(‘_L’)は命令が欲しいようです

Part13

567 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 20:52:36 ID:yXXE1w160


ワタナベは油断したわけではない。


ただ暴漢者が強すぎた。銃を向けるまえにそれはたたき落とされ、腰のナイフを取る時間もなく頭を鷲掴みにされる。

声をあげようとした口は乾いた手のひらでふさがれ、喉を強く押されるとうめくことも苦しい。

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568 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 20:53:19 ID:yXXE1w160


ワタナベを捕まえた腕は強く、彼女が全身で抵抗しても微動だにしない。

まるで柱のようだ。しかしワタナベには危険に怯える本能がすっかりすり減っている。

恐怖よりも、怒りのほうが強い。

でぃになんとか知らせようとするのだが、闇に潜む暴漢はそれをさえぎるようにワタナベの身体を圧迫した。

肋骨がきしみ、声が出せない。


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569 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 20:54:11 ID:yXXE1w160




(#゚;;-゚)「ワタナベ……?」


警戒するでぃの声が聞こえると、足音がした。


来てはいけない。
もがいて暴れようにも、身じろぎするたびに強く、握られた。


解放は一瞬だった。目の前にでぃがあらわれた瞬間、暴漢は襲いかかり、でぃを抱き込む。
用なしになったワタナベは放り投げられた。勢いつけて壁にぶつかり、しかし痛がっている時間はなく。

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570 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 20:55:00 ID:yXXE1w160

身体が自由になるとすぐに解体用のナイフを腰から引き抜き、でぃに掴みかかる男の背中に突き立てた。

肉を切り分ける刃物は十分に研いであり、切れ味はするどい。

しかし簡単に振り払われ、衝撃にワタナベの方が吹き飛ぶ。

突き立てたはずのナイフの刃先はぱきりと折れた。




从'ー'从「うそ……」


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571 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 20:55:52 ID:yXXE1w160

从'ー'从「やだ、!かえして!」


身体をおこし、再び男に立ち向かっていく。

覆面をした男が横わきに抱えているのは、ぐったりと意識をなくしたーーーーーでぃ。


从#'ー'从「かえせ!!」


落ちた銃を拾い、男に向けるとすぐさま引き金をひいた。

連射機能はついていないので、慎重に男の顔面だけをねらう。

荷物のある男はそのまま撃たれ、頭に穴をあけてくずれ落ちるはずだった。

しかし男は片腕で顔を防御する。

異常なことに、どれだけ撃っても、弾ははじかれるだけだ。

苛立ち、ワタナベは沸騰した。



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572 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 20:56:43 ID:yXXE1w160



从#'ー'从「ふざけるな!ふざけんなよ!かえせ!!」


从#'ー'从「それは!あたしのだ!!!」


ワタナベは苛立って、金属の切断に使ったカッターを取り出し、振り回した。
スイッチを入れると刃先がぐるぐるまわり、側にあった椅子やテーブルにぶつかり、それらを削る。カスが散った。
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573 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 20:57:25 ID:yXXE1w160



从#'ー'从「かえせ!!!」


銃弾をふせいだ腕に振りかぶり、カッターで切りつけた。

ごりごりと削れる音がすると、ばちっとなにか細かなものが粉砕し、舞った。


男の衣服が破れて、奇妙な肌が露わになる。顔を近づければうろこ状だとわかっただろう。

しかしワタナベの視線はずっとでぃにあり、それを気にすることなくもういちど、切りつけようと振りかぶった。


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574 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 20:58:28 ID:yXXE1w160



从#'ー'从「切断してやる!」


しかしカッターを振りかざす動作の隙をねらい、男の拳が振ってくる。

刃物を飛ばす勢いでワタナベは殴られた。身体はふっとび、机にぶつかると割れていた板がさらに砕ける。

壁に頭を打ったようで数秒ほど意識をとばした。

気がついたときにはもう、男も、でぃも居なくなっていた。


从#'ー'#从「あああああああああああああああああああああああああ」


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575 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:00:16 ID:yXXE1w160




クリスチーヌ! クリスチーヌ!


ああ降りていきたい!

降りていきたい!

降りていきたい!


すべての出口が閉ざされている、闇の井戸のなかへ!



『オペラ座の怪人』


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576 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:01:16 ID:yXXE1w160











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577 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:02:21 ID:yXXE1w160




(A^ν^)「すいません。お話中たいへん申し訳ないんですが…」



 ( ´_ゝ`)「なんか進展あった?」


(A^ν^)「はい。スーツがめっさ暴れてまくってます。どうしましょうか」


 ( ´_ゝ`)「んー。なんかいまの話きいちゃったらからなー」


 ( ´_ゝ`)「いまいちやる気にならねーわ。ちなみに被害どんくらい?」


(A^ν^)「撤退したからシェルター止まりにはなってるんですけど、最低限の交戦しかやってないので破られそうです」


 ( ´_ゝ`)「威嚇射撃2、3発くらい打っとけ」


(A^ν^)「スーツはいいんですか?」


 ( ´_ゝ`)「あんな嫌がらせみたいなのまじで捕まえようとしたら時間かかってしょうがないじゃん」


 ( ´_ゝ`)「向こうもわかってっから撹乱しかしないんだよ」

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578 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:03:12 ID:yXXE1w160



(A^ν^)「了解しました。ミサイルはどうしましょうか?」


 ( ´_ゝ`)「あー…」


 ( ´_ゝ`)「うーーーーーーーん…とね」


 ( ´_ゝ`)「どうする?」


( ´∀`)「わたしに聞くのかね?司令官はきみだろうに」


 ( ´_ゝ`)「だってサンプルはたくさんあったほうがいいんだろ?」


 ( ´_ゝ`)「いまここで死んだら都市部と地方で結果異なるよ?」


( ´∀`)「ふむ。状況はそれほど逼迫してはいないのか」


 ( ´_ゝ`)「うん。だってここ囮だし」


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579 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:04:05 ID:yXXE1w160




(A^ν^)「え?」


( ´∀`)「……なるほど。交通量の高い場所を抑えて制限をかけたのか。どうやらお相手はボードゲームが好きなようだね」


 ( ´_ゝ`)「そらそうよ。俺らとガチでやりあって、得することなんかねーじゃん」



(A^ν^)「え囮?」



 ( ´_ゝ`)「あれ言ってなかったけ?」


(A^ν^)「でも、だって、あの。少年兵とかばんばん死んでるんですけど」


 ( ´_ゝ`)「戦争だもの」


(A^ν^)「市民とか、流れ弾受けて」


 ( ´_ゝ`)「富裕層はいないからへーきへーき」



(A^ν^)「傭兵の3割くらい負傷してますけど」


 ( ´_ゝ`)「金払うのバカらしくなるよねーでも本人たち納得して契約してるからいいんでないの」


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580 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:04:54 ID:yXXE1w160




(A^ν^)「いや、そんなつもりじゃないんですけど、」


(A^ν^)「だって…こんなに死人出てるのに、被害でかいのに、本当に囮なんですか?」


 ( ´_ゝ`)「うーん。そっかお前したっぱだもんなぁ」


(A^ν^)「な、なんですか?なんかだめでした?」



 ( ´_ゝ`)「だめっていうかー。いやだめだなこりゃ。御愁傷様。出世できないわお前」


(A^ν^)「こ、こんなに真面目なのに?」


 ( ´_ゝ`)「真面目ってか、普通っていうか平凡っていうか平均値っていうか」


(A^ν^)「」

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581 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:06:18 ID:yXXE1w160



( ´_ゝ`)「だってさー、俺らや向こうってべつに死傷者って数えてないしー」


 ( ´_ゝ`)「被害のでかさ加減からいってもせいぜい金しかないぜ?
それも爆発してる車両は強奪したもんだし、武器はメンテナンス不要の粗悪品。たまに自分の頭撃ち抜く用。そして人件費なんてタダ同然」


 ( ´_ゝ`)「ここでいう機会費用ってなにか、おまえわかるか?」


(A^ν^)「はぁ…しなかったことに対するもしもの費用ですよね?ええと、この場合もし迎え撃たなかったら、その間何をしているか、ですか」


※詳しくはググろうね


 ( ´_ゝ`)「そう。そもそも作戦なんてないに等しいようなもんだろ。ごり押しのテロなんてやらかすからには、必ず目的がある。
前線で戦ってるやつらは知らされてないけど、奥に中心人物なんて絶対いない。」


 ( ´_ゝ`)「意味がないから。これだけ大量に人も武器も反乱も備えてるのに?」


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582 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:07:08 ID:yXXE1w160




 ( ´_ゝ`)「だから向こうがやりたがってるのは、俺らが援軍を送るための道路を使えなくすること、それから最高司令官の足止め」


 ( ´_ゝ`)「つまり俺の足止めってこと」


 ( ´_ゝ`)「あー俺って優しいー。敬ってもいいよ」


(A^ν^)「ありがとうございます」


 ( ´_ゝ`)「だからおまえつまんねぇんだわ」


 (A^ν^)「」


( ´∀`)「しかし、いいのかね?それだけわかっていながら、なぜ対処をとらない」


 ( ´_ゝ`)「だってべつに、本気になるようなことじゃないし」


(A^ν^)「いやいや、武器取られちゃったら不味いですよ。うちの製品ただでさえ国際的に非難浴びてるんですから、」


 ( ´_ゝ`)「また作ればいいし。」


( ´∀`)「反乱は必ず鎮圧できるという自信かね?いずれ足元を掬われるぞ。どれほど会社が優れていても、少数は不利ではないか」

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583 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:07:56 ID:yXXE1w160



 ( ´_ゝ`)「いやだってさ。いったじゃん。出国と入国は俺が管理してるって」


 ( ´_ゝ`)「そもそも、誰もここから出す気なんてないよ」


 ( ´_ゝ`)「人間は減らさなきゃってさっき言ってたやん」



 ( ´_ゝ`)「おんなじ意見なんだよね。うちのとこもさ」
 


( ´∀`)「余裕があるということか」


 ( ´_ゝ`)「生きてここから出さないってこと」


 ( ´_ゝ`)「そいつがなんであれ、絶対ね」


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584 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:09:42 ID:yXXE1w160








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585 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:10:27 ID:yXXE1w160




食事の時間が好きじゃなかった。

それは食事ではなく、ただの補給だったから。
個体によって栄養素も取り入れる薬も違う。病院食ですらない。
経口摂取さえできなく、直接チューブで点滴を流し込まれる者もいた。

そんな彼らにとって補給は憂鬱な時間だった。しかしごくわずかに、鈍くとも味覚を形成された者たちがいる。

甘みに苦み。それだけしか感じ取られないが、食べることの楽しみを得ることはできた。


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586 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:11:19 ID:yXXE1w160




「……おいしい?」



川*゚ー゚)「うん!」


ただ用意されるのは最低限の固形。

言い換えれば残飯。
職員の廃棄される分を、適当に混ぜ込んだもの。
人の食事のように配慮されていないのは当然。

いくつもの種類がひとつの鍋に捨てられた自分には口にすることができないほど、悪臭が強い。酸っぱい匂いが鼻につく。

しかし味覚や嗅覚が発達していない個体には、それでも十分味がするご飯なのだ。

無臭の流動食や、味のしない錠剤よりもましな。

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587 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:12:08 ID:yXXE1w160



「……お皿がほしいね」



川*゚ー゚)「?なんで」



「スプーンをもらってこれば、汚れないですむから」



川*゚ー゚)「へんなの!あとで洗えるよ」


明るく、屈託ない顔で彼女は笑う。

どろどろに混ざった、元がなにか判別ができないモノで顔や手を汚している。手づかみで水っぽさのある“食事”を取っている。

食べずらくなれば、直接鍋に顔をつっこんだ。異常ではない。

ここではこれが当たり前の風景だった。ただ職員と食事をともにする自分しか、本当のことを知らない。

伝えることも難しい。
皿があってもスプーンがあっても、
きっとみな使わないだろう。

必要に迫られることがないから。


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588 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:12:51 ID:yXXE1w160


「ごめんね。タオルがあればよかったんだけど」


川*゚ー゚)「べつにいいもん」


「そしたら拭いてあげられたのに」



川*゚ー゚)「どうして拭くの?」


それが人だから。


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589 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:13:40 ID:yXXE1w160



けれど言葉はでなかった。
彼女たちは、そのカテゴリに属していない。

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590 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:14:28 ID:yXXE1w160




「おいで××××。いいものをみせてあげようか」


いくつもある使用されていない部屋のひとつに、こっそりと引き込まれる。

素直に従った。

まわりに誰も居なかった。

この場合の意味の誰も、に仲間は含まれない。

男を止めてくれるような施設の職員は誰もいなかった。

毎回自分だけが連れていかれる。仲間たちには妬まれたり、うらやましがられた。

彼らは本当に楽しい思いをしているのだと信じているのだった。

だから相談もむずかしい。

なにをされ慣れているのか、いまだ深くはわかっていない


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591 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:15:13 ID:yXXE1w160


撫でられるような声で、囁かれるのは危険信号だ。

支配者からの、機嫌をとるような態度は不振しかない。

けれど気づいていないふりをして、頷いた。
慕っているようにこちらが示せば、危害は加えられない。

その代わりにひどいことをされる。


「おまえは綺麗だ、美しい。神がつくりたもうた、最上の生き物だ。」


研究員はひざまずいて、つま先に唇を落とす。
恍惚に近い顔でうっとりと見つめられた。彼の場合はまだいい。

じっとしていればじきに解放される。少なくとも、肉体的な損傷はなかった。


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592 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:16:03 ID:yXXE1w160



「大人になる日が待ち遠しいね。おまえは世界で一番、幸せな××になるんだろう」


ひもで閉じるだけの簡易な服。室内の温度は一定にたもたれているから、それだけで不安はない。

それなのに、いつも過ごしている衣服なのに、心もとない気分にさせられる。なぜだろう。男の手が入ってくるからだ。

豊かで、脂肪あふれた太い指が、でぃの足をのぼってくる。

ただ撫でているだけなのに、走り出したくなるのはなぜだろう。

打たれるわけでも、つねられるわけでもなく、ただねっとりと肌に触れる。

男の手が汗ばんでいるからだ。

だからこんなにも気持ちが悪い。


湿った手が、乾いた皮膚を濡らしていくから。


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593 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:16:48 ID:yXXE1w160

「なにをみせてくれるの?」


押しとどめるようにして聞いた。

声はふるえていないだろうか。

動揺をみせてはいけない。

隙があれば、そこを突かれてしまう。撫でていた手が動きをとめ、なり惜しそうに足から離れていく。

ものすごく、安堵した。

理由は知らないが、彼らは中身にまで触れてはいけなかった。

他の個体は服を剥がされて、臓器のなかまで覗かれるから、それは破格の扱いだ。自分でも理解している。

優しく。穏やかに。いやがらない。

嬉しそうに。懐いているように。


そうやって振る舞わなければいけない。
でないと扱いがひどくなる。

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594 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:17:32 ID:yXXE1w160




「ああ……ほら。ずいぶんまえに、寝物語をみんなで聞いただろう。あれを見せてやろうと思ってね」


言い訳の言葉。ついでの説明だ。

そんなものは挿し絵でさんざん見たし、スクリーンに現れるような画像はもう見飽きている。

それでも笑顔をつくって、喜んだふりをした。


「ほんと?みたい」


でないと続きが行われる。

無邪気にそう促す。


「ああいいよ。記録的なニュースにもにもなったから、めずらしいと思ってね。ほんとは外の出来事を流しちゃいけないんだけど、おまえは誰かに言ったりしないだろう」


男はどこか自慢げに、こちらを伺うように言った。どこかさげすみの感情をもって知性をひけらした。


彼はなにも知らないままの無垢だと思っている。

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595 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:18:14 ID:yXXE1w160



こちらは職員のアカウントをいくつも記憶しているのに。


手元の打ち込みを盗み見た。


指紋認証とユーザーとパスコード。

自在に使えれば、どこの部屋にもいける。外につながるドアにもくぐれる。思惑を押し隠し、はやくとねだる。

急かされて男はまんざらでもないように、映像を取得する。

そしてそれは映し出された。

しかし予想外の映写で、期待していなかっただけに、息がつまる。

食い入るように、目を見開いた。


「……これなに?」


「千年にいちど、あるかないかの風景だそうだ。美しいだろう?」


「うん……」


「そうだろう。雨の降らない砂漠に、こんな奇跡があるんだ。世界はまだまだ、驚きに満ちているよ。まるでおまえのようじゃないか」



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596 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:19:05 ID:yXXE1w160

崇拝するように拝まれることもある。


しかし逆に、わわけもわからず毛嫌いされることもあった。

ふたつにどんな違いがあるのかわからない。思考の違い。

人間の違い。男女の区別。わかっているのは、両方ともこちらを特別とみなしていることだ。善くも、悪くとも。



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597 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:20:19 ID:yXXE1w160



ミ,゚Д゚彡「おい」



「……っ」


腕を捕まれ、強く握られる。そこには気遣いなどない。

殴られないのは単純に手を痛めることと、実験最中の個体への配慮のためだ。


期間が終了すればなにをされるかわからない。低い恫喝に、いつも本気で怯える。

彼らの悪意は怖かった。


嫌いを越えて、いつも憎まれている。

理由を知らないから、なおさらに。

研究員と部屋から出たのを見られてしまった。詰め寄られる。

明確な悪さなどしていないのに。

この男はいつも、自分ばかり責め立てる。

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598 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:21:22 ID:yXXE1w160




ミ,゚Д゚彡
二人きりで部屋にいったな。なにをしてたんだ?」


答えそうになって、口をつぐんだ。


映像のことは黙っている約束だ。

ばれたら二人とも不幸になる。
しかしその様子は、この男にある疑いを抱かせた。

そして発想は簡単に飛躍する。


ミ,,゚Д゚彡「言わないつもりか。言えないような何かをしていたんだな?汚わらしい!!だからおまえはだめなんだ、人を堕落させる!」


「だらく?」


ミ,゚Д゚彡「そうだ。正常ではない。歪だ。この世の正常ではないから、おまえのせいで道を間違えるやつがでてくるんだ。なんて恐ろしい」


「やだ……はなして!」

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599 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:22:11 ID:yXXE1w160



ミ,゚Д゚彡「なにをされた?話すんだ。でないと仕置きだぞ。
なんのためにみながおまえを待っているんだと思うんだ!まともじゃない子宮を使ってまで、世界に貢献しないといけないんだぞ!」


「わからないよ。なにを言ってるの」



ミ,゚Д゚彡「歪んだ生まれだがおまえ自身が汚れてしまえば元も子もない。
さあ、ちゃんとされたことを話すんだ。あの男は処分される。もうおまえに近づくこともない。だから言え。×××を握ったか?足を開いたのか?」



ミ,゚Д゚彡「それともおまえから誘ったのか?この悪魔め!」


恐怖に襲われ、抵抗した。すねを蹴って、逃げ出す。

他の個体と違って獣相がなくとも、運動もトレーニングもない研究職の男に比べれば筋肉はついている。

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600 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:22:54 ID:yXXE1w160




反抗に驚いた隙に手を振り払って全力で走った。

仲間の誰よりも人間に近くとも、人よりも体は優れているはずだ。



いつもそのように言われている。

長く。ひたすら長く続く廊下を許されている範囲内で走りまわる。

追いかけてはこないようだった。


それでもまだ不安で、観察用の植物園にと向かう。

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601 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:23:40 ID:yXXE1w160



天井がガラス張りで、夜でも日射がある。

葉の大きい植物や木々がいくつも繁茂していて、イグアナ種の個体たちの楽園場所だった。


隠れ場所に向いている。

他の部屋に比べて、少なくとも探す時間くらいは稼げる。

背丈のながい草にうずまり、震えながら身を隠した。


悪意は怖い。好意はどこかそら恐ろしい。


学んだことは、回避の方法だけ。


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602 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:27:46 ID:yXXE1w160






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603 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:28:36 ID:yXXE1w160

('A`)

さっとパネルに指を滑らせると、経路案内の画面がでる。

路線の色合いを確認し、無線で暗号化したデータを飛ばす。使用しているのはほとんどがきちんとしたまともな製品だ。

違法改造さえしなければ誰でも使える。登録した持ち主はすでに変わっているが。


喉がかわいたのでボトルの首を割って、コップに注いだ。

打ち付け、ガラスの割れた音が静かな部屋のなかに響いたが、誰も反応することはない。


色褪せたソファやシーツのないスプリングベッドの上には死体のような女たちが転がっている。


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604 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:29:29 ID:yXXE1w160




ξ 凵@)ξ


川 д 川


|゚ノ  ∀ )



彼女たちはみな恍惚に眠り込んでいる。

客をとるために起きている時よりも、幸せな夢のなかにいる時間のほうが長い。


男たちもそれに慣れ、反応のないまま犯すこともあった。

つまらなくとも、早く済む。


('A`)「陽動に気づかれてるか…」


ひとり呟く。
管制の司令官はそれなりにキレるらしい。しかし拠点までバレているわけではない。そのまま続行する。

傭兵団の役割のまま、あくまでもレジスタンスを貫く。この国の人間でなくとも。


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605 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:30:11 ID:yXXE1w160

('A`)「鼻が聞かないタイプねぇ…欲をいえばセオリー通りで居てほしいんだが、どんなんだろうな」







('A`)「お帰り」


('A`)「楽しかったかい?」



彼は背後の存在に声をかけた。


気配なく、いつ立たれたのかもわからないが、そこにいるだろうという予測があった。

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606 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:30:51 ID:yXXE1w160



薄暗い電球の下、闇の深い場所から影が形になり、体躯のよいなにかが現れる。


それは一部の隙間なく、プロテクト・スーツに覆われていた。顔もわからない。

しかしわからなくともいい。人間の記号を、この男は持っていない。



('A`)「なにか飯でも食うか?女ならそこにいるし、酒も腐るほどあるが、おや?」


ドクオは男が脇に抱えたものに気がついた。

最低限の衣食住しか欲しないこの男が、なにやら訳のありそうな人間を持っている。


('A`)「なにか新しい情報でも手に入ったのか?」


しかし男は黙ったまま、持ち物を渡すこともなかった。自分のたちへの手土産ではなさそうだ。

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607 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:31:48 ID:yXXE1w160

('A`)「……部屋を用意させようか?」


男はしっかりと意思表示した。
首を降って。NOの意味。

つまりはこれは男の獲物であり所有するということだ。
ドクオは乾いた笑みを浮かべる。
狂人の頭のなかなど理解不能だ。


女ならばまだ分かりやすいものを。

抱えられている人間は、特別美しいというものではない。見るからに凡庸だった。


しかしこの男が望むのなら、叶えてやらないと。


獣を飼うのは、飴だけが必要だ。
手に負えない相手に鞭は振るえない。


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608 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:32:46 ID:yXXE1w160



('A`)「じゃあ早く連れてってやんな」


しかし男は動かない。

プロテクターのアイサイトレンズから、ドクオをじっと見ている。

なにか訴えたいことがあるのだ。


それを探るのはいつもならば、手間だったが、この時は簡単だった。


('A`)「心配しなくとも、取りゃしないよ。傷つけたりもしないさ」


おまえがいる限りな


男が仲間でいる間なら、そのためにいくらでも機嫌をとる。いま意識のない手土産が、たとえ拒絶したとしても。
言うことを聞かせる薬ならあった。


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609 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:33:29 ID:yXXE1w160


ドクオの言質を取ると、男は再び重さの感じられない足取りですっと闇に消えた。


跳んだのだ。音をたてず、俊敏に。


窓から野外にでて、屋根をいくつも経由した離れにと帰った。


たどり着くまでに、人では時間がかかる。梯子もなにもないので、ひとりでは降りられない。

連れられた人間は、目を覚ましても逃げることはできないはずだ。


一段落ついて、ドクオはようやく緊張をといた。

表情にも仕草にも出さないようにしていたが、銃の効かない相手というのは身構える。殺す手立てがないのは絶望だった。

仲間にできて、本当によかった。



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610 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:34:21 ID:yXXE1w160




('A`)「おっかねぇ」


('A`)「あの人間、食うのかな」


離れが汚れてしまえば、掃除屋が必要になる。

いまのうちに予約をとっておくか、とのんきにwebサービスを開いた。


血や内臓が腐れば、内装が使い物にならなくなる。

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611 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:52:12 ID:yXXE1w160




「月は男神にも女神にもたとえられる。国によってはさまざまだがな。

しかし、だからこそふさわしい名だと思ったのだよ」


「おもしろいのは、多くの国々では、太陽は男なんだ。荒々しく照りつける。日照りに乾き、古くから、日射は恵みと同時に飢えを招きよせた。

それが雄々しい男神のように思えたの
だろう。月はやさしく夜をひっそりと照らす。そこに女人をみたのだ。アポロンやアルテミスがメジャーなのも、そういうことだろう。」

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612 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:53:08 ID:yXXE1w160

「ただアジアの島国だけは異なる。
長らく鎖国状態だったからか、そっくり反対なのだ。アマテラス大神とツクヨミのミコト。
このふたりは兄弟だが、太陽神が姉だ。女人であっても、太陽であるから男よりも格が高い。」

「どちらでもあるおまえにふさわしいものはなんだろうか。ただの連番を区別のために呼ぶのも味気ないだろう。
これほど生き物として最適に進化する種の、初代なのだからな。おまえは母であり、父である。」



「アルテミスであり、アポロンなのだ。」



「ゆえに美を象徴する女神から名をもらい、月を意味する言葉にした」



「うつくしいだろう?××××」

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613 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:53:57 ID:yXXE1w160


悲鳴のような声をあげかけて、目をさました。


心臓が早鐘を打っている。どくどくとうるさく、それで夢のなかのできごとを払拭する。


(#゚;;-゚)「は、は、……」


今しがたまで、支配する声がそばにあった。おきが上がり、そんなものはないのだと確認する。


誰もいないはずだ。
でぃはひたすら、自由のはずだった。そばに伸びる手がないのに安心する。


落ち着きかけて、現状に気がついた。


ここは、どこだ。

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614 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:54:57 ID:yXXE1w160

散らかった室内。

布ばかりが積み重なっている。電灯もなく、あばら家といった風情だった。

人が生活する様式がまったくない。

板を張られたようなせまい壁が四方にあり、中心にでぃは寝ていた。

積まれた布を被り、子供が布団をかぶるように。


(#゚;;-゚)「ワタナベ……は?」


なにがあったのか、直前までの記憶は抜け落ちている。

襲われた直後、でぃは全体を知るまえに意識をなくした。
その後を知らない


恐る恐る、小屋から出ようと試みる。


取ってのあるドアのおかげで、閉じ込められているとは思わなかった。隔離部屋は、内側からは開かない。


ドア事態は簡単にひらいた。

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615 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 21:55:39 ID:yXXE1w160



(#゚;;-゚)「え、……」


しかし一歩踏み出すことはできない。


床がなかった。
天上の楼閣のように、その部屋は下界から上にある。


見下ろせば、高いところの風が顔に吹き、髪を乱した。


人差し指で摘まめそうなほど、下にある家々はちいさかった。車なんておもちゃのようだ。


足がすくんでしまい、でぃはへたりこんだ。
高いところは嫌いだ。もうドアを開ける勇気もない。


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616 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/01(日) 22:01:41 ID:yXXE1w160








(A^ν^)「それで、結局どうするんですか?」


 ( ´_ゝ`)「そうさなー、とりあえず集合させて、そこを叩く。」


(A^ν^)「じゃあ向かうんですね」


 ( ´_ゝ`)「いんや。積み荷やらなにやら狙いつけられてるんのがわかってるんだからさ、馬鹿正直にそこに行く必要ないっしょ」


 ( ´_ゝ`)「かといって向こうから来るわけもないし。空は押さえてるから、逃げるんなら海だな」


(A^ν^)「幾人か向かわせますか?でもそのぶん、ここの警備が薄くなってしまいますが…」


 ( ´_ゝ`)「向かわせるっちゃ向かわせるけど、別に俺らじゃねーよ」


(A^ν^)「へ?」


 ( ´_ゝ`)「いるじゃん。こんなときに、都合のいいのが。そのためにお金払ってるんだし」



(A^ν^)「……!ああ」



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