( ´_ゝ`)時間を司るようです(´<_` )
第10話「哀」



201 名前: ◆MH/VTCEj3A[] 投稿日:2013/03/18(月) 22:52:17 ID:P2jOCKcQ0
 
 
 
 
 
忍び寄る足音。
 
 
 
第10話「哀」

202 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/03/18(月) 22:53:48 ID:P2jOCKcQ0
('A`)「モナーはさ、オレらの中で潤滑剤みたいなものだったんだ」

潤滑剤、と兄者が繰り返すとドクオは「そう」と頷いた。
広い部屋の隅で、二人して壁に背を預けているのは少しおかしな光景だった。

('A`)「オレらは意見の対立が激しくてさ。ジョルジュやハインは押せ押せなのに対して、クーとオレは慎重派だったんだ。
だから、監視なのに飛び出そうとするのを説得するのはいつもモナーだった」

昔を懐かしむようにぽつりぽつりと話すドクオの手に、兄者はそっと触れた。
心の中で詠唱して、自分の体に熱が灯るのを感じながら目を閉じる。

ドクオの語る彼らの姿を、少しでも感じたかった。

203 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/03/18(月) 22:55:27 ID:P2jOCKcQ0
 
 
 
 
 
(´<_` )「俺があそこに入れられる前、あいつらが言ってたんだ」

(´・ω・`)『ああ、こいつは未来の方か』

(´<_` )「あの時はさっぱり訳が分からなかった。でも、その後確かに言ってたんだ」

(´・ω・`)『まあいい、こっちが未来ならあっちは確実に過去だ。こいつを使っておびき寄せればいい』

モララーは口元に手を当てたまま考え込んでいるようだった。
弟者の険しい表情は消えない。

204 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/03/18(月) 22:56:32 ID:P2jOCKcQ0
(´<_` )「あんたら、こんだけ知ってるなら少しくらい何か知ってるんじゃないのか」

( ・∀・)「……残念ながら」

モララーは苦笑いすると、お手上げだと言うように両手を上げて見せた。

( ・∀・)「ずっと昔から何者かに狙われているっていうことは知ってる。でも、誰からかまでは記録が残っていないんだ。不思議なことにね」

(´<_` )「……使えないな」

( ・∀・)「申し訳ないね」

苛立ちを明確に表している弟者は、モララーからこそ視線を外すが舌打ちは抑えきれなかった。

205 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/03/18(月) 22:57:44 ID:P2jOCKcQ0
目元は兄者と比べると切れ長で、心なしか凛々しい顔立ちをしていると思う。
確か身長は兄者と頭一個分違ったはずだ。
見目は完璧に弟者の方が上だと思えた。

( ・∀・)(兄弟でもここまで性格が違うんだなあ)

兄者は人を信じすぎ、弟者は人を警戒しすぎている。
足して2で割りたいと思えてしまうほどだ。

( ・∀・)「……君は、随分と違うね」

(´<_` )「何がだ」

206 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/03/18(月) 22:59:03 ID:P2jOCKcQ0
( ・∀・)「お兄さんとだよ」

モララーが言うと、弟者は剣呑な目でモララーを一瞥してから「ああ」と答えた。

(´<_` )「兄者は間が抜けているから。見てないと不安だ」

( ・∀・)「……」

なんていうかなあ、とモララーは頭を掻いた。

( ・∀・)「ねえ、君さあ。僕の勘違いであればいいんだけど」

(´<_` )「?」

207 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/03/18(月) 23:00:12 ID:P2jOCKcQ0
( ・∀・)「お兄さんに向ける気持ちが、ちっと過保護すぎやしないかい」

(´<_` )「否定はしない」

( ;・∀・)「えっ」

モララーにとってはそこそこ冷たい視線と言葉を覚悟していた。
だが、当の本人から実質肯定するような言葉を返されて、モララーは拍子抜けしてしまう。

弟者は自分の首にかかっている緑の石のネックレスをぎゅっと握ると、布団に視線を落としたまま口を開いた。

(´<_` )「兄者はもしかして話してないのか。俺達のこと」

208 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/03/18(月) 23:01:38 ID:P2jOCKcQ0
( ・∀・)「……あまり聞いてないね」

(´<_` )「そうか」

「俺達は」弟者はモララーと決して目を合わせない。

(´<_` )「俺達は、俺達以外の家族の記憶が一切無い」

( ・∀・)「……と、言うと?」

(´<_` )「物心ついた時には、兄者とこの石しかなかった」
 
 
 
 
 
( ´_ゝ`)『弟者、これからは兄者と一緒に暮らすんだ』

209 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/03/18(月) 23:02:49 ID:P2jOCKcQ0
(´<_` )『……兄者?』

最初に手を握りながら、自分に言い聞かせるようにも思えたその言葉を聞いたのは、確か兄者が小学3年生で自分が小学1年生の時だった。
どうして二人きりになったのかは覚えていない。
むしろ自分がどうやってここまで生きてきたのかも覚えていない。

不思議なくらいだった。
兄者は自分達二人だけになってから、進んで家事をするようになった。
毎日レシピ本とにらめっこする兄者に、何度手伝うと申し出ただろうか。
兄者は何度言っても穏やかに笑うだけだった。
笑って、必ず決まって言うのだ。

210 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/03/18(月) 23:03:59 ID:P2jOCKcQ0
( *´_ゝ`)『いや、いいよ。弟者は気にしないで宿題やってな』

いつもそうだった。
折れてくれたとしても、風呂掃除や洗濯物を取り込むくらいの軽い仕事だけしかくれないのだ。

日常生活で、銀行に入る子供二人はさぞ異質だったろうと思う。
いつも周りの視線を感じていた。
それでも、兄者はいつも自分の頭を撫でて「ちょっと待ってな」と笑って行くのだ。

中学を卒業して、兄者は高校に行かなかった。
いつの間にかバイトをして、自分の人生を犠牲にする兄者にあの頃は一番反抗していたと思う。

211 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/03/18(月) 23:05:04 ID:P2jOCKcQ0
そのくせ弟者が高校に行かないと言った時は酷く怒ったものだった。
確か一度殴られた。きっとあの時が最初で最後、兄者が自分に手を上げた時だっただろう。

( ´_ゝ`)『お願いだから、弟者は何も気にせず楽しんでくれ』

自分の分まで、という言葉が含まれているような気がして、弟者はその時口を噤んでしまった。
 
 
 
 
 
(´<_` )「俺のせいで、兄者は自分の人生を蔑ろにしてまで、俺にちゃんとした生活を送らせようとして」

212 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/03/18(月) 23:06:22 ID:P2jOCKcQ0
そこまでされて、鬱陶しく思うなんてことないだろう。
弟者はそう言った。

モララーははあ、と溜息を吐いた。

( ・∀・)(……依存、かなあ)

いや、間違いなくそうだろう。モララーはそう結論付けた。
幼い時から二人だけで育ってくれば、ましてや片方がお人好しなら、もう片方が反面教師のように育っても無理はない。

213 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/03/18(月) 23:07:55 ID:P2jOCKcQ0
それ故に、生まれてしまった歪なもの。

しょうがないかなあ、とモララーは心の中で呟いた。
「弟くん」そう呼びかけて弟者を見た、が。

(´<_` )「……兄者」

弟者が、自分の石を握り締めている。そこまではいい。
顔色が真っ白だった。

(´<_`; )「兄者……ッ!」

( ;・∀・)「弟くん!?」

214 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/03/18(月) 23:09:08 ID:P2jOCKcQ0
ベッドを立ち上がろうとした弟者は、暫く使っておらず固まった脚のせいでその場に崩れ落ちる。
思わず駆け寄れば、弟者は「早く、」と焦れたように呟いた。

( ;・∀・)「どうしたんだい? 一体何が、」

(´<_`; )「早く、早く行かないと」
 
 
 
(´<_`; )「兄者が、危ない」

215 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/03/18(月) 23:10:07 ID:P2jOCKcQ0
 
 
 
 
 
( ;´_ゝ`)「……っ、ぐ」

ドクオが、ドクオが血を流して倒れている。
早く治さねば、と思うのに、伸ばした手が届かない。
どうしてだろう、と考えて。

( ;´_ゝ`)(……ああ、そうか)

216 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/03/18(月) 23:14:21 ID:P2jOCKcQ0
床に押し倒されてれば、そりゃ届かないか。

( ;´_ゝ`)「か、は……ッ」

ぐ、と首にかかる圧が強くなる。
ドクオの方を向いているせいで、自分の首を絞めている相手はわからない。
だけど、味方でないことは確かだった。

(   )「……」

喋ることもなく、ただ首を圧迫してくる。

218 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/03/18(月) 23:18:17 ID:P2jOCKcQ0
徐々に酸素を求めて喘ぐ兄者を、声に出さず楽しむように。
首はじわじわと強く絞め付けられた。

( ;´_ゝ`)「、ぅ、あ……」

弟者。
そう呼びたくなった。

( ;´_ゝ`)(ああ、もしかして死ぬのか)

こんなことなら喧嘩なんかしなきゃよかった、と兄者は微かに笑った。
喧嘩別れほど後悔することはきっと無いだろう。

219 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/03/18(月) 23:19:31 ID:P2jOCKcQ0
(´<_`; )「兄者ああッ!!!」

遠くなっていく意識の中で。
叫ぶような弟者の声が、聞こえた。
 
 
 
 
 
第10話「哀」・終



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