( ^ω^)剣と魔法と大五郎のようです

三十話

873 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:04:38 ID:TIP17UXs0

 じゅう。と魅惑の音がした。

 ハインリッヒの持つフライパンからは、音と共に脂がはぜているのが見える。
 香ばしく、濃厚な匂いだ。
 鼻から脳へと伝わったそれは、口に唾液を分泌せよとせわしなく指令を送らせる。

从 ゚∀从 「あぶねえからちょっと下がってな」

ξ゚听)ξ 「はい」

 ツン達の目の前にあるのは、これまた熱された鉄板だ。
 上でこんがりときつね色の焼けめを見せているのは、軽く潰したポテトと、スライスされたオニオン。
 一つまみほど振られた黒コショウが香り立ち、こちらも目に見えぬ幸福で鼻をくすぐる。

 うっすらと湯気を立てるポテトとオニオンの上で、フライパンが傾けられた。
 熱された縁が、より一層芳しい音を奏でる。

(*^ω^) 「おっ〜〜」

 黒鉄のパンから零れたのは、金色の肉汁である。
 ハインリッヒの手によってハタハタと降り注ぎ、ポテトとオニオンに沁み込んでゆく。
 受け止めた鉄板の淵で脂が泡立つと同時に、これまでとはまた異なる、甘味を持った香りが立ち上った。

 一通り肉汁を降り掛け終えたフライパンから、ハインリッヒがトングで持ち上げたのは、
 厚くスライスされた豚ばら肉の燻製――――ベーコンである。
 しっかりと焼きの差した桃色のそれは、ツン達の目に何よりも輝いて見えた。

874 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:06:07 ID:TIP17UXs0

 ハインリッヒはあまりに慈悲深い暴虐さで、ベーコンをポテトの上に横たわらせた。
 フライパンから離れてもなお、プチプチと爆ぜる旨みの粒。
 もう、この時点で美味。口の中に溢れた唾液は、少し唇を緩ませれば零れてしまいそうだ。

从 ゚∀从 「熱いから、気をつけてな」

 つまり、「食ってよし」の合図であった。
 真っ先に動いたのはブーンである。
 ベーコンの端から数センチの場所をフォークで突き刺し、持ち上げ、口へ運び。
 その反抗的な弾力を喜びながら噛み千切る。

 数度、顎を動かすと、元よりほころんでいた頬が、更なる堕落を見せた。
 すぐさまフォークでポテトとオニオンを一片に掬い取り、こちらも口の中へ。

 ベーコン。ポテト。オニオン。
 同じく焼かれ焦げ目をつけながら、異なる香りの三重奏。
 ブーンは前のめりだった体を、椅子の背もたれに預け直し、深く、長く、そして感慨を帯びた息を洩らす。

 美味い。

 言葉を聞くまでも無い。
 その表情が、雰囲気が、全てを物語っている。

875 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:07:40 ID:TIP17UXs0

 満足げなブーンを横に見てツンもフォークを手に取った。
 彼女の場合は、まずはポテトだ。
 フォークの先でひっかくように少量を掬い取って、薄い唇で咥え、食す。

 ほっくりとした優しい口当たり。
 滑らかに摺り潰されており咬むまでもなく容易く解れてしまう。
 蕩けた食感の代りに、舌に与えられるのは、じんわりと染み渡る、素朴な香りと甘味。
 口内に満ちていた唾液が、そのまま柔和な蜜へと変わってゆく。

 ポテトを胃へと抱き込み、舌を口内でぐるりとさせてから、たまらずオニオンへ。
 火を通されてしっとりとした感触がフォーク越しにも分かる。
 しかし、一度口へ運べば、しゃっきりとした触感が、歯を出迎えてくれる。

 噛む。
 しゃき。
 香ばし。
 甘し。

 絡まった脂の旨みと、黒コショウの刺激的な香りを漏らすことなく活かしきったオニオンの味わいは、
 それだけで一つの料理として完成していると、ツンの舌を屈服させてしまったではないか。

877 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:09:36 ID:TIP17UXs0

 しかし、しかしだ。
 まだ負けてしまうわけにはいかない。
 確定した敗北の先にも、戦うべき”領域”はあるのである。

 ツンのフォークは、果敢にもさらなる強敵へ。
 そう。厚切りにされ、これだけ肉汁を溢れさせながらも、未だ瑞々しさを失わぬ驚異の存在。
 ベーコン。ベーコン。ベーコン、貴様の番である。

 突き刺し、やや持ち上げ、自ら迎えに鉄板へ顔を寄せる。
 頬を撫でる熱気。
 鼻孔へ満ちる香り。
 唾液洪水警報発令だ。

 多大な期待と共に、ツンはベーコンへかぶりついた。
 弾力に、歯が沈む。
 ぷり、と肉が切れ、同時に、じわ、と肉汁が溢れだす。

ξ゚听)ξ (――――これは)

 満たされる塩味。
 しかしただしょっぱいだけでは無い。わけが違う。

 摺りこまれ、寝かされ、燻製され、熟成し。
 長く険しい時を肉とスパイスと共に耐え抜き帰ってきた、まるで老兵の、世捨ての旅人のような深みを持った塩味である。
 刺激的で力強い旨みを持ちながら、されどしつこく居座る悪辣さとは無縁。
 いずれまたここからいなくなってしまうのだという淋しさを押し殺し、ツンはベーコンを噛みしめる。

ξ゚听)ξ (―――――おかえりなさい)

 その言葉を、胸の中で静かに独り言ちたのは、ごく自然のことであった。

879 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:11:06 ID:TIP17UXs0

 味わいつくしたベーコンを惜しみつつも飲みこみ、ツンは手を震えさせた。
 そうだ。
 ここまでは、あくまで鉄板に盛られたそれぞれの食材を別々に食したに過ぎない。
 この料理の真価は、まだ発揮されていないのだ。
 
 ツンは震える手でフォークを縦にし、ベーコンを丁度良い大きさに切り分ける。
 その上に、オニオン、ポテトを、そっと重ねる。
 
 個別でありながらあれだけの力を持っていた彼らを、まさか同時に食さなければならないとは。
 正気の沙汰では無い。正常で健全な脳の判断ではありえない。
 最早、食への、美味さへの、舌で請け負う幸福への、服従じみた依存にほかならぬ行為だ。

 見よ。隣でせわしなくフォークを口へ運ぶブーンの顔を。
 かつてオルトロス―――魔犬などと畏れられた覇気も狂気も存在せず。
 一心不乱に舌を振り回すその姿は、牙を丸められた愛玩犬の様ではないか。

 これを、一たび味わってしまえば、自分もああなってしまうのか。
 情けなく、だらしなく、幸福に首をくくられた盲目の犬に。

 恐る恐る、口を開く。
 黒鉄に焼かれた魅惑の三層を、誘い、閉じる。

ξ゚听)ξ (――――――――ああ)

 その時ツンは、確かに、発するべきあらゆる言葉を、失ってしまったのだ。

880 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:13:10 ID:TIP17UXs0
  *  *  *


从;゚∀从 「そんなに美味いか?」

(*´ω`) 「この鉄板の上でなら死ねる」

从;゚∀从 「そうか、命を大事にな」

 時は夕刻。場所はいつも通りサロンの郊外に位置するハインリッヒの自宅である。
 往診を終えたハインリッヒが準備した食事を四人で楽しむ最中であった。

 内容は至って素朴なものであったが、しばらく専用の栄養食ばかり食べていた彼らにとっては、何にも代えがたい美食だ。
 元より食い気の強いブーンのみならず、病み上がり間もないツンまでもがゆっくりながらも止まらずフォークを動かしている。

 ちなみに、タカラも来る予定ではあるのだが大五郎での仕事が長引いているらしく、まだ戻ってきていない。
 彼は、侵攻の翌日から、ツン達が床に伏せっている間ずっと戦後処理に当たっている。

 タカラは器用で要領が良いので、大抵のことをあっさりこなしてしまう。
 その上面倒見が良く、人当たりも優れているので、傭兵でありながら店舗運営でも活躍してるらしい。
 お蔭さまで連日働きづめ。
 彼の働きぶりを簡潔に語ったハインリッヒの眉間には、深々と皺が寄っている。

 相変わらずの心配性だ。
 髪と寿命が儚く散ってしまいそうで、見ているこっちは彼の方が心配だ。

882 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:14:16 ID:TIP17UXs0

(;'A`) 「……ブーン、あんまり食い過ぎんなよ。腹壊れるだろ」

(*^ω^)+ 「心配無用だお。こんなことで負ける僕の胃袋では無い」

(;'A`) 「一応病み上がりなんだからよ……」

ξ゚听)ξ 「そう言うあんたは食べないの?」

(;'A`) 「いや、これで俺が食ったらわけわからないことになるだろうが」

 自分の食事を進めながら、ツンはぼんやりとブーンとドクオを見た。
 何度見直しても珍妙だ。
 慣れはしたが、気色悪いことには変わらない。

从 ゚∀从 「お前ら、大五郎(焼酎の意。柿の渋抜きにも利用可)は飲まなくていいのか」

( ^ω^) 「昼間飲んだ分で十分だとは思うお」

('A`) 「俺も、この状態じゃあな」

883 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:15:22 ID:TIP17UXs0

 そのまましばし食事を続けていると玄関の扉が開いた。
 「邪魔するにゃ」と言って入ってきたのは、ご存じの通りタカラ=イッコモン。
 彼の登場で、やっといつものメンツになった、と言ったところだ。

( ,,^Д^) 「お、目が覚めたのかにゃ。大丈夫なのかにゃ?」

ξ゚听)ξ 「うん。ずっと寝てたせいで、鈍って仕方ないくらい」

( ,,^Д^) 「お前さんらしいにゃあ」

(*^ω^) 「おかえりだお!タカラも早く食べるお!おいしいお!」

( ,,^Д^) 「お、ブーンも包帯取れ…………」

( ,,^Д^)

( ,,^Д^)

(*^ω^)゙ 「リッヒ、芋おかわりだお!」

( 'A) 「……」

( ,,^Д^) 「えっ」

 タカラが硬直した。
 ブーンは彼の表情なぞ気にせず、芋をモグモグと食べ続ける。
 他の三人、ツン、ハインリッヒ、ドクオは、「まあ、そうなるよな」という心地でその反応に納得する。

884 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:16:21 ID:TIP17UXs0

( ,,^Д^) 「えっ」

(*^ω^) 「どうしたお?」

( ,,^Д^) 「…………この場合、逝っちまったのは俺の頭なのかにゃ」

从 ゚∀从 「いや、多分お前は正常だ」

( 'A) 「まあ、な」

( ,,^Д^) 「そうか。俺の目がおかしくなったわけじゃにゃーのか」

 タカラの困惑は当然であった。
 何せ、これまでは二人で一人、入れ替わりに片方しか存在できなかったブーンとドクオの顔が。

( ^ω^) 「あ、これのこと?」

('A`) 「それ以外にないだろ」


 二つ並んで、同時に目の前にあるのだから。

885 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:22:18 ID:TIP17UXs0

 ただし。





                 (^ω^Y 'A)
                    >   <   
                  /      ヽ
              __(_つ_⊂_)__



 胴体は一つであるのが最大の問題である。




                オルトロス
ξ゚听)ξ 「まさに双頭の魔犬よね」

( ,,^Д^) 「オチてないからね?」

887 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:24:16 ID:TIP17UXs0

 ブーンとドクオがこの状態になったのは、この日の夕前。
 丁度ツンが目を覚まし、二人に武と魔の教授を乞うた後のことである。

 その時優位にいたブーンが俄かに苦しみだし、気絶。
 困惑し何も出来ないでいたツンの目の前で、首元が変形しドクオの頭部が顕現したのだ。
 目覚めてみると意識が混線するということも無く、この状態に落ち着いている。

ξ゚听)ξ 「こう、人面疽が膨れるみたいになって、ドクオの頭が生えたのよね」

( ,,^Д^) 「ええ……キモ……」

(ω^* Y ;'A) 「俺らも望んでなったわけじゃないからそう言うなよ……」 ハフッハムッ...モキュモキュモキュッ

( ,,^Д^) 「原因はわかってるのかにゃ?」

(ω^* Y 'A) 「現時点じゃ、魔女に何かあった、とまでしか推測できねえな」 バクッ ホフッ......ムグムグ......

 恐らくは、魔女が二人を融合させておくのに用いていた魔法に乱れが生じただろう。 
 故に二人を同一で居させる力が弱まり、部分的な分離が起きた、とドクオは予想を立てている。

 もしかしたら、ただ単に気まぐれを起こした可能性も高いだろう。
 それでもドクオが「魔女に何かあった」と優先して考えたのは、以降魔女が彼らに何も干渉してこないからである。

 魔女は、自分でやったことは自分がやったと主張せねば気が済まぬ面倒な性格を持っている。
 特に、他者とっては迷惑な行為であればあるほど。
 気まぐれに何かを仕掛けたのなら、必ずその反応を楽しむため現れるはずだ。

888 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:25:40 ID:TIP17UXs0

( ,,^Д^) 「そのまま元に戻れたりしないのかにゃ?」

(ω^* Y 'A) 「弛みはしたが、魔法自体はまだ生きてる。この状態が限界だろうな」 モゴモゴ......グビッゥ...グビッゥ...

ξ゚听)ξ 「アンタの魔法で打ち消したりできないの?」

(ω^* Y 'A) 「難しいな。弱ってても魔女の魔法だ。干渉力の桁が違う」 プフゥ...... ハムッ...ムグムグ......

( ,,^Д^) 「……魔女が、またお前たちの前に現れる可能性もあるのかにゃ?」

(ω^* Y 'A) 「恐らく……ちょっと待って」 ガフッ......モッキュモッキュ......

(ω^* Y'A` ) 「ブーン、食べるの後にしろ。話が頭に入らなくなる」 ............ピタッ

(#^ω^Y'A`;) 「話終わるまでのちょっとの間だよ。食うなって言ってんじゃないんだ」

(。´ω`Y'A` ) 「……分かった分かった、手短に終わらせるから。なんだったら優位変わって寝とけ」

i|il('A` ) フッ

( ,,^Д^) 「あ、普通に入れ替わることはできるのかにゃ」

('A`) 「おう。分離できるって言っても、基本的には単一であるように力がかかってるからな」

890 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:27:21 ID:TIP17UXs0

('A`) 「んで、魔女が来る可能性な。まあ、あるだろう」

( ,,^Д^) 「やっぱり」

('A`) 「仕方なく魔法の管理を手放したってんなら、補修に来るはずだからな」

ξ゚听)ξ 「どうするの?」

(;'A`) 「戦うっきゃねえよ。そもそも、そのつもりで探してんだ」

( ,,^Д^) 「勝てるのかにゃ」

(;'A`) 「……考えはある。が、基本の条件は、前に戦った時よりも悪い」

ξ゚听)ξ 「手伝う?」

(;'A`) 「いや逃げろよ。絶対逃げろよ。お前が弱いってんじゃなくて、マジでヤバいから」

ξ゚听)ξ 「あんたは逃げないんでしょ」

(;'A`) 「まあ、な」

ξ゚听)ξ 「じゃあ、良いでしょ。これから色々教えてもらうのに、見捨てて逃げるってのは性に合わないわ」

(;'A`) 「場合によっては剣と魔法とツンちゃんと大五郎になりかねないんですが……」

ξ゚听)ξ 「……下着は私に合わせてね」
   b

(;'A`) 「やっぱり逃げてください」

ξ゚听)ξ 「嫌よ。それに、魔女は間接的に私の仇でもある」

891 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:28:53 ID:TIP17UXs0

(;'A`) 「まあ、そうだけどよ」

( ,,^Д^) 「何なら俺もやるかにゃ?」

ξ゚听)ξ 「あんたはそれこそ逃げなさいよ。家族いるんでしょ」

(;'A`) 「そだよ。気前がいいのはありがてえが、何の因縁も無しに対峙して得になる相手じゃねえ」

( ,,^Д) 「……まあ、無いわけじゃないんだけどにゃ」

从 ‐∀从uq 「……」 ズズ......

ξ゚听)ξ 「……?そう言えば、一回操られてたわね」

(;'A`) 「つっても、普通の攻撃はほぼ意味ないし……」

( ,,^Д^) 「援護くらいなら。弓と逃げ足には自信あるにゃ」

(;'A`) 「剣と魔法とツンちゃんと弓と大五郎になりかねないんですが……」

ξ゚听)ξ 「二日に一回は入浴したい」

( ,,^Д^) 「月一くらいで嫁と子供に会いに行っていいかにゃ」

(;'A`) 「お二人ともどうぞお逃げください」

892 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:30:45 ID:TIP17UXs0

 一応タカラへの事情説明が済み、ドクオはブーンに優位を返した。
 特に会話が必要なくなったからか、先ほどのように頭を生やすことは無い。

 他愛のない話をして、夕餉を終える。
 早い時間に始めたが、外はもう暗くなってきていた。

( ^ω^) 「お、わかったお」

 散々お代りを繰り返し、やっと満足したブーンが、唐突に独り言ちる。
 すぐさま入れ替わりにドクオが現れた。
 あれほど膨らんでいた腹が何も無かったようにへっこんだが、胃の内容物は共有していないのだろうか。

('A`) 「よし、じゃあツン、やるぞ」

ξ゚听)ξ 「わかった」

 二人の分離騒ぎでうやむやになっていたが、ツンはドクオに魔法の手ほどきや改良の手伝いをされることになっている。
 ブーンも静かになったしさっそく取りかかろうというのだろう。

('A`) 「お前がすぐ休めるよう、病室でやるぞ」

ξ゚听)ξ 「うん」

 普段よりもさらに遅いドクオの歩みについて行く。
 魔法漬けで眠っていただけあって、体の回復自体はツンの方が進んでいるらしい。
 そもそも彼らのダメージは、怪我だけでなく、使った技の副作用もあるので回復が難航している。

893 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:31:35 ID:TIP17UXs0

 病室に着いてすぐ、ベッドに入らされた。
 ドクオは椅子を引いて、その傍らに座る。

('A`) 「まず、何から見る」

ξ゚听)ξ 「天叢雲かな。絶対に必要だけど、一番うまく使えない魔法だから」

('A`) 「……わかった。とりあえず、発動はしないで、式を組んでみろ」

 言われて、ツンは深呼吸した。
 天叢雲は、彼女が使う魔法の中で最強かつ最高難度の魔法だ。
 落ち着いた環境であっても、組むのには相応の集中を要する。

 ドクオに手を取られた状態で、魔法式を展開する。
 目の前に人がいる状態でどうどうと詠唱を唱えるのは気恥ずかしかったので、口の中でもごもごと呟く。
 そもそも言わなければよいだろうと思われるかもしれないが、詠唱は完全に癖になっているし、
 なにより、重要な魔法式の暗号になっているのでつい唱えてしまうのだ。

894 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:34:16 ID:TIP17UXs0

 少し緊張しつつも、式を組み終えた。
 これに必要な魔力をつぎ込み、実行の式を組めば灰色の雲が屋根壁ぶち抜いて降りてくるはずだ。

ξ゚听)ξ 「……どう?」

('A`) 「ん〜」

ξ゚听)ξ 「師匠が使う時と、私が使う時とじゃ効果の出方が全然違うのよ。単純に魔法の技術の差だと思ってたんだけど」

('A`) 「それもあるんだろうが、魔法式にちょこちょこ変なところがあるな」

ξ゚听)ξ 「やっぱり?」

('A`) 「珍しい話でもねえ。弟子に強力な魔法を真似されないように、魔法式を偽装してたんだろう」

ξ゚听)ξ 「何とかできる?」

( ;'A) 「どうだろうな……分析はともかく、偽装された魔法式の復元ってなると……」

ξ゚听)ξ 「あいつを殺すには、本来の天叢雲の力が絶対に要る」

( 'A) 「……わーってるよ。少なくとも、コスト削減と威力アップぐらいは何とかしてやる」

896 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:36:53 ID:TIP17UXs0

('A`) 「ちなみに聞くけどよ」

 余計な魔力の消費を抑えるため、解析を終えると直ぐ魔法式を取り消した。
 天叢雲は展開の段階から異常な魔力を消費する。
 ドクオ曰く、それも天叢雲に仕込まれた、使用を困難にするためのセーフティなのだという。

('A`) 「師匠にもう一度習い直す気は無いのか」

ξ゚听)ξ 「……」

('A`) 「前から言ってるが、魔法は基礎を仕込んだ師か、近い流派の魔法使いに習うのが一番なんだよ」

('A`) 「俺とお前じゃ、魔力の適性も流派も違うし、してやれることはあんまり多くないんだ」

ξ゚听)ξ 「……師匠は、私のことを戦わせたくないのよ」

('A`) 「……」

ξ゚听)ξ 「天叢雲だけじゃない。他の攻撃系の魔法だって、自分から教えてくれたことはなかったわ」

ξ゚听)ξ 「戻ったって、捕まえられるだけで、魔法を教えてくれたりはしないと思う」

('A`) 「そうか」

ξ゚听)ξ 「って言うか四肢分断された後大地の裂けめに落とされるかもしれない」

('A`) 「お前の師匠なんなの?邪神??」

898 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:38:40 ID:TIP17UXs0

 ツンの師が自ら教えてくれたのは、身を守るための体術と、強化・防護の魔法が中心。
 攻撃系の魔法についてはツンが勝手に身につけたものを、安全に使えるように正してくれただけだ。

 故に、ツンが「使いこなせる」のは精々中級程度まで。
 其れより上の魔法となると、十分な効力を発揮出来なかったり、そもそも発動することが出来ない。
 中には、天叢雲と同じく、意図的に弱体化するよう教えられたものもあるのだろう。

('A`) 「……わかった。天叢雲以外にも、使えそうな魔法は考えてみよう」

ξ゚听)ξ 「出来るの?」

('A`) 「ああ、お前が使えるレベルで収まるかは分かんねえけど」

ξ゚听)ξ 「そこは、何とかする」

('A`) 「とりあえず、お前の使える魔法を全部教えろ。
    その組み合わせで何とかなれば、習熟も早いし、実戦でも使いこなせるだろう」

ξ゚听)ξ 「わかった」

 ツンはすぐに魔法の展開に入った。
 慣れているものから一つずつ、名前と大まかな効果をドクオに伝えた。

 比較的簡単なものを終え、少し難易度の高いものになると、ドクオの眉間に皺が寄り始める。
 解析が難しいのかと思ったが、どうやらそうでは無いらしい。

899 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:40:00 ID:TIP17UXs0

ξ゚听)ξ 「どうしたの?」

('A`) 「……展開式の構成が独特だ。これもお前の師匠のオリジナルだろう」

ξ゚听)ξ 「そこまでは聞いてないけど」

 魔法とは、本来それぞれの魔法使いたちが独自に研究し、導き出す一つの成果の形だ。
 一般に広まり、魔法塾のような場所で当たり前に教えられているものはともかくとして、
 オリジナルの魔法と言うのはつまり考案した魔法使いの努力の賜物なのである。

( 'A) 「理由は何であれ、俺は弟子を誑かして、別の魔法使いの研究を盗んでるのと同じだからな」

 躊躇う理由が魔法使いとしての生業に誇りを持つ彼らしい。
 ツンのみならず、魔法をただの手段としかとらえていない者たちにとっては理解できない感覚だ。

ξ゚听)ξ 「これが悪いとしても、あんたに責任は無いわよ」

( 'A) 「……」

ξ゚听)ξ 「それに、師匠はこれくらいの魔法、割とポンポン作ってたし、大丈夫だと思う」

( 'A)

( ;'A) 「マジで?このレベルのを?」

ξ゚听)ξ 「うん。中級くらいならわりと」

( ;'A) 「それはそれで不満だ」

900 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:40:40 ID:TIP17UXs0

 すべての魔法を見せ終える頃には、既に一時間ほどが経っていた。

ξ゚听)ξ 「……たぶん、これで私の使える魔法は全部見せたと思う」

('A`) 「お疲れさん。俺はこれを元にちょっと案を練ってみるから、お前は休んでろ」

ξ゚听)ξ 「……うん」

 展開だけとはいえ使える魔法を一通り組んだため、ツンの魔力は大幅に減っていた。
 元々魔法があまり得意では無いツンにとっては、神経を使う作業でもある。
 ドクオに手伝わせておいて自分は休むというのはいくらか気持ちが悪いが、言葉に甘えておくことにした。

 ベッドに横になり、掛布を胸元まで引き上げる。
 散々寝たてきたというのに、自然と瞼が重くなる。
 腹も膨らんでいるし、しばし眠るのも悪くは無いだろう。

 ドクオは自分のベッドに戻って、書き留めたメモを睨みながらいろいろと考えているようだった。
 彼は、ツンの得意な風魔法の適性は低いはずだが、大丈夫だろうか。
 ひとくくりに魔法と称しても、普段扱わぬ属性と言うのは全くの異文化である。
 腕前は信頼できるが、慣れない魔法を構築しなおすとなると相当な難題のはずだ。
 
ξ 听)ξ (……ま、ドクオなら、大丈夫か……)

 意識に靄がかかり、頭が枕に深く沈んでいく。
 そうだと自覚した瞬間に、ツンの意識は眠りに落ちた。

901 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:41:54 ID:TIP17UXs0

 夢を見た。
 見覚えのある景色だけれど、少し違うどこかの街並み。
 付随する感情は、悲しみとか怒りとか、そんな感情だった。
 
 景色はどんどん流れてゆく。
 
 歩いていたんだ、と気づいたのはさらに見覚えのある場所に辿り着いた時だった。
 
 荒れ果てた街の一角。
 数本の柱を僅かな壁を残して木端微塵になっている建物。
 半分に割れて転がる「そ屋」と書かれた看板。
 
 そして、その前に微動だにせず立っている、金髪の少女の背中。
 
 いろんなことを思った。
 内容はわからないけれど、とにかくいろんなことを考えたんだと思う。
 
 少女は知人らしい誰かに、半ば強引に連れられてゆくまでずっとそこに立っていた。
 手を引かれながらも、何度も振り返り、少女とは思えない眼で、廃墟をにらみつけている。
 
 
 しばらく眺めて、その少女が自分なのだと、ツンは思い出す。

902 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:45:03 ID:TIP17UXs0

 ィシは、呪具に飲まれた後、ツンに意識を呼び覚まさせられた時点で命を絶つことを覚悟していた。
 もう人に戻れぬなら、何としてでもヨコホリを屠り、潔く世を去ると。
 これは、ツンにも告げられていて、だからこそツンも、ヨコホリを討たせなければと奮闘したのだ。

 その裏でィシは、ツンには告げずもう一つ別の準備を進めていた。
 自身と、自身が取り込んだ仲間たちの戦闘の記憶の圧縮である。
 同化した禁恨党の面々の「戦いの技能」の情報を単純化してまとめ、呪具の思考同期でツンに授けようとしたのだ。

 それは、自分たちの死後もきっと戦い続けるだろうツンヘの置き土産。
 共に戦うことのできない同胞への、共闘の申し出だった。

 一度ヨコホリを倒し、ツンがィシを殺すための魔法を汲み始めた時点で、圧縮された記憶はツンに届けられた。
 ツン自身にも気付けぬ、秘匿のプレゼントだ。
 就寝時の記憶の整理―――つまり夢を見た際に順次開封、定着されるよう仕組まれていた。

 しかし、そこで想定外の事態が起きた。
 そう。ヨコホリは狡猾にも自身の命の予備を準備しており、それを用いて復活。
 瀕死ながらも、ィシを殺したのだ。
 その際、本来ではツンに与えるつもりで無かった、ィシの過去の記憶の一部までもが走馬灯に紛れ送信されてしまったのだ。


 そう、これは。
 ツンが知るよりも高い視点から、故郷の町を見る記憶は。
 ィシ=ロックスが、ツンに知らせずに終わりたかった、彼女らが失った時代の記憶だ。

903 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:47:40 ID:TIP17UXs0

 ツンはもう何度もこの夢を見ている。
 寝ている間はこの記憶ばかりを繰り返し反芻していた。

 一度目は何のことか全く分からなかったが、二度目には、大よそこの夢の意味を理解している。
 ィシの夫の仇はヨコホリだとィシの口からきいていた。
 ツン自身は幼さゆえにほとんど覚えていなかったが、両親の店が襲われた時に死んだ傭兵は、ィシの夫であった。


 だからツンは両親の仇がヨコホリ=エレキブランであると悟った。

 
 ィシは、間違いなくそれを知っていた。
 知っていてツンに教えず、全てを先んじて終わらせようとしていたのだ。
 ツンはヨコホリが仇と知ればまず間違いなく特攻する。
 そして、今頃には殺されるか、少なくとも再起を望めるような状態では済まなくなっていた可能性が高い。

 ィシが死に、彼女が隠したかった事実はツンに伝わったが、状況は以前とは違う。
 何度も交わした戦闘で思い知った、ヨコホリの強さと己の弱さ。
 かつてであれば、構わぬと、死んでもよいと、放たれた矢と同じくツンは駆け出していただろう。

 今もそれは変わらない。
 だけれど、何とか飛び出すのを堪え、ブーン達に剣と魔法の教えを乞うたのは、
 絶対に、確実に、ヨコホリを殺さなければならないという、意地が故。

904 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:49:02 ID:TIP17UXs0
 
 ィシの記憶は、飛び飛びに進んでゆく。
 記憶は薄れ、明確さを失っていくものだ。
 その上、呪具による転送によってツンに与えられたのはごく一部のものでしかない。

 夢に映し出される記憶は、主にィシがより強く記憶していたものがほとんどのようだった。

 シーンをはじめとした、禁恨党の面々との出会い。
 皆、様々な想いを抱えて、ィシと出会い、同胞となった。
 名前しか知らぬ者、其れすらも教え合わなかった者、さらにはツンが出会った時点では死んでしまっていた者もいた。

 正味な話、大きな関わり合いの無かった彼らの過去に強い感慨が湧くことは無いのだけれど。
 しかしながら改めてその戦う理由を知ることは、決して無意味には感じなかった。
 彼らの為に戦うことはできなくとも、せめてその心を知って連れて行くくらいなら出来る。

 記憶が新しいものになると、鮮明さが増してゆく。
 この頃になると味方を増やすというよりも、そもそも被害者を増やさぬよう、ィシは戦い始めた。

 最中で、一人の少年と出会う。
 ツンが出会った時よりも数年分幼いが、彼のことは他のメンツよりも知っている。
 彼は、ィシたちが潜伏していた隠れ家までこっそりついてきて、見つかってすぐに、あるものを見せた。
 それは紐で括られた、金色の髪束だった。
 
    『僕を仲間に入れてください。僕の妹はあいつらに殺されました』

    『少しだけれど、剣も使えます。もし、弱くて使えないというなら、雑用だって、人柱だって、なんだってやります』

    『だから、僕も一緒に戦わせてください。妹のような、理不尽に殺される人を、少しでも減らす役に立ちたいんです』

 彼のその言葉を最後に、記憶の再現は終わる。
 少しだけ、深く眠って、それから起きよう。
 夢を見るのは、ちょっと疲れた。

905 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:49:44 ID:TIP17UXs0

 目を覚ますと、部屋の明かりが落とされていた。
 カーテンの隙間から差し込む月光でほんのりと明るい。
 一体どれほど寝ていたのだろう、とツンはベッドで身を起こす。

 そこで、ベッド脇の椅子に、だれかが座っているのに気付いた。
 ドクオやブーン、ハインリッヒやタカラとも体格が違う。
 誰かは、少し寝ていたのか、ツンが動いたことに気付き、顔を上げる。

     「ああ、ディレートリ。起きたのかい」

     「ちょっと待ってて、今ランプをつけるよ」

 マッチを鑢に擦り付ける音。
 発火剤がはぜて、ぼんやりと朱い光が点る。
 その中に知った顔が浮かび上がる。

ミ´・w・ン 「調子はどうだい」

ξ゚听)ξ 「……ミンクス」

ミ´^w^ン 「おっと、なにも変なことはしてないよ。寝顔は見てたけど」

 ランプに火が移りより大きくなった光の中でさらりと気色の悪いことを言ったのはミンクス=フェイクファー。
 いつも通りの覇気のない、はにかむような笑顔を見せる。
 夢で見た時とは違う雰囲気で、何とも変な感じだ。

906 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:50:45 ID:TIP17UXs0

ξ゚听)ξ 「ミンクス、ありがと」

ミ´・w・ン 「いやいや、僕はちょっと前に来ただけだから。それまではドクオが看てくれてたんだよ」

ξ゚听)ξ 「違う。……あの時、ィシさんが殺された時、あたしのこと庇ってくれたの、あんたでしょ」

ミ´・w・ン 「ああ……そのことか」

ξ゚听)ξ 「あんたが抑えてくれなかったら、私も一緒に吹っ飛んでたから」

ミ´・w・ン 「感謝されるようなことじゃないよ」

ξ゚听)ξ

ミ´‐w‐ン 「……本当に、感謝されるようなことじゃ、無い」

 ミンクスが言いたいことは、何となくでは有るが悟ることは出来た。
 ィシと行動を共にした時間は、彼の方が圧倒的に長い。
 抱えた思いは、ツンよりも大きいだろう。

ξ゚听)ξ 「それにしても、あんた良く生きてたわね」

ミ´・w・ン 「ああ、それはさ、姐さんが助けてくれたんだ」

 言いながら、ミンクスが服をおもむろに捲し上げた。
 ランプの光に露わになったのは、それなりに締まった体と、肩から脇腹にかけて走る大きな傷跡。
 鎌状の剣に斬られた傷だったはずだが、それにしても痕が大きく、歪である。

907 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:51:42 ID:TIP17UXs0

ミ´・w・ン 「姐さんがさ、木の根と、死体の血肉で傷を塞いでくれたんだ」

ξ゚听)ξ 「いつの間に……」

ミ´・w・ン 「君が僕の傍を離れて暫くしてくらいかな。めちゃくちゃ痛くて意識飛んじゃったんだけどさ」

ξ゚听)ξ 「そっか……」

ミ´・w・ン 「でさ。ドクオに聞いたんだけど」

ξ゚听)ξ 「うん」

ミ´・w・ン 「ヨコホリが両親の仇だって、分かっちゃったんだね」

ξ゚听)ξ 「うん」

ミ´・w・ン 「どうするの」

ξ゚听)ξ 「戦って、倒す」

ミ´・w・ン 「言うと思った」

ξ゚听)ξ 「ィシさんが、戦わせたくないって、考えてくれてたのはわかるけど……」

ミ´・w・ン 「僕も一緒に戦うよ」

ξ゚听)ξ 「……」

908 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:53:19 ID:TIP17UXs0
ミ´・w・ン 「君が一人で戦いたいってのも、僕がそもそも役に立たないってのも分かってる」

ξ゚听)ξ

ミ´・w・ン 「別に協力して戦おうっていう訳じゃないんだ」

ξ゚听)ξ

ミ´・w・ン 「アイツは僕にとっても仲間の仇だ。だから、君に便乗して、一矢報いたい」

ξ゚听)ξ 「……わかった」

ミ´・w・ン 「ありがとう。出来る限り頑張るよ」

ξ゚听)ξ 「とりあえず迂闊に死んだりしなければ、いいわよ」

 何となくミンクスの顔が見づらく感じ、そっぽを向く。
 と、同時に首が痛んだ。
 全身の状態は、比較的良好になっているが、部分的にはまだ不具合も多い。
 一応日常生活が出来る程度に回復しているので、逆に油断してしまう。

ミ´・w・ン 「痛む?先生呼んでこようか」

ξ ;‐)ξ 「ごめん、お願い」

ミ´・w・ン 「いいのいいの。じゃ、ちょっと待っててね」

 ミンクスが病室を出てゆく。
 ちらとブーン達のベッドを見たが、敷布が捲られており姿が見えない。
 時間を聞くのを忘れていたが、まだ就寝時間には早いのだろうか。

909 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:54:33 ID:TIP17UXs0

 上半身を起こしたままの状態で、体を軽く捻る。
 やはり鈍い。
 夕飯を皆と一緒に取ったりと、一応動かしてはみたのだがやはり急には改善されないようだ。

 ハインリッヒの許可が出たら、出なくてもこっそりと体を動かしておかなければ。
 このままではブーンに稽古をつけてもらう以前の問題だ。

 そのまま入念に上半身のストレッチを続ける。
 ハインリッヒが気を使ってくれたおかげで身体能力がそこまで落ちたわけでは無いが、健全な状態と比べればやはり劣る。
 怪我の回復後である点も含め、早急に体を戻さねばならない。

 いや、戻すだけではだめだ。
 さらに強くしなければ。
 そうでなければ、ツンの殺意を何に乗せたところで、あの男には届かない。

ξ゚听)ξ (…………来た?)

 静かにしてハインリッヒ達を待っていると、何やら声が聞こえた気がする。
 やっと来たのだろうか。にしてはなんだか声色が落ち着かない。

ξ゚听)ξ (違う、これ……ッ)

 どうにも変だと思ったのは当然。
 その声は、診療所の外から聞こえてきていたのだ。

910 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:56:05 ID:TIP17UXs0

 ツンが疑問に思い、窓を見やった瞬間。痛烈な破砕音が響き渡った。
 木端が舞い、割れたガラスの破片が床に刺さる。
 反射的に目を閉じる前に見えたのは、壁が粉砕されるその瞬間だった。

ξ;゚听)ξ (襲撃ッ?!)

 ランプの明りでは照らしきれない土ぼこりの向こうに、何かの気配がする。

 不味い。
 今のツンは武器を何も持っていない。
 ニョロも傍にはおらず、丸腰だ。
 魔力は多少回復しているが、身動きの取れない状態でどう戦えば……。

( ;゚д゚ ) 「っ〜〜、何を、どうすれば、平地に着地しようとして家屋に激突できるというのだ……」

ζ(x、 x ;ζ 「けほっ、だから言ったじゃないですか、超が三つは付く方向音痴だって」

( ;゚д゚ ) 「三つで足りてないから」

ζ(ぅ、 ‐;ζ 「夜で暗かったですし〜〜」 グシグシ

( ;゚д゚ ) 「月明かりあるし照明魔法もばっちりだっただろう……」

 土煙の中、吹き飛ばされたように転がり出てきた二人の人影。
 片方は、黒っぽい異邦の装束に身を包んだ怪しげな男。
 もう一人は、裾を詰めたローブを羽織り、手に照明魔法のかかった杖を持った少女だった。

 ツンは、この少女の方を、良く知っている。

911 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:57:58 ID:TIP17UXs0

ξ;゚听)ξ 「…………デレ??」

ζ(ぅ、 ‐;ζ 「っう〜〜〜、頭打ったせいでおねぇちゃんの声が聞こえる〜〜」

ξ;゚听)ξ 「なんで、あんた……」

ζ(ぅ、 ゚*ζ 「幻聴でもなつかし〜〜〜……」

ξ;゚听)ξ

ζ(ぅ、 ゚*ζ

ξ;゚听)ξ

ζ(゚、 ゚*ζ

ξ;゚听)ξ

ζ(゚ー゚*ζ

ξ;゚听)ξ

ζ(゚∀゚*ζ。+

ξ;゚听)ξ

ζ(゚∀゚*ζ 「おねえちゃん!!!」

912 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:58:40 ID:TIP17UXs0

 ツンの顔を見て数秒停止した少女は、満面の笑みを浮かべて、ツンに飛び掛かった。
 二人の距離は三メートル弱離れていたが、少女の身体は綺麗な放物線を描き、ツンに向かって落下する。

ξ; )ξ 「どっふぁぁぁ?!!」

 少女の体重を、ツンは何とか受け止めた。
 何とか受け止めたが、なんかいろんな場所がプチピキ言った気がする。
 気がするだけ。セーフ。たぶんセーフ。

::ζ( 、 *ζ,, 「おねえちゃぁーん!!」 グイグイグイ....

 一方の少女はツンの胴にしっかりと抱き着き、胸部に全力で頭をすり付けている。
 引き離したいが、先の衝撃とそもそもの不調で体がいうことを聞かない。

ξ; 听)ξ 「デレ、デレ!落ち着きなさい!苦しいから離れて!」

 ζ(゚ー゚*ζ バッ
  と  と

ξ;゚听)ξ

ζ(´〜`*ζ 「えへへぇ〜、ほんもののおねえちゃんだ〜〜」 ギュー......
 つ  と

913 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 22:59:29 ID:TIP17UXs0

ξ;゚听)ξ 「あんた、どうやってここに……」

 とりあえず落ち着いてくれた少女―――デレの頭を撫でてやりながら問いかける。
 問いかける途中で気づいた。
 まだ幼く、物分かりの良いデレが、勝手に一人で師の元を離れるなどあり得ない。

 となると。

 ぎし、と土煙の中で足音がする。
 デレと一緒に現れた男のものでは無い。
 彼も状況が読めずに戸惑っているのが顔からわかる。

 この診療所に突っ込んできたのは、二人では無かったのだ。
 そして、そのもう一人は、恐らく。ツンが今最も出会いたくない人物。

  
     「まさか、たまたま突っ込んだ家が、貴方の隠れ家だったとはね」


 その声を聞いた瞬間、ツンの身体は石の如く硬直した。

 外から吹き込んだ風で煙が大きく靡く。
 土ぼこりが薄くなり、月明かりを背後にして、その姿がシルエットとして見えた。

915 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 23:04:42 ID:TIP17UXs0

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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


|゚ノ::::::::::::) 「随分、あなたを探して彷徨ってしまったわ」 ギシッ

ξ;゚听)ξ

|゚ノ::::::::::::) 「さて、」 ギシッ

.::ξ;゚听)ξ::.  ガタガタガタ

|゚ノ#::∀::) 「覚悟はよろしくて……?」 ギシッ

.::ξ;゚Д゚)ξ::. 「し、し、し……」 ガタガタガタ

916 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 23:06:10 ID:TIP17UXs0

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       ,. .y."~~  .-、.. . ⌒. . . .,,. - ⌒. . . .y." . ..,).. . 〜 . .  ... . . . ... .. . . . . 〜 . . .: : ..,
. . . . . . .⌒ . . . . . . . .⌒ . . . . . . .  . r . .......i〜......⌒..: : : : : : : : :.,: : :┏┛┸, .;
. . ...⌒ . . . . ...⌒ . . . . . . . . . ....................r.:::::::::::::::::::::::::::::i : : : : : : : : : : : : : : ,┏┛━‘ ’‘ ┓;.・
. . . . . . . . . . . . . . .  . . . . ⌒).... ノ::::::::::::::::::::::::::::::::::::| : : : : : : : : : : : : : :;】          【┏┛
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. .  . .  . 〜.~ . .  . . . 〜.~ソ.:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|    |:::::::::::::| _: : : : : : : : : : : :】       ・    ;┛┨
. . . . y. . . . )y. " ~)::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`.ー ´::::::::::::.’::::ヽ: : : : : : : : : :┗┓     力      .`【¨
. . . . . .⌒ソ: : : : :l::::::┘└:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::,..イ::::::::::::::V: : : : : : : :┏┛       ・      ’┨;
. . . . ,,...: : : : : :γ⌒::::┐┌::::::::::::::::::::::::::::: __  ----==≦冖:i:::::::::::::::::|: : : : : : : : ┥】     弟        ┠’
. . . " : : : : : : : ;′:::::::::::: iト- ┬=T  ̄ ̄        ___/_/::|:::::::::::::::リ: : : : : : : : ┗┓       ・        ┣‘
. . . 、: : : : : : : {::::::::::::::::::::i::{  i  _i、___,:---::^ー:::::⌒´::::::::::::::i:::::::::::,.:': : : : : : : : : : ,┛     子      【,
. . . . , : : : : : 人::::::::::::::::::゚,:ゝ'´::::::;: -──--=彡: . : . : ヽ:::__,':`::<___: : : : : : : : : : ;】.            .╂
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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄>                                    < ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
          > ξ;゚Д゚)ξ 師匠ォだァア――――z____ッ!!!   <
         >                                    <
          ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄


918 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 23:07:04 ID:TIP17UXs0

 ツンの持つ生命の本能が、けたたましい警告音を鳴らす。
 土煙を抜けて現れたのは、一人の女性。
 ツンに魔法と体術を仕込んだ師、レモネード=ピルスナーその人である。

|゚ノ#^∀^) 「随分と、苦労をかけさせてくれたくれましたね、ツン」

 このレモネード、見てくれは三十路前の美麗な女性であるが、その実、還暦を越えた大魔導士である。
 特殊な血脈の末裔が故に肉体は若々しいが、中身は老齢のそれ。
 しかも、魔法も体術も衰えるどころか未だに成長しているという。

 ツンからすれば、人の形をした化け物である。
 過去に戦ったキメラにさほど怖気ずに済んだのは、この女を知っていたからに他ならない。

ξ;゚听)ξ 「なんで、師匠がここに」

 ツンはベッドから這いだそうとする
 体がうまく動かない。
 ダメージの名残もそうだが、手足が独りでに震えるのだ。
 その上デレが抱き着いているので、逃げたくても逃げられなかった。

ζ(゚ー゚*ζ 「色んなところでききこみして、がんばってさがしたんだよ〜」

|゚ノ#^∀^) 「ええ、本当に。色んなところで大暴れしてたようで、足跡を掴むのは簡単だったわ」

919 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 23:08:14 ID:TIP17UXs0

ξ;゚听)ξ 「で、でも、私の見込みだとあと一か月は意味不明なところを迷い歩くはず……」

ζ(゚ー゚*ζ 「あのね、ミルナさんが案内してくれたの!」

 デレが指さしたのは、一緒に転げてきた装束の男。
 成程納得だ。
 超が三つは付く方向音痴の師匠でも、方向感覚の優れた案内役が直接方向を示せば幾分マシになる。

 余計なことをしやがって。
 師匠の特性を思えば、まだ捕まることは無かったのに。

( ゚д゚ )+ 「どうも。ミルナ=スコッチだ」 キラーン

 黙れ。
 こっちみんな。

|゚ノ#^∀^) 「さて」

 師匠の声に、ツンの背筋は震え上がった。
 顔は笑っているが、表情と異なる感情を渦巻かせているのが気配でわかる。
 死んだ。終わりである。ツン先生の来世にご期待くださいって域だ。

 今回ツンは、勝手に師匠の元から飛び出して、しかも師匠の持っていた魔道具や一部の武器を無断で拝借してきた。
 現世の命だけで済めばマシと考えていいだろう。場合によっては来世すらも危うい。

920 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 23:09:23 ID:TIP17UXs0

ミ;´・w・ン「ディレートリ!なにがあったんだい?!」

 物音を聞きつけたのか、ミンクスが剣を持って飛び込んできた。
 不味い。
 万全のブーンとドクオでギリギリだ。ミンクスでは絶対に敵わない。
 
ミ;´・w・ン 「なんだこの惨状?!」

从;゚∀从 「おいおい、なんだこりゃあ」

 ハインリッヒまで来てしまった。
 非戦闘員の彼など、指鳴らし一つで存在が消し飛びかねない。

 疲労の見えるハインリッヒは、頭を掻きながらこの唐突に乱れた状況の把握を始めた。
 レモネードも壁を突き破った負い目からか、彼らに手を出す気は無い様だ。

|゚ノ ^∀^) 「不躾に申し訳ございません。わたくし、レモネード=ピルスナーと申します」

从;゚∀从 「ハインリッヒだ」

|゚ノ ^∀^) 「このお宅の、主さまで?」

从;゚∀从 「まあ、そうだな」

|゚ノ ^∀^) 「壁は必ず修理しますし、お詫びもさせていただきますので、そこの弟子への折檻が終わるまで少々お待ちください」

 ハインの目がツンを見た。
 「またお前か」と言わんばかりである。
 ツンだって別に面倒事を引き起こしたいわけじゃないのである。
 面倒事の方が修羅場背負ってやってくるだけなのだ。

921 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 23:10:32 ID:TIP17UXs0

ξ;゚听)ξ 「リッヒ!ブーン達は?!」

从;゚∀从 「タカラ送るためにちょっと前に出たぞ」

ξ;゚听)ξ 「何て間の悪い!」

从;゚∀从 「やばいのか?」

ξ;゚听)ξ 「殺される!」

从;゚∀从 「……一応俺の患者なんで、できれば殺さないで置いてほしいんだけど」

|゚ノ ^∀^) 「生かさず殺さずには慣れてますから大丈夫ですわ」

从;゚∀从 「……ならいいか」

ξ;゚听)ξ 「良くない!良くないよリッヒ!!」

|゚ノ ^∀^) 「デレ、離れてなさい」

ζ(゚、 ゚*ζ 「っは〜〜い」

|゚ノ ^∀^) 「さて」

ξ;゚听)ξ

|゚ノ ^∀^)

ξ;゚听)ξ

922 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/03(火) 23:11:55 ID:TIP17UXs0

ζ(゚ー゚*ζ 「はじめまして。私、ツンおねえちゃんの妹の、デレ=ディレートリです」

ミ´・w・ン 「へえ、妹……」

从;゚∀从 「妹?にしちゃ魔力が……」

ζ(゚ー゚*ζ 「はい、血のつながりは無いんですけど、おねえちゃんはおねえちゃんなので、デレは妹なのです」

从;゚∀从 「なるほどなあ」

ζ(‐  -*ζ 「ししょーとあねがご迷惑をおかけしてます」  ペコリ

从;゚∀从 「いやまあ、慣れてるし諦めてるからいいんだけどよ……あれ、ほっといていいのか?」

ζ(゚ー゚*ζ 「はい!ししょーとおねえちゃんは仲良しさんですから!」


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 < ギョ ェ エ     エ ェ      ェ エ     エ ェ      ェ エ     エ ェ
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从;゚∀从 「……まあ、師弟の仲が睦まじいのはいいことだな」           :

 ちらと見たハインリッヒの目には、風の魔法により空中に張り付けられ
 数々の拷問魔法をぶち込まれているツンの姿が映ったが、そう言うことにしておく。

 ツンの悲鳴が響き渡る。
 その他の4人は各々に簡単な自己紹介を済まし、師弟の微笑ましい再開の儀式が終わるのを静かに待っていた。

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