忌談百刑

第3話 ポータブル・ミューティレィション

48 名前:語り部 ◆B9UIodRsAE[] 投稿日:2017/07/11(火) 19:54:45 ID:gGrCXBbQ0

【第3話 ポータブル・ミューティレィション】

"(´・ω・`)"










最近目っきり熱くなってきましたが、
この"めっきり"ってぇのは、語源が色々ありましてね。

"目を切る"なんて、区切りを付ける意味合いから、
枝を"めっきり"折り取ったように変わり目なく季節が移ろう様を――



('A`) 「え、お前もしかして落語始めようとしてる?」




――話はやっぱり枕が必要だと思って。





('A`) 「お前妙なところで落研≪オチケン≫所属の要素出すなよ」

49 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/11(火) 19:55:21 ID:gGrCXBbQ0


――じゃあ、普通に始めます。



ξ゚听)ξ「この状況で余裕ね、アンタ」







――みんな3年前くらい前に流行った携帯ゲーム知ってるかな。

wi-fiで通信が出来て、4人一組でモンスターを捕まえたり、育てたりするゲーム。



( ^ω^)「僕も好きだったお」



まぁ、僕とブーンとドクオなんかは、三人でよくプレイしてたからね。

でも、僕のハマり方は、自分でもちょっと異常だったと思うよ。



二人以外にも、そのゲームの掲示板にコテハン付きで書き込んで、
ネット上の顔も知らない人たちと連日連夜プレイし続けたんだ。

50 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/11(火) 19:55:56 ID:gGrCXBbQ0




――その日は、熱帯夜だったんだ。


明日も学校なのに、なかなか寝付けなくて、思わずゲーム機を起動させてしまった。
その勢いで、いつもの掲示板に、自分の作った部屋の名前と、"合言葉"を書き込んで。



"合言葉"って言うのは、それを入力しないと、僕が作った部屋に入れないようにする、
まぁ、キーワードみたいなものだよ。


深夜だっていうのに、僕みたいなやつは結構いて、その日もお馴染みになってきたメンバーと狩りに出かけたよ。


何回目かのクエストが終わって、"ホーム"っていう、お店とか、そういうのが集まっている場所に帰還したんだけど、
そこに、あり得ないものがいたんだ。








――5人目のプレイヤーが。

51 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/11(火) 19:57:06 ID:gGrCXBbQ0
このゲームは、四人一組で、それ以上のプレイヤーは入室できない仕組みになっている。
つまり、"ホーム"に五人が存在することはあり得ないんだ。

そいつの見た目も異様で、全身真っ黒だったんだ。

勿論ただの真っ黒じゃない。本当の黒、漆黒、暗闇、黒穴、そんな感じ。

確かに、アバターの設定上、全身を黒くすることは可能だ。

このゲームは海外展開もされてるから、黒人みたいなキャラも作れる。
スキンカラーの設定も"RBG値"を全部最低値にすれば、黒人もびっくりのまっくろくろすけの完成だ。

でもね、そういう"ネタキャラ"は今まで見たことも、自分で試したこともあった。
例え"RBG値"を最低値にしても、肌の光沢とか、白目とか、そういう部分は人間らしく残って、
本当に闇に染まることは不可能なはずだった。



でも、ソイツは、本当に真っ黒で。



単純に、僕の携帯ゲーム機の画面が、人型に"ドット欠け"を引き起こしているような、そんな感じだ。



【おまんまん仮面:何コイツ……】

パーティの一人がチャットにそう書き込んだ。



ξ゚听)ξ「そいつの名前なんなのよ……」



――いや、だってホントにそういう名前だったんだもん。



川 ゚ -゚)「ちょっと変えてもらえないか?」



えー? じゃあ……

52 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/11(火) 19:57:58 ID:gGrCXBbQ0

【ジョン:何コイツ……】


ジョンがそう書き込んだのを皮切りに、みんなが一斉にソイツに罵詈雑言を浴びせた。
元々ネットに入り浸っているような人たちだから、ネット人格はいたって最低だったんだよね。

僕も、ホストとして、何度も"キック"――まぁ、追い出そうとしたんだけど、どうしてもゲームが反応しなかった。



【ショボ:ごめ、なんかコイツ、キックできねぇ】



まずみんなが疑ったのは、"チーター"だった。

つまりは外部PCからゲーム内データを弄って、こんな悪戯をしているって事。

肌の色を真っ黒にして、本来四人しか入れない空間に無理やり体をねじ込んで、
そしてだんまりを決め込んだまま、不気味に立ちすくむ。


たちの悪い"ネットロア"にでもなったつもりで、そういうジョークをかましているんだとね。


でも、その後すぐ、ソイツからチャットが飛んできた。



【うちゅーじん:こんにちわ、みなさん】



――馬鹿にしてると思った。

名前もさることながら、エモートで、至極丁寧な土下座をかましてきたんだ。

53 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/11(火) 19:58:43 ID:gGrCXBbQ0

【キャサリン:きっしょ】


そう言って僕の部屋から一人退室した。



【うちゅーじん:我々は対話を望みます】



ソイツがチャットを送ってくるたびに、後の二人も気味悪がってみんな消えてしまった。
結局その部屋には、僕と、うちゅーじんを名乗る、真っ黒の人型だけが残った。



――なぜだろうね。僕は興味を持ってしまったんだ。



コイツが悪戯チーターだとしたら、どこまで設定を練っているのかとか、そんな事を試してやろうと思ったんだ。



【ショボ:どうやってこの部屋に入れたの?】

【うちゅーじん:我々は入れる】

【ショボ:なにか話したいことがあるの?】

【うちゅーじん:我々は対話を望んでいる】



どこか要領を得ないような、言葉を覚えたての舌ッ足らずみたいな言い回しが、
妙にリアルであって、その分だけチープに思えて、思わず口角が上がったよ。



その後もいくつか質問を繰り返した。

54 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/11(火) 19:59:59 ID:gGrCXBbQ0
結構深く設定が練ってあって驚いた。

ソイツが言うには、"我々"というのは、太陽系から65.3光年離れたプレアデスとヒアデスの渦の中に混在する、
アルデバランに住む、知性体だというんだ。

自身の住まう星が、"天敵"に滅ぼされたから、"概念船"っていうのに乗って、地球までやってきたらしいんだ。
今は、ラグランジュ点の木星トロヤ群に紛れた約一万の概念船に、60億の知性体が、順繰りに地球への着陸を待っているらしい。



( ^ω^)「60億ぅ? そんなに降りてきたら地球と戦争になりそうだお」



――ならないんだよ。



"我々"は、人に成り代わることが出来るんだ。

まるで靴下でも脱ぐみたいに、人間の"ガワ"だけをつるんと剥がして、それを着込むんだって。
血の一滴すら出さず、須臾ほどの時間でそれは完遂するらしい。

後に残った"中身"は、"我々"が綺麗に平らげる。そうして、その人間の知識を得て、人間社会に溶け込むのだという。
決して武力や、軍力で征服なんてしない。厳粛に、静謐に、幽玄に、"我々"は人間の中にゆっくりと、だが確実に浸透していく。

それはまるで、白いカーペットにコーヒーを零した時の染みのように、声一つ上げずにじんわりと広がっていく。

街の曲がり角に"我々"はいる。満員電車のドアの付近に"我々"はいる。学校の教室の窓際の席に"我々"はいる。

既に、街は、"我々"に覆われて、しゃぶられて、溶かされて、主体と客体が逆転して、
もはや、この星は、人間にとっての"異邦"であるという。



('A`) 「それって、もう、そのうちゅーじんの方が、人間よりも多くなってるって事か?」






"我々"が言うにはね。

55 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/11(火) 20:00:37 ID:gGrCXBbQ0

もう、地球上の7/10は成り代わられていて、そして、未だに気付いていないのだと。

人間は、なすすべなく、最後の1人まですっかり食い尽くされて、いずれ消滅するのだと。

でも、それでも街は、今までと何の変りもなく回り、やがて"我々"は異星人だという事を忘れ、
地球人として暮らしていく。



いや、既に地球人は、そうやって何度も、何度も、何度も、異星人に入れ替われられては、
他の異星人に犯され、消され、またそれを繰り返す。


もうすでにこの地球に、純粋な"地球人"なんて一人も居ないんだ。
今の僕らは、僕らの概念で言えば"58代目"にあたるらしい。



――だから、怖がることは、なにもないのだと。



ただ、宇宙の、純粋な摂理に乗っ取って、まるで肉体の新陳代謝のように、

古い細胞が垢となって、塵となって、この世の何処かに消えていくのを誰も気にしない様に

地球は、宇宙は、そうやって、日々、入れ替わっていく。

56 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/11(火) 20:01:42 ID:gGrCXBbQ0




――やけに、嫌な設定だと思ったよ。憤りすら感じた。



くだらない妄執が肥大化しすぎた精神病患者の話を長々聞かされている。

僕はもう、そんなうんざりした気分が、カップいっぱい、表面張力みたいに盛り上がってきていた。



【ショボ:どっかの小説から引っ張ってきたような話乙】

【うちゅーじん:信じてはくれないのか?】

【ショボ:キ○ガイは早く黄色い救急車に乗ってねヽ(^。^)ノ】



そんな風に、思う存分煽ったら、携帯ゲーム機を枕の裏にでも放って、
もう寝てしまおうと思った。



【うちゅーじん:では、また明日、会おうね】



最後にそうチャット送信してきて、"我々"の方が、僕の部屋から消えた。

57 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/11(火) 20:02:39 ID:gGrCXBbQ0

――次の日、僕はいつものように携帯ゲーム機を通学カバンの底に忍ばせて、登校した。



クーさん以外は知っての通り、僕は電車で通学していたから、幾つかの駅を通過して、学校を目指した。

すると、携帯ゲーム機から、"すれ違い通信"の通知音がした。

昨日の内に切っておくのを忘れたのだろう。もし学校で鳴ったりしたら大変だ。
僕は、満員電車というにはまだ隙間のある空間で、鞄の底を弄り、携帯ゲーム機を取り出した。




【[お知らせ]フレンド申請が届いてます!:287件】 ピコーン







――は?

287件? 何の冗談だ?

まだまだ僕らの間では流行っていたけど、既に旬を過ぎたゲームだ。
いや、発売当初ですら、すれ違いのフレンド申請なんて、この地方都市では30件がせいぜいだったはずだ。



僕の耳には、既に電車の騒音なんて届いちゃいなかった。


肩甲骨の間から、尾てい骨まで、冷たい汗が一筋流れた。


恐る恐る、通知を開いて、僕は、戦慄した。

58 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/11(火) 20:03:57 ID:gGrCXBbQ0

【[u3uq0088]うちゅーじん:おはよう、ショボ】



     【[ojnas8773]うちゅーじん:おはよう、ショボ】    【[mkd38iu3]うちゅーじん:おはよう、ショボ】


               【[mdi8dal3j]うちゅーじん:おはよう、ショボ】


                                 【[mdsuwb3]うちゅーじん:おはよう、ショボ】



             【[kan28din]うちゅーじん:おはよう、ショボ】



                         【[jn3hd82k]うちゅーじん:おはよう、ショボ】


  【[kdd7qi22]うちゅーじん:おはよう、ショボ】


        【[heb27d92]うちゅーじん:おはよう、ショボ】        【[kaaod93n]うちゅーじん:おはよう、ショボ】


                      【[ovnvrg475]うちゅーじん:おはよう、ショボ】

【[hrnfgw634]うちゅーじん:おはよう、ショボ】



         【[mbti3842]うちゅーじん:おはよう、ショボ】        【[bevdyx63]うちゅーじん:おはよう、ショボ】


                       【[muntt384]うちゅーじん:おはよう、ショボ】


 【[bagxyw39]うちゅーじん:おはよう、ショボ】              【[jdxhwu44]うちゅーじん:おはよう、ショボ】

59 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/11(火) 20:04:56 ID:gGrCXBbQ0

「ひぃっ!」



僕は思わず持っていたゲーム機を落としてしまった。

慌てて拾い上げて、もう一度画面に目をやる。


延々と、同じメッセージで埋め尽くされた画面。


何が恐ろしいって、ゲーム機固有に設定されている"ID"が全て違う事だ。

同じ人間から、何通もメッセージが入っている訳では無い。
違うゲーム機から、同じ名前、同じメッセージで、何百通と、僕のゲーム機目掛けて、送信されている。

もちろん、一人の人間が、トランクいっぱいにそのゲーム機を詰めて、僕の後ろをずっとついてきているのであれば
こういう悪戯は可能かもしれない。



でも、それでも、





――いまなお増え続ける、フレンド申請が500件を超え始めた辺りで。




僕は、電車を飛び降りた。

60 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/11(火) 20:05:35 ID:gGrCXBbQ0

まだ自宅の最寄駅から、2駅しか移動していなかった。


搭乗口から飛び出て、今から会社に、学校に向かうだろう人波を掻き分けて、
改札口を飛び越えて、駅員の制止も聞かずに、僕は一目散に駆けだした。



ピコーン、ピコーン



まだ切ってなかった、すれ違い通信の通知音が、鞄からずっと、鳴っている。

人にぶつかった。睨まれた。



――本当に睨まれたのか? 笑ってなかったか?



待ちゆく人が、此方を見る、見ている。


これは僕が、汗と涎と涙を垂らしながら、それでもなお走っているからなの?


それとも、"我々"が、僕を観測しているの?

61 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/11(火) 20:06:26 ID:gGrCXBbQ0


「母さんっ!!」



家に飛び込んだ。

何故かとても、母さんに会いたかった。甘えたかった。

不思議な気持ちだった。自分はマザコンでは無いと思う。
でも、猛烈な庇護を求める気持ちが、魂のそこから湧き上がっていた。

小さい、それこそまだ幼稚園に入る前のように、
母さんの布団にこっそり潜り込んで、猫のように丸まって、そうすると母さんは僕を包み込むように抱えてくれて

そうやって、全ての恐怖から僕を守ってくれて。

もう、それしか縋るものなんて無いように。




母さんは、取り込んだ父さんのワイシャツに、アイロンをかけていた。

僕はこの匂いが好きだった。

アイロンから発せられる蒸気と、薄くシャツを焦がすような香ばしいにおいが混ざり合った、そういうやつ。

それが、部屋に充満していた。

心の表面を嵐の日の波のように荒々しく覆っていたさざめきが、すぅと落ち着いていくのが分かった。
膝から力が抜けていく。すとんと、フローリングにへたり込んでしまった。



母さんは振り返らない。気付いていないのか?



しゅぅう、というアイロンが蒸気を吐き出す音と、僕の未だ荒い呼吸音に境目が無くなっていく。

62 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/11(火) 20:07:29 ID:gGrCXBbQ0

僕は、もう一度、母を呼んだ。


「母さ――」







――ピコーン。



また、鞄の底で、通知音が鳴った。

やけに大きく、僕の耳に届いた。

手が、伸びる。鞄の底に向かって。
湧き上がる恐怖を否定するために。



"そんな事は、あっちゃいけないんだ"



スリープ状態になっていた画面に、"灯"を入れる。

同時に、母親が、振り向きもせず、言った。



『あら』

【[お知らせ]?ヒ???????モ解??ヤ???モ???モが届いてます!:1件】



震える。指先が、喉が、脚が、躰が。




『ショボ君』

【[mother01]うちゅーじん:】

63 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/11(火) 20:08:03 ID:gGrCXBbQ0
止めてくれ。


もう、これ以上は。


僕は、




"壊れて――"

64 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/11(火) 20:08:40 ID:gGrCXBbQ0












                      『【おかえり】』














【ポータブル・ミューティレィション 了】

65 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/11(火) 20:09:29 ID:gGrCXBbQ0
【幕間】









(´・ω・`)「どうだったかな?」

( ^ω^)「良かったと思うお」

( ^ω^)「いわゆる"沼男"オチを少しひねってあったおね」

('A`) 「ああ、もう純粋な地球人は一人も居ないとかな」

川 ゚ -゚)「"題"の携帯ゲームも、上手く組み込んであったと思うぞ」

(´・ω・`)「じゃあ、"解"としては成立でいいかな?」

ξ゚听)ξ「ええ、十分だと思うわ」

(´・ω・`)「要領が掴めて来たね」

川 ゚ -゚)「このペースで、じゃんじゃか行こうか」

( ^ω^)「じゃあ、次の"解"はドクオ、"題"は>>70に任せるお」

川 ゚ -゚)「"題"はどんなに難題でも、挑まなくてはいけないからな」

ξ゚听)ξ「油断してると、"飲み込まれちゃう"わよ」


ξ゚听)ξ「それじゃ、次の"解"を求めましょう」

70 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/07/11(火) 21:42:35 ID:DEyTnnAw0
仏壇

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