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365 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 22:40:25 ID:JUgNWWnY0
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Place: 草咲市 小手鳥町 字 辺津田 111 静かな趣の洋風建築
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Cast: 賤之女デレ 長岡ジョルジュ
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366 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 22:41:56 ID:JUgNWWnY0
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ζ(゚、 ゚*ζ (お父様、どこへ行かれたのかしら)
ζ(‐、 ‐*ζ (また戦ってらっしゃるのかしら……血を失っても、中々飲んでくださらないのに)
デレは憂いの漏れ出した表情で、ベッドに寝そべっていた。
お父様がいない時はいつもそう。
することが思いつかなくて、ベッドの上でただただ待っていることしかできない。
前のお父様の時は、待っているのも平気だったのに。
今はなんだか寂しくてたまらない。
何もしないでいると、頭の中が暗くなる。
自分でも知らない何かが、虫のように蠢いて、とても苦しくなる。
< でれちゃーん、でれちゃーん、ご飯出来たぜー―!」
ζ(‐、 ‐*ζ (お父様、早く帰ってらっしゃらないかしら)
< でれちゃーん、寝てるー―?」 ドタドタドタッ
ζ(‐、 ‐*ζ
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( ゚∀゚) 「でーれーっちゃんっ!」 ヒョコッ
ζ(‐、 ‐#ζ (……五月蠅い)
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367 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 22:44:16 ID:JUgNWWnY0
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( ゚∀゚) 「つーかさ、ドクオのやつ遅いよな。日焼けするくせにこんな昼間から何やってんだか」
この無礼で不躾で無遠慮で無神経で不愉快な男が屋敷に住まうようになって一週間が経った。
お父様が連れてきた友人であるし、吸血鬼の敵では無いらしいので大目に見ていたが、そろそろ堪忍袋の限界だ。
初めて会って一時間で緒は三度ほど切れていたのだけれど、このままだと堪忍袋ごと炸裂してしまう。
デレは元々、こういう男が嫌いだ。
大嫌いだ。
同じ空間で呼吸をしているのすら不愉快だ。
何より腹が立つのは、デレですら呼んだことの無いお父様の名前を呼び捨てにしていること。
自然に尖る唇が戻らない。
こんなのは、前のお父様が教えてくれた淑女の立ち振る舞いではないのに。
だから余計に頭に来る。全部この畜生が悪い。死ね。
いっそ、護身用に隠し持っているデリンジャーで眉間をぶち抜いてやろうか。
向かいの席で食事を勧める男の顔を睨みつける。
こんなやつ。
お父様の言葉が無ければとっくに追い出していたのに
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368 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 22:45:48 ID:JUgNWWnY0
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( ゚〜゚) 「どうしたの?我ながら結構美味いと思うぜ?」
ζ(゚、 ゚*ζ 「…………」
目の前に置かれた深めの皿に目を落とす。
山に盛られた白米と、とろりと覆うひき肉のあんかけ。
茄子やトマト、ピーマンなどの刻まれた夏野菜が入っており、甘くも酸味のある香りが食欲をくすぐってくる。
さらに真ん中には目玉焼き。
黄身は半熟で今にも崩れ出しそうで、白身の端はきつね色にこんがりと焼けている。
すぐさまスプーンで割ってしまいたい衝動に駆られる。
否、やはりまずは卵無しの味を楽しんでから……。
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( ゚∀゚) 「熱いから、火傷しちゃダメだぞ」
ζ(゚、 ゚*ζ 「……匂いだけは、美味しそうですけれど」
スプーンで縁のごはんと餡を掬い取る。
立ち上る湯気。香りがさらに濃くなって、自然に口の中が濡れる。
呼気で湯気を飛ばして、口の中へ。
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369 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 22:46:54 ID:JUgNWWnY0
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ζ(゚、 ゚*ζ 「……」
口の中に広がるトマトの酸味。
噛むほどに絡んで、白米の甘さが合わさり、たった一口で味が次々に変わってゆく。
たまらず次を、今度は具もしっかり掬って口へ。
実を含むことでより濃くなったトマトの味わい。
噛むほどに茄子から旨みがしみ出してくる。餡とは違う瑞々しいスープだ。
飲み下した後に残る、ピーマンの苦み。これが妙に爽やかで嫌味が無くむしろ心地よい。
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( ゚∀゚) 「少し豆板醤入ってるけど、辛くない?」
三口目で、その言葉の意味を理解した。
舌先がほんの少しだけピリピリとする。子供のデレでも痛いと感じない程度の辛さ。
野菜の甘みが強くて気にならなかったが、これのせいで余計に食欲が促されているのだ。
時々話しかけてくる男を完全に無視して、デレはあんかけご飯を食べ進めた。
半分に差し掛かるころに目玉焼きの黄身を割る。
トロリと流れ落ちる黄色の幸せを、零れ落ちないように掬い取って絡めて、食べる。
少ししつこく感じ始めていた肉餡の角が瞬く間にまろやかになり、食欲が復活する。
白身のカリッと、プリッとした触感も相まってさらに美味だ。
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370 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 22:48:25 ID:JUgNWWnY0
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気づけば、少しも休むことなく、食べ終えてしまっていた。
体が熱くなって、額には汗がにじむ。
ふぅ、と胸から息を抜いたデレを見て、男が笑った。
彼はまだ皿に2割ほどの残している。
なんという敗北感。
途中からこの無神経男が作った料理ということを忘れて食べてしまった。
しかもデレは元々辛い物やピーマンが苦手だったのに。
ζ(゚、 ゚*ζ 「……あまりじろじろと見ないでくださいまし。失礼ですわ」
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( ^∀^) 「いや、ごめんよ。でもよかったぜ、気に入ってもらえたみたいで」
ζ(゚、 ゚*ζ 「ま、まあ。あなたのような人が作ったものにしては、ええ」
食べきっておいて不味いとは言えない。食材にも無礼になる。
現にもう少し食べたいと思うくらいには美味であった。
悔しいし不愉快だが認めないわけにもいかない。
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( ゚∀゚) 「デレちゃん、パンとかインスタントばっかりだろ?だからたまにはこういうのも食べさせないとさ」
ζ(゚、 ゚*ζ 「ちゃんとサプリメントも飲んでいますし、問題ありません」
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( ゚∀゚) 「でもさ、良くないと思うぜ。伸び盛りの子供が、そう言う食事しかしないってさ」
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371 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 22:49:51 ID:JUgNWWnY0
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確かにデレの食事は今も昔も、インスタント食品や缶詰、惣菜のパンのような物ばかりだった。
最優先すべきはお父様のお食事、つまり血液だ。
サプリメントやドリンクでバランスを保ち、良質な血を作ればそれで良い。
デレ自身の満足など不要だ。
せめて空腹が紛れればそれで充分であった。
でも。
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( ゚∀゚) 「ネタバレすっとさ、ドクオに頼まれたんだよね。デレちゃんに美味い物食わせてやってくれってさ」
ζ(゚、 ゚*ζ 「お父様が……」
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( ゚∀゚) 「んで俺も、デレちゃんの食事はどうかと思ってたのもあって、一肌脱いだってわけ」
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( ^∀^) 「だから、これは俺からじゃなくてドクオから、だからさ、俺が作ったとかは気にせず食いなよ」
そんなことを言われては、もったいなくて逆に食べられない。
お父様は、優しすぎる。
ぶっきらぼうで、触れることすら滅多に赦してくれなくて、面と向かって手を差し伸べてくれることなどほとんどないのだけど。
デレが何もしてあげられずにいる中で、いろんなことをデレにしてくれている。
最近、やっとそれに気付けた気がする。なぜ気付けなかったのか分からないけれど、最近はちゃんと分かる。
だから、怖いのだ。
自分の存在価値がまったく無いような。
お父様に対して何もできていないこの現状が、手足がしびれるほど恐ろしい。
幸福なのに恐ろしい。この体の中で起きる矛盾の軋轢が、デレの憂鬱を強く大きなものとしている。
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372 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 22:51:06 ID:JUgNWWnY0
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( ゚∀゚) 「どした、デレちゃん?」
ζ(゚、 ゚*ζ 「……なんでもありません。寝所に戻りますので、滅多なことが無ければ来ないでください」
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( ゚∀゚) 「あいよ。あ、でも寝るんだったら歯磨きはしておきなよ」
ζ(゚、 ゚*ζ 「言われるまでも、ありません」
食器をキッチンの流しに置いて、デレは洗面所へ向かう。
長岡の料理は幸福であったが、だからこそ、早く洗い流してしまいたかった。
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( ゚∀゚) 「あ、そうだ。買い出しも頼まれてるんだけど、追加で必要なものとかある?」
ζ(゚、 ゚*ζ 「特にありませんわ」
食事を終えた長岡も流しへ食器を持ってゆく。
そのまま洗うようで、蛇口をひねって水を出した。
デレは、入口で立ち止まり、振り返る。
ζ(゚、 ゚*ζ 「……長岡さん」
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( ゚∀゚) 「ん?」
ζ(゚、 ゚*ζ 「…………。…………ごちそうさまでした。お食事、…………美味しかったですわ」
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( ^∀^) 「おう、そう言ってもらえると、俺もうれしいよ」
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373 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 22:51:49 ID:JUgNWWnY0
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三行
餌
付
け