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62 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/04(土) 18:02:11 ID:S4N5dkbU0
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( ゚∀゚)「似合ってるな」
元々薄い顔立ちで、さらに表情豊かでもない。仕事着としてスーツしか着てこなかった。その評価は妥当なものだろう。
フィレンクトは今日のできごとを報告する。一からすべて。ペニサスとの会話。
店員の様子、取引の相手、暗殺の男たち。さすがにオーダーメイドのくだりになると苦笑した。
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63 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/04(土) 18:02:53 ID:S4N5dkbU0
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( ゚∀゚)「つけられた?」
(‘_L’)「いいえ監視です」
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( ゚∀゚)「どう違う」
(‘_L’)「我々の居場所よりも行き先が目的です」
辻馬車の利点は窓が大きく通りを一面みることができた。移動手段はすべて馬車のため、待機の間は車と違って人が居ることは少ない。
排気ガスの心配がないため窓にガラスはなく、冷気も入れられないので走らせないと中は蒸して暑い。
行きも帰りも、同じ馬車が同じ場所で人を入れたまま居るのはかなり不自然だ。
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64 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/04(土) 18:03:39 ID:S4N5dkbU0
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誰かを待つなら、近くの喫茶に入ったほうがいい。以上の推論からフィレンクトは何者かによる監視だと報告する。
ペニサスかフィレンクトか。
どちらが目的かはわからないが。
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( ゚∀゚)「恐ろしいな……」
先行きの不安よりも、目の前の淡々とした男は食事中に人を殺して、帰りに怪しげな馬車を見抜いてしまう。
その能力の高さが何より恐ろしい。
今更ながらジョルジュは幸運だった。
フィレンクトに主人がいたまま相対していたら、いまごろ簡単に死体となっている。
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65 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/04(土) 18:04:23 ID:S4N5dkbU0
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( ゚∀゚)「ペニサスを狙った相手の目的はなんだ?」
(‘_L’)「わかりません」
教えてもらえなかったし、情報を引き出すには手段も道具も足りなかった。
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( ゚∀゚)「しょうがない。あいつにもあいつの思惑があるだろうしな」
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66 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/04(土) 18:05:08 ID:S4N5dkbU0
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一つだけジョルジュに話していないことがある。
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67 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/04(土) 18:05:54 ID:S4N5dkbU0
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('、`*川「それ、高かったんだから。ちゃんと着なさいよね」
ペニサスにそう言われたが、このスーツはフォーマルなもので、着る場所は限られる。前の主人たちならばいくらでも場を作れたが、今の状態では機会は恵まれないだろう。
下着とスーツ一着。あれほどジョルジュと共有することに嫌悪をみせたペニサスだったがフィレンクトに与えたのはこれだけだった。
('、`*川「必要ないんでしょ」
酒に酔って頬に赤みがさす。いつもなら表情がころころと変わる女だったが、その時は表情をなくしていた。
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68 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/04(土) 18:06:41 ID:S4N5dkbU0
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('、`*川「アンタはジョルジュより先に死ななきゃ駄目よ?それが嬉しいんでしょ?仕事になるんでしょ?弾よけでいい。できるだけ頑丈になりなさい。」
('、`*川「少しだけ同情されてるだけ。あいつこそバカだから。八虫類に恐怖を教えたいだけなの。わかった?」
('、`*川「これから死ぬ人間に、多くは要らないの。アタシからのプレゼント。できたら血塗れにしてね。生地に栄えるわ」
('、`*川「あいつきっと怒るわね。口だしするなって。バカなのよ。バカなんだから、仕方ないじゃない」
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69 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/04(土) 18:07:23 ID:S4N5dkbU0
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フィレンクトは悩んだが、結果ジョルジュに伝えなかった。一つにペニサスの感情、思考がジョルジュを害するものでも邪魔するものでもなかったからだ。
以前にも、主人の陰口を聞いたことがあったが聞かれるまで告げなかった。
もう一つに、主人とても近しい交友関係の場合決定的な裏切りが見つからないかぎり愚痴は見逃すことになっている。
たわいない文句も、第三者からの口で聞くと別の意味に聞こえてくるからだ。フィレンクトはそれを考えてやめた。
ペニサスは忠誠に似ている感情をジョルジュに抱いている。それで十分だった。
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70 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/04(土) 18:08:59 ID:S4N5dkbU0
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71 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/04(土) 18:10:01 ID:S4N5dkbU0
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爪'ー`)y「何が食いたい?」
何でも。と答えると不機嫌になるので、彼の好きなものを答える。
爪'ー`)y「肉と魚、野菜。この三つが全部で理想だ。おまえいい加減自分の好みを覚えろ。」
連れられていくのは高級な店ばかりだった。彼は自分に惜しみなく与える。
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72 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/04(土) 18:10:45 ID:S4N5dkbU0
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服も、食事も、部屋も、武器も。必要な時以外は置物としてしか動かない自分に、際限なく話かける。
食事もレーションがあればそのほうが効率がいいのだが、せっかくマナーを知っているのだからと隣に座らせた。
爪'ー`)y「成り上がりに必要なのは品格なんだと」
用意される事情通の店でなく、一般の高級会員向けに通うことを好んでいた。
ためされることで、彼はスキルを学んでいる。
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73 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/04(土) 18:11:29 ID:S4N5dkbU0
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爪'ー`)y「なにもかも終わったらお前を返さなきゃならん」
契約は急だった。
ある日突然彼の元に送られた。七つのビルに、海を渡って。
爪'ー`)y「そら、うまいか?」
レア・ステーキ。些細な火加減で味が微妙に変化する。だが自分には成分はわかっても、旨みがよくわからない。ビタミン・ミネラル・亜鉛。脂質の高いほうが、美味とされる。
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74 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/04(土) 18:12:17 ID:S4N5dkbU0
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爪'ー`)y「お前は銃だ。オールマイティ。
使い方さえ知っていれば、誰にでも扱える」
肉の味。付け合わせのポテト。それから芳醇なワイン。
爪'ー`)y「だがもし銃に意志があったら。
お前がそのままに意志があったら。」
彼の話はいつも難しい。呼吸することと同じようにしか、自分は動けない。
彼が望むことならすべて従う。けれど、それは彼が欲しいものではないようだ。
爪'ー`)y「せめて嘘のつきかたくらいは覚えろ」
その命令に、はいと答えた。
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75 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/04(土) 18:13:05 ID:S4N5dkbU0
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76 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/04(土) 18:14:01 ID:S4N5dkbU0
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目が覚める。
規則正しく、いつもと同じ時間。
記憶の反復。夢ではない。過去だ。
前主人との会話。結局何をさせたいのか、わからないままに終わってしまった。
着替えて、朝の日課を行う。窓をあけて風を入れ、掃いてから雑巾でほこりをぬぐう。
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77 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/04(土) 18:14:48 ID:S4N5dkbU0
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着替えて、朝の日課を行う。窓をあけて風を入れ、掃いてから雑巾でほこりをぬぐう。
ジョルジュからは相変わらず仕事の命令をもらえない。
ペニサスとの事を思い出す。
少数だが片づけた。フィレンクトは役にたったろうか。
ジョルジュはなにもかも主人たちと違う。
殺しを命じてくれない。物のように扱ってくれない。放置することもない。
彼のおかげで困惑することが増えた。考えることは苦手だ。それは主人の仕事だった。
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78 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/04(土) 18:15:31 ID:S4N5dkbU0
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( ゚∀゚)「手伝え」
キッチンに行くと珍しくジョルジュが起きていた。着てるものの様子から、寝ていないようだ。
階段を降りて、持たされた荷物を運ぶ。
塀の外に、組まれた木があって中に炭が燃えている。それにあふれるほど家にあった雑貨をつぎつぎ投げ込んだ。
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79 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/04(土) 18:16:14 ID:S4N5dkbU0
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小さなぬいぐるみ。リボンの花。目覚まし時計。キノコの電球。編まれたショール。小説。女物の靴。ヘアバンド。
生活する上で必要なものも、かまわず燃やしていく。塩化ビニールが、黒煙をだした。カラフルな彩りは、焦げて色を失っていく。
炎がひときわ大きく燃えあがった。わずかにガソリンの匂いがする。
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80 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/04(土) 18:17:11 ID:S4N5dkbU0
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( ゚∀゚)「お前生まれはどこだ」
(‘_L’)「わかりません」
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( ゚∀゚)「家族は?」
(‘_L’)「わかりません」
カチカチ。ジョルジュはシリンダーをいじっている。彼の癖なのかもしれない。
みたことがあった。ライナスの毛布。
無自覚の、精神の安定。
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81 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/04(土) 18:17:54 ID:S4N5dkbU0
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( ゚∀゚)「自分が可哀相だと思ったことは」
(‘_L’)「わかりません」
ジョルジュは苛立っている。まるでゾウに噛みついたアリのような抵抗しかなかったが、それも滞っていた。
フィレンクトに仲間を殺されたことで勢力は大きく低下している。
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82 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/04(土) 18:18:37 ID:S4N5dkbU0
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開発の遅れを嫌って交渉に入っていた企業も、自滅を狙って手を引いてきた。
ほとんど詰んでしまった状態で、仕事を貰って傘下に入ってしまえという声もでている。
ジョルジュは起死回生を待っているわけではなかった。死と引き替えに手痛い攻撃をしかけて、妹の仇をとれればそれでよかった。
このまま膠着が続ければ資金も底をつき、それを埋めるためにさらなる犯罪を起こさなければならない。
仲間を養う立場の彼は、それを憂いている。
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83 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/04(土) 18:19:21 ID:S4N5dkbU0
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( ゚∀゚)「…あいつがいるから、後のことは心配してなかったんだ」
あの日、フォックスを殺した日。
死んでもいいと思っていた。
担当がいなくなれば開発に時間をとられ、
地味な嫌がらせと敵討ち。
命令をしたものと手を下したもの。この手で殺すと決めていた。
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84 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/04(土) 18:20:04 ID:S4N5dkbU0
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( ゚∀゚)「お前が死ぬのが簡単なのが悪い」
(‘_L’)「申し訳ございません」
復讐するのに手ごたえがなさすぎた。
「なあ、俺の事、どう思う」
(‘_L’)「……」
主人の評価はフィレンクトがすることではない。それでもジョルジュが苦しそうなので、フィレンクトは考えた。しばらく考えて、
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85 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/04(土) 18:20:46 ID:S4N5dkbU0
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(‘_L’) 「わかりません」
それしか答えられない。
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86 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/04(土) 18:21:55 ID:S4N5dkbU0
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( ゚∀゚)「俺はお前を許せない」
(‘_L’)「はい」
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( ゚∀゚)「でも迷ってる」
(‘_L’)「はい」
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( ゚∀゚)「……もう一人殺したい奴がいる。その時まで、働いてくれ」
(‘_L’)「はい」
ジョルジュが黒い炎で煙草に火をつけた。最初の煙を堪能してからフィレンクトにわたす。
生まれてはじめての煙草の味、上手に吸えなくて、しばらくむせた。