('、`*川 フリーターと先生の怪奇夜話、のようです (´・_ゝ・`)

第五夜『憑かれた青年の話』

145 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 02:13:23 ID:ykXILoO2O

 今回は厳密に言えば、私と先生の話ではない。
 だけど、話さなければいけないと思う。
 私にとっては、怖い話ではなく、哀れな話なのだけれど。



 その青年は、爽やかな感じのする、どことなく好感を持てる人だった。
  _
( ゚∀゚)「ほんと、大した話じゃないんですよ」

 彼はアイスコーヒーにミルクとガムシロップをたっぷり入れて、
 ストローでぐるぐる掻き混ぜた。

 甘くて飲めたものじゃないだろうと思える量だ。
 彼は、照れ臭そうに笑った。
  _
( ゚∀゚)「こうしないと飲めなくて」

('、`*川「はあ……」

(´・_ゝ・`)「普通にジュース飲めばいいんじゃないかな」

 対して、先生はブラックのままアイスコーヒーを飲んでいる。
 こっちはこっちで、私には飲めそうにない。

146 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 02:16:06 ID:ykXILoO2O

(´・_ゝ・`)「それはともかく、早く話してくれる?」
  _
( ゚∀゚)「あ、はいはい」

 私は隣に座る先生を一瞥し、鬱屈した気持ちを溜め息に込めて吐き出した。
 バナナジュースに刺さっているストローをくわえる。

 何だって、喫茶店で怪談を聞かされねばならないのだろう。



   第五夜『憑かれた青年の話』


.

147 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 02:17:56 ID:ykXILoO2O

 今回も、発端は「偶然」だった。

 夕方にバイトが終わって、お気に入りの喫茶店で休んでいるところに
 先生が青年を連れて来店したのだ。

 一番奥のテーブルにいた私は、すぐに気付けなかった。
 隣のテーブルにつこうとした先生と目が合ったときには、もう遅い。

(´・_ゝ・`)『やあ伊藤君。やあやあやあ』

 有無を言わさず、先生は私の隣に座り、向かいに青年を座らせた。
 注文したばかりだったけど、帰ろうかと思った。

(´・_ゝ・`)『伊藤君、怖い話聞かない?』

('、`;川『はあ?』

(´・_ゝ・`)『いいかな長岡君。この子、僕の知り合いなんだけど』
  _
( ゚∀゚)『俺は構いませんよ』

('、`;川『なっ、何で私が怖い話聞かなきゃいけないの!?』

(´・_ゝ・`)『怖い話をすると「寄ってくる」って言うじゃない。
        幽霊に好かれる君がいれば、すごいのが来るかもしれない』

 そうこうしている内にバナナジュースが来て、この店のバナナジュースが好きな私は
 散々迷って迷って迷って、果たして、その場に留まった。

148 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 02:20:17 ID:ykXILoO2O

 青年は長岡ジョルジュと名乗った。
 VIP大学の教育学部に所属する、私と同い年の学生だという。
 先生の教え子の友人であって、青年と先生自体は、ほぼ初対面らしい。

 その教え子が、先生に「変な体験した友達がいる」と話したのがきっかけだったとか何とか。
 詳しく聞いてみるとオカルトのニオイがしたので、本人から話を聞くことにした。らしい。

 それで喫茶店に来てみたら私と会った、というわけだ。
 教授と学生なら大学で話せ。こんなところに来るな。
 胸の内で文句を吐き出し、冒頭に至る。

149 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 02:21:50 ID:ykXILoO2O

  _
( ゚∀゚)「もう解決したから、多分、話しても大丈夫だと思います」

 青年はにこにこ笑っていた。
 彼が先に言ったように、大した話ではないのかもしれない。
 彼は紙ナプキンを一枚取ると、先生からペンを借りた。

 さらさらと慣れた様子でペンを走らせ、私達に差し出す。
 そこに描かれていたのは、人のような形をした何かだった。
  _
( ゚∀゚)「絵、下手だから上手く描けないけど……一時期、こんな感じのやつに付き纏われてたんです」

 ぼうぼうに伸びた髪。
 両目と口の辺りは真っ黒に塗り潰されている。

 私が青年の顔を見ると、彼は、自身の目を指差した。
  _
( ゚∀゚)「目がね、なかったんですよ」



*****

150 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 02:23:25 ID:ykXILoO2O

 S病院は「出る」。
 友人は興奮した様子で、俺に語った。

<_プー゚)フ「マジだって! 先輩が見たらしいぜ」
  _
( ゚∀゚)「お前、嘘つかれてんじゃねえの」

 夜だから怖い話でもしよう、なんて言うからどんな話が出てくるかと思ったら。

 S病院は有名な心霊スポットだった。
 とはいえ廃病院なんてものは、事実がどうあれ、心霊スポット扱いされる宿命にあると思う。

 そのS病院も御多分に漏れず、馬鹿な奴らの肝試しの末に、
 出る、なんて噂が流れるようになっていた。

<_プー゚)フ「聞けって。あのな、先輩が仲間と一緒に肝試しに行ったんだと。
       したら、病室の前でババアが手招きしてたり手術室から足音がしたり……」
  _
( ゚∀゚)「はいはい」

 俺はこれっぽっちも信じなかった。
 幽霊を信じていないわけじゃない。
 ただ、廃病院だからって、必ず霊が出るわけじゃないだろうと思っているだけだ。

 聞き流す俺に、友人も苛立ってきたのだろう。
 突然俺の腕を引っ掴むと、車に乗り込んだ。

151 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 02:24:45 ID:ykXILoO2O

<_プー゚)フ「行くぞ!」
 _
(;゚∀゚)「はあ!? ふざけんな!」

<_プー゚)フ「お前マジでビビっても知らねえからな」



 ──が、案の定、何事もなく肝試しは終わった。
 というよりも友人が怯えすぎて、何かが起こる前にさっさと退散してしまったと言うのが正しい。

<_フ;゚ー゚)フ「絶対俺ら以外の足音してたって……」
  _
( ゚∀゚)「気のせいだろ」

 割れた窓からS病院を出る。
 車へ戻ろうとして──俺は、ぎょっとした。

 車の傍、運転席側に何か立っている。

152 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 02:26:31 ID:ykXILoO2O

<_フ;゚ー゚)フ「あー、気味わりい。帰って飲もうぜ」
  _
( ゚∀゚)「……おう」

 友人には見えていないらしかった。

 そいつの前を通り、友人が運転席に座る。
 俺は助手席のドアを開けながら、向かいにいる「そいつ」を見た。

 その辺の男よりも背が高い。
 伸びきったぼさぼさの髪、白い服──というより、布切れ。
 そいつの顔が目に入り、凍りついた。

 目がない。
 両目がある筈の部分は、眼球をくり抜かれたようにぽっかりと穴があいている。

 口は開きっぱなしで、こちらも、黒い穴があるみたいだった。

 視線を逸らし、助手席のシートに腰掛けた。
 車が走る。そいつはその場に佇んだまま動かない。
 遠ざかっていくのをルームミラーで確認し、ほっと息をついた。


.

153 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 02:27:57 ID:ykXILoO2O


 数日後。
 大学で講義を受けている最中、何気なく窓から外を見下ろして、凍りついた。

 正門の前に変な奴がいる。
 ぼさぼさの髪に白い服。
 遠目だったが、間違いなくあいつだ。

 だって、そいつは顔を上向けて、俺の方を見ていた。
 眼球のない目で、俺を見ていた。

 何人かの学生が正門を通っていくが、誰1人としてあいつを気にする様子はない。
 一旦講義室に視線をやってから再び窓を見ると、もう、あいつはいなかった。

.

154 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 02:29:27 ID:ykXILoO2O

 それから、度々そいつを目にするようになった。

 見かけるときはいつも遠くにいるから、単なる勘違いだとか、
 見間違いだと思い込むようにしていた。
 けれど、そいつを見たときに覚える寒気と恐怖が、奴の存在を証明している気がした。

 大学の構内。
 アーケードの人混み。
 電車の隣の車両。

 そいつは必ず俺に顔を向けていた。



 ある日、ふと気付く。

 ──段々近付いてきてないか?

.

155 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 02:31:26 ID:ykXILoO2O

 そのことに気付くと、そいつは、街中や大学には現れなくなった。
 代わりに、俺が住むアパートの周りに佇むようになった。

 初めは、アパートを出てしばらく歩いた先の曲がり角に。
 その2日後はアパートから3本目の電柱の傍に。
 さらに2日後には、3本目と2本目の電柱の間に。

 じりじりと、距離を詰めている。

 俺が奴の前を通り過ぎても、奴は、追ってきたり触れてきたりはしない。
 ただひたすら佇み、数日経つとアパートに近付いている。

 気味は悪いが、危害を加えてくることはない。
  _
( ゚∀゚)(そんなに『危ない』奴じゃないのかも)

 そう思ってしまうくらいには、平和だった。

156 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 02:33:12 ID:ykXILoO2O

 しかし、その期待は早々に裏切られる。

 ある夕暮れ。
 1本目の電柱に寄り添っている「奴」の前を通り過ぎたところで、
 向こうから野良猫が近付いてきた。

 猫は俺の横を過ぎると、めちゃくちゃに威嚇し始めた。
 他に人や猫はいなかった筈なので、「奴」に向けて威嚇したのだろう。

 何となく気になって振り返ろうとした、瞬間。

 猫の声が、首を絞められたみたいに、妙に詰まったような感じで途切れた。
 直後、ぶちぶちと何かが千切れるような音と、ぐちゃぐちゃ、掻き混ぜる音が響く。

 俺は走り出し、アパートには入らず、友達の家まで逃げた。

.

157 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 02:35:31 ID:ykXILoO2O


<_フ;゚ー゚)フ「マジかよ……やばくねえ?」

 俺の話を聞いた友人が、あんぐりと口を開ける。
 彼は俺を馬鹿にすることなく、真面目に聞いてくれた。
 これからどうする、と問う友人に、どうしよう、と答える。

<_フ;゚ー゚)フ「とりあえず、しばらくこの部屋に泊まってけ」
  _
( ゚∀゚)「いいのか?」

<_フ;゚ー゚)フ「俺だったら怖すぎて帰れねえもん。
        第一、俺が病院に連れてったせいでこうなったんだろ」

 お言葉に甘えて、俺は友人の家に数日ほど泊まった。
 ここにまで「奴」が来るのではないかという不安でいっぱいだったが、
 そういったことはなかったのが救いだ。

 だが、いつまでも友人の家にいるわけにもいかない。
 友人と一緒に、お祓いをしてくれる場所を調べた。
 あいつを何とかしないと、家に帰れないからだ。

158 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 02:38:02 ID:ykXILoO2O

 インターネットや人脈を駆使し、ようやく信頼出来る神社を見付ける。
 アポをとった方がいいというので、電話を掛けたら──

 「申し訳ありません」。

 これだけ言って、電話を切られた。
 もう一度掛けてみると、自分にはどうしようも出来ない、と言われた。
 それだけ。

<_フ;゚ー゚)フ「どうだった?」
 _
(;゚∀゚)「無理って言われた……」

 他の候補にも電話を掛けてみたが、どこも返事は似たり寄ったり。
 たまに、引き受けると言うところもあったけれど
 とんでもない金額を吹っ掛けてくるので、こちらから断った。

 手詰まり。
 申し訳ありません、と言う神主の声が頭の中を巡る。
 そんなに恐ろしいものに取り憑かれたのかと思うと、震えが止まらなかった。

 どうして俺ばっかり、こんな目に。
 一緒に行った友人は平気なのに、何で俺だけ。

159 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 02:42:07 ID:ykXILoO2O

 溢れ返る不安に耐えかねて友人に当たり散らしたが、
 それでも友人は、真剣に対処法を考えてくれた。

<_フ;゚ー゚)フ「思い切って引っ越そうぜ。
        ほら、その霊は俺のうちには来ないんだろ?
        ってことは、そいつ、あのアパートしか狙ってないんじゃねえかな」

 もう、それしかないだろう。
 俺は実家に泣きついて金を借り、アパートからなるべく離れた引っ越し先を探した。



 引っ越しが決まり、荷物を整理するため、久々にアパートに戻った。

 ドアの前にあいつがいた。

 吐き気が込み上げて、蹲る。
 今回の件を知らない友達を何人か呼んで、彼らに準備を済ませてもらった。

.

160 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 02:45:32 ID:ykXILoO2O


 引っ越し先は小綺麗なマンション。
 家賃は高めだが、趣味や娯楽を我慢すれば、バイト代で何とかやっていける。

 そこに越してから、一度も「奴」を見なくなった。
 初めはびくびくしていたけれど、2週間、3週間、一ヶ月もすると、
 逃げ切れたという気分に浸ることが出来た。


 引っ越して一ヶ月半。
 夜、トイレで用を足しているときのこと。
 こつ、と、トイレの窓が鳴った。

 磨りガラスの向こうに、白い何かがある。
 丸い穴が3つあいたような──顔。

 一秒も経たない内に、それは消えた。

 呆然として、固まる。
 ようやく動けるようになるまで10分以上かかった。


.

161 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 02:47:42 ID:ykXILoO2O

 ──逃げられなかったのだ。
 絶望感で、何日も眠れなかった。

 また友人の家に泊まろうか。
 でも、泊まって、その後はどうする?

 どうせお祓いはしてもらえないし、あいつからは逃げられない。
 ずっと友達の家にはいられない。

 どこに行っても無駄。
 何をしても無駄。

.

162 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 02:49:36 ID:ykXILoO2O

  _
(  ∀ )「……」

 越してから2ヶ月。

 俺は風呂に入りながら、漠然と、答えの出ない悩みを繰り返していた。
 怖い。怖い。どうしよう。

 湯に浸かり、現実から目を背けるように瞼を下ろした。

 寝不足が祟ったのか、俺は、湯船の中で眠りに落ちた。

163 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 02:52:01 ID:ykXILoO2O


 ──くしゃみで目を覚ました。
 お湯が、すっかりぬるくなっている。

 早く出ないと風邪を引く。
 両手で掬ったぬるま湯を顔にかけ、俺は湯船の縁に手をついた。
  _
( ゚∀゚)

 目の前。
 「奴」が、お湯から顔の上半分を出して、俺を見ている。

 長い髪が湯船の中でゆらゆら揺れている。

 手が伸びてきた。
 異様に細くて、薄くて、皺だらけの手。

 俺は咄嗟に目を閉じる。
 瞼の上を、冷たい指がなぞる。

164 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 02:52:31 ID:ykXILoO2O





 ああ。

 つかまった。



*****

165 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 02:54:12 ID:ykXILoO2O


 そこで青年は話を終えた。
 しばらく待って、私は口を開く。

('、`;川「……あの……」
  _
( ゚∀゚)「はい?」

('、`;川「終わりですか?」
  _
( ゚∀゚)「はい」

 にこにこ、青年は笑っている。

('、`;川「はい、って……それからどうしたんです?」
  _
( ゚∀゚)「どうって?」

('、`;川「いや、だってあなた最初に、もう解決したって……」
  _
( ゚∀゚)「しましたよ」

 青年が首を傾げる。
 傾げたいのはこっちの方だ。

166 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 02:55:27 ID:ykXILoO2O

('、`;川「そ、その霊はどうなったんですか?」
  _
( ゚∀゚)「いなくなりました」

('、`;川「どうして? 誰も祓えないんでしょ? お風呂場で会った後、どうな──」

(´・_ゝ・`)「長岡君」

 先生が、私の言葉を遮った。
 私と青年の瞳が先生に向かう。
 先生はアイスコーヒーを飲み、青年の前のグラスを指差した。

(´・_ゝ・`)「君、一口も飲んでないよね」

('、`;川「は?」

 青年のグラスの中身は、半分ほどに減っている。
 飲んでいない筈がない──そう言おうとした私の顔が、青ざめた。

 私の記憶が正しいかは分からない。
 けれど、たしかに、私は青年がコーヒーに口をつけるところは一度も見なかった。

167 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 02:57:27 ID:ykXILoO2O
  _
( ゚∀゚)「そうですね」

(´・_ゝ・`)「……たくさん話して喉が渇いたろう。飲んだら?」
  _
( ゚∀゚)「俺、甘いコーヒーって苦手なんですよ。コーヒーは何も入れない派です」

 にこにこ。にこにこ。
 青年が笑う。

 「こうしないと飲めない」。そう言ったのは、彼本人だ。

('、`;川(……誰が……)

 ──誰が、「こうしないと飲めない」のだろう?

 私は思わず先生の腕を掴んだ。
 先生は一度視線で抗議したが、そのままにさせてくれた。

168 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 02:59:42 ID:ykXILoO2O

(´・_ゝ・`)「君、まだ解決してないんじゃないの」
  _
( ゚∀゚)「何がですか? 終わりましたよ? 俺はもう平気ですよ。
     何もありません。解決したから。大丈夫です。
     もう大丈夫です。解決しました」

 青年の表情は変わらない。
 初めに抱いた印象と同じ。爽やかな笑顔。

 不意に、携帯電話の着信音が響いた。
 心臓が飛び出るほど驚いた私を他所に、先生は懐から携帯電話を出し、耳に当てた。

(´・_ゝ・`)「はい? ……ああはい、すみません、行きます。はい」

 レポートがどうたら資料がどうたらという声が、携帯電話から聞こえてくる。
 先生は通話を切って、腰を上げた。

(´・_ゝ・`)「楽しい話をありがとう、長岡君。
        僕は仕事があるから戻るよ」
  _
( ゚∀゚)「はい。こちらこそ、こんな話に付き合ってくれてありがとうございます」

 もう大丈夫もう大丈夫と呟いていた青年は、先生の声で我に返ったのか、こくりと頷いた。

169 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 03:01:07 ID:ykXILoO2O

(´・_ゝ・`)「お金は払っておくから、君はゆっくりしてていいよ」
  _
( ゚∀゚)「すいません、ご馳走になります」

('、`;川「あ……せ、先生」

 伝票を持った先生が、レジに歩いていく。
 私は青年と2人きりにされるのが恐くて、慌てて先生の後を追った。

 私の分まで会計を済ませてくれた先生は、私に、「送ろうか」と声をかけた。
 どうせまた社交辞令だろうが、頷いて返す。

.

170 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 03:04:45 ID:ykXILoO2O

 外はもう暗かった。
 店を出て、恐る恐る振り返る。
 ガラス越しに青年が見えた。


 彼の後ろに寄り添う、人のようなもの。

 ぼさぼさの髪に白い服、顔は──



 私は目を逸らし、先生の車に乗り込んだ。



*****

171 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 03:10:08 ID:ykXILoO2O


(´・_ゝ・`)「幽霊がどうこうより、彼の方が恐いな、僕は」

 帰りの車中で、先生は呟いた。
 どう答えていいか分からなくて、私は窓を眺めたまま沈黙する。

('、`*川「……先生、何とかしてあげられないの?」

(´・_ゝ・`)「本職の人が何も出来ないのに、どうしろって言うのさ。
        僕が下手に干渉しても、彼の寿命を縮めるだけな予感もするし。
        まあ興味はあるから、彼の友人を通じて観察はしてみたいね」

('、`*川「……先生、良識って言葉は知ってる?」

 彼を救う術はないのだろうか。
 見て見ぬふりをすることが、彼にとっての「逃げ道」なのだろうか。
 憑かれて、疲れて。それが、あの結果か。

 恐いというよりも、何だか──可哀相でならなかった。

172 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/08(水) 03:10:55 ID:ykXILoO2O



 青年がその後どうなったのか、私は知らない。





第五夜『憑かれた青年の話』 終わり

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