( ^ω^)剣と魔法と大五郎のようです

二十二話

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176 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/10/27(日) 21:40:31 ID:/XGun1gI0
  *  *  *

 まどろみの中に似ていた。
 意識の動きは鈍く停滞しているが、不思議と不快では無い。
 体の中に渦巻く、自身もよくわからぬ感情は、いつの間にか五歩ほど離れた場所にある。

 実に、穏やかな心地であった。
 もうよいのだと、優しい誰かに体を抱かれているようだ。

 それが母親であるのか、愛した男であるのか、それとも命を預け合った友であるのか。
 見当もつかないが、しかし。
 あまりに心地よく、穏やかで、体の芯が溶けてしまいそうだということは、間違いない。

 怖い。

 手を伸ばし、切り離された感情の坩堝に触れる。
 電流であり、炎であり、刃のようでも、毒のようでもあった。
 ただひたすらに、痛い。苦しい。そして、重たい。

 ああ、だけれど。

 無くしてはいけないはずの物なのだ。
 これは。

 人生の内のいくらかを、これらと共に生きた。
 幸福とは程遠い時間であったがそれでも、自身の、成した、残した、大切なもの。

 記憶がめぐる。
 これを走馬灯と呼ぶのだろうと、自嘲気味に笑った。

  *  *  *

177 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/10/27(日) 21:43:02 ID:/XGun1gI0

ξ;゚听)ξ 「…………はぁ。クッソ」

 ロミスに捕まり、どれだけの時間を消耗したか。
 魔力は特に使わなかったが、体力を多きく失ったように思う。
 その内訳は、主に精神的なもの。

£凄惨) 「………………聞いていた以上の…………強さ……」

ξ;゚听)ξ 「なんで、気絶しないのよ……」

£凄惨) 「…………我がしつこさは永久に不滅」

ξ;゚听)ξ 「結界も消える気配が無いし、クソッ」

£凄惨) 「…………一つ、教えよう」

ξ;゚听)ξ 「何よ」

£凄惨) 「…………この結界…………我がものでは無い…………」

ξ゚听)ξ 「は?」

£凄惨) 「…………我は発動の合図を送っただけ…………我を伸しても障壁は消えん」

ξ゚听)ξ

 ツンは殺す勢いの蹴りをロミスに叩き込んだ。

178 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/10/27(日) 21:45:02 ID:/XGun1gI0

ξ#゚听)ξ 「なんじゃそりゃぁ!!」

£壊滅) 「…………我が役目は…………障壁の破壊の…………妨害」

ξ#゚听)ξ 「くっそぁ……はめられた!」

£壊滅) 「…………だから…………肋骨三本目折れたあたりで…………いっそ死にたかった」

 緊張が解けたのか、本当の限界を迎えたのか、ロミスが地に伏した。
 言葉の通り、障壁が消えることは無い。
 これだけの強度の障壁、なんの補助も無しに発動しているとは思わなかったが、
 まさかまったく関与していないとも思わなかった。

ξ;゚听)ξ 「ってことは本物の術者は外か……くそ、結局自力で何とか壊すしかないや」

 もう少し早くわかっていればロミスを放置して取りかかっていたのだが、仕方がない。
 こうなればもう天叢雲を使うしかないだろう。
 避けたい手法だったが、このまま手間取って他の足止めが現れても厄介だ。

 幸い、ツンの監禁が続いているという事実が、まだ全てのことが済んでいないという証明になっている。
 ヨコホリが同じ場所にいるかはともかく、早くここを出て味方の援護に向かわねばならない

179 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/10/27(日) 21:47:52 ID:/XGun1gI0

ξ;゚听)ξ (なるべく、小さく、素早く、無駄なく)

 言い聞かせながら魔法式を展開。
 相変わらず複雑で面倒な式だ。
 散々ロミスにかき乱され集中を欠いているため、組み立てには少々難儀する。

ξ;゚听)ξ 「“こい―――天叢雲!!”」

 障壁の隙間から雲が侵入し、掌に剣が生み出される。
 ツンは即座に剣を振り、障壁を自分が通れる程度まで切り裂いた。
 再生を防ぐため切った部分を蹴り飛ばし、すぐさま外へ。

 そこへ来てやっと、天叢雲を解除する。

ξ;゚听)ξ 「クソ、これしか使ってないのに、やっぱり結構持ってかれた……」

 魔力は戦闘で消費した分も含めて半分ほどまで減っている。
 おまけにブーツの魔法もストックを二つ使ってしまい残り一回。
 ヨコホリや、その他の手練れを相手にするとなると少々心もとない。

ξ;゚听)ξ 「今のうち、一つだけでも装填しておこう」

 周囲に敵の姿が無いことを把握。
 ツンが脱出した時点では数人の気配があったが、既に逃げたようだ。
 十分に時間は稼がれたということか。元から戦闘向きの配置では無かったのか。

180 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/10/27(日) 21:49:56 ID:/XGun1gI0

ξ;゚听)ξ 「……?!」

 ブーツに魔法式を組み込んでいるその最中。
 突然に腹を揺すぶられるような轟音が響いた。
 地鳴りの類とは違う、地面の震るえる感情を持った音。

 それが獣の咆哮らしいことに気づいたのは、二度目が聞こえた時だった。

ξ;゚听)ξ (何が起きてんの?)

 響いてきたのは、それだけではない。
 禍々しい魔力の波動。
 攻撃魔法の類ではなく、何か別の、もっと複雑な魔法による余波であることだけがわかる。

 魔法の感性が零の者ですら何かしらを感じ取りそうな濃厚な魔力だ。
 肌に触れているだけで、不安に胸をくすぐられる。

ξ;゚听)ξ 「“――――韋駄天招”!!」

 タリズマンへ魔法式の組み込みを手早く終え、立ち上がる。
 禍々しい魔力の根源は、恐らくヨコホリがいたはずの方向だ。
 濃度のせいでかなりわかりにくいが、恐らく間違いないだろう。

ξ;゚听)ξ「なんだ、なんでこんなに嫌な予感がするの」

 ナイフを持ったまま、ツンは走り出す。
 木々をすり抜け、枯れ枝を踏み抜き、山を駆け上った。

181 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/10/27(日) 21:51:58 ID:/XGun1gI0

 再度、咆哮が聞こえた。
 それに伴い戦闘を行っているようなノイズと、怒鳴るような人の声も聞こえる。

 もうすぐたどり着くというところで、視界に見えていた木の一本が弾け飛んだ。
 幹を粉砕され、支えを失った上部が少し浮遊して地面に突き刺さる。
 周囲にあったもう一本の木が、寄りかかられて軋みを立てた。

ξ;゚听)ξ 「何が起きてるっての?」

 ただならぬ殺気というか、危険な臭いを感じペースを落とす。
 太い幹を盾にしながら、それでもできうる限り間を置かずに接近を試みた。
 念のため、ニョロに魔法を展開させる。

ξ;゚听)ξ 「―――なによ、これ」

 辿り着いた、その現場。
 初めに目に飛び込んだ光景に、ツンは一瞬凍り付いた。

 そこにいたのは、人の形を模した巨大な猪、のような何かだった。
 前に伸びた長い鼻と、大きく裂けた口。
 頬の際から延びているのは、これまた木製と思しき立派な牙だ。

 体表は木で覆われているが、まるで皮膚かのような柔軟性を持って動いている。
 上半身は頑強と剛力を思わせる隆々しさ。
 下半身は上半身に対してやや心もとないものの、やはり膂力の高さを思わせる、引き締まった筋肉の線が見える。

183 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/10/27(日) 21:53:45 ID:/XGun1gI0

ξ;゚听)ξ

 似たような者を、何度か見た。
 見た目では無く、本質的な存在が似通っている者を、だ。

 一つ目は巨大な狼の体に蛇を生やした異形。
 二つ目は海獣の下半身を持った大山犬。

 そして、恐らく。これも同系列の存在。
 魔女だ。魔女がらみの何かだ。
 そうであれば、この吐き気を催す薄気味悪い魔力にも納得できる。

(//‰ ゚) 「ォオ?!ディレートリィィ!!よく来たなァ!!」

ξ゚听)ξ 「ニョロ!」

(//‰ ) 「グェッ」

 反射的にニョロに魔法を放たせた。
 声をかけてきた男、ヨコホリ=エレキブランは顔面に直撃を受けて大きく仰け反る。
 どうにも様子がおかしい。
 今までならば躱されるか、弾かれるか、当たってもロクに効果が無かったはずだ。

(//‰ ゚) 「……ディレェェトリィィ、可愛がってやりってェがァ、今はそれどころじゃねえンだ」

 体を後ろに九十度のけぞらせたままヨコホリが魔法を放った。
 手のひらを飛び出した空弾が、迫っていた木片を破壊する。
 壊しきれなかった最後の一つは起き上がると同時に腕で弾き飛ばした。

184 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/10/27(日) 21:55:18 ID:/XGun1gI0

 状況の把握を優先し周囲に素早く目を走らせる。
 ヨコホリの他に立っているのは、皆根絶法関連の人間ばかりだ。
 武器を構え、切迫しているところを見るに猪の化け物と友好的な関係では無いらしい。

 ツンが周囲をうかがっている間にも、一人の兵士が頭を穿たれて吹き飛んだ。
 無骨な木の槍が頭蓋を貫き、衝撃に吹き飛ばされ木に叩き付けられる。
 即死だろう。びくびくと痙攣するだけでまともに動く気配はない。

ξ;゚听)ξ 「……!ミンクス?!」

 吹き飛ばされた死体の傍に、見慣れた顔を見つける。
 ミンクスだ。倒れているので気付かなかった。
 見ると、肩口から斜めに刀傷を負っている。

 一見して致命傷のようだが、辛うじて生きている気配があった。
 ツンは応急処置の魔法を展開しながら、彼のもとへ走る。

イ(゚、ナリ从 「!新手……!」

爪;'ー`) 「放っておきなさいイナリ。それよりも今は」

イ(゚、ナリ从 「チィッ」

 猪は方向と共に体の各部から木片を飛ばし続けている。
 当たれば即死が約束されていることは先ほど見た。
 ツンは足元を抉り飛ばした一撃を飛んでやり過ごし、着地の勢いのまま転がってミンクスにたどり着く。

185 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/10/27(日) 21:57:15 ID:/XGun1gI0

ξ;゚听)ξ 「ミンクス!ミンクス!ちょっと!」

ミ´ w ン 「ディレー……トリ……?」

ξ;゚听)ξ 「なんつー傷……!“痛いの痛いの、飛んでけー”!!」

 大きく深い傷に、応急処置の魔法を施し出血を抑える。
 既に大量の血が流出しているのは明らかで、まだ意識があるのが不思議なくらいだ。
 裂傷が内臓に届いていなかったのは幸いだが、このままではどちらにせよ死ぬ。

ξ;゚听)ξ 「クソ!なにがどうなってんの!!」

 再度見渡せば、倒れている者の約半数は禁恨党のメンツだった。
 猪の傍には、シーンの姿もある。
 全員意識を失うなり死ぬなりしているらしく、この騒ぎの中ピクリとも動かない。

ξ;゚听)ξ 「……ッ、ィシさん、ィシさんは?」

 柄の折れたハルベルトの刃が転がっているだけでどこにもィシの姿が無い。
 逃げたか、あるいは既に殺されて遠くに吹き飛ばされたのか。
 前者は恐らく無い。後者については、あり得るが、望む結果とは異なる。

186 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/10/27(日) 21:58:49 ID:/XGun1gI0

 猪の攻撃は未だ続いていた。
 眼中に無いのかツンの元には飛来しないが、ヨコホリと激しい打ち合いの応酬を行っている。
 どちらも、生命の常識を超えていた。

 ヨコホリは襲い来る木片の砲弾を的確に迎撃し、僅かな隙に反撃を撃ちこむ。
 猪の方は回避や防御は一切行わず、ただひたすらに攻撃を続ける。
 攻撃を受けて破損した体はすぐさま再生し、被害があるようには見えない。

 逆さ男、フォックス、イナリその他も援護を行っているが、ほぼ無意味。
 ヨコホリよりも頻度は少ないが攻撃に曝され、回避で手いっぱいといった様子だ。

ミ´ w ン 「ディレー……トリ……とめ……てくれ……」

ξ;゚听)ξ 「わかったから、喋んないで!止まるものも止まらないわ!」

 流れ弾への警戒をしながら、ミンクスの傷に応急処置の魔法を重ねがけし、何とか出血を止めた。
 これで、失血による死亡はかなり遅らせられるはずだ。
 あとは、魔法の効果があるうちに血をぶち込んで傷を塞ぐことさえ出来れば。

 咆哮が響く。
 特に傷を負っていないツンですら、皮膚がビリビリと震えた。
 ミンクスが呻くと同時に、じんわりと血が滲み出る。

ξ;゚听)ξ 「とりあえず、安全なところに……」

 魔法の応急処置は脆い。
 大きな衝撃を与えれば、すぐに出血は再開してしまうだろう。
 ツン一人の力で遠くへ運ぶのはいくらか無理があった。

187 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/10/27(日) 21:59:39 ID:/XGun1gI0

 いつ猪の意識がこちらへ向くかという不安と焦りが、ツンの集中を欠けさせる。
 ミンクスを運ぶこともできず、ただ少し離れたところへ引きずるしかできない。
 それだけで出血は再開し苦しげな息が胸を上下させた。

ξ;゚听)ξ 「……くそ、リッヒのところまで運ぶなんて、到底無理だ」

 三度の応急処置の魔法。
 痛みどめとしての効果で、何とか体力の消耗を抑えなければ。

 背後で戦闘の残響が幾度となく響く。
 戦況がどちら有利なのか、ツンには分からない。
 そういった感覚で推し量れる状況を逸脱しているというべきか。

 もし仮に、あの猪のような何かが、蛇頭や怪獣のキメラ並みの不死性を誇るとしたら。
 あくまで人間である根絶法指示勢には苦しい相手だろう。
 ヨコホリ自体も化け物染みてはいるが、この場だけを見ればはるかに人間らしい。

ミ´ w ン 「止め、てくれ」

ξ;゚听)ξ 「大丈夫、血はもう止まったから、とにかく安静に……」

ミ´ w ン 「……違…う……あね……さんを、とめて、くれ」

ξ;゚听)ξ 「ィシさんを?」

188 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/10/27(日) 22:01:34 ID:/XGun1gI0

 ィシさんなんて、どこに。

 そう聞き返そうとしたツンの脳みそが、急速に回転を速める。
 折れたハルベルトの先端があったことを見るに、ィシがこの場にいたことは間違いない。
 禁恨党のメンバーが勢ぞろいしている状況を見ても、確定していいだろう。

 なら、彼女はどこにいる。
 逃げたのか?あの人が、仲間を置いて?
 死んだのか?死体が残らないほど粉砕されて?


 そして、この場において、最も重要で、最も不確定な存在の猪。
 こいつは、なぜここにいる?

 最近は人外と遭遇する確率が異常に高かったため、それほど深く考えなかった。
 どうせ魔女がまた、適当な理由で置いて行ったのだろうとしか思わなかった。
 ツンやミンクスに攻撃が来ないのも、敵意の無いものには興味が無いとか、そんなところだろうと。

 ならなぜ。
 無遠慮に周囲に木槍をばら撒いておきながら、禁恨党の党員は、誰一人その一撃を受けていないのか。
 同じく死体になっていた敵側の兵士は、既に数発の流れ弾を受け、酷く損壊しているというのに。

 なぜ、禁恨党員だけを避けて、攻撃をしているのか。

189 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/10/27(日) 22:04:27 ID:/XGun1gI0

ξ;゚听)ξ (いや、まさか)

 禁酒党の兵士が、胸を穿たれて絶命する。
 これでの残るは、主要戦力の四人だけとなった。

 猪が、木片による掃討攻撃を辞めた。
 周囲の木々は悉く破壊され、森の中に猪を中心とした広場が出来上がっている。
 足元の不安定さをどうにかすれば戦闘を行うに十分な領域であった。

ξ;゚听)ξ (そんなわけ、無い)

 猪が離れた場所のハルベルトを見た。
 折れた斧刃に地面から伸びた木が絡みつき、そのまま飲み込んでゆく。
 最終的には、斧刃の柄が修復され、元よりはいくらか歪んだハルベルトが現れた。

 猪は、迷いなくそれを手に取る。
 巨体には少々小さいが、扱いは手馴れていた。
 
ξ;゚听)ξ (……違う)

 猪が中途半端に体から延びた木の根を引き千切り、ヨコホリへ猪突猛進する。
 見たことがある形だ。
 何度か救われた力だ。

 だが、あまりにも、違いすぎる。

190 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/10/27(日) 22:06:29 ID:/XGun1gI0

(//‰ ゚) 「チィィッ!!」

 上半身に比重のあるバランスの悪い体系であるにも関わらず、猪の動きは軽快だった。
 一歩で間合いを詰め、もう一歩でハルベルトを振りかぶる。
 ヨコホリが放った魔法を受け、少し動きが鈍ったが、それも一時的なもの。

 次の瞬間には、ハルベルトの斧刃が、ヨコホリの体を薙ぎ払っていた。

(//‰ ゚) 「グゥッ!」

 耳に痛い金属音。鼓膜を突き抜け、脳を直接痺れさせる。
 ヨコホリは、大きく吹き飛ばされていた。
 斬撃自体はガードを間に合わせたが、あまりの衝撃に足が地面を失う。

 低い姿勢で着地したそこへ、猪の追撃。
 振り切ったハルベルトをそのまま強引に、今度は逆に向かって叩き付ける。
 これまた右腕で受けるヨコホリだが、あまりの力差に耐えられず地面を転がった。

(//‰ ゚) 「クソが、厄介なババアだ……」

〈;;(。个。)〉 「!」

 ヨコホリに意識を集中していた猪の首に逆さ男が飛び掛かる。
 体を軸に回転、遠心力と体重を乗せた蹴りで、その巨大な頭を蹴り抜いた。

 重い音が爆発のように響き渡る。
 山が震え木々が葉を落とし、しかし猪の巨体は揺るがない。

191 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/10/27(日) 22:08:31 ID:/XGun1gI0

 逆さ男の着地際を狙い、腕を振るう。
 これを、脚甲の足の裏で受け、器用に跳躍し勢いを殺す逆さ男。
 再び着地すると、耐えかねて膝を折った。

 並であれば死んでいておかしくは無い。
 あの程度で抑えたのはさすがというべきか。

ξ;゚听)ξ (……)

 ツンは、今までに戦った二頭のキメラを思い出す。
 どちらも、今目の前にいる猪と同じく、強大な力を持ち、人間であるツンたちを圧倒した。

 しかし、目の前にいるこれは、彼らとは決定的な違いがある。
 この猪型の化け物は、「技」を持ってるのだ。
 目標に対し持っている力をぶつけるだけだったキメラたちには無かった「戦闘の経験」というべきか。

 武器を扱っているのがその証拠。
 ハルベルトは数種の型を持つ多機能の武器ではあるが、その分扱いは難しい。
 ただ力のある者が使っただけでは、刃を合わせることすらロクに出来ないだろう。

 それを、この獣は。
 的確にヨコホリの急所を狙い、刃を合わせ、その膂力を余すことなく振るっている。

241 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/11/05(火) 23:14:43 ID:PhBfEpp.0

(//‰ ゚) 「ったく、とんでもネエぜこりゃァ」

 ヨコホリが右腕を眼前に構え、勢いよく手首を甲側へ倒す。
 それに連動し静脈側の装甲がパカリと開いた。
 溢れる蒸気でぼやけるその内側に、生身の肉体は無い。

 代わりにあるのは、複雑に編み込まれた金属繊維の筋肉と、その中心に突き刺さった四角い何か。
 恐らくはタリズマン。ヨコホリは左手でそれを抜き取ると、口に咥え。
 代わりに懐から取り出した同じ形状のものを、同じ場所に差し込んだ。

 開いた時を逆回しにした動きで腕の装甲を閉じると、調子を確かめるように腕をぐるぐると回す。

(//‰ ゚) 「行くぜェ」

 猪に絡みついていた逆さ男とイナリが、大きく飛びのく。
 邪魔者が離れ、余裕を取り戻した猪が見たのは、右腕を左に振りかぶるヨコホリの姿。

(//‰ ゚) 「シィィッ!!」

 横一線。何もない空間に全力で振るわれたヨコホリの剛腕。
 ほんの、瞬き程度も無い間を置いて、巨大な真空の刃が生み出された。
 ツンやニョロの扱うのと同じ鎌鼬の魔法だ。

 だが威力と範囲の桁が違う。
 放たれた荒れ狂う無色の刃は、猪の体を真一文字に切り裂き、
 それでも勢い衰えず、背後に、周囲にあった木の幾本かをすっぱりと切り払った。

192 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/10/27(日) 22:09:52 ID:/XGun1gI0

 腕と、ハルベルトで体を守った猪だが、傷は深く大きい。
 木製かと思われたその体の奥から、赤いものが染み出している。
 すぐさま身体が蠢き傷を塞ぐも、確かにあれは血だった。

(//‰ ゚) 「流石にコイツは通るみてェだな、安心したぜ」

 再び、今度は縦に腕を振るうヨコホリ。
 放たれた巨大な鎌鼬は猪を両断すべく、容赦なく襲いかかる。
 森ごと割れるかと思う一刀が、地面の土を巻き上げながらハヤテのごとく突き抜けた。

〈;;(。个。)〉 「……恐れ入る」

 風の刃は、遠くにあった木を縦に切り裂き、さらに後ろにあった木を粉砕して消えた。
 対象であったはずの猪はハルベルトを構え、悠然とヨコホリを見据えている。

 武器と体裁きによって体表の一部すら切り裂かせず、無傷のままやり過ごしたのだ。
  一撃見ただけで技を見切り、最小限の動きで回避するなどただの剛力にできることでは無い。

193 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/10/27(日) 22:11:01 ID:/XGun1gI0

〈;;(。个。)〉 「変貌しても中身はィシ=ロックスというわけか」

(//‰ ゚) 「それどころじゃねェやな。体がタフになって余裕が出た分、技がキレまくってやがル」

ξ;゚听)ξ 「……」

 一瞬の間に交わされた二人の会話を、ツンは聞いてしまっていた。

 聞くまでも無く、導き出されていたことだ。
 ただ、まだ予測の範囲であると、ごまかすことが出来ていた。
 しかし、答え合わせを聞いてしまった。

ミ´ w ン 「たの、む……ディレ―……トリ」

ξ゚听)ξ

ミ´ w ン 「姉御……を、助けて……やって…くれ」

 悪夢にうなされているかのように、ミンクスが繰り返す。
 ツンは答えない。

 ハルベルトを振り上げる、猪の化け物。
 その姿の中に見つけてしまったィシの名残を、ツンはただ、見ていることしかできなかった。

  *  *  *

194 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/10/27(日) 22:13:21 ID:/XGun1gI0

(;'A`) (おうおうっ、予想以上にヤバいのがいるっぽいな)

 ブーンの感じ取った魔女の気配を目指し、ドクオが飛行している途中。
 目指す森の木が、次々と倒されていく。
 与作がヘイヘイホーと切り倒しているというような穏やかさでないことは、その勢いからしてわかった。

( ^ω^) 『何がいるか見えるかお?』

(;'A`) (…………わからん。魔力が乱れすぎててサーチもロクに効かねえ)

( ^ω^) 『……』

(;'A`) (どうする?距離を取って魔法で狙撃する手もあるぞ)

( ^ω^) 『……いや。状況が把握できない限り、それは危ないお。僕がやるから、現場へ』

(;'A`) (言うと思ったよ、ったくよー)

 ドクオはさらに加速。
 木が倒れ広場となった地点へと急ぐ。

(;'A`) 「居た!一旦預けるぞ!」

( ^ω^) 「任せるお」

 目標を目で確認。
 上空でドクオとブーンが入れ替わる。

195 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/10/27(日) 22:15:18 ID:/XGun1gI0

( ^ω^) 「?!」

 ククリ刀を構え、落下。
 その間にもはっきりと見えるようになったそれは、獣でありながら、獣では無かった。

( ^ω^) 「!!」

 慣性を十全に乗せた、中空での居合切り。
 刃が鳴り対象を切り裂くが手ごたえが悪い。
 まるで年輪の詰まった巨木を斬りつけたようだ。音も硬く鈍い。

(;'A`) 『何だこいつぁ?!』

 割愛すると、木で出来た猪。
 幻想物語に登場する猪頭人の魔獣、オークのような造形だ。
 手に持ったハルベルトが小さく見えるほどには体が大きい。

( ^ω^) 「無刀の型―――」

 落下の衝撃を転がって殺し、すぐさま立ち上がる。
 猪の意識はブーンに向き、滑らかな動作でハルベルトを横に振りかぶった。

( ;^ω^) 「かげッ…陽送り!」

 人間の振るう斬撃とは格が違った。
 ククリの柄尻を合わせて逸らし、辛うじて直撃を防ぐ。
 しかし、腕が痺れ体も大きく流された。反撃に移る余裕は無い。

196 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/10/27(日) 22:16:18 ID:/XGun1gI0

( ;^ω^) 「ちょ、やば……」

 侮っていたわけでは無いが、予想以上だった。
 高い膂力を持っていることはもちろん、それを無駄なく攻撃に生かしている。
 単なる腕力だけならばさらに強いものと対峙したことがあるが、質が違う。

 左から右へとブーンを払ったハルベルトが、体を捩じった振り終わりの体勢から、クルリと向き変った。
 そうしてそのまま、往復の斬撃。
 一撃目でその威力を体感しているブーンは大きく飛びのいて回避する。

 頬をなでる風が、肌を引き千切るようだ。
 真っ向から受け止めていたら、防御の上からでも死ぬかもしれない。

ξ;゚听)ξ 「ブーン!!」

( ^ω^) 「お?」

〈;;(。个。)〉 「……ここでオルトロスとはな」

(//‰ ゚) 「なンだァ?こりゃサプライズパーティかなンかか?」

 名を呼ばれ、ツンの存在に気づく。
 恐らくは味方側であるだろう兵士を抱え、焦りの濃い表情をしていた。
 こんなところで無防備にしていては、すぐに殺されてしまうだろうに。

197 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/10/27(日) 22:17:09 ID:/XGun1gI0

(//‰ ゚) 「敵か?」

〈;;(。个。)〉 「敵の味方ではありそうだが、敵の敵でもあるようだ」

 猪が左腕をブーンへ、右腕をヨコホリへと向ける。
 腕の甲がささくれ立ち、そこから小ぶりの、矢ほどの木片が頭を覗かせた。
 咆哮と同時にそれらが発射。

 ブーンはツンとは逆へ走って回避。
 サイボーグは数回に分けて放った風の刃ですべてを切り払う。

ξ;゚听)ξ 「ブーン、その人、私の知り合いなの!!」

( ^ω^) 「おーん?!」

ξ;゚听)ξ 「だから!味方なのよ!!」

( ^ω^) 「……マジで?」

 ブーンが伏せる。
 その頭上に、指数本の間を開けてハルベルトが過ぎ去ってゆく。
 危うく頭蓋を器に味噌汁(生)がお粗末様してしまうところだった。

( ^ω^) 「めっちゃ狙われてるんですけど」

(;'A`) 『いきなり斬りつけちゃったしNE!!』

198 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/10/27(日) 22:18:16 ID:/XGun1gI0

 猪が再び往復の斬撃を放つ。
 一辺倒かつ、単純だが、非常に効果的だ。
 この連撃を躱すのは、見た目のシンプルさ以上に辛い。

 一撃目の回避で体勢を崩せば、二撃目に確実に捕まるだろう。
 ハルベルトの間合いでこれをやられると厄介この上ない。
 欠点であるはずの重量は、高い腕力のせいでむしろ破壊力へと変換されている。

 的確だ。
 読めたところで簡単に反撃に移ることが出来ない。
 これを繰り返せば、受ける側は間違いなく消耗する。

(//‰ ゚) 「よくわからンが、頭数が増えるなら歓迎だ」

 サイボーグの放つ、袈裟斬りの鎌鼬。
 ブーンに意識を向けていた猪の脇腹を狙う。

 だが、腕だけで強引に振るわれハルベルトがこれを迎え撃った。
 空気とは思えぬ甲高い残響と共に鎌鼬が爆ぜ、周囲に小さな刃をまき散らす。

 猪の体表に無数の傷が出来たが、直撃とは雲泥の差だ。
 ついでにいくつか、傍にいたブーンも巻き添えを喰らった。

(//‰ ゚) 「別にオルトロスはどうなってもいいンだろ?」

〈;;(。个。)〉 「特に気遣う必要はない」

( ;^ω^) 「くぅ〜〜〜」

199 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/10/27(日) 22:20:10 ID:/XGun1gI0

 獣の如く跳ねて距離を取るブーン。
 半端な間合いは危険だ。
 一太刀目の手応えから言って、懐へ潜り込んでも活路はない。

 ブーンが攻撃圏内から離れた途端に、猪はサイボーグへと突進。
 右腕一本でハルベルトを振りかぶり、左腕の木を増量し盾の如く構える。

 猪、叩きおろしの一撃。
 ヨコホリは右腕を刃に合わせ力を僅かに反らす。
 見事だ。斧は地面を深く抉り、ヨコホリには当たらない。

 自ら作り出したこの隙に、ヨコホリは流した体を予備動作に繋げ、魔法を発動する。

 対する猪は、この攻撃を読んでいた。あるいは、超速で反応した。
 鋼鉄の腕が振るわれ始めのその一瞬に、開いていた左腕をコンパクトに振るう。
 この視界の外からのジャブはヨコホリの脇を捉え、軽々と弾き飛ばした。

 水切石の如く地面を跳ね、四つん這いで止まるヨコホリ。
 赤黒い唾液が、その口からぼたぼたと零れる。

〈;;(。个。)〉 「……」

 黒づくめに仮面を身に着けた男。
 特徴を見るに、ツンに聞いた逆さ男であろう。
 彼は身体強化の魔道具である指輪を発動し地を蹴った。
 付随するように、鎌のような刀を持った女も猪の死角へと走る。

200 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/10/27(日) 22:21:23 ID:/XGun1gI0

〈;;(。个。)〉 「!!」

 正面切って迫る逆さ男に対し、猪はハルベルトの刺突。
 これはフェイク。
 本命は先ほどと同じく左腕の追撃だ。

 逆さ男は回転し紙一重で回避。
 向かって左に流れ、猪自身の腕が作る死角に潜り込む。
 猪は逆さ男の位置を予想して左腕を振るった。

 これは、狙いの通り。
 強引な一発を期待していた逆さ男は、すかさず跳躍し躱す。
 飛び立つカラスを思わせる軽い身のこなしで猪の体を蹴り、後ろへ回り込んだ。

 猪は反射的に向き直り、ハルベルトを横に振り回す。
 しかし、これもまた逆さ男の狙い通りだ。
 ハルベルトは空を斬り、代わりに猪の目の前にいたのは、

イ(゚、ナ#リ从 「ァァッ!」

 全身の筋肉を隆起させ飛び上がった、剣の女。
 剣を両腕で振り上げ、他のメンツに負けず劣らずの剛力で振り下ろす。
 鉤になった先端は、甲高い音色と共に見事狙いの眉間へと深く食い込んだ。

 それでいても、手ごたえがない。
 ほぼ無意味に終わったことを悟ると同時に、女は剣を離し軽やかに飛び退く。

201 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/10/27(日) 22:24:11 ID:/XGun1gI0

 女の着地を待たず、再び逆さ男が前へ。
 ハルベルトギリギリの間合いで跳躍の予備動作を取る。
 直前何度かの経験で飛翔からの展開を警戒し、猪の意識が上へ向いた。

 その一瞬を、逃さない。
 逆さ男はやや屈んだ姿勢からそのまま懐へすべり込み、密着する窮屈な間合いから、

〈;;(。个。)〉 「ふッ」

 真上、猪の顎へと脚甲を突き上げる。
 力だけでなく、恐るべき柔軟性だ。
 不意のこの一撃に、猪は巨体を、僅かではあるが仰け反らせる。

(//‰ ゚) 「ガァァッ!!」

 この好機に飛び込んだのは、再起したヨコホリ。
 目を剥き血走らせ、余剰魔力が煙となって吹出す右腕を、大きく振り上げる。

 もはや魔法の間合いでは無い。
 放たれた真空の大剣は爆発と違うほどの轟音を持って、猪の体を肩口から真っ二つに切り裂いた。
 衝撃で割れた体内に、内臓が覘く。
 猪の悲鳴は音にはならず、代わりに真っ黒の血反吐を吐き出した。

202 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/10/27(日) 22:25:03 ID:/XGun1gI0

 膝から崩れる猪。
 まだ、絶命はしてはいない。既に再生が始まっている
 一切の油断なくサイボーグが追撃へ。

 魔法の巻き添えを避けていた逆さ男と剣の女の両名も前へ出る。

 しかし。

ξ#゚听)ξ 「“シュート=インパクト”!!」

〈;;(。个。)〉 「?!」

 ツンの放った衝撃波の魔法が、サイボーグの足を止めさせ。
 その間にニョロの放った嵐の魔法がイナリと逆さ男を巻き込んで吹き飛ばす。
 機敏な反応でダメージを避けた二人だが、代わりに大きく距離が開いた。

(//‰ ゚) 「グッ?!」

 体勢を崩したサイボーグへツンは自ら飛び込む。
 魔法を発動し、加速した足の裏でその横っ面を思いっきり蹴り飛ばした。
 ブーンが見た限りでも二度目。マリオネットのように体を歪ませながら吹き飛ばされていく。

(//‰ ゚) 「……ナァァンのつもりだァァ、ディレェェトリィィィ!」

ξ゚听)ξ 「……ィシさんを、やらせたりはしない」

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