(‘_L’)は命令が欲しいようです

Part8

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297 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 04:34:58 ID:PpHh.7g.0















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298 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 04:36:23 ID:PpHh.7g.0




( ´_ゝ`)「wwwwwwww」




( ^ν^)「やかましい」



( ´_ゝ`)「なにもwwww言ってないのにwwww」


( ^ν^)「……」



( ´_ゝ`)「ゴメンゴメン。でもよかったじゃん。ああなって欲しかったんだろ?」


( ^ν^)「あそこまで極端なものを求めたわけではない。忠義心があるわけでもないし、すぐに死ぬ相手に操をたてるのは論理的でない」



( ´_ゝ`)「なにそれwwwちょう理不尽www」

( ^ν^)「やめろ不快だ」




( ´_ゝ`)「はーい」


( ´_ゝ`)「でもさーかっこよくない?」

( ^ν^)「事実は小説より奇なり。あれが従うかわからんが好むのは多いだろうな。だが管理は難しいだろう」


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299 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 04:37:32 ID:PpHh.7g.0




( ´_ゝ`)「なんで?」


( ^ν^)「死ぬと理解していながらそちらを選んだんだ。戻ると思うか」



( ´_ゝ`)「居なくなったんなら戻ってくるんじゃない?新しい主人欲しくてさ」

( ^ν^)「今まで主人の遺言を聞かされた者など居ない。切り替えのよものなら忘れることもできそうだがアレはもう限界だろう。次にシェーカーを使えばどうなるかわからん」



( ´_ゝ`)「処分するの?」

( ^ν^)「貴重なデータは取れた。
欲を言えばもっと頭を使ってほしかったな。駆け引きにたけるような」


( ´_ゝ`)「そいつは無理な要求だ」

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300 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 04:38:27 ID:PpHh.7g.0




( ^ν^)「なぜ。主人を守るためにボーイの真似事だってしている。あの男が花を使って侵入するのを思いつけたはずがない。
そこまで柔らかな思考ができるならもっとうまく動けるはずだ」


( ´_ゝ`)「大事なこと忘れてない?
あの場面であいつの主人はもう死にかけてた」

( ^ν^)「だからだ。主人の次を見据える行動を取れなければいけなかった。
心中されては何のために監視していたのか意味がなくなる」


( ´_ゝ`)「うーん」


( ´_ゝ`)「あいつけっこうすごいとこあるよ?」


( ^ν^)「評価できる点はもうない。
変わり種ということなら面白いが」



( ´_ゝ`)「いや、そうじゃなくてさ。……なにか聞こえない?」

( ^ν^)「なにも」

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301 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 04:39:31 ID:PpHh.7g.0



関節さきの焼けた腕、肉と骨が切断され露出している。応急手当をしてからしばらく考えこんだ。

ジョルジュからの最後の命令。

それを考えることだけがフィレンクトのすべてだった。

爆発物を設置して。結果はどうだろうか。

上階の一部分を崩すだけでは足りないように思えた。彼はぜんぶと言った。

すべて。

この世のすべて。

フィレンクトは考える。何もかも終わったら自分の世界も終了してしまう予感に襲われた。

まだその時ではない。

恐ろしい予感を先送りにして、どのように箇所を決めるか悩んだ。

ジョルジュの希望を叶えようとすると、この階では不十分。必要な知識を探り出す。

見取り図、耐震設計、加重の要点。

軍にいたことはないから爆発作業は初めてだ。それでもこれは成功させなければいけない。何としても。

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302 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 04:41:12 ID:PpHh.7g.0



( ´_ゝ`)「ねー、これからどうすんの」


不規則な動きで、跳ねてくる男がいる。

彼に殺意はないようだった。武器は携帯していないし、脳内のコントロールシステムもない。フィレンクトは振り向かなかった。

彼に構っているヒマはない。警戒だけとって、考えを実行に移そうと荷物を持って歩き出す。


( ´_ゝ`)「麻痺してんのかさせてんのか知らないけどさ、それ治療したら?」


そう言って携帯ボックスを投げられる。

なかには一揃い怪我に必要なものが詰められているものだ。即座に手当ができるように。



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303 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 04:43:02 ID:PpHh.7g.0



フィレンクトは痛み止めと血止めだけを使った。縛っただけでは滴りを止められず、床にてんてんとしずくが落ちるのでそれは有り難かった。



( ´_ゝ`)「逃げたほうがいいぜ。もう用済みらしいし」


男は一定の距離をとってフィレンクトを追いかける。彼の目的が何か分からないが、警戒すべき相手でないのは確かだった。

今までもこれからも、彼は傍観しかしていない。

なぜここに居るのか。監視するにしてもフィレンクトが男を殺したとき何の手だても取らなかった。
だから危険はなさそうだと判断した。

事実、同じエレベーターに乗っても彼は行動を起こさず、鼻歌を歌ってフィレンクトを面白そうに見ているだけだ。


( ´_ゝ`)「?逃げないのか」

304 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 04:44:21 ID:PpHh.7g.0



フィレンクトはある階層に止まり、その先へ進む。

やるべきことがあった。それが最優先。
逃亡は最後。

ペニサスにジョルジュのことを報告するという意志がなければ、その逃亡も考えなかった。

ガラスの壁からビルの側面を確認する。
ちょうど真正面、隣接するビルが建てられている。


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305 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 04:45:43 ID:PpHh.7g.0
     ● ●
    ●  ●  ●
     ● ● 


フィレンクトたちが居るのは右上のビル。

306 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 04:47:17 ID:PpHh.7g.0


この一つでも巨大なビルが崩れれば足下にいる準国民たちが大勢死傷するだろう。

そのためにフィレンクトは重心の柱を選んだ。より多く、ではない。より広範囲に。
ジョルジュの望み通りに。


( ´_ゝ`)「貸せよ」



隣の男がいつのまにか下ろした荷を探っている。フィレンクトは無機質な視線でそれを眺めた。

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307 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 04:47:59 ID:PpHh.7g.0


彼は楽しそうだが、また事務的でもあるという矛盾した様子だった。

にい、っと口のはしをあげる。

覚えてで、笑顔の練習でもしているような顔で言った。



( ´_ゝ`)「手伝ってやる」

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308 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 04:48:49 ID:PpHh.7g.0










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309 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 04:50:03 ID:PpHh.7g.0



( ´_ゝ`)「ねえ何か聞こえるだろ?こっちからよく見えるもん」

( ^ν^)「一定の騒音は遮断されている。こちらの硬質ガラスは外から何も影響は受けない」

( ´_ゝ`)「ふふ。知ってるさ」


( ^ν^)「……機嫌がよさそうだな」


( ´_ゝ`)「俺はじめてかもしんない。なんかスキップして外でちゃった。」


( ^ν^)「いまどこに居る」


( ´_ゝ`)「だからさ、外」

( ^ν^)「さっさと帰ってこい。破壊行為に及んだ場合巻き添えを食らうぞ。いま部隊を送ったからじきに」

310 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 04:51:02 ID:PpHh.7g.0


( ´_ゝ`)「もう遅いって」

( ´_ゝ`)「聞こえないの?あの音」

( ´_ゝ`)「便利さの弊害だね。一番上だから逃げるのもできないでしょ」



( ^ν^)「……さっきから何を言っている」


( ´_ゝ`)「ヘリポートは使えないよ。一番最初にやられる場所だし。観察が終わったから映像をまとめて切ったのも痛かった。

これから何をするにしても行動は予想してるんだっけ。でもさ、思想を制限されたわけでも、倫理感があるわけでもなくて」


( ´_ゝ`)「主人の為に120%の力を出すように育てた結果、その主人を無くしたらどうするのかを予想してなかったでしょ」




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311 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 04:52:25 ID:PpHh.7g.0



( ^ν^)「最後の命令をやり遂げるだけだ。どうせそれを終えれば動かなくなる」


( ´_ゝ`)「効率だけ考えるとさ、発想がすごいんだよね。さすがナンバーズを殺しただけはある。
あいつにとってもう俺らは仲間じゃないし、所属じゃないんだ。アンタは主人でもない」


( ^ν^)「結論から言え。何が言いたい」


( ´_ゝ`)「だめだめ。俺は時間かせぎしてるんだから。どう頑張っても俺はアンタを殺せない。
でもアンタが望むのはそういうことなんだろ?じゃあ間接的にだけどそうであろうとしてるんだよ、だって」



( ´_ゝ`)「まさかドミノやろうだなんて、思いつくわけないじゃないか」


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312 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 04:53:14 ID:PpHh.7g.0




一点の重心、加重のある側面を吹き飛ばす。傾いた上階はまるで折れたように寄りかかろうとするだろう。

隣のビルに。

本来なら複数にわけた爆発物をすべて同じ場所で爆破させる。それで支えていた柱を崩し、途方もない重さの壁とコンクリートが落ちる。長さがあるから、そのまま下に落下することはない。

ビルの先端、屋上付近から長さのある廊下のぶんだけ振り下ろす衝撃は強くなり、数万トンの拳が隣接するビルの側面に打ち下ろす。

外から眺めている人々にとっては衝撃の、中に居る者たちは阿鼻叫喚の一夜になった。


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313 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 04:54:23 ID:PpHh.7g.0


勢いをつけて落ちてきたビルの上部分を、ほとんど真っ逆様に受け止められず隣のビルは強く揺れた。

このビルの上階に深く突き刺さり、これもまた側面から折れるようにして崩れた。

この時隣ではなく、落ちてきたビルの真後ろに倒れることになった。つまり中央の。

破片と黒い煙。火災が起きてケーブルが切れたために電気事故まで誘発する。
人々は逃げまどうしかできなかった。

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314 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 04:55:51 ID:PpHh.7g.0


「見える?そっから一番いい景色だと思うけど」



彼はすぐさまウィンドウのカーテンをONにした。いつもなら夜景の眼にうるさすぎる光がわずらわしいのに、そのときガラスは闇一色だった。

静寂のなかに亀裂が入る音がして、グレネードを使われても割れないはずのガラスが白く線条に広がるのをみた。

巨大すぎて何が降ってきたのかさえ肉眼ではわからない。

ただ質量の途方もなく大きなものが、部屋ごと彼を押し潰そうとしていることだけを理解した。


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315 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 04:56:45 ID:PpHh.7g.0


( ´_ゝ`)「バイバイ、父さん」


できることは何もなかった。

ただ本能に従い彼の身体は硬直する。

一瞬の間、耳にその声だけが入る。


何かを叫んだはずだが言葉にならなかった。

頂点にいるはずのナンバーひと桁。

栄華を極め、権力を手にして彼を脅かすものは何もないはずだった。
そんな彼は死を選択できることもなく、単純な肉塊に成り下がる。


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316 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 04:57:39 ID:PpHh.7g.0


( ´_ゝ`)「絶景だなあ」

遠目から見ると感動すら覚える景色だった。折れた象徴のビル、まるで黙示録のようで。




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317 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 04:58:46 ID:PpHh.7g.0


崩壊するビルは連鎖して崩れる。

ドミノのようにすべてが倒れるようにはいかなかったが、隣接している建物にそれなりに被害は与えている。

これから起きることを考えた。

耳元の無線は通信が切れて。
もう生きていないだろう。

結局あの男が求めていたのは何だったのだろうか。最後の瞬間、不明瞭なわめきしか聞こえなかった。

こうなる事を予想しなかったというのはじつに興味深い。

それを見通していた自分も。



( ´_ゝ`)「俺はアンタの求めるなにかになれたかな?」


まだ個々の意識はない。
兄者は希薄で、理解できないからそれを探そうとしていた。


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318 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 04:59:53 ID:PpHh.7g.0









同時刻


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319 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 05:00:35 ID:PpHh.7g.0




('、`*川

ペニサスは同じく屋上からそれを眺めていた。もう長い時間、通信が途切れていたから期待はしてない。ただその破壊の巨大さに驚いて笑う。

('、`*川「ずいぶんでっかい花火じゃない……」


どちらかは死んでいる。

その片方はジョルジュである可能性が高い。

彼が生きているなら、フィレンクトはそんな事をしなかったはずだ。

なぜならそれは自爆行為に似ているから。

被害が大きすぎて逃げるのも大変なはずだ。現在組織の一端は町を襲撃しているから、彼らも被害を被ったかもしれない。

どちらにせよジョルジュのやる事にしては、派手すぎる。

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320 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 05:03:03 ID:PpHh.7g.0



「こうなるって、わかってたのか」

後ろに立たれて、息を飲んだ。

足音を消されるのはいい気分ではない。

ペニサスは自分のたち位置を知っているから余計に。

('、`*川「必ず成し遂げるって思ってたわ。まさかここまでとは思わなかったけど」

(´・_ゝ・`)「……三十人以上死んだ。まったく警戒してなかった所でだ」

('、`*川「は?ちょっとまってよ、場所は下町のとこでしょ。なんで上町で被害がでるのよ」

('、`*川「……勝手に行動範囲を広げたわね」


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321 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 05:03:44 ID:PpHh.7g.0


(´・_ゝ・`)「チャンスだった。銀行も地下マーケットも手薄だ」

('、`*川「信じらんない。やっぱあんたに統率は無理よ。ジョルジュが帰ってきたらきつく処分するように云うから!」


(´・_ゝ・`)「帰ってくるのか」

雰囲気に気がつく。目線がゆらゆらと揺れて、落ち着きのない様子だった。

ペニサスはこの男と関係があまりよくない。

彼は自分を信用しておらず、自分は見下している。手を出されないのは強く能力のあるジョルジュが居るから。それでもこの時はまだ、彼を侮っていた。

ペニサス有能すぎた。

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322 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 05:04:43 ID:PpHh.7g.0


('、`*川「来るに決まってるでしょ。あいつは英雄よ。」

(´・_ゝ・`)「そうか……」



('、`*川「ちょっと、なにーー」


考えているのか。その問いは男の熱い息にかき消された。


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323 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 05:05:29 ID:PpHh.7g.0









瓦礫が車も店も押しつぶす。

あとには騒乱と悲鳴と苦しみの死だけが残った。フィレンクトは片腕をかばいながら歩き続ける。

そのうち救援隊の一人から毛布をもらい、治療を固辞してそのまま去った。

汚れた煙、まだ黒煙は鎮火していない。

ざわついた人々の声であたりは騒がしい。

時期にここも崩れるだろう。フィレンクトは置いてきたジョルジュのことを考えた。

最後にみた彼は豪奢な部屋でひとり血に塗れていた。連れて帰ることは適わない。

あの死体は傾いたビルと共に落ちていっただろうか。まだ命令は遂行していない。

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324 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 05:06:17 ID:PpHh.7g.0


ぜんぶ壊せと言った。だからフィレンクトは歩く。振り向きもせず、そのまま進む。

一度帰るつもりだ。それから健康状態を確認し、休眠をとって再び。



ーーーどこに帰ればいいのか。


そう思うと足は止まりそうになった。

とりあえずペニサスの顔を思い出す。

彼女の指示に従わなくてはいけない。
でなくば、ジョルジュの望みを遂行できない。

通りを進み、交通渋滞に巻き込まれながらなんとか電子車を確保した。

通路を通って隠れ家に急ぐ。
このとき外に居る見張りが異常に少ないことに気がついた。


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325 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 05:07:19 ID:PpHh.7g.0




治安は安定していないとはいえ、ここらは縄張りごとにルールがある。ジョルジュがまとめ上げた男たちは、数ブロックごとに立っているはずだ。その兵隊たちがいない。

いつもと違うことは、フィレンクトの警戒を呼び覚ます。そういえばジョルジュが居ないのだ。
フィレンクトをもう仲間と認識するものはいないかもしれない。


心配は杞憂だった。建物内には人がいない。出払っているようだ。

恐らく混乱中の略奪に出かけたのだろう。
こんな時でないと、品物は手に入らない。

それでもこの少なさは異常だった。

留守を預かるのがひとりも居ないというのは。
フィレンクトはその時はじめてここに、何も変わらずに帰ることを想定していたのだと気づく。

隣にジョルジュを連れて、ペニサスが迎えてくれるような。


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326 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 05:08:36 ID:PpHh.7g.0



内部はしんとしていて、静かな靴音だけが響く。誰も居ない、そのまま背を向けて探しに行こうかと考えたが、奥の部屋の扉がわずかに動いたのを視線にとらえた。

警戒しながら進んでいく、潜むような気配はなかった。

フィレンクトはドアをくぐる。
そこに彼女が居た。

327 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 05:10:35 ID:PpHh.7g.0



('、`*川「……おかえり」

彼女はちらりとフィレンクトの失った腕を見る。

('、`*川「結構痛いことになってるのね。おいで、義手つけたげる」


歩きだす。

しかしその歩みはふらついている。

重心も定まっていない不安定な歩みだ。フィレンクトは何も言わず後ろをついていく。彼女を支えるのは義手を受け取ってからでもできる。

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328 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 05:11:23 ID:PpHh.7g.0



('、`*川「地雷とか、そういうので欠損するのも多いのよ。土地を取られたくないって地主が仕掛けてね。犠牲になる大半がその辺に住んでる人らなのに」


倉庫の鈍い明かりのなか、ペニサスはいくつかある腕のサイズを選んでフィレンクトの肘にあてる。

断面の手当はすませてある。

癒着させるにしても傷をカバーさせてからでないといけない。


('、`*川「これでいいわ。ぴったり」

ペニサスが選んだ義手は銀色の継ぎ目がないものだった。フィレンクトには違いが分からない。

どうせなら肌色のものがよかったのだが、ペニサスは穏やかに首を振った。


('、`*川「これはね、神経系を繋げて指先まで操作できるタイプなの。確かに肌の色に合わせるものもあるしその方が多いけど、それに比べて動作がなめらかなのよ。

つかむ、にぎる、広げる、つまむ、その他小さな可動も違和感なく行えるわ。見た目より性能がいいの」

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329 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 05:12:05 ID:PpHh.7g.0



神経を繋げるときだけ痛みと震えがあった。まるで凹凸のようにへこんだ部位に義手がはめられる。

はめた直後から指までは動かなかったが、手首は動かせた。

手術で人工の手足がつけられるので、その場しのぎとしては優秀なものだ。

腕を上げ下げしてその具合を確かめる。
違和感はあるがその内慣れるだろう。


銃の扱いも可能かと指を動かす努力をしていると、ペニサスが壁にもたれかかる。

そのまま足下が力をなくして、崩れ落ちた。

330 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 05:13:10 ID:PpHh.7g.0


ようやくフィレンクトは彼女の状態に気がつく。

腹部の衣服を破ると包帯と医療用のテープで膿んだ傷口を巻いているのがわかる。

フィレンクトはキットを取りに行こうとした。義手のおかげで彼女を運べる。

感染症を抑えるために抗生物質を注射しすみやかに医療機関に運べば容態は安定するはずだ。

隠れ家に医療部屋はついているはずだが誰ひとり居ない状況であてにはできない。

フィレンクトは焦っていなかった。

だがなぜペニサスがこの事を隠すようにしていたのか検討をつけることもできなかった。

331 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 05:14:03 ID:PpHh.7g.0




('、`*川「……要らない」


(‘_L’)「離してください」


('、`*川「そばに居て」


貴方を助けられない。

そう続けようとしたが、ペニサスの言葉で黙った。

彼女はいま不安になっている。抱えて移動しようと考えると、ペニサスが続けて言った。


('、`*川「もういいの。助けなくていいのよ」


フィレンクトは動きを止めた。

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332 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 05:15:10 ID:PpHh.7g.0


再び分からなくなる。
常時であれば教わったマニュアルであれば緊急時の救急行動は当然のはずだ。

手を動かそうとした。

彼女を抱えて部屋を出る。
治療できる場所に。

だがその行為は彼女自身の手に押し止められた。
フィレンクトの戸惑いを理解するかのように柔らかく笑う。

これまでの挑発めいた、生き生きとしたものでない。その優しげがフィレンクトには恐ろしく思う。

変化はこれまでフィレンクトに多大な負荷しかかけなかった。


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333 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 05:15:59 ID:PpHh.7g.0



('、`*川「ジョルジュになんて言われたの?」

(‘_L’)「壊せと」


ALL。すべてを壊せと。

フィレンクトはまだ一部しか達成していない。だからその後の指示を彼女から伺うつもりだった。

ペニサスならジョルジュの意見に賛同してくれるだろうと。


('、`*川「……そう」

予想とは反対に彼女は呟いただけだった。

334 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 05:16:49 ID:PpHh.7g.0



('、`*川「ねえ、聞いていい?」

彼女が手を握る力が強くなる。

ゆるめるとそのまま無くしてしまいそうな握力だった。

ペニサスが伺いをたてるなど珍しい。

どうぞ、と促す。


('、`*川「なんで最初っからアタシを警戒してたの?」


(‘_L’)

335 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 05:17:54 ID:PpHh.7g.0




ペニサスの顔を見たことがある。

化粧でいくらか違っているが整形をしたわけでもないので目鼻立ちは変わっていない。

どこかで知っている顔だった。

恐らく条件付け。無意識の行動をテストされるその場に彼女が居たのだろう。

断片であるが、白い壁紙と白衣をきた黒髪、赤い口紅は鮮烈に覚えている。

それは痛みと一緒になって片隅に残っている記憶だった。

336 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 05:18:51 ID:PpHh.7g.0



('、`*川「そう……アタシは覚えてない。
あんたちは生産されるえんぴつみたいなものだったから。流れ作業よ。
いちいち把握してられないわ。」


('、`*川「……でもそっか。だから怯えてたのね。自業自得。これアタシが企業に居たこと知ってる奴にやられたの。
ジョルジュが居なくなれば暴走するだろうなって思ったけどいくらなんでも早すぎるわよ」


(‘_L’)


('、`*川「……やっぱりあんたは優秀なのね。きっと全部覚えてるんだわ。
だからって思い出すのは危ないからやめなさい。いまみたいに、ちょっと知ってるくらいでちょうどいいの」


まばたきしてほうっと息を吐く。

ペニサスはフィレンクトの無表情の頬を撫でた。

それからジョルジュに向けるのと同じ笑顔を向ける。


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337 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 05:19:59 ID:PpHh.7g.0


('、`*川「ほかには、ジョルジュは何て?」


(‘_L’)「殺すまで死ぬなと」


難解な言葉だった。

ジョルジュの最後の命令で、フィレンクトを縛りつけるもの。

しかしその縛りが無ければ溶けてしまいそうなのも事実だ。

だから命令先をペニサスに向けたかったのに、彼女は満足そうに笑う。


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338 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 05:21:13 ID:PpHh.7g.0



('、`*川「あいつらしい。そうよ、ジョルジュに殺されるまでは生きなきゃ駄目よ。
仇なんだから」

フィレンクトの後ろ髪に指を通しながら楽しそうにそう言う。

ペニサスの状態は悪くないがけっして良いものでもない。

輸血をしてないだろうからそろそろ意識が混濁して気を失ってもおかしくないのだ。

だがフィレンクトが彼女を持ち上げようとするとそのたびに制止する。


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339 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 05:22:25 ID:PpHh.7g.0



('、`*川「ねえ、優秀な殺し屋はキスで殺すのよ。知ってた?」


耳元でそう囁かれる。

フィレンクトは彼女の望みを理解した。

これほどまでに抵抗にあらがいたい命令はなかった。

ジョルジュが生存なら何が何でも拒否し、そのまま連れ去った。

ジョルジュが許すはずがないから。

だがもう彼は居ない。

ペニサスは生を望んでおらず、フィレンクトは彼女に従いにやってきた。

緩慢に彼女を引き寄せる。


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340 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 05:23:40 ID:PpHh.7g.0




いままで数え切れないほど行ってきた行為だった。カフェで、バーで、パーティで。

もれなく相手は美女で、フィレンクトに抱きしめられることを望んでいる。


ペニサスもただそれを待っていた。

針は両袖に仕込んでいた。

シンプルな分何にでも使えるから。

フィレンクトはペニサスに顔を寄せ、そのまま口づける。

341 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/24(火) 05:25:15 ID:PpHh.7g.0




彼女が息を飲んだ一瞬のあいだを狙って首の頸椎に突き刺した。

痛みは少しの間だけ、すぐに意識が飛んでまぶたが落ちる。

生理反応で身体がびくびくと痙攣する。

その反応を抱きしめていた。

彼女の体温が無くなるまで、ずっと。



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