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249 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/29(土) 23:33:04 ID:gpa8a09A0
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Place: 草咲市 東芒二丁目 14 静かな趣の洋風建築
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Cast: 流石兄者 素直クール 美麗な少女たち
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250 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/29(土) 23:34:40 ID:gpa8a09A0
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「これは、吸血鬼が住むのにおあつらえ向きなところですね」
草咲市の市街地の外れ。隣市である井谷市との境にその洋館はあった。
旧国道から少し外れ、最近開発の進んだ住宅地を抜けるとぽつりと突然現れる。
一つだけ明らかに年代が違う。
外観は、ほぼ廃屋同然。
敷地をぐるりと囲む鉄柵には、鉄線で「危険」の看板が括られている。
「行こう、流石くん」
「はい」
鉄格子の扉を封じていた鎖を、銃で断つ。
立派な住居侵入罪だが、やむを得ない。
所有者と連絡が取れないのだ。
そもそも、ちゃんとした管理人が存在するのかも怪しい。
いくらか調べていたが、それらしい人物が見当たらなかった。
相続の過程で漏れてしまったのか、それとも、意図的に所有者を不明な状況にしたのか。
ここが吸血鬼の根城であった、という話が真実味を帯びていく。
「二階のガラスが数枚割れているようだ」
「石ころや何かで割った、という感じでは無いですね」
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251 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/29(土) 23:37:41 ID:gpa8a09A0
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洋館の入口にも、やはり鍵がかかっていた。
南京錠では無く、扉に備え付けの鍵だ。
受け継がれる上で改修を行わなかったのか、趣を重視して変えなかったのか。
洋館同様、鍵もかなりの年代もののようだ。
「流石くん」
「大丈夫です」
俺は専用の工具を、鍵穴に差し込む。
最新の錠は難しいがこれだけ古いものなら俺でも外すことが出来る。
鍵の職人がよほど凝ったことをしていなければ、10分もかからない。
予想通り、数分で閂が重い音を立てた。
ドアノブを慎重に捻ってみる。開いた。
各部の取りつけは、見た目の割にはしっかりしているようだ。
「流石流石くんなだけある。空き巣もお手の物だな」
「身に着けろといったのは素直さんでしょう。付け焼刃ですよ」
「いやいや。真剣に鍵穴を覗き込む姿は、熟練の盗人のそれだったよ」
無機質な、一定のトーンで冗談を言う。
ラジオの未選局ノイズの方がもう少し起伏と面白味に富んでいる。
俺は反論を辞め、工具の代りに取りだした懐中電灯で屋内を照らした。
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252 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/29(土) 23:39:01 ID:gpa8a09A0
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中は、想像よりもいくらか綺麗に保たれている、ように見える。
床に埃が積もってこそいるが、掃除すればすぐにでも住めそうなほどだ。
一歩、踏み込む。
埃が舞い上がり、電燈の光の中で靄に変わった。
これが、『乙鳥ロミス』が生前隠れ家にしていたという屋敷。
「住人がいなくなってから数か月、といったところか」
ゆっくり奥に進む俺の後ろ。
埃を指で掬い取り、クールが呟く。
本当ならば事前に得た情報と合致する。
埃のつもり具合で推測した物なので断定はできないが、大よそ間違ってはいないだろう。
俺も、同じような感想を持った。
今のところ何かが潜んでいる気配は感じない。
埃からして、実際に何かがいるということも無いのだろう。
それでも慎重に歩を進めるのは、ここがあくまで吸血鬼の根城であったとされる場所、だからだ。
吸血鬼が、一国一城の主になるなど、普通は不可能だ。
そう言った手合いは底抜けに運が良いか、狡猾で賢く非常に用心深いかのどちらか。
後者であった場合、杭持ちに侵入された際に備えて罠の一つや二つしかけていてもおかしくは無い。
「こういった場所は、俺より素直さんが前に出た方がいいんじゃないですかね」
俺も人より五感が優れているつもりだが、クールには負ける。
クールは、六感まで含めて獣に近い感度を持っている。
罠の類を見破るなら、彼女の方が確実性が高い。
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253 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/29(土) 23:41:17 ID:gpa8a09A0
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「もし私がうっかり罠にかかった場合、私が辛い思いをする。死ぬことすらあるだろう」
「はい」
「流石くんが罠にかかった場合、私は君に「間抜けが」と飽きれるだけで済む」
「はい」
「そう言うことだ」
成程確かに。言い得ている。
俺も、この場に部下がいれば先に歩かせて安全確認に使うだろう。
鉱山における小鳥のようなものだ。
彼女の意見には、賛同せざるを得ない。
俺のすることは一つ。罠があったら回避。
あわよくば、後ろに続くクールだけがその餌食になれば大変に愉快だ。
「さて、どうします?」
期待に反し、罠らしきものは無かった。
玄関ホールから続く広い空間。
左手にはダイニングらしいテーブルと椅子の置かれたスペースがある。
奥には恐らくキッチンがあるのだろう。
正面には二階へ続く階段。右手には客間らしい扉があった。
純粋な洋館というより、どこか日本建築の匂いを感じる。
元の主の趣味だったのだろうか
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254 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/29(土) 23:42:44 ID:gpa8a09A0
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「二階へ行ってみよう。あのガラスの割れていた部屋が気になる」
「そうですね。」
これだけ調えられた内装で、ガラスだけを放置していたとは考えにくい
昔から割れていたのならば、きちんとした補修していたはずだ。
家主と仮定する、『乙鳥ロミス』が地雷女に殺されたという情報を信じるならば。
その現場はあの割れガラスの部屋である可能性が大いにある。
本人が殺された、あるいはそれなりの手傷を負い、ガラスを直す余裕が無かったのだろう。
もしこの予想があっていれば、他にも何か、手がかりがあるかもしれない。
階段下から二階を照らす。
白い、円形の光に照らされたそこを見て、俺とクールは顔を見合わせた。
登ってすぐの壁に、大きな血の跡がある。
それだけでない。壁のみならず階段の手すり、天井にまで破壊された痕跡があった。
埃を払えばすぐにも使える一階とは、大きな違いだ。
まさに天と地獄。地獄の方が上にあるあたり、なかなか面白い。
「行こう流石くん」
「吸血鬼が潜んでいて襲われるなんてことは」
「何を言っているんだ流石くん。居たら素直に殺せばいいだろう」
「流石ですよ、素直さんは」
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255 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/29(土) 23:43:38 ID:gpa8a09A0
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一段登るたびに軋む階段。
左手で懐中電灯を逆手に持ち、その甲に銃を持った右手を置く。
何かがいるとは考えにくいが、念の為だ。
後ろには同じく銃を構えるクール。
この女のことだ。ついうっかり引金を引きたくなって俺の背中に発砲してくる危険性もある。
急がなければ。
二階も、一階と同じく埃が積もっている。
戦闘を行った形跡がある以外は下と同じだ。
「どう思う、流石くん」
「破損の状態から見て、爆発物ですね。が、焦げた臭いはしない。
それにこの壁や地面に張り付くような独特な発破痕。恐らく地雷女で間違いないかと思います」
「概ね同意見だ」
「ただ、少し疑問が」
「なんだね」
「地雷女がこれだけ血刑を駆使して戦った相手は、本当に乙鳥ロミスだったんでしょうか。
この状況を見るに、地雷女はかなりの苦戦をしています。
ほぼ無名同然の乙鳥ロミスにそこまでの能力があったとは思えません」
通称で「地雷女」と呼ばれる吸血鬼は、非常に高い戦闘能力を有することで知られている。
血刑もさながら、本人の膂力も高い。
過去には、仮死寸前の状態で五人の杭持ちを殺したという記録もある。
最近でこそ大人しいが、まぐれで善戦できる相手では無いのだ。
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256 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/29(土) 23:44:43 ID:gpa8a09A0
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「では、地雷女と戦ったのは別の誰かであると、君は思うのかい」
「地雷女の目的が乙鳥ロミスであったことは、聞き込みの結果からして確実です。
何らかの情報を仕入れ、ここにたどり着き、ロミスと戦闘になった。そこまでは納得がいきます。
しかし、それにしてもこの有様に繋がる物でしょうか。
資料に辛うじて名前が載っていた程度の吸血鬼が、地雷相手にそこまで善戦できたというのがどうにも腑に落ちない」
資料のみならず、吸血鬼たちへの聞き込みでも、ロミスが力自慢の吸血鬼で無かったことはわかっている。
常に杭持ちや人間の迫害を恐れ、人目を避けて歩く。
それが多くの口から語られるロミスのイメージだ。
謎が多く、それらの情報が全てではないだろうが、武闘派であるような印象は一切無かった。
「よほど巧妙に力を隠していたか、別の協力者がいたか、あるいは」
言葉を切る。
クールの目が鈍く光った。
「既に名の知れた吸血鬼が偽名を騙っていた、と」
「可能性は無いことも無いかと。ただ、乙鳥ロミス、という「人間」は実在しました。
回収された死体は、乙鳥ロミスが吸血鬼化したものであると確認されています。
なので、実在する乙鳥を隠れ蓑にしていた別の吸血鬼が居た、と言ったところでしょうか」
「少々突飛な発想の気もするが。乙鳥が隠れた実力を持っていたと考える方が自然じゃないか」
「ええ。ただ乙鳥ロミスは3年前に吸血鬼になったばかりの、新参です」
窓ガラスが割れていた部屋へ。
やはり荒れている。
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257 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/29(土) 23:46:08 ID:gpa8a09A0
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「地雷女と渡り合う力を、噂一つ立てずに隠しきれるものでしょうか」
壁には、爆破による破砕の他に刃物を突き刺したような創がある。
断面に擦れたような血の跡。血刑によるものだろう。
地雷女も血の硬化はできたはずだが、発破に大量の血を利用している。
これは『乙鳥ロミス』の物であると考えるのが妥当だ。
「この屋敷を手に入れた手際からして、異常だとは思っていたんです。
それに加えてこの有様。乙鳥ロミスには何かある気がしてなりません」
「ふむ、流石くんがそこまで気にかけるのならば、洗い直してみようか」
「ええ。基本的に俺一人でやる羽目になるんでしょうが」
「安心したまえ流石くん。コーヒーくらいは淹れようじゃないか」
眉間を揉みながら部屋を出る。
結局、「激しい戦闘があった」以上の情報は得られていない。
他の部屋も巡ってみるが、結果は同じだ。
「また空振りか。どうにもうまく進まんね、地雷の捜索は」
「地雷女と乙鳥が接触していたことを確認できただけでも重畳だと思いましょう」
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258 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/29(土) 23:47:21 ID:gpa8a09A0
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この屋敷を見つけるまでにはそれなりの時間を食った。
正直、それに見合うだけの情報は得られていない。
表で破壊した鎖の事後処理も残っている。
骨折り損のくたびれ儲けとはよく言ったものだ。
得たものと言えば精々乙鳥ロミスの存在に対する不信感程度。
「なんだこれは」
最後に回った、戦闘の形跡が無い一室。
諦めて部屋を出ようとする俺の背後で、クールが呟いた。
振り返ると、部屋の隅にあったクロゼットを開けている。
そう言えばあのクロゼットはまだ見ていなかった。
他の部屋のものは、乙鳥が着ていたらしい紳士服の類ばかりで、特に価値は無かったのだが。
「これは、どういうことですかね」
覗き込んだ俺も少々驚いた。
クロゼットの中には、服がずらりと並んでいる。
ただし、これまでのような紳士服の類とは異なる。
子供服だ。様々な色の、鮮やかなドレス類。
どう見ても乙鳥ロミスが着られるサイズではない。
「どうやら、ただの趣味では無いらしい」
クールが下段の引き出しを開く。そこにも、衣類が詰まっていた。
ただし、ほとんどが下着だ。どれも子供用のサイズ。
ショーツとキャミソールはあるが、ブラジャーが無いところを見るに、10代前半か、未満の女児向け。
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259 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/29(土) 23:48:47 ID:gpa8a09A0
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「どう思う流石くん」
クールの質問に、推測したことを素直に答えた。
「そうか」と答えた後、クールが意味ありげに俺を見る。
「流石は流石くんだ。女児の下着事情をそこまで推測できるとは」
「歳の離れた妹がいるんです。ずっと世話をしていたから、見慣れているんですよ」
「安心した。もし君に怪しい趣味があるとなると、さしもの私も少々戸惑うからね」
別の引き出しを開けるクール。
この女が戸惑うならば、少々異常性癖を騙ってもよかったかも知れない。
「見給え流石くん。ここ二つ分、引き出しに下着が入っていない」
「上のハンガーも、よく見ると一角が不自然に空いています」
「誰かが、服を持って行った」
「恐らくは」
「こんな服を持って行く人間がいるとすれば」
「変態か、使っている本人でしょうね」
「流石くん。ロミスの死に関して、保護された人間はいたか」
「資料には特に記載されていなかったかと」
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260 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/29(土) 23:49:51 ID:gpa8a09A0
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乙鳥ロミスは、路上で死体が発見された。
運び捨てられたのではなく、逃走中に殺害されたとみられている。
故に、ロミスがこんな屋敷に住んでいたことも、今回調査を始めて初めて発覚したのだ。
杜撰に見えるかもしれないが、杭持ちが抱える吸血鬼の事件は多い。
脅威度も設定されていないような無名の死体に時間をかけてはいられないのだ。
「該当する時期に子供が保護されていなかったか、警察にも問い合わせてみましょう。
跡形も無く食い殺されていない限り、何か手がかりを持っている可能性もあります」
「そうだな。大穴で、その少女が君のいう乙鳥に隠れた吸血鬼と言いうこともあり得る」
「まったくもって、絞り込めない情報ばかりが増えますね」
「ぼやくなよ流石くん。一つずつ調べてゆくしかない」
その調べごとをほぼ俺一人で行っているのが問題なのだ。
眉間に寄った皺を伸ばしながら、一階へ。
地雷女の足跡は期待できそうにないが、今は乙鳥ロミスが気にかかる。
既に死んでいるので空振りだった場合非常に無意味なのだが、そうも言っていられない。
吸血鬼が潜んでいる気配は無いため、クールと二手に分かれて部屋を回る。
主な居住は二階で行っていたのだろうか。
まったく使われていないか、物置代わりになっている部屋ばかりだった。
最後に調べたダイニングで、日用品の備蓄を見つけた。
歯ブラシが、二種類ある。
大人向けの硬めのものと、小児向けの柔らかめのもの。
やはり、乙鳥の他に子供がいたことは間違いない。
万が一に人形趣味の可能性もあったが、予備の歯ブラシまで準備するとなると少々異常が過ぎる。
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261 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/29(土) 23:53:10 ID:gpa8a09A0
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「流石くん、来たまえ」
ダイニングの調査を打ち切り、呼ばれたままクールの元へ。
彼女がいたのは、階段裏の廊下。
一見して何かがあるようには見えないが、熱心に壁を探っている。
「ここ、恐らく隠し扉になっている」
「本当だ。床板と壁に妙な隙間がありますね」
「開けられるか」
「こういうのは、見つけるのは難しくても仕掛け自体は簡単にしてあるのが定石なんですが」
壁の下部に、何やら頻繁に擦ったような、すり減った跡がある。
恐らくこれだろう。問答無用で蹴りつける。
閂が外れるような重い音がして、壁にまっすぐな線が入った。
仕掛けが外れたようだ。手をかけて引くと、扉となって地下への入口が現れる。
「流石だな流石くん。君に大泥棒の称号を与えよう」
相変わらず抑揚も感情も存在しない言葉を口から垂らしながら、クールが階段を下り始めた。
黴の匂いがする。肌に触れる空気も冷たく、中々吸血鬼の根城らしい空間だ。
クールの履くヒールが、高質な音を立て、響く。
深さは地下1.5階相当といったところか。階段を降り切ると、もう一枚扉があった。
木の板に、鉄製の輪の付いた古風なものだ。
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262 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/29(土) 23:56:09 ID:gpa8a09A0
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「行くぞ」とクールの唇が動く。
俺は銃と懐中電灯を構え、頷いた。
クールが扉をゆっくりと開け、俺が銃を差し込むように中へ。
まず見えたのは石造りの壁と、壁に飾られた造花。
階段よりもさらに冷たい空気が、頬を撫でる。
背筋が震えた。単純な寒さでない何かを感じる。
現在視認できる範囲には誰もいない。
クールが勢いよく扉を開け、自分も銃を構えた。
二人で銃と懐中電灯を突き出し、部屋をぐるぐると見渡して、同じ一点で動きが止まる。
「流石くん、どう思う」
「まず真っ先に、悪趣味だな、と」
地下室は、壁を飾る造花だけでなく、床には派手な色の絨毯が引かれていた。
所々、真鍮の冷たさを造花で隠した燭台が置かれている。
そうか。ここは。俺は、胸の内で納得する。
同時に、どこかぼやけてはっきりしない乙鳥ロミスという存在の片鱗を見た気がした。
電燈の光の先には、棺を模した、小さなベッドが二つあった。
模した、というのは、この場合不適切になるやもしれない。
そこには、各一つずつ、白骨化した死体が寝かされている。
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263 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/29(土) 23:58:11 ID:gpa8a09A0
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まぎれも無く、人の骨だ。しかも子供。身長は推定で130未満。
幼年期の骨格からは性別の判断が難しいが、恐らくは少女だったのだろう
頭には長い髪の鬘がかぶせられ、体にはドレスを着せられている。
標本と同様の加工を施され、艶のあるアイボリーに輝くそれぞれの骨。
被せられた鬘は人間の髪の毛だ。本人の髪から作ったものと推測される。
死後いくら時間が経ったのかは分からないが、瑞々しさを失わず、電燈の光に輝いている。
「異常性癖にしても少し行き過ぎているな」
「悪意は感じませんが、なおさら悍ましいですね」
「クロゼットの主は、この二人だと思うか」
「仮にそうだとして、クロゼットの中身を持ち去った人間が他にいることになりますが」
少女の首に、ロケットが下がっている。
卵を半分に割った形の、写真を収納できるものだ。
クールに目配せして開く。中にあったのは、少女の写真。
生前の彼女だろうか。美しい。幼いが、人の目を惹く魅力がある。
ロケットの裏側には、「愛しき娘、ここに眠る」と彫られていた。
なるほど、これが墓標代りというわけだ。
「攫ってきた娘を洗脳し飼い殺しにしていたといったところかな」
「被害者は二人以上。少なくとも乙鳥の犯行とはばれていなかった」
「どうやら乙鳥への認識を改めなければならないようだ」
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264 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/30(日) 00:00:13 ID:yFy/OhgA0
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乙鳥は恐らく誘拐した少女を家畜として飼っていた。
成人した女であれば色恋の感情を利用することも出来ただろうが、少女となれば別。
一時的に丸め込むことはできても、そう長くだまし続けることはそう簡単では無い。
ほぼ確実に、暗示の能力で洗脳したのだろう
長期的に暗示にかけるとなると、相当に強い能力だったと予測できる。
乙鳥の付いての情報が少ないもの、強力な暗示の能力で存在をごまかし続けてきたと考えれば辻褄は合うのではないか。
「流石くん、一旦戻ろう。地雷に含めて乙鳥の調査となれば、人手が要る。上に掛け合うぞ」
「動員してもらえますかね」
「そもそも地雷の捜索の人員が足りていない。意地でもさせる」
珍しくやる気だ。クールも、この件の不気味さに気づいている。
資料に記載されていた、脅威度の低い貧弱な「乙鳥ロミス」は偽りの姿だ。
別の個が存在していたのか、真の実力を隠し通してきたのかはまだ確定できないが、後回しに対処して良い存在では無かった。
地雷女が乙鳥ロミスを狙った理由はそこに起因する可能性がある。
さらに言えば、今現在草咲に留まる理由も。
「行くぞ、流石くん」
「ちょっと待ってください」
乙鳥をさらに調べるにあたって、この二人の少女についても調べなければ。
誘拐されたならば、警察に捜索願が出ているはずだ。
胸の墓標のロケット。写真だけで無く裏には名前も彫ってあった。
控えておけば役に立つだろう。そう思い名前をメモする俺の手が、二人目で止まった。
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265 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/30(日) 00:01:17 ID:yFy/OhgA0
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「どうした、流石くん」
「いえ。ロケットに記されていたこの綴り、名前かと思ったんですが」
「違うのか」
「二人とも同じなんです。『Dere Shizunome』。ロケットのメーカーでしょうか」
「それも含めて、戻って調べるしかあるまいね」
足早に階段を上がるクールに続き、俺も地下室を出た。
散々彷徨った屋敷を、まっすぐ玄関へ突っ切る。
不法侵入についてどう言い訳しようか。
屋敷を出て扉を閉めた時に、思い出す。
吸血鬼の一匹でもいれば、始末するために侵入したと言い訳が立つのだがそうはいかない。
結果として収穫は悪くなかったが、むしろだからこそ上司にはねちねちと説教を受けるだろう。
無意識にため息が出る。
「どうした流石くん」
「いえ、有能な上司を持つと大変だなと」
「流石の私も嫌味だと分かるぞ、流石くん」
相変わらず無感情な言葉。
分かっているなら、少しは改めて欲しいものだ。
眉間の皺を揉みほぐしながら、俺はクールと共に件の屋敷を後にした。
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266 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/03/30(日) 00:02:00 ID:yFy/OhgA0
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おわり
三行
ホーン
デッド
マンション