い。
 実際、吸血鬼と遭遇した時に反抗せず大人しく血を吸わせて済まそうとする人間もそれなりにいる。
 この女のように、気付いておきながら密室までついてくる者は、珍しい例だが。


∬* ヮ )「それに」


 女が頭を引き寄せる。
 目を閉じ、顔を少し傾け、口を重ねた。
 舌の交わりは浅い。唾液に、酒の残り香がある。
 
 女の口蓋を、舌で撫で上げる。
 腕の中にある肉付きのよい身体が震え、喉の奥から、息の音が漏れた。

 口を離す。
 伸びた唾液の糸に、オレンジ色の照明がちらと映えた。

508 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/04/20(水) 18:28:43 ID:f3BgqBeU0

∬* ヮ ) 「似てるのよ、その感じ。いい男に出会った時の感覚と」

▼・ェ・▼ 「そうか」

∬*  , ) 「……ねえ」

▼・ェ・▼「なんだ」

∬*  , ) 「もう。吸血鬼とキスをした女がどうなるかなんて、知ってるでしょ?」


 触れた。
 すんなりと指が入る。
 女は待ちかねていた、と言った風情の声をあげる。

 これは吸血鬼の唾液にしては効果が早い。
 さきにしていた愛撫も、さほど丹念に行ったわけではなかった。
 そもそも好きなのだろうこの女は。吸血鬼に体を貪られることが。
 自身を圧倒的に蹂躙されることを、望んですらいる。

 生ぬるい指先をうごめかせた。また声が上がる。
 この調子ならば、人間の女だからと気遣う必要も無いだろう。

509 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/04/20(水) 18:29:42 ID:f3BgqBeU0

 女の腕が解け、掌が頬を撫でるように挟む。
 中身に比べて冷たい手だ。

 だらしなく口を開いている。喉の奥の暗がりがみえた。
 何かを飲み込むことを期待して、蠢いている。
 口からはみ出して伸ばされた舌は、溺死した蛙のようだ。


▼ ェ ▼ 「……」


 口を開けた。
 肉体の反射というべきか、女を抱くと自然に唾液の分泌が多くなる。
 口から口へ。吸血鬼から人間へ、唾液がとくとくと滴り落ちる。

 少し外れ、泡立つ透明の媚薬は女の頬にかかった。
 不満げに、しかし甘い声をあげながら女は唾液に舌を伸ばす。
 舐めとり、受けて止め、溜めてから呑み込み。背筋を震わせる。

 しばらくの時間、中身に触れ続けた。 
 唾液が回ってきたのだろうか。徐々に、確女の目が惚けて行く。

 指で、これまでよりも強めに擦りあげた。
 一段低い、雄叫びじみた声を出す。手を止めず、執拗に中身を掻きまわした。
 女は、シーツを掴み、悲鳴を上げる。

 入口を、奥を、順に、時には順を変え、指の腹で、凹凸のある肉壁を隅々まで探りまわす。
 溢れる液体が、指を伝って、外にまで漏れ出していた。

 陰毛は短く整えられている。好印象だ。愛液に塗れ内腿に張り付く黒い毛は、酷く醜い。

 手を止めずにかき回す。
 女は吠えながら、腰を暴れさせた。もはや人間では無い。
 唾液に頭をやられている。

510 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/04/20(水) 18:31:06 ID:f3BgqBeU0


∬*; д ) 「ねえ、ねえ、もう!」


 肩に女の爪が食い込んだ。
 手を止め、引き抜く。
 指の間に糸が張った。口に含み、舐めとる。

 悪くない味だ。
 血ほど腹は膨らまないが、嗜好品としては上等だろう。


∬*; ヮ )「ねえ、もう、いいでしょう?」


 息を荒げながら、女が腰元に縋りつく。
 熱い。暑苦しい。

 女の舌が皮膚の上を這い、性器にたどり着く。
 まだ、“足りていない”。
 女が口を開けた。いくらか持ち上がっていた先端を一口に頬張り、血の滞留を促すように軽く吸う。

 また、熱い。
 舌が絡みつく。泡立つ唾液は、人の体温だ。

 自身ですらさほど愛着の無いそれを、女は愛おしげに舐めまわした。
 喉の奥まで咥え頭全体を前後させ、一度吐き出して、頬ずりでもするように、唇と舌で撫でまわす。
 硬さが増すのを自覚する。仕方がない。これも肉体の、本能の反射だ。

511 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/04/20(水) 18:31:48 ID:f3BgqBeU0

 女を寝かせ、足を開かせる。
 白いくびれが左右に揺れる。


▼・ェ・▼ 「……」


 熱だ。熱だ。
 この體になった時に失った、体温の熱さだ。

 動く。
 女が声を出す。
 意味は無く、行為の結果としての、肉体の反応だけがある。

 吸血鬼が他者を抱くことに、生物的に明確な理由は無い。
 正確には、しなければならないという必然性は無い。
 吸血鬼の生殖機能はそうなった時点で失われている。
 生殖器は人間の名残であり、あるいは主食である人間を誑かすための道具だ。

 性的な快感が失われるわけではない。
 かつてのように衝動的な欲求は失われるが、行為のもつ享楽性は残るのだ。
 だから、こうして、本来の目的とは別に、多少興じることも可能である。

 角度を変える。
 反応を見る。
 律義な女だ。
 感触の良し悪しを怠けず反応で示してくる。
 遠まわしな要求でもあるのだろう。
 大人しく従って、好ましい場所を中心に、深く触れさせる。

512 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/04/20(水) 18:33:54 ID:f3BgqBeU0

▼・ェ・▼ 「口をひらけ」

∬;‘ ヮ‘) 「え?」

▼・ェ・▼ 「口をひらけ」


 溜めた唾液の塊を、女の口に落す。
 女はその危険性に気付き拒否しようとしたが、既に遅い。
 口で口に封をし、強制的に喉の奥へ送り込む。
 女の手が拒絶の意志を表すように、肩を押す。
 気にせず、舌を絡め、口蓋の撫で上げた。

 怯えているのが、体のこわばりから伝わってくる。
 そうでなくてはならない。
 例え“理性”によって守られていたとしても“本能”の恐怖を忘れさせることは許されない。

 先端が、女の奥に触れていた。
 僅かに硬い、弾性のある部位を、執拗に嬲る。
 ベッドに突いた腕に、女の手が絡みつく。
 その程度の爪では、吸血鬼の皮は引き裂けない。

 悲鳴である。
 舌を絡めた接吻の時点で媚薬としては十分な効能がある。
 それをここまで飲んだのだ。
 この女がいくら好きもので吸血鬼の唾液に慣れていたとしても、関係ない。
 
 だらしなく開いた口に、出るだけ唾液を落とし続ける。
 女は鳴きながら、泣いていた。涙がこぼれ、目元の化粧が溶けている。
 全ての栓が壊れてしまったらしい。

 よろしい。実に、よろしい。
 これでこそ興が乗る。

513 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/04/20(水) 18:34:59 ID:f3BgqBeU0

 人間の時分と違い、絶頂があろうと精液を消耗するわけではない。
 半透明の体液を放出するが、精液と異なり生成に時間を要さないため、さほど時間を取らず回復する。
 途中吸血を挟めば、休憩を取る必要が無い程に。

 どれほどの時間、抱いていただろうか。
 十分だ。満足した。性器を引き抜くと、女の腹から透明な液が流れ出る。

 充血が酷い。
 この様子では、途中からは痛みの方が勝っていただろう。

 女は完全に意識を失っている。
 唾液を飲ませ過ぎたか。
 行為自体には手心を加えたはずだ。

 髪は散らかり、化粧はまるで抽象画。
 滑稽である。
 これに懲りて、行きずりの吸血鬼と行為に及ぶ愚かさを学べばよいが。

 とはいえ、その学習を活かす機会は、二度と来ないので、別に構いはしない。


▼・ェ・▼ 「タムラ、いつまで隠れている。さっさと出て来い」


 ベッドを叩く。
 しばし待つと、下方からもぞもぞと布を擦る音が聞こえた。
 覗き混む。ベッド側面の飾り板がパカリと外れ、そこから一人の女が顔を出した。

 鈴木タムラ。
 山村から出てきたばかりのおぼこ娘のようななりをしているが、一応は吸血鬼である。

514 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/04/20(水) 18:36:02 ID:f3BgqBeU0

爪*∩∩) 「……おわりでありますか?」

▼・ェ・▼ 「見れば分かるだろうが」

爪*∩∩)「……見てないから分からんであります」

▼・ェ・▼ 「音でわかるだろう」

爪*∩∩) 「……途中から耳を塞いでいたであります」

▼・ェ・▼ 「なんのために隠れてたんだ、お前は」

爪#゚〜゚)「少なくとも本能寺さんの情事を見学する為ではないであります!!」


 タムラはベッド下からはい出し、立ち上がったが、ベッドの方を見ようとしない。
 服の埃を払うふりをして一瞬視線を向けるも、すぐに逸らす。
 これだから面倒なのだ。男も知らず吸血鬼になったような女は。


▼・ェ・▼ 「はやくしろ。お前の為に態々失神させたんだ」

爪*;゚〜゚)「早くって、そもそもこんなことしなくとも、普通に首筋ブッ叩けばよかったのでは?」

▼・ェ・▼ 「それでは、俺がつまらない」

爪*'〜`)「自分は地獄でありましたよ……」

▼・ェ・▼ 「いいから」

爪∩〜`)´、「やります!やるでありますから、服を着てください、本能寺さん!」

515 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/04/20(水) 18:37:37 ID:f3BgqBeU0

▼・ェ・▼ 「そんなこと言っているから、人間を捕まえることすらできんのだ」

爪*'〜`) 「当たりまえのようにナンパする本能寺さんの方が異常なんでありますよ……」


 文句が多い奴だ。無能な奴ほどそういう傾向にある。
 一応下だけ服を着て、タムラの尻を叩く。
 間抜けな声を上げ、こちらを睨むので、顎で指示を出す。
 ぐぬぬ、という顔をした。屈辱の表情のパターンの豊かさは褒めてやってもいい。


爪*゚〜゚) 「では、失礼して、いただきますであります」
   人

 手を合わせてから、タムラが女の首筋に噛みつく。
 人間の皮膚は脆い。鼻で笑う程だ。
 タムラの丸い牙にでさえ、容易く破られ血を溢す。

 女は傷を負っても反応しない。
 それを確認し安心したのか、タムラは小さく音を立てながら血液を呑み始めた。

 いつ見ても、子供じみた吸い方だ。乳臭くてかなわない。
 もう少し色気をつけて男を誑かせるようになれば、態々こうして獲物を狩ってやる必要も無くなるというのに。

516 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/04/20(水) 18:40:16 ID:f3BgqBeU0

▼・ェ・▼ 「タムラ」

爪*゚Q゚) ,「…………ぷあ、なんでありますか?」

▼・ェ・▼ 「抱いてやる。早く終わらせろ」

爪*゚〜゚)「……なに血迷ってんでありますか?自分の体に性的興奮を覚えるようなロリコンだったんでありますか?」

▼・ェ・▼ 「阿呆か。お前が男の絞り方憶えれば手間が減る」

爪*゚〜゚) 「仮に今後の為に男を覚えるとしても、本能寺さんだけはお断りであります」

▼・ェ・▼ 「……」

爪*゚ワ゚) 「初めてなんでありますよ?もっと紳士的な優しい殿方に甘くリードされ痛いッ?!」


 拳が出たのは反射だ。
 頭を軽く小突く程度に威力を抑えたこと、さらには血刑を使わなかっただけでも賞賛されるべき寛容さだ。

 前言撤回。面倒が多すぎてコイツを抱くなどこちらからお断りである。


爪。゚〜゚) 「拒否されたから暴力なんて。本当にろくでなしであります」

▼・ェ・▼ 「もうそれでいいから早く済ませろ」

517 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/04/20(水) 18:42:28 ID:f3BgqBeU0

爪*'〜`)=3 「ふう」


 タムラがひとしきり吸血を終え、口を離した。
 枕元のボックスからティッシュペーパーを数枚とり口元を拭う。
 あんなにちびちび吸っておいてどうしてこうも汚れるのだろうか。
 不器用という性質は全く理解しがたい。


▼・ェ・▼ 「おい」

爪*゚〜゚) 「大丈夫であります。自分が満腹になったくらいじゃ死なないでありますよ」

▼・ェ・▼ 「違う。いい機会だ。愛液の味も憶えておけ」

爪*;゚Д゚)「はあ?!」

▼・ェ・▼ 「嗜みだ」

爪*;゚Д゚)「そんな嗜みいらないであります!それに!」


 タムラがちらりと女の下半身を見た。
 すぐに顔を逸らす。赤面でもすればらしいが、あいにく吸血鬼。
 車に酔ったような表情だ。つくづく魅力が無い。


爪*;゚д゚)「女性のそこの味なんか覚えたって……」

▼・ェ・▼ 「吸血鬼に男女の区別などあってないようなものだ。食いはぐれたくなかったら、男でも女でもまず人間の抱き方を覚えろ」

爪*;'〜`)「吸血鬼って言うか淫魔であります、それじゃ」

▼・ェ・▼ 「最も確実で安全なのが、人間の性欲に取り入る方法だと言っているだろう。上手くやれば血刑も暗示もいらん」

518 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/04/20(水) 18:43:27 ID:f3BgqBeU0


 言外に「こんな風にな」と追加する。
 実際この女をここに至らせるのに、血刑も暗示も用いていない。
 本当に狩りの上手い吸血鬼は、特有の力を無暗矢鱈と使わないものだ。


爪*゚〜゚) 「わかりましたけど、それはまた今度にするであります」

▼・ェ・▼ 「ったく」

爪*゚〜゚) 「いいから、本来の目的の方、果たすでありますよ!」

▼・ェ・▼ 「ああ、早くしろ」

爪*゚〜゚) 「前置き無駄に長くしたのは自分のくせに……」


 拳を肩まで待ちあげる。
 ぶつくさと文句を垂れていたタムラは、慌てて口を紡ぎ女に向き直った。

 女を抱くのも、血を吸って腹を満たすのも、あくまでついでだ。
 本来の目的はこれからにある。
 わざわざタムラを連れてきたのは、腹立たしいことに、此奴の方がその目的に見合った技能を持っているからだ。

519 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/04/20(水) 18:44:36 ID:f3BgqBeU0


爪*‐人‐)「では、お命頂戴」


 几帳面に眼前で手を合わせてから、タムラは女の首を爪で切り裂いた。
 的確に頸動脈を断っている。
 血が吹き出し、瞬く間にシーツに染みを広げていく。
 吸血した分と合わせて考えれば、間もなく死ぬだろう。


▼・ェ・▼ 「おい」

爪*゚〜゚) 「安心してくださいであります。プロでありますから」


 女の血の勢いが弱まり始めた。
 タムラは自分の指を食いちぎる。
 零れた血は落ちることなく、糸のように伸びて空中に留まった。

 タムラは、女の胸に耳を押し付ける。
 心音を聞いているのだ。
 良く理解できないが、タイミングが重要らしい。


爪*゚〜゚) 「……」


 女が、死んだ。
 血の流出はほぼ止まっている。
 ここからが、タムラの本領だ。

520 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/04/20(水) 18:46:07 ID:f3BgqBeU0

 吸血鬼の誕生は、想像以上にシビアな条件を揃えなければ起こらない。

 吸血鬼に殺された人間が吸血鬼になる。
 大まかにはそうだ。
 何も考えずに吸血鬼が人間を殺して回ればそのうち吸血鬼は出来るだろう。

 しかし、これは効率的な方法では無い。偶然に縋る博打の行為だ。
 同族を生み出したいと考えるならばきちんとした手順を踏まなければならない。


爪*゚〜゚) 「人間を吸血鬼にするには、吸血鬼の細胞に人の体組織を乗っ取らせなければならないであります
       ですが、吸血鬼の細胞というのは、吸血鬼の体外においては存外弱い存在なのであります。
       生きた人間の体内に侵入しても、体温の差で機能が落ち、免疫に喰われて終わり。
       仮に非常に弱った人間であっても、生きてる限りはそう吸血鬼になることはないであります」



 タムラの血が女の体内に侵入する。
 傷口から、動脈を通り、脳と心臓へ。
 女の血液がほぼ抜けていることもあり、血管の動きでどこまで侵入しているかがわかる。


爪*゚〜゚) 「そうなると、やはり吸血鬼になるのは死者なのでありますね。これは古から変わらないであります。
       ただし、死後時間が経ちすぎていれば、今度は人間の細胞が死滅してしまっていて乗っ取れません。
       つまり、免疫が失われつつも、細胞が完全に死滅する前に、吸血鬼の細胞を送り込まなければならないのであります」


 指先を動かし、精密に体内への侵入を進めながら、タムラは解説を続ける。
 誰に向けてではない。癖なのだ。マニアとしての。
 こうすると気分が乗るのだと、初めて組んだ時に言っていた。
 気色悪いが、実際便利なので放っている。

521 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/04/20(水) 18:46:55 ID:f3BgqBeU0

爪*゚〜゚) 「ところがどっこい。いくらタイミングがよくとも、傷口から血を流しこんだだけでは、不十分なのであります。
       吸血鬼化に偏りができた場合、重要な器官の乗っ取りが済む前に、周辺組織を食い散らかしてしまうでありますから。
       そうなると、いくつかの組織が欠損した状態で吸血鬼化してしまうのであります。
       いくら吸血鬼が並ならぬ再生能力を持っていても、最初から無いものを再生は出来ないのであります。
       だから、吸血鬼化は満遍なく、特に重要な器官は優先して行う必要があるのであります」


 一々長いが、要はタイミングよく、満遍なく血を逃しこまなければならない、ということだ。
 こんなことをその都度意識している吸血鬼はそういない。
 大概は出来る限り血を抜いてから、自分の血を流しこむ、程度の認識が精々だろう。

 この場合、タムラの方が異常なのだ。
 吸血鬼化させる前から吸血鬼について詳しく、知識量で言えば下手な杭持ちよりも優秀だった。
 それが面白いと、あの男が吸血鬼化させてつれて来たのだ。


爪*゚〜゚) 「そこで自分があみだしたのが……」

▼・ェ・▼ 「優先的に心臓と脳を乗っ取って吸血鬼化させているんだろう。心臓と脳が生きていれば何とかなるからな」

爪*゚д゚) 「ちょっと本能寺さん!いいとこなんでありますよ!」

▼・ェ・▼ 「毎度毎度聞かされて口上を覚えたこちらの身にもなれ。もう終いだろう、さっさと済ませろ」

爪*゚ 3゚)「あーあ、本能寺さんのせいで仕上げに失敗するかもしれないであります〜」

▼・ェ・▼ 「殴る」

爪*'〜`)「本能寺さんは早めに“理不尽”って言葉を覚えてほしいであります」

522 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/04/20(水) 18:47:35 ID:f3BgqBeU0

 タムラが、指から自身の血を切り離す。
 終わったようだ。あとは、様子を見て待つだけ。


▼・ェ・▼ 「上手くいったのか」

爪*゚〜゚) 「恐らくは。我々の望み通りの吸血鬼になるかは分からんでありますが」


 しばらく眺めていると、女がハッと目を覚ました。
 高所から落ちる夢でも見ていたかのように体を大きくゆらし、強張らせる。


∬*  , )「わ、私……あ……ああ?」


 混乱している。
 一応は成功したが、まだ吸血鬼化の最中だ。
 脳の改変も不十分であるし、意識も不明瞭なままだろう。


爪*゚〜゚) 「あとはお願いするであります、本能寺さん」

▼・ェ・▼ 「お前も暗示は使えるだろうが」

爪*゚〜゚) 「餅は餅屋。女を誑かすなら本能寺さんであります」

523 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/04/20(水) 18:48:16 ID:f3BgqBeU0

▼・ェ・▼ 「おい」

∬*  , )「……?」


 まだ惚けている女の顔を手で向き直らせる。
 目と目があう。
 女の瞳に、目の朱く光る吸血鬼の顔が映り込んでいた。

 女に、暗示をかける。
 洗脳と言ってもいい。
 決まった文言を、決められた通り、順を追って女に植え付ける。
 吸血鬼化して間もない、今だからこそやらなければいけない手順だ。

 これが長く、手間になる。
 事前に抱いて多少発散して置かなければまだるっこしくて耐えられない。


▼・ェ・▼ 「………………いいな」

∬::::::ヮ‘)「……ええ」


 洗脳を開始して10分。
 すべての工程を終えた時点で、女の目は人間から、吸血鬼のそれに代わっていた。
 返答もしっかりしている。此方でしてやれることはすべて上手くいった。
 ここからはもう、この女次第である。

524 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/04/20(水) 18:49:01 ID:f3BgqBeU0

∬*‘ ヮ‘) 「私は、これから何をすれば?」

▼・ェ・▼ 「一先ず一週間、自力で生き残れ。方法は問わんが、同族を作ることだけは許さん」

∬*‘ ヮ‘) 「生き残ることが出来たら?」

▼・ェ・▼ 「こちらから迎えに行く」

∬*‘ ヮ‘) 「わかったわ。それと」

▼・ェ・▼ 「なんだ」

∬*‘ ヮ‘) 「そちらのお嬢さんは、貴方の本命?」

▼・ェ・▼ 「そう見えるか?」

∬*^ ヮ^) 「もしそうなら、変わった趣味だと思うわ」

爪*゚Д゚)「ちょっと、後輩の癖に失礼であります」


 女は、人間の時と同じく、思いのほか品の有る笑いを浮かべた。
 想定される人間としての戸惑いなどは洗脳段階ですべて排除したとはいえ、落ち着きが良い。
 男を誑かすのも慣れているようだし、タムラよりも優秀そうだ。


爪*゚〜゚) 「なんでありますか、本能寺さん。まさか本当にそう言う目で自分を見ているでありますか?」

▼・ェ・▼ 「……まあいい。そろそろ行け、腹も空いているだろう」

∬::::::ヮ‘) 「そうね。ペコペコ」

爪*゚〜゚) 「無視でありますか?」

525 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/04/20(水) 18:51:03 ID:f3BgqBeU0


∬*^ ヮ^) 「それじゃあ、またね“本能寺さん”」


 女は人間の頃の服を着て、部屋から出て行った。
 服を翻すその後姿は中々どうして絵になる。
 このちんちくりんを常に傍に置いているせいで、ああいったメリハリのある女を惜しむ癖が出てきた。


爪*゚〜゚) 「どう思うであります?」

▼・ェ・▼ 「何がだ」

爪*゚〜゚) 「あの人、生き残ると思うでありますか?」

▼・ェ・▼ 「見込みはありそうだと思って選んでいる」

爪*゚〜゚) 「あんな頭も股も緩そうな女でありますよ?」

▼・ェ・▼ 「ああいう手合いは、吸血鬼としては優秀なんだ。お前みたいな頭でっかちのガキと違ってな」

爪*゚〜゚) 「むむ、ちゃんと働いた後にそういわれるのは不満であります」


 不満げに頬を膨らませるタムラの頭を叩き、服を着る。
 部屋を借りている時間はまだあるが、ここに居残る理由はもう無い。


爪*゚〜゚)´ 「あ、シーツとかどうするでありますか?血まみれでありますよ」

▼・ェ・▼ 「ホテルのシーツに血がつくなんてよくあることだろう」

爪*'〜`) 「夜の戦場にも程ってもんがあるでありますよ」

526 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/04/20(水) 18:52:14 ID:f3BgqBeU0


 タムラと共にホテルを後にする。
 料金は先払いしてある。限度の時間よりも早いため追加の金も必要ない。
 フロントに鍵を返しながら、天井にある監視カメラにちらと視線をやる。

 直接顔を合わせる必要は無いが、あれでこちらの様子は見えているのだろう。
 伴う女が先に出て行った上、別な女を連れていることに気付かれると面倒だと思ったが、どうやら問題ないらしい。
 フロント係もそこまで注視はしていないのか。


爪*゚〜゚) 「戻るでありますか?」

▼・ェ・▼ 「ああ」

爪*゚〜゚) 「……いつまでこんなこと続けるんでありますか」

▼・ェ・▼ 「知らん。俺たちに分かることでは無い」

爪*゚〜゚) 「あの人は、優秀な吸血鬼を作って集めて何をするつもりなんでありましょう」

▼・ェ・▼ 「知るか。だがそれが“ハインリッヒの意志”なんだろう」

爪*゚〜゚) 「ハインリッヒの意志……」

▼・ェ・▼ 「……急ぐぞ。日の出が来る」

爪*゚〜゚) 「ああっ、ちょっと。まって欲しいであります、本能寺さん!」

527 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2016/04/20(水) 18:53:44 ID:f3BgqBeU0

 以上。


 三行

 とてもよくわかる爪*゚〜゚)      よくわからないけれど「〜〜であります」口調。総合生まれ。
                          よくわからないけれど軍オタ(作中では吸血鬼マニア)で妄想癖があるらしい。
                          よくわからないけれど何となくかわいい。

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