忌談百刑

第23話 管理社会の演算機《ディストピア・カリキュレーター》

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101 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/11(金) 01:35:06 ID:CLGK/LaE0






やはりというか、なんというか、事件は起こった。しかも、意外な形で。



もう時間は夕食時になっていて、僕とカーチャンは、夏だと言うのに鍋をつつきながらテレビを見ていたんだお。

僕は、今日中に、身近なところで死者が二人出るかもしれないという緊張感はとうに途切れていて、
半分以上そのことを忘れつつ、下らないバラエティを見て笑っていたんだお。




今でもそうだけど、20時台のテレビ番組と21時のテレビ番組の間に、短いニュースと天気予報がやるおね?

そこで、たった今入ったニュースということで、母子心中の事件が流れたんだお。

それは、あの有名な女優とその娘で、どうも夫の不倫が原因だとか、そんな事を言っていたと思うお。


一瞬僕は、"来たかッ!"と身構える。そこまで忘れていた、電卓とあの深夜テレビの事を急に思い出したんだお。

でも、おかしいんだお。僕でも知ってる有名女優の名前だったら、あの深夜のテレビで名前が出たら、流石に気が付くと思うんだお。

でも、昨日見た名前は、たしかに2人とも知らない名前だった。どういうことだ。
そう思いながらニュースを見続けると、その女優の名前の脇に、もう一つの名前がくっついていたんだお。



そう、女優の名前は"芸名"。本名は別だったんだお。




そして、その、本名の方は、深夜に見たあの名前と同じだった。

102 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/11(金) 01:35:40 ID:CLGK/LaE0


ドクン、と心臓が跳ねる。


何か、とてつもなく、悪いことをしでかして、それがバレる直前のような感覚。

僕は、何か、思い違っているのではないか?
本当に、アレは、"死の予言"なのか?




むしろ、あれは"死の宣告"なのではないだろうか。



"僕が、電卓に今日の日付を入力したから"、あの女優は心中したのではないか?

だってそうじゃないか。

2日続けて、こんなにも死を間近に感じることなんて今まであったか?
母方の祖父のお葬式以来、ついぞ人の死なんて感じることも考えることも無かったのに。

この電卓を拾ってから、こんなにも、僕の周りは、いや、人の世は"死"で溢れていると、
そんな風に感じさせる出来事が続く。それはやっぱり、予言というよりも、むしろ――。




そこまで考えて、空恐ろしくなって、僕はテレビのチャンネルを変えると、
いつのまにか〆の雑炊に切り替わっていた鍋の中身をお椀によそったんだお。

103 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/11(金) 01:36:29 ID:CLGK/LaE0




でも、その次の日も、僕は"明日の死の予言"を止められなかった。


なんか、怖かったんだお。怖くなったんだお。


急に、僕の知らないところで人が死ぬのが。

ちゃんと、事前に、誰が死ぬのか分かっていれば、本当にその情報が飛び込んできた時に、怖い思いをしなくて済むんだお。
それから、もし、その死者の名前のスクロールに、僕の知ってる人の名前が出てきたら、
何とかして、運命が変えられるんじゃないかとか――。








――ううん。違うお。嘘だお。







僕は、"僕の名前"があそこに出るんじゃないかって、怯えていたんだお。

その日の死者の名前が放送される番組を知ってしまったら、誰だってそうなると思うんだお。

そして、その名前が、本当に自分の身近な世界であの世に消える場面に出くわしたら。


僕は、気が気じゃなかったんだお。


もしかしたら、自分が入力したせいで、人が死んでいる可能性も、勿論拭い切れていなかった。


でも、それ以上に、僕は、自身の"死"が、僕の知らないところにある"天命の演算機"みたいなもので
神様の好き勝手に演算されて、ある日急に死にゆく自分の運命が怖くなったんだお。

104 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/11(金) 01:37:00 ID:CLGK/LaE0



その日以来、凄く"死"に敏感になったんだおね。



深夜に3人の死者の名前をテレビで見る。

次の日、学校の帰り道、交番の前の"今日の交通事故 怪我2人 死者3人"の掲示を見つけてしまう。
あぁ、この"3人"が、きっと、あの死者たちなのだ、と確信する。

過去一回も気にしたことがないはずなのに、今日に限って、たまたまその掲示が目に入って、
しかもあの予言通り"3人"なんて。



ちょっとずつ、ちょっとずつ、真綿で首を締めるように。
僕の周りを、渦を描くように、"死"が取り囲む。



そんな僕に、カーチャンは言うんだお。



『アンタ最近、アニメとか見なくなったね。ニュースばっかりみて、面白いの?』



そうなんだお。その頃の僕は、暇さえあれば、報道番組を見漁っていたんだお。


そして、深夜に見た名前を見つけては、無性に安心していたんだお。
今日も、ちゃんと、その人の、死を見つけてあげることが出来た、と。

まるで、答え合わせでもするみたいに。








そして、ついに、"あの日"がやってきたんだお。

105 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/11(金) 01:37:39 ID:CLGK/LaE0



僕らの学校の終業式前日。


僕は学校から帰ると、すぐに明日の日付を電卓に入力するのが日課になっていたんだお。

その日もランドセルを勉強机に置くと、椅子に腰掛けながら、電卓を弄る。
"D"を押して、日付を入力して"="
もう指先に染み付いてしまったように、滑らかに電卓を操った。





でも、その表示を見て、僕は椅子から転げ落ちたんだお。





"00000000025人"





今までとは桁が違ったんだお。

0人の日だってあって、多いときでも3人が精々だった、僕の"死"のキャパシティを軽々と凌駕する人数。
その人数の死を、僕はどんな形であれ、明日、目にすることになる。



「――っひ、ひひっ……」



乾いた笑いが口の端から漏れる。勿論可笑しくて笑っているんじゃない。


怖くて、怖くて、怖くて。


そんな状況から逃避するために、一時的に思考を放り出しただけに過ぎない。

106 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/11(金) 01:38:31 ID:CLGK/LaE0


何が起これば、一日で25人も身近で死ぬことがある。


バスの事故? テロ? 大地震?


分からない。そんなこと一度も経験したことも、ニュースで見たことも無いから分からない。

いや、見たこと無いんじゃない。"気にしたことがない"んだ。

大地震が起こると何人死ぬのか。飛行機事故が起こると何人死ぬのか。
そういうのは、どこか遠くのことであって、自分には関係ないことだと、高をくくっていたんだ。



『どこかの国で戦争がありました。でも日本人の死者は0人です。ひゃっほい』



それが、僕の周りの"死の世界"であって、だから、僕は、こんなことに頭を悩ませては来なかったんだ。
でも、そうじゃない。毎日人が死んで、生まれて、また死んで。
この拝成だけで、一日何人死んでるのかだって知らないんだ。



しかし今は違う。取り巻かれている。閉じ込められている。

生臭いドブの底に淀だ泥濘のように、僕の足をずぶずぶと沈めていく。
やがてそこに誰しもが飲み込まれていくことを直視させてくる。


たったの25人。その死を、今この瞬間、僕は一人で背負い込んでいるんだ。
今この時点で、それを知っているのは、僕だけなんだ。



だから、こんなにも、重い。



僕は、祈らずにはいられなかった。

その25人が、出来るだけ遠くで死にますように。
僕がその25人に入っていませんように。


でも、そんなもの、神様は演算の考慮に露ほども入れてくれなかったんだお。

107 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/11(金) 01:39:12 ID:CLGK/LaE0





――深夜。





あの、工場の背景の上を、25人の名前が滑っていく。


僕はその場にへたり込まずにはいられなかった。
叫びださなかっただけでも、褒めてほしい。




抑揚の無い、加工された低い声が、僕の、"僕ら"の名前を読み上げる。







"僕のクラス、5年1組の2/3"






それが、明日の死者達だったんだお。













――嘘だ。

108 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/11(金) 01:40:20 ID:CLGK/LaE0

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109 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/11(金) 01:41:05 ID:CLGK/LaE0


――ブツンッ!



テレビが消えた瞬間、僕は2階に駆け上がった。

自分の部屋に飛び込むと、あの電卓を取り出す。
そして、"D"の後に、すぐに"今日の日付"を入力した。



結果、"0000000025人"



何度も、何度も、それを繰り返す。
狂ったように、がちゃがちゃと、その表示が変わるまで、何度も、何度も。

でも、運命は変わらない。死は変わってくれない。

電卓は、常に、僕の知らない数式で、今日の死を、淡々と、僕に、告げてくる。

怒り、なのだろうか、悲しみ、なのだろうか、恐怖、なのだろうか。

それのどれでもあって、どれでもないような、感情がこみ上げては、すぐに消えていく。
そして、また新しい、名状できない種類の感情が湧き上がって、消える。

液晶の表示のように、浮かんでは、消えていく。




「――ハァ――ッ!! ――ハァ――ッ!!」



人間のものよりも、もっと獣に近い息遣いが、僕の喉の奥から漏れる。

自身の人間を人間たらしむる"外側"の部分が剥がれ落ちて、
醜くも生に執着せずにはいられない、生き物としての"性《サガ》"が剥き出しになってるんだお。

110 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/11(金) 01:41:43 ID:CLGK/LaE0

何度目かの入力の時、ついに、張り詰めていた緊張の糸が、ぷつんと切れるのを確かに感じた。


決して叫び声は挙げないまま、ただ鼻息だけを荒くして、
僕はその電卓を床に叩きつけて、足でグリグリと踏みつけた。
その、神に因って管理された"死"を演算して僕に伝えてくるそれに、ありったけの感情の発露をぶつけたんだお。





『――数字を、移動させます。日付を、入力してください』





不意に、あのテレビの、モザイクがかかっている犯罪者のような声が響いた。
それは電卓から聞こえた気もするし、部屋の隅から聞こえた気もするし、僕の頭の中に聞こえた気もする。



足を、ゆっくりと、電卓から退ける。

そして、小さな電卓を、げに恐ろしく、汚らしいモノのように指で摘むと、液晶を見た。
窓から入ってくる月明かりに照らされた、そこには、何も表示されていない。
さっきまで確かに"0000000025人"と表示されていたのに。




"数字を、移動させます"




確かに、あの声はそう言っていた。
数字っていうのは、あの死者の人数のことか?
その後の日付っていうのは、つまり、"別の日に、この死者の人数を移し替えることが出来る"ってことなのか?



分からない。



でも、それ以上に、僕は縋るものなんて何も無かったんだお。

111 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/11(金) 01:42:31 ID:CLGK/LaE0



僕は考える。


いつに移すのか良いのか。
明日の死を、明後日にしても、意味がない。
その次の日も、次の日も、いつか来る、その死者の宣告の日に怯えて暮らさなくちゃいけない。
だったら、いつが――。




そうだ、"過去"だ。




"過去"であれば、その"死"が僕らに追いつくことは永遠に無い。
だったら、それが一番いいのだ。



僕は、過去の西暦と日付を入力し、"="を押す。
すると、"00000000567人"と表示される。




お、多い。多すぎる。

僕がたまたま選んだ日に、そんなにも死者が出たのだろうか。
いや、昔の日本は、一日にそれくらい死んだのかもしれない。

ともかく、コレで、もう一度"今日の日付"を入力して、その後の表示が"0000000000人"になっていれば、
僕らは、その死の運命を、過去に押し付ける事が出来たということになるのだろうか。

もう一度電卓を取り直すと、震える指先で今日の日付を入力する。
死にたくない、死にたくない。そればっかりが頭の中で翻った。

112 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/11(金) 01:43:05 ID:CLGK/LaE0





――果たして、数字は"0000000000人"になっていたんだお。






へなへな、と僕はベッドに倒れ込んだ。



助かった。

ベッドに押し付けた瞼の下から、涙が込み上げてくる。
でも、それでも、生きているって言う実感が、自分の中に宿る感覚は、悪いものではなかったんだ。

僕は、過去の何処かに、今日の死を押し付けて。
それこそ本当の死神のように振る舞って。

それでも自分が死ななくて済むことに、明日誰の死も見つめなくて済むことに、

酷く、酷く安堵していたんだお。
















次の日、僕らの小学校の近くで、体中に刃物を巻き付きた男が、
側溝に足を取られて、ひっくり返って気絶しているのが発見されたらしいお。


そのまま警察に逮捕されて自供した話によると、そのまま僕らの小学校に乗り込んで、大量虐殺するつもりだったのだと。

113 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/11(金) 01:43:50 ID:CLGK/LaE0






――その日から、僕は過去に"死"を押し付けることにした。







僕の周りでは、誰も死ななくなったんだお。

だれも、傷つかない、素敵で、穏やかな日々。

それがどこまでも続いていく。

まるで、神にでもなったような高揚感。




最初に僕が"死"を移動させた、過去の日付に、僕は死を溜め込んだ。
他の日にしなかったのは、多分、その数字が最初から大きかったからだと思う。



木を隠すなら、森の中。
"死"を隠すなら、大量の死者の中だと、そう思ったんだお。








だから、気が付かなかったんだお。
僕が数字を移動させる以上に、その数値が加速度的に膨れ上がっていることに。

114 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/11(金) 01:44:19 ID:CLGK/LaE0



やがて夏休みが来て、8月に入った。


ニュースですら、誰々が死んだなんて報道をやらなくなった。
いや、正しくは"僕の知る限りでは"やらなくなった、のだと思う。

でも、その日のニュース番組だけは、いつもと違っていたんだお。





テレビでは、となりの市である、美府市の公園広場が映し出されていて、
大勢の喪服の人が、ハンカチで目頭を押さえながら、日本の総理大臣の話を聞いていたんだ。
戦後云々年を記念した催し物だと思うのだか、この日に、しかも美府でなんて聞いたことが無い。




毎年こんなのやってたっけ? でも、こんなもの見たことが――。





いや、ある。





これと似たものを、何度か、この時期に――。

115 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/11(金) 01:47:16 ID:CLGK/LaE0


           『日本は、"三度"――』





 『世界で唯一の――』

                          

                            『戦争の悲痛さを後世に――』



            『平和への願いを――』




『哀悼の意を示すと共に――』



                                  『この惨禍を語り継ぐ――』


    『数十万人とも言われる――』



         

                    『恒久平和の実現に向けて――』

116 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/11(金) 01:48:14 ID:CLGK/LaE0

夏休み特有の遅めの食卓に、総理のスピーチが響く。
テレビから、何か、僕の知らない事が、流れ出てくる。






"1945年8月12日"






僕が、半年間、"死"を押し付け続けた日。


その日に、何が、起こったっていうんだ。


僕は、そんなの、知らない。


僕は、そんなこと、望んでない。






僕が、押していた、電卓の、ボタンは、一体、どこに、繋がっていたのか。



僕が移動させた"死"は、何を、誰を、何人を、殺したのか。





目眩がする。

耳鳴りがする。

寒気が、震えが、こめかみの痛みが。

心臓の鼓動が、体の熱が。

117 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/11(金) 01:48:41 ID:CLGK/LaE0
















   『原子爆弾の犠牲となられた方々のご冥福と、ご遺族、被爆者の皆様、並びに、参列者、美府市民の皆様のご平安を祈念いたしまして――』




















【管理社会の演算機《ディストピア・カリキュレーター》 了】

118 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/11(金) 01:49:19 ID:CLGK/LaE0
【幕間】




( ^ω^)「どうだおん?」

ξ゚听)ξ「ってことは、元々ブーンの中では、"ヒロシマ"と"ナガサキ"の2回だったってこと?」

( ^ω^)「小5の夏までは、確かにそうだったんだお」

(´・ω・`)「うーん、なんて言っていいのか……」

('A`) 「教科書とか、歴史の本とかはどうなんだよ」

( ^ω^)「全部、書き換わってたお」

川 ゚ -゚)「その電卓はどうしたんだ」

( ^ω^)「その日を境に、消えてしまったんだお」

('A`) 「これがホントなら、お前とんでもねぇことやらかしたが」

(´・ω・`)「僕が覚えてる限りで、10万人だけど、美府での、熱波とその後の被爆症で死んだ人数」

( ^ω^)「やっちゃったぜ!」

ξ゚听)ξ「もう滅茶苦茶だわね。なんかアンタの話ホント頭おかしくなりそう」

('A`) 「何が得意なジャンルは"SF《すこしふしぎ》"だ。《すごくふきんしん》に変えろ変えろ」

( ^ω^)「辛辣ぅ〜」

119 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/11(金) 01:49:42 ID:CLGK/LaE0
川 ゚ -゚)「もう、次いっていいか?」

ξ゚听)ξ「なんか、ちょっとへこんだわね。なんだろ、後味悪いとも違って、嫌な話だったわ」

( ^ω^)「あとこんなのが10個ぐらいあるから、よろしくな!」

('A`) 「ショボと違ったベクトルで、ぶちころがしたい」

(´^ω^`)「ワォッ! 思わぬ飛び火なんですけどォ〜」

川 ゚ -゚)「底抜けに明るいな」

ξ゚听)ξ「次の"題"は>>130にするわよ」

('A`) 「よっし、俺が行こう!!!」

ξ゚听)ξ「空気変えてねっ!」

ξ゚听)ξ「じゃあ、次の"解"を求めましょう」

130 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/11(金) 15:54:54 ID:CwFjkgf60
すこしふきんしんワロタ
知らないところで取り替えしのつかない事になってたみたいなのいいね…
安価なら
家族
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