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889 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 18:34:43 ID:gPKLpoGg0
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(゚、゚トソン「ところでツンさん。こんな話を知っていますか?」
ζ(゚ー゚*ζ「!」
不意に呼びかけられて、デレはぱっと顔をあげた。
前を行くトソンは相変わらずこちらの顔を見ようともせず、スタスタと歩を進めていく。
「私が連れて行ってあげますよ」
そう、体育の授業が行われている体育館まで案内してもらう約束をして
あれから2人で本館を出た後、学校の敷地内を歩いている間もずっと
何か考え込んでいるのか固く表情を結び、黙りを決め込んでいたトソン。
こちらからあまり余計なことを喋って、高校生では無いとバレてしまっては困るし
とはいえずっと黙ったままなのも気まずくて、どうしたらいいか困っていたところ
しばらくぶりに彼女の方から口を利いてくれたので、デレは嬉しかった。
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890 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 18:37:33 ID:gPKLpoGg0
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ζ(゚ー゚*ζ「どんな話?」
(゚、゚トソン「……この学校の裏庭に、戦前からの建物で
今もなお取り壊されていない古い体育館がありますよね?」
ζ(゚ー゚*ζ「……?そうなの?」
(゚、゚トソン「ええ。この学校が設立された時からある建物で
終戦後、他の校舎が次々新しいものに建て替えられていく中
今も現存しているのはあの体育館だけなんだそうですよ」
ζ(゚ー゚*ζ「……そうなんだ!すごいね」
デレには、トソンが何故今急にそんな話を持ち出したのかは分からなかったし
『戦前から』という言葉がどれくらい前のことを指しているのかもいまいちピンとこなかったが
とにかく、その体育館とやらがすごーく古いということだけは分かった。
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891 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 18:39:18 ID:gPKLpoGg0
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(゚、゚トソン「どうして今もその体育館だけが取り壊されず
ひっそりと残されているのか、その理由はご存知ですか?」
ζ(゚ー゚*ζ「へ?……もったいないから?」
(゚、゚トソン「違います。実は、ある噂があるからなんですよ」
ζ(゚ー゚*ζ「どんな?」
(゚、゚トソン「それはですね……」
そこでふと言葉を区切り一拍置くと、トソンは立ち止まってデレの方へと振り向いた。
同じく足を止めたデレに向け、彼女なりに精一杯怖い顔を作り声を落として言う。
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892 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 18:40:22 ID:gPKLpoGg0
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(゚皿゚トソン「……出るんですよ……」
ζ(゚ー゚*ζ「……?なにが?」
(゚皿゚トソン「幽霊が、です」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
(゚皿゚トソン
ζ(゚ー゚*ζ
ζ(゚o゚*ζ
ぽかん。
デレはトソンの顔を見た。
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893 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 18:43:21 ID:gPKLpoGg0
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ζ(゚o゚*ζ「おばけさんが??」
(゚、゚トソン「オバケさんなんて可愛いものじゃないですよ」
(゚、゚トソン「噂によるとあの体育館、
戦争中は地元民の避難場所として指定されていたそうなんです」
ζ(゚o゚*ζ「?」
(゚、゚トソン「けれどある日、爆撃された際に火が燃え移って
あの場所で人が何人も焼け死んだそうですよ」
ζ(゚o゚*ζ「?火事があったの?」
(゚、゚トソン「ええ。その証拠に
中にはあちこち燃えた痕があり、床も天井も焼け焦げてボロボロで
扉の内側には、閉じ込められ火と煙に追い詰められた人々が
もがき苦しみながら滅茶苦茶に引っ掻いた、爪の痕が生々しく残されているとか……」
ζ(゚o゚;ζ「……そうなんだ……。閉じ込められちゃったの?かわいそうだね」
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894 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 18:44:51 ID:gPKLpoGg0
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気分はどこぞの淳二とばかり、おどろおどろしい雰囲気を醸し出し話を続けるトソン。
(゚、゚トソン「ですから、あの場所には今も亡くなった人達の霊が閉じ込められていて
誰もいない筈の体育館から時折、中から助けを求める苦しそうな呻き声や
女の人の泣き声や、大勢の人の逃げ惑う音が聞こえてくるんです、って……」
ζ(゚o゚;ζ「えぇっ、すごい!不思議だね」
(゚、゚トソン「……ゾッとしませんか?そんな声が聞こえてきたら」
ζ(゚ー゚;ζ「うーん……もう燃えてないよって、教えてあげたらいいんじゃないかな?」
(゚、゚;トソン「いや、相手は幽霊ですよ。話が通じる筈ないでしょう」
ζ(゚ー゚;ζ「そうなの?おばけ語とかあるの?」
(゚、゚;トソン「ねーよ!!あっ、いや、多分……」
思わずキャラを忘れかけ、咳払いで誤魔化すトソン。
-
895 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 18:45:56 ID:gPKLpoGg0
-
(゚、゚;トソン(……なんだかなぁ)
トソンは肩透かしを食らったような気分だった。
いまいち期待していた反応と違う。
朗読はするのも聞くのも好きだし、語りには一応の自信があった。
だが、あれだけ気合を込めて迫真の怖い話を聞かせたというのに
目の前の少女は全然怖がっている風には見えない。
話にはノッてきているが、なんというか、食いつくポイントがややズレているような。
_, 、_
(-、-;トソン「……うーん……」
ζ(゚ー゚*ζ「?」
小さい子には少し難しい話だったかもしれない。
それとも、元々この手の話には耐性があるのだろうか?
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896 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 18:47:04 ID:gPKLpoGg0
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(゚、゚;トソン「と……とにかくそれで!
取り壊すと祟られるとか、学校に災いが及ぶとかで
誰も使用しないにも関わらず、今も残っているって噂ですよ」
ζ(゚ー゚*ζ「そうなんだ!おねーさん物知りだね!」
(゚、゚;トソン「この学校では有名な話ですよ……。あ」
渡り廊下の東側に面したグラウンドに居る生徒達に見られないよう
広い学校の背面をグルッと回り、青い狗尾草がボウボウに生えた裏道を通り抜けた先で
トソンは立ち止まり、その巨大な建物を見上げた。隣に立つデレもそれに倣う。
ζ(゚ー゚*ζ「?」
(゚、゚トソン「……そ、それで!これがその」
若干芝居がかった動きで、おもむろに手をそちらへ向けるトソン。
(゚、゚トソン「……幽霊が出るっていう、噂の古い体育館なんですが……」
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897 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 18:49:29 ID:gPKLpoGg0
-
―――2人の目の前には、いかにも年季の入った丸屋根の建物が聳え立っていた。
辺りはひっそりと静まり返り、人がいた形跡も、誰かがいる気配も無い。
周囲は雑草が茂り、薄汚れた壁は所々罅割れて、割れている窓も幾つか見える。
まだ日の高い昼前にも関わらず、その建物全体からは
いかにも何か出そうな薄気味悪い雰囲気が醸し出されていた。
ζ(゚o゚*ζ「うわぁ」
(゚、゚トソン「ほら、なんだか怖いでしょ?」
ζ(゚o゚*ζ「ほんとだ。古いねー」
体育館を見上げ、しげしげと眺めるデレ。
VIP高にこんな建物があるなんて知らなかった。帰ったらパパにも教えてあげよう。
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898 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 18:51:02 ID:gPKLpoGg0
-
(゚、゚トソン「……」
(゚、゚トソン「……えっと」
(゚、゚トソン「それでですね……」
数秒の間を置いて、トソンはぼそりと言った。
(゚、゚トソン「―――2年B組は、今日はここで体育です」
ζ(゚ー゚*ζ「え?」
-
899 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 18:52:02 ID:gPKLpoGg0
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びっくりして、デレは隣に立つトソンの顔を見た。
ζ(゚ー゚;ζ「え、だって、今は誰も使ってないんじゃ」
(゚、゚;トソン「きょ、今日は特別ですよ。
せっかくの体育館ですし、使わないと勿体無いですからね!」
ζ(゚ー゚;ζ「でも火事でボロボロって……」
(゚、゚;トソン「大丈夫ですよ。最近修復したんですよ……多分」
喋りながら、トソンは自分でも無理があるなと思った。
先程の話と矛盾しまくっているし、口を開く度にボロが出ていく感覚がする。
もちろん今も中に人のいるような気配や音などしないし
建物と周りの状態を見れば、もうずっと誰も使用していないのは明らかだ。
ここで今も授業が行われているだなんて、いくら小さい子でもおかしいと気づく。
再度体育館を見上げ目を丸くするデレから、トソンはそそくさと距離を置いた。
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900 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 18:56:22 ID:gPKLpoGg0
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―――別に、元々大した考えがある訳では無かった。
ただ、弟者とツンとのことでひどく傷つけられた仕返しに
ちょっとした意地悪をして、怖がらせてやろうと思っただけなのだ。
この子が津田ツンじゃないのならば
後に学校で彼女と顔を会わせても、自分の仕業だとバレる心配は無いし。
なにより、憎き恋敵と同じ顔をして、何も知らないこの子供は
トソンにとって、個人的な仕返しをするのに丁度都合の良い相手だった。
ただそれだけだ。
そこで偶然フと思い浮かんだのが、この古い体育館にまつわる例の怪談話。
小さい子なら、幽霊の話もころっと信じて簡単に怖がらせることができると思った。
……のだが。
ζ(゚ー゚*ζ
(゚、゚;トソン
でも今、話を聞かせても目の前の女の子は平然とした顔をしているし
さっきまで雰囲気たっぷりにつまらない噂話を真剣に語り、嘘を吐いて
それを必死に誤魔化そうとしている自分が、トソンはなんだか馬鹿らしく思えてきた。
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901 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 18:58:28 ID:gPKLpoGg0
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(-、-;トソン「……じゃ、じゃあ。
A組は別のところで体育なので……私はこれで」
それによくよく考えてみれば、呑気にこんなことをしている場合ではない。
早く授業に戻らなければ流石にそろそろ怪しまれるだろう。
強面の体育教師に睨まれるのは御免だった。
授業時間中に油を売って、こんなことをしている今の状況が急激に恥ずかしくなってきて
誰かに見つかる前に、トソンはさっさとこの場を離れることにした。
……まぁ、少なくともこれで津田ツンは次の授業に大幅に遅れることになったのだし。
彼女へのちょっとした報復としてはもうそれで充分だ。
これ以上厄介なことになる前に、こんな所に長居は無用と トソンは踵を返した。
ζ(゚ー゚*ζ「あ、うん!教えてくれてありがとう、おねーさん!」
(゚、゚;トソン「どういたしまして」
ζ(^ー^*ζノシ「じゃあ、またね!バイバーイ!」
(゚、゚;トソン「……」
トソンの姿が見えなくなるまで、デレはずっと手を振っていた。
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902 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 19:00:53 ID:gPKLpoGg0
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―――1人その場に残されたデレは、再び体育館を見上げた。
だが扉にはもちろん鍵が掛かっているので中に入ることは出来ない。
元来た道を引き返すしか無いのだが、この裏庭には他に人がいる建物も無いし
それに、わざと分かり難いルートを通って来たから、あの子は当分迷うことになるだろう。
(゚、゚トソン「……」
卑怯なやり方だと自覚してはいるが、自分にはこんなつまらない逆襲が似合っている。
そう納得し、しばらくデレが入り口を探してウロウロするのを
トソンはこっそり茂みに隠れ遠くから見届けるつもりでいた。
-
903 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 19:02:22 ID:gPKLpoGg0
-
ヽζ(゚ー゚*ζ
そうとは知らないデレが扉に手をかける。
そしてすぐに、封鎖されていることに気づいて困惑の表情を浮かべる
―――筈だった。
ヽζ(゚ー゚*ζ ギィッ
Σ(゚、゚;トソン(え!?)
少し押されただけの扉は、錆びた金具を軋ませながら簡単に開いてしまった。
(゚、゚;トソン(っな……)
(゚、゚;トソン(なんで開いてんの??)
-
904 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 19:05:06 ID:gPKLpoGg0
-
実は、扉に備え付けられた錠は錆びて脆くなっており
以前に生徒の誰かが肝試しに訪れた際、こっそり壊していたのだった。
何も知らないデレが中へと足を踏み入れる。
少しだけ開かれた扉。暗闇に物怖じもせず、歩を進めていく少女の後姿。
混乱したまま、その光景を目で追うトソン。
そしてその時、フと―――
――――鍵の他に、扉に備え付けられた古い閂が目に入った。
錆びているが、見たところ壊れてはいないように見える。
(゚、゚;トソン
トソンは何故か、そこから目が離せなくなった。
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905 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 19:06:08 ID:gPKLpoGg0
-
暗い。
ζ(゚ー゚;ζ「……誰もいない……」
デレは扉を開けて体育館の中へ入り、埃の積もる床にトンと足をつけた。
が、当然そこで体育の授業など行われている訳は無い。しんと静まり返っている。
トソンの話では、中は焼け痕で半壊しているということだったが
天井や床には所々小さな穴が空いているものの、見渡す限り特に酷く損傷している箇所も無く
埃が積もり蜘蛛の巣が張り巡らされている以外は、思いの他綺麗な状態が保たれていた。
窓から差しこむ光で細かな埃が漂っているのが見える。
デレは目の前のステップを降りようと段差に足を踏み出した。
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906 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 19:07:38 ID:gPKLpoGg0
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ζ(゚ー゚;ζ「うーん……」
ζ(゚ー゚;ζ「おねーさん、間違えちゃったのかな」
首を傾げ、独り呟きながら階段を降りようとした、その時
ギ……ガシャンッ
後ろから、唸るような重い金属音が響いた。
はっとしてデレは振り向く。
ζ(゚ー゚;ζ「え?」
少しだけ開けておいた筈の扉が、閉ざされていた。
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907 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 19:08:28 ID:gPKLpoGg0
-
デレは驚き、振り向いた姿勢のまま数秒扉を見つめていたが
じきに視線を前へ戻すと、足を一歩踏み出して段差を降りた。
トントントン。早く降りて、次の授業に向かわないと。
次の授業……
ξ;゚听)ξ「遅れちゃ……」
ξ;゚听)ξ
ξ゚听)ξ
ξ゚听)ξ「へっ?」
“ツン”は、階段を降りて教室のある2階の廊下へと到着したつもりが
やけに広く、薄暗い空間が目の前に広がっていたので驚いた。
-
908 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 19:09:31 ID:gPKLpoGg0
-
ξ゚听)ξ
ξ゚听)ξ「どこ此処」
ぽつり、素直な感想を呟く。
この場所に見覚えは無かったし
どうして自分がこんな場所にいるのかも、皆目見当がつかなかった。
自分は夢でも見ているのだろうか。呆然として辺りを見渡す。
確か、体育が行われているグラウンドに向かっていた筈なのに。
暗く、吹き溜まった薄寒い空気が体を通りすぎる。
所々穴の空いた床や天井。埃っぽくて少し黴臭い。
一歩踏み出すと、板張りの床がギィと軋んだ。
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909 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 19:11:32 ID:gPKLpoGg0
-
ξ゚听)ξ「……??」
どうにも上手く回らない頭を働かせ、ツンは考える。
何もかもわからないことだらけだが、まず此処は何処なのか
ぐるりと辺りを見渡して思考を巡らせた。
―――遥か頭上にある天井に、柱の無い広い空間。
向こう端の、そこだけ高くなっているところはステージだろうか。
木材でできた床によく目を凝らすと、ほとんど擦れてはいるものの
微かにコートラインらしき線が引かれているのも見えた。
その他、ガランとしてほとんど何も置かれてはいないが、この建物はまるで
ξ゚听)ξ「……」
ξ゚听)ξ「体育館?」
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910 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 19:13:05 ID:gPKLpoGg0
-
でも、こんな古そうな体育館が新築の南館内にある筈は無いし
校門近くの第一体育館でも無い。ここの学校施設は大体が比較的新しくて綺麗なものだ。
―――だが、此処がVIP高校の体育館だとすれば、あと一つ……
あと一つ。ツンには思い当たる節があった。
ξ゚听)ξ「……え゙」
ξ゚听)ξ
ξ゚听)ξ「まさか」
全身の動きが止まる。
ξ゚听)ξ「……こ……ここって……」
ξ゚听)ξ
ξ゚听)ξ
ξ|li゚听)ξ サーッ
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911 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 19:14:35 ID:gPKLpoGg0
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ミセ*゚ー゚)リ「ねぇねぇなお君!ちょっといいかな?」
2年A組の授業が行われている南館三階。
体育館隅の一角にて、ミセリはこそこそと同チームのなおるよを手招きした。
('(゚∀゚*∩「!!な、なんだよミセリちゃん!?」
名簿順で振り分けられ、コート外の壁沿いにて自分達の順番を待つ暇な時間。
別グループ同士のバレー試合が終わるのを熱心に観戦しながら待っていたなおるよは
今回たまたま同じグループとなったミセリからの、予想外のお声掛けにドキリとして飛びあがった。
ミセ*゚ー゚)リ「あ、声抑えて抑えて!内緒の話だから」ヒソヒソ
きょろきょろと周囲に視線を巡らし、口に手を当て声を潜めるミセリ。
('(゚∀゚*∩「な、内緒!?」
ミセ*゚ー゚)リ「うん。あのね、ちょっと聞きたいことがあるんだけどね……」
そう言ってミセリは、意味深なワードに一層胸を高鳴らすなおるよの目を覗きこんだ。
('(゚∀゚*∩(ミセリちゃん可愛いよ……)
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912 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 19:17:44 ID:gPKLpoGg0
-
ミセ*゚ー゚)リ「なお君ってさ、弟者君と仲良いじゃん?」
('(゚∀゚*∩「!だよ!」
ミセ*゚ー゚)リ「弟者君のこと色々知ってるよね?」
('(゚∀゚*∩「うん!」
ミセ*゚ー゚)リ「それでね、ズバリ聞きたいんだけど……」
ちらと、今はジョルジュと共にコートに出て試合中の弟者の姿を見やる。
ミセ*゚ー゚)リ「……弟者君が、B組の津田さんと付き合ってるってほんと?」
('(゚∀゚∩「……えっ!弟者が、つ……津田さんと??」
ミセ*゚ー゚)リ「うん。2人がシベリア駅で一緒にいるとこ見たって友達が言っててね」
ミセ*゚ー゚)リ「本当なのかなー?って」
なおるよは、ミセリから突拍子も無く予想外の質問をされ
なんのことか分からない様子で、しばらく頭に疑問符を浮かべていた。
が、やがて閃いたように「あ!」と大きな声をあげた。
どうやら声を控えめにひそひそ話を続けることは彼には難しいらしい。
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914 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 19:21:44 ID:gPKLpoGg0
-
('(゚∀゚∩「あー!違うよ!
多分それ、妹者ちゃんと公園に遊びに行くところだったんだよ!」
ミセ*゚ー゚)リ「え、妹者ちゃん?って、えーと……弟者君の妹だっけ?小学生の」
('(゚∀゚∩「そうそう!津田さんと妹者ちゃんは仲良しで、よく一緒に公園で遊んでるんだよ!」
ミセ;゚ー゚)リ「えっ、津田さんが??その、ちっちゃい子と一緒に公園で遊ぶの?」
('(゚∀゚∩「そうだよ!弟者はその付き添いだよ!」
ミセ;゚ー゚)リ「へ、へー。意外。津田さんって結構子供好きなんだ……」
('(゚∀゚∩「うん!そ……、あ」
('(゚∀゚∩
ミセ*゚ー゚)リ「?」
-
915 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 19:23:33 ID:gPKLpoGg0
-
('(゚∀゚∩
('(゚∀゚|li∩(これ、人に言っちゃいけない話だったよ!!!)
自分はなんて口の軽いお調子者の馬鹿なんだと後悔したが、時既に遅し。
彼は弟者から、ツンのマインドBであるデレが妹者と仲が良くて
週に一度シベリア駅近くの公園に出かけ遊んでいることは聞かされていたが
ツンが、自分が公園で遊んでいることを人に知られるのを嫌がる為
固く口止めされていたことを思い出した。
言ってしまったことが知れたら、ツンからも弟者からも怒られる。
いやそれ以前に、軽々しく約束を破るなんて男として最低だ。なおるよは青褪めた。
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916 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 19:26:50 ID:gPKLpoGg0
-
('(゚∀゚|li∩「……」
ミセ*゚ー゚)リ「なお君?」
('(゚∀゚;∩「ひゃっ、ひゃい」
ミセ*゚ー゚)リ「あれ……もしかして今の、秘密の話だった?」
('(゚〜゚;∩「う、うん……だよ」
ミセ*゚ー゚)リ「あー、そうなんだ」
('(´〜`;∩「……僕、約束破っちゃったよ……」
ミセ*^ー^)リ「大丈夫大丈夫、、内緒の話だから」
('(゚〜゚;∩「ミ……ミセリちゃん、誰にも言わないでくれるかよ?」
ミセ*゚ー゚)リ「うん!私言わないよ」
('(゚〜゚;∩「ほんとに?」
ミセ*゚ー゚)リ「ぜーったい言わない!約束」
('(゚∀゚∩
('(゚∀゚*∩ パアァ
ミセ*゚ー゚)リ(まぁ、どっちにしろトソっちに教えるつもりは無いしね)
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917 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 19:28:33 ID:gPKLpoGg0
-
Σ('(゚∀゚;∩ ハッ
('(゚∀゚;∩「で……ででもなんでミセリちゃん、急にそんなこと聞くんだよ?
も、もしかして!もしかしてミセリちゃん、弟者のこと……!?」
ミセ;゚ー゚)リノシ「ん?あっ違う違う!そんなんじゃないよ」
ミセ*゚ー゚)リ「ただね、私の友達で1人、弟者君のこと気になってる子がいるから
その子の代わりにこっそり調べてあげてるんだー」
('(゚∀゚∩「友達?」
ミセ*゚ー゚)リ「そ。それだけだから、あんまり気にしないで。
私がこのこと聞いたってことも、秘密だよ?」
('(゚∀゚∩「わ……わかったよ!」
ミセ*^ー^)リ「ふふっ、ありがとねなお君。
秘密の話教えてくれて。助かっちゃった!」
('(゚∀゚*∩「……どっ」
('(゚∀゚*∩「どーいたしましてだよー!」
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918 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 19:34:14 ID:gPKLpoGg0
-
ミセ*^ー^)リ +:゚('(゚∀゚*∩。+゚*
_
(;゚∀゚)「お、おいあれ見ろ弟者……。なおの奴が女子と話しして浮かれてる!」
(´<_` )「ほんとだ。あれ垣花か?珍しいな、何の話してるんだろ」
_
( ゚∀゚)「さぁなぁ……。でも、あのなおのデレ顔見ろよ。
すっかり舞い上がりやがってくれちゃって、憎いね青春だねぇ」
(´<_` )「え、なに?なおって垣花のこと好きなの?」
_
( ゚∀゚)「いやいや見てたら分かるだろー?教室でもさぁ、反応わかりやすすぎだってw」
(´<_` )「へぇ、そうなんだ。どうりで嬉しそうなわけだな。
良かったじゃん、なお」
_
(;゚∀゚)「……お前ってさー、その顔してるくせにそういう話マジで鈍いよなぁ。
安心通り越してその余裕ある感が逆に腹立たしいぜ。あと流石に心配になってくる」
(´<_`;)「顔とそれがどう関係あるんだよ」
('(゚∀゚*∩(なんて良い子なんだよミセリちゃん……!)
ミセ;゚ー゚)リ(……にしても、トソっち遅いなぁ??)
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919 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 19:36:14 ID:gPKLpoGg0
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(゚、゚|liトソン「はぁっ、はぁっ」
―――息を切らし、トソンは走っていた。
自然と震えが込み上げてくる手を強く握りしめる。
(゚、゚|liトソン(どうしよう)
―――こういうのを、”魔が差す”と言うのだろうか。
デレが体育館の中へ入っていくのを見届けた、あの後
トソンは気づかれないよう扉に近寄り、閂を閉めて施錠してしまった。
気づいたら錆びついた閂棒に手をかけていて
ガチャンと扉を閉めてから、すぐに怖くなって逃げ出したのだ。
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920 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 19:37:56 ID:gPKLpoGg0
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(゚、゚|liトソン(どうしようどうしようどうしよう……閉めちゃった……)
そんなつもりじゃなかったのに。だって、鍵が開いてるなんて知らなかった。
別にそんな、酷い目に遭わせてやろうなんて思わなかった。閉じ込めたりなんて。
ただ、あの子があんまりにも怖がらないで、ケロッとしているものだから
ただもうちょっとだけ、もう少しだけ怖がらせてやりたくなったのだ。
そう。ただもうちょっと、ほんの、少しだけ―――
あの子も自分と同じように、誰かに裏切られて、嫌な気持ちを味わえばいい。
自分と同じくらい、心を傷つけられれば良いんだと、そう思ってしまったのだ。
今更戻って扉を開けたりしたら、自分がやったということがバレてしまう。
もう取り返しはつかない。今はとにかくこの場所から離れたかった。
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921 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/09/11(金) 19:40:28 ID:gPKLpoGg0
-
(゚、゚;トソン(……で、でも)
(゚、゚;トソン(そのうち誰か気づくよね?)
―――大丈夫、大事にはならない。ならない筈だ。
そのうち、用務員さんか、先生か誰かがきっと気づく。
鍵が開いてたのが悪いんだ。あの子が疑いもせず、中に入ったのが悪いんだ。
トソンは必死で自分に言い聞かせた。
私は悪くない。大したことではないと。
未だ手に残る、錆びついてザラザラした厭らしい鉄の感覚を無理矢理揉み消した。
自分がしでかした悪行に怯え、その場を逃げ去る彼女の耳に
廃れた体育館を反響する絶望の叫びが届くことは無かった。