( ^ω^)剣と魔法と大五郎のようです

六話

174 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 18:42:42 ID:uUx1ZvuU0

 サロンシティは元の名を栄英地方と呼ばれる、チャンネル国とは異なる独自の文化を持つ土地だった
 もっとも特徴的な文化として上げられるのは、モナー教という自然崇拝宗教の存在だろう。

 大地と空の神、モナー。
 異教では悪魔として数えられる有力な神の一柱で、労働と豊作の象徴として崇拝されている。
 チャンネル国に吸収された今も、モナー教の潜在的な信者は多い。

 その教えはとてもシンプルで、簡単に訳せば。
 「働く時は懸命に働きなさい。休む時は大いに休みなさい」
 「大地と空には常に感謝しなさい」
 「分相応なものを求めなさい。身に過ぎたものを得たならば分け合いなさい」
 と言う三つ。実におおらかな、戒律などあってないようなものだ。

 そして、この教えの三つ目、「身に過ぎたもの」には、酒類も含まれる。
 モナー教の徒にとって、酒は身に余る過ぎたもの。
 口に出来るのは年二回の祭事の時だけなのだ。

 サロンシティには信者、と呼べないまでもモナー教の教えを実践するものが多い。
 故に、禁酒委員会との相性は決して悪くは無く、むしろいいとも言える。
 禁酒委員会は、年二回の祭事の飲酒さえ認めれば、何の苦労なく禁酒化に成功できるのだから。

 だからこそ、禁酒委員会はここサロンの地にあえて支部をつくろうとはしなかった。
 そもそも飲酒する者の方が少ないのだから常駐する必要性が低いのである。

 禁酒委員会の支部が置かれたのは、大五郎のサロン進出を阻むためだった。

175 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 18:44:10 ID:uUx1ZvuU0

 大五郎は飲酒文化の薄いサロンを新しい市場として開拓し、営利拡大を狙っていた。
 その本格的な進出を防ぐために禁酒委員会はいち早くサロンに支部を設置。
 早い段階から厳しい取締りを行っている。

 大五郎サロン進出の情報はごく一部のものしか知らず、
 一般の目には禁酒委員会が先に手を出したように見えただろう。
 しかしそれでいい。結果的に大五郎の支社は街の端(しかもVIP側と真逆の)土地に追いやられた。

 例え世間の嫌われ者になろうとも、サロンに根付いた非アルコール文化を守った。
 それだけで十分なのである。

(//‰ ゚) 「相変わらず、つまらンところダ」

 その男は部屋に入るなりそう言った。失礼にも程がある。
 男の名は、ヨコホリ。所謂、裏の仕事人だ。
 暗殺、テロ、強盗、密輸と金次第で何でも行う、性根からして腐った男である。

 本来ならこんな男に仕事を預けたくは無いが、悔しいことに腕はいい。
 この男が今まで受けた仕事の成功率はほぼ100%。
 単に強いだけでなく卑劣かつ卑怯で卑屈、この上なく慎重な男なのだ。
  _
( ゚∀゚) 「仕事は?」

 禁酒委(中略)中尉、ジョルジュ=ナガオカは簡潔な報告を求める。
 ヨコホリはやれやれと肩をすくめた。

176 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 18:45:33 ID:uUx1ZvuU0

(//‰ ゚) 「アンタみたいな糞真面目な男と話してルと息が詰まル」
  _
( ゚∀゚) 「さっさと報告を。仕事が出来ないならお前に用は無い」

(//‰ ゚) 「そう凄まれちゃまったく堪らンなあ」

 場所は、ナガオカが下宿にしている街のアパートの一室。
 農の街とはいえそれ以外の仕事でここに移住する者も多いため、賃貸物件は以外に充実している。

(//‰ ゚) 「いつも通り、積荷は破壊。紛らわしい馬車だったンで移送中の傭兵もやっちまった」
  _
( ゚∀゚) 「毎度だが言わせて貰う。無闇に人を殺めるな」

(//‰ ゚) 「そうおっかねえ顔を死なさンな。俺は馬車を壊そうとしただけだ」
  _
( ゚∀゚) 「……」

(//‰ ゚) 「生き残った奴らもいたぜ。その後知らない奴らに襲われてたけどな」
  _
( ゚∀゚) 「……俺が依頼した奴らじゃないな。まったく、また勝手な暴徒が増えたのか」

(//‰ ゚) 「……俺が言うのもなンだが、少しは気楽に生きたほうがいい。胃に穴が開く」

 ご丁寧な忠告には、短い嘆息で返した。
 咽に引っかかる声でヨコホリが笑う。

177 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 18:46:59 ID:uUx1ZvuU0

(//‰ ゚) 「アンタも、汚れ仕事を部下に押し付けたらどうだ?アンタの上司みたいにな」
  _
( ゚∀゚) 「馬鹿が。汚れ仕事こそ上司が引き受けるべきだ」

(//‰ ゚) 「グッグッグッ。それで会うたびに嫌な顔されル俺の身にもなって欲しいもンだぜ」

 禁酒委員会は、非公式団体やプロのテロ代行屋に情報を流し、
 酒類根絶法の「違法な」執行を常々行っている。
 ナガオカは近隣地区における「代行執行」の依頼を管理するものでもあった。

 単に敵性勢力大五郎の情報が集まりやすい立場であるという理由が一つ。
 そして、可愛い部下達にこんな汚れ仕事を追わせたくないという、甘さが一つ。

 中には、こんな仕事任せたら己の正義との齟齬にブチ切れそうな奴もいるだし。

(//‰ ゚) 「ンじゃ、俺は帰ルぜ」
  _
( ゚∀゚) 「報酬は後で郵送する」

(//‰ ゚) 「また仕事があったら安くしておくぜェ、中尉」
  _
( ゚∀゚) 「…失せろ」

 胃がキリキリと痛む。
 ヨコホリが去るや否や胃薬を飲み込んだ。

178 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 18:47:49 ID:uUx1ZvuU0

    「……随分苦労してそうね、じょーるたん☆」

 ナガオカしかいない部屋に、若い女の声が響いた。
 一瞬肩をビクッとさせたが、すぐに状況を理解し頭を抱え、鉛より重い息を口から垂らす。

    「なんだったら、アタシが癒してあげようか?」
  _
( ゚∀゚) 「何で、アンタがここにいるんだ」

    「んー?貴方の上司に呼び出されて支部に行ったのにじょるたんいないんだもん」
  _
( ゚∀゚) 「俺は今日はもう仕事終わったんだよ」

    「なーんだ。そうだったんだ」

 おもむろに、再び胃薬のビンを取る。
 服用数を無視してそのまま口に流し込んだ。
 夕飯がいらないくらい胃が胃を消化している。このままだと死ぬ。
  _
( ゚∀゚) 「いい加減姿を見せたらどうだ?そんなんだからいまいち上に信用されないんだ」

    「いやーん☆ アタシ今全裸だけどいいの?」
  _
( ゚∀゚) 「……くそったれ」

 心の声がついつい零れる。

179 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 18:48:52 ID:uUx1ZvuU0
  _
( ゚∀゚) 「結局アンタは何しにきたんだ」

    「じょるたんの可愛い眉毛を見に来た」
  _
( ゚∀゚) 「あのなあ……」

    「あわよくば剃り落としに来た」
  _
( ゚∀゚) 「剃るな」

    「冗談はさておきー、取っておきー」
  _
( ゚∀゚) 「取っておくな。捨てろ」

    「アタシさー、最近ちょくちょく貴方の上司に呼び出されるでしょ?」
  _
( ゚∀゚) 「ああ」

    「待ってる間に作ったキメラに逃げられちゃった」
  _
( ゚∀゚) 「」

    「見かけたら処分しといて☆めちゃんこ強いけどじょるたんなら倒せるはずだから★」
  _
( ゚∀゚) 「」

    「じゃ、用は済んだから、じゃーねぃ☆」
  _
( ゚∀゚) 「」

180 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 18:50:09 ID:uUx1ZvuU0

 見えない声の主の、ほんの少しだけあった気配が消えた。
 胃薬のビンを手に取る。
 空だったことを思い出してゴミ箱に投げ入れた。

 前日の内にゴミ箱を空にしていたため、予想よりも大きな音が立つ。
 ナガオカの部屋は二階だ。
 一階には大家が住んでいる。

 ドンっと床が下から叩かれた。
 大家さん、ご立腹である。
 次に会った時、恐らくネチネチと説教をされるのだろう。
  _
( ゚∀゚)
  _
( ゚∀゚) 「おっぱいが揉みたい!!!!!!!!!!」

    「うるせえぞ!!!」
  _
( ゚∀゚) (支部に行ったらオードちゃんにセクハラしよう)

 ナガオカは壁にかけていたジャケットを羽織る。
 厄介ごとを早めに片付けなければ。
 柔らかなベッドとの逢瀬は、しばらく先延ばしだ。

 まずは、厄介な火種を早めに処分しなければ。
 
  *   *   *

181 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 18:51:39 ID:uUx1ZvuU0

ξ;;听)ξ 「私が囮になる」

 状況を簡潔におさらいしよう。

 ツンたちは斬っても斬っても死なないキメラと戦い満身創痍。

 おさらい終わり。
 
 「倒す方法が分った」と言ったブーンが説明したことは、酷く単純だった。
 要は、火で焼けばいい。
 ブーン(もとい、その中で観察を続けていたドクオ)曰く、あのキメラの再生能力の肝は、細胞。

 細胞の一つ一つに微弱ながら意識があり、それぞれが魔力で互いを統率しあっている姿が、
 あの大狼の体からえのき茸のように蛇を生やしたものなのだという。
 いくら切り裂いても、切れた場所の細胞が死ぬだけで他の細胞は無事。

 そうして死んだ細胞の再生を兼ねて生きた細胞が更なる細胞を生み出しあい、進化しているのだ。
 逆に言えば、同時に全ての細胞を破壊し尽くせば殺すことが出来る。
 想定できる方法が、火で焼くか、雷を落とすことだった。

 タカラは魔法が使えない。
 ツンは、風と精々水系列の魔法しか使えないので却下。
 となると、唯一魔法を使えるのが、ブーンと入れ替わりに表れる、ドクオ。

182 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 18:52:24 ID:uUx1ZvuU0

 ならドクオにやらせればいいといっても、そう簡単にはいかない。
 キメラは魔法に反応するため、暢気に詠唱していては襲われて終わり。
 かといってタカラもツンも、正攻法でまともにキメラとやり合える体力は残っていない。

 ドクオは、ほぼ援護なしと同じ状況で魔法式の展開を行わなければいけなくなる。
 しかも、ドクオ自身あまり組んだことの無い、上級の魔法式をだ。
 倒す方法は分ったが、うまく行くかは分らない。

 という類の話をキメラの攻撃に晒されながら何とか終えての、

ξ;;听)ξ 「私が囮になる」

 発言だ。

 ツンは元から囮になるつもりで戻ってきたのだ。
 彼女が立候補するのは当然のこと。
 問題は、ただ逃げ回っているだけではドクオに攻撃が及ぶかもしれない、という点。

(;;゙A`) 「そもそもお前、動けんのか」

ξ;;听)ξ「方法はある。むしろそれしかない」

(;;゙A`) 「ちっ、分った」

183 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 18:54:34 ID:uUx1ZvuU0

 三人を目掛けて青い光弾が飛来、地面を抉る。
 それぞれに飛びかわした三人はキメラを囲むように散らばった。
 少しでも意識を拡散させなければ。

ξ;;听)ξ「ドクオ!ブーンに代わって!」

(;;;;゙ω^)「なんだお!?」

ξ;;听)ξ「一つだけ魔法を使いたい。時間を稼いで、30秒もあればいい」

(;;;;゙ω^)「何十分でも稼いでやんお!!」

 左足が骨折しているブーンは、左手も使いながらキメラに駆け寄る。
 キメラ側もこちらの戦力の鍵がブーンだと理解しているのか、ツンとタカラには目もくれない。
 頭の分だけ放てる魔法と、直接の噛みつきでブーンを迎撃する。

 ブーンはこれを大きく回避。
 追撃も半ば大仰な動きでかわしていく。

ξ;;听)ξ「“紡げ、動け、この身あるまま繰(く)り人形―――”」

 分離した蛇がツン目掛けて這い寄ってくる。
 援護は望めない、自分で何とかしなければ。

 魔法式への集中を維持しながら小剣を抜く。
 足に噛み付こうとした蛇の頭を突き刺した。

185 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 18:55:24 ID:uUx1ZvuU0

ξ;;听)ξ「“ただ、天の意思のままに―――”」

 更に二匹、蛇の接近。
 にじり下がりながら魔法式を展開、発動まで後一歩に漕ぎ着ける。
 しかし、そこへ二匹の蛇が飛び掛った。

ξ;;听)ξ「“―――マリオット”!!!」

 空中の蛇が、細切れになる。
 ツンがその手に持った小剣で切り裂いたのだ。
 更に空いていた手でナイフを抜き、キメラに切り込む。

 ツンが発動したのは、外的な魔法の力によって動作速度を向上させるものだ。
 纏った風の魔法が強化外骨格となって、身体を意思どおりに動かすことが出来る。
 ブーンにかけたものと違い、対象の身体能力によるムラが無く、たとえ瀕死でも動くことが可能なのが利点だ。

 故に今のツンには最適な魔法。
 無論傷の痛みが無くなるわけではないので、

ξ;;呀)ξ 「ひぃぎぃぃぃぃ!!」

 滅茶苦茶痛い。
 脳髄が魔法の行使を拒絶するくらい痛い。

186 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 18:57:14 ID:uUx1ZvuU0

ξ;;呀)ξ「ブーン!後は任せて!」

(;;;;゙ω^)「分った!これ貸すお」

 ブーンの傍へ来てツンが蛇を切り落とすと、ブーンが自分の剣を一本投げてよこした。
 小剣を捨て、右手でそれを受け取る。
 通常の剣よりも少々短い刃渡りと、反りのある片刃。

 たしか、小太刀と呼ばれる剣だ。
 ツンが持つ武器としては少々重いが、魔法の効果があれば扱える。

(;;゙A`) 「頼んだぞツン!!」

ξ;;听)ξ「…ッアヒルさんボートにッ乗ったつもりで任せッな!」

 ツンとしては的確なたとえだったが、ドクオは少し渋い顔をした。
 しかし、すぐに魔法式を組み上げ始める。
 流石の早さだ。ツンが意識をキメラに戻すまでの一瞬で基礎の展開はほぼ終了していた。

 ツンはキメラの攻撃を弾き、反撃に出る。
 ブーンの動きを思い出し、真似ての立ち回り。
 普段ならば絶対に不可能だが、魔法の力を借りればなんとか再現できる。

 全身の軋む痛みに意識を奪われそうになりながらも、ツンはキメラの身体を刻み続けた。

187 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 18:59:31 ID:uUx1ZvuU0

(;;゙A`) 「“地より湧き立つ血色の業火―――”」

 キメラから生えた蛇が、囲みこむように一斉にツンを襲う。
 下がってかわすが、追撃は止まらない。
 追ってきた何本かを切り落とすも、残りの頭がツンを捉える。

(;;゙A`) 「“天より舞い降る蒼き灼炎―――”」

 ギリギリで身体を捩り、毒牙が皮膚に突き刺さるのを避けた。
 引きちぎられた服の切れ端が、音を立てて溶ける。

 間合いを取るのは不利だ。しかし切り込むと長い頭に囲まれる。
 真似できると思っていたが、とんでもない。
 ブーンは、こんな死ぬしかないような状況で平然と戦っていたと言うのか。

 魔法のお陰で動きに支障は無いが、足が震え、背中を冷や汗が濡らす。
 これだから、ツンは精々アヒルさんボートなのだ。

(;;゙A`) 「“煉獄に蠢く八つ足の魔に、畏み申し上げる―――”」

 ドクオが、ここまで組んでいた魔法式とは別の魔法式の展開を始めた。

 二重魔法。複合魔法の分類の一つで、一人の人間が同時に複数の魔法式を組み上げる場合を言う。
 右手でチャーハン作りながら左手でピラフ作るようなもんだ。
 ツンちゃん的には、基地外行為に分類している。

188 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 19:00:58 ID:uUx1ZvuU0

 二重魔法の利点は言わずもがな、同時及び連続して魔法を発動することによる、魔法の強化だ。
 単純な魔法が別の魔法で底上げされることで本来の倍以上の性能を発揮することは珍しくない。
 実際に使われるのは、下級同士の組み合わせが関の山だが。

 そして、不利な点もまた言わずもがな。展開にかかる時間。
 使いこなす者になれば二つを別々に組んだ合計の時間よりも短くはなるそうだが、
 それは時と場合を度外視した効率面での話し。

 今のように、速さの求められる状況では、あまり使われえることは無い。

(;;゙A`) 「“二極を一に。頭尾繋がる大蛇の如く―――”」

 魔法の発動が先か、ツンが毒牙一発で屠られるのが先か。
 ツンちゃんには後者の未来しか見えない。

 直接の噛みつきを必死でかわしていたツンに、死角から魔法が放たれる。
 青い魔法の礫は螺旋回転しながらツンのわき腹に食い込む。
 重い痛み。一番下のあばらが折れた。

 視界が一瞬真っ黒に染まり、前が見えなくなる。
 辛うじて残った蜘蛛の糸の意識が、ツンをその場から飛びのかせた。
 音で、その場に追撃があったことを知覚し、肝を冷やした。

189 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 19:03:11 ID:uUx1ZvuU0

(;;゙A`) 「“魔を縛れ。魔を食らえ”」

 ドクオが魔法を組み上げる速度は二つ同時とは思えないほど早かった。
 完全に周りの情報をシャットアウトして魔法を展開している。恐るべき集中力。
 同時に、完全にツンを信頼してくれたと言うことでもある。

 わざわざ時間を食うことをしている点にはいくらか文句があるが、まあ許してやろうというものだ。

 ツンが離れた間を、タカラが懸命に埋めていた。
 抉れた土を牧草ごとキメラに投げつけ、意識が向いたら逃げる、の繰り返し。
 キメラが本気で殺しにかかったら彼も一瞬で死ぬだろうが、キメラは意識散漫でその様子が無いのが幸いだ。

 ツンも口の中の血を唾と共に吐き出してキメラに切りかかる。
 ありがたいことに、脳が過度の痛みを拒絶してか、首から下の感覚は無くなっていた。

(;;゙A`) 「“喰らい合い、熔かし合い、表裏の如く一体となれ―――”」

 キメラの標的が魔法を準備するドクオに向いたのを察知し、その意識を引くため、一番太い蛇に刀を叩きつける。
 細いものであれば斬ることが出来たのだが、やはり肉の密度が違った。
 小さな傷を作るに終わり、そこから逃げ出す方へ直ぐに意識を切り替える

190 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 19:04:40 ID:uUx1ZvuU0

(;;゙A`) 「“我何者よりも魔を恐れ”」

 が、何度も退避を許すほどキメラは愚かではなかった。

 数十の蛇頭が全身から伸び、ツンの上下前後左右を完全に囲んでいる。
 逃げ場は無い。切り払える数でもない。

 多くの中の一匹が口を開き、掠れた雄たけびを上げた。
 それを切っ掛けに、全ての牙がツンを襲う。

(#,^Д;;) 「おおおおおおお!!」

 それを、間一髪。絶叫しながらのタカラが救い出す。
 蛇の群れに果敢にタックルし、ツンを掻っ攫い、そのまま駆け抜けた。

 蛇の牙は容赦なくタカラの体を傷つけ、毒を打ち込む。
 庇われたツンは、結んだ髪の片方の先を少し溶かされただけだった。

(;;゙A`) 「“我何者よりも力に焦がれし者―――”」

 キメラからやや距離が取れた位置でタカラがツンを抱えたまま倒れる。
 体が痛みを思い出し、ツンは歯を食いしばった。

 すかさず、キメラが二人に飛び掛る。
 武器は前足。あの巨躯に踏み潰されればひとたまりも無い。
 どうやらツンちゃん、デッドエンドらしい。

191 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 19:05:36 ID:uUx1ZvuU0

 魔法の効果も切れ、ただ痛みの塊となったツンは静かに目を閉じる。
 タカラが毒に呻く声がどこか心地がいい。

(;;゙A`) 「“汝を―――刻縛し”!」

 そんなツンの諦めを、ドクオの魔法が否定した。
 一瞬で現れた魔法の糸が、蜘蛛の巣の如くキメラを束縛し、地面に縛り付ける。
 その距離、ツンたちから目と鼻の先。正に紙一重。

 タカラが荒い息で這い、ツンを引き摺ってキメラから距離を取る。
 キメラは糸の結界を破ろうと暴れるが、結界は弾力があり、一筋縄ではいかない。

(;;゙A`) 「“汝を、―――焼排す”!!!」

 さらに、ドクオの手の先に生み出された赤青斑に絡み合う炎の玉。
 見た目は拳ほどだが、莫大な熱量の塊だ。

 ドクオはその魔法の火炎弾を、キメラへ放つ。
 同時にキメラを押さえ込んでいた結界が、それを受け入れるようにぽっかりと口を開けた。

 そして。

192 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 19:06:18 ID:uUx1ZvuU0

 すさまじい閃光が周囲に広がり、轟音が大地を揺らした。

 爆心地の直ぐ傍にいたツンとタカラはその振動で体が軋む。
 しかし、肝心の熱はまったく感じない。
 薄目を開けて見ると、そこには巨大な紫色の玉があった。

 爆発の圧力で球形に広がった結界の中で、紫の炎が轟々と燃え続けている。
 さながら、即席の焼却炉と言ったところ。
 酸素が無くとも炎が絶えないのは、魔法由来のものだからだろうか。

ξ;;听)ξ(綺麗。おっきい紫のメロンみたい)

 ツンの顔を明るい紫の光が照らす。
 時折、キメラの絶叫と思しき音が聞こえたが、直ぐに炎の唸りにかき消された。

 ドクオは辛い顔をして結界の魔法を制御している。
 もし今結界が消えれば、溢れた爆炎がツンやタカラ、ドクオをも飲み込みかねない。

 魔法は一分ほど続き、徐々に収まっていった。
 炎が消えるにつれてキメラの姿も現れる。
 それはもう、黒い炭の塊で、キメラと呼べる状態ではなかったが。

(;;゙A`) 「頼むから、死んでてくれよ……」

 ドクオが呟いた。
 「やったか?」と言わなかった点については評価したい。

193 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 19:08:10 ID:uUx1ZvuU0

 ドクオが魔法を解き、キメラを包んでいた結界が消えた。
 燻っていた炎が再び盛ったが、燃やすものも無くすぐに収まる。

 キメラだけでなく、地面も黒く焦げていた。
 牧草が焼け、地面が少し抉れている。

(;;゙A`) 「ツン、大丈夫か?」

ξ;;听)ξ 「大丈夫じゃないけど、タカラがもっと大丈夫じゃない」

 タカラは既に呻きも無くなっていた。
 蛇に噛まれた傷口を中心に、赤黒く肌がただれている。
 一箇所や二箇所の話では無い。全身のいたるところがその状態だった。

(;;゙A`) 「糞、とりあえず出来ることだけでもしないと、」

 ドクオは清浄化の魔法をタカラにかける。
 少なくとも傷口の毒は除去された。あとは既に体内に回った毒を何とかしなければ。
 ドクオもツンも、解毒の魔法は使えない

ξ;;听)ξ 「せめてあの先生がいれば……」

从 ゚∀从 「呼んだ?」

ξ;;听)ξ

(;;゙A`)

  *   *   *

194 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 19:09:01 ID:uUx1ZvuU0

 結論から言って、キメラは無事死んでいた。
 問題はその後である。

从 ゚∀从 『いやー、大五郎の支部に行く途中、禁酒委と行き当たってさあ』

从 ゚∀从 『事情が事情だから協力要請しちゃった』

 そんな感じで、ツンたちは禁酒委員会に保護されていた。
 立場上対立関係ではあるものの、酒を持っていないツンたちは逮捕されることも無く丁重に扱われている。
 権威的なイメージこそあるが、禁酒委はあくまで民衆の為を謳う組織なのである。

 ブーンは酒の入ったスキットルを持っていたため、少々もめたようだが、とりあえず逮捕はされていない。
 ハインリッヒが強力を要請した禁酒委の中尉殿は、それなりに話が分るらしかった。
 まあそれ以前に、キメラについて何か知っている風だったのが気になるが。

/ ゚、。 / 「……」

 保護、とはいっても無論自由に禁酒委の支部内をうろつけるわけではない。
 狭い部屋(恐らく、一時的な拘留施設)に入れられ、見張りの兵士がついている。
 ツンの部屋にいるのは、ツンと同じ歳くらいの青年。

 顔立ちが整っていて性別は分らない。

ξ゚听)ξ「ねえ」

/ ゚、。 / 「なんだし」

 声が高い。女だ。

195 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 19:10:22 ID:uUx1ZvuU0

ξ゚听)ξ「何で、警邏じゃなくて禁酒委員会なの?」

/ ゚、。 / 「サロンは元々自警団しかなかったんだし。だからウチが警邏も兼ねてるんだし」

 なるほど、禁酒委がサロンで実権を握っているのはそういう側面もあるわけだ。
 実際は越権行為なのかも知れないが、現地の人間にとって守ってくれるなら誰でも構わないのだろう。

ξ゚听)ξ「仮にも、大五郎に雇われてる私たちを保護していいの?」

/ ゚、。 / 「上司の命令だし。あんたたちは今酒を運んでいたわけでもないし、一般人と変わらないだし」

 運んでた酒がなくなったのはあんたたちの仕組んだ襲撃のせいだろ、と言いかけてやめた。
 下っ端らしい彼女がそれらについての情報をどれほど把握しているか分らないし、
 どちらにせよ、しらばっくれてはぐらかすだけだろう。

 ツンの腹に溜まるイライラは、既に臨界点に近かった。
 禁酒委に助けを求めたハインリッヒの判断は間違いではない。
 あの状況では、結果がどうなるか分らない以上、助けを求める相手にこだわってる場合ではなかった。

 だから、この状況が気に食わないのはツンの責任。
 両親の仇に助けられている、というのがこの上なく腹立たしい。
 直接的な実行犯は禁酒委ではないだろうが、ツンはその関連を信じて止まない。

196 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 19:11:02 ID:uUx1ZvuU0

/ ゚、。 / 「ところで、オルトロスと大五郎はどんな関係だし」

ξ゚听)ξ「ん、ああ」

 そういえば、ブーンはVIPで禁酒委に襲われたといっていた。
 禁酒委としても彼がどんな立場にいるのか把握しかねているのだろう。

ξ゚听)ξ「大五郎はアイツを雇おうとしたけど、きっぱり断られたのよ」

/ ゚、。 / 「じゃあ何で一緒にいたんだし」

ξ゚听)ξ「ただのグーゼン。私とアイツが知り合ったのも、グーゼンだったし」

/ ゚、。 / 「むーぅん?」

 明らかに疑っている顔だ。
 ツンは一切嘘をついていないがまあ信じないのも分る。

ξ゚听)ξ「そこらへんのことは、アンタの上司がブーンから直接聞き出してるでしょ」

 わざとらしく面倒くさそうな態度を表に出して、言い捨てた。
 見張りの顔が険しいものになる。

197 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 19:12:24 ID:uUx1ZvuU0

/ ゚、。 / 「……助けられた立場の癖に、生意気だし」

 ぼそりと、しかし聞こえることが前提の音量で呟いた。
 ツンの耳がピクリと動く。
 明らかな挑発だが、ここで堪えられるくらいなら、ツンちゃんいちいち満身創痍になったりしない。

ξ゚听)ξ「どっかの誰かさんたちが偉そうに踏み込んできた時には、もう全部終わってたんだけど」

ξ゚听)ξ「それを偉そうに助けたとか、ハイエナみたいな考え方ね」

/ ゚、。 / 「酒なんかの近くにいると結果論しか考えられなくなるんだし?」

/ ゚、。 / 「ウチが協力を引き受けなかったら、あの魔法使いが戻るのももっと遅れてたんだし?」

ξ゚听)ξ「別にそのまま先生だけ残ってあんた達帰っても良かったのよ?」

ξ゚听)ξ「あ!それじゃ助けてやった優越感に浸ってドヤ顔できないもんね。ありがとう禁酒委さん!」

/ ゚、。 /

ξ゚听)ξ

/ ゚、。 / (僕、)

ξ゚听)ξ(コイツ)

 嫌い(だし)。
 二人の息は微妙なところで合っていた。

198 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 19:13:05 ID:uUx1ZvuU0

 ツンとダイオードが、猫とカラスよろしくいがみ合っている隣の部屋でブーンとジョルジュは向き合っていた。
 ブーンは後ろで手を拘束され、椅子に座らされている。
 ツンとタカラはともかく、ブーンは一応飲酒していたので保護ではなく身柄拘束という体になっている。
  _
( ゚∀゚) 「あのキメラを処分してくれたあんたを拘束するのは気が引けるんだが」

( ^ω^)「かまわんお。酒飲んでるのは事実だし」

 この場においては圧倒的にジョルジュ優勢なのだが、ブーンの態度は実に堂々としていた。
 気分としては完全に推し負けている。

 オルトロス。
 国内外問わず大きな戦争があれば必ずといっていいほど名前が挙がる。
 ここ十年では、最も有名な傭兵といって過言ではないだろう。
  _
( ゚∀゚) 「改めて自己紹介しよう。禁酒委(中略)警備課課長、ジョルジュ=ナガオカ中尉だ」

( ^ω^)「ブーン=N=ホライゾンだお」
  _
( ゚∀゚) 「早速なんだが、サロンに来た理由は?」

( ^ω^)「ちょっとした観光だお」
  _
( ゚∀゚) 「単刀直入に言おう。ウチの上司がアンタが大五郎と組んだんじゃないかとおろおろしてる」

( ^ω^)「僕は誰にも雇われてないし、雇われる気もないお」

199 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 19:14:09 ID:uUx1ZvuU0
  _
( ゚∀゚) 「……」

( ^ω^)「……」

 しばしのにらみ合い。
 ブーンは相変わらずの柔和な顔で、ナガオカの穿つような視線もまったく通じない。
 暖簾に腕押しとは、正にこのこと。

 嘘を吐いているようには見えないがどうにもつかみどころが無い。
 これ以上話を聞こうとしても無駄か、と短く息を吐く。
  _
( ゚∀゚) 「とりあえず持っていたスキットルは没収。今日一日は拘留する」

( ^ω^)「おーん、悪いことしてないおに」
  _
( ゚∀゚) 「酒入りのスキットルを見つけたからにはただで返すわけにはいかなくてな」

( ^ω^)「出来れば一口飲ませて欲しいお」
  _
( ゚∀゚) 「ダメに決まってるだろうが……」

( 'ω`) 「おーん……」

 あのキメラをほぼ独力で押さえ込んだと聞いているが、どうにも覇気が無い。
 言葉に表し難い威圧感のようなものこそ感じるもののこれならばジョルジュでも倒せそうだ。

200 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 19:15:13 ID:uUx1ZvuU0
  _
( ゚∀゚) 「キメラをたおした恩赦で、罰は無いことにする。明日には開放するから我慢してくれ」

( ^ω^)「……おーん、じゃあ、こちらからも一ついいかお?」
  _
( ゚∀゚) 「機密以外のことならな」

( ^ω^)「ここに魔女が出入りしてるってのは本当かお?」

 相変わらずの間抜けなニヤケ面。
 しかしその奥の眼光は鋭く、嘘を見逃す気は無いと分る。
 ジョルジュは無意識に唾を飲んだ。

 やっぱ、コイツに勝つのは難しいかもしれない。
  _
( ゚∀゚) 「俺はここに来て一ヶ月になるが、魔女の姿を見たことは無いな」

( ^ω^)「……」
  _
( ゚∀゚) 「……」

( ^ω^)「そうかお。わかったお」

 信じたのか、単に見逃したのかブーンの気配が元に戻る。
 ジョルジュは嘘は言っていない。
 魔女が支部に来る時は、常に姿を消しているので、「姿を見たこと」は無いのだ。

201 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 19:16:09 ID:uUx1ZvuU0
  _
( ゚∀゚) 「連れて行け」

 部下に命じてブーンを留置部屋へ連行させる。
 一人になって部屋で、椅子に凭れ天井を仰ぐ。
 油の満ちたランプが二つ。煌々と光を放っていた。

 胃がキリリと痛む。 
 今回は偶々オルトロスがキメラを発見し倒してくれたから良かったものの、
 もし発見が遅れていたらどんな被害が及んだか分らない。
  _
( ゚∀゚) 「上も、厄介なのに手を出したもんだ……」

 『魔女』。巷ではそう呼ばれている。
 魔法で常に姿を消しているものの話してみれば少々奔放なだけでそこらの女と大差は無い。
 その大差ない気まぐれと我侭で、天地をひっくり返す魔法を使うから厄介なのだが。

 上は、長く地下での小競り合いを続けていた大五郎酒造を潰すため、魔女に手を出した。
 その力を利用できると勘違いしているのだ。

 ジョルジュに言わせれば、いつ暴れだすか分らない猛獣を、絹糸一本で拘束しているようなもの。
 今回のキメラの件もその危うさが露呈した事件ではないか。

 もう一度、魂を道連れにするほどのため息を一つ。
 しばらくの間、胃薬を手放すことは出来無そうだ。

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