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513 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/18(火) 07:13:40 ID:BzyiZpjI0
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――家に飛び込んだ時は、もう、西の海に、太陽が飲み込まれた後だった。
大人たちは、大声で泣きじゃくる俺が喚き散らした言葉から、
俺が禁忌を破り、あの森の奥に行き、御嶽≪ウタキ≫を侵した事を知った。
でも、そこからが妙だった。
俺はしこたま怒られるのかと思って、あの化け物に遭遇した恐怖よりも
そっちのほうが段々と大きい恐怖に代わってきていたのだけど、
そんな思いとは裏腹に、何時までも、俺の頭上に雷が落ちてくることは無かった。
オヤジは、島の人間じゃないから、事の大事さがイマイチ呑み込めてなかったみたいだし、
それ以外の三人も、『あちゃー……』とか、『まいったなー……』とか言いながら、
三者三様、頭の後ろを掻いてみせるだけで、俺を怒ったり、具体的なこれからの方策を口にしたりはしなかった。
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514 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/18(火) 07:14:08 ID:BzyiZpjI0
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俺はてっきり、あの怪物に呪われたと、なぜかそう思っていたから、酷く肩透かしを食らった気分だった。
オヤジも、朝の爺さんの口ぶりから、そんな禁忌を破ったら、死んでしまったりするのでは、と思ったらしく、
『む、息子は大丈夫なんですか?』
と爺さんに尋ね始めた。
すると、爺さんは、
『まぁ、今は、どうすればいいかも全部分かっているから、そんなに怖いもんじゃないんだよ』
と返す。
つまり、このまま何もせず放っておけば、俺の身に良くない事が起こるのは確かだが、
こういう事は過去にも何度かあり、その歴史の中で対策も確立されているために、島の住人からしたらそこまで恐れることでもないらしい。
そう言ったことは、母が島でまだ暮らしていた時にも何度かあり、いずれにせよ、全員無事に生きているとの事で
確かに面倒事ではあるが、怒っても解決しないし、と至極冷静に返された。
おおらかというか、なんというか、南国特有の時間感覚がこんなところにまで影響しているようだった。
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515 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/18(火) 07:14:44 ID:BzyiZpjI0
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『ただ、まだ12歳のドクオには少し怖いかもねぇ』
なんて婆さんがぽろっとこぼす。その言葉よりに、俺より早く反応したのはオヤジだった。
『なんか、危ないんですか?』
『いや危なくはないよ。怪我とか、そういうことは、まずないと思う』
爺さんがそう返す。
オヤジはその後も、何度かその除霊? 禊? の話を聞き出そうとするが、
島の人間でないものに聴かせることも、これまた禁忌であるという事で、教えてもらえ無かった。
ともかく、やってしまえるなら早く済ましてしまおうと婆さんが号令をかけると、
いやにテキパキと、爺さんと婆さんと、お袋は、家の中から、必要な道具を集めてきた。
しかしそれもかなりシンプルな道具だけ。
数十本の太く大きな蝋燭と、座布団と、マッチ箱、それだけ。
こんなもので、あんな化け物をやっつけられるのかと思ったが、
婆さんは、何も、退治する訳じゃなくて、ドクオと仲良しになってもらうだけだから、
と意味深に返すだけだった。
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516 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/18(火) 07:15:08 ID:BzyiZpjI0
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――俺と爺さんは、西の船着き場から小舟に乗って、夜の海に出ていた。
島の周囲を北から巡って、東の、あの化け物のいた砂浜に行くのだという。
あそこにたどり着くには、陸路は無くて、こうして小舟でしかたどり着けないんだと。
夜の海は真っ黒で、コーヒーみたいだと思ったけど、
その代りに、月明かりのミルクが流れていて、思ったよりも明るくて怖くなかった。
そんな俺を見て爺さんは、夜の海を怖がらないのは、やっぱり俺にも島の血が流れているのだと、
舳先に立ち、櫂を漕ぎながら、優しく笑いかけてきた。
爺さんは、俺に、昼間見たアレについて説明してくれた。
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517 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/18(火) 07:15:31 ID:BzyiZpjI0
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――あれは"破隠≪ハイン≫さま"という神様なのだという。
いや、正確には"神様"かどうかも分からない、"漂着神"なのだと。
日本の神話の中に、伊弉諾伊邪那美神の最初の御子である神様は、その不具の姿の為に、川に流されたという記述がある。。
そうしてその神の御子は、やがて海に出て、とある島になった。
でも、流された神は、なにもそのお方一人ではない。
信仰されなくなった神、異教と罵られ、貶められた神、忘れ去られた神、
生贄として海に捧げられた神。西方の楽園を目指した神。
そういう神だったものたちが、少しずつ神の御衣を剥がし、より純化して、鈍化したものが、
あの破隠さまだというのだ。
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518 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/18(火) 07:16:41 ID:BzyiZpjI0
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それから、続けてこんな話もしてくれた。
補陀落渡海という儀式が、昔の日本にはあった。
お坊さんが、即身仏となるために、その体を、棺桶を摸した船の中に詰め込み、海に流される。
彼らは、西方にある極楽を目指し、そこで悟りを開くために、現世での生を捨てて、異界に出向くのだという。
その船の中には、様々な仏教道具や、少ないながらも金銀玉石が詰めてあり、
あの世への渡し賃としていたらしい。
でも当然そんな極楽が、海の西端にあるはずも無くて、多くの場合は早々に沈んでしまった。
しかし、何の偶然か、その船が、この"弓嫖島"に流れ着くことがあった。
元々この島は、海流の流れが集まってくるところでもあり、様々な漂流物が流れ着く島でもあった。
だが、他の島から離れているという文化的な孤立から、そう言った捨身行のようなものを知らなかった島民は
その死体の詰まった宝箱を、神様からの贈り物だと思ったらしいんだ。
その中には、島民の理解の及ばないものも多かった。
鏡、行灯、硯、箸、裁縫道具、組木細工、小さな屏風。
島民たちは、その"よく分からない何か"をあの海岸で分解して、理解しようとしたんだ。
神からの贈り物は、きっと自分たちに有益なものに決まっているのだから、
その構造を、使い道を、神の御意思を、理解しようとした。
そうして、それがもっとも流れ着く、東の隔絶された海岸を御嶽として、神聖視した。
だから、あの海岸は、漂着神の成れの果てと、遥か昔の島民たちの、"分解"に対する欲求が混然となった場所なのだと。
その、鈍き神の殻と、"分解欲求"の融合物が、破隠さまなのだという。
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519 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/18(火) 07:17:49 ID:BzyiZpjI0
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だから、そういう、"今風"の、道具は、破隠さまの"分解欲求"を刺激してしまう。
そのため、この島は、家電製品の持ち込みを禁止しているのだという。
分解したいのに、分解できないと、その欲求は際限なく膨れ上がり、"良くない"事が起こるから、らしい。
その代り、この島では、何かを"分解"するという行為は、通常の何倍も楽に済むらしい。
そういうご利益があるのだという。
『多分、今、破隠さまは、そのドクオの、携帯電話っていうのかい? それをバラバラにしたいと思っているに違いない。
だから、ドクオは今晩、そのお手伝いをしなくちゃいけないんだよ。 その機械が壊れてしまうのが心配かい?
でも、そうしないと、お前が"分解"されてしまうよ? ――はは、冗談だよ。そんな事にはならないよ。
それと、上手にお手伝いが出来たら、もう一度組み立ててもらえるから、安心しなさい。
ただ、爺ちゃんはドクオが正直者で良かったと思ってるくらいだ。もし、嘘をついたり、黙ってたりしたら、
儂はお前を助けられなかったんだからね。』
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520 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/18(火) 07:18:16 ID:BzyiZpjI0
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――東の海岸に小舟をつけ、僕らは月の光を反射して眩しい位の砂浜に降りた。
爺さんはそのまま、俺の手を引いて、あの切り通しを塞いでいる岩の方に歩き出した。
そのまま、少しずつ右の方に方向をかえ、岩壁沿いに、歩を進める。
すると、その先に壁に開いた大きな穴が現れたんだ。
侵食窟って言うんだってな。
今よりもずっと水位が高かった、遥か昔に、海の干満でゆっくり削られた柔らかい地層が、
そこだけ削れて、島の中心に向かって穴を伸ばしていく。
その穴の一番奥に、破隠さまはいるのだという。
恐くない訳はない。爺さんの口ぶりだと、俺は"独りで"あの穴倉に置かれて、携帯電話を分解しなければならないのだ。
一応敵意害意は無いと説明されても、人ならざるものと、同じ空間で黙々と作業しろなど、
12歳の小学生風情には、荷が重すぎるというものだろ?
でも、そうしないと"分解"されてしまう、なんて、冗談でも言われてしまったら、もう、そうするしかないだろ?
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521 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/18(火) 07:22:58 ID:BzyiZpjI0
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爺さんは、持ってきた蝋燭の一本に火をつけると、俺の手を引いて、その洞窟の、奥へ、奥へ進んでいく。
夏だというのに、あまりにも寒いその穴は、黄泉の国へと続いていく黄泉平坂の様だ。
やがて、蝋燭が、最初の半分くらいになって、『アチチ』なんて爺さんが漏らした辺りで、
その穴の奥から、あの声が聞こえてくるんだ。
こん、てん、ぽらりん。こん、てん、ぽらりん。
いるのだ。アイツが。
この奥で、俺を、携帯電話を、待っている。
その歌に含まれる歓喜の表情は、新しい知識を得られることに打ち震えているように聞こえる。
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522 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/18(火) 07:23:28 ID:BzyiZpjI0
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そうして、俺たちは最奥にたどり着いた。
一番奥には、座敷牢っていうのか? 木組みの格子が備え付けられていた。
『何時もはこの奥にいらっしゃるんだけどね、たまに、今日みたいに出て来ちゃうんだ』
爺さんは、言いながら、牢の前に置かれた、平たく鞣された大岩の下に、持ってきた座布団を置く。
そして、辺りにロウを垂らすと、そこに一本一本あの太くて長い蝋燭を置き灯りを燈した。
火の燈が洞窟内を照らし出す。
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523 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/18(火) 07:23:52 ID:BzyiZpjI0
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――その壁一面に、分解のための道具が、ぶら下がっていた。
小刀、のこぎり、金づち、やっとこ、くぎ抜き、やすり、カンナ、ノミ
ニッパー、ペンチ、レンチ、ラチェット、ハンマー、万力、手動ドリル
プラスドライバー、マイナスドライバー、六角レンチ、千枚通し
そんなものが、いっぱい、いっぱい、壁にかけてある。
しかも、それら全てに、鉄サビが浮いていて、あの独特の金物臭さを充満させている。
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524 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/18(火) 07:24:18 ID:BzyiZpjI0
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『この壁の道具から、好きなものを使っていいよ。大昔から使われてるのもあるから、ちょっと使い勝手悪いけどねぇ』
そう言い残すと、早々にこの場を去ろうとする。
「え、ちょ、ま、待ってよ」
『その蝋燭は、三時間くらいで燃え尽きちゃうから、頑張るんだよ。朝になったら迎えに来るから』
「え、朝って、三時間って、ちょっと、そんなのってっ!!!」
俺の叫びも虚しく、爺さんは灯りの届かない闇の中に消えていった。
――こうして、俺の携帯電話分解が始まった。
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525 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/18(火) 07:24:46 ID:BzyiZpjI0
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まずは、背面のバッテリーを取り外してみる。
当然これで分解と言い張る事は出来ないだろう。
次に、ねじ穴のようなものを探してみるが、プラスとも、マイナスとも違う、見たことも無いネジ頭で、
それに合う分解道具を探してみたが、ついぞ見つけることが出来なかった。
そこで、側面の溝に、ノミを差し込んで、ハンマーでその柄を叩いてみる。
パキン。
何かが欠ける音がして、その溝が、"隙間"に変わる。
うっすらと空いた隙間に、もっとノミの先端を食い込ませると、そのまま上下にギコギコと動かす。
ドンドンとその隙間は大きくなっていき、パキパキという音も大きさを増す。
そうして、やっとその携帯の側面から、上下のカバーを分離することが出来た。
上部のカバーを外すと、中には、液晶と、ボタンパッド、更にその下に、複雑な基盤が見えた。
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526 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/18(火) 07:25:34 ID:BzyiZpjI0
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その時、その木組みの格子を、がしゃんと揺らす音がして、慌ててそちらを向いた。
暗闇の中から、あの海岸で見た、アイツの長い腕の先端と、片目の女の顔が、蝋燭の明かりを浴びてうっすらと光っていた。
「ひぃいいいいいいいいいいいいいいッ!」
俺は思わず後ずさる。
思っていたよりも、数倍高い位置に頭があった。大体3mと言ったところか。
相変わらずの、見えている方の目は、白目を剥きだしていて、その下部には毛細血管の集まりがびっしりと這い出てきている。
そぎ落とされた鼻の穴からは、カサカサと、鉄サビが剥がれ落ちてきていて、辺りに散らばる。
口は耳まで裂け、奥歯までの歯列を覗かせて、にやけている様な表情を作る一端となっていた。
ソイツが、その長い長い無限関節の腕を、その格子の隙間から、ぬぅ、と伸ばしてきて、
俺が取り外した、携帯の上部カバーを摘み上げる。
そして、それを、ゆっくりと、自分の舌で、舐め始めた。
ぺろぺろ、ぺちゃぴちゃ。
すっかりと、その上部カバーを味わい尽くすと、最終的には、舌先でそのカバーを巻き取り、
ゆっくりと咥内へと納めていった。
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527 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/18(火) 07:26:10 ID:BzyiZpjI0
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そうして、白目を半月状に歪め、実に至福、といったよりにやけ面を作る。
こん、てん、ぽらりん。こん、てん、ぽらりん。
また、あの歌を唄い出す。どうやら、この歌は、分解の欲を見たしたいときや、
それが満たされた時に唄うらしい。
冷静に観察していたからか、コイツに対する恐怖心が少しづつ和らぐのを感じた。
言ってしまえば、この行為は、コイツに――破隠さまへの"餌付け"であり、
それで、彼女が喜ぶのであれば、そんなに悪い行為ではないのではないかと思えてきたんだ。
俺は、マイナスドライバーで、基盤に張り付いていた液晶を剥がすと、指でつまみあげて、
破隠さまのいる格子の方へ掲げてみる。
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528 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/18(火) 07:27:11 ID:BzyiZpjI0
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破隠さまは、梟のように、首を360°くるくると回転させては、戻しを繰り返すと、
向こうも、恐る恐ると言った感じで、その長い腕の先の、細い掌の先の、長い人差し指と親指で液晶を摘む。
それを自分の眼前まで持ってくると、その液晶と、俺を交互に見やった。
こん、てん、ぽらりん?
俺は苦笑してしまった。まるで、"食べてもいいの?"と聞いているみたいだったから。
『食べてもいいよ』
そういうと、またあの嬉しそうな表情をして、存分に舌先でしゃぶると、それを飲み込んだ。
そうして、俺は、自分の携帯電話から、パーツを剥離する度に、破隠さまに与え、
彼女はそれを食べた。
最後に残ったバッテリー部分まで、すっかり飲み込むと、俺は『はい、おしまい』と言って、両手を上げてみせた。
それを見て、破隠さまは、長い腕を、俺の頭の方へ伸ばしてきて、
優しく、クリクリと、俺の頭を撫ぜた。
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529 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/18(火) 07:27:51 ID:BzyiZpjI0
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そして、それが終わると、破隠さまは、自分の口の中に、その長い腕を突っ込む。
彼女の細いのどが、腕の形に盛り上がって、今どの位置まで腕を飲み込んでいるのかが分かったよ。
おごっ! おごっ! と苦しそうな声を上げる破隠さまを、俺は黙って見ているしかなかった。
そもそも、何をしているのか全く分からなかったし、怖くは無かったけど、単純に気持ち悪かったんだ。
やがて、ゆっくりと、喉奥から、腕が引き抜かれる。
その先についた指には、分解する前の、俺の携帯電話が、赤サビに塗れて、摘まれていた。
それを摘んだままの破隠さまの腕は、俺に向かって伸ばされる。
――受け取れというのか?
一応、携帯本体が錆びている訳では無く、あくまでも"こびり付いている"だけらしいので、
綺麗にふき取れば、まぁ無事に使えるのだろう。
俺は、強い鉄の匂いを放つそれを、掌で受け取ると、
何故か"ここで拭うのは、失礼に当たるかも"なんていう場違いな事を考えてしまって、
結局そのまま尻ポケットにしまった。
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530 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/18(火) 07:28:18 ID:BzyiZpjI0
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と、丁度その時、ろうそくが明滅したかと思うと、最後の蝋燭まで全て燃え尽きてしまった。
辺りが全て闇に包まれ、俺はここで朝まで過ごさなきゃいけない事を急に思い出して、心底心細くなった。
こぉん、てん、ぽぉらりん。こぉん、てん、ぽぉらりん。
破隠さまの唄声が聞こえる。まさか、子守唄のつもりなのだろうか。
俺はまた苦笑すると、座布団を半分に折りたたんで枕代わりにし、横になる。
そのまま、破隠さまの子守唄を聞いていると、すぅと意識が遠くなって、俺はいつの間にか眠ってしまった。
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531 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/18(火) 07:29:03 ID:BzyiZpjI0
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朝、爺さんが起こしに来るまで、俺はぐっすりだったらしい。
俺は、分解の儀式が無事に終わったことを告げると、小舟に乗って、両親の元まで帰った。
結局こういう事もあったので、滞在を一日早く切り上げ、沖縄本島のホテルでゆっくりとくつろぐことにし、
どうせならという事で、爺さんと婆さんも誘って、むしろ最新鋭のバカンスを楽しむ事になった。
俺たちは荷物もまとめて、桟橋で本島へのフェリーを待っていると、
一台のヘリが、俺たちの頭上を超えて、島の向こう側に消えていった。
丁度、祖父母の家の丘向こうと言ったところだった。
『あれ、警察だねぇ』
婆さんはそう言った。爺さんも、裏の島袋さんちも高齢だから、なんかあったんかね、なんて言って心配そうな顔をした。
そうしているうちに、フェリーがやってきて、俺たちは乗り込む。
そのフェリーは、俺たちが行きに乗っていた物と同じで、
俺達の顔を覚えていた乗組員さんが、なにやら慌てた様子で、話しかけてきた。
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532 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/18(火) 07:30:02 ID:BzyiZpjI0
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『ああ、良かった。息子さんは無事だったんだね』
そこから、乗組員さんと、オヤジが、島であった出来事を話し出す。
『え、どういうことですか?』
『なんでも、この島に帰省していたご家族の息子さんが変死したって警察に連絡あったみたいで』
『――?』
『体中の骨、臓器、血管、皮膚、爪、目玉、髪の毛の一本一本に至るまで、全部バラバラにされて、床の間いっぱいにキレイに並べられていたって――』
『そ、それって――』
『何でも、携帯ゲーム機を隠し持っていたとか――』
『まさか、その子もあの海岸へ行ったのか?』
『分かりませんが、ともかく、ボクは無事で良かったね』
俺は、爺さんの顔を見た。
爺さんは、俺に軽くウィンクしながら、『ほら、嘘つきは"分解≪バラ≫"されただろう?』と笑った。
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533 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/18(火) 07:30:41 ID:BzyiZpjI0
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――ごめん。後少しだけ話を続けさせてくれ。
実はな、今、俺たち家族は、夏休みになると、毎年"弓嫖島"に遊びに行っている。
何故なら、"弓嫖島"の家電製品の持ち込み規制が無くなって、今は一大リゾート開発がなされた穴場スポットと化したからだ。
どうしてそんな事になったのかって?
それはな、俺が連れて帰って来ちまったんだよ。
え? 誰をって?
決まってるだろ?
――破隠さまだよ。
俺もビックリしたんだよ。家に帰って携帯を開くと、携帯の画面に、だいぶデフォルメされた、破隠さまがいるんだもん。
あの携帯電話を分解したときに、自分自身が携帯電話の中に存在できるようにプログラムを組み替えたらしい。
忘れてたけど、破隠さまって神様なんだよな。そいつが"分解"って能力を使って学習するんだ。
そのくらいできるのかもな。
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534 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/18(火) 07:31:14 ID:BzyiZpjI0
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破隠さまは、携帯電話を通じて、ネットワークを学んだんだ。
そうして、通信ネットワークの中に介在出来るようになっちまった。
お前らも、さっきの"バラバラ殺人"の描写に、聞き覚えあるだろう?
丁度5年前から定期的に起こっている、連続猟奇殺人事件の手口と同じだな。
被害者の共通点は、最新鋭の携帯やスマートフォンに機種替えした直後だという事。
そして、幾人かの、その家族の証言によると、持ち主本人が設定した覚えのない着信音が鳴ったって、
不思議がっていたって事。
で、大体その事件の次の日、上機嫌な破隠さまが、俺のガラケーの画面ではしゃいでる――。
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535 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/18(火) 07:32:00 ID:BzyiZpjI0
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こん、てん、ぽらりん♪ こん、てん、ぽらりん♪
【ヽ从*>∀从ノ】
【こんてんぽらりん 了】
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536 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/18(火) 07:32:50 ID:BzyiZpjI0
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【幕間】
(´・ω・`)「なにこれ」
('∀`) 「俺のひと夏の友情物語さ」
( ^ω^)「お前の友人くっそ人殺しとるが」
('A`) 「扱いさえ間違えなきゃ可愛い奴なんよ」
ξ゚听)ξ「大体土着の神様を連れて来ちゃうっていうのが型破りね」
川 ゚ -゚)「まぁ、とり憑いた妖怪が、そのまま町まで来たって考えれば」
(´・ω・`)「そんなフットワーク軽い神様やだよ」
('∀`) 「という訳で、最新機種の奴は気を付けてくれよなッ!」
川 ゚ -゚)「すごい確率の低い死刑宣告だな」
ξ゚听)ξ「でも、やっぱり土着信仰モノって、その土地の様子とか、信仰の成り立ちとか説明しなきゃいけないから、どうしても長くなるわね」
('A`) 「正直これでも、かなりかいつまんで話したんだけどな」
(´・ω・`)「まぁ、好きな人は好きっていうニッチ需要だけど、たまにはいいんじゃない?」
( ^ω^)「僕はあんまり旅行とか言ったことないから、面白かったお」
('A`) 「上手く"題"と噛み合う思い出があったら、また話してみたいな」
ξ゚听)ξ「それじゃ、次の"題"に行きましょうか」
川 ゚ -゚)「>>545にしよう」
( ^ω^)「じゃあ、次は僕が話すおっ!」
ξ゚听)ξ「任せるわ」
ξ゚听)ξ「じゃあ、次の"解"を求めましょう」
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545 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/07/18(火) 14:44:34 ID:cNMevCRA0
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お題 ジョル兄