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118 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 12:29:53 ID:iiVptxPU0
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四は捨てよ
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119 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 12:30:52 ID:iiVptxPU0
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ζ(゚ー゚*ζ「こんな所で何してたの?」
緩やかに微笑みながら、デレと呼ばれた魔女はペニサスに問うた。
深海のような淀んだ青い瞳が僕らを射抜く。
ペニサスは一歩後退り、少し俯いた。
('、`*川「え、えっと……」
ζ(゚ー゚*ζ「サバトは楽しかった?」
言い淀むペニサスに、デレは言葉を突き刺す。
石と躑躅の山から飛び降り、彼女は近付いてくる。
ワンピースの裾がゆわゆわと揺蕩う。
赤、白、黄色。
目眩がするほどの派手な服。
まるで歩くチューリップ畑のようだと僕は思った。
ζ(゚ー゚*ζ「悪い子ね、魔女になってはいけないとあんなにも言われているのに。もしかしたらショボンは怒っちゃうかもね」
('、`*川「…………」
ζ(゚ー゚*ζ「いいなぁ、ショボンに怒られるなんて。わたし怒られたことないのよ」
饒舌な魔女は、唐突に首の向きを変えた。
細い針のような視線は一転して、拡大鏡のように変わった。
ζ(゚ー゚*ζ「この人はだぁれ?」
('、`*川「……デミタス、さん」
遠慮がちに名前を呼ばれ、僕はデレに向かって会釈をした。
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120 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 12:32:06 ID:iiVptxPU0
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(´・_ゝ・`)「はじめましてデレさん」
ζ(゚ー゚*ζ「呼び捨てでもいいわよ、見た目ではあなたの方が年上だもの」
なにやら意味深なことを呟き、うふふとデレは笑みを漏らした。
ζ(゚ー゚*ζ「出来立てほやほやの使い魔さんなのね。ドクオと一緒だわ」
('、`*川「ドクオ?」
ζ(゚ー゚*ζ「新しく使い魔を作ったの。半年前にね」
おいでと呼ばれ、それはデレの背後から顔を出した。
浅黒い肌に闇色の大きな目。
この世の不幸を煮詰めたようなひどい顔つき。
子供ほどしかない背丈。
折れ曲がった腰の男は、ゆっくりと口を開いた。
('A`)「ア、ぁ」
絞り出すような、しゃがれた声。
僕は思わず眉間にシワが寄った。
デレはそれに気付かず、ドクオに語りかける。
ζ(゚ー゚*ζ「見て、ドクオ。こっちがペニサスちゃんで、あっちはデミタス」
('A`)「ぁ、ギィ、ぺにさス、デミたす?」
ζ(゚ー゚*ζ「そうよ」
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121 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 12:33:35 ID:iiVptxPU0
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ドクオがじろじろと僕を見る。
それこそ頭の天辺から、爪の先まで。
そして飛び出てきた言葉は、
('A`)「ウまソウ」
であった。
(´・_ゝ・`)「えっ」
('、`*川「た、食べちゃダメよ!」
すると今度は慌てて言うペニサスに視線が移った。
('A`)「…………」
('、`*川「な、なによ」
('A`)「オマえも、う、ゥマ、うまそ」
それを聞いてデレはケタケタと笑い声を上げた。
ζ(゚ー゚*ζ「この子、もとはオオグソクムシなの」
('、`*川「おおぐそくむし?」
(´・_ゝ・`)「日本の深海に棲むダンゴムシやフナムシの仲間だよ。極めて雑食で海の掃除屋と言われているとか」
('、`*川「フナムシ……」
ペニサスは苦虫を噛み潰したような顔をした。
彼女に見つめられたドクオは、引きつったような笑顔を浮かべた。
あまり好意的に受け止められる表情ではなかった。
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122 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 12:35:02 ID:iiVptxPU0
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ζ(゚ー゚*ζ「頭がいいのね、ちゃんとあなたのこと死体だって認識してるもの」
('A`)「うァ」
デレに頭を撫でられ、ドクオは呻いた。
嬉しいのか不愉快なのか判断のつかない、人を不安にさせる声だった。
('、`*川「わたしは死体じゃないですー」
困ったようなペニサスの声に、デレは答える。
ζ(゚ー゚*ζ「そうだったわね、きっと柔らかそうなお肉だからじゃないかしら?」
デレの笑いはなかなか止まらない。
ペニサスのふくれっ面がかなり酷くなったところで、それはようやく収まった。
(´・_ゝ・`)「オオグソクムシかぁ……」
二人のやりとりを横目で見つつ、僕はドクオを眺めていた。
たしかに言われてみれば似ている。
ζ(゚ー゚*ζ「カフカみたいでしょ?」
(´・_ゝ・`)「グレゴール・ザムザか」
ζ(゚ー゚*ζ「どくむしから人に変わったから逆だけどね」
(´・_ゝ・`)「あなたの魔法でこの姿に?」
ζ(゚ー゚*ζ「ええ、でもここでお話するには長くなるわ。一度お家に帰りましょう?」
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123 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 12:35:50 ID:iiVptxPU0
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その言葉を聞き、ドクオはのそりと動き出した。
片足を引きずり、彼は歩く。
('、`*川「…………」
('A`)「ジャま」
じっとその作業を見ていたペニサスに、ドクオは短く言った。
('、`*川「ご、ごめんなさい」
('A`)「…………」
ざりざり、ざりざり。
誰も口をきかないので、土が退けられる音だけが響いた。
どうやらデレを中心に円を描いているらしい、と僕は気付いた。
ζ(゚ー゚*ζ「お家に帰ったらすぐ寝るのよ?」
('、`*川「大丈夫です、眠くないです。久々に帰ってきたんですから、デレさんのお話が聞きたいです」
ζ(゚ー゚*ζ「夜更かしたらショボンに言いつけちゃうわよ? もう少ししたらこっちに帰ってくるんだし」
('、`*川「!」
ζ(゚ー゚*ζ「あら、知らなかったの?」
無邪気なデレの言葉に、ペニサスは首を横に振った。
デレの表情がどことなく嬉しそうなのは、気のせいだろうか。
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124 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 12:37:54 ID:iiVptxPU0
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('A`)「できタ」
ζ(゚ー゚*ζ「ご苦労様」
デレは僕らを円の中に入るよう指示した。
四人で入ると案外その円は狭く、僕はペニサスの手をつかんだ。
('、`*川「な、なによ」
(´・_ゝ・`)「君がうっかり倒れたりして円から出たら困るからね」
('、`*川「わざわざありがとうございます、気がきくわねっ」
緩やかな熱が、僕の手のひらに爪を立てた。
(´・_ゝ・`)「いてて」
わざと聞こえるように言っても、ペニサスはそっぽを向いたままだった。
ζ(゚ー゚*ζ「みんな、動いちゃダメよ」
デレはそう言って、優雅にワンピースの裾を持ち上げた。
真っ白で枝のように細い足。
その爪先に納められていたのは、青銅色の靴であった。
カン、カン、カン。
三度踵同士が打ち付けられ、鉄の音が響いた。
すると円から外にある雑草が軒並泡へと変化していった。
ぱちりぱちりと泡が弾けるたびに、空の月が遠のいていった。
僕たちは水中へ沈むように、暗闇の中に吸い込まれていった。
いつの間にか足元の草花たちも消え去り、どこを見渡しても無限の暗闇が広がっていた。
デレは目を閉じたまま、細々と呪文を唱えていた。
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125 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 12:38:41 ID:iiVptxPU0
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やがて暗闇は滲み、白んでいった。
その白に、無数の色が襲いかかる。
ぶちまけられた極彩色の絵の具。
混ざり、食んで、犯し、溶けていく。
その光景に僕は思わず酔いそうになった。
やがて無造作に散らばっていた色はひとつの色に収束した。
モノクロ。
灰色がかった一昔前の映画色。
白い家具。
黒い鉄パイプのベッド。
気付けばそこは居間であった。
('、`*川「もう着いちゃったの……?」
呆気にとられるペニサスに、デレは自慢気に微笑んだ。
ζ(゚ー゚*ζ「初心者なら大仰な儀式を形作るだろうけど、わたしくらいになれば必要なものを必要なだけ揃えればあれくらい簡単に出来るわよ」
('、`*川「わたしもデレさんみたいな魔女になりたいです……」
カチリ、と部屋の灯りがついた。
ドクオが気を回して、スイッチを探したのだろう。
ζ(゚ー゚*ζ「……あなたはわたしじゃなくて、ショボンになりたいんでしょ?」
すぅっと目を細め、デレはそう言った。
('、`*川「師匠みたいになりたいけど、でも師匠は魔法教えてくれないですし……」
ζ(゚ー゚*ζ「だってショボンはあなたに魔女になって欲しくないんだもの」
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126 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 12:39:36 ID:iiVptxPU0
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('、`*川「どうしてなんです?」
ζ(゚ー゚*ζ「さあ?」
('、`*川「デレさんも知らないんですか?」
ζ(゚ー゚*ζ「知ってるわ。でも喋っちゃいけないって口止めされているから喋らないの」
('、`*川「……でも、デレさんは、わたしに魔法を」
ζ(゚ー゚*ζ「あれはほんの断片よ。それで満足するかと思って教えたけど、あなたは全然諦めてくれなかった」
それどころかますます傾倒するなんて、困った子。
その一言に、ペニサスは一瞬傷付いたような顔をした。
('、`*川「デレさんも、わたしが魔女になるのは反対なんですか?」
ζ(゚ー゚*ζ「それがショボンの望みだからね」
('、`*川「…………」
ζ(゚ー゚*ζ「わたしから魔法を教わりたいならいくらでも教えてあげるけど、その前にショボンを説得してね。あの人のこと、裏切りたくないから」
終始やわやわと笑うデレは、なにかが欠けていた。
何が起きたとしてもその笑みが崩れないような気がして、僕は薄ら寒さを感じた。
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127 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 12:40:44 ID:iiVptxPU0
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('、`*川「説得、すればいいんですよね」
俯いていた顔をあげ、ペニサスはゆっくり呟いた。
決意するように、自分の原点を振り返るように。
ζ(゚ー゚*ζ「……諦めの悪い子」
(´・_ゝ・`)「根性があるって言ってあげてください」
驚いたような顔で、二人は僕を見る。
デレは不愉快そうに、ペニサスは意外そうに。
僕はそのまま黙ってデレを見つめ返した。
そのしじまを破るように、
リン、ゴォン、
と重い鐘の音が響いた。
('、`*川「!」
ζ(゚ー゚*ζ「噂をすれば来たみたいね」
ペニサスは早足で玄関へと向かった。
一瞬考えて、それから彼女の後を追った。
脈打つことのない心臓が、再び鼓動しているような気分になった。
きっと血が巡っていたら、僕の顔は緊張で赤らんでいたに違いない。
いよいよペニサスの師匠と対面する機会が来てしまったのだから。
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128 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 12:41:48 ID:iiVptxPU0
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ペニサスは靴も履かずに玄関の鍵を開けていた。
('、`*川「師匠!」
ガチャリと開いた瞬間、ペニサスは嬉しそうに叫んだ。
どれほどこの瞬間を待ち遠しく思っていたのだろう。
複雑な気持ちでそれを眺め、僕は深呼吸をした。
('、`*川「お帰りなさい!師匠!」
(´・ω・`)「ただいま、ペニサス」
僕と同じくらいの背丈の男は、ペニサスの頭を撫でてそう言った。
('、`*川「師匠、鍵はどうしたんですか?」
(´・ω・`)「それがまた失くしちゃってね」
('、`*川「またですか」
(´・ω・`)「あちこち飛び回っていると次第に何がなんだかわからなくなってしまうんだよ。それでもこうして君が留守でいるから帰ってこれるんだけどね」
冗談まじりにそう言って、男はペニサスから僕へと視線を移した
(´・ω・`)「ところで彼はあれかな、デレの使い魔かい? 噂だとせむし男だって聞いていたんだけども」
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129 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 12:42:46 ID:iiVptxPU0
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ペニサスは一瞬僕を見て、意を決して告白した。
('、`*川「わたしの、使い魔です」
(´・ω・`)「…………」
(´・_ゝ・`)「…………」
男と視線がかち合う。
見た目上の年は、デレと同じくらいだろうか。
若そうに見えるが、どこか老いた雰囲気があった。
人の良さそうな顔だ。
垂れ気味の目は人を安心させる雰囲気がある。
でも服のセンスは最悪だった。
墨と緑を混ぜたようなスーツから覗くシャツには恐ろしい量のフリルがついていた。
真っ赤な紐細工のループタイがその中に埋もれていて、僕は残念な気持ちになった。
きっと宝塚の衣装からセンスを抜いたらこんな格好になるだろうな、などと考えていた。
(´・ω・`)「ペニサス」
('、`*川「は、はい」
(´・ω・`)「僕の若い時の服なんて出して来ちゃダメだよ」
('、`*川「すみま……え?」
予想外の指摘に、ペニサスは固まった。
彼は気に留めず、靴を脱いで僕に歩み寄る。
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130 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 12:43:53 ID:iiVptxPU0
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(´・ω・`)「これ、書斎に置いてあったやつだろう? よく虫食いにあわなかったな」
(´・_ゝ・`)「あ、あの」
勝手に袖口やらベストやらを触られ、僕は戸惑っていた。
なんだこの人は、馴れ馴れしい。
(´・ω・`)「いやー若い時の服って見ちゃうといたたまれないなぁ。センス悪くて無理だ」
いや、今のあなたの方がかなり酷いですよ。
と喉元まで出掛かって僕は理性で止めた。
(´・ω・`)「というか使い魔ってなに、また勝手に魔法勉強してたの?」
('、`*川「一人だと何もすることがないですから……」
(´・ω・`)「もー、ダメだよ。君は魔法なんて使わなくていいんだよ。孤閨を守ってくれるだけで十分なのに」
特に怒鳴るわけでもなく緩く注意をして、彼は僕の手を取った。
じんわりとした熱が伝わり、僕は握り返した。
(´・ω・`)「初めまして、ペニサスの使い魔くん。ショボンだ」
(´・_ゝ・`)「初めまして。お話は伺っていましたが、まさか男性だとは思わず……」
(´・ω・`)「和訳の弊害だね。witchであれば性別関係なく魔法を使う者を指すのに、魔女と訳してしまったから女性しかなれないものだと勘違いされてしまったのだよ」
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131 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 12:45:39 ID:iiVptxPU0
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ショボンはしっかりと結ばれている手を持ち上げた。
(´・ω・`)「それにしても君の手は冷たいな、死んでいるのかね」
(´・_ゝ・`)「ええ、はい」
(´・ω・`)「なるほど」
ぱっと手を離された。
なにがなるほどだったのか僕はわからなかったが、とりあえず頷くことにした。
(´・ω・`)「ところでペニサス」
ショボンは懐から金色の懐中時計を出して、こう言った。
(´・ω・`)「もうすぐ十二時だよ。日付が変わる前に寝なくちゃ」
('、`*川「寝なきゃダメですか?」
(´・ω・`)「ダメだよ、ほら早くお風呂に入って寝る支度して」
('、`*川「お話したかったのに」
(´・ω・`)「今回はしばらくここにいるから、明日でも話はできるよ」
('、`*川「……わかりました」
宥められ、ペニサスはしぶしぶ風呂場へと向かった。
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132 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 12:47:09 ID:iiVptxPU0
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それを見送ったショボンは、再び僕と向き合った。
(´・ω・`)「さて、ええっと君は……」
(´・_ゝ・`)「デミタスです、名乗り遅れて申し訳ないです」
(´・ω・`)「堅苦しくしなくていいよ、デミタス。そういうのは苦手なんだ」
夜更かしは得意なほうかね?とショボンの問いに僕は頷く。
(´・ω・`)「ならよかった。あとで君と話がしたくてね」
ペニサスが眠ったらまたあとで、と言い残して彼は廊下を歩いて行った。
向かった先は、階段の下にある物置部屋だった。
ショボンはループタイを取り、その赤い飾りでサッと鍵穴を撫ぜた。
すると固く結ばれていた紐細工は、開花するように形を変えた。
まるで彼岸花のようだと僕はそれに見惚れていた。
(´・ω・`)「あー、僕の部屋はここだから用事があったらノックしてくれ。黙って開けても僕の部屋には通じないからね」
じゃあ後で、と彼は中へ入って行った。
その僅かな隙間から見えたのは、柔らかな日差しに照らされた庭園であった。
噴水の水しぶきが、美しい虹を描いていた。
(´・_ゝ・`)「…………」
恐ろしいものを見てしまった気分になり、僕は胃が冷えた。
試しにノックをせずに開けるとそこはやはり、ただの物置であった。
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133 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 12:48:18 ID:iiVptxPU0
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居間に戻るとデレとドクオがソファーに座ってくつろいでいた。
僕がやってきたことに気付くと、彼女は可愛らしいマグカップを差し出してきた。
ζ(゚ー゚*ζ「あなたも飲む?」
中身はどうやらカプチーノらしかった。
しかしふんわりとメロンの香りがするのは、何故なんだろうか。
ζ(゚ー゚*ζ「おいしいわよ」
(´・_ゝ・`)「じゃあ、いただきます」
ζ(゚ー゚*ζ「ドクオ、デミタスにコーヒーを」
デレの声とともに、ずずっと液体を啜る音が止んだ。
('A`)「あィ」
テーブルにマグカップを置き、ドクオはよたよたとキッチンへ向かった。
ζ(゚ー゚*ζ「隣に座らない?」
(´・_ゝ・`)「お気遣いなく」
と、僕は断ってベッドに腰掛けた。
詰めれば座れるとはいえ、出会ったばかりの人と並ぶのは気が休まらなかったのだ。
ζ(゚ー゚*ζ「ショボンには会えた?」
(´・_ゝ・`)「ええ、階下の部屋にいますよ」
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134 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 12:50:03 ID:iiVptxPU0
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ζ(゚ー゚*ζ「あの人、考え事したい時にはいつも彼処に篭ってしまうの。あの部屋は彼の好きなものがたくさん詰まっているのよ」
僕はあの綺麗な庭を思い浮かべていた。
この世のものではない美しさ。
白昼夢のような曖昧さとそこにあるという現実感。
まるで彼岸のようでもあった。
なるほど、あそこは彼の理想卿であったのか。
ζ(゚ー゚*ζ「きっとペニサスちゃんのことで悩んでいるんでしょうね」
色のない声で、デレは呟いた。
(´・_ゝ・`)「デレさんは会いに行かないんですか?」
ζ(゚ー゚*ζ「わたしはここで待つわ。ショボンが会いたくなるまでね」
ことりとマグカップがテーブルに置かれる。
かわりに彼女の右手は、自身の黒髪を弄り始めていた。
ζ(゚ー゚*ζ「本音を言えば今すぐにでも会いに行きたいわ。でも彼がそれを望まないなら、わたしも望まないの。彼には幸せでいて欲しいから」
とろりと溶け出しそうなその笑みと声は、毒薬のように感ぜられた。
行き場のない手がそわそわと動き出そうとする。
だから僕はきゅっとしっかり握りしめることにした。
(´・_ゝ・`)「よく、慕っていらっしゃるんですね」
ζ(゚ー゚*ζ「わたしのすべてを受け止めて救ってくれた人だから。俗っぽい恋とは違うのよ、わたしは報われなくてもいいの」
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135 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 12:51:42 ID:iiVptxPU0
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でもね、と彼女は区切る。
陶酔から覚醒するための間を彼女は準備していた。
ζ(゚ー゚*ζ「あの人はお人好しだから、きっとずっと満たされないのでしょうね」
一瞬、毒薬が揺らいだような錯覚。
笑み自体は崩れていないのに、どうしてか僕はそう思った。
と、そこへようやくドクオが戻ってきた。
('A`)「こ、こーヒぃー」
震える手でマグカップが差し出される。
中身が今にも飛び出そうで、僕は慌てて受け取った。
(´・_ゝ・`)「ありがとう、ドクオくん」
('A`)「いヒっ、ヒッ」
奇形じみた笑いとともに、彼は席へともどっていった。
ζ(゚ー゚*ζ「デミタスは赤と白と黄色と緑、どれがいい?」
(´・_ゝ・`)「え? うーん、赤かな」
ζ(゚ー゚*ζ「赤ね」
そう言ってデレはガサゴソと袋を取り出した。
それはマシュマロの袋だった。
苺やメロン、バナナの絵が印刷されたそれは、子供の頃おやつとして食べていた記憶がある。
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136 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 12:53:09 ID:iiVptxPU0
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袋を縛っていた輪ゴムを外し、デレは薄ピンク色のマシュマロをいくつか取り出した。
そして、それを容赦なく僕のコーヒーへと投入した。
(´・_ゝ・`)「えっ、あっ!?」
ζ(゚ー゚*ζ「意外とおいしいのよ、マシュマロ入りのコーヒーって」
コーヒーがどんどんコーヒーでなくなっていく光景を、僕はただただ見つめるより他なかった。
結局マシュマロは十個ほど投入され、僕は何が何だかわからない飲み物を飲むこととなった。
味は普通に美味しかったし、意外とコーヒーと苺の組み合わせはありだとわかった。
が、僕は普通にコーヒーを飲みたかっただけに釈然としない気持ちでとろとろのマシュマロを飲み込んだ。
('、`*川「あ、いいなー」
気付けば、ペニサスが僕の背後から覗き込んでいた。
黒と赤の混じった髪が首筋をそっと撫でるもんだから、僕はくすぐったくなった。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん、髪の毛退けてくれないかな」
('、`*川「あ、ごめん」
それでもなお、ペニサスの視線は、コーヒーへと注がれていた。
甘党な彼女にはきっとたまらなく魅力的に映っているのだろう。
ζ(゚ー゚*ζ「ダメよ、ペニサスちゃん。もう歯磨きしたんでしょ?」
デレの言葉に、ペニサスは不満そうな顔をした。
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137 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 12:54:51 ID:iiVptxPU0
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('、`*川「ずるいですデレさん! わたしも夜更かししたいですー」
ζ(゚ー゚*ζ「ダメったらダーメ。ショボンに嫌われたくないもの」
('、`*川「そんな事言わずに……」
と、ペニサスは大きな欠伸をひとつ生み出した。
よく見ると、目がとろんとしている。
やはり眠いのだろう。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん、ちゃんと眠ったほうがいいよ」
('、`*川「でも……」
(´・_ゝ・`)「今日は色んなことがあったから、きっと疲れているんだよ。たくさん休んだほうがいい」
('、`*川「…………」
ペニサスは返事をしなかった。
その代わりにデレがドクオにこう告げた。
ζ(゚ー゚*ζ「ドクオ、ペニサスちゃんが眠るまで話し相手になってあげて」
('、`*川「えっ」
('A`)「ハ、はいィ」
やおらペニサスの腕を掴むと、ドクオはぐいぐいと歩き出した。
('、`*川「そ、そんなことしなくてもちゃんと寝ますー!」
ζ(゚ー゚*ζ「そう言って前回も夜更かししてたの知ってるんだからねー」
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138 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 12:56:33 ID:iiVptxPU0
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まったくもう、という言葉は果たしてペニサスに届いたかどうかは定かではなかった。
そして彼らと入れ替わりになるように、ショボンがやって来た。
(´・ω・`)「やっと寝た?」
ζ(゚ー゚*ζ「寝かしつけるようにドクオに言ったところよ」
(´・ω・`)「いい手配だねそれは」
デレは顔を綻ばせた。
ショボンはデレの頭をひとしきり撫で、彼女の隣に座った。
ζ(゚ー゚*ζ「コーヒー、飲む?」
(´・ω・`)「じゃあお願いするよ」
デレは頷き、キッチンへと旅立っていった。
その足取りは軽く、よほど褒められたのが嬉しいのだろうと想像するに容易かった。
(´・ω・`)「デミタスもマシュマロを入れられたのか」
僕のマグカップを覗き、ショボンは苦笑した。
(´・_ゝ・`)「断る間も無く入れられましてね」
(´・ω・`)「僕はどうにも好きになれないんだよなぁ、マシュマロ」
ふう、とショボンの溜息で会話は締めくくられた。
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139 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 12:57:52 ID:iiVptxPU0
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ζ(゚ー゚*ζ「お待たせ。ショボンは白いマシュマロがいいんだよね」
嬉々としてデレはマシュマロの袋を取り出した。
ショボンは頷き、ちらりとまだ何も入っていないコーヒーを眺めた。
(´・ω・`)「ありがとうね」
ζ(゚ー゚*ζ「どういたしまして」
(´・_ゝ・`)「…………」
先ほどの会話を思い起こし、もやもやとした気分になった。
どうして彼は、嫌いなものを嫌いと言わないのだろうか。
どうにかマシュマロを溶かそうと、ぐるぐるかき混ぜるショボンを見てそう思っていた。
(´・ω・`)「さてと」
ショボンはコーヒーに口をつけ、テーブルにマグカップを置いた。
やはりマシュマロ入りのそれは、口に合わなかったのだろうか。
(´・ω・`)「君はいつどこで、ペニサスと知り合ったのかな?」
じぃっとショボンは僕を見つめる。
視線は鎖となって僕にしっかりと纏わり付いた。
僕はここ一週間での出来事を洗いざらい話した。
ショボンは時折頷くだけで、一言も喋らなかった。
傍に寄り添うデレもまた同様であった。
(´・ω・`)「使い魔になってなにか困ってることとかはないのかね?」
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140 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 12:59:07 ID:iiVptxPU0
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開口一番に、彼はそう問うた。
(´・_ゝ・`)「ないです」
(´・ω・`)「本当に?」
(´・_ゝ・`)「ええ」
(´・ω・`)「こんな暮らしうんざりだとか生前の環境に戻りたいとか」
(´・_ゝ・`)「特にないですね」
(´・ω・`)「…………」
ショボンは少し思案して、口を開く。
(´・ω・`)「今まで君はこんな世界があるとは知らずに生きてきたわけだろう」
(´・_ゝ・`)「はい」
(´・ω・`)「それがいきなり殺されて死んで魔女だの魔法だの、小説か漫画の中でしか聞かないような世界に連れてこられてしまった」
(´・_ゝ・`)「…………」
(´・ω・`)「ここでは今まで経験と常識は通じず、戸惑うことも多いだろう。僕やデレのように若いうちから知っていれば、順応するのも容易いのだけどね」
(´・_ゝ・`)「つまり使い魔をやめろと?」
歯切れの悪い話に、僕はイライラしていた。
とにかく回りくどかったのだ。
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141 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 13:00:47 ID:iiVptxPU0
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(´・ω・`)「ここにいるよりも君は部長として働いていた方が幸せなんじゃないかって僕は思うんだよ」
(´・_ゝ・`)「なにが幸せかなんて僕の勝手じゃないですかね」
(´・ω・`)「君と、君に関わった人達の記憶を操作したら元の生活に戻れる。なんなら鼓動も血液も付け加えて、死んでいることも忘れさせることだって出来るよ」
(´・_ゝ・`)「そこまでして戻りたいと思う生活でもなかったですよ」
実際そうであった。
たとえ魔法を使ったとしても僕が死んでいることに変わりはない。
それに僕は、ペニサスと緩やかに生活することに慣れてしまった。
洗濯や掃除をして、庭に水を撒き、何が食べたいのかを話し合って買い物をする。
そして時折ペニサスの魔法を見れたのなら、もうそれだけで十分楽しいと僕は思えたのだ。
(´・ω・`)「……畑違いの場所に来たって馴染めやしないよ」
(´・_ゝ・`)「ご心配しなくとも、ペニサスくんは僕に肥料を与えてくれていますよ」
(´・ω・`)「彼女の知識じゃ、君は枯れる」
(´・_ゝ・`)「あなたが魔法を教えれば済むのでは?」
(´・ω・`)「…………」
すう、と息を吸う音が響く。
短く吸ったそれを、ショボンはゆっくりと吐き出した。
まるで頭に上った血の温度を冷ますかのように。
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142 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 13:01:41 ID:iiVptxPU0
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(´・ω・`)「あの子は、だめだ」
(´・_ゝ・`)「なぜ?」
(´・ω・`)「あの子は幼いからね。未熟すぎる」
(´・_ゝ・`)「今はそうかもしれませんが、いずれ変わっていきますよ」
(´・ω・`)「そんなことない」
(´・_ゝ・`)「慕う人がいるなら尚更努力しようとするもんじゃないですか。実際彼女はよく頑張っています」
(´・ω・`)「……あの子は僕を買い被りすぎなんだよ」
ζ(゚ー゚*ζ「ううん、あなたは素晴らしい人よ」
突如として割り込んできたデレに、ショボンは力無く笑った。
(´・ω・`)「そんな、素晴らしいなんて大層な言葉……」
ζ(゚ー゚*ζ「実際わたしは救われたもの。絶望して生きる気力を失ったわたしを、あなたは見つけてくれた」
(´・ω・`)「放っておけなかったからさ」
ζ(゚ー゚*ζ「ほら、優しいじゃない」
(´・ω・`)「君に優しくしようと思ったからね。でも僕は自分のしたいように振る舞っただけだよ。君はそれにあてられて、勝手に救われていったんだ」
ζ(゚ー゚*ζ「でも、」
(´・ω・`)「君だけじゃない。救われたい人は何でもいいからそれに縋って、勝手に救われていくもんなんだよ。僕は何もしていない……」
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143 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 13:03:17 ID:iiVptxPU0
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苦しげに吐き出されたそれに、デレは少し驚いたようだった。
しかしそれでも彼女は言葉を紡ぐ。
ζ(゚ー゚*ζ「……でも、感謝してるわ。あなたがいなかったら、わたしは変われなかった」
(´・ω・`)「…………」
一瞬困ったような顔をして、ショボンは押し黙った。
僕はその姿を見て、なにか矛盾めいたものを感じていた。
ペニサスは彼を、この世の不幸を根絶やしにしようと駆け回る人だと称した。
他人の幸せを誰よりも願っている人だとも。
けれども本当にそうなのだろうか?
彼の考える幸せとは、一体何なのだろうか。
僕はちらりと壁に掛けられた時計を見た。
もうすぐ深夜の二時になろうとしている。
時間を確認した途端、僕の口から欠伸が逃げ出していった。
(´・ω・`)「……今日はお開きにしようか」
(´・_ゝ・`)「そうしてもらえると助かります」
なんせ風呂もまだなのだ。
これから寝る支度をしなければならないと思うと、少し気が滅入った。
ζ(゚ー゚*ζ「ドクオ、まだ二階にいるのかしら」
ふと思い出したように、デレは呟く。
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144 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 13:05:02 ID:iiVptxPU0
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そういえばペニサスが寝付くまでドクオがそばにいるはずなのだ。
彼が帰ってこないということは、つまりペニサスが起きているということになる。
もしかすると、僕たちの会話が気になってこっそり盗み聞きしていたのかもしれない。
そう思うと僕は落ち着かない気分になった。
(´・_ゝ・`)「少し様子を見に行ってきましょうか?」
(´・ω・`)「そうしてもらえるとありがたいね。きっと僕やデレが行けばますます寝なくなるだろうから」
ショボンの言葉に後押しされ、僕は階段へと向かった。
階下から様子を伺うと、二階の廊下の電気は消されていた。
部屋に入ったのは確かなのだろう。
真っ暗闇の中では、この急な階段を使うのは無理だからだ。
どこかほっとした気持ちで、僕は二階の電気をつける。
そしてゆっくりと、足音を立てないように上っていった。
二階は、しぃんと静まり返っていた。
僕は静かに、ゆっくりとペニサスの部屋へ向かう。
扉の前で佇み、僕は耳をすました。
話し声は、聞こえない。
しかしなにやら奇妙な音が聞こえた。
かり、かり。
ぷちん。
…………。
かり、かり。
ぷちん。
…………。
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145 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 13:06:15 ID:iiVptxPU0
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謎の音と静寂は延々と繰り返され、僕は恐ろしくなった。
中で何が行われているのか、想像できなかった。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん?」
恐る恐る僕は呼びかけてみる。
かり、かり。
ぷちん。
…………。
かり、かり。
ぷちん。
…………。
単純な反復は、止まらない。
(´・_ゝ・`)「入るからね」
返事を期待せず、僕は扉に手をかける。
冷えたドアノブの感触は、ペニサスの手を思い起こさせた。
ゆっくりと、ドアノブを回す。
いつもは軽いはずの扉が、開かない。
重いわけではないのだが、粘つくような違和感であった。
きっと僕の勘違いであろう。
僕の手はひどく震えていて、力を入れているんだか入れてないんだか定かではなかったのだ。
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146 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 13:07:29 ID:iiVptxPU0
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(´・_ゝ・`)「っ!」
開けた瞬間、部屋は温かくも冷たい匂いが充満していた。
僕はその匂いを知っていた。
血だ。
車に撥ね飛ばされた時に、嫌という程嗅いだ、死の匂い。
部屋は暗く、唯一の光源は青白い月だけであった。
だから僕はこの景色が現実ではないと思ってしまった。
認めることができなかった。
組み敷かれたペニサスが絶命している様を。
馬乗りになったドクオが、彼女を食べている光景を。
かり、かり、
歯が、骨についた肉をこそげ取る。
ぷちん、
肉が引っ張られ、千切れていった。
ねちゃ、むちゃ、
半開きの口が、肉を咀嚼している。
ごくん、
ペニサスが、飲み込まれていく。
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147 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 13:08:11 ID:iiVptxPU0
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(´・_ゝ・`)「お、まえは……!!」
言葉が漏れ、僕はドクオに飛びかかった。
ドクオは僕に気付かなかったようで、素っ頓狂な声をあげた。
('A`)「ゥ、がェッ……!?」
壁に押さえつけ、首を絞めると彼は口から肉を吐き出した。
激情の任せる儘、僕は手の力を加える。
(´・_ゝ・`)「出せ! 吐き出せ!! お前っ、なんてことを……っ!」
('A`)「ぐルぃィ、グるィい!!」
何が何だかわからないまま、僕は彼を殴った。
殴っても殴っても、僕の胸はどんどん苦しくなっていった。
思考はめちゃくちゃになり、こんがらがった糸玉のようななにかが感情を支配した。
(´ _ゝ `)「出せ! 早く、早く……!!」
('A`)「ヴぁ、あ、がぁ……」
ドクオはろくに口も利けなくなった。
顔がぱんぱんに腫れているからだ。
口から流れている体液は、一体誰のものなのだろうか。
しかしそんなことは、今の僕にとって些末なことであった。
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149 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 13:09:06 ID:iiVptxPU0
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どうにもならないという絶望感が僕を沈めにかかる。
死んだ。
死んでしまった。
ペニサスが、死んだ。
現実がじんわりと僕の脳髄を焼いていく。
全てが急激に色褪せていく。
僕はドクオをチェストに叩きつけ、座り込んだ。
ペニサスの名前だけが、頭の中にぐるぐると廻る。
何度も何度も呼び起こすようなその思考は、僕の理性をしつこく痛めつけた。
もう彼女は話しかけてくれない。
からかってもなんの反応を見せてくれない。
憧れと理想に追いつこうとする素晴らしい気力も、それを諦めない強さも、なにもかもが失われた。
僕は、耐え難い孤独と虚無感に襲われていた。
(´ _ゝ `)「ペニサス」
吐き出すように、名前を呼んだ時だった。
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150 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 13:09:54 ID:iiVptxPU0
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ひた、ひた、
水に濡れた布が震えるような音がした。
ずずり、
と肉の引き摺られる音。
めきっ、ぱきっ、
梢が芽吹くような音の軽さ。
ぱちり、
僕は何の音か分からず、振り向いた。
無惨に切り裂かれた腹に、ゆわゆわとうねる影。
あり得ない方向に捻じ曲げられていた肩が、バネ入りのおもちゃのように撓り飛んだ。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん……?」
全身から聞いたことのない音を響かせ、彼女は元に戻ろうとしていた。
いや、戻りつつあった。
弓なりに背骨を反らせ、ペニサスは自分の体を完成させた。
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151 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 13:11:51 ID:iiVptxPU0
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(´・_ゝ・`)「ペニサス、くん」
恐る恐る僕は近付く。
音を立て、彼女はベッドに倒れた。
何事もなかったような顔で眠っている。
ボロボロの寝間着に身を包み、血塗れのベッドで、すやすやと。
(´・_ゝ・`)「君は……」
一体、なんなんだ、と言えなかった。
言ってしまうと、彼女が人間ではなくなる気がした。
「まったく、ひどい有様だな」
背後から、男の声がした。
ζ( ー *ζ「あぁ、ドクオ……!」
振り返るとデレがドクオに寄り添っていた。ショボンは僕とデレを交互に眺めていた。
(´・ω・`)「まさかこんな事になるとはね」
いかにも面倒くさそうに、ショボンは呟いた。
(´・_ゝ・`)「どういうことですか、これは」
僕の声は震えていた。
怒りからか、動揺からか。
それとも両方なのかもしれない。
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152 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 13:14:31 ID:iiVptxPU0
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(´・ω・`)「君と同じなんだよ」
ショボンが手を挙げる。
その途端に部屋に飛び散った血は、するんと布の隙間に吸い込まれて消えてしまったた。
寝間着の布も互いに繊維を出し合い、結びつき、新品同様に直ってしまった。
(´・ω・`)「ペニサスも、君と同じなんだ」
念押しするように、ショボンは告げた。
その言葉の意味を推し量るのに時間は掛からなかった。
だがその事実を受け入れられず、僕は呆然としていた。
ねえ、ペニサスくん。
呑気な顔で寝てる場合じゃないよ。
君も僕と同じように、死体だったんだってさ。
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153 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 13:15:16 ID:iiVptxPU0
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四は捨てよ 了
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154 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/05/15(金) 13:15:58 ID:iiVptxPU0
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登場人物紹介
(´・_ゝ・`) 盛岡 デミタス
優しさとはその人の為を思うこと
('、`*川 ペニサス
優しさとはその人の助けになること
ζ(゚ー゚*ζ デレ
優しさとはその人の望みに沿うこと
('A`) ドクオ
優しさとは抑圧された望みを叶えること
(´・ω・`) ショボン
優しさとは×××××××××××
マシュマロ入りコーヒー
コーヒー特有の苦味と酸味が薄れ、飲みやすくなる
デレの好きな飲み物で、ショボンの嫌いな飲み物