( ^ω^)マインドB!のようです

18話

928 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:09:34 ID:JP4cKZos0
トソンの目的が、ツンに嫌な思いをさせることだったなら
充分すぎる程にその目的は果たされたようである。


ξ|li;Д;)ξ「φ○×※;?▲〜〜〜!!!?!?」


トソンが急いでその場を離れ、授業が行われている南館へ戻ろうとしている頃
閉じ込められたツンは完全にパニックになって、開かない扉を無茶苦茶に叩いていた。

もし今この付近を、体育館の例の噂話を知っている人物が通りがかったなら
あまりに鬼気迫るその叫び声を聞いて、死者達の魂が中で大暴れしているものと思い
青褪めて立ち所に逃げ出していたに違いない。

―――だが残念ながら、ツンにとってはまったく運の悪いことに
授業が行われている今この時間帯、寂れた裏庭の片隅を通るような誰かは
生徒も教師も、用務員でさえ誰も存在しなかった。

929 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:10:50 ID:JP4cKZos0
ξ|li;凵G)ξ「いやあああああ!!なんで開かないの!!?」


―――ツンにはわけがわからなかった。


マインドBクラスでの授業が終わって、デレと交代して。
でも時計を見ると、授業終了から既に15分あまりが経過していて
次の科目は体育だから、授業が行われているグラウンドまで
教室の鍵を貰いに行かなきゃいけなくて……

それで急いでいた筈なのに、何故今こんな場所にいるのか。

どうして扉が開かないのか。

930 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:12:57 ID:JP4cKZos0

そして何故―――よりにもよって”此処”なのか。

さっきから必死に頭の隅へと追いやって、考えないようにしていても
呪われた古い体育館に纏わるおどろおどろしい噂話が次々と脳内再生されて
実はかなりの怖がりである彼女をますます恐慌状態へと追い立てていた。

気のせいか、背後にゾワゾワとした嫌な気配を感じる。
誰かが怨めしそうにこちらを見ているような気がする。
火に炙られ苦しみながら死んでいった、大勢の亡霊が。


……今、ツンが必死になって叩いている扉には
噂で聞いたような、死に際の爪痕等は見当たらないようだったが。

半狂乱のツンにはそれどころでは無かった。
むしろその風説を今、形にして再現してしまいそうな勢いだ。

931 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:15:08 ID:JP4cKZos0
ξ|li;凵G)ξ「誰かー!!」

声の限り叫び、いくら叩こうと固い扉はビクともしない。

ξ|li;凵G)ξ「!そっ……そそっそうだっ携帯……!」

ξ|li;凵G)ξ「……は、教室の鍵付きロッカーに入れてたんだったああああうあああぁあぁあん」

誰かに助けを求める術も無い。

自分の力ではどうにもならないことが分かって
ついに、彼女はへなへなとその場に崩れ落ちた。

途方に暮れた子供のように蹲り、自らの肩を抱いてしゃくりあげる。

ξ;凵G)ξ「ぅ……うっ……ぐすっ……なんで……」

932 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:17:07 ID:JP4cKZos0


―――子供の頃からずっと、霊とかお化けとか、そういうのはとにかく駄目だった。


ツンは暗闇が怖かった。

台所の隅の暗がりや、押入れの奥。トイレの扉を開けた先。
誰もいない筈の闇の中に、何かが潜んでいるような気がして
一度意識してしまうと、どうしても怖くてたまらなくなる。


お母さんはいない。お父さんはお仕事。1人ぼっちのお留守番。


ξ;凵G)ξ「怖いよぉ……!お父さぁん……!」


1人にしないで。1人に……


広い体育館に、少女のすすり泣く声が虚しく響いた。

934 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:19:03 ID:JP4cKZos0
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「こわくなんかないよ」



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935 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:20:55 ID:JP4cKZos0


懐かしい声を聞いた。


小さい頃お友達だった、女の子の声だ。


寂しい時1人で泣いていると、いつの間にか傍にいて
いつも一緒に遊んでくれた女の子。名前も知らない女の子。


「大丈夫、パパが帰ってくるまで一緒にいてあげる」


そうして2人で沢山遊んだ。お人形遊びや、おままごとなんかを。

どこから来たのかも、どこに住んでいるのかも分からない。

あんなに仲が良かったのに、何故だか名前も、顔も思い出せないが
ただひとつ、いつも笑顔でとても勇気があったのを覚えてる。

936 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:22:56 ID:JP4cKZos0




「おばけさんなんかこわくないよ。
ツンちゃんをこわがらせたら、わたしが めってしてあげる」


そう言って女の子は優しく微笑んだ。



――――ママが死んでしまって、ひとりぼっちで、いつも泣いていた私の傍にいてくれた。


.

937 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:23:49 ID:JP4cKZos0
誰にも言えない本当の気持ちも、秘密のお願いも
その子にだけはなんだって相談することができた。


―――本当は、お父さんにお家にいてほしい。
      1人にしてほしくない。お父さんにもっと遊んでほしい。
      ご飯も一緒に食べたいし、夜寝る時も傍にいてほしいのだと。


お父さんはお仕事で大変で、そんな我が儘を言って困らせてはいけないのはわかっていた。

だから誰にも言わなかった。言えなかった。でも、その子は特別だから。

私がそっと打ち明けると、女の子は明るい笑顔で


「まかせてツンちゃん」


そう言ったのだった。

938 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:25:01 ID:JP4cKZos0
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ξ-听)ξ「ぅ……?」

微睡みから抜けて、ツンは目を開けた。

ぼんやり視界に広がる、がらんとした平らな空間。


全体的に薄暗いが、窓から差す日の光は先程と変わらず
どこまでも続く物寂しい空間をひっそりと照らしてくれている。

ξ゚听)ξ「……」

自分はどうして、こんな所に1人でいるのだったか……。

夢から醒めて、寝惚けた頭が徐々に冴えていく。

自分の置かれている状況をはっきりと思い出して、ツンは戦慄した。

939 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:26:48 ID:JP4cKZos0
どうやらあれから眠ってしまっていたようだ。いや、ほぼ気絶に近いだろうか。
目を覚ましても、ドラマのように都合良く状況は好転してくれてはいないらしい。

ツンは落胆し、深く溜め息を吐いた。もう叫ぶ気力も残っていない。

さっきまで泣いていたせいで瞼が重く、腫れぼったかった。
ぐしぐしと手で擦った後、鞄からティッシュを取り出し鼻をかむ。

ξ。。)ξ「……はぁ」

……どうして自分がこんな目に。

このまま誰にも気づかれず、ずっと閉じ込められたままなのだろうか。そんなの嫌だ。

なるべく考えたくないことではあったが、このまま夜になったらどうしよう。
日が落ちて真っ暗になった体育館は、想像するだけでも身震いする程怖ろしくて
一度は飲みこんだ恐怖が再び喉元にせりあがってきた。

耐え難い閉塞感に、ぐっと息が詰まる。

940 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:28:54 ID:JP4cKZos0


………――――


ξ゚听)ξ「!」

その時突然、古い金属が擦れるような耳障りな音が響き
ツンはビクッと肩を跳ねさせた。

咄嗟に、音のした入り口方面に目を向ける。
次いで、ガチャン、と何かが外れるような音。

ギイィィッ……

縦に光の線が現れ、扉が外から押し開けられる様子をツンはじっと見つめていた。

942 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:30:18 ID:JP4cKZos0


(:::::::::::::)


外界の光に照らされて、そこに立つ誰かの姿が現れる。
闇慣れした視界に眩しい光を受けて、ツンは目を細めた。

ξつ听)ξ「……おとーさん?」



( ^ω^)



(;^ω^)「……お」


ξ゚听)ξ

943 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:31:56 ID:JP4cKZos0

(;^ω^)「ツン!!」

ブーンが立っていた。

額に汗を浮かべ、ぜぇぜぇと肩で息をしている。

いつもの上着は着ておらず、シャツはよれよれでみっともない。
勢い余って転びそうになりながら、慌てて自分の元へと駆け寄ってくる。


―――ツンが、自分を救う王子様のように思い描いた
いつも身なりに気を使っている父親の姿とは、それこそ程遠かったが……


ξ゚听)ξ「……あ……」

ξ;听)ξ「っあ」


ξ;凵G)ξ「……うわああああああぁん!!
      せんせええええぇえぇぇ!!!」


無我夢中で、彼女はブーンに抱きついた。

944 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:35:08 ID:JP4cKZos0
(;^ω^)「ツン!大丈夫かお!?どこも怪我してないかお!?」

シャツを強く掴みながら、涙でぐしゃぐしゃの顔をあげ
かろうじてうんうんと頷くツン。

泣きじゃくる彼女をその腕にしっかりと抱きとめながら、ブーンは胸を撫でおろした。
顔は涙と鼻水で酷い有様ではあるものの、確かにどこも怪我等はしていないようだ。

心配していた分どっと安堵の波が押し寄せて、思わず体から力が抜けた。

ξ;凵G)ξ「えぐっ、えぐっ」

(;^ω^)「怖かったおね。よしよし、もう大丈夫だおー」


普段彼女が自分自身を守っている、プライドや強気な態度が取り払われて
完全に無防備な状態となったツンは、まるで幼い女の子のようだった。

いつもの強がりが邪魔をしない。

しばらくそうしてブーンに抱きしめられたまま、ツンはただただ泣いていた。

945 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:37:15 ID:JP4cKZos0
+ + + + + + + + + + + +


爪;'−`)「どうも、お世話を掛けました」

ξ*。。)ξ「……」

学校から連絡を受け、ツンを迎えに来た父親が一礼する。
その隣で娘は、恥ずかしいのか少し顔を赤くして床を見つめていた。


娘が行方不明になったと聞かされ、血相変えて会社を飛び出し
学校まで車で駆けつけた父親の狼狽ぶりと取り乱し様は
傍から見ていて気の毒になるくらいだった。

幸いなことに彼が学校に着いてすぐ、ツンが見つかったと朗報が入ったのだが
ブーンに連れられて現れた娘の姿を見て、その無事を確認すると同時
安心のあまりその場に泣き崩れる程に。

そんな父親の腕の中で、ツンはまた少し泣いた。

946 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:38:47 ID:JP4cKZos0
(;^ω^)「いえ、こちらこそ……ご心配おかけして本当に申し訳ないですお」

(;‘_L’)「今回のことは私の責任です。
      ブーン先生からクラスを任されておきながら、面目無い……」

ブーンの隣に立つフィレンクトは、すっかり憔悴しきった顔をして
父親に対し、これ以上無理というくらい深々と頭を下げた。


―――マインドBクラスでの授業を終えて職員室へと戻ったフィレンクトは
生徒が一人、次の授業に遅れることになると予め連絡を入れておいた体育教師から
授業が終わる頃になっても、彼女がまだグラウンドに来ていないことを聞かされて仰天した。

すぐにフィレンクト、モララー他教職員達による学校内での捜索が開始され
ツンが行方不明になっていることを知ったシャキンや弟者、他数名の生徒も加わって
皆でツンを探したのだが、何処にもいない。すぐに父親の勤める薬品会社へと連絡が行った。

そしてそこに、つーのことで朝から病院へ行っていたブーンが学校へと戻ってきた。

フィレンクトから話を聞いて事態を把握すると
彼はすぐさま、自分もツンを探しに走ったのだった。

947 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:43:03 ID:JP4cKZos0
ロマネスクと相談しながら思いつく限り校舎の至る所を駆け回っていた彼は
しばらく経った時、偶然、例の裏庭のことを思いつく。

というのも、一昨年につーが教室から逃げ出したのを探していた時
いつもなら決して校舎の外へ出ようとしない彼女が、安全な隠れ場所を探してか
一度だけその裏庭の茂みに隠れていたことがあったのを思い出したのだ。

まさかそんな所にいるとは思わなかったものだから、見つけるのが遅くなってしまい
1人心細くなって震えていたつーの姿が脳裏に浮かぶ。


すぐさま裏庭へと向い、文字通り草の根分けてツンの姿を探していたブーンは
建物脇の茂みの影に、壊れた南京錠と切れた鎖が落ちているのを発見した。

施錠されている筈の、今は使われていない体育館。


まさかと思い掛かっていた閂を外すと、少し押しただけであっけなく扉は開いて
中には探していた少女が1人、取り残されたようにぽつんと蹲っていたのだった。

948 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:45:30 ID:JP4cKZos0


―――どうしてこうなったのか、何故あんな場所に居たのか
ブーンや父親がツンに聞いても、確かなことは何一つ分からなかった。

それには、ツンはとにかく疲れていて、それにまだ怯えてもいたから
父親の傍を離れるのを嫌がって、デレの証言を得ることができなかったことが大きい。

デレが何を知っているかは、当然皆が非常に興味を持ったことだったが
たった今救出されたばかりで動揺しているツンに無理な人格交代を要求し
あれこれ質問攻めするのは流石に憚られたし、ブーンも賛成しなかった。

とは言え、閂は外側から掛けられていたのだ。

偶然や事故の可能性は限りなく低く、外から誰かが掛けたと見てまず間違いは無いだろう。

ツンにはそんな目に合わされるような心当たりなど無かった。
それに、大人達が心配しているようなこの事態の深刻さも
今はよく把握できていないように思えた。

質の悪い悪戯かもしれないが、これがもしいじめなどの問題であったなら大問題だ。
原因を究明し二度と同じようなことが起きないよう対策を講じる必要がある。

ツンの父親には深く謝罪すると同時
今回の事件については今後学校側で念入りに調査すると約束して
今日のところはこの件は一旦終わりとなり、ツンは家へと帰されることになった。

949 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:49:26 ID:JP4cKZos0
( ^ω^)「ツン、今日は大変な一日だったおね」

ξ*。。)ξ「ん……」

( ^ω^)「帰ってしっかり休むんだおよ。
      なにかあったらいつでも先生に連絡するお」

ξ*。。)ξ「……先生……ありがと」

もじもじして俯きながら、ツンはぽそりと礼を言った。
普段より口数少ない彼女は、その仕草もなんとなく幼く見える。

それから、ブーンにだけ聞こえるような声で
小さく「それと」と付け足した。

ξ゚听)ξ「……私が泣いたこと、みんなに言わないでよ」

( ^ω^)「お、わかったおー!
      先生とツンだけの秘密にしとくお!」

ξ*゚听)ξ「……」

有難いことに、父親は娘可愛さにそれ以上騒ぎたてることもなく
素直にブーン達教師に礼を言ってから
疲れきった様子のツンを車の助手席に乗せて学校を後にした。

950 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:51:28 ID:JP4cKZos0




爪'−`)y‐「……」

ξ゚听)ξ「……」

しばらくの間車の揺れに身を任せ、ツンはぼんやりとしていた。

ダッシュボードに備え付けられた灰皿の中
くしゃくしゃに潰された数本の煙草が見える。


半年程前から父は、大好きな煙草を極力我慢して
会社の喫煙所でしか吸わないよう、自分なりのルールを定め
半禁煙とでも言うような中途半端な努力を続けていた筈だった。

だがそれも、今日は突然のことで心配のあまり
学校へ着くまでの車の中でいつもより余分に吸ってしまったのだろう。

今も精神的動揺を誤魔化す為か、窓を開け片手に1本楽しんでしまっている。

ツンはそのことについて特に何も言わなかった。
今回のことで、自分がどれだけ心配をかけたか分かっていたから。

951 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:53:06 ID:JP4cKZos0
ξ゚听)ξ「……ごめんねお父さん。お仕事の途中だったのに」

爪'−`)y‐「そんなこと気にしなくていいさ」

開いた窓から、父親はふーっと白い息を外へと逃がした。

爪'−`)y‐「ツンが無事で良かった。本当に」

ξ。。)ξ「……」

爪'−`)y‐「……」

爪'ー`)y‐

くしゃり。吸い終えた煙草を灰皿に押し付けて、彼はフと娘に微笑みかけた。

爪'ー`)「……泣いたこと気にしてたみたいだけどね」

爪'ー`)「ツンは少し、頑張り屋さんすぎるところがあるからね。
     たまには思いっきり泣いて、うんと感情を発散させなきゃ」

ξ。。)ξ「……」

952 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:54:47 ID:JP4cKZos0
爪'ー`)「思えば小さい頃から、ほんとにツンは泣かない子だったなぁ……。
     寂しくても、決して寂しいとは言わなかった。ずっと、私に遠慮していたんだろ?」

ξ。。)ξ「……別に」

爪'ー`)「いいんだよ。私も、ツンが必要以上に甘えてこないのを良いことに
     仕事にばかり目がいって、つい放ったらかしにしてしまったんだ」

爪'ー`)「駄目なお父さんだよ。ほんとに」

ツンは小さく首を振った。

赤に変わった信号を前に、走るのを止めた車の中で
父親は助手席に座る娘へと視線をうつした。顔をあげたツンと視線がかち合う。

953 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:56:13 ID:JP4cKZos0
ξ゚听)ξ「……」

ξ゚听)ξ「お父さん。あのね」

爪'ー`)「うん?」

ξ゚听)ξ「さっきね……懐かしい夢を見たの」

爪'ー`)「へぇ。どんな夢だい」

ξ゚听)ξ「小さい頃、いつも一緒に遊んでくれた女の子の夢」

爪'ー`)「女の子?」

ξ゚听)ξ「うん。幼稚園の頃だったかな……
      いつも、私と一緒に遊んでくれてた子がいたでしょ?」

954 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:57:16 ID:JP4cKZos0
爪'ー`)「……」

ξ゚听)ξ「その子のこと、久しぶりに思い出したの。
      ……ずっと忘れてたのに」

爪'ー`)「ああ」

爪'ー`)「そうだね。私にも時々、その子の話を聞かせてくれたっけね」

ξ゚听)ξ「あの子、なんて名前だったっけ。
      思い出せないの……。お父さん、覚えてる?」

爪'ー`)「……」

彼は頷いた。

955 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:58:54 ID:JP4cKZos0
爪'ー`)「……私もそのお友達のことが気になってね。
     一度、お婆ちゃんに聞いてみたことがあるんだ。
     ツンはどんな子と遊んでいるんだいって」

爪'ー`)「……そしたらね」

爪'ー`)「お婆ちゃんは、そんな子いないって言うんだよ」

ξ゚听)ξ「え?」

爪'ー`)「ツンは家ではいつも、1人で遊んでるって。
     それがまるで、まるで見えない誰かと遊んでいるみたいに
     楽しそうに誰かに話しかけたり、おままごとしてるってさ」

ξ゚听)ξ「……」

爪'ー`)「……」

爪'ー`)「だけどね」

爪'ー`)「私はちゃんとその子に会ったよ」

ξ゚听)ξ「え?」

爪'ー`)「ある日―――仕事を終えて家に帰ると、ツンが私にこう言ったんだ」

956 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 17:59:38 ID:JP4cKZos0




「パパ。ツンちゃんはね、パパにおうちにいてほしいんだって」


「ツンちゃんは、おうちにひとりはいやなの。
さみしいし、こわいから、パパにずっといっしょにいてほしいの」


「ツンちゃんをひとりにしないで。おねがい、パパ」



「おねがい」


.

957 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 18:01:05 ID:JP4cKZos0
爪'ー`)「……はっきりと覚えてる」

ξ゚听)ξ

爪'ー`)「あの時は……自分の不甲斐なさを痛い程感じたよ。
      こんな小さな子にずっと我慢ばかりさせて、なにやってんだってね」

爪'ー`)「でも同時に、やっとツンが本当の気持ちを話してくれたと思って、嬉しかった」

ξ゚听)ξ「……」

爪'ー`)「……ただね。いつものツンとは少し様子が違っていたんだ。
     喋り方や雰囲気も違うし、なんていうか……姿はツンなんだけど
     その実全然知らない別の子を相手してるような
     不思議な感覚を味わったのを覚えてるよ」

爪'ー`)「私が名前を呼ぶと、少し怒ったみたいに『ツンじゃないよ』って答えるしね。
     まぁその時は、そういうごっこをしてるのかなと思ったんだけど……」

ξ゚听)ξ「……」

958 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 18:02:21 ID:JP4cKZos0
爪'ー`)「―――次にその子に会ったのは、あれからずぅっと時間が経って
     お婆ちゃんが亡くなった、翌年の夏のことだった」

ξ゚听)ξ

爪'ー`)「家に帰ると、ツンが小さい子みたいにお人形で遊んでるんだ。
     制服のままで、着替えてもいなくて、クレヨンであちこち汚してね。
     それで、私の顔を見るなり『おばあちゃんどこ?』って聞くもんだから」

爪'ー`)「心配になって、必死に名前を呼びかけるとこう言ったんだよ。

     ”ツンじゃないもん。忘れちゃったの?”ってね」

爪'ー`)「―――それで分かったんだ。
     『ああ、あの時の女の子だ』って」

959 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 18:04:39 ID:JP4cKZos0
ξ゚听)ξ「……」

ξ゚听)ξ「そっか」

信号が変わり、車が動き出す。

ツンは黙って、しばらく窓の外の流れゆく景色を眺めていた。

ξ゚听)ξ「……」

ξ゚听)ξ「私も今、あの子の名前思い出した」

爪'ー`)「……」

960 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 18:07:18 ID:JP4cKZos0
ξ゚听)ξ「……デレは……
      昔からずっと、私の傍にいてくれたんだ」

爪'ー`)「……そうだね」

ξ゚听)ξ「お父さん」

ξ゚听)ξ「今度は私、ちゃんと自分で言う」

爪'ー`)

961 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 18:08:52 ID:JP4cKZos0

ξ゚听)ξ「……私を1人にして、いなくなったりしたら嫌だよ」

ξ゚听)ξ「……前に、お父さん
      私になにかあったら……って言ったけど」

ξ゚听)ξ「それは、私も同じなんだからね?」

爪'ー`)「……」

ξ゚听)ξ「約束だよ」

―――それは、言葉にして交わすにはあまりに曖昧で不確かな約束だった。

爪'ー`)「……わかった」

爪'ー`)「絶対に、お父さんお前を1人にはしないよ。
      もちろん、デレのこともね」

だがそれでも ツンは頷き、すべてわかっているという風に優しく微笑みかけた。

962 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/13(日) 18:14:24 ID:JP4cKZos0
住宅街に差し掛かり、2人の暮らす街が流れていく。
不意に、ツンは悪戯っぽく にやっと笑った。

ξ゚ー゚)ξ「じゃあもう、煙草もやめてもらわないとね」

運転に集中しながら、父は横目でちらとその顔を見た。

ξ゚ー゚)ξ「お父さんには長生きしてほしいもん。
      これからも、ずーっと一緒にいてくれるんでしょ?」

爪'ー`)「……そうだなぁ」

彼はしばらくの間、無言で前方の道路を見つめていたが
やがて、手元の箱から煙草を一本引き抜きくるっと回してみせた。

爪'ー`)y‐「わかった。これで最後にするよ」

そう言って、観念したように娘に笑いかける。

彼は手早く、ライターで火をつけると
最後の1本になる筈の、そのほろ苦いひと喫いを深々と味わった。

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