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128 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:13:30 ID:R/sng.QA0
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从 ゚∀从 「『治療魔法は結果的に貴方の寿命を短縮してしまう可能性があります』」
从 ゚∀从 「『治療魔法は一時的に身体に負担がかかるため強い痛みを伴う場合があります』」
从 ゚∀从 「『治療魔法は必ずしも完全に傷、病を修復できるものではありません』」
从 ゚∀从 「『以上のことに同意する場合のみ、貴方に治療魔法を施します』」
ξ゚听)ξ「同意するわ」
从 ゚∀从 「リッヒッヒ、迷いねえな。好きだぜ、そういうの」
と言ったやり取りを経て、ツンは銀髪の男により治療魔法を施された。
事前の注意の通り、電流を受けたような痛みを伴い、かなり辛い。
一応麻酔魔法も使っているとは言われたが、正に気休め程度だった。
ツンの治療を追え、男は残りの二人の治療にかかる。
屈強な傭兵の彼らも耐えがたかったのか、小さな呻きを漏らす。
从 ゚∀从 「おーし、これで全員だな」
ξ゚听)ξ「ありがとう、えっと……」
从 ゚∀从 「ハインリッヒ=イーグル=ヲッカだ」
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129 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:14:38 ID:R/sng.QA0
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ξ゚听)ξ 「……イーグル?イーグルってもしかして」
从 ゚∀从 「リィーッヒッヒ、何でもねえ、何処にでもいる魔法使いだよ」
訝しがって見るツンに、ハインリッヒは肩をすくめて見せる。
イーグルと言えば、魔法使いの間ではそれなりに有名な名だが、本人はあまり触れられたくないらしい。
助けられた恩もあるし、ひとまず踏み込まないでいるとしよう。
( ,,^Д^) 「治療費はいくらにゃ?」
从 ゚∀从 「生憎、俺の治療費は傭兵風情が払えるもんでもねえ。ツケにしといてやるよ」
( ,,^Д^) 「ありがたいにゃ」
ξ゚听)ξ「で、これからどうするの?」
怪我は癒えた。後はこの後の行動。
奇襲を受けあやふやにはなっているが、そもそもツンたちはサロンへ配属される予定だったのだ。
何とか大五郎の支店を目指したいところだが、じきに日も沈む。微妙なところだ
从 ゚∀从 「日が暮れてくると、このあたりは危ないぜ」
ξ゚听)ξ「そうなの?」
从 ゚∀从 「最近、よく狼が出るんだよ」
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130 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:15:19 ID:R/sng.QA0
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( ;"ゞ) 「お、お、狼?!」
行者が素っ頓狂な声を上げた。
気持ちは分る。そんな危ない道を、彼は一人でハインリッヒの家へ向かったのだ。
今頃、童話よろしく馬とともにおおかみさんに丸呑みされていたかもしれない。
ξ゚听)ξ 「私たちも回復したし、禁酒党あたりがちょっかいかけてこない限りは大丈夫だと思うけど」
なんといっても、こっちにはオルトロスが付いているし、とブーンに視線をやる。
ブーンは大きな鼻くそを取るのに夢中だった。
いや、やっぱりコイツいてもダメかもしれない。
从 ゚∀从 「言っとくが完治じゃねえぞ。あくまで動くのに不自由ない程度まで再生させただけだ」
ξ゚听)ξ「……んー、確かになんか強張るけど」
从 ゚∀从 「それに、ただの狼じゃねえんだよなぁ」
ハインリッヒがボリボリと頭を掻いた。
同じ目線に立って分ったが、彼の銀髪、恐らく余りまめには洗っていないようだ。
せっかくの綺麗な色なのに脂が滲んでぼさぼさしている。
从 ゚∀从 「どうにも、おかしいんだよ、その狼」
( ,,^Д^) 「と言うと?」
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131 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:16:24 ID:R/sng.QA0
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从 ゚∀从 「近隣の住民総出で屠った一頭の死体を、見せてもらったんだが」
ハインリッヒが頭を掻いていた指の匂いを嗅ぐ。
くさっと言う表情をした。
真剣な話してるんじゃないのかコイツは。
治療魔法の副作用とは別の疲労感がツンを襲う。
ξ゚听)ξ(コイツものすごく殴りたい)
( ,,^Д^) (俺も)
从 ゚∀从 「多分、キメラなんだよ。あまりにも不条理な混ざり方してて何とか判別できたけど」
ξ゚听)ξ「不条理キメラ……」
ツンの頭に、いとも簡単に浮かんだ予想。
そういえば目撃情報があると言っていた。
( ^ω^)「……」
ブーンの顔を窺うように見ると、凛々しい顔で見返された。
ツンの視線に対する答えとしての顔なのか、鼻くそが取れてすっきりしているのか分らない。
恐らくどちらもなのだろう。
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132 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:17:16 ID:R/sng.QA0
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从 ゚∀从 「ここらの農場が小屋を空にしてるのもそのせいだ。家畜食い荒らされちゃ話にならないからな」
ξ゚听)ξ「……じゃあ、少なくともここに残るのは得策じゃないのね」
从 ゚∀从 「ああ。今のところ郊外でしか目撃されてない。あんたらの支社がある辺りまで行けば……」
ハインリッヒの言葉の途中、ブーンが当然外に目を向けた。
傭兵たちはその急激な変化に、それぞれの得物に手を掛ける。
開けた窓から外を窺うブーン。今までツンに見せなかった険しい顔をしている。
ξ゚听)ξ 「ブーン?」
( ^ω^)「なんだか、嫌な臭いがするお」
タカラは弓を手に、ブーンの傍へ。
外には見張りの傭兵達がいたはずだ。異変があれば真っ先に彼らが真っ先に気付くはず。
( ,,^Д^) 「例のキメラかにゃ?」
( ^ω^)「確信は無いけど、恐らく」
( ;"ゞ) 「で、でも、外の見張りの人たちは何も」
( ^ω^)「ちょっと気を引き締めていかないと不味いおね。僕が判別できるギリギリでこちらを窺ってる」
なんていうか臭いでそこまで判別できるほうが恐いのだけれど、あえてそれは言わない。
ツンもジャケットを着なおし、装備を確認する。
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133 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:18:18 ID:R/sng.QA0
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まずはベルトに提げた小剣。
今日、VIPを出立する前に奮発して買った新装備だが、既に歪んで刃が欠けている。
あの襲撃者の男のせいだ。人殺しに関わるとロクなことが無い。
次に腰の裏のコンバットナイフ。
こちらも、ワタナベを助けようとしたときに攻撃を受けたため少々刃毀れがある。
切っ先に問題は無いのでこっちを使うほうがいいかも知れないが、獣相手にはリーチが心もとない。
最後に、魔法を仕込むことの出来る特注のブーツ。
上級の魔法に切り替えたため、回数は最高で三回。
今は既に二回使ってしまったので、後一回だ。出来れば補充したい。
ξ゚听)ξ「ブーン、キメラの様子はどうなの?」
( ^ω^)「こっちが気付いたことに気付いたみたいだお。少しずつ近づいてきてる」
ブーンが答えた時点で、ツンの目にもその姿が見えた。
隠れるつもりは無いのか、農場の柵の向こうでこちらを窺うようにうろうろとしている。
数は10。遠目からは、ただの狼にしか見えないが。
だが、なんだろうか。
ツンは首の後ろに粘つくような嫌な感じを覚える。
とってもよろしくない気配だ。
( ^ω^)「……おかしいお」
ξ゚听)ξ「え?」
( ^ω^)「僕の感じた気配は、あいつらじゃないお」
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134 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:19:09 ID:R/sng.QA0
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ξ゚听)ξ 「それ、どうゆう―――――」
ツンの言葉は、小屋を揺らす衝撃音で遮られた。
上から落ちる木屑と埃。
そして、何か重いものが蠢く、軋む音。
ξ;゚听)ξ 「?!」
周りを見張っていた三人の傭兵が、音を確かめようと上を見ながら小屋から離れる。
ツンは見た。
彼らの顔に驚きと恐怖が浮かんだ瞬間と、その彼らの体が何かに引っ張られ上空へ消えた瞬間を。
ξ;゚听)ξ「な、何が」
屋根からは相変わらず木を鳴らす不快な音。
それに何か堅いものを擦り合わせて砕く音が加わった。
( ^ω^)「ドクオ!」
('A`) 「分ってる!!」
ブーンがドクオに切り替わる。
ドクオは間も無く、魔法式の展開を始めた。
タカラ他傭兵は驚いていたが、説明をしている余裕はなさそうだ。
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135 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:20:17 ID:R/sng.QA0
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('A`) 「“穿ち、砕き、貫き、屠る。我、孤独に溺れた者―――”」
相変わらず惚れ惚れするほど早い魔法式展開。
ツンが簡略化した中級魔法を使うのと大差ない時間で、完全版の上級魔法をくみ上げていく。
ドクオが何をしようとしているか理解したツンは、自身も魔法の展開に入った。
ξ゚听)ξ「“吹き荒れて薙げ。巻き上げて刻め―――”」
('A`) 「“引鉄は軽く、撃鉄は重く――――我、汝らを殲滅す”!!!」
ドクオの周囲に、複数の『空気の歪み』が現れる。
光を乱反射し、目に見えるほどはっきりと球形を模る陽炎のような魔法の塊。
数は数え切れない。
その無数の玉が天井を、そしてその向こうにいる何かを弾かれるように強襲した。
大槌を叩きつけたような衝撃音がこだまする。
砕け散る梁と屋根。
大小さまざまの木片がツンたちへ降りかかった。
( ;,^Д^) 「どっひぇ〜〜」
ξ;゚听)ξ「ッ“無色の斧でぶちのめせ―――ストーム”!!!!」
ツンの掌に魔法陣が現われ、周囲の空気が渦を巻く。
人が舞い上がるかと思うほどの風が発生、木片を残っていた屋根ごと吹く飛ばした。
露になった小屋の上空、夕前の気持ちのいい空が、場違いな貌でツンたちを見下ろしている。
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136 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:21:10 ID:R/sng.QA0
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ドクオの魔法が発動を終え、周囲に静けさが戻った。
遠くにバラバラと木片の落ちる音が遅れて聞こえる。
('A`) 「ナイスアシスト」
ξ;゚听)ξ「あんたマジぶっ飛ばすぞ」
( ;,^Д^) 「や、やったのかにゃ」
('A`) 「……いや」
ドクオの視線の先に、それはいた。
この僅かな間に、柵の近くまで引いている。
先ほどの狼たちがその周囲を取り巻いていた。
(;'A`) 「これは、ブーンに」
( ^ω^)「バトンタッチだおね」
それは、馬よりも大きかった。
全身を覆う針金のような黒い毛。
獣独特の力強さを感じる太く頑強な四肢。
大まかに言えば、巨大な狼。
首から上に、ぶっとい蛇が生えてさえいなければ。
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137 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:22:41 ID:R/sng.QA0
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ξ;゚听)ξ「なん、なのよ。あの化け物は!」
( ^ω^)「キメラだお」
ξ;゚听)ξ「それくらいわかるわー!!」
胴体との比率で言えば、本来あるべき首よりは細いが、十分に大蛇の部類。
重心を取るため乙の字を描くように首(蛇腹?)を擡げ、口からチロチロと舌を出していた。
何度見ても、でかい狼からでかい蛇が生えている。
なんだこれ。
ほんとなんだこれ。
ξ;゚听)ξ「正直この現実についていけない。ツンちゃん大爆発しそう」
( ^ω^)「あいつらに向けて大爆発してお」
ξ;゚听)ξ「無理。ツンちゃん長いものには巻かれるタイプだから」
( ^ω^)「まかれる前に食われるお」
ξ;゚听)ξ「逃げ場が無いわね」
( ;,^Д^) 「お前らの余裕が羨ましいにゃ」
名誉のために言っておくが、ツンは別に余裕なわけでは無い。
恐い時ほどおどける、陽気な黒人タイプなだけだ。
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138 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:23:25 ID:R/sng.QA0
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( ^ω^)「来るお」
蛇頭のキメラは動かず、周りの狼の一匹が小屋の一同へ向かい駆け出してくる
ブーンが窓枠に足をかけ、左右の剣を抜いた。
飛び掛った狼と同時に窓枠を蹴り、空中でその毛むくじゃらの腹を縦に切り裂く。
斬られた狼は受身も取らず、小屋の壁に激突し動かなくなった。
先の割れた舌をでろりと出し、死んでいる。
( ;,^Д^) 「すげ…」
( ^ω^)「みんなは小屋の中にいてお。僕がやる」
ξ;゚听)ξ「はあ!?あんた正気?」
タカラはじめ、他の傭兵も概ねツンに同意の顔をしていた。
この男がいくら強いといってもあのキメラ達、特にあの蛇頭を一人で倒せるのだろうか。
ξ;゚听)ξ「だあ!私もいく!」
ツンも窓を乗り越え、ブーンを追った。
右にショートソードを、左にナイフを持ちブーンの構えの真似をしてみる。
真似と言ってもブーンは構えという構えをせず、腕を垂らしているのだが。
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139 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:24:49 ID:R/sng.QA0
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( ^ω^)「あぶないお?小屋の中に居たほうがいいお」
ξ;゚听)ξ「こういうのは、一番強い奴のそばにいた方が安全てのがセオリーなのよ」
強がりを言ってみる。
本当のところはちょっと心配だからついてきたのだが、
ブーンより確実に弱いツンがそれを言ってもちょっとかっこ悪い気がしたので言わない。
( ^ω^)「おー、正直守る余裕は無いお」
ξ;゚听)ξ「そこはがんばりなさいよ」
ツンの手に汗が滲む。
キメラたちから放たれる強烈な気配。
これが獣特有の純粋な殺意というものか。
もしくは、上質な食物を目の前にして目を滾らせ涎を飲むような、抑え難き食欲というべきか。
( ^ω^)「しってるかお?キメラって魔法混じりだから、本能的に魔法使いを食べたがるんだってお」
ξ;゚听)ξ「あんたもキメラでしょ?私の魅力にメロメロ?」
( ^ω^)「貧乳はないわ」
ξ;゚听)ξ「後で金玉毟る」
( ^ω^)「ドッグのために一つは残してね」
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140 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:26:30 ID:R/sng.QA0
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狼が二頭、群れから外れツンとブーンに襲い掛かる。
並列し左右からの息のあった挟撃。
ブーンはツンを庇うように立ちはだかった。
ξ゚听)ξ「“鎌を研げ、食い散らせ―――”」
ツンはその背中を信用し魔法の展開を始めた。
なるべく殺傷能力の高い、人間には使わないやつだ。
( ^ω^)「!」
ブーンは自ら前へ。
右手から来る狼に右の剣を投擲。
眉間に受けた狼は勢いのまま足をもつれさせ牧草の上を滑って止まる。即死だ。
左からの狼は高い跳躍でブーンの首筋を狙う。
大きく開かれたその上あごに、残った左の剣を突き刺し、捻る。
脳を破壊され、鋭い牙も虚しく死体となった。
刃に刺さったままの狼の死骸を、ブーンは振り回して外す。
彼の実力を認めたのか、残りの七頭がじわじわと取り囲むように間合いを詰めてきていた。
完成した魔法式の保持に集中しながらも、ツンは後方を確認。
タカラは弓を構え、狙いをつけている。
支援は望める。他の傭兵達も剣を手に、小屋から出ていた。戦意はあるらしい。
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141 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:27:30 ID:R/sng.QA0
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( ^ω^)「ツン、二頭だけ任せるお」
そう言ってブーンは右の方向へ。投擲した剣目指して走り出した。
彼の動きに反応した狼達も一斉に動く。
周囲を囲んでいた狼の内二頭がツンへ。
残りの五頭がブーンへ走り出す。
ξ;゚听)ξ 「“――ウィンドエッジ”!!」
周りの空気がツンの持つ小剣の切っ先に絡みつき、目で見て分るほどのうねりを起こした。
それを袈裟切りにする様に投擲。
放たれた風が目に見えぬ刃となって、一頭の肩口を切り裂く。
鮮血を吹きながらもいくらか走った狼は、程なくして倒れた。
残りの一頭はそれに怯むことなく突進。
魔法の展開は間に合わないと判断し、ツンは大人しくその飛び掛りを転んで回避した。
追撃に備え向き直ると、狼がふらついていた。
後ろ足の左腿から矢が生えてることに気付く。
タカラにチラリと目をやる。
彼は新しい矢を矢筒から引き抜くと、素早く放ち、今度は首を打ち抜いた。
ものすごい腕だ。
にゃーにゃー煩い見掛け倒しだと思ってごめんね。
動きの鈍った狼の頭にナイフをつきたてながら、ツンは心の中で謝る。
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142 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:28:12 ID:R/sng.QA0
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ブーンを見ると、丁度狼の胴を二刀で縦に切断するところだった。
周りの死体が増えている。残っているのは蛇頭を除きあと一頭だ。
もう、どっちが化け物か分らない。
その残りの一頭も、頭をこそぎ取って瞬殺。
言いようの無い血の匂いが立ち込めている。
ツンは腕で鼻と口を抑えた。
ブーンは懐からスキットル(酒類を入れる携帯用のボトル)を取り出して中身を呷っている。
一仕事終えた一服をするような、場違いすぎる気楽さだ。
ξ;゚听)ξ「あぶっ」
蛇頭が、消えた。
正確には見失うほどのスピードでブーンに向けて伸びたのだ。
その音速の噛みつきをブーンは伏せてかわす。
スキットルを懐へ仕舞い剣を持ち直した。
犬のように伏せたブーンへ、キメラが一歩一歩近づく。
重苦しい足音には似つかない軽やかな足取り。
そして、ブーンの足で六歩ほどの距離で止まり、舌をチロチロと覘かせる。
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143 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:29:17 ID:R/sng.QA0
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今度はブーンの姿が消える。
以前ツンの前で見せた「気配を消す」というふざけたやつだ。
一秒と待たず、ブーンの姿はキメラの目の前に。
脇に構えた刀で蛇部分の根元を真一文字に、切り裂けない。
重い、打撃音。
刃がキメラに届くか否かの刹那、丸太のような前足がブーンの身体を弾き飛ばしたのだ。
さしものブーンも不意打ちだったのか歯を食いしばり四足で着地する。
そこへ、キメラの追撃。
細剣の刺突を思わせる、首を伸ばしての噛み付き。
ブーンは一撃を横に転がって回避、二撃目を上に跳んでかわし、三撃目を交差した剣で受けた。
突き飛ばされて、間合いは更に開く。
ξ;゚听)ξ(え、援護しなきゃ)
武器を収め魔法式の展開を始めるが、焦りでうまく行かない。
キメラは再び悠々とした足取りでブーンへ。
対するブーンは息切れこそまだないものの、いつもの余裕は感じない。
再び間合いに差し掛かる距離へ。
ブーンの視線が一瞬だけツンへと向いた。
援護を求めるような目では無かった。
どちらかというと位置を確認して、庇おうとしているようなそんな感じだ。
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144 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:30:54 ID:R/sng.QA0
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ξ;゚听)ξ「あんの、馬鹿!舐めんじゃないわよ!」
手足にこびりつく恐怖を、叫んで散らす。
こうなったらツンちゃん大爆発だ。
ツンちゃんは自分より弱い奴にしかいきがれないそこらの三下とは訳が違うのだ。
ξ;゚听)ξ「“大地薙ぎ、灘を断つ―――”」
自分を奮い立たせ、魔法式の展開を開始。
時間がかかるがツンの使える最も強力な魔法を組み上げる。
ξ;゚听)ξ「“天突く刃は、勇士の証―――”」
キメラが動く。
ブーンへ再びの鋭い噛みつき。
空を裂く音がうねりブーンがいた地面が芝生ほど抉れる。
それを既に回避していたブーンは戻る首と同じ速さで懐へ。
カウンター気味に振り上げられた前足をかわし、左前足、腹、右後ろ足と切りつけながら駆け抜けた。
斬りつける度に聞こえた鈍い打撃のような音。
剛毛と分厚い筋肉が邪魔で深くまで斬りつけることが出来ないのだ。
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145 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:32:17 ID:R/sng.QA0
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ξ;゚听)ξ「“邪より生まれし聖(ヒジリ)の剣よ―――”」
キメラはブーンを追い、向き直ろうとするがブーンはそれよりも早く首の後ろへ跳躍。
がら空きの背中に体重を込めて剣を突き刺した。
刃が根元まで身体に埋まるが、キメラの動きに鈍りは無い。
激しく暴れ、ブーンを振り落とす。
剣は半端に突き刺さったままブーンの手から離れた。
着地したブーンへ、後ろ足での起立状態から前足でプレス。
地面が窪むほどの一撃だがブーンは紙一重で見切りそのまま首を切る。
キメラは首を急激に縮め肉を圧縮することで、ダメージを皮一枚に抑える。
ξ;゚听)ξ「“曇天導き、今我が元へ参らん―――”!!
間合いを取るのは得策ではないと判断したブーンは絡みつくように戦う。
一撃一撃は深くは入らないものの、着実な積み重ね。
長い首を持て余し上手く反撃の出来ないキメラは徐々に苛立ち始めている。
ブーンは即死級の攻撃を捌きながら、決定打を入れるチャンスを探していた。
ならば、そのチャンスをツンちゃんが与えて、いや、自らぶちかましてやろうと言うものだ。
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146 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:33:25 ID:R/sng.QA0
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アメノムラクモ
ξ;゚听)ξ「“来い!――――天叢雲”!!!」
( ^ω^)「?!」
展開した魔法式を発動。手を天に翳す。
空が呼応するように雲を蓄え始め、周囲がにわかに暗くなった。
どす黒い雲が蠢き、八本の筋となって地に垂れ下がる。
ツンの元に集結した黒雲は両刃剣の形となって彼女の手に。
ξ;゚听)ξ「ブーン!タカラ!援護よろしく!!!」
返事を聞かずツンはキメラへ向かって弧を描くように駆け出した。
魔法で生み出した灰色の剣、天叢雲。
風と水、二つの属性をあわせた高密度の魔力の刃はあらゆる物を切り裂く。
師から教わったツン最強の魔法だが、威力抜群な分消耗が激しいのでだらだらとは使えない。
現に剣は恐ろしい勢いでツンの魔力を吸い取り続けている。
キメラが強い魔法の気配につられ、ツンを向く。
首が一瞬、僅かに縮む。ブーンが戦うのを見て気付いたが、これがあの噛みつきの予備動作だ。
同時にブーンが力任せにキメラの足を叩き斬った。
骨の砕ける音がしてキメラの体勢が崩れた。
伸びた首の一撃はツンを逸れて後方へ。
そのまま斬ってやろうかとも思ったがすぐに縮んでしまう。
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147 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:34:17 ID:R/sng.QA0
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キメラはブーンを前足で遠ざけ、再びツンへ咬撃を放とうとしたが、その目に矢が突き刺さる。
背後からの射撃。タカラだ。驚くべき精度である。
ξ#゚听)ξ「お前ら!!!」
怯んで目標を見失っているキメラにツンは飛び掛る。
剣を振り上げ、狙いを定め、魔力を一気に開放し―――。
ξ#゚听)ξ「よくやった!!!」
首を、一気に切断した。
天叢雲は、ブーンの斬撃を何度も耐えたその首をバターのような気安さで切り落とす。
切断面は美しく、そのまま生物教本に載せられるほどだ。
ツンはその場場を飛びのく。同時に、血が切断面から噴出。
周囲に赤い雨を降らせた。
仕上げに地面に落ちてもなお這って動こうとした頭に天叢雲を突きたて、トドメを刺す。
残された胴も、しばらく血を噴出しながら堪えた後に、寝るように倒れた。
キメラの死亡を確信して、ツンは剣を消す。
安心と疲労で力が抜け、腰が砕けた。
( ^ω^)「おっと」
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148 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:34:58 ID:R/sng.QA0
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ふらつくツンをブーンが抱きとめた。
ちょっと恥ずかしい構図になっているが、疲れているので反抗はしないことにする。
ブーンの腕は力強く身体を預けていて安心だ。血なまぐさいけれど。
( ^ω^)「すごい魔法だったおね」
ξ゚听)ξ「私の師匠のオリジナルでね、火力は文句無いんだけど」
ξ゚听)ξ「私はまだ使いこなせないみたいね……って」
ブーンは小屋へ戻るため、ツンをそのまま抱き上げる。
突然のことにツンはバランスを取るため慌ててブーンの首にしがみついた。
ξ;*゚听)ξ「ちょ、ちょ、ちょ、ちょちょっちょちょ!」
( ^ω^)「魔力使い切ってフラフラだお?小屋まで運ぶお」
ξ;*゚听)ξ「お、お、お、お、おう!苦しゅうない!」
( ^ω^)「なんだそれ」
抱き上げられるなんていつ以来だろうか。
ついでに言えば、異性に抱き上げられるのは初めてだ。
ブーンの外套は獣と血の匂いが付いていて、とてもロマンチックとは言いがたいけれど。
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149 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:36:06 ID:R/sng.QA0
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( ;,^Д^) 「大丈夫かにゃ?!」
小屋からはタカラと傭兵達が駆け寄ってきた。
額には粘土の高そうな汗を滲ませている。
仲間との格闘中の敵を狙撃するのは緊張したのだろう。
( ^ω^)「僕はかすり傷だお」
ξ;゚听)ξ「私も、魔力が尽きただけ」
( ;,^Д^) 「良かったにゃ〜〜」
見た目の厳つさの割りにお人良しだな、と苦笑い。
タカラの顔は本当にツンたちを心配していた顔だ。
他の傭兵二人は、状況が読めないのか、自分が何も出来なかったからか、やや険しい顔をしている。
( ,,^Д^) 「しっかし、恐ろしい奴だったにゃ」
( ^ω^)「うんお。まさか僕の刀で通らないとは」
ξ゚听)ξ「あ、あんた剣一本刺しっぱなしじゃない?」
( ^ω^)「後で取るから平気だお」
( ,,^Д^) 「しかし、死んでも立ってるとか、不気味なやつだにゃあ」
ξ゚听)ξ「そうね……」
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150 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:37:11 ID:R/sng.QA0
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ξ゚听)ξ「……え?」
ツンはブーンに抱かれたままキメラのほうを振り返った。
タカラの言葉通り、キメラの身体は四足で確り立っている
ξ゚听)ξ「ブーン、さっきあのキメラ倒れたわよね?」
( ^ω^)「おん?そのはず……だお?」
ブーンも気がついた。
キメラの巨躯は、何度見返しても立っている。
ξ;゚听)ξ「わたし、なんか嫌な予感がする」
( ^ω^)「奇遇だね。僕もだお」
( ,,^Д^) 「?どうしたんだにゃ?」
ずるり。
地面に広がっていたキメラの血が意思を持ったように動き出す。
体の元に徐々に集まり、その身体を這い上がって傷口から体内へと戻っていくのだ。
( ;,^Д^) 「はにゃぁ!?」
( ;^ω^)「まずい!みんな下がるお!!」
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151 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:38:05 ID:R/sng.QA0
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ブーンの忠告は間に合わなかった。
キメラの首の切断面から噴出した血がまっすぐにツンたちに襲い掛かる。
ブーンはツンを抱えたままかわし、タカラは間一髪耳たぶを抉られるだけで済んだ。
しかし、他の傭兵二人は間に合わない。
血液の鞭が眉間を貫き、絶命していまう。
( ;,^Д^) 「あば、あばばばば」
( ;^ω^)「次が来る!下がるお!!」
ブーンの怒号で三人は退避。
言葉通り、矢のように鋭い血の鞭がツンたちのいた空間を切り裂く。
キメラはのしのしと、ゆっくりとした歩みでこちらへ迫る。
首が無く、体から生えた血の触手を揺らめかせるその姿はどこをどう見ても異常。
相対的に蛇頭が可愛く見えるほど、心の底から嫌悪感がわいてくる。
ξ;゚听)ξ「あいつ、死んでなかったってこと?!」
( ;^ω^)「みたいだおね」
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152 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:39:00 ID:R/sng.QA0
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三人で小屋まで逃げ戻った。
キメラの歩みは遅いため距離は出来たが、恐怖感は薄れない。
( ;"ゞ) 「何なんですかアレェ!!」
( ;,^Д^)「こっちが聞きたいにゃ!」
从;゚∀从 「おいおい!あれほどバケモンだなんて聞いてねえぞ」
キメラの血は、周囲に転がっていた蛇頭や狼の死骸、傭兵の身体を包み込み本体の元へ連れて行く。
そして、本体はその死骸達を赤黒い触手で吊り上げると、
ぱっくん。
そんな音が聞こえそうな音で体内に取り込んだ。
ツンが斬った首の切断面の中心にあった食道と思しき穴が口の如く大きく開き、
次々と死体を飲み込んでいく。
全部の肉を体内に押し込んだ頃には、腹が地面につきそうなほど膨らんでいた。
ξ; )ξ「うげぇ……」
( ;^ω^)「ちょっと!抱かれたまま吐かないでお!」
そんなこと言っても無理だ。
キメラは腹をぐねぐねと動かし、死体を体内ですり潰している。
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153 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:40:02 ID:R/sng.QA0
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( ^ω^)「ツンを頼むお」
( ;,^Д^) 「あんた、まさか!」
( ^ω^)「ほっといたら、アレの被害が街に及ぶお。何とか食い止めないと」
ツンを小屋の壁に凭れさせ、ブーンは再び剣を抜いてキメラへ向かっていく。
確かにその気になれば魔法も使えるブーンなら時間稼ぎは出来るかも知れない。
しかし、首を落としても死なない化け物相手に、どう戦うと言うのだ。
ξ゚听)ξ「私も、戦う」
( ^ω^)「魔力空っぽの君なんか邪魔なだけだお。端っこでゲロはいてなさい」
ゲロの部分は余計だけど、正論だった。
魔力が空っぽの状態は身体的にも良好な状態ではない。
普段どおりに剣を振るえるかどうかも怪しいのだ。
魔力を回復する方法はあるが、今のツンはそれに必要な魔法具を持っていない。
ブーツと一緒に師匠から盗んでくればよかったと、唇を噛む。
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154 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:40:44 ID:R/sng.QA0
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( ;,^Д^) 「俺も行くにゃ、行者さん、先生とツンつれて逃げるにゃ」
( ;"ゞ) 「は、はい!」
( ;,^Д^) 「出来れば、援軍を回せるよう頼んでくれにゃ」
それだけ言い渡して、タカラもキメラへ向かっていく。
矢筒の矢は五本。接近戦用の小剣を持ってはいるがどうにも心もとない。
ブーンとキメラは既に対峙していた。
互いに間合いを計るように、動かない。
キメラの触手だけがありもしない食料を探して中空をうねうねと彷徨っている。
と、突然キメラの首の断面が盛り上がり始めた。
肉を突き破るように、そこから蛇の頭が生えてくる。
しかも、三本。
一本一本は元よりも細いが、見た目の凶悪さは増した。
口から垂れた涎が、芝生に落ちて焦げるような音を発する。
毒だ。見た目からしてかなりやばい。
ξ;゚听)ξ「やっぱり、私も戦わなきゃ」
( ;"ゞ) 「でもあんた、もうフラフラなんだろ?」
ξ;゚听)ξ「囮になるくらいなら出来るわ」
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155 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:41:25 ID:R/sng.QA0
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从 ゚∀从 「そんなに、戦いたいのか」
ξ;゚听)ξ「トーゼン。ツンちゃん目の前の揉め事に飛び込まずにいられない系女子だから」
从 ゚∀从 「リッヒッヒ、いかれてやがる」
ハインリッヒはそう言ってツンに小瓶を手渡した。
透明のビンの中にミント色の液体が入っている。
ξ;゚听)ξ「これは?」
从 ゚∀从 「魔力回復薬。タリズマンと違って急激な補充は出来ないが、回復を数倍以上早める薬だ」
ξ;゚听)ξ「私が使っても平気なの?」
从 ゚∀从 「タリズマンと違って人を選ばねえ。すぐには無理でも、数分で多少は戻るはずだ」
ξ;゚听)ξ「……ありがとう、先生」
从 ゚∀从 「リッヒッヒ。俺は女に甘いんだ」
ツンは中身を呷る。
ぬるいのに冷たい不思議な感覚が咽を駆け下り、全身にしみこんでいくようだ。
確かに、魔力の回復量が上がっていくのを感じる。
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156 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:42:35 ID:R/sng.QA0
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ξ゚听)ξ「っしゃぁ!!」
勢いよく立ち上がる。
怪我のこともあってやはり万全とは言いがたいが、囮として逃げ回るくらいは出来そうだ。
盾代わりに小剣を抜いて、ブーン達の下へ走る。
从 ゚∀从「さて、と」
( ;"ゞ) 「先生は戦わないんですか?」
从 ゚∀从 「俺はあくまでサポート」
ブーンは既に激しい戦闘を始めていた。
前足、三本の頭に加え傷口から生える血の触手。
戦っているというよりも何とか凌いでいるというのが的確か。
正直、ツンちゃん囮も無理かも知れない。
ツンの魔力はまだそれほど回復しておらず、弱めの中級一発で空に逆戻りだ。
下手は打てない。
タカラがブーンを援護し、キメラの死角を探して矢を放つ。
流石の命中精度だったが効いているようには見えなかった。
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157 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:43:26 ID:R/sng.QA0
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ブーンが鞭のように振るわれた首の一本に吹き飛ばされ、ツンの近くへ着地した。
追って来ようとしたキメラの頭の一つをタカラの矢が貫いて妨害する。
ブーンがチラッとツンの顔を見た。
「来たのかよ?はぁーぁ」というため息交じりの呆れがきこえてきそうな顔だ。
ぶん殴りたくなるのをぐっと堪える。
ξ゚听)ξ「魔力はある程度回復した、援護する」
( ^ω^)「どれくらい出来るお?」
ξ゚听)ξ「中級一回くらいならすぐに。上級はまだ無理」
( ^ω^)「……」
思案するブーンとツンの元へ、血の矢が飛来した。
ブーンがツンを抱いて後方へ回避。難を逃れる。
( ^ω^)「強化魔法使えるかお?出来れば僕自身の身体能力を増強する奴」
ξ゚听)ξ「出来る」
( ^ω^)「時間はいくらかかる?」
ξ゚听)ξ「15秒」
( ^ω^)「分った。的にならないよう、離れてるお」
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158 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:44:42 ID:R/sng.QA0
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今度はキメラ本体が恐るべき脚力で二人の下へ。
ツンとブーンは二手に分かれてそれを回避。
追撃の触手をそれぞれに武器で払い落とす。
( ^ω^)「こっちだお!!」
ブーンがキメラへ切り込んだ。
触手の鞭と毒に濡れる牙に阻まれるが、右手の剣一本でその全てを捌く。
キメラの身体は丈夫で、ブーンが時々入れる斬撃も浅い傷を作るだけ。
むしろ半端な傷を作るほど、そこから新しい触手が伸び始める。
いたちごっこどころか、悪化の一途だ。
ξ゚听)ξ「“旋風(ツムジ)を描く、竜を巻く―――”」
キメラがブーンに側面でタックル。
腕を交差して受けたブーンだが、体格の違いが明確に表れ突き飛ばされる。
よろけた所へ触手四本の追撃。
ブーンはこれをまとめて、力任せに斬り上げ弾く。
金切り音が響き触手の先端が宙を舞った。
ξ゚听)ξ「“その身に宿せ、風の鼓動―――”」
ブーンに飛び掛ろうとするキメラの後ろ足をタカラの矢が射抜く。
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159 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:45:46 ID:R/sng.QA0
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この隙を利用してブーンは地を這うように接近。
打ち下ろすように放たれた触手をかいくぐり、胸元へ。
ξ゚听)ξ「行くわよ!“ビートアップ”!!」
瞬間、ブーンの身体が灰色の光を纏った。
体の隅々まで強化の魔法が行き渡り、血肉が活性化する。
ブーンは飛び上がりながらの斬り上げ。
刃はこれまでが比にならないほど肉を抉り、ブーンの身体はキメラを軽く飛び越した。
( ^ω^)「―――!!」
ξ゚听)ξ「効果は5分!!」
( ^ω^)「重畳、だお」
ブーンの体が空中で猫のように反転。
その姿を追って上を向いた真ん中の蛇頭を、縦に切り裂きながら降りる。
血を噴出す首に怯むことなく左右の首の噛み付き。
この一瞬にブーンは気配を消し、すり抜ける。
ほんの僅かな時間とは言えブーンを見失った蛇頭の右の方をこれまた力ずくで跳ね飛ばした。
ξ;゚听)ξ「やっぱりアイツ、化け物だわ」
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160 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:46:29 ID:R/sng.QA0
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ツンがかけた強化魔法は、本人の身体能力によって効果が大きく変わる。
元の膂力が高ければ高いほど高い性能を発揮するのだ。
ブーンの能力向上はツンが見た中では最も触れ幅が大きい。
無論まだまだ半人前のツンがその全てを把握できているわけでは無いのだが。
( ^ω^)「これなら……あとは」
ブーンはキメラの毛を鷲づかみ、そこを支点に素早く背中へ。
背中に深く突き刺さった剣を、刃の方へ踏み、傾ける。
傷口が広がったところに手を掛け、引き抜きがてら飛びのいた。
一瞬送れて、キメラの触手の全てが背中の上を貫く。
言うまでもないがブーンにはかすりもしなかった。
キメラ後方に下りたブーンは間を作らず尻尾を右で斬り撥ねる。
更に左に逆手に持った剣を肛門に突き刺した。
刃の向きは下。そのまま引き下げ、下腹まで引き裂く。
ξ;゚听)ξ「うわぁ」
お尻がキュッとした。
痛い。あれ絶対痛い。
辛いんだぞ、痔は。特に薬塗る時の姿勢が虚しくてなんともいえないのだ。
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161 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:47:12 ID:R/sng.QA0
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蛇首の残った一頭が、吼えた。
音こそ無いが、怒りに近い殺気を烈風の如く放つ。
ブーンの強さに少し余裕の出ていたツンはそれに戦慄し、お尻以外も引き締める。
なおも咆哮は続いた。
呼応するように、切り裂かれた肉の断面がボコボコと泡のように盛り上がる。
異変を察知したブーンも、一旦その場から距離を取った。
ξ;゚听)ξ「うっそぉ」
( ;,^Д^) 「まだ生えるのかにゃ」
( ^ω^)「……」
いる場所は違えどそれぞれ感想は同じだった。
キメラの全身の傷口という傷口から、再び蛇が生える。
尻尾の付け根及び肛門からそこそこ太いのが四本。
落とした頭から太いのが二本。
全身にある小さい傷から普通サイズのが一本ずつ。
縦に割れた真ん中の蛇から、細長いのが無数に。
化け物ここに極まれりといったところ。
ツンちゃん、大爆発を通り越して大失禁しそうである。
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162 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:47:52 ID:R/sng.QA0
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体の、浅い傷から生えているものはそのまま一匹の蛇となって地面に落ちる。
ぼとぼとぼとぼとぼと。
血にまみれた無数の蛇がいたるところから産み落とされた。
最早数えきらないほど生えた無数の頭が、ツンたち三人をそれぞれに睨みつける。
正に死角なし。あるとすれば精々腹の下だが、そこからもにゅるり。
そういえばブーン腹も切ってたなー、とツンは汗を垂らした。
ξ;゚听)ξ「どうしろってのよ、こんなの」
キメラが動く。元は真ん中の一本だった数多の蛇が、一斉に魔法式の展開を始めた。
一つ一つは下級程度のものだが、数が半端ではない。
その上、その幾つもの魔法を右の頭が別の魔法で連結させ単一の魔法へと昇華させている。
ツンは見たことが無い魔法式だが、上級の威力を軽く超えるのは間違いないだろう。
( ;^ω^)「くっ」
ブーンが気配を消して切り込んだが、流石に残りの目全てを誤魔化すことができず、弾き返される。
再度挑もうとするが、だめだ。もう間に合わない。
キメラの上空に、多くの青い光の粒が湧いた。
シャボン玉のように大小様々な球形のそれらが一つに集まり膨らんでいく。
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163 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:48:33 ID:R/sng.QA0
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瞬く間にキメラ本体よりも大きくなった青い魔法の玉。
その形が一瞬不規則に歪んだかと思うと――――。
( ;^ω^)「!!」
ξ;゚听)ξ「“戦乙女の」
( ;,^Д^) 「はにゃぁ?!」
はじけた。
くぐもった破裂音と同時に、青い光弾が周囲に飛び散る。
隙間無く、絶え間なく、空を唸らせる光弾は、周囲のあらゆるものを穿ち抉り破砕した。
ツンは、かわすことも防ぐことも出来ず、出来損ないの魔法障壁と共に身体を打ち抜かれる。
一撃一撃が肉を潰し骨を軋ませる。口の中に血が満ちる。
痛みが遅い。足はとうに地面を離れていた。
意識が遠くなった瞬間、魔法の雨が止んだ。
かすむ視界の中で誰かがツンを庇っているように見えたがそれが誰かは分らない。
柔らかな牧草を蓄えた地面が、ツンの身体を受け止める。
優しい緑の香りが、鼻をくすぐる。
無理だ。勝てない。
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164 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:49:13 ID:R/sng.QA0
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大人しく行者達と一緒にみんなで逃げればよかったのだ。
逃げ切れるかは分らないけれど、少なくとも立ち向かうよりは無事に済む可能性があった。
ツンは、弱音を溢れさせる。
口の中が血なまぐさい。体から力が抜けていく。
頭がショートを起こして自分がどこを向いているか分らなかった。
赤みを帯びる空を見ているのだと気付いたのは十数秒ぼうっとしてからだった。
キメラは何をしているのだろうか。
頭部に食らった一撃のせいで耳が良く聞こえない。
もしかしたら今正にツンの身体を食おうと近づく最中やも知れない。
ここで、死ぬのか。
ツンが師匠の下を脱走し、復讐相手を探し始めてからまだ二週間も経っていない。
無念だ。実に無念だ。
せめて何か、一矢を報いたい。
ツンは身体を捻ってキメラがいると思しき方を見た。
そして、キメラと戦い続けるブーンを見て、唖然とした。
キメラの巨躯に絡みつき、蛇を切り落とし、噛みつきを交わし、肉をこそぎ、魔法を弾く。
よく見るとブーンの左足は折れていた。
片足と、時折左手を使って跳ね回っているのだ。
呆れた。心底呆れた。
だが、少しだけ元気が出た。
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165 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:50:39 ID:R/sng.QA0
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ツンは体勢を変え、肘と膝で四つんばいに。
景気のいい血反吐を地面にぶちまける。
右肩口に強烈な痛みを感じて倒れた。顔面が自分の血に埋もれる。
土と血を拭いながら立ち上がった。
足が震える。感覚がはっきりせずよく分らないが、少なくとも折れてはいないらしい。
ブーンとキメラの元へ、フラフラと歩み寄る。
正直勝つビジョンが見えないが、まあ何とかなるはずだ。
無鉄砲こそ、ツンちゃんクオリティ。
蛇が一匹這い寄ってくるのが見えた。
体から落ちた奴だ。確実にツンを狙っている。
飛び掛ってきたその蛇を、誰かの剣が切り落とした。
ξ;;听)ξ「生きてたんだ」
(#,^Д;;)「おにゃーさん、何する気だにゃ?」
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166 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:51:39 ID:R/sng.QA0
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ξ;;听)ξ「なんか」
(#,^Д;;) 「若さ溢れる無鉄砲さに乾杯」
タカラがツンに肩を貸す。
見ると彼も体中から血を滲ませ、口元には吐血した跡もある。
いくらツンが小柄とはいえ、相当な負担になるはずだ。
ξ;;听)ξ「とりあえず、アイツのトコにいきましょ」
(#,^Д;;) 「アイツ何なんだにゃ?」
ξ;;听)ξ「キメラ」
(#,^Д;;) 「蛇のほうじゃないにゃ」
ξ;;听)ξ「どっちにしろ、キメラ」
タカラの顔がぽかんとする。
気持ちは分る。ツンもそうだった。
ブーンがツンたちに気付いた。
何か考えがあるような顔を見せて、キメラの後ろに回り込んだ。
両手の剣を振り上げる。
遠目にも筋肉が怒張するのが分った。
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167 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/14(金) 21:52:19 ID:R/sng.QA0
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(;;;;゙ω^)「杉浦双刀流―――二刃一瘡」
後ろ足の腱に、二刀を音速で叩き込む。
寸分違わず同じ位置に、同じ方向から、ややタイミングをずらして。
一太刀目で骨まで達した傷を、更に切り裂くことで、太い足を切断して見せたのだ。
何で片足でそれが出来るのか、と言うのは、最早野暮だ。
キメラが足止めを食らい、動けなくなった隙に、ブーンはツンたちの元へ。
器用に三肢を使って駆け寄る。
ブーンも足だけでなく体のいたるところに怪我をしているようだった。
最も間近でアレを受けたのだから当然だが、上半身の被弾が少ないところを見ると上手く捌いたらしい。
(;;;:゙ω^)「すぐに回復されるから、黙って聞いてほしいお」
開口一番、ブーンが言う。
ツンとタカラはやや間を置いて頷いた。
荒い息を整え、ブーンが口の中の血を吐き出す。
そして、二人をまっすぐ見据えた。
(;;;:゙ω^)「あいつを倒す方法が、分ったお」