-
496 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:16:03 ID:lfiOLhV.O
-
( ゚д゚ )「……卑猥なことを考えると、霊が寄ってこないってネットで見た」
ミルナさんが呟く。
青ざめて震えている彼に、果たして「卑猥なこと」を考える余裕があるのかは、甚だ疑問だった。
('、`*川「……まあ、頑張ってください」
私は適当に答えて、前を歩く先生の背中に目をやった。
──場所は小学校の2階廊下。時刻は深夜1時。
小学校といっても、もはや通う生徒も教師もいない廃校だ。
ありがちな心霊スポット。結構有名だそうだけど。
バイト帰りに先生の車に引っ張り込まれたときには、既にミルナさんが助手席に乗っていた。
なんでも、初めは彼だけを連れていく予定だったのに、
私を見付けたミルナさんが「どうせだから3人で行きましょう」と先生に訴えたらしい。
多分、自分だけが犠牲になるのを嫌ったミルナさんが
私を道連れにしようとしたのだろう。
-
497 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:17:15 ID:lfiOLhV.O
-
思い出したら腹が立ってきたので、隣を歩くミルナさんを睨んだ。
それに気付いたミルナさんが、ごめん、と口を動かす。
(´・_ゝ・`)「こういう場所で、こっくりさんやりたいなあ……」
教室を覗き込み、中を懐中電灯で照らしながら先生が言う。
備品などからして、ここは理科室らしい。
壁に落書きがされていたり、床に割れたガラスが散乱していたり。随分荒らされている。
有名な心霊スポットということは、それだけ多くの人が来るわけで。
こういうところに来るのは、大抵、常識に欠けた人逹なわけで。
この理科室に限らず、校内は散らかり放題だった。
ちなみに前述の「常識に欠けた人」は先生も含まれる。
(;゚д゚ )「こ、こっくりさんって、何言ってんですか先生!」
(´・_ゝ・`)「すごいのが来そうだと思わない?」
(;゚д゚ )「その『すごいの』が来て喜ぶのは先生だけでしょうよ」
(´・_ゝ・`)「でも準備もしてきたんだよ」
先生が、懐から折り畳まれた紙を出した。
広げたそれに書かれているのは、例の、鳥居とか五十音とか。
すかさずミルナさんが紙を奪って破いてポケットに突っ込んだ。
-
498 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:18:47 ID:lfiOLhV.O
-
( ゚д゚ )「……ただ校内を歩いて回るだけって約束の筈ですが」
(´・_ゝ・`)「ミルナ君は厳しいなあ……。
伊藤君は単純だから何だかんだで絆されてくれるのに」
('、`*川「え? 何? 急に馬鹿にされた?」
第十四夜『廃校闊歩』
.
-
499 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:21:11 ID:lfiOLhV.O
-
(´・_ゝ・`)「──昔、低学年の生徒と教師で遠足に行ったそうだ」
3年生の教室。
真ん中の席に腰掛けた先生が、この学校が心霊スポットたる所以を語り始めた。
聞きたくもなかったしさっさと帰りたかったのだけど、
先生が「帰る」と言わない以上、私とミルナさんは先生に付き合うしかない。
何せ車で2時間以上もかけて連れてこられた挙げ句、
ここが何という土地なのかすら私は知らないのだ。1人で帰るのは難しい。
校門にあった銘板も落書きまみれで読めなかったし。
(´・_ゝ・`)「行く途中で落石があって、生徒達の乗っていたバスがそれに巻き込まれた」
(;゚д゚ )「……まさか死人が出たとか」
(´・_ゝ・`)「全員死亡──っていう噂もあるけど、それはちょっと脚色されてるね。
3分の1は生き残ったみたいだよ」
-
500 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:22:20 ID:lfiOLhV.O
-
('、`;川「3分の1って、じゃあ他の子は亡くなったの?」
(´・_ゝ・`)「うん。それと引率の教師は3人全員無事だった」
先生が口を閉じる。
途端、静けさが場を包んだ。
耳を澄ましたら何かが聞こえてしまいそうで、私は首を振った。
机の上に立てられた懐中電灯は天井を照らし、
机を囲む私逹には、申し訳程度の光しか与えていない。
('、`*川「それから、どうなったの」
(´・_ゝ・`)「もともと地域の子供が少なくなってきてたのに加え、
その事件で生徒が大幅に減ってしまった。
間もなく他の小学校と合併して、こっちは廃校になったらしい」
先生は腰を上げた。
懐中電灯を持ち、窓辺に寄る。
-
501 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:24:15 ID:lfiOLhV.O
-
ちょいちょいと先生が指で「来い」というような仕草をしたので、私は先生の隣に移動した。
私を見た先生が、にやりと笑う。
少し間をあけ、私は振り返った。
笑みの理由を悟る。
(´・_ゝ・`)「ほらね、伊藤君って単純だろう」
(;゚д゚ )「単純っていうか、警戒心が薄いだけじゃ……」
ミルナさんは椅子に座ったままだった。
そうだ、先生がわざわざ移動して呼ぶ時点で、何かしら企んでいる可能性が高い。
ろくに考えずに付いていく私は、自分で言いたくないが、馬鹿だ。
今更だけど。
先生は窓を開け、腕を外に出して懐中電灯を前方へ向けた。
数メートル先に窓がある。
その向こうは、ここと似たような作りの教室だった。
-
502 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:25:07 ID:lfiOLhV.O
-
(´・_ゝ・`)「左側が1年生、右側が2年生の教室」
('、`;川「遠足行った学年?」
(´・_ゝ・`)「そう。
あそこが、一番『出る』んだって」
私は目を逸らした。
見て堪るか。
(´・_ゝ・`)「ネットで見た体験談によると、子供の笑い声が聞こえたとか」
('、`;川「あーあー」
(´・_ゝ・`)「肝試しに来た若者逹がこの教室に入って、
ふとあっちの教室を見たら、窓に子供の顔が並んでたとか」
('、`;川「あーあーあー」
耳を塞ぐ。
先生から離れ、ミルナさんの隣に座った。
-
503 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:26:42 ID:lfiOLhV.O
-
(;゚д゚ )「……」
('、`;川「……ミルナさん、めちゃくちゃ瞳孔開いてますよ」
ミルナさんはすごい目で携帯電話を見つめていた。
携帯電話の明かりに照らされたミルナさんの目は、ちょっとした幽霊より恐かったかもしれない。
よく見ると、震えている。
(´・_ゝ・`)「ミルナ君は子供の幽霊が苦手だからね」
('、`;川「そうなの?」
(´・_ゝ・`)「去年だったかな、僕と一緒に心霊スポット行ったときに、
やたらと頭の大きな子供の霊に付き纏われたらしくて。
軽いトラウマみたいなものだね」
くつくつ、先生が笑う。
そんなミルナさんを小学校に連れてくるって、血も涙もない。
('、`;川「あの、大丈夫ですか?」
(;゚д゚ )「……うん……」
-
504 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:27:54 ID:lfiOLhV.O
-
携帯電話を覗き込んでみる。
表示されているのはアダルトサイトだった。
この人、大丈夫だろうか。色々と。
どん引きしてから、廊下を歩いたときのミルナさんの呟きを思い出した。
いやらしいことを考えると霊が寄ってこないとか何とか。
('、`*川「……変なリンクとか踏まないように気を付けてくださいね」
(;゚д゚ )「うん……」
(´・_ゝ・`)「何? ミルナ君は何見てるの?」
('、`*川「『わたしのヒミツの体験談』みたいなタイトルは見えた」
ミルナさんを見る先生の、瞳の冷たさったらなかった。
懐中電灯の光に蛾が寄ってくる。
それを振り払い、先生は窓を閉めた。
-
505 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:28:46 ID:lfiOLhV.O
-
食い入るように携帯電話を睨むミルナさんだけど、
警戒しているのか、たまに視線をあちこちに向けるし震えっぱなしだし、
気休めにもなっていなさそうだった。
よくよく考えてみると、心霊スポットに居座ってアダルトサイトを見るって、
ミルナさんが一番バチ当たりなことをしているような。
(´・_ゝ・`)「ミルナ君、敢えて言うけどさ」
(;゚д゚ )「ふ、ひ、ひゃ、はいっ?」
(´・_ゝ・`)「意味ないと思うよ、それ」
ああ、ばっさり切り捨てた。
-
506 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:30:31 ID:lfiOLhV.O
-
(;゚д゚ )「いや、あの、性欲は生命の根源に関わるものだから、死者とは相性が悪いって聞い……」
(´・_ゝ・`)「その理論は僕も見たことある。反論もたくさんあった。僕も反対派だ。
幽霊が性欲を嫌うのなら、ラブホテルに怪談が多いのはどうなるの、とかね。
実際に伊藤君はラブホテルで幽霊を見てるし」
(;゚д゚ )「う」
(´・_ゝ・`)「極論で、自慰をすれば霊が退散するっていう説もあったな。
それは退散するわけじゃなくて、ただ単に『そっち』に本人の意識が集中して、
霊による何かしらの干渉に気付きにくくなるだけだと僕は思う」
物凄く下らない話をしているなと思うと、私の中にあった恐怖心が若干薄れた。
場所が教室ということもあって、ちょっと授業っぽく感じる。
(´・_ゝ・`)「つまり、あくまで『気が紛れる』だけだ。
性欲とそれに関わる行為そのものに、除霊のような効果はないんじゃないかな」
(´・_ゝ・`)「だから、既に怯えきっている君がそんなことをしたところで
無意味なんじゃないのかと言いたい」
先生は「先生」だから、持論を語るのときは張り切る。
少し楽しそうにも見えたので、多分、ミルナさんが反論してくるのを期待していたのだろう。
まあ、私も、先生の意見に概ね賛成だ。
色情霊だったか、そういう存在を貞子ちゃんから聞いたことがあるし。
それに、そんなことで霊が退散するなら、心霊現象に悩む人なんていない。
-
507 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:32:12 ID:lfiOLhV.O
-
ミルナさんは携帯電話を握り締め、涙目で答えた。
( ;д; )「そ、そんなの、俺だって心から信じてたわけじゃないけど!
でも多少の期待だってあったんだよ!
それを真っ向から叩き潰さないでくださいよ!!」
(´・_ゝ・`)「うん、まあ、幽霊だって色々いるから、
嫌悪感を抱いて逃げていく霊も居るかもしれないよ。
ただ大半はそんなの関係ないだろうし、逆に怒らせかねないよね」
( ;д; )「最後の一言いらねえ!!」
ぱしん、と、どこからか音が鳴った。
ミルナさんが息を吸い込み、口を噤む。
(´・_ゝ・`)「ほら怒らせた」
そろそろミルナさんが本気で泣きそうだったので、私は先生を一睨みした。
('、`*川「ただの家鳴りみたいなもんでしょ」
(´・_ゝ・`)「でもタイミング良かったよ」
('、`*川「たまたまじゃないの?」
-
508 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:33:05 ID:lfiOLhV.O
-
先生はどうあってもミルナさんを追い込みたいらしかった。
彼の恐怖心を煽るのが楽しいのか、それとも怖い話をすると霊が寄ってくる説を実践しているのか。
正直なところ私も存分にビビっていたけれど、
それを先生に悟られたら今度は私が餌食になりそうだったので、平気な顔を装った。
先生は窓に目をやって、懐中電灯をゆらゆらと揺らす。
(´・_ゝ・`)「いま何時?」
('、`*川「え? ええと……」
( ゚д゚ )「2時ちょっと過ぎです……」
ミルナさんがか細い声で答え、携帯電話を閉じる。
丑三つ時。私は情けない顔をしただろう。
-
509 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:34:04 ID:lfiOLhV.O
-
('、`*川「……ねえ、そろそろ帰らない? 今から帰ったら、もう朝になるわよ」
(´・_ゝ・`)「んー……伊藤君逹、何か幽霊とか見てないの?」
('、`*川「今のところは、別に」
( ゚д゚ )「俺もです……というか今の状況で何か見たら心臓止まります……」
(´・_ゝ・`)「うーん」
先生は動かない。
ふと、気になったことがあった。
('、`*川「ねえ先生。何でこの教室にいるの?」
(´・_ゝ・`)「ん?」
('、`*川「向こうの教室の方が幽霊出やすいんでしょ?
先生なら、そっちに行きたがりそうなもんだけど」
言いながら、嫌な予感がした。
あの先生がわざわざ確率の低い場所を選ぶなんて、何か裏があるに違いない。
案の定、私の予感は当たっていた。
-
510 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:35:09 ID:lfiOLhV.O
-
(´・_ゝ・`)「ここでの体験談は、ネット上の掲示板やブログにたくさん載っているんだけど、
それらの多くに、ある『現象』が共通している」
(;゚д゚ )「……どんなのですか」
(´・_ゝ・`)「廊下を通る声」
遠くで笑い声が聞こえた。
子供の甲高い声に似ていた。
ミルナさんが肩を跳ねさせる。
私と視線を交わし、互いに聞き間違いでないことを確認する。
先生は首を傾げていた。
(´・_ゝ・`)「どうしたの」
('、`;川「いや……笑い声が……」
答えている内にまた聞こえた。
声が増えている。
ミルナさんが再び震え出した。
-
511 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:36:59 ID:lfiOLhV.O
-
もう一度、笑い声。
さっきより大きい。
違う。近付いているのか。
身を強張らせる私達に先生が色々訊ねてきたが、答える余裕がない。
声を出したら「気付かれる」ような気がして、喋りたくなかった。
そうする内に声がどんどん近付いてくる。
ミルナさんは顔を両手で覆って俯いていた。
大勢の人の声だ。
ほとんどが子供の。
一度、低い声がして、子供逹の声が弱まる。
大人に注意された子が口を噤む光景が思い浮かんだ。
-
512 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:38:08 ID:lfiOLhV.O
-
そして私は、それを見た。
開きっぱなしの、教室の入口。
その前の廊下を、何人もの影が通り過ぎていく。
囁き合う声。
笑い声。
大人ほどの背丈のシルエットが2つ、先頭を歩く。それに続く影はどれも背が低い。
みんなの背中の部分に膨らみがある。
多分、リュック。
怖くはなかった。
子供逹の声が楽しげで、その足取りが軽快で。
寧ろ微笑ましくて──それでいて、何だろう、悲しかった。
-
513 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:38:45 ID:lfiOLhV.O
-
こっそりミルナさんの様子を窺うと、彼は指の隙間から廊下を見ていた。
もう震えていない。
瞳に、怯えはなかった。
数十人の影が過ぎ去り、最後尾にいた大人の影が視界から消えた。
声が遠ざかる。
何も聞こえなくなって、私とミルナさんは、同時に大きく息を吐き出した。
(´・_ゝ・`)「また君達だけ見えたの?」
('、`*川「大人と子供の行列で……何か、楽しそうだった」
( ゚д゚ )「遠足に行った子達ですかね」
先生は窓を離れた。
「そうだろうね」と一言。
-
515 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:40:53 ID:lfiOLhV.O
-
(´・_ゝ・`)「さっき言った、声が聞こえたっていう体験談。
おどろおどろしく語る人もいたけど、
『怖くなかった』『悲しかった』という感想を抱いた人が、何人もいた」
私には、とてもじゃないが、おどろおどろしいものに思えなかった。
はしゃいでいる、幼い子供逹。
これから遠足に行くことへの期待と楽しみ。
全てが明るかった。
だからこそ、悲しい。
-
516 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:42:08 ID:lfiOLhV.O
-
(´・_ゝ・`)「ちゃんと行けなかった遠足を、ずっと繰り返してるのかなと僕は思ってたよ」
普通に考えれば、そうなのだろう。
だけど、何だか。
('、`*川「でも」
先生は私の隣に立った。
静かに、私の言葉を待ってくれている。
('、`*川「でも、……多分、引率だった先生のだと思うけど、大人の影もあったの」
(´・_ゝ・`)「うん。さっきの君の説明を聞いて、そこが気になった」
先生の話だと、引率の教師はみんな生き残っている。
なのに、さっきの列には教師がいた。
(´・_ゝ・`)「事件は20年ほど前で、当時の教師は、3人とも20代や30代だった。
まだ生きてると思う」
( ゚д゚ )「じゃあ、さっきのは?」
先生は肩を竦めた。
さあね、という呟きが漏れる。
-
517 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:44:16 ID:lfiOLhV.O
-
(´・_ゝ・`)「可能性は色々ある。
遠足に行きたがる子供の霊が、その辺の大人の霊を取っ捕まえて引率者にしたとか、
子供逹を守りきれなかった教師が生き霊を飛ばしてまで遠足を完遂させたがってるとか」
どちらも違う気がする。
直感でしかないから、何とも言えないけど。
(´・_ゝ・`)「あとは──結構ファンタジーな発想になっちゃうけど。
学校の記憶、とか」
('、`*川「記憶?」
(´・_ゝ・`)「遠足に心躍らせて校舎を出ていった子供逹の内、何人もが
哀れな事故によって帰ってこれなくなった。
さらに、その事故によって廃校の話が進んだ」
(´・_ゝ・`)「建物そのものに魂が宿るっていう怪談もあるし、
仮に、この学校にもそういうものがあったなら──それはそれは無念だったろうね。
何度も、焼きついた記憶をリピートするかもしれない」
ぱしん。
どこかで、音が鳴る。
-
518 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:45:17 ID:lfiOLhV.O
-
──足元が揺れる感覚があった。
胸が、ぎゅっと痛む。
自分以外の誰かの感情が、無理矢理潜り込むようだった。
帰ってきてほしい。
出掛けたときみたいに、全員、笑って帰ってきてほしい。
何度繰り返しても帰ってこない。
何度繰り返しても。
誰もいない。
自分が泣いているのに気付かなかった。
我に返ったときには、先生に手を引っ張られて立ち上がっていた。
-
519 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:46:11 ID:lfiOLhV.O
-
(´・_ゝ・`)「……最近、この校舎を取り壊す話が持ち上がってるらしい。
しばらくしたら、きっと本格的に立ち入り禁止になるだろうね。
そうなる前に幽霊に会いに来たんだけど……」
先生は、溜め息をついた。
残念がるのとは、少し違う色に感じられた。
(´・_ゝ・`)「今回も無理だったな。そもそも幽霊ですらなかったみたいだし。
……もう帰ろうか」
*****
-
520 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:47:49 ID:lfiOLhV.O
-
('、`*川「じゃあね、先生。ミルナさんもさようなら」
(´・_ゝ・`)「じゃあね、おやすみ」
( ゚д゚ )「おやすみ……もう朝だけど」
家に着く頃には、空はすっかり明るくなっていた。
先生の車を降りて、2人に手を振る。
ミルナさんはとても眠そうで、声がふにゃふにゃしていた。
走り去る車を見送り、我が家へ向き直る。
無事に帰ってこれたことが、妙に感慨深かった。
-
521 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:49:27 ID:lfiOLhV.O
-
('、`*川「……ただいま!」
元気よく言ってドアを開けた。
お腹が空いている。
シャワーを浴びて、軽くご飯を食べて、昼まで眠ろう。
冷蔵庫に何があるか確認するため、居間へ入る。
( ´∀`)
父がいた。
パジャマ姿で腕を組み、ソファに座っていた。
('、`*川「おはよう……早いね……」
( ´∀`)「ペニサス」
父の声は、ひどく冷めたものだった。
-
522 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:51:04 ID:lfiOLhV.O
-
( ´∀`)「こんな時間まで何してたモナ」
('、`*川「……」
心霊スポット行ってました、と言えるだろうか。
言えるわけがない。
かといって咄嗟に言い訳も思いつかず、
結果、私は目を泳がせながら口をぱくぱく動かすだけに終わった。
父からしたら、怪しいどころの騒ぎじゃない。
( ´∀`)「さっきカーテン開けるときに見えたけど、あの車に乗ってた男2人は誰モナ」
私はますます動揺するばかりだ。
もう駄目だ。
-
523 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:55:32 ID:lfiOLhV.O
-
( ´∀`)「……ペニサス」
呼ぶ声は、一層冷たく、低い。
( ´∀`)「座りなさい」
('、`*川「……はい……」
説教を受けながらも何とか先生がVIP大学の教授であることを説明したけれど、
却って「お偉い金持ち」という先入観を植えつけただけだった。
起きてきた母が居間にやって来るまで、実に1時間。
私は空腹と眠気と疲労と父の説教に耐えるため、
かつてレンタルビデオ店でバイトしていたときに見かけた
シュールなシチュエーションのAVの数々を思い返して、タイトルを五十音順に並べた。
なるほど、卑猥な思考は現実逃避に丁度いい。
-
524 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/08/29(水) 10:57:55 ID:lfiOLhV.O
-
──廃校の話は、これで終わりだ。
残る話もあと2つ。
あと二晩、お付き合いしてほしい。
第十四夜『廃校闊歩』 終わり