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345 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 21:23:08 ID:JUgNWWnY0
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Place: 草咲市 灰木町 字 祇路 166-3 とある橋の下。
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Cast:子子子ギコ 志納ドクオ 間アザム 久部ギヤン
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346 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 21:24:52 ID:JUgNWWnY0
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空には、うっすらと雲がかかっている。
子子子ギコは橋の下で川の流れを眺めていた。
主要な道路の通る、大きな橋だ。
舗装された川原はそれなりに広い。
しかし、暗く湿った空気と、こびり付くような黴の臭いが人を寄せ付けない。
周囲はそれほどでもないが、昨日から今朝にかけて降った雨の痕跡がまだまだ濃く残っていた。
ギコは人を待っていた。
自分から呼び出したのだが、相手がギコの連絡に応じるかどうかは分からない。
なにせもう三日ほど待っている。
携帯電話などの連絡先も知らないので仕方のないことだ。
それに、特別急いで生きている身でもない。
たった数日の待ち人など、苦にもならなかった。
頭の上を車が過ぎてゆく。
そこに、質の違う足音が聞こえた。
ただ急ぐのとは違う、忍ばせた駆け足。
ギコは息を吐いて立ち上がる。
待ち人が来た。もう少し待つかもしれぬと思ったが、案外に早かった。
(,,゚Д゚) 「久しいな。急に呼び出してすまなかった」
橋から直接飛び降りてきたその男には、黒い服で全身を覆っていた。
トレーナーに備えられているフードを目深に被っているので、顔をはっきりとは見えない。
いかにも不審者だ。日陰者の身ではあるが、流石にらしすぎる。
('A`) 「……あんな伝言で、来ると思ったのか」
(,,゚Д゚) 「来なかったらそれまで、だな。こちらから出向いても良い話ではあるし」
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347 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 21:26:50 ID:JUgNWWnY0
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彼は志納ドクオ。ギコと同じく吸血鬼だ。
歴は非常に浅いが、どうやら才能があったらしい。
本人からの連絡は無くとも、噂は嫌と言うほど耳に入る。
('A`) 「どうやって俺の居場所を知った」
(,,゚Д゚) 「簡単な話だ。お前が居そうな場所に目星をつけ、仲間に張り込んでもらった。
幸いお前の顔は既に有名になっているし、見つけるのは簡単だったと聞いている」
('A`) 「……」
(,,゚Д゚) 「外歩きする際は、もう少し気を付けた方がいいだろう。杭持ちに見つかれば住処ごとやられるぞ」
('A`) 「……俺を態々呼び出した要件はなんだ」
前置きに飽きたらい。
ドクオの視線は嘘や誤魔化しを一切許さぬという気迫があった。
(,,゚Д゚) 「……順を追って話そう。まず、今のお前の現状についてだ」
('A`) 「……」
(,,゚Д゚) 「お前の脅威度が、AAに設定された。この意味は、分かるか?」
('A`) 「……ああ」
杭持ち……対吸血鬼のための武力組織、正十字協会は吸血鬼に脅威度を設定している。
単純な話だ。この脅威度が高ければ高いほど危険とみなされ、討伐を優先される。
そしてAAというのは、事実上最高の脅威度。
ギコが知る限りで、吸血鬼化から半年も立たずにここまで引き上げられた者はいない。
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348 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 21:29:10 ID:JUgNWWnY0
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実質の最高位であるAAは未満のランクに比べると杭持ちの対応が大きく異なる。
細かく挙げれば多々あるが、吸血鬼としてもっとも厄介なのが、『追跡者』の存在だ。
『追跡者』とは読んで字の如く、対象の吸血鬼を専属で付け狙う杭持ちのことだ。
地雷女に対する素直クール、棺桶死オサムに対する百々クックル、鴨志田フィレンクトに対する盛岡デミタスなどが該当する。
彼らは戦闘集団である杭持ちの中でも特に実力を認められた猛者達だ。
当然その他の杭持ちとは格が違い、人と吸血鬼という種族の差を容易く埋めてくる。
そんな超人たちが、土地も選ばず延々と追いかけてくるのだからたまったものではない。
過去、凶悪性だけでAAに認定されたような実力不足の者たちは、蝋燭を吹き消すより容易く殺された。
('A`) 「……俺に当てられる杭持ちは誰か分かっているのか?」
(,,゚Д゚) 「流石にそこまではわからん。が、追跡者足りうる杭持ちで今手が空いているのは……」
ギコは、スラックスのポケットから、数枚の写真を取り出し、ドクオに渡す。
映っているのは枚数と同数の杭持ちの写真。
この中の誰かがドクオの追跡者になる可能性が非常に高い。
(,,゚Д゚) 「その写真はやろう。予め頭に入れて、見かけたらすぐに逃げろ。下手に戦おうと思うなよ」
('A`) 「そんなにヤバい奴らなのか」
(,,゚Д゚) 「人間と思わない方がいい。血刑がばれ、対策を練られた状態で勝ち目は薄い」
('A`) 「……わかった、忠告はありがたく受け取る」
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349 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 21:30:17 ID:JUgNWWnY0
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('A`) 「で、だ」
ドクオの目がギコを見据えた。
疑りと言うよりも確信を持っている。犯人を問い詰める探偵のようだとギコは苦笑する。
('A`) 「何故、俺にここまでする?あんたは確かに親切屋ではあったが、それ以上に平和主義者だ。
杭持ちと諍いを起こしている俺に親身になるほど状況の読みができない奴では無いと思ってたが」
そうである。
脅威度AAというのは単なる強さでは無く、凶悪性を込みにした物。
人間に協力することで安全を確保しているギコにとっては最も避けるべき存在だ。
彼に情報を流していることが杭持ちに知られ、仲間であると判断されれば危険はギコの仲間にも及ぶ。
人の信頼を得、今の立場にたどり着くには相応の苦労があった。
些細なことで失って、笑って済ませられることでは無い。
('A`) 「それに、だ。この街の、仲間の吸血鬼の安否を気遣うあんたに取っちゃ、脅威を招く俺は邪魔なはずだ。
なぜ、逃走を促さない?あんたの言葉尻には、俺をこの街に留めようという意識さえ感じたぜ? 」
(,,゚Д゚) 「やれやれ、勘のいい男だとは思っていたが……」
('A`) 「……今、この街に起きている異常か?」
(,,゚Д゚) 「そうだ。お前の力を、借りたい」
できればギコに優位な流れで話したいことではあったが、やむを得ない。
ギコは居直って、ドクオに事情の説明を始めた。
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350 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 21:31:46 ID:JUgNWWnY0
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現在、草咲市ではいくつかの異常が起きている。
特別大きな案件では無い。一つ一つはこの街では比較的当たり前に起きることだ。
ただし、それが同時に、平時よりも明らかに多い頻度で起きている。
(,,゚Д゚) 「今、この街で意図的に吸血鬼を生み出している奴がいる」
('A`) 「……」
(,,゚Д゚) 「人の生殖機能を失った吸血鬼にとって、同族を生むことは性欲に似た強い衝動を孕む。
俺ですら、時々衝動に駆られるからな。野良生活で孤独に怯えるものが子を作ろうとするのは珍しくは無い」
('A`) 「だが、それにしては数が多すぎると」
(,,゚Д゚) 「そうだ。ほとんどの事案で、手口が似ていることから、犯人は同一犯だと思っていた。
俺たちも、杭持ちもな。だが…… 」
数日前、一人の吸血鬼が杭持ちに捕らえられた。
杭持ちの吸血鬼リストから洩れた、想定脅威度A並の異分子。
実力、強力な暗示で意識を奪ってから攫うという手口、判明した住処の状態から、犯人はその仮想Aであると半ば断定されていた。
しかし、仮想Aが捕らえられた翌日に、また同様の事案が発生する。
それも数件だ。一安心していた杭持ちを嘲笑うように粗悪な吸血鬼が量産され、人を襲った。
('A`) 「模倣犯、か」
(,,゚Д゚) 「ああ、だが、少し様子が変なのは、お前も分かるだろう」
('A`) 「『強力な暗示の力』……ね」
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351 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 21:33:22 ID:JUgNWWnY0
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吸血鬼には多少の暗示能力が必ず備わっている。
だが、瞬く間に相手の意識を奪うレベルとなるとかなり希少だ。
普通の性能では精々自分をから意識を逸らさせる程度が限界。
それ以上しようとすれば面倒なプロセスが必要となる。
だから、大概の吸血鬼は吸血後に記憶を飛ばしたり、意識を逸らして目撃者を減らすため程度にしか使わない。
(,,゚Д゚) 「一瞬で相手を意のままに出来るとなると、相当に強力な能力でなければならない。
一人目だけならばまだ分かるが、もう一人現れるというのはいくらなんでも違和感がある」
('A`) 「確かにな……」
(,,゚Д゚) 「正十字も人員を増やす動きはあるようだが、そこにお前に差し向けられる追跡者も加われば
少なくとも犯人も迂闊はできないはずだ。現に一人目が捕まった直後に数人を吸血鬼化した後、
杭持ちの警戒が高まるのに準じて被害は抑えられている 」
('A`) 「……俺に、その話に乗る旨みがあると?どっちかと言えば、逃げた方がお得なわけだが」
(,,゚Д゚) 「……この件には、地雷女も絡んでいるようだ」
地雷女、の名を聞いた瞬間に、ドクオの気配が変わった。
これがあるから、ギコは素直に事情を話したのだ。
きっと乗る。彼にとって、彼女との関わりは何よりも得たいはずだ。
しばしの思案、ドクオが顔を上げた。
言葉を聞かずとも答えが分かる。
乗ってくれるようだ。内心安堵の声をあげると同時に、ギコはドクオの言葉を制する。
('A`) 「?」
(,,゚Д゚) 「しまったな……少々油断したか」
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352 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 21:34:50 ID:JUgNWWnY0
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ギコの視線は川の中へ向けられている。
増水気味のやや濁った水の中。明らかに周囲とは違う点が二つ。
目立たぬよう、近場を仲間に見張らせていたがまさかそこから来るとは。
ギコは息を吐く。厄介なところを見られてしまった。
(,,゚Д゚) 「出てきたらどうだ。息もそうもつまい」
('A`) 「……?」
ギコの言葉に、少々遅れて水面が応えた。
ブクブクと泡が立ち、水が爆ぜる。
水の中から現れたのは二人の男だった。
どちらも黒いスーツを着て、顔にゴーグルとシュノーケルを被っている。
杭持ちだ。それも、中々厄介な。
( ‐=ll=-) 「……流石は『親猫』と言う訳か」
〈 十〉 「しかしまあ、偶然見つけた『蠍』をつけて巣穴を探ろうと思えば、面白い状況に出会えたものだ」
ギコは舌を打つ。
ドクオと関係性があることがばれてしまった。
他の低脅威度の者たちならともかく、AAのドクオとだ。
下手な言い訳は立つまい。
ドクオがただただ危険な吸血鬼でないことは確かなのだが、杭持ちはそう思ってはいない。
彼らからすれば親人間派のギコはドクオと敵対して当然であるし、こうして同盟を結ぶような行為は裏切りに等しい。
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354 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 21:36:08 ID:JUgNWWnY0
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( ‐=ll=-) 「待て、早まるな『親猫』」
〈 十〉 「会話の内容は聞いている。『蠍』を庇おうというような発言は問題だが、
それもあくまでこの街の異変を憂いてのことと理解している。同じく、貴様の微妙な立場も、な」
( ‐=ll=-) 「まだ、我々は貴様を敵とは認識していない。故に貴様に手を出すようなマネはしない」
〈 十〉 「我々の狙いは『蠍』の志納ドクオ。直接的に庇う真似さえしなければ、われわれの盟約は保たれる」
つまりは、今からドクオを殺すが邪魔するな、ということだろう。
既に何らかの連絡をされている可能性もある。
この二人を屠ったとして、仲間の安全を保てるとは限らない。
いざとなれば策はある。ここは一応杭持ちに従う態度を見せておいた方がいいだろう。
ギコはちらりとドクオを見た。
彼は草臥れた顔で唾を吐く。
('A`) 「勝手に変な名前付けて、勝手に話進めやがって」
ドクオは自分の首の後ろをおもむろに親指の爪で刺す。
杭持ち二人が構えた。
後頭部付近から流れ出た血はそのままヒモのように伸び、2m弱の長さで空中に留まる。
先端は爪状の刃になっており、これを鞭や触手のように操って戦うのだろう。
丁度いい。
この短期間に最高脅威度に認められたその力、一度見て見たいとは思っていた。
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355 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 21:38:35 ID:JUgNWWnY0
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( ‐=ll=-) 「ギヤン、血刑には気をつけろよ
〈 十〉 「分かり切ったことを」
一人が構えるのは短機関銃。拳銃よりも連射性に優れ、近接戦闘に置いては驚異的な優位性を誇る。
吸血鬼が人間よりも頑丈とはいえ、あれを格闘戦に盛り込まれると非常に辛い。
もう一方、ギヤンと呼ばれた方が背中から引き抜いたのは、剣のような長杭。
通常の杭と異なり、肉厚の両刃。鍔が椀状の西洋のサーベルを思わせる拵えだ。
逆の手には、丸いブリキ張りの盾を備えている。吸血鬼狩りと言うよりも剣闘士のようだ。
どちらの装備も杭持ちの標準とは異なる。
こういった装備が許されるということはつまり、この二人がそれだけ実力を認められているということ。
〈 十〉 「行くぞ、『蠍』!!」
水から飛び出すギヤン。
抵抗の大きい中から飛んだとは思えぬ大きな跳躍でドクオに飛び掛かる。
腕を畳んだ構えから、鋭い突きを放つ。
ドクオは大きく後退して回避。
しかし、その体を銃弾の群れが襲う。
二発がドクオの腹を穿った。腹筋で止め出血は微小。
衝撃で体がよろける。
着地したギヤンは、水で残像が出来るほどの速さで前へ。
盾を前に出し、反撃を封じながらの突進だ。
ドクオは倒れるように横へ逃れる。
地面に手を付き、覗き込むような形から、血の触手をギヤンの脇腹へ。
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356 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 21:39:33 ID:JUgNWWnY0
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飛び掛かる蛇の如くであったが、追ってきた盾に弾かれる。
追撃の暇も無く、ドクオは転がってその場を逃れた。
激しい銃声と共に舗装のコンクリートが爆ぜる。
(,,゚Д゚) 「……」
ギコは手を出さずに離れた。
ドクオの協力は確かに欲しいが、杭持ちとの無用な対立は避けなければならない。
申し訳なく思うが、自分の撒いた種だ。自身で何とかしてもらうほかあるまい。
短機関銃の銃口がドクオを追う。
数で圧倒するのがミソの火器であろうが、無駄玉は使っていない。
外れた弾も回避されているだけでなく、誘導の意志をもって使われている。
ギコであればいくらでも対応できるが、元々戦闘技術など持たないドクオがどれだけ出来るのか。
味方の銃弾が飛ぶ中を、再び突進するギヤン。
流れ弾を恐れる様子は無く、銃手信頼度の高さが見える。
ドクオは後退で距離を保ちながら、触手を上方から回り込ませた。
盾が引きつけられれば、空いた胴を狙うつもりだったのだろう。
しかしそれはギヤンも読んでいた。前傾姿勢で体を捩じり、杭で触手を弾く。
そのまま螺旋を描いて回転。
うつ伏せる状態に戻ると同時に地面を蹴って、自らの体をミサイルのようにしてドクオに飛び掛かる。
回避が間に合っていない。
盾による突進で体を突き飛ばされ、尻を付くドクオ。
ギヤンは膝立ちで耐え、完全に体勢を崩すことは避けている。l
弾かれた位置から、咄嗟の判断でギヤンを狙う触手。
しかし、それも半ばから斬り飛ばされた。ドクオは唯一の武器を手放すことになる。
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357 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 21:41:32 ID:JUgNWWnY0
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無防備なドクオ。
片足をギヤンの下半身の下敷きにされ、逃れることも難しい。
盾を作るような量の血を急に流すほどの余裕も無い。
ギヤンが小さく剣を振り上げる。
頭か心臓か、一旦首か。
瞬殺は出来なくとも、自由を奪うだけでも十分だ。
〈 十〉 (貰った!!!)
突き出される剣。
激しい音と共に、その切っ先が。
(,,゚Д゚) 「!」
〈 十〉 「?!」
コンクリートの地面に弾かれる。
ドクオが躱したのではない。ギヤンの攻撃が外れたのだ。
戸惑うギヤンを、ドクオは封じられていない足で蹴り飛ばした。
後ろに転がされすぐさま立ち上がろうとするギヤン。
しかし、膝から下を失ったかのように地に伏せた。
神経系の毒が回っているのだ。こうなっては真面に戦闘の継続は出来ない。
〈 十〉 「なッ、呼吸は止めていた!どうやって毒を……!」
確かに、血の触手は当たってはいないし、ドクオは血の毒を揮発させていたわけでもない。
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358 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 21:42:31 ID:JUgNWWnY0
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〈 十〉 「くッ……アザム!なにをしている!!」
( ‐=ll=-) 「……済まない、ギヤン……」
〈 十〉 「何ィ?!」
川の中から銃撃による後方支援をしていたもう一人、アザムが銃を落とす。
どこか不安定な視線と、川の流れの中立つのが精一杯の下半身。
ギヤンと同じ毒のようだが、症状はより進んでいる。
〈 十〉 「いつの、間に……!」
('A`) 「……」
立ち上がり、服に付いた汚れを払うドクオ。
勝負はついたのだ。解毒剤を持たなければ、この状態からの回復は不可能。
偶然見かけて追跡していたのならば、そんな物は持ち合わせていないだろう。
('A`) 「……御大層に『蠍』なんてあだ名をつけてくれたんだ。使わねえ理由はねえだろ」
そう言いながら、ドクオは自分の指を舐めた。
爪で浅く切り裂いた跡がある。唾液が触れたことですぐに塞がったが、周囲には血が残っていた。
('A`) 「杭持ちに対策を練られてるのは、自覚していた。だから、ちょっとブラフを立てさせてもらった」
〈 十〉 「……そう言う、ことか」
ギヤンが歯ぎしりを立てた。
理解したのだろう。自分たちがそもそも勘違いさせられたことに。
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359 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 21:43:55 ID:JUgNWWnY0
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('A`) 「お前らはきっと、ここ数回俺が逃した杭持ちの話から、あれが俺のスタイルだと思ったんだろ?」
('A`) 「だから、『蠍』。毒の尻尾っぽいしな。お役所派生にしちゃセンスあるよ」
ドクオは、いかにも目立つ触手を囮に、僅かな隙を狙って毒針を撃っていたのだ。
針は極小。致死性とは縁遠いものだが、戦闘不能にするには十分な量だった。
見ればギヤンは剣を持つ親指の付け根に、アザムは顎のすぐ下に、虫刺されのような跡がある。
('A`) 「過去に針で殺した奴はいないしな。触手で戦う吸血鬼と勘違いしてもらえてうれしいよ」
ドクオは切り落とされ、地面にこべりついた血に人差し指をつける。
渇いておらず、酸化もしていない一部の血だけを集め、指先に長い爪を作り出す。
('A`) 「……ここまで話したし、ま、話すまでもなく気づいただろうけど、もうしばらく俺に楽をさせてくれ」
〈 十〉 「くッ……」
もはや剣を持つことすらできなくなったギヤンにドクオが近づく。
撒いた餌の効果を維持するには、針に気付いた者は殺さねばならない。
(,,゚Д゚) 「待て、志納」
('A`) 「……さっきの話、乗ってやる。がお前の傘下に入るわけじゃない。命令は聞かん」
(,,゚Д゚) 「分かっている。だから礼代わりにここは俺に任せてくれ」
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360 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 21:44:56 ID:JUgNWWnY0
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ドクオに歩み寄っていたギコの姿が唐突に消えた。
風が吹き抜け、小さな打撃音と共にギヤンが白目を剥く。
アザムが驚きの顔を見せたが、数秒遅れて彼も意識を失った。
水面を水切石の如く走ったギコが、鞭のごとき手刀で首筋を打ったのだ。
崩れ水に沈みそうなアザムの体を担ぎ上げて、ギコが川原へ戻る。
(,,゚Д゚) 「解毒剤は作れるのか?」
('A`) 「……どうするつもりだ」
(,,゚Д゚) 「介抱して、回復したならばしいに記憶を改竄させる。杭持ちはしいがそこまでの暗示を使えることは知らん」
('A`) 「……」
(,,゚Д゚) 「俺とお前の関わりも誤魔化せるし、お前と戦った内容もいくらでも改竄できる」
('A`) 「……なら、いい」
ドクオはパーカーのポケットから栄養ドリンクのビンを取りだした。
茶色いピンの中には半ほどまで粘度の高い液体が入っている。
('A`) 「俺の血で作った中和剤だ。そもそも死ぬようなもんでは無いが、回復を早めることは出来るだろう」
(,,゚Д゚) 「恩に着る」
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361 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 21:45:39 ID:JUgNWWnY0
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('A`) 「代りと言っては何だが、俺からもアンタに頼みがある」
(,,゚Д゚) 「内容によっては引き受けよう」
('A`) 「コイツのことを調べてほしい」
ドクオが差し出した写真に映っているのは、彼と同居している青年だった。
男らしいはっきりとした顔立ちで、体型もしっかりしている。
日陰者の代表格のようなドクオとはあまり接点が無さそうに見えたが。
('A`) 「名は長岡ジョルジュ。俺の昔の友人なんだが、最近になって接触してきた
そいつの周辺を出来る限り洗ってもらいたい 」
(,,゚Д゚) 「……無礼なことを承知で答えるが、その男の身辺は一通り洗った。杭持ちや裏の討伐屋の類では無いぞ」
('A`) 「それはわかってる」
ドクオはギコに詳しい事情を話す。
写真の青年、ジョルジュが吸血鬼にしてくれと頼み込んできていること。
その理由をまったくと言っていいほど話そうとしないこと。
('A`) 「何か事情があるようなのは確かなんだが。このまま放っておくと、他の吸血鬼に体よく利用されかねん」
(,,゚Д゚) 「分かった。早急にとはいかんが手を回してみよう」
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362 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 21:46:22 ID:JUgNWWnY0
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('A`) 「何かわかった時には、ここに連絡をくれ」
ドクオは番号のかかれたメモを渡すと、パーカーのフードを目深に被り直し橋の下を出ていった。
念のため、近隣にいる仲間に連絡し彼が街を去るサポートに当てた。
(,,゚Д゚) 「……さて」
とにかく志納ドクオを味方につけることには成功した。
重要な戦力だ。危うい男ではあるが、十分に役に立つ。
(,,゚Д゚) 「早く、原因を見つけ無ければ」
二人の人間を軽々担ぎ、ギコはアジトへと足を向けた。
やるべきことは山ほど多い。
彼らの願う人と吸血鬼が殺しあわずに済む世界は、まだ遠いのだから。
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363 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/08(金) 21:48:21 ID:JUgNWWnY0
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三行
三 OOてゝ
三 O カサカサカサカサ
三 ヾハハ'A`)へ