( ^ω^)マインドB!のようです

2話

67 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 17:36:00 ID:.uMl.oWw0
(*゚∀゚)「なーなー兄者っ!昨日は何処で何してたんだよ!」

ろくに手をつけていない問題用紙をそっちのけで、鉛筆をくるくると弄びながらつーが尋ねた。

( ´_ゝ`)「だからー、普通に家に帰っただけだって。そんで妹者とちょっと遊んだんだ」

昨日放棄した分と、今日の分の課題を時間内に片付ける事に苦戦していた兄者が
若干疲れた様子で答える。

(`・ω・´)「まったく兄者は。
      この前も同じ事やって怒られたっていうのに、ちっとも懲りないんだからな。
      ロマネスク先生が怒るのも当たり前だぞ!」

今日の分の課題を数十分前に終わらせ、
現在読書中の本から顔を上げずに口を挟むシャキン。

ζ(゚ペ*ζ「そうだよ!そのせいでデレ、昨日妹者ちゃんと遊べなかったんだからね!」

スケッチブックにクレヨンで文字を書く練習をしていたデレが、口をへの字に曲げて頬を膨らませた。

68 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 17:37:26 ID:.uMl.oWw0
(;´_ゝ`)「ごめんごめんデレちゃん。今日はちゃんと弟者に約束させとくからさ」

ζ(゚ー゚*ζ「絶対だよ!放課後、絶対ねっ!」

( ´_ゝ`)「うん!今伝えた!テレパシー送った!」

(`・ω・´)「テレパシーとは違うと思うけど……」

( ´_ゝ`)「僕らはいつも以心伝心☆」

( ^ω^)「はいはい、お喋りそこまでー!もう2時間目が終わっちゃうお」

担任であるブーンがパンパンと手を鳴らし、
それぞれの課題に取り組んでいた4人に向かって声を張り上げた。

ζ(゚ー゚*ζ「先生見て、デレ3枚も練習したの!じょーずに書けてるでしょ?」

( ^ω^)「おー、上手く書けたおね。100点だお!
      それじゃあ、先生がおっきい花丸つけてる間に、クレヨン片付けて手を洗ってくるんだおよ」

ζ(゚ー゚*ζ「はーい!」

69 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 17:39:28 ID:.uMl.oWw0
(;^ω^)「つーは……おお、見事にまったく進んでない」

(*゚∀゚)「あひゃ、だってわかんないんだもん!」

(;^ω^)「しょうがない、明日一緒にやるお」

(*゚∀゚)「あひゃー」

( ^ω^)「兄者は残った分宿題ね。
     弟者に手伝ってもらってもいいけど、ちゃんと自分の力でやってくるよーに」

(;´_ゝ`)「えー!俺の貴重な時間がぁ!」

( ^ω^)「自業自得って言葉知ってるかお?以後文句は受け付けません」

(#´_ゝ`)「先生のオニチク!この前重過ぎて廊下の床破壊した事校長にバラしt」

( ^ωФ)「なんか言ったであるかお」

(;´_ゝ`)「なにもいってないよ!ぼくはいいスライムだよ!ぷるぷる!」

( ^ω^)「それでよし。ぷるぷるすんな」

70 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 17:41:25 ID:.uMl.oWw0
( ^ω^)「あと、シャキン。悪いけど放課後残ってくれるかお?ショボンと話がしたいお」

(`・ω・´)「はい、分かりました。伝えときます!」


キーンコーンカーンコーン


( ^ω^)「じゃあ今日はこれで終わり。
     3、4時間目は通常授業だから、みんなそれぞれの教室に戻るおー」

(*゚∀゚) ζ(゚ー゚*ζ「「「「はーい!」」」」( ´_ゝ`)(`・ω・´)

(`・ω・´)「起立、礼!」

(*゚∀゚) ζ(゚ー゚*ζ「「「「先生さよならー!」」」」( ´_ゝ`)(`・ω・´)

( ^ω^)「さよならおー!」

71 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 17:42:44 ID:.uMl.oWw0
それぞれ使用していた文具や教科書を片付ける4人。
だがそのうちの3人は、教室へ帰る前にここでやるべき事がある。

( ^ω^)「さてと。じゃあデレ、ツンと交代ね。兄者もだお」

( ´_ゝ`)「ほーい」

ζ(゚ー゚*ζ「うん!……先生、また明日!」

( ^ω^)「おっおっ、また明日ね。バイバイだお」

ζ(^ー^*ζ「バイバイ先生!」

ζ(゚ー゚*ζ「……」

ζ(゚−゚*ζ

元気良くブーンに手を振った後、フッと表情を消したデレが数秒間押し黙る。
その瞳は先ほどまでの輝きを失い、ぼんやりとした視線が何も無い空間を漂っていた。

72 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 17:43:38 ID:.uMl.oWw0
ζ(゚−゚*ζ

ζ( − *ζ

ξ )ξ

ξ゚听)ξ

ξ゚听)ξ「……」

次にはっきりとした光をその瞳に宿した時、
その顔つきは先ほどまでのあどけないデレとは違っていた。

ξ;゚听)ξ「……わ、やだ。クレヨン使ったの?ベタベタ」

そこに居たのは、デレと交代で意識上に現れた、基本人格の『ツン』だ。
自分の両手に目をやり、小さく驚いた声をあげる。

73 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 17:45:15 ID:.uMl.oWw0
( ^ω^)「お、ごめんお。一応さっき洗わせに行かせたんだけど」

ξ゚听)ξ「綺麗に落とせてないですよ。もー……」

( ^ω^)「ごめんごめん。次からはちゃんと確認するお」

(´<_` )「先生」

さっきまで『兄者』だった『弟者』が、背後からブーンに声をかけた。

(´<_` )「じゃあ、俺はこれで教室に戻ります」

( ^ω^)「あ、弟者。うん、バイバイお!
     ……あっそだ。悪いけど弟者、兄者の宿題手伝ってあげてくれないかお?」

(´<_` )「聞こえてましたよ。せいぜい馬鹿兄者がサボらないように見張ってます」

( ^ω^)「よろしくお願いするおー」

74 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 17:47:50 ID:.uMl.oWw0
ξ;゚听)ξ「うー、爪に入っちゃったのが取れない……」

手先に残る感覚に気持ち悪そうな声をあげつつ
まだポタポタと手から雫を零し、ハンカチで丁寧にそれを拭くツン。

洗面所から帰ってきた彼女に、弟者が声をかける。

(´<_` )「あ、津田」

ξ゚听)ξ「あーはいはい、分かってるわよ。放課後、ラウンジ公園でしょ?
      昨日からデレったらそればっかりなんだから」

(´<_` )「ん。じゃあ、妹者連れてくから」

ξ゚听)ξ「うん。お願いね」

既にお互い了承しあっている約束を確認し合い、ツンが先に教室を出て、弟者がその後に続く。
2人とも2年生なので、クラスは違うが目指す階は同じだ。

75 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 17:48:59 ID:.uMl.oWw0
(`・ω・´)「では先生、放課後にまた」

そして、ブーンに対して礼儀正しく一礼し、凛々しい態度で教室を出て行くシャキン。

( ^ω^)「うん、またね。みんな授業頑張るんだおよー」

各々自分達の教室へと帰っていく3人。
その3人の背を見送ると、ブーンは振り返って

( ^ω^)「さてと。あとはつーだけだおね」

(*゚∀゚)「あひゃ!」

行儀悪く自分の机に腰掛け、足をブラブラさせているつーに向き直った。

76 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 17:51:05 ID:.uMl.oWw0
( ^ω^)「あーもうこら、つー!ちゃんと椅子に座るお」

(*゚∀゚)「まだ眠くないよ!昼休みまでいいだろ!」

( ^ω^)「だめだめ。次はしぃが勉強する時間だお。
     それとも、しぃの分まで勉強したいのかお?」

(*゚∀゚)「それはやだ!」

( ^ω^)「だったらしぃと交代だお。ほれほれ降りる」

(*゚∀゚)「……ちぇー、わかったよ」

77 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 17:53:42 ID:.uMl.oWw0
説得されて、しぶしぶ椅子へと座るつー。

(*゚∀゚)「つまんねーな」

( ^ω^)「今はまだ準備と練習の時期だお。
     もう少しすればつーも、兄者やシャキンみたいに
     自由に自分の時間を持てるようになるおよ」

(*゚∀゚)「わかってるよ!焦らずゆっくり、だろ!」

( ^ω^)「そうそう。焦りは禁物、時間をかけて着実にだお。
     さ、しぃと交代。出来るおね」

(*゚∀゚)「おう!じゃあまたな、先生!」

( ^ω^)「また明日。つー」

78 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 17:55:48 ID:.uMl.oWw0
(*゚∀゚)「……」

(*-∀-)「……ふー……」

(*-∀-)「……」

机越しにブーンと向き直ると、目を瞑り、体から力を抜く。
最近になってようやく、この一連の動作が自然に出来るようになってきた。

ごく自然にリラックスした状態になったつー。
対峙するブーンは、明瞭な声で『彼女』を呼び覚ます。

( ^ω^)「しぃ。起きるお。次の授業が始まるお!」

79 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 17:57:47 ID:.uMl.oWw0

(*゚ー゚)「じゃあ先生、いってきます」

( ^ω^)「はいお。いってらっしゃーい」

小さくお辞儀をして、特別教室を出て行くしぃ。
自分の教室へ向かおうと廊下の方を振り向いた時
見知った人物が窓際の壁にもたれ、こちらに手を振っていることに気がついた。

(*゚ー゚)「……あ」

从'ー'从「しぃちゃんおはよー」

(*゚ー゚)「ナベちゃん!迎えにきてくれたの?」

从'ー'从「授業早めに終わったからね〜。教室行こ!」

(*゚ー゚)「うんっ!ありがとう」

从'ー'从「次の授業、荒巻おじいちゃんだからね。ゆっくり行っても平気だよ〜」

(*^ー^)「あはは」



( ^ω^)「……しぃは最近楽しそうだお。もう大丈夫みたいだおね」

次第に遠ざかっていく2人の明るい笑い声を聞きながら
ブーンは教室の戸から顔を出して、一人呟いた。

80 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 17:59:36 ID:.uMl.oWw0
/ ,' 3「え〜。芭蕉の句にはぁ〜……」

(*゚ー゚)「……」


VIP高校1年・羽生しぃ。
彼女がマインドBを発症し、つーの人格が生み出されたのは中学2年生の時。


しぃは真面目で大人しく、良く言えば控えめな、悪く言えば少し内気な性格。
でも他人への思いやりがあって、心配りができる優しい女の子である。

81 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 18:00:53 ID:.uMl.oWw0
晴れて念願の私立中学に合格した彼女は、数人の明るく活発な友人達に囲まれ
いつも誰かと行動し、幸せそうに笑う、ごく普通の女子中学生だった。

(*^ー^)

成績は中の上、友達との関係も良好。
放課後は友達と街へ遊びに。週一のクラブ活動を楽しんで、テストで良い点を取ろうと奮闘する。
楽しく、青春の光に煌いていて、特に何の問題も無かった1年間。


そこに小さな歪が生まれたのは
春が来て2年生に進学した、その時だった。


中学初めてのクラス替えで、しぃは運悪く親しい友人達と離れ離れになってしまう。

新しい教室。知り合いのいないクラス。
少し人見知りの気があるしぃは、張り出されたクラス表を見て不安に駆られた。

それでもクラスの離れた友人達は、当然のように新しいクラスで新しい友達を作り
以前と変わらぬ楽しげな笑顔で2年生としての生活を送っていく。

(*゚ー゚)

だが、普段からあまり積極的で無いしぃは、友達の作り方が分からなかった。

考えてみれば、入学時に声をかけてきてくれたのはいつも向こうから。
自分から声をかけて友達を作れた経験は記憶に無く
1年生の時に次第に増えていった友達も全て、他人の人脈の恩恵であった事に気づく。

82 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 18:04:07 ID:.uMl.oWw0
新しいクラスの誰かに声をかけるタイミングを逃したまま、一日、一日と日は過ぎる。

今日こそ誰かに声をかけようと意を決しても、簡単な筈のその一言はまるで鉛のように重く
絞り出すべき声は相手に届く事無くひっそりと消えていった。

しぃ一人を取り残して、残酷に時間だけが過ぎていく。


気がつけばしぃは、クラスで完全に孤立した存在となってしまっていた。


(*゚−゚)

そして教室という閉鎖空間において、人は群れを成す事で優勢を得
その対照として集団からはみ出た弱者を食い物にする。


あっという間に、しぃは新しいクラスの中でいじめの標的にされた。

83 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 18:07:13 ID:.uMl.oWw0

(* −)

『死ねばいいのに』

『キモい』

毎日耳に入ってくる、嘲笑、囁き。そしてエスカレートしていく嫌がらせ。

相手にとってはただの遊び。ゲーム感覚で繰り広げられるそれも
その対象となる無力な被食者にとってはどんな小さな悪意も、それが与える苦痛は耐えがたい。

耳も、目も、頭も何もかも。
敏感に人の悪意を感じ取る。

それは例えば、小さな善意やほんのからかいだったとしても区別がつかないほどに。
常に人に怯え、何に対しても自分に向けられた悪意と感じ取り過剰に反応してしまう。
疑心暗鬼と被害妄想は、ちっぽけな彼女が抱え込めなくなる程肥大し。

それは小さな物でも一日、一日と積み重なり、彼女の心を着実に潰していった。

84 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 18:10:14 ID:.uMl.oWw0
学校という空間は狭い。
違う教室の事とはいえ、以前の友人達にもそんなクラスの雰囲気は自ずと伝わっていた。
すると、危険を察した彼女らまでもが、飛び火を払うかのようにしぃを避けるようになったのだ。

誰かに相談することも出来ない。
親には心配をかけたくないし、学校に味方はいない。教師ですら見て見ぬふりをする。

常に周りの机から見張られているかのような閉塞感。息苦しさと絶望感。
四面楚歌。敵陣に一人取り残されたしぃに、身を守る術は何も無い。

85 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 18:11:12 ID:.uMl.oWw0

(* −)

どうしてこんな事になったのか。

しぃはただ大人しかっただけ。
人より、ほんの少し内気な性格だっただけ。
新しい人間関係を作るのに、一歩勇気が足りなかった それだけだ。

そして、なにかされても、ただ耐えて口を噤み。
たった一言やめてほしいと その言葉が言えなかっただけなのに。

ただそれだけなのに。

86 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 18:12:15 ID:.uMl.oWw0

(* −)

ああ。

どうして自分はこうなんだろう。もっと強い人間になりたかった。

人に悪意を向けられても、怯む事無く立ち向かっていける勇気を持った人間に。
常にビクビクと人の顔色を伺うことなく、自分の思うまま行動できる強い人間に。

なりたかった。


(* ∀)


そしてしぃは―――

弱く、ちっぽけで、内気で暗い。


大嫌いな、『しぃ』でいることをやめた。

87 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 18:17:30 ID:.uMl.oWw0

(*゚∀゚)

『つー』は数回目を瞬き、自分が木製の椅子の上に座っている事に気がついた。

周りには沢山の人がいて、品の無い笑い声や無駄に喧しい会話でとても騒がしい。
左側の窓から差し込む光が眩しかった。目を細め、視線を下に向ける。

そして、机の上が何故こんなに散らかっているのだろうと訝った。

くしゃくしゃに丸まった紙屑。何か分からない破片や粉状のもの。消しゴムのカス。
そんなものが自分の目の前に、山となって積まれている。

元々散らかっているのは気にならない性格だが、それらが自分の物で無いことは明らかで
そしてどう見ても、価値の無いゴミの類にしか見えなかった。

なので特に何も考えず、右腕で軽くそれらのゴミを払い落とした。

88 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 18:19:10 ID:.uMl.oWw0
一瞬、周りの喧騒が途絶えた気がしたが、そんな事よりも
ごちゃごちゃしたゴミ達を払った後の、机の表面までもが
荒々しく汚い落書きで埋め尽くされ、刃物か何かで削った痕で傷だらけなのを発見する。

おそらくちょっと掃除したくらいではどうにもならないぐらい汚い状態だった。
元よりそこにたまたま座っていただけの机を綺麗にする気も毛頭ない。

きったねぇ机だなぁ。
不快感を感じ、つーは席を離れた。
おそらくこの机はよっぽど散らかし癖のある誰かの机なのだろう。自分の知ったことではないが。

立ち上がり、この煩い場所から離れようと数歩歩いたところで
数人の女子が立ちはだかり、自分の行く手を塞いだ。

90 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 18:21:20 ID:.uMl.oWw0
「掃除しなさいよ」

自分を睨みつけ、床に指を差している。
何のことだか分からず、その指の先を追うと
先程自分が払い落としたゴミが床に散乱していた。

誰のだか分からないゴミを誰のだか分からない机から払い落としてやったというのに
何故自分がそんな面倒なことをしなくてはならないというのか。
元より掃除は大嫌いだ。

不快だった。

目の前で敵意を剥き出しにしている女子達も
今では喧しく騒ぎ立てることをやめて、食い入る様にこちらの様子を見つめている
この部屋の人間全部、何もかも気に喰わなかった。

91 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 18:25:59 ID:.uMl.oWw0
「邪魔だ。退けよ」

集中した視線の晒し者にされていることと、この不愉快な教室にいることに酷く苛立ち
つーは目の前の女子を押しのけて外へ出て行こうとした。

一瞬怯んだ様子を見せた女子だったが、甲高い声で何かを喚き腕を掴んできた。
誰かに体を触られることは慣れていなく、反射的にその腕を払いのける。

パシン!

女子の手を振り切ったその手に、乾いた音を立て何かが当たった。

行く手を阻む壁となっていた数人の女子のうち一人が、
長い棒状の物をこちらに投げつけたのだ。
プラスチック製の箒だった。

「掃除しろ!」

箒が当たった箇所にじわりと広がる痛みが、瞬く間に抑えきれない怒りへと変わっていった。

何故だかは分からないが、この場所の何もかもが憎い。
この場所を滅茶苦茶にしてやりたい。みんなめちゃくちゃにしてやる。みんなみんなみんな―――


つーは素早く地面に目を走らせると
たった今投げつけられ床に乾いた音を立てた、得物に手を伸ばした。

92 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 18:28:28 ID:.uMl.oWw0

結果、つーはクラスメイトの女子四人を傷つけ、止めようとした教師にも軽い怪我を負わせ、
教室の窓ガラスを割り、机を数台、床に投げつけて破壊した。


幸い、その女子生徒達の怪我も軽いもので済んだが、
そのすぐ後で行われた病院での検査の結果、羽生しぃにはマインドBの症状が確認され
しぃのもう一人の人格、『つー』が判明した。


教室で教師達に取り押さえられ、無理矢理病院に連れていかれて検査を受けさせられたせいで
しばらくつーの興奮状態は続き、また誰かを傷つける危険性から部屋に隔離されていたが、
それから2日経った朝、隔離室で暴れ狂うつーが急に大人しくなり、基本人格のしぃの意識がフと浮上した。

教室で起こった事件について、しぃはもちろん何も覚えていなかった。

それから間もなく医師から告げられた、自身に下された診断結果と
自分が知らぬ間に四人の同級生を傷つけ、教室で暴れ回り物を破壊したという事実は
大きなショックをもたらし、彼女にはとても受け入れられるものでは無かった。

93 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 18:29:58 ID:.uMl.oWw0
そして、マインドB発症の判明に伴ういじめの発覚。
学校側は、重大な問題を見過ごし一人のマインドB患者を出したとして世間から責め立てられた。
新聞やメディアにとりあげられ、押し寄せるマスコミの波。好奇の視線。

どちらにせよ、しぃはこれ以上継続して同じ中学に通うことは不可能だった。

やむを得ず、元居た中学からは転校し、住んでいた土地も離れ
中学3年時は新しい学校へカウンセリングを受けながら通学した。

しかし、中学2年生の時の事件から、人と深く関わる事を避けるようになり
しぃはますます自らの殻に閉じこもるようになってしまう。

結局、中学を卒業するまで
学校での人間関係も、つーに対しても、彼女にとって上手くはいかなかったようだ。

94 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 18:32:54 ID:.uMl.oWw0
しぃとつーはお互いの存在に対しての認識を持っていない。
それは人格間での“共在意識”と呼ばれるものだ。

兄者と弟者のように、人格同士、意識の奥底で相手にコンタクトを取ったり
表に出ている人格を通して、世界を見たり聞いたりすることが一切不可能なのである。

つーはしぃの存在を認識すらしていないし、
一方しぃは得体の知れないつーという人格に対して、ただただ恐怖しか感じていなかった。


自分の好きな時に意識上に現れ、好きなだけ動き回り自由奔放な振る舞いをするつー。
そして、彼女の気が緩んだ時などに、突然意識の奥底から引っ張り上げられ混乱するしぃ。

これでは学業に支障が出るどころか、通常の生活を送るのも非常に困難な状態だ。

そのため、効率の良い人格交代の方法を学ぶ場として
マインドB専属カウンセラー兼教師であるブーンが担当する
vip高等学校特別教室、マインドBクラスが選ばれたのだった。

95 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 18:35:55 ID:.uMl.oWw0
入学した当初、まだつーは制御の効かない危険な存在だった。

明確な悪意があるわけでは無いが、常に自らを殻に閉ざして生活しているしぃの反動なのか
感情が昂ぶりすぎて暴走してしまう事が時々あった。

そこでブーンはつーと、まず学校では名前を呼ばれるまで覚醒しないという約束をした。
意識の交代をスムーズに行えるよう、しぃとつー、両方と何度も練習を繰り返した。

時間が来たら相手と交代するルールを2人に教え、互いに約束を守らせ。
ゆっくりと時間をかけて、つーは規則を飲み込み、クラスのみんなとも除々に仲良くなっていった。

最初は人との協調性など無いに等しく、集団での行動に慣れず
何かと制限され我慢する事の多い生活から来るストレスと負担が重なり、トラブルを引き起こす事も多かったつーだが
ブーンが信頼がおける人物であり、自分達の事を親身に思ってくれている事が理解できると
彼女は案外素直にブーンとの約束を守り、いいつけを守った。

96 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 18:39:12 ID:.uMl.oWw0
ブーンの熱心な取り組みと粘り強い根気の成果ももちろんあるが
それより何より、最初に事件を起こしてしまった狂暴面から
周囲から手の付けられない野獣同然の目で見られ、ただ畏怖され、拒絶されるだけだった存在のつーが
自分と同じ境遇の者達とともに、限られてはいるが自分としての時間を与えられ
しぃでは無くつーとして、一人の人間として扱われる事が、純粋に嬉しかったのだ。


そして今。

日常生活で自由に行動出来る段階にはまだ至らないが、
マインドBクラスで過ごすつーはクラスの一員として有り余る元気を周囲に振りまき。

入学当初はまだ人間関係に対して不安を持っていたしぃも、
幸運なことに、仲の良い友達に支えられ平和な日々を送っている。

97 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/05/17(木) 18:40:36 ID:.uMl.oWw0
从- -从 クカー スピー

(*゚ー゚)(ナベちゃんたら、あんなに涎垂らして…)

キーンコーンカーンコーン

Σ从'ー'从「!お昼っ!お昼だぁ!おべんとー!」

(;゚ー゚)「えええええ」

/ ,' 3「……んじゃ、授業終わりま」

从'ー'从「しぃちゃん机〜!机寄せよ!」

(;゚ー゚)「もう、ナベちゃんったら!気が早いよー」

/ ,' 3「……。ワシの授業って一体……」

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