( ^ω^)剣と魔法と大五郎のようです

二十一話

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123 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:15:46 ID:SkkVWD8E0

<#、`∀´> 「ウリィ!!」

( ;^ω^) 「くッ」

 鋭く突き出された手槍を、辛うじて受け流す。
 すぐに引き戻しからの、連続突き。

 ブーンは後退しながら内の一撃に狙いを定め、槍を斬り払った。
 矛先が宙をクルクルと舞い、少し離れたところに落ちる。
 敵の男は、すぐさま距離を取ると、持っていた柄を捨て、盾の裏から剣を抜き取った。

<ヽ`∀´> 「……まさか、準備していた三本すべてを払われるとは」

 剣を構え、低い姿勢の男。
 身の回りには、失神した彼の仲間と、使い物にならなくなった手槍が散乱している。

<ヽ`∀´> 「噂に偽りなしと、いったところニダ。オルトロス」

(;'A`) 『やっぱりばれてんのね』

( ^ω^) (これはもう、完全に首突っ込んじゃったおね……)

124 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:16:49 ID:SkkVWD8E0

<ヽ`∀´> 「得物が、聞いたものとは違うニダが」

( ^ω^) 「……」

<ヽ`∀´> 「なぜ、二刀で無いニダ?」

( ^ω^) 「ちょっと訳ありで」

 ブーンの手に握られているのはサスガ兄弟が置いて去ったククリ刀。
 諸事情あってぽっきりと折られてしまった二刀の代わりに、ハインリッヒの家から持ち出してきた。
 特別武器を選ばないブーンではあるが、少々扱い憎さを感じている。

<ヽ`∀´> 「……噂に名高き“杉浦双刀流”の技、ぜひ拝見してみたかったニダ」

( ^ω^) 「見逃してくれたら今度いっぱい見せてあげるお!」

<ヽ`∀´> 「…………それは、残念」

( ;^ω^) 「くぅ〜〜〜ッ!」

 突き出される、鈍色の剣。
 ブーンは舌打ちを口内に留め、ククリを眼前に持ち上げた。

125 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:17:53 ID:SkkVWD8E0

 今朝、騒動に気づいてハインリッヒの家を出たブーンたちを迎え撃ったのは、禁酒党の兵士だった。
 恐らくは、各地に駐在していた大五郎の兵士と勘違いされたのだろう。
 早々に市街地へ向かうつもりだったブーンも、やむなく戦闘に突入することになった。

 そのままなし崩しに戦闘を続け、そして現れたのがこの男、ニダー=ジリン。

 市街地に留まっているツンとタカラの身が案じられた。
 こうして戦闘をおこない敵兵を引きつけていることがせめて援護になっていればいいが。

<ヽ`∀´> 「随分と余裕ニダ」

 ニダーが迫る。
 左手の盾を、殴りつけるように前へ。
 ブーンはこれに蹴りを合わせ、互いの体を弾く。

 ニダーの剣が盾の陰から飛び出しブーンの足を狙ったが、辛うじて回避が間に合った。

( ^ω^) (強い)

 今度はブーンが自ら前へ。
 ククリ刀を居合抜きの形で脇に構え間合いを詰めた。
 全身を軋ませ、一撃に全霊を込める。

126 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:19:26 ID:SkkVWD8E0

<ヽ`∀´> 「ッ!」

 音を断ち、景色を歪ませる振り抜きの一撃。
 ニダーは後退しながらも盾で受け流すが、対応は間に合わない。
 丸い盾が、右から中央へ引き裂かれた。

 逃がしきれない力の波がニダーの体を揺るがせ、体を開かせる。
 が、ニダーの右腕は狡猾に獲物を狙い定めたまま。
 崩れた体勢ながらも、剣をブーンの胸へ。

 よく磨がれた切っ先がブーンの肉を分かつ寸前。
 居合抜きで振り切った腕にそのまま体を託し、ブーンは体を回転させる。
 伴って吹きまわされた左の掌底が、ニダーの剣を横から弾く。

 両者回転し、左肩と右肩を合わせる形で密着する。
 左側のニダー。
 自身の右側にいるブーンの首元へ、肘から先を持ち上げてのコンパクトな刺突。

 ブーンは左腕でニダーの腕を抑え、仰け反って剣の到達を防ぐ。
 そのまま掌を回し、ひっかき上げるように斜め上へニダーを弾いた。
 体勢を崩させ、がら空きの胴が現れる。

 密着し力を籠めにくい状況を上半身の力で強引に解決。
 この時左足を後ろへ引いて遠心力で勢いをつけ、右手のククリを叩き付ける。

 ニダーはこれに左手を差し出した。
 重いククリの一撃を、崩れた体勢の中で上手く殺し、盾を割られることなく受け止める。

127 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:20:56 ID:SkkVWD8E0

<#ヽ`Д´> 「ニダァ!!」

 盾で強引にククリを弾き、ニダーは剣を振るう。
 ブーンは押し返す力に逆らわず、後ろに飛んで回避した。
 強引な攻撃からすぐさま身体を整えたニダーは再び盾を前に、突進の姿勢。

 ブーンもククリを前に、自然体。
 両者の動きがぴたりと止まった。
 相手の呼吸を読み、張りつめた空気が流れる。

 が、その時。

<ヽ`∀´> 「?!」

( ^ω^) 「!!」

 突然に響き渡った、謎の咆哮。
 遠いが、確実に聞こえる。
 牛や馬では無い。もっとおぞましい、胸を騒がせる禍々しさを持っていた。

128 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:21:59 ID:SkkVWD8E0

<ヽ`Д´> 「!!」

 ニダーはすぐさま意識を集中し直し、地面を蹴った。
 剣を体の陰に隠し、盾によって打撃を狙う。

 対するブーンは、まだ意識をこちらに戻しきれずにいた。
 集中を欠いた動きで一先ず後退する。

(;'A`) 『どうしたブーン!!』

( ;^ω^) (今の咆哮……)

<#ヽ`∀´> 「隙ウリィ!!!」

 まだ数歩分の間合いが開く距離から、ニダーが剣を放つ。
 回避とククリ刀での叩き落としを同時に行うが、ブーンは足を止められた。
 ニダーは腰の裏からもう一本を引き抜き、一気に間合いを詰める。

( ;^ω^) (わずかだけど、キュートの魔力……!)

(;'A`) 『マジで?!』

 突き出された剣に、辛うじてククリを合わせる。
 金属の擦れ合う煩わしい音が耳を貫いた。
 ニダーの攻撃は止まらず、そのまま盾によるタックルでブーンを跳ね飛ばした。

129 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:24:13 ID:SkkVWD8E0

 飛びのいてダメージを減らすも、多少ふらつき着地する。
 気を乱した状態で勝てる相手では無い。
 脳にちらつく魔女の気配を一旦押し込め、ブーンは自らニダーへ躍りかかる。

 ククリ刀を体を開いて振りかぶる。
 ニダーは前には出ずに、万全の態勢で迎え撃とうと盾で体を隠す。

( ^ω^) 「杉浦双刀流―――」

<ヽ`∀´> 「!!」

( ^ω^) 「鐘砕き」

 ブーンは振りかぶった手から、そのままククリを手放す。
 そのまま上半身をのけぞらせ、筋肉を軋ませ。
 両脇に構え直した拳を盾に向かって突きだした。

<#ヽ`Д´> 「ぬぅ!!」

 双の拳が生み出した力が盾を中心にぶつかり合い、鉄板の内側の木を粉砕した。
 剣戟を受け流し、反撃を合わせる腹積もりだったニダーを、すさまじい衝撃が襲う。

130 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:26:45 ID:SkkVWD8E0

( ^ω^) 「!!」

 この大きな隙に、ブーンは渾身の蹴りで追い打ちを仕掛ける。
 速さは少々足りないが、『杉浦』の技を支える強靭な足腰は、ニダーを蹴り払うのに十分な威力を持っていた。

<#ヽ`Д´> 「くっ、なるほど、徒手空拳の技もあったニカ」

 不十分な状態からも受け身を取ったニダーだったが、全ての威力を殺すことはできなかった。
 内臓にダメージを受け足に普段通りの力が無い。
 呼吸も乱れ、はた目には勝敗は半ば決しているように見える。
 
( ^ω^) 「……おまけにもう一つ、無刀の型を見せてあげるお」

<ヽ`Д´> 「……」

( ^ω^) 「杉浦双刀流、無刀奥義……」

 両手を軽く広げ、ブーンが姿勢を下げる。
 ニダーは剣を一文字に寝かせ、目の前へ持ち上げた。
 睨みあう両者。
 ブーンの放つ闘気が、周囲の空気を歪ませて見せる。

( ^ω^) 「……“脱兎走”」

 緊張が最大に高まったその瞬間、ブーンはくるりとニダーに背を向け走り出した。
 機敏に、落ちていたククリを拾い、そのまま駆けて行く。
 あらゆる攻撃を想定し、反撃を狙っていたニダーはしばし呆然として。

<#ヽ`Д´> 「って!ただ逃げてるだけじゃないニカ!!!!待つニダ!!」

 叫んだ時には、ブーンの背中は既に追いつけない距離まで走り去っていた。

131 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:28:01 ID:SkkVWD8E0

( ;゚ω゚) 「待てって言われて待つくらいなら最初っから逃げたりしないお!!!」

 罵声を追い風に全速力で逃げるブーン。
 正直戦っている時よりも目が本気だった。

(;'A`) 『ねえちょっと!!それは無いんじゃないの?!俺ですら奥義期待したんだけど!!』

( ^ω^) (逃げることを考えながら闘気を昂らせるのって大変なんだお。気分的には奥義だお)

(;'A`) 『つーか別に勝てただろ。なんで逃げるんだよ』

( ^ω^) (あの人なめちゃいけないお。迂闊に止めを刺しに行ってたら、やられたのはこっちかもしれない)

(;'A`) 『そうなの?』

( ^ω^) (倒せるイメージが最後まで具体的にならなかったお。無理に倒す必要が無いなら、逃げた方が確実だお)

(;'A`) 『……まあ、それならいいけどよ』

( ^ω^) 「それよりも……」

 手ごろな農場を見つけ、身を隠すブーン。
 ニダーからは逃げ切れたようだが、周辺にはまだ禁酒党の兵士がうろついている。
 特別手を焼く手練れでは無いだろうが、今は僅かな時間も惜しい。

132 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:29:11 ID:SkkVWD8E0

( ^ω^) 「やっぱり、キュートの魔力だ」

('A`) 『本人か?キメラか?』

( ^ω^) (遠すぎてはっきりしないけど、他人のそら似でないことは確か)

('A`) 『……どこだ?』

( ^ω^) (向こうの、湖の方の山だお)

('A`) 『遠いな。行くのか?』

( ^ω^) (放っておくわけにはいかないお)

('A`) 『……わかった、代われ』

( ^ω^) 『お。いつもすまないお』

('A`) 「きにすんな」

( ^ω^) 『多分、結構やばいのがいると思うから、着いたらすぐに代わるお』

(;'A`) (……お前はホント、不吉なことを平然と言うよね)

  *  *  *

133 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:30:43 ID:SkkVWD8E0

〈::゚−゚〉 「…………」

 顎が砕けてしまいそうだ。
 頭蓋の中に反響する、ギリギリと奥歯が削り合う音は、周囲にまで漏れ出している。

(//‰ ゚) 「思ったより遅かったなァ」

〈;;(。个。)〉 「……怖気づいてもう現れないかとも思ったがな」

〈::゚−゚〉 「…………」

( ・−・ )

 ィシと、シーン。
 そしてサロンに連れてきていた禁恨党八人全員が、この場に集結していた。
 目的は、ついに強硬な手段に出た根絶法側の暴挙を止めること。

 そして、何よりの本懐が。

(//‰ ゚) 「グッグッグ、いつもの威勢がねえな」

 この男。
 ヨコホリ=エレキブランを仕留めること。

134 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:31:39 ID:SkkVWD8E0

 主武器であるハルベルトを構えたまま、周囲をぐるりと睨む。
 敵は、ぞろぞろと現れた十余人。しかし、並ぶ顔ぶれは、憎らしいほどに豪華だ。

 ヨコホリ、逆さ男の他に、

爪'ー`)y‐~ 「やれやれ、すごい気迫だ……どちらが罠に嵌ったのか分からないねえ……」

イ(゚、ナリ从 「……だんちょ、森の中で煙草は危ない」

 山幻旅団筆頭フォックスと、側近の娘、イナリ。
 この四人だけでも十分すぎる戦力だ。
 個人間で比べれば、彼らとまともな勝負になるのはィシしかいないだろう。

 状況は芳しくない。
 人数は相手に分があり、さらに待ち伏せにより地の利を取られている。

 しかし、それは初めから予想出来たことだ。
 罠であることは予想できたが、だからこそチャンスであるとも思った。
 ヨコホリは釣り餌であるからこそ、ィシたちががっちりと食いつくまでは下げられ無い。

 ィシは、胸元に手を当てる。
 食いつくための準備はいくらでもしてきた。
 糸を千切り、針を捩じり、竿をへし折るその準備。

135 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:33:07 ID:SkkVWD8E0

 ヨコホリが魔法を放ち、シーンが分解したのをきっかけに、両者が動いた。
 相手も手練れではあるが、こちらも雑魚では無い。
 一旦武器をかち合わせてしまえば、そこらの傭兵など軽くしのぐ猛者たちだ。

 戦況は、一気に乱戦へ。
 地元の農夫たちが手入れをしているお蔭か、近辺の足場はある程度開けているが、木は当然多い。
 幸いにしてこの窮屈さが、数の差を埋めてくれていた。

 敵の主力四人がまだ様子見していることも、大きい
 腹が立つほど余裕の態度ではあるが、その分踏みにじり甲斐がある。

〈::゚−゚〉 「!!」

 立ち位置さえ注意すれば、ィシの腕ならばハルベルトも問題なく扱える。

 ィシは大きく踏み込み、自身に迫ってきていた二人の敵を武器で薙いだ。
 斧刃が一人目の腹を大きく抉り、その体を刃に絡めたまま勢いでもう一人も払い退ける。
 巻き込まれた枝葉が、抵抗も敵わず舞い散った。

 刃を直接受けた方は今の一撃でほぼ即死。
 巻き込まれ突き飛ばされた方は、身動きしなくなった仲間にのしかかられ、自由に動けない。

 この機会を逃すことなく、ィシはその男の頭に斧刃を落とす。

 頭蓋が割れ、脳漿と血液が噴き出した。
 自らの服にはねた赤を気にする様子も無く、ィシはハルベルトを引き、刃の穢れを払う。

136 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:33:49 ID:SkkVWD8E0

〈::゚−゚〉 「我々は大五郎とは違う」

 未だ血のこべりつくハルベルトを脇に構え、ィシが一歩前へ。
 無表情でありながら、その気迫が肌を震わせるようであった。
 迎え撃とうとしていた敵兵の足が、自然に二歩後ずさる。

〈::゚−゚〉 「失うものなど何もない。故に、貴様らに容赦もしない」

 ィシの奮起を目にし、禁恨党員たちが戦意を取り戻し始めた。
 士気さえ釣り合えば、人数差を埋める十分な実力はある。
 いくらかの余裕を見せていた根絶法側に緊張感が走った。

〈::゚−゚〉 「我々に武器を構えたからには、死ぬと思え」

 根絶法側が有利なことには変わりない。
 しかし、決して安全な勝負では無い。
 初老でありながら、女でありながら重量武器を振るうィシの姿は、畏怖を覚えさせるに十分な迫を持っていた。

 雄叫びをあげ、禁酒党の男が手斧を振り上げィシに襲い掛かる。
 背後、死角の位置。
 自らを奮起させるための雄叫びが攻撃を悟らせはしたが、十分に奇襲の役を果たしている。

137 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:34:47 ID:SkkVWD8E0

〈::゚−゚〉 「……」

 ィシは頭だけを振り向かせ、その姿を確認。
 手斧のリーチは短いが、威力は高い。
 喰らえば相当に致命的な傷を負うだろう。

 しかし問題は無い。

〈::゚−゚〉 「……」

 ィシは、左足を一歩、後ろへ引く。
 爪先は横向き。それに従い体もやや開く。
 この時点で既に、ィシの上体はハルベルトを振るう準備を終えていた。

   「?!」

 迫る男の脇、あばらに向けてィシはハルベルトを振り上げる。
 敵の攻撃も、回避も間に合いはしない。

 斧刃が男の肋を捉えた。
 骨が割れ、肉が裂かれ、内臓が潰れ。

 それでも重厚の刃は止まらない。
 両手から片手に移行しながらも、ィシは完全に得物を振り抜いた。
 男の体が宙に浮き、鮮血が吹き上がる。

 ほぼ即死したその体が衝撃で回転するのに従って、血が生臭い螺旋を描いた。

138 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:36:13 ID:SkkVWD8E0

爪;'ー`)y‐、 ~ 「……人間か?」

イ(゚、ナリ从 「だんちょ、ちびりそう」

爪;'ー`)y‐ 「安心しな。俺なんか既にちびったよ」

(//‰ ゚) 「俺が言うのもなンだが、人間じゃねえな」

〈;;(。个。)〉 「ヨコホリ、フォックス、予定通り行くぞ」

爪;'ー`)σ ⌒ 、 「あーあ、こんなんならニダの旦那の方行けばよかったな」

 逆さ男が前へ。後ろにヨコホリが続きフォックスとイナリはその場にとどまる。
 ィシが腰の剣を投げつけさらに一人を討ち、いくらか情勢を持ち直した禁恨党。
 目の前の一人を危なげしかない動きで何とか切り伏せたミンクスが、ィシの横につく。

〈::゚−゚〉 「……ミンクス」

ミ;´・w・ン 「言わないでくださいよ。俺だって、意地はあるんです」

〈::゚−゚〉 「せめて一人は、引きつけろよ。そして、危なくなったらすぐに逃げろ」

ミ;´・w・ン 「……ゥス」

139 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:37:30 ID:SkkVWD8E0

〈;;(。个。)〉 「……行くぞ」

 飛び立つ燕のようであった。
 音も無く逆さ男の姿が残像に変わり、ィシへ迫る。

 空中へ飛翔。全身のばねを利用し、鋼鉄の脚甲でィシを薙ぎ払った。
 ハルベルトの柄を引き揚げ、これを受け止めるィシ。
 互いの衣服が衝撃で靡き、足が地面に深く食い込む。

 逆さ男の手には輝く指輪があった。
 魔道具だ。これによって身体能力を強化している。
 脚甲をつけていることもあり、直撃であれば必殺に近い破壊力だ。
 
 逆さ男は蹴り終わりの着地と同時に後転。
 反撃に振るわれたィシのハルベルトをやり過ごす。
 振り切られた武器を剛力で制動し、ィシは踏み込んで追撃の刺突を放った。

 空気がうねりをあげるこの一撃を、逆さ男は飛び越えて回避。
 胴を軸に数度の回転を加え、体重の乗った蹴りをィシの頭へ叩き付ける。

〈::゚−゚〉 「フンッ」

〈;;(。个。)〉 「ッ?!」

 鉄槌のごとき一撃を受けたのは、頭蓋では無く、筋肉の隆起する二本の腕。
 ィシがハルベルトを手放し、素早く防御に回したのだ。
 骨が砕けても不思議は無いというのに、まるで巨木を叩いたようにびくともしない。

140 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:38:28 ID:SkkVWD8E0

〈::゚−゚〉 「ぬうん!!」

 着地でバランスを崩した逆さ男の服をィシの手が掴んだ。
 振りほどこうとする抵抗を無視し、片腕で軽々と振り上げる。

〈::゚−゚〉 「ハァ!!」

〈;;(。个。)〉 「グッ!?」

 ィシは、持ち上げた逆さ男を、メンコで遊ぶかのように地面に叩き付けた。
 地面は柔らかい腐葉土。
 しかしそれでいても、2m弱の高さから受け身も取らず叩き付けられれば。

〈;;(。个。)〉 「……ッ……、恐ろしく強い」

 ダメージは相当なものになる。
 叩き付けからすぐさま転がって距離を取った逆さ男ではあったが、その足取りはいささか頼りない。
 指輪の輝きはいつの間にか消え、彼が魔法の補助を失っていることを示す。

〈;;(。个。)〉 「……なるほど、魔法を解除されるというのは、なかなか厄介だ」

( ・−・ )

 逆さ男の視線の先には、魔法使いシーン=ショット。
 蹴りを放った時点で、身体強化は解けていた。
 この援護が無ければもう少しまともなダメージを通せただろう。

141 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:39:13 ID:SkkVWD8E0

(//‰ ゚) 「ハッハァ!!」

 逆さ男がィシを引きつけている内に、ヨコホリはシーンに迫っていた。
 魔法分解の能力を除いてもシーンは優秀な魔法使いだが、正面からヨコホリの相手をするだけの技量は無い。
 割って入った数人の禁恨党員を吹き飛ばし、鋼鉄の腕をギシリと鳴った。

 シーンはィシの援護にで魔法分解を行っており、ヨコホリへの対処が遅れている。
 下がって間合いを取りながら、ヨコホリの「心臓」の魔法の解析を始めるが、接近の方が早い。

ミ;´・w・ン 「させないって!!」

 割って入るミンクス。実力差は歴然だが、僅かな時間稼ぎにはなる。
 シーンは魔法を展開。
 丸めて背中に括っていた魔道具の布を、大きく広げる。

 布は蛇の如く揺らめき、ヨコホリの体に絡みつく。
 ミンクスを捻りつぶそうとしていた腕が寸前で止まった。
 狙ったのは関節。万力を誇る“サイボーグ”の体であっても要所を抑えれば拘束は可能だ。

(//‰ ゚) 「チィッ!せこいマネ…………ヲッ?!」

 悪態をつく彼の背後迫るィシ。
 反応したヨコホリだが、布に動きを邪魔され対応が間に合わない。
 大きく振りかぶったィシの裏拳がヨコホリの頭を側面から殴り抜く。

 金属が砕ける音とは、ここまで響きがよいものか。
 ヨコホリの体は鞠のように跳ねて転がり、木に激突して止まった。
 轟音と共に彼の体を受け止めた木が、軋みを立てて傾いていく。

142 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:40:17 ID:SkkVWD8E0

〈::゚−゚〉 「……」

 ィシがヨコホリを跳ね飛ばすと同時、がら空きの背中に逆さ男が躍りかかる。
 再び強化魔法を発動していたが、すぐにシーンによって強制解除された。
 それでも勢いのまィシの背中を蹴り抜く。

〈:: − 〉 「ぐっ!」

 蹴りの衝撃は分厚い胸部を駆け貫く。
 ィシは苦しげに呻くも、すぐさま反撃の体勢。
 振り向きざまに裏拳を放ったが、逆さ男はひらりと飛びのいてやり過ごす。

(//‰ ゚) 「おィィ……逆さァ……しっかりひきつけといてくれよォ……」

 ヨコホリが魔法布を引き千切りながら立ち上がる。
 頭の形が変形している上に、よく見れば首は横に折れているだけでなく180度捩じれていた。
 それを、自身の両手で挟み、ゴキゴキと整形しなおす。

(//‰ ゚) 「俺も不死身じゃねえンだ。死ンじまうぞ」

〈;;(。个。)〉 「想像以上の戦力だ」

(//‰ ゚) 「こいつ、なンかやってやがるぜ、気ィつけな」

 余裕は未だあるようだが、ダメージがゼロでは無かったらしい。
 少しばかり、彼の醸す空気に真剣みが混じり始めている。

143 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:41:01 ID:SkkVWD8E0

爪'ー`)y 「……イナリ、もう大丈夫だ。お前も旦那たちに加勢しなさい」

イ(゚、ナリ从 「わかった。だんちょ、わたしが離れてる間に死ぬなよ」

爪;'ー`)y 「いやははは……厳しいねイナリは」

 逆さ男たちから離れて後方、フォックスとイナリ。
 フォックスは逆さ男がィシに仕掛けた時点から魔法の展開を開始し、イナリはそれをずっと守護していた。
 現在魔法は無事に発動し、フォックスの周りには青みがかった煙が滞留している。

 フォックスの言葉に従い、イナリは得物である剣を構えて飛び出した。
 獣の如くとはこのことで思慮も策略も無く真正面から切り込んでゆく。
 部下の背中を笑顔で見送り、フォックスもゆっくりと前に出た。

 武器も持たず、まるで散策するように歩く彼を、禁恨党の兵士は見逃さない。
 それまで刃を合わせていた敵を力ずくではじくと、フォックスに襲い掛かった。
 
爪'ー`)y‐ 「やれやれ」

 怪しげに揺れ漂う煙が兵士を迎え入れる。

爪'ー`)y‐ 「良い夢をごらんよ」

 その次の瞬間、唐突に兵士が膝をついた。
 白目を剥き、口をだらしなく開けて、そのまま地面に倒れ込む。
 死んではいないが、意識を取り戻す様子も無い。

144 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:42:20 ID:SkkVWD8E0

爪'ー`)y‐~ 「ふむ、どうやら何か魔道具を使っているね」

 フォックスが煙草に火を点け、乱戦するィシたちに歩み寄る。
 それに伴って魔法の煙が周囲に拡散し、敵性の兵士のみを次々と不能にしていった。
 ィシの奮闘で均等になっていた力のバランスが、一気に根絶法側に傾く。

爪'ー`)y‐~ 「だがまあ、脳があるなら問題ない」

 ィシの体は、元よりも一回りほどパンプアップしていた。
 動ける禁恨党の兵士は、既にィシ、ミンクス、シーンの三人のみ。
 それでいても押し切れないのは、彼女の能力がいよいよ人知を凌駕し始めていたからである。

〈::゚−゚〉 「ォォォォオオオ!!!」

 混戦の中取り戻したハルベルトを、豪快に振り回す。
 接近していたイナリは守りに構えた武器ごと弾き飛ばされた。
 ヨコホリが安全圏から魔法で攻撃するも、全てシーンに無効化される。

〈;;(。个。)〉 「フォックス!」

爪'ー`)y‐~ 「わかっている。あの化け物にどれだけ効くか分からないけどね」

 周囲に散っていた煙が、意志を持ってィシたちの周囲に集まる。
 ミンクスが抵抗し剣を振るうが、もちろん意味は無い。

145 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:43:23 ID:SkkVWD8E0

( ・−・ ) !

爪'ー`)y‐~ 「君の分解は防ぎようがないけどね。手間をかけさせるくらいなら簡単さ」

 煙には複数のダミーの魔法式が含まれていた。
 主となる魔法式への介入を防ぐ性質があり、シーンの分解を妨害する。
 魔法同士が干渉し合い、空中に激しい閃光の粒が生まれたが、肝心の煙は全く減らなかった。

ミ;´・w・ン 「やられる前にやるしかないっしょぉ!!」

 ミンクスが口元を腕で抑え、煙を低い姿勢でフォックスへ。
 意志をもって持続させるこのタイプの魔法は術者を落とすのが一番手っ取り早い。

 もちろん、敵もそれは十分に理解しているため。

イ(゚、ナリ从 「させねっし」

 イナリの持った鉤爪のような剣がミンクスを薙ぐ。
 持ち前の臆病さでこれに気づいていたミンクスは大げさに転がって逃げた。

 他の主力三人はミンクスの相手はイナリ一人で十分と判断したのか、ィシとシーンに迫っている。

( ・−・ )

爪;'ー`)y‐~ 「いやあ虚しくなるなあ……もう見破ったのかい」

 シーンは、驚くべき速さで煙の魔法を看破していた。
 すべてを消し去ることは叶っていないが、それでも自分たちに絡みつこうとしている部分は片っ端から消されていく。

146 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:44:04 ID:SkkVWD8E0

 だが、結果的にそれは、シーンを封じる役目となった。
 魔力を注いだ分だけ増幅する魔法の煙は、消しても消しても後を絶たない。
 発動者であるフォックスの保持する魔法式を瓦解できればよいのだが、煙に対処しながらできることでは無かった。

(//‰ ゚) 「カカカカァッ!!」

〈::゚−゚〉 「くッ」

 分解される恐れの薄まったヨコホリは、思う存分に魔法を放つ。
 無論シーンの援護は成り立たない。
 ィシはハルベルトで土を舞い上げ、魔法攻撃を防ぐ煙幕とした。

 炸裂し拡散する衝撃波で、互いに弾き飛ばされる。
 ヨコホリが次の魔法を放つまでの隙を埋めるように間合いを詰める逆さ男。

 彼は指輪の強化魔法を思う存分に使い、膂力を増していた。
 地に足をついた状態で放たれたハイキックは、防御のために引き上げられたハルベルトの柄をゆがませる。

〈;;(。个。)〉 「これだけのメンツを集めて、成果なしとはいかんのでね」

〈::゚−゚〉 「……」

〈;;(。个。)〉 「貴様一人が優秀でも、この差は覆せん」

 足を引き戻してからの、連撃。
 激しく重い追撃はガードを突き抜けて体に響く。
 強化魔法により倍近くまで引き上げられた脚力は、乱打にも関わらず大槌での殴打を思わせる。

147 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:44:44 ID:SkkVWD8E0

 振り抜きの強打を一撃、逆さ男が飛び跳ねて離脱した。
 これで終わりではない。
 むしろ。

(//‰ ゚) 「ラァ!!」

 入れ替わりに、ヨコホリが右手を突き出し接近する。
 格闘の間合いであるが、掌が僅かに輝くのをィシは見逃さない。
 弓のように体を横にしならせ、放たれた魔法を回避。

 倒れた姿勢のまま、腕力のみでハルベルトを振り上げる。
 先端が鋼鉄の腕を弾き上げ、体はその慣性を利用して起き上がり。
 腕を弾くために振り上げた武器は、そのまま攻撃への予備動作へと、流れるようにつながった。

 しかし。

〈;;(。个。)〉 「ハッ」

 剛力で振り下ろされたハルベルトは、黒鉄の脚甲に払われる。
 鈍い音を立てて柄が弾け折れた。

 飛んでいった先端の行方を気にする余裕は無い。
 腕を弾かれた勢いで後退したヨコホリが、十分に立て直している。

 突き出される右腕。照準は紛れも無くィシ。
 飛翔蹴りから着地した逆さ男がすぐさま距離を取る。

(//‰ ゚) 「カカカッ」

148 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:45:30 ID:SkkVWD8E0

〈::゚−゚〉 「――――――ッ!!」

 輝くヨコホリの腕。
 掌に生み出された無数の魔法弾が、花火のように飛び散った。

 空気が歪み、蜃気楼のような帯が伸びる。
 数え切れぬ魔法の榴弾は、小粒ながらも十分な破壊力。

 ィシは咄嗟に折れたハルベルトの柄をバトンのように回転させて投げた。
 だが、藁ほどの助けにもならず、数発で砕かれ盾の役目は果たさない。
 強化された体が魔法の暴威に食い荒らされてゆく。

 歪む視界。
 頭にもらった一発が頭蓋を抉り取ってゆく。

 視界の端で、ミンクスが切り伏せられるのが見えた。
 膝が折れる。
 シーンの姿は見えない。

 彼は、どこにいる。
 ィシの探し出した、切り札だ。
 仲間であり、友であり、実の家族のような存在。

 まだ失うわけにはいかない。
 何度も何度も奪われるわけにはいかない。

149 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:46:14 ID:SkkVWD8E0

〈;゙゙−゚〉 「……グッ、ハァァッ!!」

 倒れかかった体を、背骨と腹筋で強引に持ち直す。
 頭から、ごぽりと血が零れた。
 熱いのに、冷たい。しかし、不思議と痛みは無かった。

(//‰ ゚) 「…………人間辞めすぎだぜェ」

 飽きれるヨコホリを殴ろうとして、右腕が無いことに気がついた。
 左腕はあった。指が無いため拳は握られないが、手刀の形で強引に叩き付ける。

(//‰ ゚) 「ナッ?!」

 回避されるも、ヨコホリには普段のキレが無い。
 戸惑っている?あるいは、怯んでいる?
 ィシは左腕を振るった力を制御せず、そのまま頭からヨコホリに飛び込む。

 額はヨコホリの鼻っ柱を捉えた。
 自身の頭に走る痛烈な痺れに、目の前が白と黒の明滅を繰り返す。

 何はともあれ、ヨコホリに隙を作った。
 今ならば、分解が通用するはずだ。

 ィシは振り返る。
 声が出ないので、視線でシーンに指示を飛ばすつもりだった。

150 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:46:54 ID:SkkVWD8E0



〈:;゙゙−゚〉

( − )

〈:;゙゙−゚〉



 ああ。


.

151 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:48:30 ID:SkkVWD8E0

 シーンには、左腕が無かった。
 ィシを外れた流れ弾が吹き飛ばしたのだろう。

 そして、目は白を剥き、地面に半身を沈めていた。
 集中力を失い、フォックスの魔法に飲まれたのだろう。

〈:;゙゙−゚〉

 ィシは、膝から崩れ落ちる。

 終りだ。
 復讐のために積み上げてきた戦力はすべて失われた。

 無謀だった。
 無策だった。
 何より無能だった。

 大五郎への襲撃など、黙って見逃せばよかった。
 罠にわざと食いつくことなどせずに身を潜め、虎視眈々と隙を伺うべきだった。

 そうできなかったのは、おのれの甘さに他ならない。

152 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:49:18 ID:SkkVWD8E0

(//‰ ゚) 「……」

〈;;(。个。)〉 「……ヨコホリ、もういい」

(//‰ ゚) 「まだ息があル。止めを刺すまで安心はできねェ」

〈;;(。个。)〉 「不要だといっている。既に治る傷では無い」

(//‰ ゚) 「……逆さァ、お前のそれは情けでも仁義でもねえ。ただの侮辱だ」

〈;;(。个。)〉 「……」

 地面に膝を折ったィシの頭に、ヨコホリが右手を押し付ける。
 これで終わりだ。頭を吹き飛ばされて終わりだ。
 夫のもとへ行ける。
 散々苦労を掛けた同胞たちと共に行ける。

(//‰ ゚) 「あんたとは、長い付き合いだったなァ。あばよ……」

〈:: − 〉

 ああ。
 だけれど。

(//‰ ゚) 「?!」

 この男を遺していくことだけは、やはり出来ない。

153 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:50:30 ID:SkkVWD8E0

 今まさに魔法を放とうとしていたヨコホリの腕を、ィシの左腕が鷲掴む。
 指を失っていたはずの手には、歪な木の枝が生え、鋼鉄の腕をギリギリと締め上げた。

 反射的にヨコホリが魔法を放つ。
 力づくで射線をずらされた魔法弾は、地面を炸裂させるに終わる。

(//‰ ゚) 「何事だよ、こりゃあ」

 ヨコホリが言うが早いか、ィシはその体をいとも簡単に振り上げた。
 そして、高い位置からの叩き付け。
 逆さ男に行ったような、一度限りのものでは無い。

 何度も、何度も執拗に地面に叩き付けヨコホリの体を痛めつける。
 逆さ男が蹴りかかったのをヨコホリの体を投げつけることで迎え撃った。

爪;'ー`)y‐ 「おいおいおい。嘘だろう?!」

イ(゚、ナリ从 「だんちょ!ダメだ逃げろ!」

 フォックスの魔法煙がィシに絡みついたが、彼女の動きは止まらない。
 虫を追い払うような雑な動きでフォックスに体引き千切った欠片を投げつける。
 間一髪飛びついたイナリによって直撃は避けたが、射線にあった木の幹が大きな音と罅を作った。

154 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:51:10 ID:SkkVWD8E0

(//‰ ゚) 「あの、胸…………糞がァッ!」

 起き上がったヨコホリの視線の先。
 体を再生し、一歩一歩地面を貫くように歩み寄るィシの胸元。
 破れた服の隙間から、赤黒い木片のような物が覘いている。

 木片はィシの皮膚に根を張り、鼓動に呼応して生き物のように脈を打つ。
 見れば彼女の体表は、木の皮のように変貌をはじめ、もはや人間のそれでは無くなっていた。

(//‰ ゚) 「成程なァ。ババアとは思えねえ戦闘力、逆さの蹴りが通じねえ頑丈さ。そう言うことか」

 ィシの右の肩口から先が割れて尖った木の枝が三本張り出す。
 それはギシギシと軋みを立て、先端をヨコホリへ。
 完全に向き直ると同時に、バリスタの如く高速で射出された。

〈;;(。个。)〉 「ッ!一体、何が起きている」

 二本をヨコホリが魔法で。
 一本を傍らにいた逆さ男が蹴りで軌道を変えた。

 ィシは立ち止まり、ヨコホリを睨みつける。
 ただそうしているわけでは無い。
 周囲に落ちていた木の枝や木の葉などを足から取り込み、体表を作り替えてゆく。

155 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/09/29(日) 18:52:06 ID:SkkVWD8E0

〈;;(。个。)〉 「あの赤い木片、魔道具か?」

(//‰ ゚) 「魔道具なんて甘いもンじゃねえ」

 ィシが大口を開けて吠えた。
 既に人間の声では無い。
 よだれが飛び散り、口の奥から猪の牙のように木の枝が伸びる。

 抉れていた頭部も、もがれていた腕も節張った木の肌として再生。
 さらに一回り大きくなり、元の名残はどこにも無い。

(//‰ ゚) 「魔女の呪具だ。俺と同じく、体内に埋め込ンで、体そのものを変えちまう」

〈;;(。个。)〉 「……」

(//‰ ゚) 「あそこまでなったらもう元には戻らン。あの女、本当に人間を辞めやがった」

 人の輪郭を失い、上半身が以上に発達した姿。
 ィシ、だったそれは、ヨコホリを見据えもう一度大きく吠える。

 その姿には、知性も、心も、人間であった面影は一切残ってはいなかった。

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