忌談百刑

第10話 扁桃肥大の水魚≪アデノイド・フィッシュ≫

347 名前:語り部 ◆B9UIodRsAE[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:09:38 ID:UciS/vrE0

【第10話 扁桃肥大の水魚≪アデノイド・フィッシュ≫】

"('A`) "






――俺、あんまり怖い話持ってないって言ったけどさ。

その理由の一つに、"恐さ"に対する閾値が高いっていうのがあるんだ。

さっきの俺の祖母ちゃんの話以降、何となくだけど、"幽霊"ってやつが見える様になったんだよね。



( ^ω^)「知ってるお」



(´・ω・`)「たまに猫みたいに誰もいないとこ見つめてるしね」



まぁ、皆には隠すことでも無いだろうと思って説明してるけどさ。

ただ、その見え方っていうのが、多分本当に"見える人"の足元にも及ばない感じで、
ほっそい電信柱の裏から、人の腕だけ見えてるとか、地面から、顔の上半分だけが生えてるとか
全身がくっきりはっきり見えることはまぁ無くて。


部分的な残滓だけをこそぎ取ったみたいにだけ知覚できるんだよね。





でも、そんな中途半端な"霊感"の俺が、はっきりと幽霊を見た話を、今からするわ。

348 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:10:23 ID:UciS/vrE0





――あれは、中三の冬休みだった。





俺は当時、高校受験の為に、親に塾に入れられてたんだ。
朝の9時から夜の10時過ぎまでなんていう、まぁスパルタな塾でさ。

おかげさまでこうしてお前らと同じ学校に入れたんだから、今は感謝しているけど、
当時はもう眠気と疲れとで、半分溶けたみたいになって帰路についたのを覚えているよ。


あれは、正月明けの三が日が終わったころくらい。


その日も、22時過ぎに塾を出て、"ああ、明日も9時かよチクショウ。冬休みだぜ?"なんて悪態を心の中で吐きながら家に向かってた。
この街には珍しく、粉雪がチロチロ降っててさ。
そのせいか、正月だからなのか、街に一切の人気が無かったんだよな。

丁度駅前の商店街を抜けたあたりから、住宅街に切り替わる訳だけど、
そのくらいの所で、一本の電柱についてた街灯が明滅してるのが目に入ったんだ。



ジジ……ジジジ……、なんて切れかけの蛍光灯の音が、雪の静音の中でやけに目立って聞こえた。






でな、いるんだよ。その下に。

349 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:11:14 ID:UciS/vrE0

その明滅に合わせて、そいつ自体も"点滅"してるんだ。

街灯が昏くなると、そいつもこの世から存在がかき消える。
またパッと灯りがつくと、そいつがその下に現れる。



それをずっと繰り返しているんだ。



俺は何時もよりもはっきりと見える、"ソレ"に内心ビクビクしながら、足早に脇を抜けようとした。

それこそ、この時期にはありえないような、サラリーマンの格好をしていたよ。

でもな、それもなんだかチグハグなもので、ネクタイがひん曲がってたり、シャツがズボンから飛び出ていたり。

その時の俺は、喧嘩でもした酔っ払いの様だな、とも思ったんだけど、
それ以上に"子供が大人の服装を真似ているような"って印象を不思議と抱いた。

それから、首をこれでもかって落とし込んでいて。


でも顔だけは、下じゃなくて、前をしっかり向いていたんだ。
丁度"S"を横にしているような首の曲がり方が、嫌に生々しくて気持ち悪かったのを覚えてるよ。

350 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:11:45 ID:UciS/vrE0
でな、俺が脇を抜けようとした瞬間に、ソイツが立ってる街灯の、一個先の街灯も、明滅し始めた。

二つの街灯が、交互についたり消えたりするんだけど、その度に、そいつは点いている方の街灯の下に出現する。
まるで、高速移動か影分身でもしているように、二つに分裂したように見えた。

やがて、さっきまで立ってたところの街灯が明滅しなくなると、その一個先の街灯の下に、そいつは落ち着いたんだ。




――移動してるんだな。




俺はそう思った。

歩いたり、飛んだりとかではない、その奇妙な移動方法が、ソイツが幽霊であるという事や、
その中でも"異質"なものであるという事を俺に強く認識させる。



俺はソイツの脇を抜けることさえ気持ち悪くなってしまって、
結局そいつが、俺の視界よりも遠くの街灯へと消えていくまで、その項垂れた背中を見つめ続けた。

351 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:12:26 ID:UciS/vrE0



――それから、そういう移動をする幽霊を見かけることが増えた。



必ず夜にしか現れず、点滅する街灯の下にしか存在できない奴ら。
その存在にどういう意味が隠されているのか、俺はだんだん興味が湧いてきたんだ。


奴らが気持ち悪いっている側面もあったんだろうけど、それ以上に、俺の中で"観察対象"として奴らを見るという目が出来上がってきた。


それはおそらく、奴らから"悪意"みたいな汚濁から漂う悪臭を感じなかったからだと思う。
言ってしまえば、無害っぽかったから、ちょっと追ってみたくなったってただそれだけなんだけど。



俺は、街灯の下に奴らを見つけると、追い抜くことはせずに、視界から消えるまで、その背中を観察し続けた。
時には、かなりの至近距離まで近づいて、顔をのぞき込んだりして見たこともある。




その過程で幾つか分かったことがあるんだ

352 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:13:17 ID:UciS/vrE0

まずは、年齢がまちまちだという事。

老人はほぼ見かけなかったんだけど、大人から子供まで、結構幅広い年齢層の奴らがいた。

それから、どの幽霊も、なんか着こなしに違和感を感じるような場合が多かった。
それは奇抜なカラーコーディネィトだったり、あるいは靴がちぐはぐだったり、上着を、前から羽織ったり。
服というものが何かをイマイチ把握していないような、そんな感じだった。



あと、必ず"同一方向"に移動している事にも気が付いた。

よく同じような場所にいるな、と思っていたんだけど、移動していく先がいつも一緒だったのと、
別の場所で見かけた時も、行先は、前に別の場所で見かけた奴と同じ方に向かって行ったりと、
どうやらこいつらには、"目指している場所"があるように思えた。





それから何より、俺が一番気持ち悪かったのは、その"顔"





――皆、"扁桃肥大相貌症《アデノイド》"って病気、知ってるか?







( ^ω^)「聞いたことないお」



川 ゚ -゚)「私も知らないな」

353 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:13:56 ID:UciS/vrE0
まぁ、そんなに名前が世間に浸透してないけど、その病気の奴は良く目にしているはずだ。
っつーか、多分皆の中には、"病気"であるっていう認識すら無い場合があるな。


小さい頃から、鼻が詰まってるかなんかで、呼吸が上手く出来なくて、
口呼吸ばっかりに依存していると、鼻奥の扁桃が腫れていって、そのせいで、ある特有の顔つきになるっている病気なんだ。

下顎の骨が、顔の斜め下方向に伸びるように成長するせいで、肉付きがそれを覆うようになるもんだから、
横から見ると、顎が全くないように見える。

それから、それを支える筋肉も衰えて、頬がたるんで膨らんでいく。
その過程で唇もめくれて、突き出すような形になるんだよな。

よく、"魚顔"っていうと、こう目玉の左右の距離が離れている顔を指すけど、

この"扁桃肥大相貌症"の方が、俺は、より魚に近い顔だと思ってるんだ。



横顔がさ、河豚にそっくりなんだよ。



パンパンに膨れた頬と、顎がないせいで、流線形に近づいた輪郭。

それから突き出した唇なんて、まさに魚のおちょぼ口って感じでさ。





まぁ、その"街灯の下の幽霊"は、全員が全員、その"扁桃肥大相貌症"の顔つきをしていたんだ。

354 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:14:31 ID:UciS/vrE0

気持ち悪いよ。気持ち悪んだけどさ。

それ以上に、受験のストレスなのかな、そいつ等の正体を暴いてやるなんていう、なまじ使命感めいたものがその頃の俺の中には生まれ始めていた。




俺は家のパソコンで、この街の地図をプリントアウトすると、
それを小さく折りたたんで、ペンと一緒に胸ポケットに入れて、何時でも取り出せる準備をした。

そして、奴らを見つけると、その地点を丸で囲んで、移動方向に"矢印"を書き込んだんだ。

それを繰り返せば、その"矢印"の先が指し示しているのが、奴らの"目的地"になるって寸法だな。




冬期講習の最終日前日になって、俺はやっと、その目的地を割り出すことに成功した。

355 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:15:17 ID:UciS/vrE0




――拝成市の西に、溜め池があるの知ってるか?



拝成市ってさ、南東と北西を、大きな山脈に囲まれてるから、昔から雨が少なかったんだと。

その日照りと干ばつ対策用に、昔から幾つかの溜め池が掘られたんだ。
現在は、美符川から用水を引っ張ってきてるし、ダムなんかも山の方に出来たから、ほとんど埋め立てられてるけど、
まだいくつかは残ってる。




その残された溜め池の一つに、奴らは向かっているようだった。




それが分かった時、俺は高校に受かったみたいに喜んだ。
もう受験生の本分そっちのけで、あの"扁桃肥大相貌症"の幽霊の謎を解き明かすことにハマりきってしまった。





冬期講習最終日、返された模試の結果なんて見もしないで、足早に塾を飛び出すと、俺はさっそくその溜め池に向かったんだ。

356 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:15:39 ID:UciS/vrE0



その日も、雪が、ほんの少しだけ振っていた。

駅前のバスがギリギリ出ていたから、俺は前日に調べた溜め池の最寄りのバス停で降りた。
親には、ちょっと塾で補習してもらうから遅くなるなんて言い訳の電話もした。


準備は完璧だったんだ。

357 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:16:12 ID:UciS/vrE0






――溜め池は、フェンスで囲まれていた。

池の向こうは森で、更にその奥は山だった。

最初はフェンスをよじ登っていこうと思ったんだけど、ご丁寧というか、当たり前というか上部には有刺鉄線が張り巡らされていた。

仕方なく、どっかに穴でも開いていないかと、フェンス沿いに歩いていくと、溜め池への入り口が見つかったんだ。


でもこれやはり当然、しっかりと閂がかかっていて、しかも扉自体も、鎖でぐるぐる巻きにされて固定してあって、
頑丈そうな南京錠が幾つもついていた。そして極め付けが、ボロボロの板切れに書かれて吊るされている、真っ赤な"立ち入り禁止"の文字。

こりゃ昔、この池で水難事故でも多発したんだろう。
思えばバスで来た道は住宅街だったな。子どもなんかが悪戯に入って溺れないように、厳重に市が管理しているに違いない。

そんな事を考えていたんだけど、でも一方で、俺は強烈な違和感を感じていた。



なんだ、何がおかしいんだ。



そして、数分程その扉を眺め、俺の頭にうっすらと雪が積もり始めた時、やっと気が付いた。

358 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:16:47 ID:UciS/vrE0




――閂も、南京錠も、扉の"向こう側"にあるのだ。




これは、一体。



この扉を閉めた奴は、未だに、"扉の向こう"にいるのだろうか。







いや、それ以前に、

これではまるで、

"立ち入り禁止"ではなくて、







何者かが、ここから出てくるのを、防ぐみたいな――。







.

359 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:17:38 ID:UciS/vrE0





ジジ……ジジジ……。




俺の背後の街灯が、明滅する音がして、慌てて振り返った。



街灯の下に、奴らがいる。



一匹ではない。右の道からも、左の道からも、正面の道からも、
あの魚面が、この池を、そして、その前に立っている俺を見据えて、何匹も何匹もつっ立っている。



「ひっ」



思わず声が漏れ、俺は雪の上に尻もちをついた。
俺の体温で溶けた雪が、ズボンに染み込んで、下着まで冷たく濡らしていく。



そして、その街灯が、一斉に光を失って、辺りは闇に包まれて。



その一瞬の闇の後、街灯が元の光を取り戻した時、奴らは、もうそこにはいなかった。


全員、俺の後ろ、つまり、フェンスの向こう側に、移動したからだ。

360 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:18:05 ID:UciS/vrE0



――ばしゃん。




背後の溜め池から、何かが跳ねる音がして、俺は慌てて立ち上がり、フェンスにしがみ付くようにして、向こう側を見た。
さっきまで、外套の下にいた奴らが、溜め池の前で、体育座りをして池の中を見つめている。

奇妙な儀式の様だった。




――ばしゃん。




また同じ音がして、俺は、はっきりと、その音の主を見た。

361 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:18:43 ID:UciS/vrE0



――魚だ。



池いっぱいに広がる巨大な魚の影が、昏い水面の下に、更に昏い影を作っている。
ソイツが大きく身を翻す度に、立った波が音を立てているのだ。



俺は、自分の顔面にフェンスの跡がつくくらい、べったりと張り付き、その様子をうかがった。



やがて――そうだな、ちょうど、水族館のショーで、イルカが水面からステージに上がるみたいに、
その巨大な魚は、自身の身を、自分を見る魚顔の幽霊たちの前に乗り出した。









――そいつもまた、"扁桃肥大相貌症"だった。





巨大なアデノイド顔が、魚の胴体にくっついているのだ。

362 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:19:38 ID:UciS/vrE0



『ま゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛……』



人間よりも、むしろ魚類に近づきすぎてしまった顔の中心にある、やけに小さな口から、そんな音が漏れる。
"声"であると認識するには余りにも低い、怨念のこもった声だった。

歯並びの良い口元がパクパクと、また魚のような動きをして、犬が濡れたからだから水分を飛ばすみたいな身震いをした。


その時、奴の身体から、"鱗"が飛んだんだ。



べしゃん。



その一つが、フェンス越しではあるが、俺の足元に落ちる。




「あ」




それも、"扁桃肥大相貌症"の顔面だった。




顔だけ切り取られたようなその"鱗"は、やがて腐り溶けるみたいに、地面に吸い込まれていった。



『ま゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛……』



つまり、アイツの、あの魚の鱗は全て、俺が観察していた、幽霊の顔から出来ているのだ。

363 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:20:09 ID:UciS/vrE0

巨大魚は、丁度、年末のテレビでやっていた、海底を胸鰭で歩く深海魚みたいに、ズリズリと此方へ向かってやってくる。
その途中にいた、体育座りの奴らを、通りすがり、頭からむしゃりと喰い付いて、あっという間に飲み込んでしまう。


『ま゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛……』


そのために、奴らはこの池に向かっていたんだ。
あの、巨大魚の、一部になるために。



ずりずり。



徐々に、俺と巨大魚との距離が縮まっていく。



頭の中では、もう一人の俺が、痛いぐらいに叫んでいる。

364 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:21:09 ID:UciS/vrE0









" ニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロ
 ニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロ
 ニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロ "










それでもなお、俺の脚が動かなかったのは、恐怖心からなのか、好奇心なのか、今でも分からない。

365 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:21:51 ID:UciS/vrE0

やがて、ホントに至近距離、フェンスを隔てて、俺と巨大魚は見つめ合った。

夏休みの間、生き物係が世話を忘れて、死んでから何日も猛暑の中放置された、金魚の水槽と同じ匂いがした。

巨大魚もまた、虚ろだが、奇妙に力のある、真っ直ぐな目で、俺を見ている。
いや、そいつの顔だけじゃない。全身の"鱗"もまた、俺を観察している。



立場が、逆転したのだ。



そして、穴が開くほど、俺を見つめた後、
丁度、幼い子供が、不思議なものを見つけた時のように首を少しだけ傾けると、巨大魚は、こう言ったんだ。








『ままぁ?』









ぞっとするほど、綺麗な、赤ん坊が初めて喋った言葉のように。

366 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:22:20 ID:UciS/vrE0






その言葉を聞いた瞬間、俺は失神した。






.

367 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:23:02 ID:UciS/vrE0

気が付くと、俺はあの忌まわしい仏間に寝ていた。
二度とこの部屋では寝るまいと思っていたのに。

家族に尋ねると、昨日雪塗れで帰って来たかと思うと、ふろにも入らず、仏間に布団を敷いて寝ると言って、家の奥に消えたのだという。

それからも、俺は、奴らを見かけ続けた。

でも、二度と追いかけようとは思わなかった。







ある日、友人と自宅で、受験に向けた最後の追い込みをしていた時。
ソイツは急に、俺の来ていた服の胸ポケットを指差して、こういった。



『その紙切れ、なんだお?』



( ^ω^)「僕だお!」





そう、お前だよ。

俺はすっかり忘れていたけど、あの日まで使っていたこの街の地図が、まだ入れっぱなしだったのだ。

俺は、ちょっと自由研究、なんて茶化しながら、その地図を机の上に広げてみる。
ブーンは、その上に書かれた、丸と矢印に首を傾げながら、「ナニコレ」と聞いてきた。

368 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:23:55 ID:UciS/vrE0
俺は真面目に説明しても、頭がおかしいと思われるのが関の山だと思って、こう言ったんだ。



「将来探偵になりたいから、尾行の練習してた」



すると、ブーンは、俺が予想もしてなかった、ある事を口走ったんだ。

覚えてるか?




『お前、妊婦さんでも追っかけてたのかお?』



「――は? なんで?」



『だって、この丸の位置、どのスタートも、レディスクリニックとか産婦人科とか総合病院から始まってるお』







――気が付かなかった。


俺は"ゴール"の事ばかり気にしていて、"スタート"の事を考えていなかったんだ。
言われてみれば、その丸を、あの溜め池から反対方向に辿っていくと、必ずどのルートでも、そういう病院にたどり着く。



ブーンは、いっとう汚いものを見る目で、『変態』とだけ言うと、また参考書に顔を落とした。

369 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:25:22 ID:UciS/vrE0

だけど、俺は勉強に集中できなかった。

何故なら、一つの"結論"にたどり着いてしまったから。

あまりにも、おぞましく、悲しい、"結論"




――アイツらは、"水子"だったのではないだろうか。



生まれてすぐに、いや生まれることも無く、流産や、死産や、中絶などで死んでしまった赤ん坊たち。


その、霊が、成長したとしたら?


呼吸もままらないままの成長が、"扁桃肥大相貌症"を形作る。


大人になれないまま、大人の真似事をして、そうやって、誰にも認知されないまま
寂しさと、苦しさと、恨みを引きずって、そうやってあの姿になったのだと。

そうして彼らは、あの池に集まっていく。
身を寄せ合う事で、寂しさを紛らわせながら、それでもなお、有り続ける。



――なんのために?



決まっている。

だって俺は、最後に聴いたじゃないか。

俺が意識を手放す、その一瞬に。

美しくも、悲しい、縋るような、祈るような、あの声を――。

370 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:26:22 ID:UciS/vrE0










               『ま ま ぁ 、 ど こ ぉ ?』











【扁桃肥大の水魚≪アデノイド・フィッシュ≫ 了】

371 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:27:24 ID:UciS/vrE0

【幕間】








('A`) 「どうよ?」

川 ゚ -゚)「短く綺麗にまとまっていたな」

ξ゚听)ξ「正直こういう話を待っていた感さえあるわね」

(´・ω・`)「王道もやっぱり必要だよね」

( ^ω^)「自分がキーになってるのになんか嬉しくなったお」

('A`) 「ちょっと前までが長すぎると思ってな。短く仕上げてみました」

(´・ω・`)「このくらいがちょうどいいのかもね」

ξ゚听)ξ「そうね」

( ^ω^)「――みんな」

('A`) 「どしたよ、そんなあらたまった顔で」

( ^ω^)「お腹空いたお……」

ξ゚听)ξ「そういえば、ここに入れられてから、何にも食べてないわね」

川 ゚ -゚)「じゃあ、食事休憩にしようか」

(´・ω・`)「了解」

ξ゚听)ξ「というわけで、閑話休題と行きましょう」


372 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:27:52 ID:UciS/vrE0

【閑話休題】










(´・ω・`)「さぁ、みんな、ごはんを持ってきたよ」

( ^ω^)「どこにあったんだお?」

(´・ω・`)「なんかね、そこの壁が、レンタルビデオの返却BOXみたいになってて、取っ手を引いたら、出てきた」

('A`) 「喰えんのか?」

ξ゚听)ξ「この水、ラベルに"乙"としか書かれてないんだけど……」

( ^ω^)「乙水だお」

ξ゚听)ξ「せめて原産地とか……」

('A`) 「でも普通に飲めるぜ?」ゴクゴク

川 ゚ -゚)「躊躇いなくいったな」

(´^ω^`)「くぅ〜、喉にしみるぅ〜」

ξ゚听)ξ「腹立つテンション止めなさいよ」

373 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:28:15 ID:UciS/vrE0

( ^ω^)「こっちの"感詰≪カンヅメ≫"はどうだお?」

川 ゚ -゚)「たしか、事前に"刑務官"殿から受けた説明では、
     中身の固形物にこの水をかけると、なんかパン的な、なんかそういう感じのやつが膨らむとか」

('A`) 「ごっつい曖昧で不安感だけ無駄に煽られるな」

( ^ω^)「かけるんだおっ!」


フワン


('A`) 「うわっ、なんかフワフワのカステラみたいなのになったっ!」

( ^ω^)「ほんの〜り甘くておいしいお」ムシャムシャ

('A`) 「マジぃ?」ムシャムシャ

ξ゚听)ξ「……ホントね」ムシャムシャ

(´・ω・`)「なんかこう、元気になる味だね」ムシャムシャ

川 ゚ -゚)「……」ムシャムシャ

('A`) 「クーさんめっちゃ無言でいっぱい喰いよるが」

川 ゚ -゚)「……」ムシャムシャ

ξ゚听)ξ「お気に入りの味だったみたいね」

川 ゚ -゚)「甘さ控えめタマゴボーロのカステラ版みたいで旨い」

('A`) 「ああ、言い得て妙だな」

374 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:28:47 ID:UciS/vrE0

(´^ω^`)「ともかく、これでまだまだ百物語を続けていけそうだねッ!」

(*^ω^)「"刑務官"殿に感謝だおッ!」

ξ゚听)ξ「これからは、10話毎に、休憩をはさみましょう」

川 ゚ -゚)「賛成だ」

(´・ω・`)「あと、こんな箱も一緒に入ってたよ」

( ^ω^)「なんだお?」

(´・ω・`)「分かんないけど、結構重いかな」

川 ゚ -゚)「>>341って書いてあるな」

341 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/07/15(土) 13:43:10 ID:ExEZAwAU0



擬人化・一週目ネタバレあり

どの話も怖くて好き
続きも楽しみにしてます

(*^ω^)「また差し入れなんじゃないかお!?」

ξ゚听)ξ「開けてみましょうよ」ワクワク

(´・ω・`)「それっ!」パッカァ~

ξ゚ワ゚)ξ「わぁっ!」

('A`) 「ケーキだっ!」

川 ゚ -゚)「しかも、表面に私たちの絵が描かれてるぞ」

(*^ω^)「うっひょぉ〜っ! 甘いものぉ〜っ!」

375 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:29:09 ID:UciS/vrE0

('∀`) 「丁度自分たちのところ食べようぜっ!」

ξ゚听)ξ「えっ」

川 ゚ -゚)「どうした、ツン」

ξ゚听)ξ「いや、その」

( ^ω^)「なんだお」

ξ゚听)ξ「わたしんとこ、目玉の砂糖菓子がいっぱい乗ってるから……」

川 ゚ -゚)「……」

(´^ω^`)「……さぁ、食べよう」

( ^ω^)「食べるおっ!」

ξ゚听)ξ「あの……」

(´・ω・`)「でも、どうやって食べるの? フォークとかないよ?」

川 ゚ -゚)「じゃあ、もう手づかみで行くしかないな」

( ^ω^)「女子の方が基本ワイルドだおね」

('∀`) 「うんまぁ〜いっ!」

( ;ω;)「甘いお、甘いお」

('A`) 「泣くなよ」

( ;ω;)「だって、こんなところにぶち込まれて、もう死ぬしかないって思ったのに、ケーキ喰えるんだもん……」

376 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:29:44 ID:UciS/vrE0

川 ゚ -゚)「……」モッチャモッチャ

(´・ω・`)「またクーさんが無言で喰いよるが」

ξ゚〜゚)ξ「……」コロコロ〜

('A`) 「ツンもついに、目玉の砂糖菓子を口の中で転がし始めたぞ」

( ^ω^)「クッソ真顔だお」

ξ゚〜゚)ξ「あと7個ある」コロコロ〜

(´・ω・`)「そっか」

ξ゚〜゚)ξ「うむ」コロコロ〜

(´・ω・`)「それから、こんなものも届いたよ」

川 ゚ -゚)「凄いな、致せりつくせりか?」

('A`) 「風呂とか無い割くせにな」

(´・ω・`)「漫画本みたいだね。>>345って書いてあるよ」

345 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/07/15(土) 23:46:48 ID:1MneE42c0



擬人化、8話ネタバレ有り
なんとなくショボさまのキャラ好きだ

377 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:31:11 ID:UciS/vrE0

(  ゚ω゚)「こ、これはッ!」

(  ゚ω゚)「今、週刊ファイナルで連載中の"恩――"」

(´^ω^`)「はい、そこまでにしようね」

(  ゚ω゚)「な、なんでだお!? 僕週刊ファイナルは、わざわざ隣町の一日早く買えるババァの本屋に行くくらい好きなんだお!」

(´^ω^`)「あんまり大声で叫ぶと、"刑務官"殿の心証が――」

(´゚ ω ゚`)「ね?」

( ^ω^)「はい、すません」

(´^ω^`)「あと、これ、僕のだから」

( ^ω^)「え?」

(´^ω^`)「だって、僕が書いてあるし、僕のだから」

( ^ω^)「え、ちょ、また壁に貼り付けて――」

(´^ω^`)「ぼ く の だ か ら」

( ^ω^)「――ハイ」

(´^ω^`)「別に独り占めはしないよ。みんなで読もう。でも僕のなので」

('A`) 「自分単品なのがうれしいんだな」

ξ゚听)ξ「一番テンション高いときのわがままショボちゃんモードね」

(´^ω^`)「うふふ」

378 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:31:34 ID:UciS/vrE0

('A`) 「ともかく、飯も食ってデザートも食べたし、また再開するか」

ξ゚听)ξ「そうね、私三日もお風呂入れないとか嫌だからね」

('A`) 「いま、どれくらいたったんだ?」

川 ゚ -゚)「――6時間くらい経過しているはずだ」

ξ゚听)ξ「単純計算で、×10だとすると、60時間はこの独房にいっぱなしってことね」

(´・ω・`)「二日と半日か――」

川 ゚ -゚)「楽観視は良くない。何が起こるか、"何をされるか"、私たちに知る由もないのだから」

ξ゚听)ξ「そうね、気は引き締めておきましょう」

ξ゚听)ξ「ちょっとここで、自分達の話の傾向を整理しておきましょうか」

( ^ω^)「それぞれの得意なジャンルってことかお?」

川 ゚ -゚)「ある程度お互い把握しておくことで、話のかぶりを少なくしていこう」

('A`) 「わかった」

( ^ω^)「じゃあ、まず僕から行くおっ!」

379 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:32:10 ID:UciS/vrE0



( ^ω^)「僕は、霊感とかない代わりに、変な出来事に遭う事が多いお。SF(すこしふしぎ)とでも言えばいいかお?
       割と自分自身が巻き込まれるタイプのお話が多いと思うお」



川 ゚ -゚)「次は私だ。私は、女の嫌な部分を煮詰めたような話が多い。美、愛、憎、醜、金。それから病院にコネがあるから、
    そういった話も多いと思うぞ」



(´^ω^`)「僕は、宇宙人やUMA、動物なんていう実体のあるものと関わることが多いかな。やっぱり、いいハンターってのは
      動物に好かれちまうからねっ!」




ξ゚听)ξ「私は、基本友達の話をするわ。他の4人よりも友達は多いつもりだから。あと、その関係上、学校に関する話が多くなってくると思うわ」




('A`) 「俺は、ホラーど真ん中の、幽霊とか、呪いとか、多分そういうのが多くなるはずだ。一応このメンバーの中では霊感が一番強いからな。
    それから、割と旅行好きだったりするから、土着信仰とか、因習風俗にも少し詳しいかも」

380 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:33:11 ID:UciS/vrE0

( ^ω^)「こんなところかお?」

ξ゚听)ξ「ぎりっぎり被ってないわね」

川 ゚ -゚)「でも、これも目安に過ぎないから、必ずしもこれらに縛られた話しかしない訳じゃないぞ」

('A`) 「結局のところ前にショボがいったみたいに"邪推なし"が一番いいのかもな」

(´・ω・`)「あくまでこちら側が、上手く話せるようにっていうまとめだよね」

川 ゚ -゚)「まぁ、"刑務官"殿は、これを参考にして"題"を出してもいいし、出さなくてもいいな」

( ^ω^)「ていうか、未だに結構まともな"題"が続いててビクビクしてるお……」

川 ゚ -゚)「まだ序盤も序盤だしな」

ξ゚听)ξ「後半が怖いわね」

(´・ω・`)「じゃあ、早速、第11話、いこうか」

('A`) 「"題"は>>385でいいな?」

( ^ω^)「おkだお」


ξ゚听)ξ「それじゃ、次の"解"を求めましょう」

385 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/07/16(日) 15:53:45 ID:NHmBXkfY0
安価なら下

386 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/07/16(日) 15:54:51 ID:5YyfbvnQ0
指揮者

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