忌談百刑

第21話 糸喰らいの神馬

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975 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/26(水) 21:20:35 ID:yzXfyOH60

朝、目が覚めて、布団を畳むと、いつものように寄宿舎の錠前を外して、女工さん達の朝餉の準備をするはずだった。

でも、布団を畳んでいる時に、窓の外に、何か妙なものが揺れているのが目の端に映った。



窓に近づいて目を凝らす。



小屋から見える寄宿舎の裏手。いつも布団を干す場所に、大きな楢の木が生えていて、
その枝に、何かがぶら下がっている。距離が離れているので、大きさが測りにくいが、それなりに大きいはずだ。



それは、そう、丁度、人間くらいの――。



そこまで考えた瞬間、なちさんは一階に駆け下りた。

一階の広間では、既に姉さんたちが、寄宿舎へ出向く準備をしていたが、
その中に、最年長である、銀髪の姉さんの姿が無い。



やっぱりッ!!



なちさんが、さっき窓の外から見える楢の木に、人がぶら下がっていた気がすると姉さんたちに伝えると、
全員の顔から、血の気が一気に引いた。そして全員が全員で、小屋を飛び出して、寄宿舎の裏手に回った。

976 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/26(水) 21:21:09 ID:yzXfyOH60



果たしてそこには、楢の木の枝に、生糸を束ねた縄を首にかけて垂れ下がっている銀髪の姉さんがいた。



目玉は飛び出しかけていて、口からは紫色に膨れ上がった舌が伸びていた。

寝間着の裾から見える足の先からは、黄色い液体が滴って、それが落ちた跡は、まだ寒い諏訪の朝に湯気を立てている。
そして、何よりも異様だったのが、その下腹が、赤子でも孕んだように、大きく膨らんでいることだった。
昨日まではそんな風に膨らんでいなかった。たった一日で子供が出来るなんて聞いたことが無い。




――死んでいる。誰がどう見ても。


あの優しかった姉さんが。自分の事をいつでも気にかけてくれた姉さんが。
本当の姉のように慕っていた姉さんが。大好きな姉さんが。




そう思った瞬間、なちさんは叫んだ。


しかし、それよりも早く、姉さんの一人が、口を塞いだ。

『声を出しちゃダメ』叱責の意味を含んだ、今まで聞いたことが無い厳しい口調だった。
口を塞がれたまま、他の姉さんの顔を見ると、全員驚いてはいるが、
それは決して銀髪の姉さんが死んだことに対してでは無いことが分かる。




彼女らは、"こうなることを知っていた"のだ。

977 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/26(水) 21:22:17 ID:yzXfyOH60

やがて、別の姉さんが、女将さんを呼んできた。

女将さんは特段悲しむ様子も無く、持ってきていた台車に、木から降ろした彼女の遺体を乗せた。
そして、『行きますよ』と女中たちに一声かけると、あの石切り場へと台車を転がしていく。


姉さんたちは、誰一人、泣かず、喋らず、ただ悲痛な面持ちでその後をついていく。

その姿はまるで、今から人買いに売られる、奴隷の集団のようだった。

なちさんは、優しくしてくれた銀髪の姉さんとの思い出を思い出し、涙目で後を追った。
ふーちゃんも、垂れてくる鼻水を啜っていた。




石切り場につくと、数人で、遺体を洞穴の奥に運んでいく。
後の女中らは、それについていった。

そして、"おくぃなさま"の間の扉の前まで来ると、いつものように、女将が錠前を外して、全員が中に入った。
いつものように、マッチで行灯に火を入れると、灯りが一面に広がる。






でも、その光景はいつもとは違っていた。




普段はまんまるの毛の塊でしか無い"おくぃなさま"が、天高くその首を伸ばしていた。


洞穴の中を、その伸びた首の影が埋め尽くす。





まるでこの"死"を待っていたように、文字通り"首を伸ばして"いる訳だ。

978 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/26(水) 21:22:46 ID:yzXfyOH60

その異様さに更に拍車をかけるように、女将が叫んだ。



『さぁさ、"おくぃなさま"。大変長らくお待たせ致しました。本日やっと一人、"おくぃなさま"へその身を捧げる献身者が現れました。
 どうかこの者を貴方様の御身へとお迎えくださいッ!! 今宵は御馳走に御座いますッ!!!』




そう言うと、"おくぃなさま"達の真ん中に、彼女の遺体を置いて、寝間着を剥ぎ取った。


全裸の遺体が、晒される。

その肌も髪も、白磁のように生々しく、爛々と行灯の燈をその身に映している。
彼女の下腹部は、へそを頂点に、極限まで盛り上がり、まさに妊婦のそれをしていた。


女将は懐から、大きな布裁ちばさみを取り出すと、その刃の一方を、思い切りそのへそに突き立てた。




「ひっ!」




なちさんは、そのあまりにも唐突でおぞましい光景に声を上げた。

口元がわなわなと震え、目を逸してしまいたいのに、瞬き一つ出来ない。


それに気づいた年の近い姉さんが、なちさんの手をぎゅっと握ってくれた。
彼女の手も、同じように震えていた。




女将はズブズブとその先端を沈めていく。そしてある所まで到達すると、そのハサミを"閉じた"。

979 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/26(水) 21:23:13 ID:yzXfyOH60


――じょきん。



皮膚と、肉とを裂く音がした。


でも、傷口からは、血が出てこない。既に心の臓が止まっているので血流が無いのだ。

そのまま女将は、みぞおちの方までハサミを入れて、遺体を切り開いていく。
きっかりみぞおちまで入れると、次に反対方向へハサミを入れる。どんどんと。
そうしてすっかりと彼女の体を切り開くと、その臓物の中に腕を突っ込んで、かき回し始めた。



ぐちゅん、ぐちゅん。



辺りに、既に黒く変色した、彼女の血液の塊が溢れだす。
しかし女将はそれに構わずに、腹の中を弄り続けた。

そして、何かを探り当てたように、一瞬動きを止めた後に、そこから巨大な肉塊を引きずり出すと、
その肉塊と、体とが接続している部分を、またハサミで切り取った。





それが、"子宮"であると知るのは、なちさんが、僕のお祖母さんを産んだ時だったそうだ。

980 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/26(水) 21:23:46 ID:yzXfyOH60

人間の頭部二つ分までに膨れ上がったその子宮を、まるで神に生贄でも捧げるみたいに、掲げると、
それに合わせて、"おくぃなさま"の首が、激しく上下される。


喜んでいるのだ。あの肉の中身が、彼らの好物なのだ。


なちさんはそう思った。

女将は掲げた肉塊を突き上げるように、ハサミを入れる。そして、下から上に、一気に切り開いた。



ばしゃ、という水音とともに、血に塗れた、何かが溢れ出す。

それは、見まごうこと無く"おくぃなさま"の体毛だった。

ぬらぬらという紅い粘液にまみれてなお、尊厳な美しさをかけらも残っていない。
いや、それどころか、血によって洗練されたそれは、いつも以上の輝きと、艶やかさを身に着けていた。



『さぁッ! 召し上がりませいッ!!!』



自身の着物も、真っ赤に染め上げた女将がそう叫ぶと、
"おくぃなさま"たちの首が、その地面に広がった血液と毛の混合物に瞬く間に群がった。
そして、いつもは立てない、"じゅるじゅる"、"むしゃむしゃ"という咀嚼音を響かせさながら、
それを丁寧に、丹念に舐め取っていく。




地獄だ。地獄絵図よりなお酷い、本物の地獄。



体を切り開かれ、子宮をえぐり取られ、その中身は、得体の知れない"神"を騙る異形に食い荒らされる。
女にとっての地獄に、コレ以上のものなんてあるのだろうか。

981 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/26(水) 21:24:13 ID:yzXfyOH60

そうして、床がすっかりキレイになって、"おくぃなさま"達が、いつもの毛玉に戻ると、
女将は、さ、行くよとだけ言って、さっさと出ていってしまった。

残された彼女らも、今更この場所でどうすることも出来ないし、
朝餉の支度もまだ済んでいないので、急いで外に出て、また無言のまま寄宿舎へ向かった。





その晩、なちさんとふーちゃんは、布団に潜り込みながら話し合った。


きっと、"おくぃなさま"に魅入られると、ああいう風に、"おくぃなさま"の御馳走になってしまうのだ。


私達の髪の色が薄くなるのは、御馳走に近づいている証拠なんだ。

銀髪の姉さんみたいに、髪から全て色が抜けると、きっと"食べごろ"なんだ。

私達が、女工たちに比べて、こんなにいい暮らしをさせてもらえているのは、
きっと家畜を太らせてから食べる行為そのものなのだと。




そして何より、あの優しかった姉さんを殺したことが許せないと。





そしてその日から、二人は、この工場からの脱走と、"おくぃなさま"への復讐を計画した。

982 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/26(水) 21:25:07 ID:yzXfyOH60

まず、脱走自体は簡単だった。夜中にこっそりと、山中へと逃げ出してしまえばいい。


寄宿舎と違って、この小屋には脱走防止の錠前なんかは付いていない。

ただ、検番が夜通しで見回りをしているから、上手く夜の闇に紛れる必要がある。
丁度、この工場から続く山道が二手に分かれている。

追手を巻くために、恨みっこなしで、そこで分かれて逃げる手はずになった。

逃げた後のことは考えていなかった。

ただ、あの死に方だけは、"おくぃなさま"の御馳走になることだけは避けたかった。
多分おそらくきっと、あの死に方は、死よりももっとおぞましい何かだと思ったから。



問題は、"おくぃなさま"への復讐だ。

それ自体は至極簡単で、基本身動き一つしない"おくぃなさま"に、食事の支度に使う油を浴びせて、
竈に火を入れるためのマッチを投げつけてやればいい。
問題はあそこに入るための"鍵"だ。アレは女将しか持っていないし、
しかも多分、日曜日のあの櫛入れの時にしか持ち出さないのだろう。
それをどう手に入れるか。



一つは、経営者一家の住んでいる邸宅に忍び込むこと。

この工場を出て、少し行ったところに、その邸宅はあると聞く。
しかしそこにたどり着くことこそもう既に"脱走"であり、
更にもう一度工場まで戻ってきて、扉を開けて、油を撒いて、というのは、些か危険すぎるというものだ。



もう一つは、日曜日の櫛入れの後に、女将から鍵を盗むこと。

こっちの方が、現実的だろう。
問題は、二人がまだ12歳で、当然スリの技術など無いということだ。



二人は、うんうん唸りながら、朝日が登るまでその方策を考えた。

983 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/26(水) 21:25:29 ID:yzXfyOH60

そして、ある一つの策にたどり着いた。



日曜日には、風呂を沸かす。それを利用しようと。


工場内には、生糸を一部だけ先染め状態で出荷するための、"染料"がある。

櫛入れの儀式が終わって、あの暗い階段をあがるときに、闇に乗じて、その染料を女将に浴びせるのだ。

そして、邸宅までその状態で戻ると、肌に染料が染みてしまいますと言って、
寄宿舎内の浴場を使わせるのだ。そこでは当然服を脱ぐだろう。


そして、女将が湯浴みをしている間に鍵を盗み、またあの洞穴に戻り、
"おくぃなさま"を焼き殺して逃げる。



油壺は、予め、"おくぃなさま"の間の手前の岩場の隙間に隠しておいて、マッチは当日懐に隠せばいい。





勝負はただの一度、三日後の日曜日だと決めた。

984 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/26(水) 21:26:11 ID:yzXfyOH60





――そして決戦の日。



二人は、櫛入れの儀式のときも、その"おくぃなさま"の与えてくる快楽に、下唇を噛みしめることで耐えた。
暗がりなので誰にも気づかれなかったが、唇には、後々まで残る深い噛み傷が出来ており、出血もしていた。


姉さんたちは、あんな出来事があったのに、またその快楽に身を委ねてしまっている。
もうもはや、あの人達は、飼いならされてしまっているのだ。


女将に、"おくぃなさま"に。


そして、自分の髪が、あの優しかった姉さんのように、すっかり銀色になって、自身が貪り食われるまで、
延々とその快楽を享受し続けるのだろう。



思えば、まだ幼くて、また、貧乏農家育ちで体の成長が未発達だったのが、
二人の思考を淫靡な快楽に捕えるのを防いだのかもしれない。

もしもう少し年齢が上だったら、きっと彼女らのように、あの毛の中にまみれながら死を待つだけの生き物に成り下がっていただろう。



そして今日のお勤めが終わって、いつものようにあの暗い階段を登るときに、
なちさんは岩場の上に引っ掛けておいた生糸の束を引っ張った。


そうすることで、先頭を行く女将の頭に、染料がひっくり返るようにしておいたんだ。


『ぎゃあっ!! な、なんだいッ!!』



狙い通り、女将の頭に紫の染料が降り注いだ。

そして、誰よりも早く、女将自身が、その匂いから、自身が頭から被ったのは染料であることに気がついた。
流石、そのへんは長いことこの工場を取りまとめていただけのことはある。

985 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/26(水) 21:26:43 ID:yzXfyOH60

どうかなされました、と姉さんたちが女将を心配して取り巻く。


女将は悪態を付きながら、


『どうせトロい女工が、休みの日に脱走経路を下見にでも来た時に、その目印に置いたんだろう。
 この先は行き止まりだから、諦めてその辺に置きっぱなしだったんだ』


と自己完結してくれた。かなりの好都合だった。



すかさずなちさんが、女将さんに言った。



「女将さん、そのままだと、肌に染料が染みて、落ちなくなります。汚い所ではございますが、我々の寄宿舎の浴場をお使いください。
 本日は日曜日なので、湯が張ってあります」



『あぁ、そうだねぇ。こんなで帰ったら、旦那に笑われちまうからねぇ』








――やった。計画通りだ。

986 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/26(水) 21:27:18 ID:yzXfyOH60

そしてすかさず、ふーちゃんが、

「私共の部屋に、着物の予備がありますので、後で脱衣所にお届けにあがります」

と言って、先に小屋へと走っていった。


こうすることで、自らが脱衣場に行き、女将の着物から鍵をくすねる時間を作ったんだ。


他の姉さんにやらせると、変なタイミングで鉢合わせしかねない。

その時間に脱衣所に居ても違和感のない理由を立てたわけだね。



そして、なちさんは、姉さんたちの隙を見て、小屋から出て、あの洞穴の扉の前で待った。

着物の懐には、マッチと、それから何日か溜め込んでおいた、干し芋や干物の入った袋がある。

これで、山中を逃げ惑っても、数日間は持つはずだった。



もしこの山を降りることが出来たら、女郎にでもなろう。

いくら女郎が、自分の体を売る仕事だって行っても、喰われる仕事よりはずっとマシだろう。






ここより酷い地獄なんて、そうそうない筈だから。

987 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/26(水) 21:27:47 ID:yzXfyOH60

数分もすると、ふーちゃんは、手に鍵を持って、階段を降りてきた。


『やった! 成功だ!』


「まだだよ! "おくぃなさま"を焼き殺して、姉さんの仇を取るんだ!!」



二人は、逸る気持ちを抑えて、錠前に鍵を差し込んだ。

カチリ、という音と共に、錠前が外れる。そして閂を上げて、扉を開いた。

一瞬扉の向こうに風が吹き抜ける、"コォォ"という音がして、それ以降の音は無かった。
二人は、女将がいつもやっていたみたいに、行灯のある位置まで行くと、火を灯した。


洞穴に光が溢れる。


"おくぃなさま"はいつもの様に、毛玉の状態で、壁際に転がっていた。



「……やろう」


『……うん』


二人は一度扉の外に出て、岩場の影に隠してあった油壷を抱える。

そしてまた"おくぃなさま"の間に戻ると、一度顔を見合わせて、大きく頷くと、
その壺の中身を、そこらじゅうに撒き散らした。


"おくぃなさま"は、その体毛が油に塗れても、身動き一つしない。
本当に糸を喰う時しか動かないのだ。



そして全ての"おくぃなさま"と床に油を撒いて、なちさんは、懐のマッチに手をかけた。





――その時。

988 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/26(水) 21:28:15 ID:yzXfyOH60




『こんのクソガキどもがぁあああああああああああッッ!!!!!!』






般若が、飛び込んできた。





しかし、それは当然見間違いで、その正体は、怒りに髪を振り乱し、口を耳まで裂けるほど開いた、女将だった。

行灯の光を反射して、目は爛々と輝き、その手には、あの日姉さんの体を裂いた、大鋏が握られていた。




『"おくぃなさま"になんてことをッ!!!!! なんてことをををををををををッッッ!!!!!』




猛然と此方に近づきながら、そのハサミを振り上げる。

二人は女将のあまりの形相に、すくむ足を殴りつけて、なんとか後ずさりをした。
しかし、それ以上の動きは、封じられてしまったかのように、緩慢にしか動けない。



『お前らは、何回死んでも許さんぞぉおおおおおッ!!!!!!』



女将は二人の前まで来ると、その振り上げたハサミを、なちさんの、その眼球めがけて振り落とした。

989 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/26(水) 21:28:50 ID:yzXfyOH60



(殺されるッ!!!)



そう思った瞬間、足元に広がる油に足を取られて、なちさんは尻もちを付く。

そこに勢い余った女将が倒れ込んできたのを転がって避けた。


なちさんと、女将は、油まみれの床を転がって、立ち上がることが出来ない。
お互いが四つん這いのまま、追いかけ合う。



『殺すッ!!! 殺してやるッ!!!!!』



彼女の足がさっきまであったところに、ハサミが振り下ろされ、ガツン、という鋭い音を立てる。
このままじゃいつか足を刺されて動けなくなる。そして自分も姉さんみたいに"開き"にされて殺されるのだ。


しかし、それよりも早く、なちさんに着物の帯が伸ばされる。



『これを掴んでッ!! 早くッ!!!』



ふーちゃんが、自分の帯を解いて、此方に投げてよこしたのだ。


既にふーちゃんは、扉の外にいる。コレならばッ!



なちさんは、自分の手首に帯を絡めると、「引いてッ!」と声をあげる。



そして、その帯の端を、ふーちゃんが思いっきり引っ張った。

990 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/26(水) 21:29:17 ID:yzXfyOH60


油に塗れた岩の床の上を、なちさんの体が滑る。



『ま、待てクソガキッ!!』



女将の伸ばした腕は空を切り、扉の外まで滑り出た。
そして、そのまま階段を駆け上がっていく。

マッチを持っているのは、なちさんだけじゃなかった。

今の油に塗れた体では火をつけることが出来ない。でも、そうじゃないふーちゃんには出来る。
ふーちゃんは、扉を閉めると、閂と錠前をかけてしまう。


扉の内側からは、般若の絶叫が聞こえる。



でも、これで終わりなのだ。



ふーちゃんは、"なちさんの体によって"門の外まで伸ばされた油の跡にマッチを近づける。

門の下の隙間を通って、その炎は、あの"おくぃなさま"の間を焼き尽くすのだ。

991 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/26(水) 21:29:45 ID:yzXfyOH60









『くたばれ』








.

992 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/26(水) 21:30:15 ID:yzXfyOH60

そういって、ふーちゃんは、油に、マッチを投げ入れた。




『ガァアァァァアァアアアアァァァァアアアアアアアァァァァァァッッッッッッッッ!!!!!』



耳を劈くような轟音が、扉の向こう側から聞こえる。


鬼が焼け死ぬ断末魔だ。いや、それだけじゃない。


もっと大勢の、恐ろしいほど大勢の阿鼻叫喚が、この中から染み出してくる。
これはきっと、"おくぃなさま"と、奴らに喰われた姉さんたちの、魂の叫びなのだろう。



あまりにも大きなそれは、きっと岩切場を飛び出して、検番の耳にも届くだろう。

だとしたら好都合だ。

検番がここに来る間に、工場の裏を通って、山道に出て、後は走り抜けるだけ。




二人は階段を上がると、月夜の中を駆けていく。


二人の髪は、月明かりを透かすほどに薄い栗色になっていた。

こんな髪で街に出たら、きっと奇異の目で見られるだろう。
異人との混血としていじめられるかもしれない。



でも、それでも、死ぬよりはマシなのだ。





ここより酷い地獄なんて、そうそうない筈だから。

993 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/26(水) 21:30:47 ID:yzXfyOH60













        ――というわけで、そのせいで、僕の代になっても、髪の色が薄いままなんだって。


















【糸喰らいの神馬 了】

994 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/26(水) 21:31:31 ID:yzXfyOH60

【幕間】






(´・ω・`)「どうよ。今までとは趣向を変えてみました」

( ^ω^)「なんかキモい話だったお」

川 ゚ -゚)「もやもやするな」

('A`) 「っていうか最後の方絶対はしょったろ」

(´・ω・`)「だってこのまま行くと、なんかとんでもない事になりそうだったんだもん」

ξ゚听)ξ「とんでもないことって?」

(´・ω・`)「えっとね、なんかね、"分裂"しそうだった」

('A`) 「なにがだよ」

(´・ω・`)「んー? "空間"?」

( ^ω^)「くっそ曖昧やが」

(´・ω・`)「コレはもう今この瞬間に話す人しかわからないって! 結構焦ったんだから」

川 ゚ -゚)「じゃあ、まぁ仕方がないか」

(´・ω・`)「そういうことにしようよ。次からは、なんか"心機一転"みたいな気分になる気がするし」

( ^ω^)「どんな予感だお」

('A`) 「じゃあ、その"心機一転"次の"題"行くか」

川 ゚ -゚)「じゃあ、私が行こうか」

川 ゚ -゚)「"題"は当然>>1000でいいな」

( ^ω^)「あにば〜さりぃ〜」

ξ゚听)ξ「いいわね!」



ξ゚听)ξ「それじゃ、次の"解"を求めましょう」

1000 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/07/26(水) 21:56:28 ID:yhXtWwbY0
題:中だし義母レイプ
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