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263 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 12:12:49 ID:Um.BtjGM0
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すなわち九は一にして、十は無なり
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265 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 12:14:26 ID:Um.BtjGM0
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ピッ……、ピッ……、ピッ……、ピッ……。
と、電子音が、聞こえる。
一定の、間隔だ。
早くもなく、遅くもなく、狂うこともない。
非常に落ち着く音。
心地よくて、眠ってしまいそうだ。
だけどどこか、懐かしい、この音は……。
「デミタス」
……?
「デミタス、デミタス」
名前だ。
僕の名前だ。
たくさんの人が、僕を呼んでいた。
「デミタス、起きて」
「いつまで寝ているんだ、デミタス」
「起きてくださいよ、デミタス先輩!」
「デミタス!」
「デミタスくん」
「はやく、おきて、デミタスさん」
はいはい、起きますよ、と僕は言おうとした。
(´・_ゝ・`)「…………ぅ、」
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267 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 12:29:51 ID:Um.BtjGM0
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しかし掠れた呻き声が飛び出すだけで、一向に喋ることは出来なかった。
仕方がないので、重い瞼を開くことにした。
こちらもなかなかに難航した。
いくら開けようとしても細かく痙攣するだけで、なかなか動かなかったのだ。
それでも続けていると、ようやくそれは動いた。
目がしばしばと痛む。
泣きすぎたり、プールの中で目を開けてしまった時のような痛みだ。
自然と涙が溢れて、僕は目を瞬かせた。
|゚ノ ^∀^)「! あなた! デミタスが……!」
( ´ー`)「! デミタス!」
(´・_ゝ・`)「……かあさん、とうさん?」
驚いたような表情で覗き込む二人を見て、僕はようやく言葉を発した。
( ´ー`)「先生を呼んでくる!」
父は嬉しそうにそう言って、部屋から飛び出していった。
|゚ノ ^∀^)「ああ、神様……。息子を助けていただいて本当にありがとうございます……!」
ベッドに倒れ伏した母は、涙声でそう言った。
僕は状況が飲み込めず、あたりを見渡した。
緑色の人工呼吸器。
青色の患者衣。
一定の間隔で鳴り続ける心電図。
てんてんと雫を落とす点滴。
体のあちこちから伸びるコード。
人情味のない真っ白な部屋。
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268 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 12:31:07 ID:Um.BtjGM0
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(´・_ゝ・`)「……病院?」
思わず漏らした言葉に、母が顔を上げた。
|゚ノ ^∀^)「あなた、車に轢かれたのよ。それで一ヶ月もずっと意識がなくて……」
(´・_ゝ・`)「一ヶ月……」
ばたばたと廊下から騒がしい音が聞こえてきた。
( ´ー`)「先生、こっちです」
父親に連れて来られた小柄な医師が、僕の顔を覗き込む。
(-@∀@)「ご気分はどうですか?」
(´・_ゝ・`)「悪くはないです、ただ少しぼーっとしていて」
(-@∀@)「今までずっと眠られていましたからね」
(´・_ゝ・`)「……なにかを忘れている気がするんです」
(-@∀@)「……なにかですか」
(´・_ゝ・`)「ずっと夢を見ていた気がして」
と、口に出して気付く。
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269 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 12:32:05 ID:Um.BtjGM0
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僕は、とある少女といたはずだった。
非日常的で受け入れがたい出来事が次々に起きていた。
だけどそれは確かにあった出来事なのだと僕は確信していた。
病院にいるというこの状況こそが夢であるような気がしてならなかった。
|゚ノ ^∀^)「デミタスは、大丈夫なんでしょうか……」
(-@∀@)「少々混乱しているのかもしれませんね。昏睡されていても夢を見ることはありますから」
夢。
夢、だったんだろうか。
(,,゚Д゚)「!! せ、先輩!!!」
廊下からひょこっと顔をのぞかせた男が素っ頓狂な声をあげた。
(,,゚Д゚)「先輩! 意識が戻ったんすね!!」
(-@∀@)「君、病院のなかでは静かに」
(,,゚Д゚)「す、すいません……」
(´・_ゝ・`)「ギコくん……?」
(,,゚Д゚)「なんでちょっと疑問系なんすか」
(´・_ゝ・`)「いや……、ちょっと意外な気がして」
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270 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 12:35:19 ID:Um.BtjGM0
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|゚ノ ^∀^)「ギコさんは仕事の合間を縫ってよくお見舞いに来てくれたのよ」
(´・_ゝ・`)「……そうなのか?」
(,,゚Д゚)「そうっすよ。心配で仕方なかったんすよ……」
(´・_ゝ・`)「そうか……。それは、ありがとう」
照れくさくなり、僕は頬に手を当てたくなった。
が、繋がっている管やらコードやらが邪魔で実現しなかった。
まるで拘束具のようだ。
ぼんやりとそんなことを思った。
(,,゚Д゚)「いやぁーよかったっす。先輩がいなくてみんな寂しがってるんですよ、早く元気になってくださいよ」
(´・_ゝ・`)「ははは……」
思わず視線を下に逸らす。
僕は、そんなに皆から必要とされている人間だったのか。
……本当に、そうだったのだろうか?
僕は忘れている。
|゚ノ ^∀^)「デミタス?」
なにを忘れている?
( ´ー`)「デミタス」
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271 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 12:36:04 ID:Um.BtjGM0
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僕は、僕は……。
(-@∀@)「盛岡さん」
(´・_ゝ・`)「僕は……!」
(,,゚Д゚)「先輩?」
ギコの言葉で僕は確信した。
(´・_ゝ・`)「違う、君はギコくんじゃない」
(,,゚Д゚)「……なーに言ってんすか、先輩!」
( ´ー`)「失礼なこと言うんじゃないよ、デミタス」
(-@∀@)「まあまあ皆さん、落ち着いてください。きっと彼は疲れて……」
(´・_ゝ・`)「君が入社した時、僕は部長に昇進したばかりだった」
病室に沈黙が訪れる。
父も母も医者もギコも皆僕を見つめた。
無機質な、黒い穴のような瞳で。
(´・_ゝ・`)「ギコくんは最初から、僕を先輩とは呼ばなかった」
それきり、誰一人として動くことはなかった。
僕は人工呼吸器を外した。
その次に点滴の針を取ると、もぞりと肉が動いてその穴がふさがった。
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272 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 12:37:20 ID:Um.BtjGM0
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ピッ、ピッ、ピッ、ピッ。
コードを体から毟っても、心電図は狂ったように一定のリズムを奏でた。
何もかもが嘘で出来ていた。
そのまま騙されていた方が幸せだったのかもしれない。
だけどあまりにも都合が良すぎるし、何よりあの子を探さなくてはいけなかった。
いつの間にか手の中に収まっていたマッチ箱を握りしめ、僕は病室を飛び出した。
一歩、また一歩と進むうちに殺伐とした白が色褪せていった。
患者衣はいつの間にか返り血のついたシャツへ変わっていた。
それでいい。
(´・_ゝ・`)「僕は特別なんかじゃない」
万人から好かれるような大した人間じゃない。
そんなものは望んでいない。
僕は、僕が愛するものに愛されていればそれで満足なのだ。
(´・_ゝ・`)「!」
足ががくりと抜ける。
ゆっくりと左足を伸ばす。
形はないが、階段があるらしい。
僕は少しずつその階段を下りていった。
どこへ行き着くのだろう。
全く想像ができない。
上るのであれば処刑台や屋上といったイメージが出てくるのだが。
下りるというのは、よくわからない。
ただとにかく僕は進むこととあの子の事だけを考える事にした。
名前が思い出せない、魔女の事を。
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273 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 12:38:14 ID:Um.BtjGM0
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無限回廊ならぬ無限階段の終わりはなかなか見えない。
息が切れる。
座り込みそうになったが流石にそれはやめた。
少しだけだ、少しだけ休もう。
膝に手をあてて息を整える。
あとどれ程歩けばあの子に会えるのだろう。
会えばあの子の名前を思い出せるのだろうか。
そもそもあの子は僕のことを覚えているのだろうか。
僕のように、忘れてしまっているとしたら。
「デミタス」
声が、後ろから聞こえる。
振り向くと一段上に両親とギコが立っていた。
( ´ー`)「どこに行こうとしているんだい」
(´・_ゝ・`)「会わなきゃいけない人がいるんです」
(,,゚Д゚)「会ってどうするんすか?」
(´・_ゝ・`)「会ってあの子の夢を叶えるんだ」
|゚ノ ^∀^)「その子なら大丈夫、デミタスがほっといても夢を叶えるわよ」
(´・_ゝ・`)「叶うところを見届けなきゃ意味がないんだ!」
叫んだその瞬間、一陣の風が吹いた。
思わず体勢が崩れる。
その拍子に、手からマッチ箱が落ちた。
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274 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 12:39:24 ID:Um.BtjGM0
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(´・_ゝ・`)「あっ……!」
小さな箱はこてんと弾み、階段の横へ落ちていった。
みるみるうちにそれは下へと消えていく。
僕はそのあとを追って階段から飛び降りた。
「デミタス!!」
遥か遠くから、悲鳴が聞こえた。
後先考えずにこんな事をしたが、死にはしないだろう。
こんなにも死にたくないと願っているのだから。
(´・_ゝ・`)「くっ……!」
手を伸ばす。
マッチ箱の端に指先が届く。
ほんの少し中の箱がずれ、中身がこぼれた。
その中に入っていたのは、黄鉄鉱の細石であった。
立方体、八面体、十二面体。
大小様々な形のそれが互いにぶつかり合い、火花を散らした。
瞬間、世界が焼け焦げた。
ぢりぢりと空間が焼けていく。
焼け跡の向こうには暗闇が広がっていた。
例えるなら、あれだ。
きれいな包装紙を破いても、まだ中身に到達しなかった時の暗黒だ。
炎は勢いを増していく。
落下している僕よりも早く空間を焼き進める彼らは、ある一点でその動きを止めた。
ちらちらと揺らめく輪の中を通って、僕は地面へ着地した。
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275 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 12:40:46 ID:Um.BtjGM0
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そこは、公園だった。
上を見上げれば、あの炎の輪はいつのまにか橙色の光を放つ太陽となっていた。
あの光がなかったらここは真っ暗闇だったのかもしれない。
箱を拾い、僕は百合が咲き誇る遊歩道を走った。
甘い匂いが僕を開けた場所へと導いてくれた。
そこには陶器で出来た噴水がぽつりと存在していた。
かなりの年代物だ。
かつて白かったであろうそれは黒い黴や気色悪い垢に侵されている。
それでも噴水は役目を果たしていた。
(´・_ゝ・`)「!」
揺れる水面に、あの子がいた。
ショボンとデレもいる。
あの子は二人に責め立てられているようだった。
どんな会話をしているのだろう。
その内容は分からないが、あの二人の事だ。
あまりよくない言葉を吹きかけているのだろう。
それでも彼女は、強い意志の宿った瞳で二人を見返していた。
(´・_ゝ・`)「あぁ、」
脳がくすぐったい。
口がもどかしい。
喉奥で単語が暴れていた。
覚えているのに、覚えていない。
今すぐあの子のそばに行きたいのに!
(´・_ゝ・`)「名前を……」
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276 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 12:44:03 ID:Um.BtjGM0
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脳裏に、一枚のポスターがちらつく。
サバトに行く道すがら、あるいはショボンに見せられたものだ。
制服を着て、幼い笑みを浮かべるあの子の姿。
(´・_ゝ・`)「君は、」
噴き上げる水がことさら強くなる。
水面が掻き乱され、その姿が失せかける。
君の、名前は。
––––伊藤ペニサスさんを探しています!!
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277 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 12:45:59 ID:Um.BtjGM0
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(´・_ゝ・`)「ペニサス!」
その瞬間、噴水の水は凍ってしまった。
いや、凍ったのではない。
鏡に変化したのだ。
噴水の皹が鏡にも伝染していく。
細かく黒い線が張り巡らされ、やがて鏡はバラバラと割れた。
同時に僕のいた公園の空も音を立てて割れ出した。
(´・_ゝ・`)「ペニサス」
思い出したその名前を、僕はもう一度唱えた。
もう忘れることのないように、見失うことのないように。
そして。
(´・ω・`)「……君のしつこさには舌を巻くね」
全てが崩れ去った時、僕は広間に立っていた。
('、`*川「デミタス!」
ペニサスは檻の中に囚われていた。
ζ(゚ー゚*ζ「…………」
デレはショボンと共に高台にある席から僕たちを見下ろしていた。
ぐるりと広間を囲う席には灰色の人影たちが押し寄せている。
ヒソヒソと聞こえる声の内容は分からないが、不愉快な内容に違いなかった。
どうやらここは法廷らしいと僕は感じ取った。
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278 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 12:47:04 ID:Um.BtjGM0
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しかしここには弁護人も検事もいない。
あるのは責める人と責められる人、そして侮辱する人だけだ。
(´・_ゝ・`)「なんの話をしていたのですか」
ペニサスが閉じ込められている檻に近付いた。
ショボンは静かにそれを見送る。
感情の読み取れない瞳が、僕を貫く。
ζ(゚ー゚*ζ「ペニサスちゃんの今後についての話し合いよ」
(´・_ゝ・`)「話し合いだって?」
(´・ω・`)「そう、どういう選択をとればペニサスにとって一番幸せになれるのかを教えていたんだよ」
(´・_ゝ・`)「そんなもの、ペニサスの勝手じゃないか。他人が決める事でもない」
(´・ω・`)「ペニサスは庇護されるべき存在だよ。僕がいなければ生きていけない、定期的に支えてあげなくちゃ」
(´・_ゝ・`)「別にあなたがいなくたって彼女は生きていけますよ」
(´・ω・`)「無理だね、彼女は弱いんだから」
('、`*川「……わたし、弱くなんかないわ」
ようやく口を開いたペニサスに、二人の目は見開かれた。
外野の声は一層大きくなり、僕は怒鳴った。
(´・_ゝ・`)「うるさい! 君らには関係ないだろう!!!」
しかしざわめきが止むことはなかった。
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279 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 12:54:12 ID:Um.BtjGM0
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(´・ω・`)「……ペニサス、君の夢は僕のようになることなんだろう?」
('、`*川「前まではそうでした。でも」
ペニサスは言い淀む。
うまく言葉に出来ないのだろう。
ショボンは、その言葉が放たれる瞬間を恐れているようだった。
ζ(゚ー゚*ζ「ペニサスちゃん、思い出すのは怖かったでしょう」
唐突にデレが声をかける。
穏やかな、しかし後ろ手に刃物を持っているような油断のならない声。
('、`*川「怖かったしすごく苦痛でしたよ」
ζ(゚ー゚*ζ「だったら、」
('、`*川「でもそこから逃げても、わたしが殺された事実はなくならないし」
ζ(゚ー゚*ζ「…………」
('、`*川「いつかは嫌でも向き合わなきゃいけなかったんだと思います」
ζ(゚ー゚*ζ「…………」
('、`*川「それが、わたしの望みでもありました」
(´・ω・`)「……ペニサス」
('、`*川「師匠、わたしはたしかに師匠のことが好きでした。尊敬していました、慕っていました」
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280 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 12:55:16 ID:Um.BtjGM0
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青白い唇を噛み締めながらショボンはペニサスを見つめた。
浅く息をしながらペニサスは言葉を紡ぐ。
('、`*川「だけど、気付いたんです。わたしは師匠のような人になりたかったんじゃないって」
(´・ω・`)「ペニサス」
('、`*川「わたしは、あなたと対等に話がしたかったんです」
ζ(゚ー゚*ζ「何言ってるの、ペニサスちゃん」
苛立ちと甘く爛れた優しさが混ざり合ったような語気で、デレは畳み掛ける。
ζ(゚ー゚*ζ「いつだってショボンはあなたのことを、大事にしてくれていたじゃない。彼はあなたの幸せを誰よりも考えているし願っているのよ? そんなこともわからないなんてあなたおかしいわ」
('、`*川「本当にそうなんでしょうか」
ショボンと視線を合わせ、ペニサスは問う。
('、`*川「わたしの幸せを願っているわりには、師匠とあなたはその邪魔をするばかりな気がして」
ζ(゚ー゚*ζ「そんなわけないでしょう」
('、`*川「だってわたしのしたいことを何一つとして叶えてくれなかったじゃないですか、生き返りたいという願い以外は」
ζ(゚ー゚*ζ「ペニサスちゃん」
('、`*川「記憶を保持することも魔女になるという夢も、全部取り上げようとしたのは師匠たちのほうですよ」
ζ(゚ー゚*ζ「黙りなさい」
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281 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 12:59:07 ID:Um.BtjGM0
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('、`*川「っ……」
(´・_ゝ・`)「理屈じゃなく威圧をぶつけてくるとは、随分痛いところを突かれたようですね」
ζ(゚ー゚*ζ「外野は黙ってなさい」
(´・_ゝ・`)「僕は当事者ですよ。それよか外野っていうのはああいう灰色の陰惨な連中を指すんじゃないんですか?」
ζ(゚ー゚*ζ「お前は……っ!」
(´・ω・`)「やめなさい、デレ」
ショボンに諌められ、デレは不服そうに口を閉じた。
(´・ω・`)「……ペニサス、君は僕が間違ったことをしたと思っているのかい?」
('、`*川「……それは、」
(´・ω・`)「僕の選択は、間違っていたのかな?」
ずるい男だ。
論点をすり替えられるとペニサスはすぐそちらの話題に流される。
今まで話した事が全部無駄になる事を、こいつは知り尽くしているのだ。
('、`*川「間違って、なかったんだと思います」
まずいと思った。
満足そうに笑うショボンの顔が疎ましくて仕方がなかった。
('、`*川「わたしは、師匠の選択を否定する事はできません」
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282 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 13:00:17 ID:Um.BtjGM0
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(´・ω・`)「だったら、」
('、`*川「でも、どうしてこんな事をとか、なんでこんな目にとか色々今でも思います」
(´・ω・`)「ペニサス、」
('、`*川「だけどそれがなかったら今のわたしがなかったというのも事実なんです。何もかも忘れて、魔女を目指していなかったら、わたしはデミタスに出会えなかった」
(´・ω・`)「…………」
('、`*川「彼に会わなかったらわたしはずっと記憶を取り戻さなかったかもしれないし、師匠を盲目的に慕ったままだったかもしれない」
(´・_ゝ・`)「ペニサス……」
('、`*川「わたしは、わたしのために、全てを受け入れます。その道を作ったのは、師匠やデレさん、デミタスのお陰なんです。だから、わたしは師匠の選択を否定しません」
しぃん、と広間に静寂が訪れた。
灰色の人影たちは掻き消えてしまった。
それどころか広間の陰影や境界があやふやに滲んできた。
檻が激しく軋み、急激に錆びた。
高さが崩壊していく。
世界には緩やかに皹が入り、そして。
(´ ω `)「……僕は、」
('、`*川「師匠?」
(´・ω・`)「僕は、そんな風に君を救いたかったわけじゃない!!!」
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283 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 13:01:04 ID:Um.BtjGM0
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慟哭にも似たその叫びは、エゴ以外の何物でもなかった。
与えられた玩具が気に入らなくて壁に投げつけている三歳児となんら変わりのない、幼稚な発言。
デレの瞳は黒に近い青色に染まっていた。
驚いたからだろうか、それとも幻滅したからなのか。
僕には分からなかったが、彼女は今にも泣きそうな顔をしていた。
(´・ω・`)「あ…………」
ショボンは、軽く笑みを浮かべた。
(´・ω・`)「ごめんよ、ペニサス。急に怒鳴ったりして」
/ ゚、。 /『すまない、大きな声なんか出して……』
あの台詞が脳裏によぎる。
その後に続いた言葉は……。
(´・ω・`)「……違う」
('、`*川「……師匠?」
ペニサスが歩み寄る。
ショボンはよろめきながら、退歩する。
(´・ω・`)「ちがう、僕がしたかったのは人助けだ」
ζ(゚ー゚;*ζ「そうよ、あなたは世界中の不幸を摘み取ろうとしているのよ」
がくがくと震えるその体を、デレが支える。
ショボンは縋るようにデレを見つめた。
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284 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 13:02:53 ID:Um.BtjGM0
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(´・ω・`)「それもちがう」
ζ(゚ー゚;*ζ「え……」
(´・ω・`)「僕は、僕は何をしようとしていたんだ……?」
(´・_ゝ・`)「!」
なにかがやってくる。
人も魔女も太刀打ちの出来ない、巨大な理の一部を持ったなにかだ。
その予感を肌で感じ、僕はペニサスの手を取った。
('、`*川「師匠!」
ペニサスは叫ぶ。
('、`*川「師匠は、自分の居場所が欲しかったんでしょう!?」
(´ ω `)「…………」
ショボンは、答えない。
('、`*川「師匠! 認めて! 認めないと透明な澱が……!」
(´ ω `)「認める……」
ショボンの左手が、上がりかけた。
ζ(゚ー゚;*ζ「ああだめ、ショボン。早くペニサスちゃんの言う事を聞いて……!」
ざわざわと、ぞわぞわと確実に透明な澱は近付いてきていた。
時間がない。
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285 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 13:03:54 ID:Um.BtjGM0
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(´・_ゝ・`)「僕もあなたと同じだった! 僕も特別な存在になりたくて、なろうとして、なれなかった! だけど、それでもあなたは一人じゃない!」
('、`*川「そうよ、師匠! わたしもデレさんもいるわ! 師匠は一人じゃない、だから認めて!!」
ζ(゚ー゚;*ζ「ショボン……!!」
(´・ω・`)「……ペニサス、デレ、デミタス」
ショボンは、伸ばしかけていた手を下ろした。
(´・ω・`)「無理だよ、変われない」
目を細め、
(´・_ゝ・`)「……!」
(´・ω・`)「救済は、強者の特権なんだ、」
口角を攣り上げて、
('、`*川「師匠……?」
(´・ω・`)「強い人が弱い人に手を差し伸べるから、それが成り立つんだよ」
それが笑顔だとわかるまで、時間がかかった。
ζ(゚ー゚;*ζ「だめ、ショボン……!」
(´・ω・`)「僕は、どうしても強くありたいんだ」
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286 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 13:06:28 ID:Um.BtjGM0
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(´・_ゝ・`)「ショボン……っ!」
それは、急にやってきた。
('、`*川「師匠っ!」
猛烈な風が吹いている。
ショボンの表情は伺えない。
('、`*川「師匠! だめ!」
(´ ω `)「 」
('、`;*川「消えちゃだめ!!!!」
知覚できないそれは瞬きをするよりも早く、ショボンを呑み込んだ。
ζ(゚ー゚*ζ「…………………………………………ぁ?」
支えを失い倒れ伏せたデレは小さく声を上げた。
('、`*川「……師匠」
(´・_ゝ・`)「…………」
ζ(゚ー゚*ζ「あ、ぁ……。あぁ……!!」
小さな豆電球が灯る物置部屋に、悲鳴じみた嗚咽が響き渡った。
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287 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 13:12:13 ID:Um.BtjGM0
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透明な澱が過ぎ去ってから一ヶ月。
梅雨に入り、青い空を見る機会が随分減った。
それを考慮してもこの家に流れる空気はあまりにも沈みきっていた。
仕方のない事だ、と僕はため息まじりに納得しようとした。
それでも胸に滞る靄をなくす事は出来なかった。
ペニサスは書庫に籠るようになった。
毎日遅くまで魔法について勉強をし、一人で考え込む事が多くなった。
僕は彼女の散らかした本を整理したり、下手ながらも料理に精を出したりしていた。
今はやっと半熟の目玉焼きが作れるようになった。
毎日失敗作を食べさせられてうんざりするペニサスを見ることはないだろう。
目玉焼きに関しては、だが。
デレはあれ以降憔悴しきってしまい、部屋から出てこなくなった。
食事を運んでも全く手をつけないこともある。
が、時折すすり泣く声が聞こえるので生きてはいるのだろう。
部屋に立ち入ることができないので、なんとも言えないのだが。
ドクオはその世話に勤しんだ。
彼は僕たちに何も事情を聞いてこなかった。
興味がないのかもしれないし、そもそもそういう思考がないのかもしれない。
分からないが、とにかく彼はごくごく普通に僕たちに接した。
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288 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 13:13:31 ID:Um.BtjGM0
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('A`)「どゥすルノ」
ある日、ドクオはそう問うた。
('、`*川「どうって?」
ペニサスは戸惑いながら読んでいた本をテーブルに置いた。
('A`)「コのあトノこと」
つまり僕たちがこの家に留まるのかどうかを聞いているのだろう。
ペニサスが僕を見る。
その瞳には躊躇いが見えた。
(´・_ゝ・`)「君のすきなようにしなよ」
コーヒーを啜りながら僕は返す。
マシュマロ抜きのただのコーヒーだ。
やはり苦い方が好みである。
('、`*川「……旅に出ようと思ってるの」
('A`)「どコヘ?」
('、`*川「どこかは決まってないけど、師匠を助けられる方法を探そうって」
(´・_ゝ・`)「助けられるのかい?」
('、`*川「もしかしたら、だけど」
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289 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 13:14:41 ID:Um.BtjGM0
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あまり自信がない口調で彼女はこう言った。
('、`*川「今までわたしって記憶がなかったでしょう」
(´・_ゝ・`)「そうだね」
('、`*川「それってつまり人間としての自分をかなり失っていた状態で、魔女としての力がすごく不安定だったの」
認識しなければ、いないも一緒。
それは自分の記憶にも適応されるのだろう。
('、`*川「だけど記憶を取り戻したことでその境界線がはっきりしたことでわたしは本来の力を手に入れることができた」
ペニサスがコーヒーに手を伸ばす。
口に含むと、彼女の眉間に皺が寄った。
そういえば僕が淹れたから、彼女の分も砂糖が入っていないんだった。
しかしペニサスはもう一口飲み進めた。
('、`*川「……師匠が消える前に、わたしは無意識に祈っていたの」
('、`;*川『消えちゃだめ!!!!』
透明な澱に抗うように叫ぶその声が、脳裏によぎる。
ああ、もしかして。
('、`*川「わたしが祈りをそのまま口に出したことで、師匠は呪いにかかってしまったんだと思う」
(´・_ゝ・`)「だから透明な死を迎えたのに僕たちの記憶に残っているのか」
僕の質問に彼女は頷いた。
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290 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 13:15:24 ID:Um.BtjGM0
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('、`*川「師匠との日々をなかったことにすればこの呪いは解けるんだろうけど、したくないの」
わたしは諦めない。
いつぞやかの決意が、新しい意味を含んだ。
きっとそれは、彼女を至上の死へ導くだろう。
ふとそんなことを思っていた。
('、`*川「デミタス、一緒に来てくれる?」
(´・_ゝ・`)「聞くまでもないよね、それ」
妙に格好つけた言い方になり、少し恥ずかしくなった。
素直に行くって言った方がまだマシだったのかもしれない。
けれどペニサスは気付かずに、一瞬微笑んだ。
その表情はすぐに曇ってしまったが。
('、`*川「……ただ、デレさんのことが心配なんだよね」
(´・_ゝ・`)「ああ……」
('A`)「だいじょぅぶ」
軽やかにそう返したドクオは、こう続けた。
('A`)「ぉれ、が、ずっとソバにイル」
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291 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 13:17:02 ID:Um.BtjGM0
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朝から降っていた雨はいつのまにか止んでいた。
幸先は良さそうだ。
なんとなくそう思いながら僕は折り畳み傘を鞄にしまった。
湿気を含んだ空気の中、僕たちは歩く。
その弾みで、足元の雑草が抱き抱えていた雫が解放されていった。
(´・_ゝ・`)「旅に出るとは言ったけどさ、まずどこに行くんだい」
門扉を開けながら問いかける。
('、`*川「とりあえずサバトで会った魔女に弟子入りしようかなぁって……」
(´・_ゝ・`)「で、君はその魔女の居場所を知ってるわけ?」
階段を降りる。
('、`*川「もらったマッチ箱に住所らしきものが書いてあったの」
路上には大きな水溜りが出来ていた。
旅に出て早々服を汚したくないので僕は思い切って飛び越えた。
振り返るとペニサスは、家に視線を送っていた。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん?」
('、`*川「……ううん、またそのうち帰ってこれるかなって」
(´・_ゝ・`)「帰れるさ、帰りたいと思えばいつだって」
('、`*川「……そっか」
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292 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 13:20:25 ID:Um.BtjGM0
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ふわりと彼女も空を飛ぶ。
金色と銀色の靴がきらりと光る。
その動作がとても美しく、僕は見惚れていた。
('、`*川「行きましょ」
(´・_ゝ・`)「ああ、うん。ところで場所わかってるの?」
ペニサスはぴたりと動きを止め、僕を見た。
('、`*川「……西比利亜市ってこっちよね?」
(´・_ゝ・`)「そっちじゃないよ。というか僕が住所見た方が早いんじゃないかな」
差し出した手にマッチ箱が乗せられる。
やたら重みがある箱を開けてみる。
(´・_ゝ・`)「!」
('、`*川「どうしたの?」
何も言わず、僕はペニサスにその中身を見せた。
('、`*川「あれ、こんなの入ってなかったのに」
つまみ上げられたそれは、氷砂糖であった。
白い塊はそのままペニサスの口の中へと消えていった。
からころと音が鳴り、僕もそれに倣うことにした。
氷砂糖なんて、子供の時に食べたきりじゃなかろうか。
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293 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 13:21:40 ID:Um.BtjGM0
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(´・_ゝ・`)「んー……西比利亜市、都所、か」
頭の中に地図を描きながら、僕は歩き始めた。
その後ろを、ペニサスがついてくる。
('、`*川「どれくらいかかりそう?」
(´・_ゝ・`)「半日くらいかな」
('、`*川「遠いのね」
(´・_ゝ・`)「少しだけね」
そんな他愛のない会話をしながら、僕は考える。
いつかは、彼女が僕を導くようになるだろう。
彼女が僕の先を歩くのだろう。
それを寂しく思うけれども、透き通った真っ直ぐな甘味が僕の背中を後押しする。
ペニサスが自分の夢を叶えられますように、それをずっと見守っていられますように、と。
ささやかな祈りが、口の中で溶けていった。
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294 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 13:23:34 ID:Um.BtjGM0
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すなわち九は一にして、十は無なり 了
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295 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 13:25:15 ID:Um.BtjGM0
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登場人物紹介
(´・_ゝ・`) 盛岡デミタス
('、`*川 伊藤ペニサス
ζ(゚ー゚*ζ デレ
('A`) ドクオ
(´・ω・`) ショボン
|゚ノ ^∀^)/( ´ー`)/(-@∀@) ショボンの生み出した幻影たち
从 ゚∀从 躑躅の魔女
(*゚∀゚)/(-_-)/ξ゚听)ξ/lw´‐ _‐ノv 躑躅の魔女の財産たち
(//‰ ゚)/〈::゚−゚〉 石の魔女
/ ゚、。 //ミセ*゚ー゚)リ 石の魔女の財産たち
(,,゚Д゚) ギコ
氷砂糖
なんの変哲もないショ糖の塊だが幸せの結晶である
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296 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 13:27:05 ID:Um.BtjGM0
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汝、会得せよ
一を十と成せ
二を去るにまかせよ
三をただちに作れ、しからば汝は富まん
四を捨てよ
五と六より、七と八を生め
かく魔女は説く、かくて成さん
すなわち九は一にして、十は無なり
これを魔女の九九という
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297 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 13:28:11 ID:Um.BtjGM0
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298 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 13:29:13 ID:Um.BtjGM0
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299 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 13:30:40 ID:Um.BtjGM0
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「見つけた!」
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300 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/27(土) 13:31:48 ID:Um.BtjGM0
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これを魔女の九九というようです 了
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