( ^ω^)剣と魔法と大五郎のようです

二十六話

503 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:27:04 ID:ZWuj8HrY0
 
 桑畑の広がるなだらかな丘陵地帯の中にぽつぽつと民家が見えた。
 長閑な田舎町。真っ先に浮かぶ印象はそれだ。

 クシンダ。
 養蚕と農作を主な産業とする、辺境の小さな町である。


   ( ゚д゚ )  ガサッ


 深緑の葉をつける桑の間から、頭が生えた。
 周囲をきょろりきょろりと確認し、再び畑の中に消える。


               ( ゚д゚ )  ガサッ


 少し離れた場所に、再び現れる頭。
 やはり首を左右に振り回して、また引っ込む。


                               ( ゚д゚ )  ガサッ   (゚A゚* )


                               ( ゚д゚)  キョロッ    (゚A゚* )


.

504 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:28:09 ID:ZWuj8HrY0
 
( ゚д゚ )

(゚A゚* )

( ゚д゚ )

(゚A゚* )

( ゚д゚ )

(゚A゚* )

( ゚д゚ )+ 「やあ、こんにちはお嬢さん」 キラーン

oσ(゚A゚* )

( ゚д゚ ) 「まあ待て。それは狼やクマが出た時に吹く笛だ」

(゚A゚* ) 「へんな人に会った時も吹けっておかーちゃんが言ってた」

( ゚д゚ ) 「全然変じゃないが」

(゚A゚* ) 「自覚ナシはなおさら悪質やで」

505 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:29:35 ID:ZWuj8HrY0

 ミルナ=スコッチはこの程度では動揺しない。
 忍として生きる彼の行動が凡人に理解されないのは世の常。
 本来交わらぬ世界の童が彼を不審者と称したところで、それは必然なのである。

 だが、むやみに騒がれては困るので。

三( ゚д゚ ) ササッ

(゚A゚* ) 「!?」

 一瞬の隙に少女の背後に回り込み、首元に優しい手刀を放つ。
 体の自由を奪うが、痛みを与えたり命に支障の出ない程度の威力。
 ゴキブリが体液を漏らすことも無く死に絶える絶妙な力加減。

( ゚д゚ ) 「さて」

 少女が意識を混濁している間に、ワイヤーで手足を拘束。
 もちろん使う気はないが、騒がれないように手には短刀を持っておいた。
 そこまで安全を確保してから、少女に事情を説明する。

( ゚д゚ ) 「―――と、言うわけで拙者は善良なる隠密であり、全く持って怪しい存在では無いのだ。理解したか?」

(゚A゚* ) (これホンマにアカン奴や……)

507 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:30:48 ID:ZWuj8HrY0
 
( ゚д゚ ) 「で、だ」

 思いのほか肝の据わった少女である。
 これなら態々身柄を拘束した甲斐もあるというもの。

( ゚д゚ ) 「お嬢さん、最近二刀を腰に差した剣士を見たりはしなかったか?」

(゚A゚* ) 「剣士?」

( ゚д゚ ) 「うむ。ブーン=N=ホライゾン。拙者の尋ね人なのだが、この町に来ていたらしい」

(゚A゚* ) 「剣士なー。……それって魔法使いでもええの?」

( ゚д゚ ) 「!」

(゚A゚* ) 「ウチがしっとるんは、剣二つ持ってた魔法使いなんやけど」

( ゚д゚ ) 「むしろビンゴだ」

 人口密度の低い田舎に置いて、目撃情報はあまり期待していなかったが、幸先が良い。
 二刀の剣士を尋ねて、二刀の魔法使いの回答を得る。
 恐らく間違いない。この微妙な誤差を生むのは彼らに他ならないだろう。

508 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:31:50 ID:ZWuj8HrY0

(゚A゚* ) 「…………でな、この先の森の中にな、ドッグのセンセの家があるんや」

( ゚д゚ ) (経歴に不詳の多い男だったが……なるほどここが故郷か)

(゚A゚* ) 「ほら、あそこや。今は誰もすんどらん」

 少女の案内で訪れたのは桑の畑も疎らになる、丘を登った森との境目。
 一件の小さな小屋が、木を背負うようにひっそりと立っていた。
 窓は板で塞がれ、扉には頑丈そうな錠が掛けられている。
 中々年季が入っているが、一見した限りは手入れが行き届いているようだった。

(゚A゚* ) 「ウチらがな、ドッグに頼まれて時々掃除に来とんねん」

( ゚д゚ ) 「お嬢さんと山田……ロンリードッグ氏とはいかなる関係で?」

(゚A゚* ) 「関係っちゅーかな、こんな小さい町やし、皆家族みたいなもんや」

( ゚д゚ ) 「……なるほど」

(゚A゚* ) 「まあ、ドッグはちょっと特殊やねんけどな」

( ゚д゚ ) 「特殊?」

(゚A゚* ) 「そうや……っと、あったあった」

 少女は、小屋の入口の傍にある割れた植木鉢を持ち上げた。
 見ると小さな木箱が埋まっている。
 蓋を開けると、中には真鍮製の鍵。少女はそれを錠へ差し込み、閂を外した。

509 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:33:56 ID:ZWuj8HrY0

(゚A゚* ) 「ほら、入られるで」

( ゚д゚ ) 「うむ」

 応えながらも、ミルナは短刀で窓に打ち付けられた板を引っぺがし、そこから中に入る。
 少女は唖然とそれを見ていた。

(゚A゚* ) 「なにしてん」

( ゚д゚ ) 「中に入ったんだが」

(゚A゚* ) 「開けたやん」

( ゚д゚ ) 「残念ながら、そこは拙者にとって入口では無い」

(゚A゚* ) (マジモンのキッチガイや……)

 小屋の中は暗く、少々湿った空気が漂っていたが、黴の臭いなどは無い。
 少女は慣れた様子でテーブルに乗ったランタンに火をつけた。
 扉とミルナがこじ開けた窓から差し込む光に加え、朱い光が室内を照らす。

 小さな小屋だ。
 入ってすぐに炊事場とテーブル。
 奥には寝室と思われる扉が一つあるだけ。
 誰も住んでいないという言葉の通り、家財の類はほとんど無い。

510 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:34:50 ID:ZWuj8HrY0

 しかし何か違和を感じる。
 ミルナだからこそ分かる微弱な物ではあるのだが。

( ゚д゚ ) 「で、先の話の続きであるが……」

(゚A゚* ) 「ああ、ドッグはな、元はクシンダの生まれや無いんや」

( ゚д゚ ) 「む?」

(゚A゚* ) 「ウチも詳しいことは知らんねんけど、ドッグのセンセがな、都会の方で路頭に迷ってたのを連れてきたんや」

( ゚д゚ ) 「孤児ということか」

(゚A゚* ) 「せや、何でも都会で魔法ガッコに通ってたらしいんやけど、おかーちゃんたちが死んでもうて、行き場失ったとか」

( ゚д゚ ) 「……」

(゚A゚* ) 「で、この通りここにはなんも無いで。ドッグが出てくときにほとんど処分してったし」

511 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:36:12 ID:ZWuj8HrY0

(゚A゚* ) 「ところで変態のにーやん」

( ゚д゚ ) 「変態じゃないが」

(゚A゚* ) 「ドッグに用だったんちゃうの?さっき言ったけどいくらか前に出てったで」

( ゚д゚ ) 「そうなのだが、もののついでにな。何か飯の種があればと」

(゚A゚* ) 「なーなー、何の用だったん?」

( ゚д゚ ) 「それは言えん」

(゚A゚* ) 「ええやん。ウチは色々教えてあげたやん」

( ゚д゚ ) 「……拙者の元締めに当たる男に人探しの依頼があった。追加の情報があったので、伝えるために追っていたのだが」

(゚A゚* ) 「あー、そりゃ災難やな。ドッグはなんか、サロン?に行く言っとったで」

( ゚д゚ ) 「サロン……結果的に行き違ったか」

 ドッグことメランコリーズ=ロンリードッグは魔法を用いて移動を行っている。
 いくら足に自信のあるミルナでも、その直線的な高速移動に追いつくのは骨だ。
 その上ふらり次へ行くので行き先の調査にかかる時間もプラスされる。

 情報を得てから大分時間が経った。
 もとより鮮度が命だった情報だ。この時点で価値はほぼ死んでいる。

( ゚д゚ ) (これだから一匹狼気取りは……)

 他人が接触に来ることを全く考慮していない。
 情報屋にコンタクトを取った時くらい何かしらの標を残せというものだ。

512 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:37:07 ID:ZWuj8HrY0

( ゚д゚ ) (……サロンで待っていれば……しかし、すぐに戻る保証も無かったしな)

 国境跨いでの大移動を四半日もかけずにあちらと、不眠不休で馬や足を駆使しても一日二日を要するこちら。
 いくら魔法の痕跡などで追うことが出来ても、差は開くばかりだ。
 気を利かせて早く伝えようとした結果がこれだよ。

( ゚д゚ ) (まあいい。上級の魔法を当然の如く使いこなす無名の魔法使いのルーツ。調べておいて損はあるまい)

 ミルナは少女を放って家探しを始めた。
 奥の寝室も開けて覗く。
 やはり何もない。床にはベッドが置かれていたらしい跡があるが、それだけだ。

( ゚д゚ ) 「お嬢さん、先生と言うのは、当然魔法の?」

(゚A゚* ) 「せやで。ウチは詳し無いんやけど、すごい人やったらしいな」

 それにしては。
 ミルナはもう一度小屋の内部を見て回る。

( ゚д゚ ) (……本棚……資料や魔道書を保管に利用していただろうスペースが無い)

 室内はあまりに殺風景で、本や魔道具を置くような場所が一切ない。
 物自体は「処分してった」としても、棚や物入れを全て片っ端から廃棄するようなことをするだろうか。
 仮にしたとしても、床にあるベッドの痕跡のように何かしらの名残があるはず。
 それすら一切ない。これは少々おかしい。

513 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:38:14 ID:ZWuj8HrY0

( ゚д゚ ) 「……臭うな」

(゚A゚* ) 「ああ、麓のおっちゃんが牛飼っててな。時々風に乗って臭うんや」

( ゚д゚ ) 「ちゃうねん」

 引退して魔法に関するもの一切を持っていなかったという可能性もある。
 しかしそれならばなぜロンリードッグはここに立ち寄ったのか。
 それに、入ってからずっと感じる違和感。
 これは彼の魔力の気配だ。
 僅かとはいえ、数日経っても残滓が残るほどの魔法を行使する必要があったのか。

( ゚д゚ ) 「実に面白い。……お嬢さん、少し下がっていろ」

 ミルナは手で印を組む。
 魔力が体を巡り、粒子となって全身から立ち上った。

( ゚д゚ ) 「“隠遁、足跡洗い”」

(゚A゚* ) 「おわ、なんかめっちゃ光っとる」

 術の発動に合わせ、魔法の粒子が方々へ散った。
 ミルナの魔力が空間の、より濃い魔力に反応して淡く発光する。
 本来は魔力の痕跡を消去する隠匿用の術なのだが、こういった場所で使えば痕跡を探ることも出来るというわけだ。

( ゚д゚ ) 「そこか」

 寝室の床の中心により多く反応が見られる。
 目を凝らして見ると、床板の隙間から漏れ出しているのが分かった。
 十秒程度で術の発動は終わり、同時に魔力の気配が綺麗に消えた。

514 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:38:54 ID:ZWuj8HrY0

 ミルナは改めて反応の強かった床を探る。
 間違いない。一度消し去ったはずの魔力の気配が、極極微量に漂い始めている。

 床をノック。
 他の場所とも比べ、丹念に聞き分ける。
 違う。こうして耳を押し付けなければわからない程小さな違いだ。
 これでは上を歩いた際の足音などでは気付けない。

( ゚д゚ ) 「本来何かの仕掛けがあるのだろうが、そこまで気を使えん」

(゚A゚* ) 「ちょ、なにしてん?!」

 床板の隙間に小刀を差し込み強引に捲る。
 少女が止めるのを無視して作業を進めると、現れたのは。

( ゚д゚ ) 「ビンゴ」
 
 さらにもう一枚板で蓋をされた、地下への洞穴。
 井戸のように石組みで補強され、人が上り下りできるように縄梯子がかかっている。

(゚A゚*;) 「なんやこれ、たまげたな……」

( ゚д゚ ) 「魔法使いならよくあることだ。研究用に隠し部屋を持つというのはな」

 懐から投具を取り出し、落とす。
 少し間をあけて硬い金属の音。深さは7メートルほどか。
 罠の類は無いらしい。
 ミルナは念のため小刀を手に持ったまま、するりと穴の中に飛び降りた。

515 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:40:25 ID:ZWuj8HrY0

 着地と同時に、突然明りが点る。
 魔法による青みを帯びた白い光。

( ゚д゚ ) 「……なんだこれは」

 地下の空間は、想像よりもはるかに広かった。
 上の小屋の二倍はあるだろうか。
 木の柱と石組みで構成さている。
 予想に反してここにも物はほとんど無いが、奥にさらに扉があった。

 しかし、それより気になる者にミルナの目は止まる。

(゚A゚* ) 「なんやこれ?!」

 追って降りてきた少女が驚いた。
 ミルナもほぼ同意。
 中々目にできる代物では無い。

 金属で出来た、人型のゴーレム。
 鎧状の体表と繊維や鉄骨で出来た内部機構。
 数あるゴーレムのタイプの中でもかなり精密な絡繰り式だ。
 作り手の技術の高さがうかがえる。

( ゚д゚ ) 「番人、のようなものか。となるとブーン氏たちはこれと……?」

516 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:41:14 ID:ZWuj8HrY0

 扉の脇の壁に凭れて停止しているゴーレムに近づく。
 体表にはいくつもの傷。恐らく剣の攻撃によるものだろう。
 他よりも弱い関節を的確に斬りつけられているのを見るに、戦ったのはかなりの手練れ。
 状況から読んでブーン=N=ホライゾンに間違いは無いだろう。

 そして。

( ゚д゚ ) 「一体何をどうすれば、こんなことが出来る」

 ゴーレムの胸の中心に、背中まで通ずる穴が開いていた。
 丁度ミルナの頭が通るほどの大きさで一定の幅。
 鉄が歪んで捲れたような跡はなく、この部分だけがきれいさっぱりくり抜かれている。
 まるで元から無かったかのようだ。

 触れてみる。
 どう見ても鋼鉄製。
 鎧一枚分ならまだしも、内部までをもいっぺんにとなると、人力とは考えられない。

( ゚д゚ ) (魔法……しかし、こんな不自然極まりない破壊を出来る魔法?)

 魔法というと、馴染みない者からすればなんでも出来るように思えるが、超法則的な中にも限界は存在する。
 少なくとも人が魔法式を組んで行う限りでは。

 鋼鉄に穴をうがつ方法は確かにある。
 火属性で熔かすなり、風や水属性で削り切るなり方法は複数挙げられる。
 しかし、思いつく範囲の魔法ではこの状態にはつながらない。

517 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:42:53 ID:ZWuj8HrY0

(゚A゚* ) 「これうごくん?」

( ゚д゚ ) 「……元は動いただろうが、核をくり抜かれている。動くことはないだろう」

(゚A゚* ) 「へー……センセの家にこんなんあるなんてなあ」

 少女がつんつんとゴーレムの体をつつく。
 厚い鋼鉄の鎧に、可動域を広く取られた関節。
 手には幅の広い短剣を持ち、逆の手の甲には魔法攻撃用の射出口がある。
 動いているところを確認したわけではないが戦闘の機能があると見て間違いない。

 ミルナの知る限り下級のゴーレムほど粗雑で巨大な傾向にある。
 小型であるということは、すなわち高い技術の証明だ。戦闘用ならば弱いということは無いだろう。

( ゚д゚ ) 「この扉の奥には、相当なものがありそうだな」

 恐らくロンリードッグたちの目的はそれ。
 ここまで来てこの扉を開けないなどという選択肢はあり得ない。
 ミルナは罠を警戒しつつ、ゆっくりと扉を開けた。

 が。

(゚A゚* ) 「なんやこれ、行き止まりやん」

( ゚д゚ ) 「いや、恐らくはこの魔法陣を発動させることで、別空間へ行けるはず」

 扉を開けた先にあったのは、板張りの壁と、そこに描かれた緻密な魔法陣。
 発動させることで全く別の空間に転移することが出来る魔法の扉だ。
 過去に似たような仕掛けを通じて侵入したことがあるので分かる。

518 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:44:39 ID:ZWuj8HrY0

 これまたそんじょそこらの魔法使いに出来ることではない。
 ゴーレムも含め、ここにある魔法の仕掛け自体が重要な知的財産になりうるのだが。

(゚A゚* ) 「でも、めっちゃ傷ついとるで」

 そうなのだ。
 描かれた魔法陣を消すかのように、大きなバツ印の傷がついている。
 
 この魔法陣はタリズマンを原料にした塗料によって描かれ、自体が魔法式、魔道具として機能している。
 傷がついているということは、機能が破壊されているということ。
 宿っていた魔法自体が失われているので、魔法陣を掻きなおせばいいという話でも無い。
 よって、転移魔法によって行けるはずっだったこの先の部屋には、立ち入ることが出来なくなっっているのだ。

 傷は板の状態に対しかなり新しい。
 恐らく、ロンリードッグが用を済ませた後に、封印代わりに魔法を破壊したのだろう。

( ゚д゚ ) (これは流石に……拙者でも無理だな……)

 諦めざるを得まい。
 強固な鍵や封印魔法なら意地でもこじ開けるが、これについては道そのものが無くなっている。
 その上行き先がどこなのかも分からないのでは手の出しようがない。
 
( ゚д゚ ) (しかし、見たかったものだな)

( ゚д゚ ) (これほどのゴーレムが守り、こんな方法でゴーレムを殺す魔法使いが求め、
     その両者を生み出した者が遺した『なにか』が一体どれほどのものなのかを)


  *   *   *

519 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:46:11 ID:ZWuj8HrY0

 VIPとサロンの間に広がる荒野にはかつて「ハイエナ」と呼ばれる盗賊部族が存在した。
 残虐にして周到。その手並みはまさにハイエナそのもの。
 当時今ほど武装化の整っていなかったVIPやサロンは幾度も彼らの襲撃を受け、いくつもの財を奪われた。

 しかし、ある時彼らの襲撃がぱたりと止む。

 毎日の如く襲撃があったのだから、人々はこれに困惑した。
 二日三日と平穏な日が続くと「何かの企みではないか」と不安は逆に増してゆく。
 状況に痺れを切らしたのは、サロンの農業関係者と契約を結んでいたとある商人旅団だった。

 彼らは護衛に雇った傭兵やサロンの若者たちと共に「ハイエナ」の集落の調査を開始した。
 何かの理由があって荒野を去ったならば重畳。
 逆に、大掛かりな何かを仕掛けようと準備をしているのであれば、こちらも準備をしなければならない。

 が、ようやっと「ハイエナ」の集落を発見した商人たちが目にしたのはそのどちらとも異なる結果だった。

 「ハイエナ」たちは死んでいた。
 彼らの構成人数など知らない商人たちでさえ、一目で「全滅しているに違いない」と判断するほどに凄惨な状況だったという。

 レンガを組み赤土を固めた住居の壁には、さらに赤い血が塗りたくられ。
 およそ人間の力で行われたとは考えられない損壊をした死体が転がっていた。
 しかもそのそれぞれが、死後数日たっているだろうにも関わらず、鳥獣に全く食われていない。

 事の異常性を察した商人の長は、仲間たちと共に「ハイエナ」を手厚く葬りこの一帯を立ち入り禁止とした。

 のちに禁を破り「ハイエナ」の残した財宝に引かれて集落跡を訪れた者たちは全て消息不明となっている。
 以後、この地は呪いの地と噂され、事件から長く経った今でも避けられ、怖れられている。

520 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:47:08 ID:ZWuj8HrY0

(//‰ ゚) 「そんな噂のお蔭でここには人が来たりはしねエ。絶好の隠れ家だ」

 ヨコホリ=エレキブランは、一通りこの場の由来を話してから笑って見せた。
 力の無い笑みだ。彼と知り合ってからそれなりの年数が経つが、ここまで弱っているのを見たことが無い。

(//‰ ゚) 「まあ、危ねえのは事実なンだがな」

 ヨコホリの横たわるベッドの周囲を、「目に見えない何か」が飛び回っている。
 それも、複数。羽虫の類とは絶対に異なる禍々しい存在感。
 流れ出るヨコホリの魔力に牽制され近づいては来ないが、接触が好ましくないことは予想できる。
 
(//‰ ゚) 「人間の思念……いわば経験と知識の蓄積によって形成された『人格』を魔力そのものに定着させてるンだ。
        脳の中で起きている電気信号の働きを、魔力によって再現する。まあ、魔法で作られたゴーストってトコだな」

 ヨコホリは接近してきたゴーストを、気だるそうに振り払う。
 濃密な魔力を嫌ってか、すぐに部屋の隅へと離れていった。

(//‰ ゚) 「魔力の扱いになれてりゃ追い払うのは楽だし、今は俺が居るから安全だがナ」
  _
( ゚∀゚) 「……それよりも、体の状態はどうなんだ」

(//‰ ゚) 「どうもこうもあるかァ、見ての通りだ」

 ジョルジュは、ヨコホリの胸元に視線を落とした。
 掌ほどの大きさの魔法陣が、か弱い明滅と共に浮かんでいる。
 これが、今のヨコホリの命そのもの。
 本来の何重にも守られた環境から比べればあまりにも無防備な状態だ。

521 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:47:52 ID:ZWuj8HrY0

(//‰ ゚) 「全部ガッタガタだよ。俺の「生命」を司る魔法の大体9割が破壊されてンだ」

 ついでに言えば、残りの一割も急造した粗悪品だ。
 元々並でない生命力のこの男でなければ死んでいただろう。
 否、事実この男は一度完全に死んだのだ。
 今一応生きているのは、自身の掛けた保険のお蔭に他ならない。
  _
( ゚∀゚) 「自分で組み直したりはできないのか?その予備の魔法を使ったように」

(//‰ ゚) 「あのなァ……お前、魔女の技術をそうそう簡単にマネできると思うのか?ン?」

 ヨコホリは、通常のゴーレムと異なりまだ人体の部分が多く残されている。
 故にゴーレムに用いる単純な(それでもかなり高度な)魔法式だけでは足りないのだ。
 あくまで人間の部分は人間として生かさねばならない。

 そのために、魔女は膨大な数の魔法式をヨコホリに仕込んだ。
 人間の生体機能と同じだけの魔法が存在するといえば、それがどれだけ途方もない行為か理解されるだろうか。
 
 シーンはその機能を取りまとめる「節」の魔法を狙う個々の分解の手間を省いたのだが、組み直すとなればそうはいかない。
 ハーフゴーレムとして生かす魔法と言っても、実質は人を一人生み出すのと変わらない行程が必要なのだ。

(//‰ ゚) 「コイツだって、べらぼうに質の良いタリズマンに無理やり焼き写しただけで、俺自身の技術云々じゃねェンだ」
  _
( ゚∀゚) 「そうか、ならば」

(//‰ ゚) 「おう、魔女が気まぐれにさっさと来てくれることを願うばっかりだナ」

522 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:49:24 ID:ZWuj8HrY0

 ヨコホリの体調は、時間が経つにつれてみるみる悪くなっている。
 予備の魔法だけでは生命の維持機能が足りていないのだ。
 発動の直後は、分解されながらも残っていた魔法の断片を集めることで代用できたが、今はそれも完全に失われている。

 魔女が来なければ確実に死ぬ。
 すぐにでは無いが、流石に数週はもたないだろう。

 さらに言えば、魔法や魔具等の魔力を帯びた攻撃を一発喰らうだけでも魔法が乱れて死ぬ。
 今のヨコホリの耐久度は、そこらの虫と同程度まで落ちているのだ。
 
(//‰ ゚) 「その後、魔女からリアクションは?」
  _
( ゚∀゚) 「無い。また何か、碌でもない戯れに興じているらしい」

(//‰ ゚) 「カーッ!勘弁してほしいぜ。一度飽きた玩具にゃ興味ねえってか」

o川*゚ ,゚)o 「そんなことないんですけど。失礼しちゃうな」

(//‰ ゚)
  _
( ゚∀゚)

o川*゚ ,゚)o

(//‰ ゚)
  _
( ゚∀゚)

o川*゚ー゚)v 「ブイッ」

(//‰ ゚) 「………………………………………ッめえはホントによォ〜!!」

523 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:50:25 ID:ZWuj8HrY0

o川*゚ー゚)o 「何々??ホントに可愛いって??」
  _,
( ‐∀‐)

 ジョルジュは静かに眉間の皺を揉み解す。
 突如現れたその少女は、彼らの動揺も全く意に介さず小首を傾げて微笑んだ。
 絹のごとき艶やかな髪がさらりと揺れ、光の粒が宙を舞う。
 正体を知らなければ、知っていてなお不覚にも見惚れる美しさ。

 噂をすればなんとやら。
 ヨコホリをゴーレム化させた張本人、『魔女』の登場である。

o川*゚ー゚)o 「緊急だっていうから出来る限り急いできたのにさ、いきなり陰口なんて酷くない?」

(//‰ ゚) 「あのナ………………いや、いい。悪いのが俺でいいからさっさと直してくれ」

 ヨコホリがここまで大人しくなる光景など、滅多に見るものでは無い。
 不遜な口調は相変わらずではあるが、どこか緊張が感じられる。
 魔女もそれは御見通しといったところで、ヨコホリに向かって満面の笑みを見せた。

o川*゚ー゚)o 「はいは〜い、一度飽きた玩具(強調)を頑張ってなおしま〜す」

(//‰ ゚) 「…………ナガオカ、俺にも胃薬くれ」
  _
( ゚∀゚) 「断る。既に俺の分が足りなくなる可能性が濃厚だ」

o川*゚ ,゚)o 「本人目の前にして二人とも酷くない??????」

524 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:51:40 ID:ZWuj8HrY0

 唇を尖らせながらもヨコホリの修復に入った魔女。
 ヨコホリ内部の状態を診察して益々口を尖らせた。

o川*゚ ,゚)o 「……回路がズタボロどころか真っ白じゃん」

(//‰ ゚) 「大体お前のせいだろ」

o川*゚ ,゚)o 「えー?ヨコっちの自業自得でしょ?」

(//‰ ゚) 「チッ」

 魔女がヨコホリの体に浮かぶ魔法陣に手を翳した。
 所々出来ていた綻びが瞬く間に修繕されてゆく。

o川*゚ー゚)o 「どう?」

(//‰ ゚) 「……大分楽になった」

o川*゚ー゚)o 「うん、根幹はこのままこれを使えばいっかな。あとは……」

 魔法陣がくるりと回転し、ヨコホリの身体へと沈む。
 これだけでも相当楽になったのか、ヨコホリの表情が和らいだ。

o川*゚ー゚)o 「結構痛いと思うけど、がまんしてね☆」

(//‰ ゚) 「……チッ」

525 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:52:27 ID:ZWuj8HrY0

 魔女の姿が少女から妖艶な大人のそれへと成長した。
 伴って身に着けていた衣類も、ローブから背中の大きく開いたドレスに代わる。
 面影は残しているが、変化の瞬間を見逃せば同一人物だとは思えないだろう。

 魔女の周囲に濃密な魔力が渦巻き始めた。
 ジョルジュは危険を感じ壁際まで後退。
 魔力の奔流はさらに激しさを増し、ゴーストたちが慌てて室内から逃げてゆく。

o川* ー )o 「……………“――――――オープン”」

 魔女は光を灯らせた指をクルクルと回し、頭上に掲げる。
 その動きに呼応し、室内に溢れた魔力は、魔女の足元で魔法陣へと変貌した。
 巻き起こった突風がローブと髪を舞い上げ、光の粒子が弾けて舞う。
 
 見たことも無い様式の魔法陣だ。
 古典的な呪術に用いる梵の紋様と、現代的な幾何学模様を合わせたような図式。
 目を凝らせば、魔法陣を構成する線の一本一本もまた非常に細かな魔法陣の連なりであると分かる。
 並ならぬ緻密さ。この魔法陣に一体どれだけの魔法を生み出す機能があるのか、ジョルジュにはもうわからない。

o川*゚ー゚)o 「今回の反省を兼ねて、ちょっとパワーアップする?」

(//‰ ゚) 「……どうでもいいからさっさとしてくれ」

o川*゚ー゚)o 「そんなに怖がらないの。男の子でしょ?」

 魔女が地面に手を翳し、鍵盤を叩くかのように指を動かす。
 指が動いた数だけ魔法陣から小さな魔法陣が独立して浮き上がり、魔女の周囲に待機してゆく。

526 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:54:20 ID:ZWuj8HrY0

o川*゚ー゚)o 「よーし、準備オッケー!」

 ジョルジュが数えただけでも百を軽く超えた魔法陣。
 薄暗かった室内はそれらの放つ独特の反応光によって明るく満たされている。
 
 魔女は空間をかき混ぜるように、頭上で腕を一振り。
 かき混ぜられた魔法陣の群れは竜巻の如く回転し、瞬く間にヨコホリの胸の上に一列に重なった。
 横から見ていると、光る丸太を胸におしつけられているようだ。

o川*゚ー゚)o 「じゃ、行くよ」

(//‰ ゚) 「……おう」

 魔女が指を鳴らした。
 下部の魔法陣がくるりと回転し、ヨコホリに沈み込む。


 その瞬間ヨコホリの身体が跳ねた。
 叫びをあげ、体を捩らせようとする。
 魔女は変わらぬ涼しげな顔で手を翳し、目に見えぬ力でそれを制す。

(//‰ ) 「――――――――――――――ッッッ!!!!!!」

 そうしている間に次の魔法陣が回転、ヨコホリへ浸入。
 電流に似た煌めきが全身に波及し、耳障りな音が爆ぜる。
 一瞬落ち着いたかに見えたヨコホリが、再び断末魔のごとき雄叫びを上げた。
 人間のままの片目は大きく見開かれ、今にも眼球が飛び出しそうだ。

 どれほどの苦痛が駆け巡っているのか、はたから見ているだけでは想像がつかない。

527 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:55:55 ID:ZWuj8HrY0

 時間にして、一時間弱ほど。
 合間に少しの休憩を挟みつつ、ヨコホリの「修理」は一応終了した。
 後は安定化と誤差修正の作業のみであり、ヨコホリはそのために魔法の繭に包まれて眠っている。

 作業中とは打って変わって静かなものだ。
 ジョルジュもふっと息を吐き、壁に凭れかかる。
 大の男の、それも普段は飄々とする彼が錯乱し絶叫する様は見ていて気分が良いものでは無かった。

o川*゚ー゚)o 「ふー、ちょっとつかれたー」
  _
( ゚∀゚) 「…………ここまで、壮絶なものなのだな」

o川*゚ー゚)o 「んー?まあねー」

 人間部分、といっても何の手も加えられぬ人のままというわけでは無い。
 ゴーレムの部位を物理的にも魔法的にも支えるための著しい改造が必要となる。
 ヨコホリの場合は専用の魔法を定着させることによってその条件を満たしているのだが。

o川*゚ー゚)o 「魔法を生身の体に定着させる時ってさ「定着させたい魔法」と「定着させるための魔法」の二つが必要なのね」

o川*゚ー゚)o 「この「定着させるための魔法」が半端ないんだよね。
          その人間の「存在」そのものに介入して、本来異物である魔法と無理やり縫い付けるわけだから」

o川*゚ー゚)o 「正直ヨコっちレベルのタフさが無かったらショック死もんだよ」

 「ヨコっちでもこの有様だけど」とため息混じりに呟いて、魔女は椅子に凭れかかった。
 魔女はすっかり元の少女の姿に戻っている。
 小さな足をプラプラとさせる様子からは、魔法を行使した疲労よりも退屈さばかりが伝わってくる。

528 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:56:49 ID:ZWuj8HrY0

 少しして、魔法の繭がハラハラとほどけ、ヨコホリの姿が現れた。
 死人のように動かないが、肌の色などは幾分生気を取り戻している。
  _,
( ゚∀゚) 「……なんだ、これは」

 一応心配してヨコホリの顔を覗き、ジョルジュは眉をしかめた。
 鋼鉄の面を被せられたのとは逆の顔。
 生身のままのヨコホリの左目が、焦点を定めずにグリグリと動いている。

 とても意志をもっているようには見えない。
 時々瞳孔が眼窩の奥の方まで回転し、普段は隠れている血管や神経の束が目の端から覗いた。
 苦痛のあまりに狂った。先ほどまでの状況を見ていた者として、ジョルジュは即座にそう判断した。

o川*゚ー゚)o 「あ、大丈夫。脳にかけた魔法のせいで記憶が混乱してるのね。
        走馬灯とか、夢を見てるのと同じ状態だから、すぐに収まると思う」
  _
( ゚∀゚) 「走馬灯の時点でダメそうなのだが」

 魔女の言葉通り、目の暴走が止んでヨコホリが身を起こした。
 左手で頭を押さえ、どこかぼんやりとしている。
 が、少し様子を見る内に、口角が吊り上がり、引き攣るような笑いが漏れ始めた。

(//‰ ) 「グッ……グッグッグッ……なるほど、『しそ屋』ね……思い出したぜェ…………グッグッグっ……」
  _,
( ゚∀゚) 「……?」 

(//‰ ゚) 「グググググッ……コイツぁ面白れェ…………赤い糸ってのはこういう事なんだろうなァ」

529 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:58:01 ID:ZWuj8HrY0

(//‰ ゚) 「ああ、居たな、いたよ……あの時俺たちは、確かに小娘を一人見逃した」

(//‰ ) 「あの癖の入った金の髪…………言われてみりゃ、なるほど面影だらけだァ…………」

 惚けたような独り言。混じる笑い声は徐々に音量を増す。
 不審げに見つめるジョルジュや魔女のことなど完全に眼中にない。
 瞳孔の開き切った彼の眼に映っているのは、この場にはいない一人の少女。

(//‰ ) 「そうかそうか……そうだよなァ……、親殺されて、そのままのうのうと生きるなんてできねえやなァ」

 長く同じような毎日を過ごしているうちに埋没していた記憶。
 それでも残って居たのは、それなりに印象強い相手だったからだ。
 あの時に戦った炎を操る女の魔法使い。
 潰した店の名前など言われなければ思い出しもしなかったが、逃げ去った娘との間に立ちはだかる姿だけは覚えている。

 顔を手で覆っていたヨコホリは、笑いを収め、息を調えた。
 無表情のままではあるが、目に点った光は爛々と狂喜を溢れさせている。

(//‰ ゚) 「ナガオカ、これから暫く暇を寄越せ」
  _,
( ゚∀゚) 「…………なにをする気だ」

(//‰ ゚) 「なァに、ちょっとな」

 ベッドから立つヨコホリ。
 体をほぐす動きを見るに、もう問題は無い様だ。

(//‰ ゚) 「俺を殺すために人生奉げた女の『愛』に、応える準備をするだけよ」


      *   *   *

530 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 21:59:26 ID:ZWuj8HrY0

('A`) 『……暇だ』

(//^三ミ) (ぼくの方が暇だお)

('A`) 『俺なんて景色眺めることすらできないんだぞ』

(//^三ミ) (じゃあ代わる?)

('A`) 『代わりません』

 ィシとヨコホリの勝負が決してからまる二日。
 ブーン達はハインリッヒの診療所に居た。
 居た、と言えばまだ聞こえがいいが、その実情はほぼ軟禁に近い。
 ロクな治療魔法もかけて貰えないまま全身を包帯で固定されベッドに放置されている。

 以降は定時にハインリッヒが食事を口に詰め込んでいく以外、碌な行動がとられない。
 排泄ばかりは声をかければ連れて行って貰えるが、それだけだ。
 普段常に体を動かしているブーンにとってはこれが中々辛い。

从 ゚∀从 「ブーン飯だ、口開けろ」

 扉が開いて、食事の入った皿を持ったハインリッヒが入ってくる。
 ブーンは言われたままに口を大きく開く。
 これだけでも首や肩周りの筋肉が軋み、悲鳴を上げる。
 焼けるような痛みこそ治まったが、回復とは程遠い不便さだ。

531 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 22:01:40 ID:ZWuj8HrY0

从 ゚∀从 「ったく、いい加減にしてほしいもんだな。お前らの世話のために態々戻ってこにゃならん」

 文句を垂れながらも。ハインリッヒはブーンの口に食事を放り込んでゆく。
 炒った麦と野菜や豆、ひき肉等をごちゃ混ぜにした粥だ。
 見た目はまるで離乳食で、あまり食欲を誘うものではないが、口に入れてみるとこれが中々美味い。

 ハインリッヒが投下するままに粥を食い、すぐさま食事は終わった。
 胃はまだ足りないといっているが、ダメージと疲労を溜め込んだ体に食事の消化で更なる負担をかけるわけにもいかない。
 腹六分目。食い足りない分は、食事の回数を増やすことで補っている。

(//^三ミ) 「ツンはまだ?」

从 ゚∀从 「ああ、ピクリともしねえよ」

(//^三ミ) 「……」

从 ゚∀从 「まあ、心配すんな。疲労と脳への過負荷、そこに加えて魔力切れだからな。二日三日眠っててもおかしかねえ」

 ブーンは動く範囲で首を動かし、部屋の斜向かいにあるベッドを見た。
 カーテンで囲まれているため姿は見えないのだが、そこにはツンが寝かされている。
 心身ともに多く大きく傷ついた彼女は、あの決着の後に意識を失ってから以降一度も目を覚ましていない。
 ハインリッヒが診察した上での「心配すんな」なのだから大丈夫なのはわかっているのだが、やはり心配だ。

 あの時ブーン達は結果としては何もできなかったに等しい。
 その時はできうる限りの全力ではあったが、最終的にツンを一人で戦わせることになった。
 すべてはブーンの弱さと甘さによるものだ。

532 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 22:02:23 ID:ZWuj8HrY0

从 ゚∀从 「お前の方こそ、体の調子はどうだ」

(//^三ミ) 「じっとしていれば痛みは感じないお。ただ、動くと突っ張るっていうか」

从 ゚∀从 「そうか……」

 ハインリッヒが手を光らせてブーンの肩に触れる。
 触診の魔法だ。僅かにピリピリとするが特に何かをされている感覚は無い。

从 ゚∀从 「……相変わらずふざけた回復力だ。筋繊維の再生はかなり進んでるな」

(//^三ミ) 「これくらいならこんなもんだお」

从 ゚∀从 「……」

 ブーンの返事にハインリッヒが眉間に皺を寄せた。
 人差し指でしきりに揉み解しているが、よほど深く刻まれているようでなかなか消えない。
 まったくもって不憫だ。誰だだこんないい先生を困らせてる迷惑な患者は。

从 ゚∀从 「……まあ、これなら包帯はほどいてもいいだろ」

(//^三ミ) 「いいのかお?」

从 ゚∀从 「代りに自分の世話は自分でしろよ。流石に便所の世話までしてると俺が仕事にならん」

(//^三ミ) 「おっおっ!もちろんだお」

533 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 22:03:26 ID:ZWuj8HrY0

( ^ω^) 「ふー、やっと自由になれたおー……」

 包帯から解放され、ブーンは体を解す。
 少し動かしただけで引き攣る痛みが走るが、拘束されているよりはマシだ。
 ひとしきり上半身の可動域を確かめてからベッドを降りる。
 久々に自立した床は、ややグラつくような気がした。

从 ゚∀从 「動けそうか」

( ^ω^) 「……んー、まあただ普通に生活するくらいなら」

从 ゚∀从 「あの状態からすりゃ上等だ。俺は往診の残り行ってくるから、大人しくしてろよ」

( ^ω^) 「はいおー」

 手早く準備を終え出ていったハインリッヒを見送る。
 本当にブーンの世話をする為だけに戻ってきてくれたらしい。
 その親切を無駄にする気にもならず、ブーンは言いつけ通り大人しくしていることにした。
 こっそり鍛錬するつもりで居たのは秘密である。

 とはいえ、再生に伴って体が固まるのだけは避けなければならない。
 剣を扱う上で柔軟性は筋力と同じだけ重要だ。
 どれだけ強い力があっても、しなやかさが無ければ剣は死ぬ。

 筋肉に過剰な負荷をかけ無ければよいのだから、歩く程度ならば平気だ。
 そもそも現状のブーンで損傷がひどいのは上半身。
 下肢もそれなりにダメージを受けていたが、相対的にはマシであるし、現時点ではほとんど痛みも取れた。

534 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 22:04:18 ID:ZWuj8HrY0

 手始めにずっと気になっていたツンの様子を見にゆく。
 同じ部屋の反対側というだけで一苦労だ。
 歩くといっても使うのは下半身だけで無く、普通に行こうとすると上半身のそこかしこに激痛が走る。

 ひいこらひいこらいいながらやっとツンのベッドにたどり着いた。
 カーテンを少しだけ開け、頭を突っ込んで中を覗く。

( ;^ω^) 「…………これが心配するなな状況?」

(;'A`) 『治療魔法のオンパレードだな……』

 ベッドに寝かされていたツンの身体には、至る所に青白い魔法陣が浮かび上がっていた。
 特に多いのは頭。次が胸。あとは手や足の末端にもいくつかある。
 それぞれ紋様が違い、それぞれの役目が異なっているのだと、魔法に詳しくないブーンにも分かった。

( ;^ω^) 「寝てるだけには見えないんだけど」

(;'A`) 『まあ、大半は保護の魔法っぽいし、見た目の仰々しさほどヤバくはないと思うんだけど』

 つまりは、寝たままになっているツンの体が寝たままでことによってダメージを受けないための魔法なのだという。
 床ずれ防止や、血流の維持、代謝抑制等々、直接的にツンを再生するために用いられているものでは無い。
 ただし、頭部にかけられているのは、もっと複雑な再生補助の魔法式のようだが。

(;'A`) 『体の怪我よりも、呪具と真っ向勝負した後に魔力切れってのが良くなかったんだな』

( ;´ω`) 「も〜、僕よりも無茶なことするんだから……」

 肝心の本人は、実に穏やかな表情で眠っていた。
 顔色が悪いせいもあり、呼吸の細い音が聞こえなければ死んでいるようにも見える。

535 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 22:05:32 ID:ZWuj8HrY0

 クルクルと動く魔法陣を何となく見ていると、ツンに掛けられている薄手の布団がモソモソと動いた。
 体の隙間から顔を出したのは、獣のような毛を生やした蛇。
 ツンのペット(?)のニョロだ。
 ニョロはブーンを見つけると舌をチロチロと出して這い寄ってきた。

( ;^ω^) 「お、なんだお」

 やや戸惑うブーンに、ニョロは頭を摺りつける。
 甘えているようだ。
 主であるツンが動かないため彼も暇なのだろう。

( ;^ω^) 「……いっしょにいくかお?」

 人語を理解しているのか、ブーンの言葉にニョロは尻尾を振り回して応えた。
 恐る恐る伸ばした手に、するりとまきついて這い上る。
 むず痒い。それに、なんだか初めて見た頃よりも大分長くなっている気がする。

('A`) 『お前コイツ苦手なの?』

( ;^ω^) (なんちゅーか、キュートのキメラを連想する要素多くて。蛇だし魔法使うし)

(;'A`) 『おいおい、まさかキュートのキメラなんて言わねえよな』

( ;^ω^) (うーん……僕が初めて見た頃には、ほとんどツンの匂いしかしなくなってたからなんとも……)

(;'A`) 『………………めっちゃ懐いてんな』

( ;´ω`) (うん……くすぐったい……)

537 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 22:06:25 ID:ZWuj8HrY0

 初めての遊具でも見つけたかのようにブーンの体を這いまわるニョロをとりあえず放置し、ブーンは部屋を出た。
 一先ず目指すは調理場だ。
 水や食事は定期的に摂っていたが、大五郎(この場合焼酎の銘柄の意)はあまり口にできていなかった。
 特に何もしなければ少量の摂取でも問題ないとはいえ、やはり懐に入れておかないと落ち着かない。

 目的の大五郎は、簡単に見つかった。
 調理台の上に、どんと小樽が置かれている。
 ハインリッヒに金を渡して調達してくれと頼んでおいたのだが、まさかここまでのものを買ってくるとは。

( ^ω^) (リッヒの家にいる限り大五郎切れの心配はないおね)

('A`) 『リッヒもさ、既にここが俺らの拠点であることを受け入れてるよな』

( ^ω^) (うん。諦めって悲しいね)

 樽の側面に注ぎ口が突き刺さっていたので、栓を抜いて適当な器に酒を注ぐ。
 余り飲むと酔ってしまい、回復しきっていない体に響く。
 木製のカップを半分程満たしたところで栓を閉め、漏れが無いかを確かめた。

(*^ω^) (ん〜〜〜安酒とはいえ樽から直で飲むと気分が違うお〜〜〜)

 軽く口をつけ、唇を濡らす。
 冷たく、そして熱く。鼻に抜けてゆく匂いは、独特の透明感と甘さがあり、自然と喉が鳴った。
 すこし啜る。
 いつもの大五郎の色気の無い酒の味に、ほんのりと樽の香りが移って、中々悪くない。
 我慢できなくなって、そのまま一気に煽り飲む。

 ハインリッヒに飲ませてもらうとどうしても少量ずつになるので、この喉から胃へ向かって駆け下る酒の心地は久々だ。
 不味いが、美味い。
 舌で愛でるのではなく、喉にぶつけるように飲む楽しみはこういった安酒ならではだろう。

538 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 22:08:17 ID:ZWuj8HrY0


 大五郎を飲み干し上機嫌になったところで、ブーンはリビングの椅子からマントを取った。
 療養用の寝間着の上に羽織って外に出る。

 サロンの風は穏やかだ。
 二日とはいえベッドに縛り付けられていた身としては実に心地よい。
 少し歩いて家の前の柵に腰掛ける。

 空を小鳥が横切って行った。
 遠くから家畜の鳴き声が聞こえる。
 耳元を撫ぜる風。

 心をざわつかせる音も景色も一切ない。
 眺めているだけで気力が回復してくる、実に長閑なサロンらしい風景。
 数日前にあれだけ大規模な戦闘が行われたとは思えない。
 大五郎、根絶法双方ともに街への必要以上の被害を嫌ったお蔭なのだろう。

 なお、今は両軍勢も戦後の処理に追われ小競り合いすらも起こっていない。

( ^ω^) (……正直、大五郎が勝ったのは驚きだおね)

('A`) 『ああ、あの人数差だったもんな』

539 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 22:09:21 ID:ZWuj8HrY0

 ブーンたちは森に居たので具体的な戦況までは把握していない。
 だが、ハインリッヒ伝いに大五郎側が防衛に成功したというのは聞いている。
 あの圧倒的な人数差を凌ぎ、本社からの援軍到着まで耐えきったというのだ。

 敵の主力級であるニダーと剣を交えたブーンとしては意外以外の何でもない。
 サロンにいた兵士は、ブーンが見た限りでツンと同等かいくらか上回る程度が最高値。
 個々の戦力だけが勝敗の要因でないとはいえ、人数含め相当に不利だったのは間違いない。

( ^ω^) (指揮はあの支店長さんだったらしいけど……)

(;'A`) 『どうにもそんなタマにはなあ……別の誰かが代理で指揮とってたんじゃねーのか』

( ^ω^) (たぶんね。そもそも戦闘職種じゃないらしいし)

 兎に角大五郎サロン支店は現在も無事営業を続けている。
 サロンから離れずに大五郎を確保できるのはありがたい話だ。
 もし潰されていたとなると、また渡辺に連絡を取って配達してもらうなどしなければならなくなる。

 一体どんな策を弄してあの軍勢を退けたのかはわからないが、この際それはまあいいだろう。
 金さえあれば気軽に酒が口にできるというのは、ブーンたちにとっては安心できる環境だ。

540 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 22:10:02 ID:ZWuj8HrY0


 
 
 
        主人公たちからみたセント=ジョーンズ像

           (’e’) うわぁ〜〜〜〜〜〜〜



            実際のセント=ジョーンズ

           (’e’) うわぁ〜〜〜〜〜〜〜
 
 
 
.

541 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 22:11:10 ID:ZWuj8HrY0

 しばらくそよ風に吹かれて空を眺め、ブーンは柵から腰を上げた。
 軟禁で辟易していた気分は大分回復したし、自分の体の状態も大よそ把握できた。
 これ以上外にいて厄介なのに見つかる前に、部屋に戻ってゆっくり酌でもしようというものだ。

 確か地下の貯蔵室にチーズや干し肉があったはずだ。
 報告すればある程度自由にしていいと言われていたのでありがたくいただこう。
 ブーンはマントを翻して屋内へ戻る。

 大五郎を手ごろな瓶に注ぎ、地下に降りてチーズと干し肉を見つくろった。
 今の身体で瓶や食料を抱えて階段を上るのは少々しんどいが、部屋に戻ってからのお楽しみがあるので耐えられる。

 えっちらおっちらと部屋の前まで戻り、半端に空いていた扉を足で開けて中へ入った。

ξ )ξ

( ^ω^)

ξ )ξ

 入口のすぐ目の前の床で、ツンが倒れていた。

( ^ω^) 「ツンさーん??」

ξ )ξ

( ^ω^) 「死んでる????」

 返事がない。

542 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 22:16:06 ID:ZWuj8HrY0

 ブーンは空いていたベッドに抱えていたもの放るように置き、ツンに駆け寄る。
 抱き上げると、ぞっとするほど体が冷たく力が無い。
 首元からニョロが飛び出し、勢いよくツンの頬に頭を摺りつけたが、やはり反応は無かった。

 ツンのベッドを覆っていたカーテンが開いており、奥に見える布団は半分床に落ちている。
 恐らくは目を覚まして這いずってきたのだろう。

 ハインリッヒがツンにかけていた魔法の一つに、生命器官の働きのほとんどを魔法によって補助し、
 代わりに身体の活動をギリギリまで抑えることで回復効率を上げる物がある。
 つまりは絶対安静の寝たきりの人間の為の魔法。
 その中で無理に動いたものだから、実質の仮死状態に陥っていってしまっているのだ。

 心配げに頬ずりするニョロを服の中に押し戻し、ブーンはツンを抱き上げた。
 流石に人一人を持ち上げるほど回復はしておらず、全身が激痛に見舞われたが一先ず我慢。
 なんとかツンをベッドに寝せ、布団をかぶせる。

ξ )ξ 「う、ぅぅ……」

 一応生きていた。
 ツンが停止したことで魔法も再び効果を発揮している。
 とりあえずは大丈夫だろう。

( ^ω^) 「ツン、大丈夫かお?」

ξ 听)ξ 「…………ブーン」

543 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 22:17:21 ID:ZWuj8HrY0

ξ 听)ξ 「…………ここ。……リッヒの……?」

( ^ω^) 「そうだお。あの戦いの後、僕らここに運ばれたんだお」

ξ 听)ξ 「……………そう」

 ツンの眼が虚ろに天井を見る。
 もう少し取り乱すかもしれないと構えていたが、以外にも大人しい。
 意識がはっきりしていないのか、魔法のせいか。

 なんにせよ、あまりいい気分ではない。
 あの山でツンは意識を失うまで呪詛を吐き怒りを吠えていた。
 それからこの状態では、何かが切れてしまったのではないかと不安になる。

ξ 听)ξ 「…………ブーン、ドクオ」

( ^ω^) 「……お?」

ξ 听)ξ 「私の体が回復したら、私に剣と魔法を教えて」

( ^ω^) 「……」

ξ 听)ξ 「今の私じゃ、弱すぎる。こんなんじゃ、あの鉄クズ野郎を殺せない」

( ^ω^) 「……ツン?」

 もそりとツンの手が動き、自身の頭に触れた。
 そこには真新しい傷跡がある。ツンが自ら木の礫を突き刺した場所だ。

544 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 22:18:34 ID:ZWuj8HrY0

ξ 听)ξ 「………ィシさんが死んだとき、沢山の記憶が私の中に入ってきた」

ξ 听)ξ 「…………全部、分かったの。あの人が何をしたくて禁恨党を率いていたのか」

ξ 听)ξ 「…………何故、あんな呪具に頼ったのか」

ξ 听)ξ 「…………私が勝つべき相手が、誰なのか」

ξ )ξ 「……全部、全部わかったの」

( ^ω^) 「……」

ξ 听)ξ 「……あんたたちが、人に技を教えるとか、そういうのを嫌っているのはわかってる」

ξ 听)ξ 「……でも、私には必要なの。少しでも、僅かでも、今より強くならなくちゃいけないの」

( ^ω^) 「……」

ξ )ξ 「……だから、お願い。私に、力を貸して」



ξ )ξ 「あの男、ヨコホリ=エレキブランを、倒すために」


           *  *  *

545 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 22:20:06 ID:ZWuj8HrY0

( ;;;Фωφ) 「おがえりである、ギュード」

o川*゚ー゚)o 「ただいま、試作ちゃん。良い子にしてた?」

( ;;;Фωφ) 「うむ。わるいやづらいっばいきだがら、たおじた」

 ヨコホリの修復を終え、砦のある山に帰った魔女を出迎えたのは、二刀を持った一人の男。
 彼女が生み出し、「試作ちゃん」と呼ぶ限りなく人に近いキメラである。

 彼の足元には、複数の死体が転がっていた。
 原形を留めていないが全員武装している。
 恐らくは懸賞金や名声目当ての破落戸だろう。

 試作ちゃんの腕ならば、目を瞑ってでも勝てたに違いない。

( ;;;Фωφ) 「ごれ、どずる?」

川*゚ ,゚)o 「んー―――……あんまり優秀には見えないし、素材としては最低ランクかなー――……」
   b

 しばし死体を眺めて悩んだ結果、これらは破棄することにした。
 砦のスペースはまだいくらかゆとりがあるが、だからと言ってなんでもかんでも保管しておくわけにはいかない。
 人間の素材は先日のフタバの街で上質なものが集まったし、十分足りているのでなおさらだ。

 「えい」という掛け声と同時に、死体に火が灯る。
 流れる血にすら広がった赤い炎は瞬く間に数人分の死体をただの焦げ跡へと変貌させた。

546 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 22:21:38 ID:ZWuj8HrY0

o川*゚ ,゚)o 「あーあ、もう、こんなのばっかり。やんなっちゃう」

 わざと巷に自分の居場所を流して以来、現れるのは身の程知らずの雑魚ばかりだ。
 目的の子たちがすぐに来ないのは覚悟していたが、せめてもう少しまともな人に来てもらわなければ。
 手間ばかりかかって何の利にもならない。
 
o川*゚ ,゚)o 「いこ、試作ちゃん」

 ため息一つ、魔女は死体の跡へ背を向けた。
 砦へ戻って試作ちゃん二号の調整をしなければ。
 待ち人は来ずともやるべきことはいくらでもある。

 が、魔女の言葉に反し、試作ちゃんは麓の方へ視線を向けたまま動かない。
 鞘に納めようとしていた刀を再び引き抜き、構える。

( ;;;Фωφ) 「…………まだ、いる」

o川*゚ ,゚)o 「……?サーチには何もかからないけど……」

 魔女が訝しげに試作ちゃんの視線を追う。
 展開している広域探知の魔法に反応するのは獣の類のみ。
 それもどれも中型未満で、魔力の反応なども無い。
 試作ちゃんが刀を構えるほどの相手では無いはずだ。

 が、二人が目を向ける方向の空に、黒い点が複数見えた。
 鳥では無い。
 もっと巨大な何か。

 それが太く頑丈な丸太であると気づくころには、既に魔女の眼前まで迫り来ていた。

547 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 22:23:38 ID:ZWuj8HrY0

 魔女の前に試作ちゃんが躍り出て、飛来する丸太へ刀を振るう。

 鈍い金属音。
 試作ちゃんの斬撃は丸太の軌道を横へ流す。
 魔女を逸れた丸太は地面に激しく衝突し、砕け散りながら跳ね飛んでゆく。

 残りの数本も同じく難なくいなす。
 重く硬い丸太を受けておきながら、試作ちゃんの刀には刃こぼれ一つない。

o川*゚ー゚)o 「…………びっくりした」

( ;;;Фωφ) 「うむ」

o川*゚ー゚)o 「ありがとね試作ちゃん。あんなの当たったら死んじゃうとこだった」

( ;;;Фωφ) 「うそ」

o川*^ー^)o 「ふふふ」

 言葉で危機感を匂わせながらも、魔女は笑顔であった。

 砕けた丸太の一片を拾い、眼前へ。
 これ自体は何の変哲もないただの木だ。
 恐らくは麓のあたりで伐採されたまま放置されていたものだろう。

 ただし、木片は指で軽く潰すと水が滲むほどたっぷりと濡れている。
 僅かな魔力も感じ取れた。
 恐らくは水の魔法を用いてこの丸太を発射、魔女を狙撃したのだ。

548 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 22:26:34 ID:ZWuj8HrY0

o川*゚ー゚)o (丸太があった場所を考えると……距離は1km弱ってとこかな?)

o川*゚ー゚)o (これだけ重いものを飛ばすことが出来る水魔法の使い手ってなると、限られてくるよねぇ)

 丸太の飛来した方向に、再び何かの影が見えた。
 今度は物を撃ち出したのではなく魔法そのものだ。
 溝色に濁った水の大蛇が、空を泳ぐが如く高速で迫る。

 刀を構え、試作ちゃんが再び前へ。
 確かに試作ちゃんならば魔法の攻撃も捌くが出来るだろう。
 しかしそれはあくまで中級程度までの話。
 さらに言えば物理的な破壊力に重きを置いたものに限る。

 故に、この魔法は試作ちゃんでは防ぎきれない。

o川*゚ー゚)o 「ほいさー!」

 試作ちゃんを襟首を掴んで引っ張り、障壁を張る。
 同時に魔法の蛇が襲来。防壁との衝突の寸前に爆音と共に炸裂した。

 白い水煙が視界を覆い、硬質化した水の刃が周囲へ飛び散る。
 水を変異させた強力な溶解毒だ。
 魔力の障壁は問題なく魔法を防いでいるが、周囲の地面はみるみるケロイド状に変化していく。
 真面にこの雨を浴びれば骨すら残らず、地面を流れるヘドロになっていたことだろう。

549 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 22:29:16 ID:ZWuj8HrY0

o川*゚ー゚)o 「おっ返しぃ!☆」

 溶解毒の魔法をやり過ごしきったと共に、魔女は腕を振るった。
 電光に似た魔力の閃が天に走り、巨大な火炎の礫を複数出現させる。

 小さな町ならば一つで十分火の海にすることが可能な爆破魔法。
 それが、数にして13。
 これら炸裂すれば、地上の周囲数kmは蒸発を約束された灼熱と化すだろう。

 対して。下方から強い魔法の輝きが爆ぜる。
 爆破魔法と同数の水魔法の槍が、それぞれの中心を打ち貫いた。

 相対する魔法の邂逅。
 真っ先に閃光が目を焼き、天地を揺るがす轟音が次いで鼓膜をしびれさせる。
 吐き出された紅蓮の熱は次々に隆起し膨張し、青い空を暁の色に染めた。

( ;;;Фωφ) 「む?」

 炎は、麓の一帯を覆いつくしている。
 が。地表にまでは届かず、上空で煮えたぎっているばかりだ。
 見れば、爆破の範囲よりも広く、濃密な霧が地表を覆い尽くしている。
 これが、火炎の侵攻を妨げている。

 防御魔法の一種だ。
 正面から受け止めるのではなく、柔軟性を活かし力を逸らすタイプ。
 直撃であれば破ることが出来たはずだが、先に炸裂させられたため力が足りなくなったらしい。
 
 ついつい、口元が吊り上がる。
 ここまで本気で力を高めてきた彼らに失礼なのだけれど、その有能さに心が震えて仕方がない。
 魔法が発動してから、数秒程度の間に適切な対応。
 単に魔法の能力が高いだけの人間では、魔女の攻撃は防げない

550 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 22:32:40 ID:ZWuj8HrY0

o川*゚ー゚)o 「……さ、今の攻撃の意味は伝わったよね」

 魔女が再度腕を振ると、未だ残っていた爆炎が、何かに吸い込まれたかのように収束する。
 入れ代りに、高濃度の魔力を全力で垂れ流した。
 ちょっとしたフェイクだ。探知魔法越しでは、強大な魔法を準備していると判断するだろう。

o川*゚ー゚)o 「いつまでもそんなとこに居ると、周り全部巻き込んで消しちゃうぞ☆」

 過激な矢文の返事は、すぐに届いた。
 俄かに頭上を覆うどす黒い雲。
 魔法による天候操作だが、ただの雨招きなどでは無い。

 落ちてきた一つ目の雨粒が、空を見上げていた魔女のローブの裾を裂く。
 地面とぶつかる音は、水では無く金属のそれ。
 ちらりと視線を向けると、固体化した水の刃が地面に突き刺さっている。

 二つ目から次は、滝のような土砂降りであった。
 刃の雨が視界を白に染め、けたたましい激音が聴覚を埋め尽くす。

 即座に発動した障壁によって魔女と試作ちゃんは守られているが、魔法の傘はすぐに穴だらけになってゆく。
 数度に渡って張りなおすことで凌ぎ切り、魔女はボロボロの障壁を破棄した。

o川*゚ー゚)o 「あくまで狙撃戦する気……?」

( ;;;Фωφ) 「ギュード!!」

 敵の座標を探り、反撃を打とうとした魔女の背後。
 地面に刺さったままであった水の刃の群れが液体に戻り、蔦の形状を取って発射された。
 試作ちゃんが即座に切り払ったが、次々放たれる蔦に手数が追いつかず、魔女は四肢と胴を拘束される

 煩わしげに振り払おうとした魔女の眼前。
 一体いつの間に接近していたのか、二人の人影が襲来する。

 ローブを羽織り、フードは目深で顔は見えない。
 それぞれに意匠の異なる剣を持ち、線対象に構えながら魔女へ突進する。
 長距離を飛行してきた勢いのまま、交叉させる形で魔女の首に刃を叩き付けた。

551 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 22:35:06 ID:ZWuj8HrY0

 残響。

 火花が散り、金属の飛沫が爆ぜる
 瞬時に割って入った試作ちゃんの二刀が、双斬を防ぎ弾いた。
 
 二人組は斬りつけたまま脇を抜け、濡れた地面を滑り、手を着いて向き直りながら停止する。
 一切の間を置かず、片方がもう一方に剣を投げ渡し魔法式の組み立てを開始。
 両手に剣を持った方は、数歩濡れた地面で足を空回りさせつつも、獣の如く駆けだす。

 魔女は水の拘束を全て蒸発させ解除。
 迫る双剣持ちに、手を翳す。
 無色透明、魔力反応も無い、波動の砲撃を二発。
 上半身を木端微塵にするつもりだったが、突如現れた水の壁が蒸発しながらも直撃を妨げる。

 白い水煙をぬけ、剣士が跳躍。
 腕を交叉し、柄尻を胸に押し当てた体勢で、双刃を魔女に。
 十分な勢い。

 対応は髪の毛数本分遅れる。
 そう判断した魔女は、防御でなく攻撃の魔法を選択した。
 彼女が捨てた守りは、二刀閃かす試作ちゃんが肩代わりする。

( ;;;Фωφ) 「“二刃一瘡”!!」

 試作ちゃんの振るう、連なる二つの斬撃。
 飛び掛かっていた双剣の男は、空中でありえない制動をし、急に後退した。
 惜しい。今の謎機動が無ければ、試作ちゃんの刃は男の胴を割っていただろう。

 自身戸惑う挙動にバランスを崩した男。
 魔女は彼に対し魔法を発動する。
 拳大の衝撃波を、自分で数えるのも面倒なほど多量に放つ。

 今度こそ捕らえた。
 その確信を砕くように、もう一方の男が、杖を構えて前に出る。

552 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 22:37:08 ID:ZWuj8HrY0

 周囲の水が瞬く間に杖の男の背後に集約する。
 そこからさらに蛸や烏賊の足のように形を与えられた水の刃が、的確に衝撃波を迎え撃った。
 
 水が爆ぜ、白い霧が視界を荒々しく隠す。
 百にも及ぶ魔女の攻撃を、霧と轟音に分解してやり過ごした男は、涼しげな顔のまま、小さく息を吐いた。

 攻撃の余波で、二人ともフードが外れている。
 表情の違う、同じ顔。

( ´_ゝ`)

 剣の方は、静かながらも激情の覗く目元。

(´<_` )

 杖の方は、反面感情を漏らさぬ冷たいほどの無表情。

 魔女は、追撃を放つことなく、笑った。
 口を三日月にし、唇の裏に舌を滑らせる


 サスガ兄弟。

 ただの人間の領域で言えば最高クラスの魔法使いにして剣士。
 魔女に「苦戦した」と思わせた数少ない真人間夫婦の息子たち。
 退屈な魔女の人生における、貴重で希少で良質な余興。

 素の性能でも及第点の彼らが、万全以上とも言える準備をしてやってきた。
 さまざまな目的を失念しそうな程、魔女の心は滾っている。

553 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 22:39:25 ID:ZWuj8HrY0

(´<_` ) 「……貴様のことだからどうせ来ることは知っていたのだろうから余計な前置きはいらないはずだ。だから一つだけ聞いておく」

( ´_ゝ`) 「オトジャ、殺せばいいだけの話だ」

(´<_` ) 「……妹の手足はどこだ」

o川*゚ー゚)o 「ああ、イモっちゃんの?それならちゃんと大切に保管してるよ」

 魔女が指を鳴らす。
 すると、虚空に小さな子供の手足が、綺麗に揃えられた状態で現れた。
 滞空するその四肢は、淡い魔力のベールに包み込まれている。

o川*^ー^)o 「ちゃんと、胴体に合わせて成長させてあるから安心してね」

( ´_ゝ`) 「…………」

o川*゚ー゚)o 「この手足に見合う他の素材が中々見つからなくて。いっそイモっちゃんの身体全部使えば早…………」

 魔女の言葉を切ったのは、サスガ兄弟の兄、アニジャ=サスガの投げつけた剣だった。
 試作ちゃんが受け流し、回転しながら地面を滑ってゆく。

(´<_` ) 「抑えろ、兄者」

( ´_ゝ`) 「……わかってる」

 アニジャ本人はその場にとどまってはいるが今にも飛び掛かって来そうだ。
 そこまで体を震わせながらも堪えているのは、憤怒の情を爆発させたところで倒せる相手でないと理解しているからだろう。

554 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 22:40:43 ID:ZWuj8HrY0

o川*゚ー゚)o 「…………これね、実は存在概念的には胴体とつながったままなの。
        私の魔法で無理やり切り離した状態に誤魔化しているから、こうして別々の場所にあるけれど、ね」

 魔女が見せびらかすようにイモっちゃんの四肢をクルクルと回した。
 付け根、本来胴と繋がっていた断面には綺麗に皮膚が張り、その表面には掘り込みの魔法陣。
 今、故郷の町で寝たきりの生活をしている胴体の方にも似た魔法をかけてある。

o川*゚ー゚)o 「だから、私を倒して魔法の効力が切れれば、勝手に元に戻るわ」

 現物を見せたところで、魔女は手足を元の保管場所へ転送。その場から避難させた。

o川*゚ー゚)o 「シンプルでいいでしょ?イモっちゃんの手足を気にして、半端なことなんてしなくていいからね」

( ´_ゝ`)

(´<_` )

o川*゚ー゚)o 「と、いうわけで☆」

 魔女の姿が、大人の妖艶な肢体へ変化。
 今回はいつものドレスの上に、金糸で装飾を施された漆黒の法衣を羽織纏う。

o川*゚ー゚)o 「二人の気兼ねもちゃんと解消したし☆」

( ´_ゝ`)

(´<_` )

o川*^ー^)o 「あらゆる卑劣、あらゆる姑息、惜しまず使ってかかっておいで―――」

555 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 22:43:22 ID:ZWuj8HrY0
 
 
 
 
              o川* ー )o 「―――かわいいかわいい、ぼうやたち」
 
 
 
 
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556 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/11/03(月) 22:44:05 ID:ZWuj8HrY0























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