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211 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 12:39:25 ID:vdSRrPRY0
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かく魔女は説く、かくて成さん
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212 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 12:41:30 ID:vdSRrPRY0
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西日が濡れた床を照らし、透けた橙色とくすんだ紅が重なり合っていた。
複雑なその色合いは、僕の心を不安にさせた。
( 、 *川「…………」
(´・_ゝ・`)「…………」
沈黙が教会内を支配していた。
その空気がここに澱む限り、僕たちは呼吸すらも危うくなる。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん」
それを振り払うように、僕は名前を呼んだ。
( 、 *川「…………」
光のない瞳がゆっくりと閉じられる。
まだ、生きている。
まだ、かろうじて……。
(´・_ゝ・`)「ごめん、ペニサスくん」
何度目になるかわからない謝罪を口にする。
謝ってもどうにもならないのは重々承知している。
それでも僕は、黙っていられなかった。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん」
もう一度名前を呼ぶ。
反応は、ない。
ああ、死んでしまうかもしれない。
そう考えながら、僕は先ほどの出来事を反芻した。
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213 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 12:43:08 ID:vdSRrPRY0
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僕は彼女を傷付けた。
驚きと絶望に染まった表情は、やがて恐怖に満ちていった。
( 、 *川「ぁあああぁぁああああァあああぁぁぁあぁぁあアアあぁぁぁあぁぁああぁあああぁぁあアあああ!!!!!!!!!!!!!」
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん……っ!」
耳を劈く悲鳴に対抗して、僕は叫んだ。
同時にペニサスの手が僕の手を掴んだ。
(´・_ゝ・`)「いっ……!」
爪を立てられ、僕は思わず包丁を手放した。
そのまま蹴り飛ばされ、無様に床を転がった。
痛みに噎せながらも手を見れば、甲の肉が抉れている。
露出した生白い肉がずるずると寄り集まる様を見て、正直気分が悪くなったが今はそれどころではない。
( 、 *川「いィィった、い゛……」
深くまでめり込んでしまった刃を、ペニサスは躊躇いなく掴む。
そのまま包丁は床に投げられた。
( 、 *川「はーー、はーー、はーー……」
袋から空気が漏れ出すような呼吸。
そこへ、ばつりばつりと肉ののたうつ音が混ざり始めた。
( 、 *川「……………………え、」
うそ、と口だけが動いた。
見てしまったのだろう。
僕と同じように、自分の体が再生していくところを。
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214 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 12:46:46 ID:vdSRrPRY0
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('、`*川「ど、うゆー、こと?」
にへ、とペニサスは笑顔を取り繕った。
('、`*川「あれ、なんで、わたし、傷、治ってるんだろ、えへへ」
その笑みは引きつっていて、とても正視できるものではなかった。
('、`*川「な、なんで、ねえ。もしかしてわたし、すごい魔法つかえるようになっちゃったかな?」
それでも僕はペニサスを見つめた。
('、`*川「ねぇ、ねえ。なんか言ってよ」
ペニサスくん。
(´・_ゝ・`)「本当はもう、気付いているんだろう?」
('、`*川「し、しらない。しらないよ、こんなの」
彼女の笑顔は、どんどん狂っていく。
('、`*川「わたし、山で倒れてて、それを師匠に拾ってもらって。でも、」
埋 め ら れ て な ん か な い も ん ! ! !
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215 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 12:48:39 ID:vdSRrPRY0
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遡行していく記憶に対抗するように、ペニサスは叫んだ。
それでも記憶の奔流は止まらない。
うねりをあげてそれらはペニサスを飲み込んでいく。
堆積した感情は一気になだれ込み、彼女の精神を滅茶苦茶に、そして好き放題に殴っていった。
( 、 *川「アアぁあああァあアアアあぁあああ!!!!!!!」
彼女は泣いた。
同時に怒った。
わけも分からず楽しんだ。
かと思えば涙を流した。
笑い声を上げて、焦燥した。
頭を床に叩きつけ、要領を得ない思い出話に花を咲かせた。
誰かを呼びながら、舌を噛み切ろうとした。
僕が止めに入ると、ペニサスは刃を向けた。
( 、 *川「来ないで! 来ないでよ!!」
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん」
( 、 *川「今度はなに! なにを、するの……」
掠れた息と共に吐き出された言葉は、凄惨な最期を予感させた。
(´・_ゝ・`)「なにもしないよ、僕はなにもしない」
( 、 *川「うそつき!!!!」
自らの首に刃を添え、ペニサスは叫ぶ。
('、`*川「死んでやる、あんたの思い通りになんかなるもんか」
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216 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 12:49:27 ID:vdSRrPRY0
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(;´・_ゝ・`)「ペニサスくん!」
僕は咄嗟にペニサスの手首と刃を掴んだ。
がりがりと骨と鉄がぶつかり、思わず呻いた。
(;´・_ゝ・`)「ペニサス、くん……!」
手首を掴んでいる手に思い切り力を込める。
怯んだ彼女の隙をついて、僕はそのまま包丁をステンドグラスに向かって投げ捨てた。
極彩色のガラスが千々に割れる。
( 、 *川「やだ! やだぁぁー!! いやぁぁああああー!!!!」
金切声が鼓膜にビリビリと響く。
(´・_ゝ・`)「ペニサス、くんっ……」
僕は彼女を抱き締めた。
ずっとずっと抱き締めた。
必死に逃れようとペニサスは暴れたが、僕はそれに耐えた。
僕は、彼女から逃げたくなかった。
やがてペニサスは力なく僕の腕を叩いた。
抱き締めている体はすっかり冷たくなっていた。
( 、 *川「…………………………………………………………………………………………やだよ………………こわいよ、こわい……。おかーぁさん、おとおさん」
か細く鳴いて、それきりペニサスは黙った。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん……」
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217 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 12:50:29 ID:vdSRrPRY0
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軽く体を揺すると、その体がひどく重くなっていた。
すっかり脱力しきっていて、まるで死んでいるように見えて……。
(´・_ゝ・`)「…………」
彼女を床に寝かせ、そして今に至るというわけだ。
( 、 *川「…………」
(´・_ゝ・`)「…………」
体が怠くなってきた。
頭がぼんやりとしてきて、意識していないと呼吸するのを忘れてしまいそうだった。
流石に辛くなり、僕も床に横たわった。
燃えるような春の夕焼けが、西へと去っていこうとしていた。
代わりにもうじき夜がやってくる。
その前に僕は意識を保っていられるだろうか。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん」
僕はなんとなしに話しかけた。
(´・_ゝ・`)「君に出会って幾日も経っていないけど僕は幸せだったよ」
( 、 *川「…………」
(´・_ゝ・`)「君は自分が透明な存在だと言っていたけど、僕も同じだったんだよ」
( 、 *川「…………」
(´・_ゝ・`)「子供の頃、僕はずっと特別な何かになりたいと、そうなれると何故か妄信していた。そうではないと高校生の頃に気付いたけど、大人になれば誰かが必要としてくれると信じて生きてきた」
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218 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 12:51:44 ID:vdSRrPRY0
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( 、 *川「…………」
(´・_ゝ・`)「僕はなるべく人に好かれる努力をしてきた。誰のことも傷つけない良い人であろうとした」
( 、 *川「…………」
(´・_ゝ・`)「その結果を、君はよく知っているよね。可愛がっていたつもりの部下に殺された。皮肉なものだね」
( 、 *川「…………」
(´・_ゝ・`)「あんなの優しいとはいえなかったんだ。僕は自分の気にいるように相手に優しく接してきただけだったんだ」
( 、 *川「…………」
(´・_ゝ・`)「その事に気付けたのは、君と出会えたからなんだ」
( 、 *川「…………」
(´・_ゝ・`)「君は、傷つける勇気を持てずに透明であろうとした僕を見つけてくれた。それでも僕は透明で在り続けたけど、君は色んなものを僕に見せてくれた」
( 、 *川「…………」
(´・_ゝ・`)「僕は君が羨ましかったんだ。透明にされてもそれに抗って、自分の目標を貫き通そうとした」
( 、 *川「…………、」
(´・_ゝ・`)「君は、誰よりも特別な存在だよ」
( 、 *川「…………」
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219 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 12:52:25 ID:vdSRrPRY0
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(´・_ゝ・`)「僕は君に生きていて欲しい。それも本当のことを全部背負って、ね」
( 、 *川「…………」
(´・_ゝ・`)「酷い我儘を言っているのはわかっているんだ。だけどお師匠さんの思想に共感できなかった」
( 、 *川「……、……」
(´・_ゝ・`)「ごめんよ、僕はどうも君のお師匠さんとは相性が悪いみたいで」
( 、 *川「……、 」
(´・_ゝ・`)「……え?」
微かに、唇が動いた。
すぅっと頭の中の霧が晴れて、僕は彼女の頬に手を伸ばした。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん……?」
( 、 *川「…………わたしが、」
(´・_ゝ・`)「うん、」
( 、 *川「…………わたしが、しんだら、あなたもしんじゃうんだよ?」
なのにどうして、こんなことを?
そんな意味を含んでいるような気がした。
僕は少し考えて、こう答えた。
(´・_ゝ・`)「うまく言えないけど、君が僕を求めてくれたから僕も君を求めているんだと思う」
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220 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 12:58:45 ID:vdSRrPRY0
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( 、 *川「じゃあ、わたし、もうデミタスのこと、みはなすわ」
(´・_ゝ・`)「見放してもいいよ。それで僕が死んでしまっても、君が生きてくれるならそれでいいし、君が死ぬなら僕も死ぬよ」
( 、 *川「…………そんなの、だめよ」
涙交じりの声でそう言った。
( 、 *川「わたしは、死んでもいいけど。でもデミタスは生きなくちゃ」
(´・_ゝ・`)「死んでもいい奴なんているもんか。それに僕には君が必要なんだよ」
( 、 *川「…………、」
(´・_ゝ・`)「もっと色々なものを君と見たい。なにより君の夢が叶うところが見たいんだ」
沈黙が再びあたりを包み込む。
それからどれくらいの時間が経っただろうか。
結構長いことお互い黙っていたような気もするし、そうでもないような気もした。
とにかく、彼女はこう言った。
( 、 *川「……じゃあ、今度からは、使い魔らしくなってくれる?」
(´・_ゝ・`)「たとえば?」
('、`*川「わたしに敬意を払って、様付けにするとか」
緩く瞼が開く。
その目には光が宿っていて。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん……!」
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221 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:00:01 ID:vdSRrPRY0
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とても嬉しくて、だけどそれを素直に出すのがなんとなく嫌で。
(´・_ゝ・`)「……君に、様付けは似合わないよ」
僕は、唇が緩まないように我慢をした。
('、`*川「使い魔のくせに、わたしに歯向かうの?」
僕の手の甲に、彼女の手が重なる。
ペニサスは笑いながら爪を立てた。
(´・_ゝ・`)「痛いよ、ペニサスくん」
('、`*川「痛くしてるのよ」
そのうち手は振り払われて、ペニサスは仰向けになった。
僕もそれにならって、空を見上げた。
('、`*川「すっごく痛かった」
(´・_ゝ・`)「ごめん」
('、`*川「それに怖かった」
(´・_ゝ・`)「うん」
('、`*川「自分がバラバラになりそうだった」
(´・_ゝ・`)「…………」
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222 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:00:53 ID:vdSRrPRY0
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('、`*川「それでもずっと名前を呼んでてくれた、そばにいてくれた」
(´・_ゝ・`)「……うん」
('、`*川「一人じゃないって思ったら、心強かった」
日はすっかり暮れていて、空の端に藍色の菫が微かに咲いていた。
('、`*川「そばにいてくれてありがとう」
(´・_ゝ・`)「……僕は何もしてないよ、君が頑張ったんだ」
('、`*川「それでもわたし一人じゃここまで出来なかったもん」
ずいぶん手荒な手段だったけどね、とペニサスは恨めしそうに言った。
('、`*川「……死んでたんだね、わたし」
(´・_ゝ・`)「……そうだね」
('、`*川「自分の体を動かすので精一杯だったのにデミタスも生かそうとしたからスクライングする余裕もなくなっちゃったのね、きっと」
僕の犯人探しが不発に終わったことを思い出したのだろう。
ペニサスはとても悔しそうな顔をした。
僕は少し気まずく思い、話を反らすことにした。
(´・_ゝ・`)「昔、ニュースで見かけたことがあったよ」
('、`*川「ニュース?」
(´・_ゝ・`)「君の事を熱心に探していたんだよ」
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223 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:01:50 ID:vdSRrPRY0
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誰も君のことを見つけられなかったんだけど、という言葉は飲み込む事にした。
('、`*川「……生きてたら二十七歳かぁ」
しみじみと噛みしめるようにペニサスは呟いた。
('、`*川「ね、二十七歳の女の子ってどんな感じなの?」
(´・_ゝ・`)「どんな感じって言われてもなぁ……」
少し考えて、あまり変わらないよ、と僕は返した。
気の合うもの同士グループを作り、派閥も出来る。
昼休みになると食堂の一角に集まってきゃあきゃあと騒ぐし、大体恋やファッションの流行や嫌いな人の話題で盛り上がる。
そう教えると、
('、`*川「そっか」
と満足そうに呟いた。
('、`*川「師匠、怒ってるかなぁ」
(´・_ゝ・`)「心配はしているかもしれない」
('、`*川「家に帰りたくないね」
(´・_ゝ・`)「今日は帰らなくてもいいだろうよ」
身を起こして僕は鞄を取りに行った。
そしてその中から使い捨てのおしぼりとチョコチップクッキーを取り出した。
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224 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:10:40 ID:vdSRrPRY0
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(´・_ゝ・`)「食べるかい?」
ビニール袋に入ったそれを見せると、ペニサスは体を起こした。
('、`*川「買ったの?」
差し出したおしぼりで手を拭きながら、ペニサスは問う。
僕は目を合わせずにこう言った。
(´・_ゝ・`)「いや、キッチンに置いてあった瓶からくすねてきた」
('、`*川「酷い人ね、きっとこれデレさんが師匠のために焼いたのよ?」
とは言いながらも、ペニサスはクッキーに手を伸ばした。
ざくざくとした食感、ココアの苦い風味。
荒く刻まれたチョコレートが舌に当たると、緩やかに溶けていった。
それがまた食欲を刺激し、僕たちは黙々とそれらを消費していった。
もう一枚、あと一枚だけ。
なんて思っていたらあっという間に袋は軽くなってしまった。
('、`*川「あ」
(´・_ゝ・`)「あ」
とうとう最後の一枚になり、二人とも思わず声を上げてしまった。
(´・_ゝ・`)「どうぞ」
('、`*川「いいわよ、いっぱい食べたから」
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225 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:12:36 ID:vdSRrPRY0
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(´・_ゝ・`)「僕だって食べたよ」
('、`*川「でも」
(´・_ゝ・`)「今日一番頑張ったのは君なんだから、君が食べなよ」
ペニサスは少し考えて、それから遠慮がちに袋の中へと手を伸ばした。
そしてクッキーを半分に割り、僕に差し出した。
('、`*川「はい」
(´・_ゝ・`)「……いいのに」
なるべくつっけんどんに言ったつもりだったが、頬が少し緩んでしまった。
それがなんだか情けなくて、僕は慌ててクッキーを口の中に放り込んだ。
(´・_ゝ・`)「こうしてまた、君とお菓子が食べられてよかったよ」
('、`*川「……あっそ」
ペニサスはそっぽを向いてそう言った。
僕はそれを見て、なんとなく微笑ましい気持ちになった。
が、代わりに気になることがあった。
(´・_ゝ・`)「……ペニサスくん」
('、`*川「んー?」
(´・_ゝ・`)「どうして僕たちは死んでも意識を保っていたんだろうね」
ペニサスはちらりと僕を見て、それから向き合った。
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226 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:14:54 ID:vdSRrPRY0
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('、`*川「人も魔女も、死ぬと『透明な澱』に呑み込まれるの」
(´・_ゝ・`)「とうめいな、よどみ」
透明な澱とは、人間であった頃の姿を忘れた者だけが行く場所なのだという。
人間が老いや病気などで自己と他者の境界線を見失うとそこに行き、何もかもを忘れて透明になるのだという。
そのかわり自己を忘れなければ、つまり未練を残している場合にはその澱に取りこまれることもないのだという。
しかし肉体が滅んで自意識だけが残っても、誰にも見つけてもらえなければいずれ透明な澱へ導かれるのだという。
蘇生されず、そのまま現世に留まり続けた自意識。
これが所謂幽霊なのだと魔女たちの間に伝わっているのだそうだ。
さて、ペニサス曰く魔女には三通りの死があるという。
一つ目は人としての死。
魔女よりも普通の人間として過ごす時間が長い者が迎える死だそうだ。
二つ目は魔女としての死。
これは一つ目の逆パターンだ。
好きなことを追求し続けている魔女は老いることも病気になることもない。
怪我をしても魔法で治せてしまうし、悦楽と刺激を受けている限り彼らに寿命は訪れない。
しかし何事にも終わりはある。
何をしても退屈で仕方がなくなった時、彼らは人生をこう締めくくるのだという。
('、`*川「『時よ止まれ、君は何よりも美しい』、ってね。でもこの呪文って、この世のありとあらゆるものの存在を感じ取っていないと発動しないのよ」
(´・_ゝ・`)「つまり今の君じゃ無理だと」
('、`*川「そうそう。それにこの死を迎えられた魔女なんて、五人にも満たないらしいし」
(´・_ゝ・`)「ふむ……」
('、`*川「ほとんどの魔女が人として生を終えてるんですって」
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227 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:16:30 ID:vdSRrPRY0
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ペニサスは欠伸を一つして、黙った。
僕はそのまま話の続きを待った。
('、`*川「……三つ目の死は、透明な死」
魔女としての死は、至上の死として語られているらしい。
それを目指して魔法を極め、世界を旅している魔女がいるくらいだという。
しかし自分が何のために魔女になったのか、何故こんな困難に身を置いているのかが分からなくなる者がほとんどなのだという。
人間の自分と魔女の自分。
その境界線を見失い、突如として掻き消えてしまう。
何もこの世に結果を残せず、誰の心にも残らなかった情けない敗者。
('、`*川「それが、透明な死」
(´・_ゝ・`)「……誰もその死を関知しないんだね」
('、`*川「一応魔女の死を目指す者同士で協会を組んで、連絡が取れなくなったら死んでしまったものとして記録するらしいけど」
(´・_ゝ・`)「遠くで誰かが死んでも何とも思わないしなぁ。しかもいつ居なくなったとわかるわけでもないし」
('、`*川「透明になるって、そういうことなんだと思う」
そう考えると、なんて寂しい死なのだろうと僕は悲しくなった。
(´・_ゝ・`)「どうして僕たちは透明にならなかったのだろうね」
('、`*川「わからないわ、でも」
誰かに見つけて欲しかったから、透明にならなかったのかも。
睡魔によってとろけた声で、彼女はそう言った。
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228 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:18:23 ID:vdSRrPRY0
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(´・_ゝ・`)「……そうかもしれないね」
僕の呟きに、返事は返ってこなかった。
かわりにすうすうと寝息だけが聞こえてきた。
明日はどうなるのだろう。
もしかしたらペニサスがいなくなってるかもしれない。
目覚めたら自分の部屋にいて、全てを忘れて会社に行っているのかもしれない。
そもそも目覚めることもないのかもしれない。
そう考えると心配は尽きなかったが、やがて僕も眠りへと落ちていった。
「…………ヤッアヒータ パッサチーマ フィーラ フィーラ」
何処かで聞いた歌を耳にしながら。
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229 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:19:23 ID:vdSRrPRY0
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目が覚めた頃にはすっかり日は高くなっていた。
今日は風が強かった。
ぼーっと空を眺めていると、灰色の雲が猛スピードで動いているのがわかった。
今は晴れているが、もしかすると雨が降るのかもしれない。
起き上がり、僕は辺りを見回した。
教会内にペニサスの姿はない。
(´・_ゝ・`)「……ペニサスくん?」
ゆっくりと出入り口へと向かう。
みし、ぎし、と呻く床が僕の不安を煽る。
もしかしたら、僕が寝ている間に連れ去られたのでは。
(´・_ゝ・`)「うわっ」
顔に蜘蛛の巣が引っかかり、僕は手を振るった。
その拍子に、床から伸びていた植物と手がぶつかった。
はて、昨日はこんなにこの草は伸びていただろうか?
少し気にかかったものの、それより先にペニサスがどこにいるのかを知るのが先だった。
ようやく出入り口に辿り着いた。
すると、見覚えのある後ろ姿が自転車のそばに立っていた。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん!」
呼ぶと、彼女は振り向いた。
('、`*川「デミタス」
少し驚いたような表情を浮かべる彼女の右腕は、ショッキングピンクの袋が抱えられていた。
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230 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:20:39 ID:vdSRrPRY0
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('、`*川「ごめん、着替えようと思ってこれを取りに来たの」
(´・_ゝ・`)「ああ……」
少し脱力しながら僕は答える。
そうだった。
昨日僕がめちゃくちゃに刺したせいで服がとんでもないことになっていたんだった。
(´・_ゝ・`)「悪かったね、そこまで気が回ってなかったよ」
('、`*川「気にしないで」
そう言ってペニサスは中へと戻っていった。
('、`*川「覗かないでよね」
(´・_ゝ・`)「覗くわけないじゃないか」
目の前に広がる光景を見つめながら、僕はそう答えた。
ペニサスは気付いているのだろうか。
今まで草の生い茂っていた場所に、ぼこぼこと穴が開いていることを。
その茶褐色の斑をよく見ると、深海色の泡が微かに残っていた。
その泡によってそこに生えていた草が跡形もなく消失してしまったらしい。
剥き出しになった土を見てそう考えた。
とりあえずあの泡には触れないほうがいいだろう。
「お待たせ」
背後から声をかけられ、僕は振り向いた。
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231 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:23:59 ID:vdSRrPRY0
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レース付きの白いブラウスに闇色のワンピース。
ふんわりと広がる裾は膝下まで覆っていたが、不思議と軽やかな印象を与えた。
('、`*川「変じゃないかな?」
胸元を編み上げているリボンをいじりながら、ペニサスは問う。
(´・_ゝ・`)「全然」
('、`*川「なら良かった」
ほっとしたようにそう言って、しかしその表情はすぐ真剣なものへと変わった。
('、`*川「連れてってほしいところがあるの」
(´・_ゝ・`)「どこに行きたいんだい?」
('、`*川「わたしの、家」
もしかしたら引っ越してしまっているかもしれない。
違う人が住んでいるのかもしれない。
もし以前と同じように住んでいたとしても、会いに行くことはできない。
しかしそれでも、一目見ることができたなら。
(´・_ゝ・`)「……案内はしっかり頼むよ」
そう言って、僕は自転車を起こしに行った。
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232 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:25:06 ID:vdSRrPRY0
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ペニサスの家までの道程は非常に順調であった。
返り血の付いた服を着た中年の男が少女を連れていたら職務質問も待った無しだとびくびくしていたのだが、誰にも会わなかったのだ。
それどころか生活音もせず、街はしんと静まり返っていた。
まるで誰かに加護を受けているようだと思う一方で、不気味にもなった。
('、`*川「止まって」
軋む鉄の音を響かせ、自転車を止めた。
('、`*川「この奥なの」
塀と塀の隙間にある道を見つめ、ペニサスはそう言った。
(´・_ゝ・`)「ずいぶん細いな」
人一人がやっと通れる道幅だ。
自転車に乗りながらでも入れなくはないが、いかんせん砂利道である。
転んでしまったらひとたまりもないだろうと踏んで、僕は自転車を降りた。
('、`*川「秘密基地みたいってよく友達に言われたわ。車は近くの駐車場を借りてたわね、そういえば」
思い出話を紡ぎながら、ペニサスは先陣を切って歩く。
相槌をうちながら僕はその後に続いた。
生まれる前は男の子だと思われていたこと。
だから服やベビーバスを水色に揃えられてしまったこと。
生まれてみたら女の子で、お父さんが少し残念がっていたこと。
夜泣きをしないであんまりお母さんの手を煩わせなかったこと。
だけど他の子よりも乳離れや寝返りを打つのが遅くてお母さんがノイローゼになったこと。
歩いて勝手にドアをいじって指を大怪我したこと。
初めて公園に行った時に鯉を捕まえようとして池に落ちたこと。
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233 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:26:05 ID:vdSRrPRY0
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僕の知らないペニサスが、次々と現れては記憶の片隅へと引き込まれていく。
それがなんだか楽しくて、僕は夢中になって聞いていた。
('、`*川「……着いた」
四方を塀に囲まれながらも開けた場所に出た。
しかし一目見てそこに誰もいないことは明白であった。
かつては白かった壁のペンキは剥がれ落ちていて、雨樋が外れてしまっていた。
サンデッキのガラスは割れ、巨大な蜘蛛の巣が出来上がっている。
窓は厳雨戸が閉められているが、すっかり錆び付いて涙跡のようにも見えた。
とにかく、荒みに荒んでいた。
ペニサスはなにも言わずに、玄関へと向かった。
庇の下には水色のベビーバスが置かれていた。
('、`*川「なつかしー……」
(´・_ゝ・`)「これがさっきの?」
('、`*川「そうそう。わたしが幼稚園の時にメダカ飼いたいってねだって、お父さんが買ってくれたの。そうしたらこのベビーバスを水槽にするって言ってて。それからずーっと育ててね……」
(´・_ゝ・`)「へえ……」
ベビーバスの中には、雨水が溜まり緑藻が覆い尽くしていた。
僕には想像できないが、彼女の目には当時の光景が写っているのだろう。
('、`*川「……引っ越す時に、メダカも捨てちゃったのかな」
寂しげなその声に、僕はなんとも返せなかった。
('、`*川「……中、まだ入れるかな」
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234 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:29:48 ID:vdSRrPRY0
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ペニサスの視線がベビーバスから玄関へと移ったその時だった。
('、`*川「……あれ?」
いつの間にか扉が開いていたのだ。
中は真っ暗で、いくら覗き込んでもその先を見通すことはできなかった。
冷たいペニサスの手が僕にぶつかった。
探るようなその手つきを捕まえて、僕はしっかりと握りしめた。
怖いのだろう、不安なのだろう。
ペニサスほどではないが、僕もそう感じていた。
だけど僕たちは一人ではなかった。
僕とペニサスは言葉を交わさずに、中へと引き込まれていった。
……歩いてどれくらい経ったのかは定かではないが、やがて飴色の灯が見えてきた。
灯の真下には小さなテーブルがあり、その奥に男が一人佇んでいた。
(//‰ ゚)「…………」
右目以外を包帯で覆い、顔の一部からは虹色の光が溢れて出していた。
(//‰ ゚)「いらっしゃい」
穏やかなその声に、僕は聞き覚えがあった。
姿形は違えども、彼はあのサバトで会った魔女であった。
('、`*川「あなたは……」
(//‰ ゚)「しぃっ。それよりお嬢ちゃん、僕は君に改めて問うことがある」
包帯の隙間から漏れる玻璃の輝きが一層強くなった。
石の魔女は、優しくペニサスに問いかける。
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235 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:30:40 ID:vdSRrPRY0
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(//‰ ゚)「君は、魔女になりたいかね」
('、`*川「はい」
(//‰ ゚)「険しい道だ。それに自分を見失えば」
('、`*川「透明な澱に囚われる」
(//‰ ゚)「それでも君は、魔女になる道を選ぶのかね」
('、`*川「なりたいです。魔女になって、わたしは師匠と話がしたいんです」
石の魔女は、その言葉を噛みしめるように目を細めた。
そして何処からともなく小さなマッチ箱を二つ取り出した。
(//‰ ゚)「持ってお行き。この先で彼女が待っている」
(´・_ゝ・`)「彼女?」
(//‰ ゚)「行けばわかるさ。そいつが入場券の代わりになる」
「幻影追想劇団 柘榴座」
金の縁取りのついた深紅色で、箱にそう印刷されていた。
('、`*川「デミタス」
(´・_ゝ・`)「ああ、すまないね」
思わず箱に見惚れていた僕を、ペニサスは呆れたように見ていた。
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236 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:32:20 ID:vdSRrPRY0
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('、`*川「彼女って誰なんでしょうね」
(´・_ゝ・`)「さあ、だけど進めばわかるんだろうよ」
ほんの少し振り返って、僕はそう言った。
じぃじく、じぃじくとノイズがかった飴色の灯。
その下にいたあの魔女は、もう何処かへと去ってしまったようだった。
そのまま暗がりを進んでいくと、赤と緑の混ざりあった絵画が見えてきた。
瑞々しい葉と、赤い彼岸花。
あり得ない光景だ。
(´・_ゝ・`)「……これ、何かおかしくないか?」
('、`*川「そうね。これ、絵じゃなくて緞帳なんだわ」
(´・_ゝ・`)「え?」
ペニサスの指摘で、僕はようやく気が付いた。
ということはこの先にあるのは舞台だ。
いったい何が始まるのだろう。
「いらっしゃい、二人とも」
明るい女の声が、背後から聞こえた。
从 ゚∀从「さあさ、席に座っておくれ。時間は限られているんだ」
躑躅の魔女が二脚の椅子に手を掛けながらそう言った。
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237 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:33:12 ID:vdSRrPRY0
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さっきまでそんなものはなかったはずだった。
目紛しく変わっていく状況に、僕は車酔いした気分になった。
ペニサスは夢遊病者のような足取りで、椅子に向かった。
僕はその背を追いかけた。
青い布が張られた椅子に座ると同時に、緞帳は静かに開いていった。
舞台の上手には青々とした葉が茂り、その下には真鍮色の四角い石が置かれていた。
('、`*川「あれ、何かしら?」
(´・_ゝ・`)「黄鉄鉱だね。火打石として使われていたと聞いたことがある」
('、`*川「ふーん」
かたり、と石が動く。
それは舞台の始まりを告げるものだった。
かた、かたり、かた、かたり。
立方体は軽い音を立てながら人型へと姿を変えていった。
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238 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:34:15 ID:vdSRrPRY0
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从 ∀从「むかしむかし、ある所に彼岸花の葉から生まれた王子様がおりました」
(//‰ )「王子様は困っている人がいると放っておけないたちでありました」
(*;∀;)『えーん、えーん』
/ ゚、。 /『どうしたんだい、お嬢さん』
(*;∀;)『ころんでけがをしたの、とってもいたいの』
/ ゚、。 /『それなら僕がその怪我の手当てをしてあげよう。さあ傷を見せてごらん、』
(*;∀;)『えーん、えーん、いたいよう』
/ ゚、。 /『大丈夫、僕がいるよ。さあ血が止まったよ』
(*゚∀゚)『本当だ! ありがとう、王子様!』
从 ∀从「王子様はとっても優しくて、いい人でありました。しかし……」
ミセ*;ー;)リ『えーん、えーん! さみしいよう!」
/ ゚、。 /『……』
(*゚∀゚)『王子様?』
ミセ*;ー;)リ『うえーん、どうして誰もそばにいてくれないの! えーん、えーん!』
/ ゚、。 /『さよなら、僕行かなくちゃ』
(*゚∀゚)『えっ?』
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239 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:35:33 ID:vdSRrPRY0
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/ ゚、。 /『どうしたんだい、お嬢さん』
ミセ*;ー;)リ『誰もわたしのことを愛してくれないの』
/ ゚、。 /『それはつらかったね。だけど僕が君のことを愛してあげるよ』
(//‰ )「王子様は、あまりにも優しすぎたのです」
(*゚∀゚)『あ、ぁあ……』
ミセ*゚ー゚)リ『ありがとう、王子様! わたしとってもあなたのことが好きよ』
/ ゚、。 /『僕も君のことが大好きだよ』
ミセ*゚ー゚)リ『ずっとそばにいてくれる?』
/ ゚、。 /『そばにいてあげるよ』
(-_-)『ああ、どうして僕の心は満たされないのだろう。こんなに飢えているならいっそ死んでしまいたいよ』
/ ゚、。 /『……』
ミセ*゚ー゚)リ『王子様?』
/ ゚、。 /『さよなら、僕行かなくちゃ』
ミセ*゚ー゚)リ『えっ……?』
从 ∀从「優しい王子様の心は純金ではなく、黄鉄鉱で出来ておりました」
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240 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:36:16 ID:vdSRrPRY0
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/ ゚、。 /『どうしたんだい、お兄さん』
(-_-)『理由はわからないけど僕はとっても不幸なんです。僕一人いなくなったところでみんな誰も困りはしないし、死んでもいいかなって』
/ ゚、。 /『そんなのダメだよ、僕が君を幸せにしてあげるよ』
(-_-) 『本当に?』
/ ゚、。 /『本当さ、僕には君が必要なんだ』
(//‰ )「彼はどこまでもどこまでも他人に心を許すものですから、彼に優しくされた者はみんなその火花に触れて跡形もなく燃えてしまいました」
(* ∀ )『熱いよう、痛いよう。どうして優しくしてくれたのに、すぐにどこかへ行ってしまうの」
ミセ* ー )リ『身も心も焼き尽くされてしまう、あの人の心はとても危険だわ』
( _ )『こんな事になるなら優しくされなかった方がよかった、最初から裏切られるくらいなら、いっそ……』
从 ∀从「数多の人の心を焼き尽くしながら、王子様は世界中を旅していました」
(//‰ )「彼はこの世からすべての不幸を摘み取ろうとしていたのです」
从 ∀从「ある日、王子様は海底で大きな水槽を見つけました」
(//‰ )「その中はチューリップの花が咲き乱れておりました」
/ ゚、。 /『! 人がいる!』
ξ゚听)ξ『……あなたはだあれ? お母様以外の人に会うなんて初めてだわ』
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241 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:37:10 ID:vdSRrPRY0
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从 ∀从「水槽は檻のようでもあり、棺のようでもありました」
/ ゚、。 /『君はここで何をしているんだい?』
ξ゚听)ξ『お母様から外に出ては行けないと言われているの。外に出たらわたしはわたしでなくなってしまうから』
/ ゚、。 /『そんなことないよ、ここから出ても君は君のままだよ』
ξ゚听)ξ『いいえ、わたしが水槽から出てしまったら、わたしはお母様でなくなるし、お母様はわたしでなくなるわ』
/ ゚、。 /『君は君のお母さんではないよ。君は他の誰でもない人間なんだ、自由になっていいんだよ』
ξ゚听)ξ『水槽から出たら、きっとお母様は怒るわ』
/ ゚、。 /『そうしたら僕が君のお母さんを怒るよ。こんな暗くて寂しい場所に、女の子を置いておくだなんてどうかしてるよ。君は外に出たくないのかい?』
ξ゚听)ξ『……出たいわ、だけど外に行くのは怖いの』
/ ゚、。 /『じゃあ僕が守ってあげるよ』
(//‰ )「そう言って、王子様は水槽を壊しました」
/ ゚、。 /『さあ行こう、君はもう何処にでも行けるんだ』
ξ゚听)ξ『ありがとう、王子様。お礼にわたしはあなたに付いていきますわ』
从 ∀从「チューリップの娘は、どこまでも王子様について行きました」
(//‰ )「王子様が誰を愛そうとも、好こうとも、時間を重ねようとも、チューリップの娘は尽くし続けました」
从 ∀从「王子様の心に踏み込み火花を浴びようとも、彼女の心が焼け焦げることはありませんでした」
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242 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:38:13 ID:vdSRrPRY0
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(//‰ )「なぜなら彼女の心は今まで深い海に囚われ続けていたせいで、すっかり凍ってしまっていたのでした」
ξ゚听)ξ『大好きよ、王子様』
/ ゚、。 /『僕も君のことは好きだけども、ずっと僕なんかのそばに居なくたっていいんだよ』
ξ゚听)ξ『報われなくてもいいの、ただわたしはあなたに幸せでいてほしいの』
/ ゚、。 /『……』
ξ゚听)ξ『だからわたしは、あなたがわたしの元から去っても浅ましく求めたりしないわ。わたしはあなたが焼き尽くしてしまった人たちとは違うんだもの』
/ ゚、。 /『僕も君に幸せでいてほしいけど、君はどうやったら幸せになるんだい?』
ξ゚听)ξ『あなたの幸せがわたしの幸せよ。だからわたしもあなたのように少しずつ、この世から不幸を摘み取ろうと思います』
/ ゚、。 /『……』
ξ゚听)ξ『そうすれば、王子様は幸せになれるのでしょう?』
/ ゚、。 /『……そうだよ。君は、優しいんだね』
ξ゚听)ξ『王子様が優しくしてくれたから、わたしも優しくなれたんです』
从 ∀从「こうしてチューリップの娘は、王子様の幸せを願って自らも世界を飛び回ることになりました」
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243 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:39:05 ID:vdSRrPRY0
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(//‰ )「さてそれから数十年の月日が流れました」
从 ∀从「王子様は、とある山へと向かっていました」
/ ゚、。 /『声が聞こえたのはこの辺りだな』
(//‰ )「狂ったように猛り咲く彼岸花を眺めて言いました」
/ ゚、。 /『僕を呼んだのは、君かな?』
lw´ _ ノv『はい。わたしはここで嬲られ生きたまま焼かれて死にました。とても苦しくて怖くて寂しくて、だけど誰にも見つけてもらえなくて』
/ ゚、。 /『つらかったね、かわいそうに……』
lw´ _ ノv『もっとずっと生きていたかった……、ここから出たいんです……』
/ ゚、。 /『今助けてあげるよ。さあ、手を伸ばして』
从 ∀从「王子様は彼岸花の少女の手を取りました」
/ ゚、。 /『さあおいで、君を幸せにしてあげよう』
(//‰ )「山を下り、王子様は自分のお城へと連れて帰りました」
/ ゚、。 /『ご両親を探して、君を家に帰さなきゃね。でもその前にお茶を淹れてあげよう』
从 ∀从「そう言って王子様はコンロの火をつけました」
(//‰ )「ヂヂヂ、と青い炎が灯りました」
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244 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:40:46 ID:vdSRrPRY0
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lw´‐ _‐ノv『……いや』
/ ゚、。 /『え?』
lw´‐ _‐ノv『やめて、ひどいことしないで』
/ ゚、。 /『お嬢さん?』
lw´ _ ノv『もう痛いのはいや! いやー!!!!!』
从 ∀从「彼岸花の娘には、この世に存在する全てのものが凶器に見えてしまいました」
(//‰ )「何もかもが恐ろしい悪意を孕み、自分を殺そうとしているように思えたのです」
/ ゚、。 /『大丈夫、大丈夫だよ。僕はお茶を沸かそうとしただけなんだ』
lw´ _ ノv『あ、ぁ……。ご、ごめんなさい……』
/ ゚、。 /『謝らなくていいんだよ。それよりとっても辛そうだね』
lw´‐ _‐ノv『辛いけど、大丈夫です……』
/ ゚、。 /『大丈夫なんかじゃないよ、辛いなら今までのことを忘れてしまった方がいいと思うんだ』
lw´‐ _‐ノv『忘れる……?』
/ ゚、。 /『そう、忘れるんだ。そしてまた新しく生きればいい』
lw´‐ _‐ノv『……たしかに辛いです、何もかも怖いです。だけどわたしは両親や友達の事も、辛かった事も忘れたくないです』
/ ゚、。 /『どうして?』
lw´‐ _‐ノv『忘れてしまったら、今までの自分の全てを捨ててしまうことになるじゃないですか』
/ ゚、。 /『……』
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245 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:41:58 ID:vdSRrPRY0
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lw´‐ _‐ノv『だから、ご迷惑を掛けてしまうかもしれませんが、わたしは全てを受け入れて生きたいんです』
/ ゚、。 /『……そうか』
从 ∀从「けれども優しい王子様は、彼岸花の娘の記憶を全部封じてしまいました」
(//‰ )「王子様には、そのほうが彼女のためになるのだと思ったからでした」
从 ∀从「自分が死んだことも忘れた彼岸花の娘は、ただ毎日王子様の帰りを待つこととなりました」
(//‰ )「王子様のいない間、お城の手入れをするのが彼女の役目となったのです」
从 ∀从「しかし日に日に自分の役割に疑問を持つようになりました」
lw´‐ _‐ノv『ただ待っているだけではなく、王子様のためにもっと役に立つようなことは出来ないのだろうか』
(//‰ )「心の底から王子様を信用していたからこそ、そういった欲が出てきたのです」
从 ∀从「しかし王子様はそれを認めてくれませんでした」
/ ゚、。 /『君はここにいてくれるだけでいいんだよ』
lw´‐ _‐ノv『だけどわたし、王子様に恩返しをしたいんです』
/ ゚、。 /『そんなこと、しなくていいんだ!』
lw´ _ ノv『っ……!』
/ ゚、。 /『どうしてそんなことを言うんだい。君は、ただ生きているだけでいいのに』
lw´ _ ノv『……ご迷惑、なんでしょうか。わたしがいること自体』
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246 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:43:30 ID:vdSRrPRY0
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/ ゚、。 /『違う。ここにいていいんだよ』
lw´ _ ノv『…………』
/ ゚、。 /『すまない、大きな声なんか出して……。だけど、僕はここに君がいるだけでいいんだ。いてほしいんだ』
(//‰ )「それが僕の望みなんだ」
从 ∀从「王子様はそう言って、彼岸花の娘をお城に捕え続けようとしました」
(//‰ )「しかし彼岸花の娘は、お城からこっそりと抜け出すことがしばしばありました」
从 ∀从「いつまでも王子様に守られてばかりなんて、そんなのは嫌だったのです」
(//‰ )「そして彼女は樅の木棺に囚われた男を見つけ、」
––––その時、泡の爆ぜる音がした。
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247 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:45:33 ID:vdSRrPRY0
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「楽しそうな劇ね」
「ちょいとばかし脚色が強すぎるけどな」
一気に意識が現実へ引き戻された。
舞台上の役者たちは動きを止め、間もなく石や花束に変わってしまった。
舞台袖から二人の魔女が飛び出した。
从; ゚∀从「クソッタレが……!」
押し寄せる泡の波に向かって、躑躅の魔女は無数の蔓を伸ばした。
しかしその波に触れた途端、その蔓は跡形もなくどろりと溶け去った。
(//‰ ゚)「駄目だ、あいつらの力が強すぎる」
泡に飲み込まれながらも放たれたその言葉に、躑躅の魔女は歯がゆそうな顔をした。
从; ゚∀从「ほんとロクなことしねえなあの魔女どもは!」
その声を最後に、彼女も泡へと溶けていった。
('、`*川「デミタス」
僕の腕を掴み、ペニサスはこう言った。
('、`*川「師匠と話す時が来たのね、きっと」
泡が、僕らを溶かしていく。
(´・_ゝ・`)「なんと言われようが、僕は君の味方をするよ」
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248 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:46:34 ID:vdSRrPRY0
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足の感覚が失せていく。
立つことがままならなくなり、僕は崩れ落ちた。
('、`*川「当たり前でしょう、だってあなたはわたしの」
使い魔なんだから。
同時に呟いたその言葉に、僕とペニサスは笑った。
腕が、千切れて
意識が、霧散し
僕たちは、千々になった。
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249 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:47:50 ID:vdSRrPRY0
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かく魔女は説く、かくて成さん 了
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250 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:48:55 ID:vdSRrPRY0
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幻影追想劇団「柘榴座」キャスト
彼岸花の葉から生まれた王子様役
/ ゚、。 / 黄鉄鉱
水槽に囚われた娘役
ξ゚听)ξ 色とりどりのチューリップ
生き返った娘役
lw´‐ _‐ノv 真っ赤な彼岸花
焼かれた人々
(*゚∀゚) タンポボ
ミセ*゚ー゚)リ 蛍石
(-_-) ホトケノザ
樅の木棺に囚われた男
??? 樅の木の枝
資料提供、美術、語り、演出、脚本、監督
躑躅の魔女と石の魔女
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251 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/06/20(土) 13:50:22 ID:vdSRrPRY0
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登場人物紹介
(´・_ゝ・`) 盛岡デミタス
棺を出た人
('、`*川 伊藤ペニサス
花は葉を惟ひ
从 ゚∀从 躑躅の魔女
努力家
(//‰ ゚) 石の魔女
金剛石
ζ(゚ー゚*ζ デレ
赤、白、黄色
(´・ω・`) ショボン
葉は花を惟ふ
チョコチップクッキー
ショボン見捨てられないかどうかが気になって眠れなくなったデレが手慰みに作ったもの。買い物から帰ってきたらこれをショボンにあげてもう一度謝ろうとしていた