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407 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/27(金) 04:57:45 ID:r/TBeVGs0
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408 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/27(金) 04:58:45 ID:r/TBeVGs0
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「兄者、あれなに」
小さなひと差し指がガラスの向こうを指さす。そこにはまだ集結していない争乱があった。
命令はとっくにだしている。後は撤収作業を終えるだけ。戦車なみにでかい車で、建物ごと押しつぶせばいい。
遠隔操作だから人も死なない。コスト方面から考えれば人の方がいいのだが、道徳観点からできなかった。
誰もが兄者の考えではない。
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409 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/27(金) 04:59:31 ID:r/TBeVGs0
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( ´_ゝ`)「あれはねーお掃除してるんだよ。ほらきれいになっただろ」
子供をあやしながらそう教える。
この子供は現在の上司にあたる者からの預かりものだ。絶対だった支配者が死ぬというまさかの出来事、それもテロによってで、上流階級でも危機感を覚えたらしい。
まともではないが、だからこそ安全な男のもとに後継者たる子供はよこされた。
兄者は教育はできないが、遊ぶことならできる。むしろ遊びなら子供の方がうえだ。
瞬時にルールをいくつ思いつくか、などといった難解な発想を兄者はまだ理解できない。
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410 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/27(金) 05:00:14 ID:r/TBeVGs0
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( ^ν^)「うわあ怖い。ちっちゃい子にろくでもないこと教えないでください」
そういって兄者の係りが床にある端末でガラス窓の景色を遮断する。
銃撃戦の音は聞こえないが、なにをやっているのかは屋敷のなかから丸わかりで、兄者は子供と仲良くそれを眺めているだけなのに、なぜ閉められるのか。
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411 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/27(金) 05:00:56 ID:r/TBeVGs0
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( ´_ゝ`)「てかおまえ、わかりづらいんだけど。番号いくつよ」
( ^ν^)「えっ……いや。あの、それほどの者じゃ」
( ´_ゝ`)「それは俺についたのみればわかる。どんくらい下?」
( ^ν^)「……900番代です」
( ´_ゝ`)「めっちゃ下っ端じゃん!」
( ^ν^)「しょうがないですよ。まさか桁違いの方たちがそろって無くなるなんて滅多にないんですから。繰り上がったのはほんの少しですけど、これでも僕出世したんですよ」
( ´_ゝ`)「俺つきって出世になんの?」
( ^ν^)「…………一応」
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412 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/27(金) 05:01:39 ID:r/TBeVGs0
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( ´_ゝ`)「生意気なやつめ、こうしてやる!坊主、マッキーもってこい」
「おっけー」
( ^ν^)「ちょおまて……いたいいたい離してくださいよ、」
(A ^ν^)「あー……なにするんですか」
( ´_ゝ`)「いいね見やすくなったし。わかりやすい」
(A ^ν^)「えーなんてかいたんですか?」
( ´_ゝ`)「アルファベット」
(A ^ν^)「えー目立つしなんかもう雑……」
( ´_ゝ`)「ばっかこれからの時代目立たないとのし上がっていけないって。出世したいんだろ?」
(A ^ν^)「したいですけど……」
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413 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/27(金) 05:02:21 ID:r/TBeVGs0
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( ´_ゝ`)「とりあえず坊主の家来な!話はそれからだ
「それからだ」
(A ^ν^)「はああああ」
(A ^ν^)「……というか報告があるんです。すこしよろしいですか」
( ´_ゝ`)「なに?」
(A ^ν^)「ある施設の映像なんですが」
室内の壁が壁紙からパネルに変化する。
ナンバーズに名前はない。
番号で統一されるので兄者の書いたAというのは端から見てもわかりやすい。
Aは半壊した建物の映像を映した。
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414 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/27(金) 05:03:03 ID:r/TBeVGs0
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(A ^ν^)「最近はほとんど活動してなかったようなんですが、一角が壊れて実験動物が逃げたようなんです。まあほとんど回収しましたけど」
( ´_ゝ`)「そんで?」
(A ^ν^)「どのような研究を行ってたかよく分かってなくて。資料が廃棄されてるうえに研究員がみな死んでしまったので。」
( ´_ゝ`)「みんな?全部?」
(A ^ν^)「はい。事故じゃない事はたしかです。ただ銃やナイフといったものではなくてですね、撲殺とか絞殺とかみたいなんです。えらい馬鹿力で。」
( ´_ゝ`)「遺伝子実験なんかどこでもやってるでしょ。失敗した検体にでもやられたんじゃない?」
(A ^ν^)「はい、まあそのあたりかもしれませんが。ただ人型ならよかったんですがこいつはどうも……そうじゃないみたいなんです」
( ´_ゝ`)「んー?その施設、何系の研究してたの?」
.(A ^ν^)「ハイブリッド混合生物。ヒトキメラ種です。発見された場合、どう考えても我が社の技術だと……知られるでしょう」
( ´_ゝ`)「あー……ちょっとそりゃまずいな。」
( ´_ゝ`)「再生して」
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415 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/27(金) 05:04:11 ID:r/TBeVGs0
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416 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/27(金) 05:05:08 ID:r/TBeVGs0
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整備された都市でも有数の名所を、二人歩いている。
そこはテロが起きた惨事をまったく感じさせない、富裕層の道路だった。
ワタナベは買ったかばりの服を着て、でぃの隣に寄り添っている。
そおっとコートの袖をつかむと、でぃは心得たかのように手を握ってくれた。
付き添いがいるというのは、声をかけられにくい。
でぃはワタナベの機転に感謝したが、彼女はもっと単純な動機だったので頬を染めた。
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417 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/27(金) 05:05:53 ID:r/TBeVGs0
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从'ー'从「ここ、あんまり歩いたことないの。迷わない?」
(#゚;;-゚)「地図は頭のなかに入ってる。むしろここを抜けた通りはきみに頼ることになるから、その時は案内を願う」
从'ー'从「わかった!」
にこにこと嬉しそうに笑う姿はあどけなく、治安のよい街によく馴染んでいる。
でぃはシンプルにデザインされた街のガラス越しに、自分たちの姿を眺める。
少女と男。でぃの頬に軽いやけどがある。
そのやけどは外出するさいにワタナベが化粧で隠してくれたから目立たない。
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418 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/27(金) 05:06:36 ID:r/TBeVGs0
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ただのコート姿の男にしか見えないはずだ。人にすれ違うたび、どこかおかしいところはないだろうかと不安になる。
これまでこんなに多くの人間に出会ったことがないのだ。ワタナベには何を聞いても肯定しか返ってこない。
少し違和感もあったが、それを信用することにした。
ワタナベは奇妙な女だった。
でぃは研究所しか知らないが、そこは規律の世界だ。その規律も研究員の微妙なさじ加減でころころ変わる。
その変化についていけない者たちから先にいなくなった。
でぃはワタナベに匿ってもらうにあたり彼女の希望を聞いた。
望みをかなえてもらうときは、交換条件がなければいけない。
約束は成り立たないのだ。
だが彼女の望みはひとつだけで、それはでぃの要求でもある。
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419 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/27(金) 05:07:18 ID:r/TBeVGs0
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(#゚;;-゚)「きみは、僕と一緒でいいと言ったが、あれはどこまで?」
街路樹の公園を歩きながら、隣の彼女にそう問いかける。
でぃはいつまでもこの国にとどまるわけにはいかない。いずれ捕獲される。
そうなるまえに、国外に逃げなければいけなかった。
从'ー'从「いつまでも。ずっと一緒にいたいの」
別れるつもりはなく、確認といった程度できいたことを、また確認のつもりで返される。
つまりワタナベはどこまでもでぃについてきてくれるようだ。
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420 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/27(金) 05:08:00 ID:r/TBeVGs0
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(#゚;;-゚)「きみは、僕と一緒でいいと言ったが、あれはどこまで?」
街路樹の公園を歩きながら、隣の彼女にそう問いかける。
でぃはいつまでもこの国にとどまるわけにはいかない。いずれ捕獲される。
そうなるまえに、国外に逃げなければいけなかった。
从'ー'从「いつまでも。ずっと一緒にいたいの」
別れるつもりはなく、確認といった程度できいたことを、また確認のつもりで返される。
つまりワタナベはどこまでもでぃについてきてくれるようだ。
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421 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/27(金) 05:08:42 ID:r/TBeVGs0
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(#゚;;-゚)「僕と一緒でいいの?」
从'ー'从「あなたじゃないと嫌なの。あなたは?わたしと一緒じゃだめ?」
つたない言葉で、賢明にワタナベが言い募る。でぃはワタナベの思惑を探ろうとしたが、真剣な、ふるえる眼差しには彼女の情熱しか映っていない。
その目は仲間たちがたびたび、研究員に裏切られるまえに見ている。
ひたすら信じ抜こうとする目だった。
でぃは彼女を信用した。一体でぃの何に惹かれたのかわからないが、彼女は自分と供に居ることが望みらしい。
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422 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/27(金) 05:09:42 ID:r/TBeVGs0
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(#゚;;-゚)「わかった。僕もきみと一緒にいたい」
ワタナベは強い。
そしてでぃをないがしろにしない。
むしろ仲間たちのように、優しく接してくれる。そんな彼女を失いたくなかった。
この迷路のような国で、行き先のないでぃが隠れることができているのはワタナベが居るからなのだ。
ぱあっと彼女の顔がほころぶ。
でぃは人の美醜を知らないが、その様子は微笑ましいと思った。
嘘も、偽りも、駆け引きもないそのままの感情。研究所では許されない素直さ。
周囲を歩いていた人々はその様をみて、和むと同時にすこしだけ嫉妬も滲ませる。
暗い国内ニュースが続くなか、未来を約束しあったカップルにしか見えなかったからだ。
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423 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/27(金) 05:10:44 ID:r/TBeVGs0
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( ´_ゝ`)「カメラばっか集中的に壊されてるんじゃん」
(A ^ν^)「知能が高いやつですね。だいたいは五歳時並の検体が多いんですが、成人並の知能を持ってるようです」
( ´_ゝ`)「んー。逃げるとこまで計算してんな。てか隔離室の壁貫通してんのかよ。これ生体兵器でも作ろうとしてたのか?」
(A ^ν^)「えーっと。残されたわずかな資料では……そうですね。シリーズの制作期間とほぼ被ってますから、たぶん作ってる途中に生産競争に負けたんだと思います」
( ´_ゝ`)「あーもったいなくて捨てられなかったんだろうなあ。いつか日の目みれると思って待ってたわけだ。その間に破壊されたようだけど。管理チップはどうなってんの?」
(A ^ν^)「施設内から外に出すことはほぼなかったので、入ってませんね」
( ´_ゝ`)「衛生の目も限度があるしなー。姿かたちがわかってないとさすがに無理。なんか情報ないの。外見とか、能力とか」
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424 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/27(金) 05:11:51 ID:r/TBeVGs0
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(A ^ν^)「資料を破壊されたのが痛いですね。バックアップごと消されてます」
( ´_ゝ`)「んー?情報端末は小型だろ?それも潰されてんの?」
(A ^ν^)「それならまだ望みもあったんですが、パスワードを使って正規のやり方で消去されてるんです」
( ´_ゝ`)「へー……外に出ようと檻をめちゃくちゃに壊した奴にしては、少し理知的だな」
(A ^ν^)「アンバランスですよね。もしかしたら、理性と感情がばらけているのかもしれません」
( ´_ゝ`)「……いや。もっと単純なことかもしれないぜ」
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425 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/27(金) 05:13:04 ID:r/TBeVGs0
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目に付いた店に入る。そこは中流層向けのレストランだった。
でぃはワタナベを連れて窓際の席にと向かう。そこからはある建物が見据えることができた。
ひとりだったら、堂々とこの場にいられない。
また再びワタナベに感謝する。
彼女は育ちの違う気後れを見せず、堂々とした態度を見せる。
慣れているわけでもない。このような店員の教育が行き届き、食器ひとつを客が持ち帰らないような場所ははじめてだった。
だがワタナベにとっては服も、高価な食器も見たことがない料理もどうでもいい。
向かいに座り、さも慣れているかのように振る舞うでぃがワタナベの後ろをじっと見ていることだって。
彼女はでぃが自分を見ていなくとも、見つめているだけでよかった。
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426 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/27(金) 05:13:53 ID:r/TBeVGs0
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でぃは料理が来るあいだ、ひたすらワタナベの背後の建物に集中している。
そこは研究役員たちが行き来する場所で、でぃの知る誰かが通らないかを探していた。
研究所から逃げたあと、その後を知らない。
自分を探されているなら、見知った顔のものが居る可能性が高いと思った。
逃げるまえに、役にたつ道具や情報がほしい。
しかしいくら待っても、関係者は一人も通らなかった。
仕方なく出てきた料理に手をつける。
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427 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/27(金) 05:14:43 ID:r/TBeVGs0
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でぃが食べ始めて、ようやくワタナベも食事に手をつけた。
彼女のとる食事は栄養補助のパンを堅くしたようなものだ。
味覚を楽しむということをしたことがなかったので、切り分けたソースがかった肉を口にして、びっくりしたように動きが止まる。
それをみてでぃが目を細める。
(#゚;;-゚)「炭火で焼いているから旨みが詰まっている。おいしい?」
从'ー'从「……お肉って、臭くないのね。びっくりした。すごく、飲み込みやすい」
味というより食感の感想だった。
でぃも外を知らない世間知らずだが、ワタナベは生き方を知っているのに、基本的な価値観を知らない。
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428 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/27(金) 05:15:44 ID:r/TBeVGs0
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夢中になって肉を詰め込む。
少しはしたないかもしれないが、ワタナベが食べたどのパンよりも柔らかく、まろやかな肉だった。
すっかり食べてしまうと、でぃの腕が伸びてくる。唇のとなりについたソースをナプキンで拭われた。
レディのマナーなど知らないが、ワタナベは嬉しさと少しの恥ずかしさを感じる。
自分の恥などどうでもよいのだが、でぃに恥をかかせたのではないかという不安だ。
けれどでぃはどうでもよさそうにナプキンを折り畳む。
別段、なにも気にしてはいない。ただ女性が顔を汚すのに耐えられないだけだ。
(#゚;;-゚)「……やっぱりきみは暖色系の色が似合うね」
从'ー'从「だんしょく……?」
(#゚;;-゚)「赤い口紅より、オレンジ色の方がいい」
从'ー'从「それの方が好きってこと?」
(#゚;;-゚)「きみに映えるってこと」
从'ー'从「うん……わかった!」
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429 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/27(金) 05:16:42 ID:r/TBeVGs0
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430 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/27(金) 05:17:33 ID:r/TBeVGs0
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( ´_ゝ`)「うーん」
割れた鉄筋、細かな破片。折れた鉄骨。
半壊というより、ほとんど全壊している。すべて取り壊したほうがいいだろう。
回収チームはすでに作業を終えており、分析した結果が兄者の手元にある。
人間のDNA以外のものが数点でた。
同じくらいのキメラ体の死体もあるので、より分ける作業に時間がかかる。
( ´_ゝ`)
きらきら光ものが檻の回りに散らばっている。手袋をした指で、それをつまむ。
( ´_ゝ`)「なあ、お前ってなにでできてんの?」
(A ^ν^)「?はあ」
(A ^ν^)「うーん、酸素、炭素、窒素、カルシウム、それからアンモニアと」
( ´_ゝ`)「俺はケーブルと液晶」
( ´_ゝ`)「こいつはなんだろうな」
手のなかにある剥げた肉片は、ハ虫類のウロコによく似ていた。
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