(‘_L’)は命令が欲しいようです

Part3

50 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/06/26(木) 05:20:18 ID:7IUNAGs60

辻馬車が舗装された道路を走る。振動はゆるやかとはいえないが、激しくもなかった。

街灯が至る所に設置され、人通りもにぎやかだ。


('、`*川「ばかばかしいったらありゃしないわ」


どれほど貧しくても技術は進歩している。
ガソリンとエンジンを搭載した車のほうがはるかに利便性は高い。

だがこの街は古代の特権階級を意識しているので、手間も時間もかかる方法を好んでいた。


('、`*川「金持ちの金持ちによる金持ちのための街ってね」


('、`*川「移動手段は気にくわないけど外観がいいのが嫌らしいわ」


中世へ様変わりしたような建築が多い。
行き交う人々の多くは富裕層だろう。
彼らは街と同じような装飾を身につけている。


('、`*川「こんなところでしか満足な買い物ができないのはしょうがないか」

51 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/06/26(木) 05:26:18 ID:7IUNAGs60

作りかけの道路、工事現場、そこに住み着いているレジスタンス。
対比が見事なほど際だっている。
ジョルジュが言うように、統率する人員が皆消えてしまえば、集まった反対勢力もすぐにちりぢりになるに違いない。


フィレンクトは思い返す。

周辺地理は把握しているが、ロンドンを模したこの街に入ったことはない。
移ってすぐに、フォックスへ譲渡された。




('、`*川「服を買うわよ」

彼女の突飛な行動には黙って従ってきたが、この時は珍しく意見した。


(‘_L’)「必要がありません」


フィレンクトの所有する服は一着のみ。
それ以外はジョルジュと共有している。
背丈の似ている男二人。少しだけ細身のフィレンクトには十分借りられる。


('、`*川「胸張って言うことじ ゃないでしょ。何から何まで世話になっといて恥ずかしくないわけ?」


(‘_L’)「思いません」


ジョルジュからすべてを与えられる。
それがフィレンクトの主従観念だ。
明確な命令はもらえないが、習慣は変わっていないのでそれを守り続けている。
なにを疑うことがあるのか。

('、`*川「あのね、」


一息、吸い込んでペニサスが笑う。力強い怒声が来ることがわかったが、避けられない。


('、`*川「パンツだってお下がりなんて汚いことしてんじゃねぇよ!って話なの」

52 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/06/26(木) 05:33:29 ID:7IUNAGs60
ジョルジュは簡単に許可を出した。
それどころかペニサスを護るようにとの指示さえある。


  _
( ゚∀゚)「たぶん買い物だけじゃないはずだ。怪我させないようにしてくれ」


(‘_L’)「はい」

  _
( ゚∀゚)「それと、」

  _
( ゚∀゚)「あいつが何するのか、全部見てこい。いろいろ考えて、俺に教えろ」


(‘_L’)「はい」


ペニサスは看護婦でも娼婦でもない。
彼女は情報屋だ。ジョルジュに対する気安さから同士のように見えていたが、一時的に協力しているだけの関係だと話す。



それにしては周囲の彼女への信頼は厚いが、同じだけジョルジュが信用していることなのだろう。
フィレンクトさえも軽い用なら承る。


ペニサスの態度は露骨に変わるので見極めるのがとても難しい。



何度か“誘い”をかけられることもあった。


それに乗らなければ女として腹を立てる。乗ったとしても怒るだろうし、フィレンクトがジョルジュへ恭順な態度でいても不機嫌になる。


彼女が優しくなるのは二人のときだけで、
それでも伺うような目つきが警戒していた。フィレンクトはさらけ出すようなものは何もない。



けれどペニサスは探ろうとするのをやめない。不快にさせているのだと思っていた。



そんな彼女が世の中の好意にあたいする贈り物を、フィレンクトへする理解が難しい。

53 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/06/26(木) 05:38:10 ID:7IUNAGs60

緑の絨毯が詰められた店だった。
シャンデリアが豪華に光を集めて中央に輝いている。形式から言えば並の店だ。



それでもここら一帯では上等の部類に入る。ドア・ボーイがガラスの回転ドアを開けた。ペニサスは堂々と中に入り、フィレンクトもそれに続く。



ペニサスは知識からの振る舞いだがフィレンクトは単純に慣れていた。それでも着ているものはお下がりなので、場の違和感が強い。




('、`*川「呆れた。アンタ、ジョルジュよりも高いくせに、股下が長いってどういう意味よ」




既製品でなく寸法を計ってのオーダー。

ひと昔まえなら出来上がりに三ヶ月はかかったが、ここでは半日で仕上がる。



('、`*川「こういう時間は短縮するんだから、ほんと訳分かんないところよね」


次に連れて行かれた先が美容室だった。




服ができあがるまで、身だしなみを仕上げるようだ。必要最低限のことしかやってこなかったが、隠れ家にいる間ほとんど外には出してもらえなかったので久しぶりに髪にを整えて貰う。




従者の恥は主人の恥。そういえば以前にも、主人に人形遊びのように衣装を着替えさせられたことがある。
執事の格好が似合うと褒められた。




忘れるようにと、まだ命令されていない。
だから思いだしたのかもしれない。

54 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/06/26(木) 05:46:22 ID:7IUNAGs60

('、`*川「さ、エスコートなさい」


あつらえた服に袖を通す。ペニサスは大金を払っただろう。軽く、しとやかでデザインのわりに動きやすいスーツだった。



ただ体にぴったりとしているので、中から何もつけることができない。銃も忍ばせられない。それを計算したような出来だった。


ペニサスもドレスアップしている。化粧をしてきらびやかな姿だった。


フィレンクトは手をとって彼女を席へと連れていき、椅子をひく。紳士な対応は暗殺になくてはならないものだ。


ソムリエがワインをついで、それから料理が運ばれてくる。


特に厳しいマナーでもないが、雰囲気がそれを強要している店だった。



('、`*川「飲みなさいよ」


フィレンクトは口をつけた。主人の毒味もしたことがあるのですぐにわかる。



業務ボトルの味がした。


「バカみたいでしょ」


フィレンクトは何も言わない。表情にもださない。それでも内面を当てようとペニサスが言う。


('、`*川「こんなものありがたがって、真似しようとして、バカみたいでしょ。」



('、`*川「ここにいる奴らはね、中流層なの。本物を知らないから、アタシたちみたいなのをみて裕福だと思ってるわけ。
本物の金持ちにとっちゃいいカモよ。
これだけで納得させられるんだから」


('、`*川「与えられるものに不満がなくて、それが最上だと思ってる。疑わなくて、バカでとってもかわいい。アンタそっくり」

55 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/06/26(木) 05:50:35 ID:7IUNAGs60

蔑むような目でペニサスが微笑んだ。
その時、フィレンクトは唐突に理解した。


彼女はフィレンクトを、ジョルジュに近づけたくないのだ。理由はわからない。
考察もできない。


けれど彼女の感情がきっとそうだ。
フィレンクトに対して、反発するものは常に居た。だが彼女は今まで一番わかりにくい。




(‘_L’)「何をするのですか」


ジョルジュの命令を優先する。
護ること。たとえ本人が嫌がっても。



(‘_L’)「私ができることはなんですか」



('、`*川「だからホイホイついてきたってわけ……?じゃ、アイツに筒抜けじゃないもう。そっか、だからアンタも来たんだ。あんなに渋ってたのに」


言われるほど抵抗していないが、フィレンクトがNOを出すのはほとんどない。


それにジョルジュの側を離れることは、いきなり主人を失ったフィレンクトにわずかな不安を抱かせた。

56 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/06/26(木) 05:55:52 ID:7IUNAGs60

('、`*川「向こうのテーブル。」


視線だけで場所を教えると、ペニサスはバッグから小型のデータメモリをだした。


('、`*川「中身はべつに知る必要ないでしょ。アタシはこれからいい男にナンパされるの。それまで誰にも邪魔されないようにして」


ペニサスの指定したテーブルは予約されている。待ち合わせる相手がこれから来るらしい。ようやく、ふさわしい命令をもらえた。


ジョルジュ本人ではないが、ペニサスを護衛することが承けたものなのだから。


(‘_L’)「時間はありますか?」

('、`*川「あんまりないわね」

(‘_L’)「貴方ですか?」

('、`*川「両方」

(‘_L’)「ここのセキュリティは?」


('、`*川「七大企業のお膝元よ?バカでも天才でも、潜り込めたら苦労しないわ」


習慣の一部になっていたことは、身体はけして忘れない。

服を汚さないようにと命じられて、フィレンクトは階段をあがる。


景観のよい街並だが、そろって中世風の建築なため高い建物は限られる。一つは名物のために場所をとった城。


ライトをあてられ神々しく浮かび上がる城の側面。陰になっている暗闇の屋根のうえ。


レストランの対角線上に位置する場所。
足音を殺して屋根を上り、耳をすませる。
付近に人影は見あたらない。


道具は何一つなかった。それでも殺すだけなら可能だ。スナイパーの場合たいてい見張りがセットになっているが、フィレンクトが動いたのが直前なため、他に仲間は居なかった。

ふちに銃器をセットし、スコープを覗いている男が闇にとけ込んでいる。

57 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/06/26(木) 06:01:02 ID:7IUNAGs60

道具がないため時間をかけることができない。情報を吐かせるのも難しいだろう。


男の口元には通信機があり、悲鳴をあげるだけで仲間に気取られる恐れがあった。


仕方なく、フィレンクトは気配を消して彼の背後に忍びよる。力を込めて男の首を捻った。体重をかけて思い切り骨をねじるとゴキッと鈍い振動が手に伝わる。


何も知らない男はそのまま死んだ。


少しだけ痙攣したが数分で硬直が始まる。フィレンクトは男の顔から暗視ゴーグルを外して自分につける。設置されたスコープは、窓から見えるペニサスを捕らえていた。

('、`*川

談笑している男の姿も見える。

( ^ν^)


暗殺用の口径の小さな銃だが、もう少し大きい
ものだったら一発で二人を殺せる。それほど彼らの距離を近い。


フィレンクトはその位置からレストラン方向を狙える場所を探した。恐らく三方向。


一人が外してもそれを補助する別のスナイパーがいるはずだ。ペニサスは両方が狙われている可能性を教えた。


ならば文字通り蜂の巣にされてもおかしくはない。思った通りばらけた場所にスナイパーが居た。通信器は沈黙している。


一斉射撃で逃げるまもなくしとめる計画だろう。銃にサイレンサーがついていてよかった。近場の敵も、静かに殺せる。


('、`*川「化け物」


髪を夜風に乱されて、帰ってきたフィレンクトに、デザートを食べながらペニサスが言った。目に見える変化はそれだけだった。


返答せずに席につく。背中に視線を感じていたが、振り向くことなく食事に手をつける。

58 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/06/26(木) 06:06:18 ID:7IUNAGs60
('、`*川「アンタが欲しいってさ。どうする?」


ペニサスの取引相手だった。受け渡しが終わったのに、まだその場にいる。フィレンクトの交渉をしたらしい。


('、`*川「「いい条件じゃない?ちゃんと使ってくれるってよ」


フィレンクトは沈黙している。その権限は彼にない。ジョルジュが命じるなら素直に受け入れるが。


('、`*川「何人いた?」

(‘_L’)「四人です」

('、`*川「あらら。けっこう本気で狙ってきたわね」


('、`*川「アタシが何をしてるか、知りたい?」

(‘_L’)「はい」

彼女の行動を、ジョルジュに報告せねばならない。内容は主人が判断することだ。

('、`*川「教えない」

にこにこと嬉しそうにいじわるされる。
彼女はフィレンクトがジョルジュのために動くことを、邪魔するのが好きだ。


(‘_L’)「そうですか」

('、`*川「もっとねだりなさいよ。口説くみたいに。そしたら教えたげる」


そう言われるが、どのようにしてもペニサスは口を割らないだろう。

代わりに嘘も言わない。それを悟ったのでフィレンクトは何も言わなかった。

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