■( ´_ゝ`)時間を司るようです(´<_` )
└第16話「開」
- 335 名前: ◆MH/VTCEj3A[] 投稿日:2013/04/02(火) 14:18:22 ID:9JG5CZ8w0
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向き合わずとも、互いを信じ。
第16話「開」
- 336 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/04/02(火) 14:19:57 ID:9JG5CZ8w0
- ( ´_ゝ`)「なあ」
( ,,゚Д゚)「なんだ?」
訓練前のストレッチとして前屈をしていた兄者は、背を押してくれているギコに声をかけた。
その間にも容赦なく押してくる強さに「痛い痛い痛い」と声を上げていたが。
( ´_ゝ`)「弟者ってさ、どこで訓練やってるんだ? この間帰る時に迎えに行こうとしたら全く正反対の場所から出てきたんだけど」
( ,,゚Д゚)「……ああ」
言えない、という言葉をギコはぐっと飲み込んだ。
兄者の言う迎えに行こうとした場所は、きっと前にドクオと訓練をしていた場所だろうと容易に想像がついた。
- 337 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/04/02(火) 14:21:06 ID:9JG5CZ8w0
- まさか、言えるわけがない。
飛空艇の中でも最下層のワンフロア――何もない、まっさらな場所で日々模擬実戦をしているなど。
ましてやそれが、兄者を守る為の力を身に付ける最終段階などと。
( ,,゚Д゚)「……俺も知らないな、まだ弟者のコーチになったことが無いから。いつかコーチになって分かったら教える」
( ´_ゝ`)「そっかー」
尋ねて来てヒヤリとしたギコだったが、存外兄者は深く気にしてはいないらしい。
ストレッチを終えて立ち上がった兄者は、自分自身の訓練を始めようとギコに向き直る。
そんな兄者にギコは模造剣を投げ渡すと、「やるか」と声をかけるのだった。
- 338 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/04/02(火) 14:22:20 ID:9JG5CZ8w0
-
(´<_`; )「は、」
隠れた柱の陰で弟者は荒い息を吐く。
完全に息が上がっていた。息を整える時間が欲しいと思ったが、そういうわけにもいかない。
耳を澄ませる。予測する方向に、相手の気配が感じられない。
それにハッとして、周りを見渡そうとした時には。
ξ ゚听)ξ「『止まれ』」
ぴいん、と。背後から聞こえたその声に、全身が縛り付けられたように動けなくなった。
精一杯抵抗しながら振り向いたその先には、腕を組んだツンがいる。
- 339 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/04/02(火) 14:23:37 ID:9JG5CZ8w0
- ツンは組んでいた腕を解くと、片手を銃の形にして――銃口を模した人差し指を、弟者の額に当てた。
ξ ゚听)ξ「ばーん」
(´<_`; )「……」
ξ ゚听)ξ「あんたの負け。少し休憩しましょうか」
解放、と小さく呟いたツンによって全身の見えない拘束から解放される。
声を武器にするなんて聞いたことがなかった。
故に戦い方もうまくいかず、こうして弟者は先ほどから負けが続いている。
- 340 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/04/02(火) 14:24:50 ID:9JG5CZ8w0
- 休憩だと自分に言い聞かせるように心の中で繰り返すと、今まで動けていたのが嘘のように、緊張感が疲労感となってどっと体に襲いかかってくる。
柱に寄りかかったままずるずるとその場に座り込むと、ツンも一緒に隣に座った。
ξ ゚听)ξ「お疲れ様。一般人にしてはよくやる方だと思うわ」
(´<_` )「……そりゃどうも」
弟者がちらりとツンに視線を遣る。
ツンの横顔は無表情だった。体力を著しく消耗している弟者とは違って、余裕すら見える。
けれどその無感情が、妙な違和感を隠しきれなかった。
ξ ゚听)ξ「ちょっと聞いてもいい?」
- 341 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/04/02(火) 14:26:10 ID:9JG5CZ8w0
- 弟者の方を向かず、前を向いたまま切り出すものだから弟者は驚いた。
特に遮る理由も見当たらない為、了承の意を返す。
ξ ゚听)ξ「あんたには兄がいるわよね」
(´<_` )「? ああ」
ξ ゚听)ξ「上がいるって、どんな感じ?」
私上だから分からないの、と言うツンに、弟者は敵方にいるツンの妹のデレを思い出した。
家族が敵方に居るのに、何の理由も無いはずがない。
弟者はその話に付き合ってやろうと、口を開いた。
- 342 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/04/02(火) 14:27:15 ID:9JG5CZ8w0
- (´<_` )「安心感は大きいな。俺の状況が状況だったからかもしれないが。
だが、下である俺のことを第一に考えられるのは偶に腹が立つ。
けど、だからと言って完全に見捨ててほしくも無い。そんな感じだ」
ξ ゚听)ξ「……そう」
ツンはそう返事した。弟者の言葉を噛み締めるような、小さい声だった。
ツンはおもむろに体育座りになると、抱え込んだ膝に自分の顔を埋めた。
小さく折り畳まれたツンの体は、急に小さい子供のように見えて、震えているような気がした。
ξ )ξ「独り言だから。聞き流して」
ツンは言った。
- 343 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/04/02(火) 14:28:05 ID:9JG5CZ8w0
- ξ )ξ「私達の親はいつの間にか死んでた。
なんでかは分からない。それが守護者としての役割を果たしてなのか、違うのかも分からない。
とにかく、私とデレは2人きりになった。
きっとその時の私はあんたの兄と一緒だったでしょうね。
流石に高校には行ったけど、私はデレがちゃんと普通の人生を送れるように精一杯だった。
いつくらいだったかな。デレは私に口を利かなくなった。
学校にも行ってなかったみたいで、欠席の確認をする教師からの電話が日常になっていった。
その頃、モララーが守護者としての使命を果たそうと話を持ちかけてきた。
私も血筋だから、そうすべきだとモララー達と話をするようになって、暫く経った時。
デレは、家から出て行った」
その言葉に、弟者は眉を顰めた。
- 344 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/04/02(火) 14:29:04 ID:9JG5CZ8w0
- ξ )ξ「気付けなかった私もどうかと思うわ。
いくら果たさなきゃいけないからって、妹の気持ちを見ずにそっちばかりに感けてた。
本当、馬鹿よね」
最後の声は涙に濡れていた。
弟者はじっと動かず、独り言と称したその話をずっと聞いていた。
デレが何を思い、どうして向こう側にいるのかは分からない。
それでも、それなら。考えついた結論を、弟者は素直に口にした。
- 345 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/04/02(火) 14:30:34 ID:9JG5CZ8w0
- (´<_` )「なら、探せばいい」
ξ )ξ「!」
(´<_` )「というか、向こうはこっちを探してくるはずだ。なら、その時。
あんたがデレと向き合って、真っ向から話せばいい」
ξ )ξ「……うん」
ツンは一度そう言うと、膝の間に埋めていた顔を上げた。
その顔は泣いたせいでぐちゃぐちゃで、それでも失われない美しさがあった。
ξ*;ー;)ξ「ありがとう」
そう笑った笑顔は、強い意思が見えた。
- 346 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/04/02(火) 14:31:19 ID:9JG5CZ8w0
-
守護者達が自分の武器の手入れで慌ただしく動いている。
その中でしぃに自分の銃を見てもらい、暇になった兄者は棒を抱えて同じように座るだけの弟者の隣に腰かけた。
出陣が明日と決まった。
準備でばたばたと慌ただしくなるのも当然だ。
全てをかけた決戦が、残り数時間の明日に迫っている。
- 347 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/04/02(火) 14:32:22 ID:9JG5CZ8w0
- だがあまりの忙しさに、守護者達はちゃんと全部準備を済ませて眠るのかということが心配になってくるほどだ。
( ´_ゝ`)「……暇だなー」
(´<_` )「ああ」
そう交わす弟者にも、緊張は見られない。
時折手にした棒を握ったりして感触を確かめるだけだ。
兄者は周りの光景をぼんやりと見つめて――ふと何かを思い出したように、「あっ」声を上げた。
ぐっと勢いをつけて立ち上がる。弟者はそれを見上げた。
( ´_ゝ`)「弟者、ちょっと着いて来いよ」
- 348 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/04/02(火) 14:33:31 ID:9JG5CZ8w0
- (´<_` )「……?」
楽しげに笑った兄者は、首を傾げる弟者に構わず一人でさっさと歩き出した。
弟者が首を傾げながらそれに続く。
兄者が辿り着いた先は玄関だった。
特に変わらない玄関にまた首を傾げるが、兄者の狙いは玄関の壁にある柱にあった。
( *´_ゝ`)「ほら、弟者! ここに立って」
(´<_` )「!」
兄者が指差した柱を見て、弟者はやっとその意図を理解した。
いつの間に持ってきたのか、兄者はサインペンを手に持っていた。
- 349 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/04/02(火) 14:34:51 ID:9JG5CZ8w0
- 玄関の壁の柱には、ドラマなどでよくある、互いの成長の記録である身長の線が書かれている。
兄弟がこの家に住むようになった日。兄者は小学3年生、弟者は小学1年生。
何が起きたのかよく分からなかった自分を元気付ける為なのか何なのか、兄者は柱を見るなり「身長を書こう」と言い出したのだ。
だがそれも弟者が中学へ上がる頃からは忘れられていき(恥ずかしくなっただけなのだが)、柱は兄者が中学2年生、弟者が小学6年生の記録で途切れている。
まだ自分が兄者よりも小さかったという記録が、どこか新鮮だった。
( *´_ゝ`)「いつから身長抜かれたんだろうなー。ちゃんと書いとけばよかったな」
(´<_` )「弟は兄を超すものだからな」
( *´_ゝ`)「なんだとこの野郎!」
- 350 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/04/02(火) 14:36:05 ID:9JG5CZ8w0
- そんな軽口を叩きながら、兄者は弟者の身長の線を書き終えた。
はい次俺の番、とサインペンを渡される。
兄者の身長も同じように書き終えて、改めて柱の記録を見直してみる。
( ´_ゝ`)「弟者身長伸びすぎだろ」
(´<_` )「違う、兄者が小さすぎるんだ。見ろこの記録を、成長期にきっと伸びなかったんだ」
( ´_ゝ`)「やめろよ、確かに背の順前の方だったけど一番前ではなかったし」
(´<_` )「じゃあ何番目だ」
( ´_ゝ`)「……3番目」
- 351 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/04/02(火) 14:37:03 ID:9JG5CZ8w0
- (´<_` )「小さいな」
( ´_ゝ`)「はっ倒すぞ」
はは、と笑いながら言った兄者の笑顔に薄ら寒いものを感じて弟者はぶるりと体を震わせた。
そして、すぐに弟者は真剣な目をして兄者に尋ねた。
(´<_` )「どうして、今こんなことをしようと思ったんだ?」
( ´_ゝ`)「……」
兄者は微笑んだ。
それは既に、覚悟を決めている笑顔だった。
- 352 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/04/02(火) 14:38:07 ID:9JG5CZ8w0
- ( ´_ゝ`)「……言わなくても、分かるだろ?」
(´<_` )「分からない。分かりたくもない」
( ´_ゝ`)「こら」
そう言う兄者の声音は、不気味なほど優しい。
( ´_ゝ`)「……もしかしたら、二度と戻って来れないかもしれないから」
(´<_` )「だからッ!」
弟者は兄者の肩を掴んだ。
冗談でも言ってほしくない言葉だった。それなのに。
- 353 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/04/02(火) 14:39:19 ID:9JG5CZ8w0
- 兄者が、もう死ぬ覚悟を決めた表情だったから。
弟者は。
(´<_` )「……死なせたりなんか、しないからな」
(´<_` )「兄者らしくもないだろう。お願いだから、死ぬ覚悟なんてしてくれるな」
(´<_` )「絶対に、生きて帰って2人でまた暮らす。それだけ見ててくれ」
( ´_ゝ`)「……うん」
笑った兄者は、なおも笑みを深めた。
けれどそれは、兄者が考えを改めたような気はしなかった。
- 354 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/04/02(火) 14:40:09 ID:9JG5CZ8w0
- ( ´_ゝ`)「ありがとう、弟者」
笑いながら言った兄者に、弟者はもう一度「死ぬなんて考えるな」と消え入りそうな声で繰り返した。
返事は無かった。
全員が飛空艇に集まっていた。
兄者が深い深呼吸をする。息を吐いたところで、モララーが「大丈夫かい」と声をかけた。
それにこくりと頷く。続いて、皆の顔を見回した。
全員、大丈夫だと告げるように兄者に頷いた。
- 355 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/04/02(火) 14:41:05 ID:9JG5CZ8w0
- 兄者は「よし」と自分を元気付けるように声を出して――隣にいた、弟者の手を握った。
それを見ていた全員も、手を繋ぐ。
( ´_ゝ`)「我、過去を司る者」
ぶわりと、兄者を中心に青い光が湧き上がった。
どこからともなく風が吹く。全員が青い、蒼い光に包まれていく。
( ´_ゝ`)「過去を辿り、我をその場所へと導き給え!」
最初に見えたのは、やはり闇の黒。
- 356 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/04/02(火) 14:42:06 ID:9JG5CZ8w0
- それでも手を繋いだ感触があるから、慌てることは全くない。
ボッと音を立てて、ギコがランタンに火を灯した。
全員の顔をオレンジの光が照らす。
ランタンをすいと周囲にやって、ギコは部屋の扉を見つけた。
ドアノブを捻り、突っかかるような音はしない。鍵は開いているようだった。
ギコがドアノブを捻り、扉を開けた。
- 357 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/04/02(火) 14:43:04 ID:9JG5CZ8w0
- ( ・∀・)「さあ――始めようか」
モララーの宣言するような声で、全員が動き出した。
第16話「開」・終
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