忌談百刑

第8話 狐の窓を開くということ

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256 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:01:08 ID:kp8J7FH20




――夜の学校って、なんであんなに不気味なんだろうね。





終戦間際に建てられた尋常小学校を、村人たちで細々と修繕しながら使い続けたという村の学校は
ただそこにあるだけで、得も言われない威圧感を放っていた。

全木造の二階建てで、今は一つの教室しか使っていないけど、理科室も図書室も、おおよそ普通の学校にあるものは
全部あるにはあるらしい。

今日の肝試しは、玄関から入り、指定された教室に置かれている、なんかゴムでできたボールか何かを集めて、
もう一度玄関口まで戻ってきたらゴールというありきたりなものだったけど、
その学校自体が、既にお化け屋敷な訳だから、中にお化け役の大人がいようがいまいが、恐怖必至な感じだった。




校庭に集められた子供たちは、まずは、この学校であった怖い話を聞かされるところからスタートする。

やれ、音楽室のベートーベンが瞬きするとか、図書室に呪われた本があるだとか、ありきたりなものだったけど
僕含め、子供たちはそんな話を、半ば本気で、半ば楽しんで、ワーキャー叫び声を上げながら聞いた。




そしてついに校舎に入る段になる。

低学年の子もいるので、一人で入ると、中で泣いて動けなくなる子もいるとの事で、
バランスよく高学年から低学年までを混成した組を作って、その組ごとに回る事になる。



もちろん僕は、ニダ君兄弟と、四人で入ることになった。

257 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:01:39 ID:kp8J7FH20



『黛さんとこのお孫さんだろ? 話は聞いているよ。はい、これ』



中年の丸々太って日に灼けたおばさんは、そんなことを言いながら、僕に提灯を手渡してきた。

提灯と言っても、本当に蝋燭を使うと、木造の校舎だけあって火事などの不安があるのか、
小さな豆電球が、青いセロファンを貼った円筒形の入れ物の中で光っているだけという至極簡素なものだった。
その上には針金が通してあり、持ち手の棒と、糸で繋がっている。



なるほど、敢えて青いセロファンを使うなんて、この村の大人たちも分かっているじゃぁないか。



川 ゚ -゚)「お前は何の評論家なんだ」






『これは、おんが持つ。ボンたちは安心して、おんのあとさついてこ』


そう言ってニダ君は、僕の手から引っ手繰るように提灯を受け取ると、勇み足で校舎の中に入っていった。

ネノ君、ピャー子ちゃん、僕も、その後に続いた。

258 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:02:11 ID:kp8J7FH20

入り口入ってすぐに目の前に、大きな階段がある。

左右は廊下になっていて、窓からは月と星の灯りが十分に入ってきていた。

なるほど、廊下は安全地帯のようだ。思ったよりも暗くなく、恐怖心はそこまでない。

廊下の突き当りには、壁の陰で分かりにくいが、また階段があるらしく、
どうやら真ん中と左右端の計三つの階段で二階に行けるようだった。

僕らは、指定された通り、まずは右の廊下を進み、2番目の"理科室"に入らなければならなかった。

ピャー子ちゃんなんかは、もう膝を震わせていて、なぜかニダ君ではなく、僕の腰にがっつりと捕まっている。

ニダ君ネノ君は、去年も参加しているので比較的に余裕で、去年のようにお化け役が出てきても蹴り飛ばしたりしちゃいけない
みたいな、当たり前のお化け屋敷ルールをお互い復唱しあっていた。




僕らが、理科室の扉に手をかけた瞬間、




『キャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』




耳を劈くような悲鳴が校舎中に響いた。



「ひっ」



全員の口から思わず声が漏れる。

259 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:03:17 ID:kp8J7FH20


――くっそ、忘れていた。

お化け屋敷で本当に怖いのは"他の参加者の悲鳴"なのだ。

どうやらどこか別の部屋で、僕らよりも先に入った子供たちが、しこたまやられたらしい。



僕ら四人は、一瞬で固まってしまったが、すぐに先の結論に至り、
"脅かすなよなぁ"なんて言いながら、理科室に入った。

幾つかの大テーブルの下に、あの真ん丸の座るところから足が数本伸びているというお決まりの椅子が収納してある。
玄関側の壁は薬品棚になっていて、"触るな"の張り紙が、全ての棚に貼られていた。

反対側の壁には、黒板があり、その左には、【理科準備室】と書かれた扉があった。
僕らは、その理科準備室を通って、また廊下に出て、突き当りの階段を上って二階に上がらなければならなかった。



『なんもおらんが。とっとと理科準備室いくべ』


ニダ君は強がっているのか、それとも本当に怖くないのか、大股でずんずんと机の間を通って理科準備室に向かう。
僕らも速足で彼についていった。



彼が僕らに確認することなく、理科準備室の扉を開けると



『こんばんわ』


中から、人体模型が飛び出してきた。



が、その後ろに、人の手が見え隠れしているもんだから、
ピャー子ちゃんですら驚かなかった。

260 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:03:53 ID:kp8J7FH20


『おんじ、腕、みえとうよ』


ネノ君がそういうと、ばつの悪そうな顔が、壁からひょっこりと顔を出した。

人の好さそうな禿げ上がった頭の中年男性が、頭の後ろを掻きながら、

『ちょっとは驚いてくれんか、可愛げないぞ』

なんていいながら、手招きをしてきた。

どうやら、準備室を通してくれるらしい。



全員でニヤニヤしながら準備室に入る。













――そこには、誰も居なかった。

ただ、人体模型だけが、部屋のど真ん中にデンと置かれていて、
さっきのおじさんはいなくなっている。

261 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:05:07 ID:kp8J7FH20

嘘だろ? あの一瞬で消えるのか?
僕は一気に鳥肌が立った。



ニダ君もネノ君も固まってしまっている。



この狭い理科準備室に隠れるところなんてどこにもない。
小さい机の下にも、棚の隙間にも、当然いるわけがない。

何故だ、どういうことだ。心臓が高鳴る。

何処かに秘密の抜け道があって、そこに隠れたのか?



嘘だ、こんなのありえn
















『ばぁああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!』


「うわぁあぁああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?!!??!?」

262 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:05:55 ID:kp8J7FH20


背後から聞こえた大声に、僕は思わずひっくり返ってしまった。
天井から見下ろす形で、ニダ君と、ネノ君と、さっきのおじさんがニヤけ顔で僕の顔を眺めている。


『ボン、おまえ"キャァ"ゆうとったぞ、女け』

『ボン兄、だっさぃのぉ〜』

『はっはっは、田舎の農作業で鍛えられた駿足を舐めちゃいけんよ。ダッシュで準備室を飛び出て、また理科室から入らせてもらっとうよ』

『おんらは、去年くらっとうもんな〜』

『なぁ〜』


実にくだらない、トリックも糞も無い肉体による脅かしにまんまと引っかかった僕は、
なんだかすごく笑けてきて、結局おじさん含めた五人で大笑いしたよ。




その後も、田舎のジジババの身体機能をフルに活用した縦横無尽の脅かしに、

時には本気で驚いて、時にはむしろその天井の隅に張り付ける筋肉がどうかしてるぜって別の角度から驚いて、

怖いながらも、かなり楽しんでいる自分を感じていた。





最後に、二階の廊下の端の階段から降りて、玄関口まで行けばゴールだったんだ。

263 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:06:53 ID:kp8J7FH20



だけど、そこでちょっとした事故があった。



僕はまた、ニダ君兄弟の後ろを歩いていた。

なんとなく、仲の良い彼らの掛け合いを見ているのが好きだったからだ。
結局最後はしっかり者の長男と、その周りをうろちょろして怒られる弟、
甘えん坊の妹は、いつもお兄ちゃんにべったりで。

なんかそんな雰囲気があるって事を間近に感じる機会なんて今まで一度も無かったから、
凄く新鮮で、愛おしく感じたんだ。

でも、そんな時に、自分の足元が、がくんっ! と下がるのを感じた。


え――って声を上げる間も無く、あっと言う間に、僕の立っていた廊下が崩れたんだ。




やべっ! 落ちるっ!



『ボンッ!!』



反射的に伸ばした僕の腕に、ニダ君が飛びつく。

でもあと少し間に合わなくて、僕は階下に落下した。


その時、本当に偶然、僕が背負っていたリュックサックが、崩れた廊下の一部に引っかかって、一瞬だけ宙に浮くような格好になった。
でも、結局その床板も折れて、僕は軽く尻もちをつく格好で着地したんだ。



そんな感じだったから怪我は無かったんだけど、思ったよりも轟音だったらしくて
二階からニダ君たちは飛んでくるし、玄関口からは大人たちがぞろぞろ入ってくるし、
僕が尻をさすっている間に、大勢に囲まれる格好になってしまったんだよね。

264 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:07:56 ID:kp8J7FH20




『大丈夫かッ!? ボン』

「う、うん、怪我とかは全然ないし、痛くも無いよ」

『ほれ、掴まれ』



そういって、僕の手を掴んで、ニダ君は起こしてくれた。

大人たちも、校舎の老朽化を遠回しに言い訳にしながら僕に謝ってきたけど、
むしろ廊下をぶっ壊した僕の方が罪悪感が凄かったので、全然大丈夫なんでッ! なんていつも以上に大きな声で
愛想と元気を振りまくのに苦労したよ。




その間、ニダ君が、提灯の光で青く染まっている、自分の手を見つめていた事だけ気になった。

265 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:08:35 ID:kp8J7FH20





――帰り道。



結局夜9時を回ってお開きになった肝試しの感想を述べながら、
また眠ってしまったピャー子ちゃんを背負うニダ君の後ろを、僕はついていく。


満天の星空ってやつが頭上を染め上げて、夜道でも十分な程明るかったのを覚えているよ。

僕は、明日明後日には母さんと父さんもこっちに来るから、その時は新しく田舎に出来た友達を紹介したい
なんて言いながら、その時には、何か好きなものを作ってもらえるようにお願いするよ、と彼らに言ってみたりした。

そこからは、ニダ君と、ネノ君が、漫才の掛け合いみたいにお互いの好きな食べ物をけなし合うものだから
また可笑しくなって、僕は夜空いっぱいに広がるように、笑った。




それと同時に、かれらと出会った日の事を思い出す。
あの日は、時間帯は違ったけど、今日と同じように、彼らの後ろをついていったんだっけ。


あの日は、夕焼けがその兄弟愛を美しく照らしていて、だから僕は、"画角を決める"なんていう、普段は絶対やらない
デザイナーの真似事みたいな事をしたくなったんだ。


今日は、夕焼けの代わりに満月が彼らを照らす。鮮やかな光の濃淡が、夜を黒じゃなくて、藍に見せる。



これもまた、風流ですな、なんてワザと大人っぽい言葉を使って、僕はもう一度"狐の窓"で画角を決めた。





そして、その小さな"ファインダー"に顔を近づける――

266 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:09:07 ID:kp8J7FH20



『やめろォッ!!!!!!』





瞬間、振り返ったニダ君が怒号を上げる。





でも、ぼくは、


それよりも


早く、






"窓"を







覗いてしまった。

267 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:09:45 ID:kp8J7FH20





――狐だった。





人間のように、二足歩行をした狐が、二足歩行した小さい狐を連れて、背中には、寝息を立てる狐を背負って、


そこにいた。



僕は、僕からは、言葉を出せなかった。




頭の中は、白黒に明滅するテレビの砂嵐のように、判然としない思考のうねりだけがあった。


そのテレビ画面に、まるで溺れている人が、浮かんで、また沈むみたいに、


"なんで"、"だってあの日は"、"ホントに狐?"、"立ってるやん"なんて言葉が映った。




ニダ君――、いや、一番のっぽの狐は、その鋭い目玉をぎょろりとさせてこちらを睨んでいるんだけど
すぐに、泣きそうな顔になった。動物の顔なのに、これ以上の無い泣き顔って感じで。



それから、ぽつりぽつりと、口を開いた。

268 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:10:21 ID:kp8J7FH20



『わぁは、"狐の窓"のホントの開き方を知らんのじゃ』



「――え?」



『"狐の窓"っちゅーんは、ただ手ぇをその形にしてもいけんのじゃ』



『指先に、"桔梗"ん蒼い花の汁をつけてんと、いけんのじゃ』







僕は、ゆっくり指先を見た。




僕の指先は、薄い蒼が、こびり付いている。





――なんで。

269 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:10:50 ID:kp8J7FH20




言う前に、答えが分かってしまった。



僕は、自分のお尻のポケットから、くしゃくしゃに丸まったハンカチを取り出した。



その中には、あの日摘み取った、あの、星形の華が、すり潰されたようになって収まっていた。





あの時、僕が、二階から落ちた時に、お尻をさすった時に――。


だから、ニダ君は、自分の手を見つめたんだ。


あれは、セロファンを貼った提灯の光じゃなくて、



僕の手についた、桔梗の汁で、青く染まっていたんだ。




.

270 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:11:30 ID:kp8J7FH20



『すまんの、ボン』



ニダ君は、今までで一番優しい声で、僕の名前を呼ぶ。



『おんらは、人様に見つかったらおしまいじゃぁ』



今までで一番悲しい声で。



『今日でおんらは山にもどるけぇ』




今までで一番――。









「僕はッ!!」







だから、叫んでいた。



.

271 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:12:12 ID:kp8J7FH20

何でそんな事言うんだよ。僕を怒ればいいじゃないか。


こんな花を摘んで、あまつさえ狐の窓で覗いて。

君たちは何か悪い事をしたのか? 村の人からも好かれていたじゃないか。





僕が



この村に入ってきた"異端"が、この村の一つのピースをひっくり返して。



そうやって、壊してしまって。




「僕はッ! 誰にも言わないッ! それに、どうせひと夏で帰るんだッ!!」


「大丈夫なんだッ! 君たちはこの村にいて大丈夫なんだッ!」


「悪いのは僕なんだからッ! だから、大丈夫だってッ!」




分かっている。僕は"僕自身"に言い聞かせている。


言葉を途切れさせないように。




途切れたら、きっと――。

272 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:12:34 ID:kp8J7FH20



「大丈夫なんだ。悪いのは僕だから、君たちは、普通に、人として暮らしていくべきなんだ」



「大丈夫なんだ。僕がいなくなれば平気なんだ。僕みたいな奴がこんな村に来たのが悪いんだ」



「大丈夫なんだ。僕が消えるから。僕が忘れるから。僕は自分の喉を切り裂いてもいい。喋れなくなってもいい」



「誰にも言わないから。だから山に戻るなんて言うなよ。大丈夫だから」



「なんだったら、僕を殺せばいい。喰い殺して、骨は川底に沈めて、そうやって明日もこの村で生きていこうよ」



「大丈夫なんだよ。僕が、全て、何もかも、悪いんだから。もう、そういうのは、ホント、大丈夫――」


.

273 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:13:02 ID:kp8J7FH20








             『ボンッ!』







.

274 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:13:42 ID:kp8J7FH20

ニダ君が、大きく"鳴いた"。

闇に響くそれは、まさしく獣の声で。




そもそも狐が、昔の人から"不気味"だと思われていたのは、その鳴き声にあるという。

闇の奥底から聞こえる、澄んだ遠吠えは、二つ先の山まで聞こえた。
そして、その山からも、また狐のコーン、コーンという遠吠えが聞こえてくる。

何時しか人は、そうやって狐が、狐同士の、人間の分からない言語で、意思疎通を図っていると考えるようになった。

そして、その獣らしからぬ"知性"は、やがて、人を騙す、人を騙すという"性質"に形を変え、


彼らを恐れるようになったのだと――。







ニダ君の声が、全部、天に瞬く星々に吸い込まれて、

熱気を孕んだ闇の夜風が、彼らの金色の体毛をさらさらと揺らして、

僕は思わず泣きそうになって、

だから僕は下唇を噛んで、

ポケットに手を突っ込んだまま、限界まで首をすくめて、




下を向いて。

275 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:14:15 ID:kp8J7FH20





『楽しかったで、ボン』





その言葉に、僕が急いで顔を上げると、
もうそこには三人ともいなくて。




だから僕は、




もう泣き顔を見られる心配もないのだと、



でも、出来るなら、泣きたくないのだけれど、



それでも、そうだな、月が綺麗だったから、








ちょっとだけ泣いてから帰ろうと思った。

276 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:14:54 ID:kp8J7FH20



――次の日。






昨晩涙目で帰ってきた僕だったが、祖父母は、『そんなに肝試し怖かったの?』なんて笑い顔で出迎えてくれた。
むしろその勘違いの方がありがたかったので、僕は"本当に怖かったんだから〜"なんて嘯いて、すぐに床に就いた。

朝が来て、今日もお祖母ちゃんお手製の朝ごはんを食べていると、

玄関の方から、男の人の声がした。

緊迫している声だった。





そして、数秒声が止んだと思うと、警官服を着た男たちが数人雪崩れ込んできた。




『居ましたッ! 写真の少年ですッ!』

『大丈夫か君ッ!』



僕は驚いて、口の中に箸を突っ込んだまま、きょとんとしていた。




『なんてものをッ!』




そういいながら、一番屈強な警官が、机の上のおばあちゃんの料理を、全部蹴り飛ばした。

277 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:15:30 ID:kp8J7FH20


『なにをするッ!』



お爺ちゃんとお婆ちゃんは、その年から考えられないようなスピードで、警官の喉元に喰らい付こうとしたんだけど、
警棒で打ちのめされて、すぐに床に倒れ伏した。


お爺ちゃんとお婆ちゃんは、二人とも頚椎が折れてしまったのか、
口の端からごぼごぼと血の泡を吐き出して、失神してしまった。



いや、死んだのかもしれない。



『なんだコイツらはッ!?』



『少年ッ! 確保しましたッ!』



いつの間にか僕は抱きかかえられて、家の外に引きずり出されて、
家の中にまだリュックサックがあったから、「あの……リュックが……」なんて言ったりしてみたんだけど、
問答無用でパトカーに詰め込まれた。


僕は後部座席の真ん中に座らされて、両脇を、警官に固められてしまった。
助手席の警官は、バインダーに挟まった何かの資料と、僕の顔を交互に見ながら、



『行方不明の少年で、間違いありません』



と言った。

278 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:16:00 ID:kp8J7FH20









       ナニヲ イッテイルンダ コイツラ ハ ?






.

279 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:16:35 ID:kp8J7FH20

僕は、暴れることは得策ではないと考え、でも、あの家の床に倒れたお爺ちゃんとお婆ちゃんが心配になって、
車のバックガラスの方に向き直って、段々と遠ざかる、村を見た。



その時、自身の指先が、未だ青く染まっている事に気づき、






ああ、今思えば、よせばいいのに

昨晩も、それで、"失敗"したくせに








また、"狐の窓"で







村を、覗いたんだ。

280 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:17:02 ID:kp8J7FH20






――廃村だった。




幾つかの朽ち果てたあばら家と、もう何年も米なんて作っていない、荒れ果てた田んぼだけが
山から吐き出される吐瀉物のように広がっていた。



人間の気配どころか、マトモな生き物の気配すら希薄な、薄ら寂しい、ゆっくりと死んでいってる最中の場所。




それが、"狐の窓"から見えた。





反射的に、僕は、あの日祖父母と話したことを思い出す。

281 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:17:55 ID:kp8J7FH20



***********************************************************************




「でも、狐さんって普段は何を食べているの? 流石にお米は食べないでしょ?」


『基本は野山の小動物、ねずみとか、うさぎとか』


『あとは虫なんかを食べてるの、おばあちゃん見たことあるねぇ』




***********************************************************************





.

282 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:19:38 ID:kp8J7FH20






                          ソウカ―― 




          ネズミ トカ ウサギ トカ ムシ ナンカ ヲ タベテ イルノカ。








.

283 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:20:09 ID:kp8J7FH20



僕は自分の口の中に指を突っ込んだ。


そのまま胃の中まで手が届くんじゃないかと思うほど、自分自身をねじり込む。




早急に掻き出さねばならない。一刻も早く。



手首まで飲み込んだ僕を見て、警官たちは僕が発狂したと思って力づくで取り押さえる。



いや、発狂していたんだけど。








僕の指先が、喉の奥の、さらに訳の分からない穴に触れた時、ついに僕は、嘔吐することに成功した。








後部座席いっぱいにぶちまけられた僕の反吐の中に浮いていたのは――。

284 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:21:06 ID:kp8J7FH20










カブトムシの頭。未だ蠢く、半分のムカデ。それから、溶けかかった鼠の頭部――。
















【狐の窓を開くということ 了】

285 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:22:16 ID:kp8J7FH20
【幕間】



(゚A゚)「騙したなぁあああああああああああッ!!! よくも騙してくれたなぁあああああああああああッ!!!」

(´^ω^`)「なにがぁ?(笑)」

ξ゚听)ξ「言っとくけど、私たち、軽くアンタの事嫌いになりかけてるからね」

(´^ω^`)「ひっど〜い(核爆)」

川 ゚ -゚)「途中まで、なんかいい感じの青春ストーリーだったのにな」

( ^ω^)「最後の最後でゲロ塗りたくっていったお」

ξ゚听)ξ「でもまぁ、二段オチは嫌いじゃないから、許したげる」

(´・ω・`)「このショボン様の話が、あれで終わるはずなかろうなのだよ」

川 ゚ -゚)「これからショボの話を聞く時は、身構えておこう」

(´^ω^`)「そういう邪推しない方が楽しめるよぉ〜」

('A`) 「くっそ殴りてぇ」

ξ゚听)ξ「まぁ、"刑務官"殿の反応次第ね」

(´^ω^`)「ささ、次いきやしょうぜっ! へへっ!」

( ^ω^)「キャラが……もう……」

ξ゚听)ξ「次は私が行くわ」

川 ゚ -゚)「"題"は>>290でいいか」

('A`) 「じゃあ二周目のトリは俺かぁ。今から準備しとこ」

(´・ω・`)「"題"分からないんだから、無駄でしょ?」

('A`) 「うぐぅ」



ξ゚听)ξ「さぁ、次の"解"を求めましょう」


286 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:23:12 ID:kp8J7FH20








( ^ω^)「ちょぉ〜っと待ったぁ〜っ!」

ξ゚听)ξ「え、ちょ、何急に。せっかく定着しかかってた私の決め台詞の邪魔しないでよ」

( −ω−)「お前ら、ついに、この牢屋に」



(  ゚ω゚)「差し入れが届いたんだおっ!!」カッ



(´・ω・`)「マジぃッ!?」

(*'A`) 「やったぁああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」



( ^ω^)「>>232の"刑務官"殿からの差し入れだお」


232 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/07/14(金) 21:38:54 ID:O96SfaZ20
どの話も滅茶苦茶怖いのに読まずにはいられない
6話が今のとこ一番ウッと来たので絵を描いてみました 応援してます
微グロ?注意




(´・ω・`)「ありがてぇ、ありがてぇ」



川 ゚ -゚)「うむ、ムショにぶち込まれたヤクザが、後輩にジャンプ差し入れてもらうみたいな、そういうキュンキュンした気持ちになるな」



( ^ω^)「そんなものと一緒にすんなおッ!」

( ^ω^)「僕らは、"刑務官"殿の、"感詰≪カンヅメ≫"と差し入れで辛うじて生きているんだおッ!」



( ^ω^)「それがないと、とうに僕らは死んでいるんだお」

288 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:23:45 ID:kp8J7FH20
('A`) 「俺は、自分の制服のベルトで首吊ってるな」

ξ゚听)ξ「私は舌噛み千切って逝くわ」

川 ゚ -゚)「じゃあ私は、壁に頭叩きつけて死ぬ」

(´・ω・`)「なにこの、アグレッシヴ自殺選手権……」



( ^ω^)「ともかく、僕たちは"刑務官"殿の御慈悲で生かされてるに過ぎないんだお」

川 ゚ -゚)「ちゃんと感謝の念を持たないとな」



(*^ω^)「という訳で、>>232の"刑務官"殿。素晴らしい差し入れをありがとうなんだおっ!」



ξ゚听)ξ「この差し入れは、牢屋の壁に貼り付けさせてもらうわ」

('A`) 「んで、その裏に、脱走用のトンネルを――」

ξ゚听)ξ「掘らないわよ」




(´・ω・`)「この世界で、"脱走"は即極刑だよ」

289 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/14(金) 23:24:23 ID:kp8J7FH20

( ^ω^)「でも、この絵画、グロテスクなのに妙に可愛いんだお」

(´・ω・`)「……大体さ、こういう差し入れのピンナップってさ、男性囚人の性欲処理に利用されるらしいよ」

ξ゚听)ξ「……ふぅ〜ん」

('A`) 「……そこで俺を見る理由が分からない」

ξ゚听)ξ「アンタ今日から、部屋の隅っこで寝てね」

(;'A`) 「あんまりだッ!」




( ^ω^)「という訳で"刑務官"殿、今日もしっかりと"お勤め"するので、どうか生暖かい目で見守ってほしいんだお」

('A`) 「"題"ズレたから>>295に設定し直すぞ」

川 ゚ -゚)「了解だ」

ξ゚听)ξ「では、改めて」



ξ゚听)ξ「さぁ、次の"解"を求めましょう」

295 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/07/15(土) 00:19:40 ID:IkaozAwU0
のど飴

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