-
676 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/22(日) 17:04:30 ID:AYo.aGOM0
-
「いーもーじゃーー〜〜〜〜っ!!」
とっても明るいその声に、イモジャは布団の上に置いた本から視線を上げた。
パタパタと足音が近づいてきて、窓から女の子がひょっこり顔をだす。
ミ*゚∀゚彡 「遊びに来たよ!」
女の子にしては短くて癖の強い髪の毛に、赤く染まったほっぺた。
ちょっと見ただけだと男の子に見える。
この子の名前は、フゥ=イッコモン。
少し前にアネジャと散歩しているときに会って、仲良くなった。
家に引きこもりがちのイモジャにとってはとっても大切な友達だ。
l从・∀・*ノ!リ人 「いらっしゃいなのじゃ!」
ミ*゚∀゚彡 「今日はねー!すごろく持ってきた!!」
フゥは一生懸命背伸びして、大きな紙を広げて見せた。
沢山の色で絵が描いてあって、所々にお話が書いてある。
∬´_ゝ`) 「あら。フゥちゃんいらっしゃい」
ミ*゚∀゚彡 「おねーちゃんこんちわ!!!」
∬´_ゝ`) 「はいこんにちは。中に入って、丁度お菓子焼いたところなの」
ミ*゚∀゚彡 「勝ったッッッッ!!!」
∬´_ゝ`) (何に?)
-
677 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/22(日) 17:06:09 ID:AYo.aGOM0
-
アネジャが焼いてくれたお菓子をそばに置いて、フゥはすごろくの紙を床に広げる。
駒は四つあったけれどアネジャはこれからお出かけなので、二人で遊ぶことになった。
イモジャは専用の座椅子に座らせてもらい、紙を挟んで向こう側にフゥが座る。
ミ*゚∀゚彡 「フゥが先ね!!!」
使う駒を決めて、フゥがさいころを転がす。
出た目の分だけ駒を進めて、またさいころを手に取った。
ミ*゚∀゚彡 「次イモジャ!!」
l从・∀・ノ!リ人 「なのじゃ!」
イモジャがそっと力を込めると、さいころがふわりと浮き上がった。
手も足も無くなってしまったイモジャでも、こうして魔法を使えば簡単なことならできる。
普段はアネジャが使っちゃダメと言っているのだけれど、フーと遊ぶ時は「少しならいいよ」と言ってくれている。
そのままさいころを落として、目を出す。
駒を進めるのは魔法でやろうとすると難しいので、フーがやってくれた。
ミ*゚∀゚彡 「えーっと、2マス、進む」
l从・∀・*ノ!リ人 「やったのじゃ!!
ミ*゚∀゚彡 「負けないもんねー!」 コロコロ
l从・∀・ノ!リ人 「あ、そこ一回休みなのじゃ」
ミ;*゚∀゚彡 「にゃんと?!」
-
678 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/22(日) 17:07:43 ID:AYo.aGOM0
-
一度目のゲームはイモジャが最初のリードを保って勝った。
もともと運が必要なゲームは大得意だ。
ミ*゚∀゚彡 「もっかい!もっかいやろ!」
l从・∀・*ノ!リ人 「いいのじゃ!また勝つのじゃ!」
その後も何度か遊び、イモジャの勝ち越しが続いた。
流石にずっと遊んでいると飽きてきて、さいころを転がすよりもお菓子を齧りながらお話しする方が増えた。
ミ*゚∀゚彡 「ちょっとあきちゃったね」
l从・∀・ノ!リ人 「なのじゃ」
フゥが、何気なしに外を見る。
外で遊びたいのだな、と悟ってしまう。
もともと、初めて会った時もフゥは一人で木登りをして遊んでいて、家の中よりも外で遊ぶ方が好きなはずだ。
「ごめんなのじゃ」と言いそうになってイモジャは我慢した。
言わなくちゃいけないかもしれないけれど、フゥは優しい子だからイモジャが謝ったことをきっと気にしてしまう。
だから、言えない。もしかしたら気まずくなって、フゥが来なくなるかもしれないのが、イモジャは怖い。
ミ*゚∀゚彡 「……にゃ?イモジャ、アレなに? ねこさん?」
l从・∀・ノ!リ人 「? ……ああ、アレはお守りなのじゃ」
フゥが指さしたのは、扉にかけられた五つの小さなぬいぐるみ。
みんな猫の形をしているけれど、色と大きさがそれぞれ違う。
赤くて大きめなのと、紺色で頭だけ白いの、細長いのが青と水色とで二つ、ピンク色でハートマークがついたので、五つ。
イモジャもあんまりかわいいとは思えないのだけれど、とても大事なものだ。
-
679 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/22(日) 17:10:13 ID:AYo.aGOM0
-
ミ*゚∀゚彡 「おまもり?」
l从・∀・ノ!リ人 「そうなのじゃ。父者が作った魔法がかかってて、たいしょーしゃのじょーたいをはあくできるのじゃ!」
ミ*゚∀゚彡 「おー―……?」 ←よくわかってない
l从・∀・ノ!リ人 「イモジャの家族みんなバラバラなのじゃ。でも、あのお守りを見ればみんな元気って分かるのじゃ」
ミ*゚∀゚彡 「……おー!なるほど!!」 ←でもよくわかってない
l从・∀・ノ!リ人 「今日もなにもなってないから、みんな元気なのじゃ!!」
ミ*゚∀゚彡 「ほへー―……イモジャのトーちゃんすごいなー―……」
l从・∀・*ノ!リ人 「えへへー―……」
ミ*゚∀゚彡 「…………それね、フゥがお願いしたら作ってくれるかな?」
l从・∀・ノ!リ人 「たぶん大丈夫なのじゃ!誰のを作りたいのじゃ?」
ミ*゚∀゚彡 「うんとねー、トーちゃん」
l从・∀・ノ!リ人 「フゥの父者なのじゃ?なにしてる人なのじゃ?」
ミ*゚∀゚彡 「今はだいごろうで兵隊さんしてるの。だからね、心配なんだー―……」
-
680 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/22(日) 17:12:24 ID:AYo.aGOM0
-
l从・∀・ノ!リ人 「大五郎なのじゃ?イモジャの叔父者のお店なのじゃ!!」
ミ*゚∀゚彡 「おじさん?」
l从・∀・ノ!リ人 「そうなのじゃ!しゃちょーさんなのじゃ!」
ミ*゚∀゚彡
ミ*゚∀゚彡。o O ( フゥのトーちゃん=やとわれのみ イモジャのおじさん=しゃちょさん)
ミ*゚∀゚彡。o O ( フゥがイモジャを怒らせる→ イモジャがおじさんに報告する→ しゃちょさん怒ってトーちゃんクビになる)
ミ*゚∀゚彡。o O ( トーちゃん失業→ 昨今の就職難→ 生活費なくなる→ 一家離散→ フゥは悪いおじさん売られて強制労働)
_人人 人人_
ミ*゚∀゚彡。o O ( 福利厚生不整備及び労働基準法違反の劣悪な労働環境により衰弱→ > 必然の死 <
 ̄Y^Y^Y^Y ̄
ミ*゚∀゚彡 「これまでのたびかさなるぶれいなにとぞごようしゃいただきたく……」
l从・∀・;ノ!リ人 「この数秒間に何が?!」
このあと何とか説得してフゥには普通に戻ってもらった。
-
681 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/22(日) 17:14:53 ID:AYo.aGOM0
-
ミ*゚∀゚彡 「フゥのトーちゃんはね、すっごいんだよ!!弓矢でね、どこでも当てられるの!」
l从・∀・ノ!リ人 「ほへー、すごいのじゃ」
ミ*゚〜゚彡 「でもね、トーちゃんが強くてかっこいいけどフゥは心配なの。だから、あのねこさん、欲しいなって」
l从・∀・ノ!リ人 「そう言うことなら父者に頼んでみるのじゃ!きっと作ってくれるのじゃ!!」
ミ*゚∀゚彡 「ホント!?やったぁ!!」
l从・∀・ノ!リ人 「でも、イモジャの父者もあんまり帰ってこないから、すぐには無理かもしれないのじゃ……」
ミ*゚∀゚彡 「そっかー―…………イモジャのトーちゃんは何してるの?」
l从・∀・ノ!リ人 「母者と一緒にいろんなところを歩いて魔法の研究してるのじゃ!すごいらしいのじゃ!!」
ミ*゚∀゚彡 「すげー!かっくいい!!」
l从・∀・*ノ!リ人 「えへへー」
ミ*゚∀゚彡 「でも、あんまり帰ってこないとさびしいね」
l从・〜・ノ!リ人 「そうなのじゃ…………」
ミ*゚∀゚彡 「…………よーし!!もっかいやろ!!」
l从・∀・ノ!リ人 「もっかいなのじゃ?」
ミ*゚∀゚彡 「次はねー、色々マスに書き足しちゃうんだー!」
-
682 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/22(日) 17:16:01 ID:AYo.aGOM0
-
イモジャとフゥは再びすごろくを遊び始める。
子供らしい悪ノリでマスのペナルティを次々と増やし、休みの回数はみるみる増えてゆく。
その荒唐無稽なさまが甚く気に入ったらしくペナルティのインフレーションは止まらない。
二人が楽しく、叫びを上げながらさいころを放るその部屋の扉。
フックに吊るされた五つのぬいぐるみの内、二つにじわじわと黒い染みが滲み始めた。
他の三つに一切の変哲は無く、同じ大きさに揃えられた青と水色のそれだけが瞬く間に色をくすませてゆく。
ミ*゚∀゚彡 「やった!!32マス進む!!」
l从・∀・*ノ!リ人 「かかったのじゃ!!余りはゴールでUターンなのじゃ!!そして………」
ミ*゚〜゚彡 「Uターンした先に・・・・・・・・・・・・休むマス・・・・・・!しかも十回・・・・・・・ッ!!」
l从・∀・ノ*!リ人 「イモジャ式封印トラップなのじゃ!!勝った!!」 コロコロ
ミ*゚∀゚彡 「あ、そこイモジャの作った十五回休みマス」
l从・∀・;ノ!リ人 「なんと?!」
僅かずつ、しかし確実に広がる変色。
ぬいぐるみは小刻みに震え、やがて二つ揃って床に落ちた。
l从・∀・ノ!リ人 「しかし最後に勝つのはイモジャなのじゃ!」
ミ*゚∀゚彡 「負けないし!!」
楽しい時間は賑やかに過ぎる。
そのまま二人は、笑顔ですごろく遊びを続けていた。
* * *
-
684 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/22(日) 17:18:00 ID:AYo.aGOM0
-
( ;;;Фωφ) 「今まででいぢばん、つおいかっだ」
雨でぬれた顔を、鬱陶しげに拭いながら、試作ちゃんが呟iいた。
彼にはキュートが作った人型キメラの中で最良の体を与えている。
知能に若干の欠陥を残すが、戦う分には何の問題も無い。
純粋な剣戟で敵う者はそうそう存在しないだろう。
それが、流石兄弟を強者と認めた。
キュートも異論を唱える気はない。
彼らは実に強かった。
剣士としても、魔法使いとしても。
しかしそれは所詮、人間としては、という話。
( ;;;Фωφ) 「ギュード、がんばっだらおながすいだ」
試作ちゃんが刀を振るって血を払う。
血は流れたものの、脂のこべりつきが目立つ。
水に濡れていることもあるし、砦に戻ってから手入れをさせなければ。
折角手に入れた名刀である。
再現は容易かろうが、無下に扱わせるわけにはいかない。
それが、彼に与えられた「杉浦ロマネスク」としての役割でもある。
o川*゚ー゚)o 「そうね、このまま濡れていたら風邪ひいちゃうし」
( ;;;Фωφ) 「うんむ。かぜよくない。さいあくしぬ」
o川*^ー^)o 「そうそう、体調の管理は気を付けないとね」
-
685 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/22(日) 17:19:21 ID:AYo.aGOM0
-
o川*゚ー゚)o 「……さてと」
キュートの視線は再び兄弟の死体へ。
折角招いた良質な素材である。
これをこのまま捨て置く理由は何一つない。
死んで数分も経たぬ今ならば鮮度も十分。
濡れてしまったのは気がかりだが、若干のダメージならば修復は可能だ。
o川*゚ー゚)o 「…………私に関わったのが間違いだったと、諦めてね」
指を翳す。
まずは骸を雨から保護。
損傷個所を修復の後、細胞を凍結。
あとは、専用の保存液にぶち込んで、これに見合った素材が集まるまで保存すればいいだろう。
( ;;;Фωφ) 「…………むぅ?」
o川*゚ー゚)o 「どうしたの?」
( ;;;Фωφ) 「なんがそれ、いまうごいだ」
o川*゚ ,゚)o 「アニジャたちが……?でも、脈もないし……」
試作ちゃんの言葉に、キュートが視線を逸らした瞬間、伸ばした腕に何か冷たいものが絡みついた。
驚き、反射的に腕を払う。
が、飛んでいったのは体を濡らしていた水滴のみだ。
それ以外には何も無い。
-
687 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/22(日) 17:21:12 ID:AYo.aGOM0
-
o川*゚ ,゚)o 「……?」
( ;;;Фωφ) 「ギュード、なんが、へんながんじ、する」
o川*゚ ,゚)o (魔力の反応は無い……一体何が…………)
キュートは即座に周囲に対し魔力の探知を掛けた。
何かしらの魔法が行われているのならば、すぐに分かるはずだ
o川*゚ ,゚)o 「……いや、違う!」
一つの予感が頭に走り、キュートは魔法を発動。
火炎の魔法を発動し、周囲の雨を、水を振り払った。
轟々と盛る炎が周囲の水を瞬く間に揮発させていく。
先ほどまでのうすら寒い雨濡れの環境が一転、灼熱の空気に肌が痺れた。
( ;;;Фωφ) 「まなつのきせつ」
o川*゚ ,゚)o (よく考えたら、あの子たち、私の探知魔法の環境下にずっと潜んでたのよね……)
ならば、キュートの探知の裏で何かを仕掛けている可能性は高い。
所詮無力な人間だったと見限るよりは、死をもって何か仕掛けてきたと備える方が興も乗る。
そしておそらく。
o川*゚ー゚)o 「……―――ッ!!」
彼らはその期待に応えてくれるのだ。
-
688 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/22(日) 17:24:23 ID:AYo.aGOM0
-
キュートと試作ちゃんを包む球状の炎を、水の刃が切り裂いた。
高位の魔法同士が干渉し合う、鮮烈な反応光。
その眩しさに視界を狭めた一瞬の後、炎の繭が消し飛ばされる。
露わになったのは、先ほどまでと大差のない砦前の景色。
唯一の変化は。
( ;;;Фωφ) 「あえ?どっがいっだ」
あったはずの死体が無い。
最期に存在を確認したのは、火炎魔法を発動したその直前。
恐らくは、キュートが異変に感づき何らかの対策を取ると睨んで、わざとバレバレな干渉をしてきたのだ。
結果として、キュートは兄弟の死体を、その在処を見失った。
o川*゚ー゚)o 「負けて死んだことすら、初めからの『仕込み』ってわけね」
口の端が引き上がる。
きっと醜い笑みだと自覚はしたが、体裁を気にしている余裕は無い。
周囲をぐるりと一瞥。
水を焼き払ったため靄がかかり視界が悪い。
風を巻き起こし吹き飛ばそうとするも、中々流れてゆかない。
これも、意図して張られた煙幕。
多少薄くなり視野は広がったが、ステルスの補強には十分な役を買っている。
-
689 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/22(日) 17:27:33 ID:AYo.aGOM0
-
背後僅かな魔力を感じ、振り返り指を翳す。
すぐにでも魔法が発動できる状態だったが、そこで留めた。
確実に気配を感じたその場所には、既に誰の姿も気配も無い。
o川*゚ ,゚)o 「……思ったより……」
厄介ね、と続く筈だった言葉が途切れた。
背中に走る熱い痛み。
切り裂かれたと気づいた時には、落ちて飛び散る血の音が聞こえていた。
( ;;;Фωφ) 「ギュード!!」
o川*゚ ,゚)o 「っ〜〜〜……やられた〜〜〜〜」
( ;;;Фωφ) 「はやぐなおす。ち、どびどば」
o川*゚ ,゚)o 「これくらいの傷は何ともないけど……」
問題は、傷自体では無く、傷を負わされたという現実。
キュートは常に防御膜の魔法を纏っている。
通常の刀剣類はおろか、攻城戦用の巨大な兵器を受けても傷一つ受けずに済む代物である。
それが容易く切り裂かれた。
しかも、キュート、試作ちゃんの二人係で警戒している中で、だ。
闇雲に強力な魔法を使っただけでは、どちらかが必ず気づいている。
どうやら、彼らへの認識をしっかりと改めねばなるまい。
-
690 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/22(日) 17:29:40 ID:AYo.aGOM0
-
o川*゚ー゚)o 「ちょっとほんきー」
キュートの瞳が、虹の混ざった黄金の輝きを湛えはじめる。
魔力を生み出し過ぎて、体内に収まらない。
溢れた魔力は空気の歪みとなって、火炎の如く揺らめく。
それまで付かず離れずでいた試作ちゃんが、やむなく傍から立ち退いた。
この多量かつ高濃度の魔力は、あらゆる生体にとって毒に他ならない。
多分に耐性を持つ試作ちゃんでも、ここまで濃密になっては危険なのだ。
o川*゚ー゚)o 「“錬成の十二番―――黒剣”」
短い詠唱と同時に、キュートが指を鳴らす。
黒い魔力の粒子が爆ぜ、虚無の空間に剣が現れた。
キュートの白い手に握られたそれは、金細工の拵えが供えられた細身のサーベル。
刀身は、震えるほどの漆黒。
どれだけ塗料で染めたとしても、これほどの「黒」にはなり得ない。
感触を確かめるように二、三度軽く振るう。
余波で生み出された魔力の飛刃により岩が真っ二つに割れた。
上々だ。久々に使った魔法ではあったが、一切の狂いなく再現できている。
( ;;;Фωφ) 「ギュード、わがはいは?」
o川*゚ー゚)o 「う〜ん、とりあえずは自分の身を守ってて。たぶん応対しきれないから」
( ;;;Фωφ) 「なさけない」
o川*^ー^)o 「今回は相手が優秀過ぎただけよ」
-
691 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/22(日) 17:30:55 ID:AYo.aGOM0
-
試作ちゃんに笑顔を向けつつ、キュートは黒剣を肩に担ぐ。
間も置かずに、柄を握る手に衝撃。
凄まじい音だ。耳が痺れて、奥の方が突かれたように痛い。
ちらと目をやると、黒剣の刀身に交差するように、僅かな空気の乱れが見えた。
不可視化によって姿を消した兄弟のどちらかがそこに居る。
恐らくは、剣で斬りかかってきたのだろう。
o川*゚ー゚)o 「立派なステルスだけれど」
右手と黒剣で不可視の剣を受け止めたまま、キュートは脇の下から背後へ掌を翳す。
一拍遅れで黒雷の魔法が発動。
すさまじい音と閃光を迸らせ、周囲を空間ごと焼き切り裂く。
o川*゚ー゚)o 「今の私にはあんまり意味ないかな」
黒雷が過ったとある一点、空間に四角い枠が現れ、切り抜かれたように景色がずり落ちた。
変哲のない岩山の風景が剥がれ現れたのは、同じ景色を背景にして立つ、
( ´_ゝ`) 「……」
双子の兄の方。
水の剣を肩に担ぎ、無感情にも、憎悪に満ちても見える目で魔女を捉えている。
-
692 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/22(日) 17:31:54 ID:AYo.aGOM0
-
キュートはその姿を見て、ぴゅう、と下手な口笛を吹いた。
小ばかにして挑発しているのではない。
むしろ真逆。心の底から、彼に、彼らに感心していた。
o川*゚ー゚)o 「まさか、『神格化』まで使えるようになってるなんてね」
( ´_ゝ`) 「……こうでもなければ、お前は殺せない」
o川*^ー^)o 「それでも、殺せるかわからないよ?」
サスガ=アニジャの身体は、淡い青の光に満ちていた。
冷たく、透き通った、それでいながら生命の力強さを覚えさせる、美しい輝き。
背中から覗いている巨大な片翼は、恐らく魔力の貯蔵庫かつ変換器だろう。
周囲の魔力を変換し蓄え、必要になる分だけ魔力を送り出している。
その魔力の供給管の役を担っているのが、全身に走る白い紋。
幾何学の均一さを持ちながら、生命の体に準じた流動性も感じる。
体表にありながら、骨のようでも、血管のようにも見えた。
美しい。まさか、一度人間として生を受けたハンデを持ちながら、この領域にたどり着くとは。
-
693 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/22(日) 17:33:23 ID:AYo.aGOM0
-
( ´_ゝ`) 「戯言に付き合う義理は無い」
o川*゚ー゚)o 「私はもっとお話ししたいんだけどな〜」
( ´_ゝ`) 「三途の向こうでなら、茶くらい交わしてやる」
アニジャの姿が消えた。
キュートは咄嗟に黒剣を前へ。
痛烈な衝撃。伴って響く、爆発にも似た金属の悲鳴。
体が浮き上がる。
先ほどまで自分が居たところにアニジャがいる。
接近に気付くのが、来るだろう攻撃に防御を合わせるのが手いっぱいだった。
それだけでも驚きだというのに、アニジャにはまだまだ余裕が感じられる。
( ´_ゝ`)「……」
アニジャの姿が再び消え、キュートの背後に現れた。
高速で吹き飛ぶその先だ。反応が間に合うはずもない。
アニジャの右腕が剣と共に消える。
-
694 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/22(日) 17:34:37 ID:AYo.aGOM0
-
風鳴。キュートの体に無数の青い線が走る。
斬られた痛みを自覚する余裕も無い。
青い線から滲む自らの血を見て、キュートはついつい笑ってしまう。
消えたんじゃない。振るったんだ。
キュートの、人としての五感を完全に置き去りにし、知覚も許さずに切り刻んだんだ。
( ;;;Фωφ) 「ギュード!!」
( ´_ゝ`) 「まずは、一回」
血飛沫を振りまき、キュートの身体は崩れ落ちた。
砂の人形がそうするように、体の形を留めず、血と肉の混ざった液体として地面に積み上がる。
( ;;;Фωφ) 「……ッ!“杉浦双刀流―――!!”」
( ´_ゝ`) 「少し黙れ」
試作ちゃんが刀を引き抜こうと腕を振る。
しかし、刀は抜けない。
見れば、掌は柄をしっかりと握っているのに、手と腕が繋がっていなかった。
目の前には、青に染まる青年。
試作ちゃんは動揺よりも先に、本能の叫びを聞く。
-
695 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/22(日) 17:36:07 ID:AYo.aGOM0
-
コイツには、勝てない。
だがそれ以上に、殺さねばならない。
(;;#Фωφ) 「“奪屠葬”!!」
手が無ければ、手が無くとも使える技を。
試作ちゃんの全身の筋肉が、隆起しながらも引き絞られる。
浮き出た筋は指ほどにも太く、その膂力の大きさを表す。
が。
( ;;;Фωφ) 「あえ?」
今度は体が動かない。
せめて数発、腕の骨を直接顔面に突き刺してやるつもりだったのに感覚すらもない。
まるで、地面に埋められてしまったかのようだ。
必死で体を動かそうとする試作ちゃんが意識を途切れさせる最期に見たのは、
灰色の雲に覆われた空と、首から上の無い、自分自身の背中であった。
-
696 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/22(日) 17:37:40 ID:AYo.aGOM0
-
「あーあ、せっかく頑張って作った虎の子だったのに」
( ´_ゝ`) 「……」
o川*゚ー゚)o 「ま、ここで死んじゃったなら、所詮それまでだったってことよね」
( ´_ゝ`) 「……当然のように生き返る」
まき散らされ、地面にこべりついた魔女の肉片が、渦を巻いて一か所に集まる。
グニグニと、混ざり合う動きを数回したのちに、全く無事なキュートの姿へと再生した。
アニジャはすぐさま斬りかかる。
相変わらずの亜光速。目で追うのは不可能だ。
こんなものでも応対しなければならないのが、魔女の辛いところ
キュートは下がりながら剣を合わせた。
見て対処するのではなく、あらゆる軌道を推測し先に斬る。
ぶつかり合う剣。
音が次々と生み出されては置き去りになった。
剣戟は減速を知らず、余波のみを視覚の領域に残しながら、二人は空へと昇る。
-
697 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/22(日) 17:38:33 ID:AYo.aGOM0
-
o川*゚ー゚)o 「二回目まだぁ?」
( ´_ゝ`) 「……ここからだ」
旧ジュウシマツ砦の、はるか上空。
キュートとアニジャは互いの体を弾き、距離を取る。
ただの息継ぎでは無い。
ほぼ同時に、双方が魔法の展開を開始。
ごくごくわずかな時間に、空は悍ましい数の魔法に埋め尽くされた。
アニジャの生み出した、魔力を帯びた水の榴弾が二千九百六十二。
キュートの作り出した、漆黒の槍が三千と四十三。
空を二分し対立する青と黒の勢力。
睨みあうだけで既に世界が軋みを上げている。
アニジャは、背中の片翼を大きく開いた。
応える形でキュートは黒剣を前に振るう。
宙で相対していた二種の魔法の群体が、手を打ち合わせる容易さで邂逅した。
-
698 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/22(日) 17:39:32 ID:AYo.aGOM0
-
まばゆい光が視界を埋めくす。
天の断末魔に、大地が嘆き震えた。
下方にそびえたつ岩山が耐えかねて巨大な亀裂を走らせる。
地鳴りと共に、分裂し、崩れる山。
粉じんは周囲の森や人里にもおよび、穏やかな自然の景色を無機質に破壊した。
リ;;;;;ー゚)o 「…………」
( ´_ゝ`) 「…………」
リ;;;;;ー^)o 「……そっちも二回目ね」
( ´_ゝ`) 「…………」
あらゆる個所に亀裂の入った岩山の上空。
キュートとアニジャは向かい合う。
キュートは爆発により、頭の半分と右腕以外を失い。
アニジャは心臓を八つの角度から貫かれている。
共に、死んでいるが死んでいない。
キュートの身体は先刻に同じく再生。
アニジャも突き刺さった槍を魔力で強引に消滅させ、すぐさま修復を終える。
-
700 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/22(日) 17:43:00 ID:AYo.aGOM0
-
o川*゚ー゚)o 「ところで、オトジャはどうしたの?死んじゃった?」
( ´_ゝ`) 「……」
o川*゚ー゚)o 「それは無いか。むしろ、貴方たちの常とう手段だものね」
( ´_ゝ`) 「ああ」
o川*゚ー゚)o 「アニジャが前で引きつけて、オトジャが遠くから―――」
魔女が黒剣を振るった。
いつの間にか、いずこからか飛来した閃光の魔法と黒刃が衝突。
目を焼く光がまき散らされ、それに相応しい鳴が響く。
これは恐ろしい。
閃光の威力のあまり黒剣の刀身が消滅してしまった。
o川*゚ー゚)o 「狙撃するってのが、さ」
アニジャに対し隙を見せぬよう、魔法の反応を探る。
流石というべきか、痕跡は全て消されていた。
当然、発射地点などわからない。
-
701 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/22(日) 17:47:00 ID:AYo.aGOM0
-
o川*゚ ,゚)o (この二対一は……)
無数の光の軌跡が空の至る所から現れた。
流星の如きそれらは、一心不乱にキュートを目指す。
即死を約束されているのは一度受けて分かっている。
( ´_ゝ`) 「……」
その上アニジャも剣を手に接近。
愚痴を言わせてもらえば、いくらキュートでも少々重い。
o川*゚ ,゚)o 「やるっきゃないってのが、辛いとこよね」
キュートは魔法を全開にし、その場を高速離脱する。
雨あられと降り注ぐ光線の群れは更なる高速で追尾。
同方向へ飛ぶことで体感の速度を落とし、無数の光線の間を、緻密な機動ですり抜ける。
避けるだけでは追尾される。
逃げ回りながら詠唱し、効力を高めた剣を生成。
これならば、閃光を叩いても消滅はしない。
躱しながら、軌道を変え追ってくる閃光を一つ一つ丁寧に斬り弾く。
あっという間に、全弾は余波の煌めきと化す。
-
702 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/22(日) 17:49:36 ID:AYo.aGOM0
-
これで攻撃が終わったわけでは無い。
閃光が残り二つになっていた時点で、アニジャが肉薄。
最期の一弾を切ったその隙に、水の剣が超音速で迫る。
黒剣の柄でこれを防ぐ。
アニジャがいるのにも関わらず、再び閃光魔法の雨がキュートに降り注いだ。
一旦アニジャと距離を開け、迫る閃光を躱す。
閃光弾を掻い潜りながらアニジャが肉薄。構えた剣が残像に代わる。
キュートは閃光弾を払った流れで、その斬撃を横に受け流して位置関係を入れ替え、距離を取った。
アニジャはすぐに切り替えし再度斬りかかる。
高エネルギーを持つ両者の衝突は、その場での停止を赦さない。
二人は武器がかち合う度に衝撃で弾かれては、また接近する。
それを、何十と繰り返す。
閃光の嵐をすり抜けながら。光と音の余波をまき散らしながら。
息を読み、意志を汲み、それでいて相手を蹂躙するために力を尽くす。
目まぐるしく触れて離れてを繰り返す二人のその姿は、手を取り合い舞いを踏むようであった。
o川*゚ ,゚)o 「ッ!」
辛うじて優位を保ち善戦していたキュートだったが、遂にオトジャの放つ魔法の一つが足先を掠めてしまう。
掠めた、と言っても膝から下が丸々消し飛ぶ衝撃。
動きが鈍る。目の前のアニジャの相手はそれを見逃す無能では無く。
-
703 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/22(日) 17:53:08 ID:AYo.aGOM0
-
まずは黒剣を持つ腕が撥ねられた。
次に、魔法を用いようとした逆の腕が肩口からそぎ落とされ。
切り返した刃に腹を薙がれる。
流れのまま、寝かせた切っ先が眉間に突き刺さり後頭部まで貫通。
捻り、脳をかき混ぜつつ縦に向き直った刃は、そのまま脊椎を股間まで真っ二つに両断した。
そこまで刻み、アニジャは離脱。
入れ替わりにオトジャの魔法が四方八方からキュートに迫り。
穿ち、炸裂し、その体を血の飛沫すらも残さぬほどに蹂躙した。
が。
o川*^ー^)o 「服の再生が面倒になってきちゃった。これでもいいかしら」
まるで判を押すように、キュートは一瞬で蘇る。
それまで几帳面に纏っていた黒いドレスは無く、素肌に直接ローブを羽織った姿。
魔法の余波により乱れ切った気流に裾が靡き、白の肢体が露わになった。
-
704 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/22(日) 17:55:39 ID:AYo.aGOM0
-
川*゚ ,゚) 「おっとっと、坊やたちには刺激が強い?」
b
オトジャの魔法が問答無用でキュートの頭をぶちまける。
o川*゚ー゚)o 「そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに」
飛び散り切らぬうちに復元するキュートの頭部。
再生の速度、反応が上がっている。
伴って開き直ったキュートは防御行動をあまり行わなくなっていた。
( ´_ゝ`) 「わかったか、オトジャ」
『予想通りだ。魔女の再生は「存在情報の保護及び上書き」によるものに違いない』
( ´_ゝ`) 「やれるか」
『やらなければならないから、ここまで来た。そうだろ』
( ´_ゝ`) 「流石だよ」