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870 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 21:51:24 ID:ZVLJWc8I0
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チチチ、チチチと、小鳥のさえずる声が聞こえた。
閉じられたカーテン越しにも分かるほど外は明るい。
薄地の布に遮られ、鋭さを失った陽光が部屋をぼんやりと照らし出している。
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( ゚∀゚) 「動くな、じっとしていろ」
「そ、そんなこと言われても」
スズキ=ダイオード一級曹は困惑していた。
上官の指が自分の頬を這う。
その柔らかなむず痒さに、背中やら首筋やら後頭部やらがぴくぴくと反応する。
間近にあるジョルジュの表情は真剣そのもの。
緊張で唇が堅くなってしまった。
ジョルジュは少し手を止めたが、またすぐにダイオードの顔に触れ始める。
「あの、くっすぐったいです」
_
( ゚∀゚) 「我慢しろ。痛くはないだけありがたく思え」
「むむむ……」
遠まわしにやめてほしいと言ってみたが、ジョルジュは手を止めない、
言葉の通り確かに痛くは無かった。
ゆったりとダイオードの肌を滑る彼の手は気遣いに満ちている。
その分、気恥ずかしい。
普段はどちらかといえば蹴られて吹っ飛ばされることの方が多いので、こういった接し方には慣れないのだ。
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871 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 21:53:03 ID:ZVLJWc8I0
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「中尉」
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( ゚∀゚) 「なんだ」
「何故こんなことができるんですか?」
_
( ゚∀゚) 「……ガキの時分、娼館の小間使いをしていたことがある」
「……」
_
( ゚∀゚) 「その頃にいろいろとやらされて、覚えた」
「初めて聞きました」
_
( ゚∀゚) 「初めて言ったからな。……目、瞑れ」
命令に脊髄で即応し、目を閉じた。
少し間をおいて、瞼の縁をなぞる硬い感触。
これまでのくすぐったさに目の傍を触れられる恐怖感が混じる。
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( ゚∀゚) 「力を抜け」
「……そんなこと言われたって、人に顔触られるの慣れないんだし……」
_
( ゚∀゚) 「だから化粧くらい自分で覚えろと言っただろうが」
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872 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 21:54:27 ID:ZVLJWc8I0
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ため息をつきながら、ナガオカがダイオードから体を離す。
おずおずと片目を開けて様子を確認すると、次の作業の準備に移っているようだ。
違和感の残る瞼を数回動かす。
不快とは少し違うが、変に気になる感触がなかなか取れない。
「変な感じ……」
_
( ゚∀゚) 「しばらくすれば慣れる。次で終わりだ」
「あーい……」
ジョルジュが手に持っているのは、平たい円盤状のケース。
軽くひねって蓋を外すと、淡い紅色の蝋のようなものが詰まっていた。
「なんですか、それ」
_
( ゚∀゚) 「口紅だ。新色らしくてな、普通の紅よりは似合うと思ってこちらにした」
「……中尉、結構ノリノリですか?」
_
( ゚∀゚) 「余り強い色は、生娘には馴染まんからな」
質問はスルーされる。
否定はしないというのが答えなのだろうか
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873 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 21:55:56 ID:ZVLJWc8I0
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二人がいるのは、サロンの街中。
賑やかな表通りから少し奥まった路地に入った場所にある貸家である。
人気が少なく、かといって中心地から遠いわけでもないため、密かに何かを行うのには都合がいい。
実際周辺には春を売る類の店がいくつか点在している。
_
( ゚∀゚) 「任務の内容は覚えているな?」
ジョルジュの小指が、唇を這う。
紅が絡んでいるため少し粘りある感触。
相変わらず花弁を愛でるような優しい手つきで、ダイオードの唇が染められてゆく。
_
( ゚∀゚) 「一度VIPでやらかしてるお前に任せるのは、不安ではあるが」
不思議な感触だ。
男の無骨な指ゆえか、はたまた他人の指だからか。
擦れ合う皮膚の感触が波紋を作って体中に広がってゆく。
_
( ゚∀゚) 「今の俺の手駒で、適役がお前しかいない」
紅をさし終わり、ジョルジュが紙を差し出した。
ダイオードは受け取ったものの、それをどうしていいのかわからず、猿か何かのように角度を変えて眺める。
_
( ゚∀゚) 「……軽く咥えて、余分な紅を落とすんだよ」
ダイオードは「そんなの知ってたんだし」という顔で言われた通りに紙を咥えた。
僅かに張り付く感触。
離すと、縁に綺麗な唇の跡がついている。
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874 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 21:57:32 ID:ZVLJWc8I0
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( ゚∀゚) 「鏡見てみるか?」
「なんか、怖いんですけど」
ナガオカに手鏡を差し出され、おずおずと受け取った。
生まれてこの方、化粧などしたことがない。
十代の半ばで軍に入ってからは髪も短く揃え、女らしさとは無縁に生きていたように思う。
それが任務の為とはいえ、化粧をし鬘をつけ、なんかふわふわひらひらとした服を着せられている。
男装するのが普通のダイオードにとって、女装した自分というものは未知であった。
「……」
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( ゚∀゚) 「どうした」
「……」
_
( ゚∀゚) 「不満か」
「い、いえ。ちょっと驚いて、ます」
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( ゚∀゚) 「……」
「……母に、似ていたもので」
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( ゚∀゚) 「……そうか」
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875 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 21:58:55 ID:ZVLJWc8I0
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施された化粧は、比較的薄いものであった。
肌が息詰まるほどでは無く、見た目にも派手な印象はない。
それでも目元のラインや髪型のわずかな違いで普段のダイオードとは別人に仕上がっている。
普段男装している彼女故の印象の違いも作用しているのだろう。
_
( ゚∀゚) 「問題は?」
「ありません」
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( ゚∀゚) 「口調に気を付けておけ。向こうにはお前を知っている者もいるからな」
ダイオードの頭によぎるのは、金髪の、同じ年頃の女傭兵。
気が強くなんか妙にかみついてきたりして、すごく不愉快な奴だった印象ばかりが残っていた。
たしかに、あいつにだけはバレたくない。なんかすっげえ不快な笑顔で嗤われる予感がある。
「大丈夫ですよ中尉。私だってもともと女なんですから」
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( ゚∀゚) 「……」
わざとらしく鬘で長くなった髪の毛をさらりと掻き上げた。
ナガオカは真剣な面持ちを変えず、むしろより深刻な顔で何やら黙り込んでいる。
「中尉?」
_
( ゚∀゚) 「俺はとんだ芸術品を生み出してしまったようだ……」
「……」
* * *
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876 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:00:17 ID:ZVLJWc8I0
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ξ#゚听)ξ 「“爆ぜて弾けろ―――”」
前日の夜、ハインリッヒ宅からの帰路でタカラと二人が立てたフラグは、見事その任を全うした。
支店に対する直接的な攻撃こそないものの、サロンの各地で大五郎、根絶法側、双方の兵士が小競り合いを起こしている。
その規模は遠くから睨みあう程度の物から、
ξ#゚听)ξ 「“―――インパクト”!!」
魔法や武器を行使しての激しい戦闘までと幅広い。
ツンが魔法を放った相手は、その足から地面を奪われ、針葉樹の幹に背を打ち付けた。
跳ね返って地面に落ち、そのままうつ伏せに倒れ動かない。
(#´誉`)「オウラァ!」
魔法の反動でやや体勢に乱れが出た一瞬の隙を狙い、禁酒党の賊が鉈を振り上げる。
ツンは無理に反撃には移らず、距離を取るために左側方へ転がった。
男は空振りはせず、冷静にツンを追跡する。
膝をついた体勢で振り返り、ナイフを逆手に持って前へ。
その鈍く輝く刃越しに、ツンは男を睨みつける。
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877 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:02:33 ID:ZVLJWc8I0
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(#´誉`)「死ね!」
ツンは、振り下ろされる鉈の一撃にナイフを合わせるつもりでいた。
刃と刃を合わせるのでなく、柄を握る指を抉り落とすのだ。
しかし、その想定は味方の援護で無用となった。
高く振り上げられ、渾身の力が込められた男の腕。
青筋の浮き上がるそこに、軽快な音を立てて矢が突き刺ささる。
削りだしただけの木の矢は貫通することは無かったが、骨に引っかかった衝撃と痛みで、握られていた鉈が地面に落ちた。
(#´誉`)「?!」
苦痛と混乱に眉間をゆがめる男の左足に、さらにもう一本の矢が突き刺さる。
「あ」と間の抜けた声をあげて姿勢を崩し、膝をつく。
ツンはこの好機を逃さずに、立ち上がりながら前へ。
その顔面、鼻よりやや上の眉間に、飛びかかる様に体重の乗った膝を叩きつけた。
咄嗟のことに防御が間に合わなかった男は額を蹴り抜かれ、仰向けに体を跳ねると、そのままブリッジの姿勢で倒れる。
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878 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:04:16 ID:ZVLJWc8I0
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ξ゚听)ξ 「タk……」
倒れた男が意識を失っていることを確認したツンは、援護の矢を放ってくれた仲間、タカラ=イッコモンを振り返る。
彼は弓を手に持ったまま短刀を持った男と格闘していた。
格闘、と言っても刃物相手になす術なく、身を捩りながら回避するのに手いっぱいだ。
タカラも小剣を持ってはいるが、連続で振り回される攻撃に、武器を持ち帰る余裕がない。
きっと、ツンの援護に回ったが為にここまで追い込まれたのだろう。
ξ#゚听)ξ 「ニョロ!」
ツンの首元から獣交じりの蛇キメラ、ニョロが首を伸ばす。
魔法式を展開し維持していた彼は、その空弾の魔法をタカラを狙う暴漢に向かって放つ。
目に見えるほど渦巻き突き進む風の弾丸が、丁度短刀を振り抜いてがら空きになったその脇腹に直撃した。
肉を潰す鈍い音と、骨の割れる小気味のいい音が同時。
呼吸を失い、男は打ち上げられた魚のように口の開閉を繰り返した。
事態の急変に意識を追いつかせたタカラ。
身体を萎えさせ蹲ろうとする暴漢の顎を、空いていた右の掌で殴り抜く。
脳を揺らされ頸椎をねじられた敵は、小刻みに痙攣しながら地面に突っ伏した。
( ,,^Д^) 「サンキュー、助かったにゃ」
ξ゚听)ξ 「そっちこそ、ナイスアシスト」
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879 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:06:11 ID:ZVLJWc8I0
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周囲では未だ大五郎と禁酒党の兵同士が戦っていた。
人数の面でやや押されていた大五郎の小隊であったが、ツンとタカラが三人を倒したことでやや形勢を盛り返す。
ツンは一息つく間も無く、すぐさま味方の援護へ。
鍔迫り合いをしていたその隙だらけの脇腹に、跳躍からの蹴りをお見舞いする。
目をひん剥き、唾液を吐き出した彼は、一気に押し返され、首元への峰打ちで意識を奪われた。
ミ´・w・ン「助かった。ありがとう、えっと」
援護したこの仲間の名前は確かミンクス=フェイクファー。
ツンより年上ではあるが若く、未熟さの残る青年だった。
どこぞで剣を習っていたらしく全くの素人ではないが、やはり踏んだ場数の差が見て取れる。
といっても、ツンだってまだまだ実戦経験は少ないのだけれど。
ξ゚听)ξ 「礼を言うより、残りを」
ミ´・w・ン 「ああ、分かってる」
ツンとミンクスは同時に別の味方の援護に走った。
が、この時点でほとんどその必要はなくなっている。
残りの敵の体には、どこかしらにタカラの放った矢が突き刺さっていた。
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880 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:07:34 ID:ZVLJWc8I0
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ξ゚听)ξ 「一先ず、これで終わりね」
気絶させた敵の兵士を拘束し終えたのはそれから間もなくのこと。
数名に逃げられてしまったが、大五郎側も守りが優先のため深追いはしない。
まあ、ツンはタカラに首根っこを押さえられていなかったら確実に追いかけていたけれど。
ξ゚听)ξ 「タカラ、それ、大丈夫?」
捉えた禁酒党をどうするか相談している最中に、ツンはタカラの袖に切り裂かれた跡を見つけた。
麻の分厚いシャツがぱっくりと割れて、縁に血もついている。
恐らく先ほどの短刀の男にやられたのだろう。
( ,,^Д^) 「ああ、大した傷じゃないにゃ。もう血も止まってるし」
そう答えながらも、タカラはその傷を隠すように手で覆う。
ちょっとしたものであればツンの魔法でも対処できるが、タカラは頑としてそれを拒んだ。
二人がこそこそと言い合っている内に、小隊の行動は決まった。
ツンを含む隊の半分はこれまでの任務通り警邏を続ける。
タカラや、他の負傷者を含む残りの半分が拘束した禁酒党員を連れ、支店に帰還する、というもの。
ツンの個人的な感覚としては、他に並びの無い弓の名手であるタカラがメンツから外れるのは痛い。
怪我をしているから、無理に引き止めることはできないけれど。
人数の減った勢力にやや不安を感じながら、ツンたちは巡回を再開した。
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881 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:09:06 ID:ZVLJWc8I0
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ミ´・w・ン 「ディレートリだっけ?強いよね、君」
ξ゚听)ξ 「……別に、どこにでもいるわよ、これくらい」
ツンたちは支店防衛の一環として、サロン内を警邏する任務に就いていた。
指定の区域はオーマ湖周辺。
正直全くいい思い出の無い土地の為ちょっと気は滅入っているが、市街地で無い分戦闘になった際は動きやすい。
巡回を再開したツンたちの小隊は、さらに複数に散らばり、ある程度の距離を保って道を進む。
今大五郎が最も警戒しているのは直接の突撃部隊ではなく、魔法による長距離からの狙撃。
いくら周辺で店を守っていても、遠方から魔法で狙い撃ちされてはたまらない。
故に、狙撃に利用されそうな土地を重点的に警邏しているのだ。
ξ゚听)ξ(あの男は、絶対来る)
ツンが三度に渡りコケにされた、仮面の男。
どうやら大五郎の敵としては定番の方らしく、名前や特性も知ることが出来た。
ヨコホリ=エレキブラン。別名、サイボーグ。
魔女によって半身を奪われ、代わりにタリズマンを埋め込まれハーフゴーレムとなった元暗殺者だそうだ。
そこらへんの詳しい経緯は不明らしいが、ツンにとってはどうでもいい。
とにかくあの男、ヨコホリはとても厄介な強敵だということ。
そして、今のツンではあの男を倒すのが困難であるということ。
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882 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:10:12 ID:ZVLJWc8I0
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ξ゚听)ξ 「もっと、出てこないかな、禁酒党」
ミ´・w・ン 「昆虫採集してるんじゃないんだから」
実際の戦闘の中で試したいことはいくらでもあった。
師のもとで長く修行を重ねたツンは、単純な技術や能力においては十分に強者の部類に含まれる。
女であるとか、まだ少年期を抜けきっていない体躯の未熟さを含めても、その力は他の傭兵に勝るとも劣らない。
問題は、彼女には圧倒的に実戦経験が足りないということ。
妹弟子との組手はさんざんやってきたが、本気で敵意を向ける相手との戦闘は少ないのだ。
魔女の生み出したキメラなど、短期間の内に濃密な経験を積みはしたが、それでもやはり本当の強者には程遠い。
ミ´・w・ン 「ん?」
巡回のルートの折り返し地点、支店から最も遠いポイントでミンクスが足を止めた。
傍にいたツン以外の傭兵は既に支店の方に戻りだしている。
(゚ペメ彳 「どうした、若造」
ミ´・w・ン 「いや、ちょっとなんか居た気がして」
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883 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:11:28 ID:ZVLJWc8I0
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(゚ペメ彳 「……動物じゃないのか?」
ミ´・w・ン 「かも。ちょっとだけ見てくるから、先に戻ってってください」
ミンクスが指で示したのは、道から大きく外れた森。
オーマ湖を囲う林と一つながりになっており、獣たちが多く生息している。
賊が隠れるのには適した環境だが、同時に慣れない人間が潜むには少々危険が大きい。
(゚ペメ彳 「休憩のポイントで待機している。深追いはするなよ」
ミ´・w・ン 「了解。誰かついて来てくれると安心なんだけど……」
「誰か」限定しない言い方をしながらもミンクスの目はツンを向いていた。
他の傭兵たちは必要も無いという様子で、彼に乗るつもりは全くなさそうだ。
所詮は寄せ集め。
それぞれの利益の為ならば連携するが、基本的に「仲間」では無い。
ξ゚听)ξ 「わかった、私が行くわ」
ミ´・w・ン 「そう来なくっちゃ!」
剣を鞘ごとベルトから取り外し、ミンクスは木をかき分けながら森に侵入。
ツンもそのあとに続いた。
視界が一気に狭まるため、ニョロを首から出し周囲を探ってもらう。
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884 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:12:36 ID:ZVLJWc8I0
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数分、まだ10分に満ちない程度だろうか。
ミンクスは迷いなく木々の間をかいくぐり奥へと進んでゆく。
一応ツンがナイフで木に目印を刻んではいるが、あまり深くまで行くと戻れなくなるかもしれない。
ξ;゚听)ξ 「ねえちょっと、本当にいるの?」
ミ´・w・ン 「うーん、たぶんこっちなんだけど」
ミンクスの歩みは衰えない。
彼が邪魔な枝葉を払い道を作ってくれているお蔭で歩きやすくはあるが、ツンがついて行くのか精一杯なほど。
山に慣れているという生易しさでは無い。
まるでこの森に何度も分け入ったことがあるかのような。
ξ;゚听)ξ (……)
ツンは目印をつけるためだけに持っていたナイフを、そっと逆手に持ち返る。
ホイホイとついてきたことを少しだけ後悔。
恐らくミンクスは、潜んでいるかもしれない敵を探しているわけでは無い。
もっと別の明確な理由を持って木々の間を進んでいる。
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885 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:13:39 ID:ZVLJWc8I0
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ξ;゚听)ξ 「……そろそろ諦めて戻らない?」
ミ´・w・ン 「もう少しだから、付き合ってよ」
ミンクスの気配が露骨に変化した。
敵意とは異なるが、威圧を感じる独特の雰囲気。
先ほどまでの頼りなさが嘘の様で、ナイフを握る手に力が篭る。
ミ´・w・ン 「別に、君に害を加えるつもりじゃないんだ。そんな警戒しないで」
ξ;゚听)ξ 「……」
ミ´・w・ン 「僕じゃ君には勝てないだろうし、襲い掛かったりしないでね」
口調は相変わらず。
それが一層不気味。
彼の言葉通り、ツンが本気で挑めば勝てない相手ではないだろう。
こちらにはニョロがいるし、何よりミンクスの剣はこの木々の中で扱うには長すぎる。
黙って進むミンクスの背中を見る。
警戒心はまるでない。
ナイフを突き立てる程度ならばいとも簡単にできそうだ。
その戦意の無さを信用し、ツンはソワソワと落ち着かないニョロを宥める。
とりあえず今蹴り倒すことだけは止めておこう。
ツンも流石にそろそろ、考えなしに手を出すのがよくないと学習しているのである。
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886 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:14:36 ID:ZVLJWc8I0
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奇妙な距離と緊張感を保ったまま、さらに数分。
ミンクスが前触れなく足を止めた。
あまりにも唐突だったため、ツンは咄嗟にナイフを前に構える。
ミ´・w・ン 「姐さん、連れてきましたよ!」
臨戦態勢を取るツンを完全にスルーし、ミンクスが声を張り上げる。
呼応するように、周囲の茂みから次々と男が現れた。
鉈、斧、スリングショット、ナイフ等々、それぞれに武器を手に持っている。
ξ;゚听)ξ (……罠!)
学習したつもりになって大人しくしていたらこのざまである。
姿勢を低く、飛び道具をいち早く警戒。
ニョロは待ってましたとばかりに範囲の広い風の魔法の展開を始めた。
ミ;´・w・ン 「ちょっと、害意は無いって!」
ξ゚听)ξ 「この状況で、その言葉をどう信じろっての!」
ミ;´・w・ン 「もう!なんで武器持ってんですかみんな!」
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887 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:15:28 ID:ZVLJWc8I0
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手を出す、と決めたからには速攻。
それがツンの信条である。
この状況でも未だ戦意を見せないミンクスは置いておき、まずはスリングショットを持った男に狙いを定める。
飛び道具持ちを優先して落とさなければ、逃走すらままならない。
ξ゚听)ξ 「いくよ、ニョロ!」
ツンはブーツの魔法を発動。
男との距離は4メートル弱。
向こうが射線上に遮蔽物の無い場所を選んだためか、一足で十分攻撃が可能だ。
低い姿勢から一歩。
足を軋ませ、筋肉を引き絞る。
魔法の力が溢れ出し、ツンの跳躍を補助、――――しない。
ξ;゚听)ξ 「ほあ?!」
確実に発動したはずの魔法が、消えていた。
お蔭様で通常程度の跳躍しかできずに、ツンは出っ張った木の根に足をつく。
イメージと現実のギャップに対応できなかった身体がバランスを崩し、たたらを踏んだ。
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888 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:16:53 ID:ZVLJWc8I0
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ξ;゚听)ξ 「??」
「相変わらず、威勢が良い奴だ」
ξ;゚听)ξ 「―――あ」
〈::゚−゚〉 「数日ぶりだな、大五郎の」
( ・−・ )v
枝を踏む音と共に現れたのは、数日前にツンを助けた女、ィシ=ロックス。
傍らにはローブに身を包んだ青年、シーンもいる。
ブーツの魔法を消したのは、恐らく彼だ。
ミ´・w・ン 「姐さん、遅いですよ。すぐに出てきてくんなきゃ」
〈::゚−゚〉 「予定よりも早く連れてきたのはお前だろうが」
ξ;゚听)ξ 「えっと、つまり……?」
〈::゚−゚〉 「ああ、察しの通り……」
ξ;゚听)ξ 「ィシさんもぶっ飛ばせばいいの?」
〈::゚−゚〉「お前、もう少し落ち着こうな」
* * *
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889 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:17:48 ID:ZVLJWc8I0
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古びた店だ。
壁や柱の壁材は黒ずみ、年代を重ねた独特の色を醸し出している。
悪い雰囲気では無い。
人の少ないところも、好みだ。
文句をつけるとすれば、店主がカウンターの向こうで居眠りをこいていることか。
(´<_` ) 「ショボン、っていうのは、あんたか?」
少し大きめに声をかけた。
床板が軋む。
声をかけた店主は、いかにも眠たげに顔を上げた。
軽く伸び、数回体をねじってからやっと立つ。
(´・ω・`) 「いらっしゃい。ロック、ストレート、レモン割りならすぐにできるが」
(´<_` ) 「ショボン、っていうのは?」
オトジャ=サスガは同じ質問を繰り返す。
「ショボン」の名を聞いた瞬間、店主から寝ぼけた雰囲気が消え、顔が別人のそれに切り替わった。
(´・ω・`) 「誰にここを教わった?」
(´<_` ) 「大五郎の、シブザワ」
オトジャは懐から名刺を取り出す。
大五郎の社長、シブザワの直筆のサインと、「よろしく頼む」といった旨の言付けが書かれている。
(´‐ω‐`) 「……随分な大物だな」
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890 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:18:52 ID:ZVLJWc8I0
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小さいため息をひとつ。
店主は店を手早く締め、カウンターに戻った。
グラスに氷を転がし、大五郎(この場合焼酎の銘柄を指す。25度)のボトルを持ち上げる。
(´<_` ) 「俺は、酒はいらん」
(´・ω・`) 「俺が飲むんだ」
(´<_` ) 「……」
(´・ω・`) 「少し寝不足なんだ。気付けにいっぱいやらせてくれ」
流石は酒の街の住人といったところか。
とくとくと注がれる透明の液体は、氷に罅を入れながら満ちてゆく。
音色というには少々安い、氷がガラスを小突く音が、小さく広がって消えた。
アルコール独特の、冷たさを持った甘い匂いに鼻腔がくすぐられる
(´・ω・`) 「―――で」
一口、味わうというよりもスッと流すように酒を飲み下し、店主はグラスを置いた。
その眼からは一切の気だるさが消えている。
少し不安を覚えていたオトジャだったが、流石、叔父の紹介ははずれでは無いらしい。
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891 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:19:57 ID:ZVLJWc8I0
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(´・ω・`) 「うちに来たってことは、それなりに面倒な仕事だと思うが」
(´<_` ) 「……まどろっこしいのは無しだ。魔女の情報はあるか?」
(´‐ω‐`) ツゥ...
日と
(´・ω・`) 「最近は、魔女が流行なのか?」
店主がもう一度グラスに口をつけた。
口ぶりからするに、他にも魔女の情報にかかわろうとした人間がいたということだろう。
ちらりと、一人候補の顔が浮かんだが、今はそんなことはどうでもいい。
(´<_` ) 「あるのか、無いのか」
(´・ω・`) 「あるよ。夜明け前に叩き起こされて仕入れたとっておきに新鮮なのがな」
言葉の意図を読んで、オトジャは金の入った麻袋をカウンターに置いた。
ただの飲み屋の店主に渡すような金額では無い。
(´・ω・`) 「こりゃまあ、随分と」
(´<_` ) 「足りないとは言わせん」
(´・ω・`) 「……いいだろう。十分過ぎる金額だ」
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892 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:20:51 ID:ZVLJWc8I0
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(´・ω・`) 「と、こいつを受け取る前に」
袋に詰まった金が本物であるかを簡単に確認したのち、ショボンは手を放した。
腕を組んで、オトジャの顔をまっすぐに見据える。
(´・ω・`) 「あんたの名は?」
(´<_` ) 「……」
(´・ω・`) 「シブザワが俺に回すくらいだ。そこらの破落戸とは思わんが」
(´・ω・`) 「情報を売る相手の素性ぐらいは、控えておきたいんでね」
(´<_` ) 「一つ約束してもらえるか?」
(´・ω・`) 「内容によるな」
(´<_` ) 「俺がここに来た、ということを他の誰にも流さんでほしい」
(´・ω・`) 「お安い御用だ。そもそも、客の情報は漏らさんよ」
(´<_` ) 「……オトジャ=サスガだ。流れで傭兵をやっている」
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893 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:21:35 ID:ZVLJWc8I0
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ショボンの目が、値踏みするような非道徳的な光を携える。
情報屋だけあってサスガの名は知っているようだ。
国外で仕事をすることが主のオトジャ達は、チャンネル国内ではそれほど有名な名では無い。
知っているのはそれなりに情報に通じた人間だと言える。
(´・ω・`) 「兄がいるはずだが?」
(´<_` ) 「いるが、今は別件で動いている」
(´・ω・`) 「……まあ、それなら、シブザワとの繋がりも頷けるな」
ショボンが麻袋の口を縛り、カウンターの下に納めた。
金を受け取ったということは情報を売るということだろう。
身を屈めたまま何やら探っていたショボンは、袋の代わりに巻かれた紙を一枚取り出してカウンターに広げた。
(´・ω・`) 「ジュウシマツ砦。知っているか?」
(´<_` ) 「聞いたことは」
(´・ω・`) 「もし乗り込むつもりなら気を付けろ。岩が切り立っていて自然の迷路のようになっているらしい」
(´<_` ) 「……わかった」
ショボンから詳しい道順の乗った地図を買い取り、店を出る。
魔女の居場所は把握した。
叔父の紹介した情報屋だ。ある程度信用できる。
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894 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:22:29 ID:ZVLJWc8I0
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( ´_ゝ`) 「どうだった?」
情報屋の店を出て、予定よりも少し早く着いた拠点の宿には既に兄がいた
彼も目的を無事終えたらしく、おんぼろのテーブルの上にはいくつものがらくたが置かれている。
(´<_` ) 「ここだそうだ」
地図を投げ渡し、自分はテーブルの上の物品に目を通す。
指輪、仮面に人形にぼろ布の塊。
一見すればゴミにしか見えないほど古ぼけて薄汚れているが、これらは立派な魔道具、タリズマンである。
(´<_` ) 「4、か。よく集まったな」
( ´_ゝ`) 「なに、どいつもこいつも喜んで引き渡してくれたよ」
しゃあしゃあと答える兄。
オトジャは魔道具の中の一つ、指輪型のそれを手に取りはめてみる。
小さいが、上質な代物だ。
かなり容量の大きい大地のタリズマン。
これ一つで家が建ってもおかしくない。
(´<_` ) 「……いつしかける?」
( ´_ゝ`) 「タリズマンの書き換え次第だな。二人掛かりでどれくらいかかるか」
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895 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:24:10 ID:ZVLJWc8I0
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(´<_` ) 「それと、オルトロスには、どうする」
( ´_ゝ`) 「どうするって、何が?」
(´<_` ) 「協力を仰ぐのか、ってことだ」
( ´_ゝ`) 「……」
(´<_` ) 「あいつも魔女を探していると言っていた。協力を得られれば、相当な……」
( ´_ゝ`) 「俺たちだけでやる。そう言ったはずだ、オトジャ」
兄は、オトジャの言葉を遮るように地図を投げ返した。
確かに、父や母の力を借りず、自分たちの手で妹の四肢を取り返すとは誓った。
しかし、魔女の能力は常識の域を脱している。
二人だけで本当に勝てるのか、そもそもまともな勝負になるのか、それが懸念であった。
( ´_ゝ`) 「そのために、こんな面倒をかけてタリズマンを集めているんだろ」
(´<_` ) 「……ああ」
二人が魔女を倒すために集めたタリズマンは全部で10。そこに元から持っていたタリズマン三つを合わせ計13個。
しかもその一つ一つが滅多に手に入らないとされる上級ランク。
兄弟程の実力者が扱いこなせば、ちょっとした軍とならわたり合えてしまう。
そのレベルの代物ばかりである。
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896 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:25:36 ID:ZVLJWc8I0
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( ´_ゝ`) 「なんにせよ、早めにこの街を離れよう」
(´<_` ) 「砦の近くに集落がある。規模は小さいが宿もあるそうだ」
( ´_ゝ`) 「そこを拠点にして動きを探りつつ、だな」
(´<_` ) 「ああ」
さらりと打ち合わせを終え、二人はすぐにタリズマンに込める魔法の準備を始めた。
魔法式の書き換えが必要なものは大地のタリズマン三つ。
さらに魔法そのものを込めなければいけない星のタリズマンが三つ。
魔力を備蓄する月のタリズマンが四つ。
タリズマンへの干渉、特に大地のタリズマンの書き換えは基本的な魔法の展開とは異なるため、非常に時間がかかる。
これら全ての準備を終えるとなると一日前後はかかるだろう。
( ´_ゝ`) 「とりあえず、大地の書き換えを最優先にしよう。星は最悪無くても何とかなる」
(´<_` ) 「わかった。前に話した通りの式を組み込むぞ」
( ´_ゝ`) 「無理はするなよ、明日の朝にはここを出る」
(´<_` ) 「ああ、分かってる」
* * *
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897 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:27:12 ID:ZVLJWc8I0
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〈::゚−゚〉 「これ以上時間を取っても悪い。単刀直入に言おう」
恐らく、自然に出来た洞穴だろう。
木の根が大きく張り出し、そこが入口になる様に地下に広い空間が出来ている。
入る時こそ少々窮屈だが、中は大人が数人が居ても十分な広さがあった。
天井で揺れるランタン。
山の中でマタギをしていた者が作ったのだろうか。
穴の内側は板と柱で補強されており、地下である暗さと圧迫感を除けば普通の小屋にも見える。
〈::゚−゚〉 「君を、私たちの仲間に迎えたい」
ξ;゚听)ξ 「……」
ツンは、自らを真剣に見つめるィシの眼差しに少なからず戸惑った。
嘘や冗談の類では無いだろう。
濃い影を作るランタンの下、ィシは微動だにしない。
かつて飲酒文化を守るために戦った酒造連盟の系譜、「禁恨党」。
ィシは現在その首領として荒くれを取りまとめている。
禁恨党は言わば反反根絶法団体。
ただし彼らの場合、目的は飲酒文化の保護では無く、根絶法にまつわる暴動の被害者の救済。
及び、報復。
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898 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:27:52 ID:ZVLJWc8I0
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〈::゚−゚〉 「君のお爺さん、イラネ=ストレイトとは何度か顔を合わせた。娘の、ヒート=ディレートリともな」
〈::゚−゚〉 「だから、君の名前を聞いて、すぐにピンと来たよ」
〈::゚−゚〉 「よく見れば、顔も似ている」
ξ゚听)ξ「……よく、言われます」
〈::゚−゚〉 「……私の予想が正しければ、君は復讐のために大五郎に入った。違うか?」
ξ゚听)ξ 「そうです」
ツンのことを、祖父のつながりで調べたのならば当然両親のことも知ったのだろう。
父母を殺された少女が武力を身に着け、反対の勢力に身を置く。
その状況を見れば、「復讐」の一言は簡単に浮かんでくる。
ツンは実に単純な思考回路の為、ィシの予想は見事に当たっていた。
〈::゚−゚〉 「だとすれば、大五郎よりも私たちの方が君の目的には合うと思う」
ξ゚听)ξ 「……」
そう、合う。
大五郎の目的は飽くまで酒を売ること。
軍備を整え、禁酒党と戦うのは目的を守るために過ぎない。
大五郎に身を置いていれば確かに禁酒党との接触の機会は増えるが、復讐というツンの目的からはやや遠いのだ。
対して禁恨党の目的はツンのそれとほぼ同じ。
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899 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:29:05 ID:ZVLJWc8I0
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〈::゚−゚〉 「ここにいるのは、君と似た境遇の者ばかりだ」
ξ゚听)ξ 「……一つ、聞いてもいいですか?」
〈::゚−゚〉 「ああ。構わない」
ξ゚听)ξ 「同じ境遇の人は、他にもいるのに、こんなことまでしてなぜ私を?」
この質問に、初めてィシが目線を外した。
露骨ではないが、動揺の気配をほのかに感じ取る。
〈::゚−゚〉 「君が、酒造連盟創設者の一人、イラネ氏の孫だからだ」
ξ゚听)ξ 「……」
〈::゚−゚〉 「そしてあの“サイボーグ”に少なからず認められた」
〈::゚−゚〉 「癪だが、あの男の戦士を見る目は確か。故に、戦力として君を迎え入れたい」
いまいち、腑に落ち切らない部分はあった。
納得はできる。
ただ、もっと別の理由がある気がしてならない。
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900 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:30:22 ID:ZVLJWc8I0
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〈::゚−゚〉 「……すぐに、とは言わん。さらに言えば、大五郎をやめる必要も無い」
悩む顔を見せたツンにィシは畳みかける。
揺らいでいるのを見抜いているのだ。
〈::゚−゚〉 「我々としても、大五郎の内部に仲間が居た方が都合がいいからな」
ξ;゚听)ξ 「……」
ミ´・w・ン 「姐さん、そろそろ戻らないと流石に怪しまれる」
〈::゚−゚〉 「そうだな。今日はこんな形で呼び出してすまなかった」
ξ;゚听)ξ 「いや、別に」
ィシの指示に従ってツンとミンクスは洞穴を出た。
時間は、20分弱といったところか。
待っている仲間たちが何かを感づくころである。
ミ´・w・ン 「……遅くなったね、急ごうか」
禁恨党のメンツに見送られながら、来た道を戻る。
一度通った場所だけに、枝葉はよけられているが、足元は不安定。
思いのほか急ぐことは難しい。
ξ゚听)ξ 「ミンクスは」
ミ´・w・ン 「ん?」
ξ゚听)ξ 「元から、禁恨党だったの?」
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901 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:31:43 ID:ZVLJWc8I0
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ミ´・w・ン 「そうだよ」
ξ゚听)ξ 「じゃあ、大五郎にはスパイとして?」
ミ´・w・ン 「スパイ。……うーんスパイかぁ……」
ミンクスは振り返らない。
来た時と同じように、慣れた様子で残る枝葉を払いながらぐんぐんと進んでゆく。
ミ´・w・ン 「そうだねぇ。僕たちは、組織自体が小さいから、情報面に弱いんだよね」
ミ´・w・ン 「だから、こっそりと大五郎の情報をもらって、利用している」
ミ´・w・ン 「あくまで禁酒党とか、テロリストの撃退に協力しているだけだから、スパイって感じではないんだけどさ」
ξ゚听)ξ 「直接もらえばいいんじゃないの?敵じゃないんだし」
ミ´・w・ン 「そこがね、難しいところなんだよねぇ……」
ツンは勢力関係などにはほとんど興味がない。
故にミンクスの言う「難しいところ」の意味がよくわからなかった。
仲よくすればいいだけなのに、と思わなくはない。
ミ´・w・ン 「あ、茂みから出る前にナイフちょっと貸して」
ξ゚听)ξ 「……なんで?」
ミ´・w・ン 「遅くなった言い訳を作るんだよ」
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902 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:33:22 ID:ZVLJWc8I0
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渋々ツンがナイフを貸すと、ミンクスはおもむろに自分の服の二の腕あたりを切り裂く。
肌も浅く切れて血が滲んでいた。
ξ;゚听)ξ 「ちょっと、何やってんのよ」
ミ´・w・ン 「僕たちは茂みに入って、潜んでいた敵と遭遇。戦闘になった」
刃を持ってミンクスがナイフを返す。
ツンはマントの裾で僅かについていた血を拭い、鞘に戻した。
ミ´・w・ン 「敵は逃走。深追いは危険と判断し、僕らは一時撤退。どう?」
ξ;゚听)ξ 「……それだと、あの洞穴、大五郎に見つかっちゃうんじゃ」
ミ´・w・ン 「大丈夫、君を連れて行った時点であそこは捨てるよ。今頃はもう出てるんじゃないかな」
そこまで準備していたわけだ。
ぷっくりと血の粒を膨らませるミンクスの傷を見ながらツンはため息を吐いた。
ξ゚听)ξ 「その傷、応急処置してあげる」
ミ´・w・ン 「え?いいの。優しいなあ」
差し出された腕に、止血と痛みどめの魔法をかける。
薄い魔法のベールが周辺を包み込んで、傷口を保護。
元々浅い傷だったこともあってすぐに血が止まった。
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903 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:35:07 ID:ZVLJWc8I0
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(゚ペメ彳 「……敵がいたのか」
茂みから出ると、既に大五郎の仲間たちが集まっていた。
リーダーの男はミンクスの腕を見て、状況を察したらしく、そう尋ねる。
そこからはミンクスの提案通りの話。
逃げ込んだ禁酒党の賊と戦闘になり地理的な不利に押され、逃げられた。
一応の辻褄が通る報告に、一先ずは仲間の納得は得られたようだった。
(゚ペメ彳 「支店の本隊に報告し、対応はそのあとでいいだろう。どうせ今からでは追いつかん」
ミ´・w・ン 「そうですね。僕もそれでいいと思う」
ξ゚听)ξ 「……」
支店へ帰還は、特別問題が起きず無事に済む。
おかげで、ツンはずっと禁恨党に誘われたことについて考えていた。
殺された母と父のこと。
「自分の元にいる方が危険だから」とあえてツンを遠ざけ、結局顔を合わすことなく病死してしまった祖父。
そして、祖父とも知り合いだというィシ。
ィシ=ロックスのことは信用してもいいと思う。
根拠はないが、直感でそう感じていた。
彼女には、他の敵たちがすべからく纏っている嫌な気配が全くない。
ブーンやタカラ、ハインリッヒに近い匂いがして、それは恐らく間違いではないのだ。
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904 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:36:16 ID:ZVLJWc8I0
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だが。
復讐は、自らの手で行うと決めた。
大五郎に入ったのは、自身に足りない情報収集力を借り、足りない経験を効率よく積むため。
あくまで戦いは一人で行うつもりだ。
ィシの申し出は、正直言って非常にありがたい。
師やブーン達とは違い、そもそも目的の同じ者たち。
力を貸してもらうのではなく、ともに戦うことが出来る仲間というのは、実力不足を痛感するツンには貴重だ。
それでも素直に首を縦に振れないのは、気持ちの問題だった。
ツンは、両親を殺したテロリストを恨んでいる。
ぶちのめしたいとも思っている。
でもそれは、私刑にかけて罰を与えたいとかいう、そんなことではないのだ。
一人の人間として、けじめをつけたい。
あの日、何もできずに、破壊される我が家に背を向けて逃げ出した自分を赦せないまま生きてきた、これまでに。
たぶんきっと、他の誰かの力を借りて勝ったとしても、ツンは納得出来ない。
復讐するのはツンだ。そうでなければ、今まで生きてきた意味すらなくなってしまうような気がしていた。
ξ゚听)ξ(誰かと仲間になるなんて、考えたこと無かったや)
支店の裏、壁に寄りかかりながらツンは空を仰ぐ。
雲がゆったりと流れてゆく、穏やかな天気。
首に巻き付いて居るニョロが、静かに寝息を立てていた。
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905 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:37:13 ID:ZVLJWc8I0
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( ,,^Д^) 「どうしたんだにゃ。ぼーっとして」
ツンのことを探していたのだろうか。
タカラが店舗の影から顔を出した。
警備のローテーションで、現在彼らの班は支店の守りについている。
ξ゚听)ξ 「……」
( ,,^Д^) 「なんか、あったんだにゃ?」
弓を肩にかけたまま、タカラが隣に並ぶ。
体格がよく、まっすぐ立っていればツンより頭一つ背が高い。
( ,,^Д^) 「俺で良かったら聞くにゃ?」
ξ゚听)ξ 「うーん」
少し悩んで、タカラに禁恨党のことを話した。
信頼出来る人格者であるし、秘密を守る口の堅さもある。
ややちぐはぐな道筋にはなってしまったが、タカラは概ね理解してくれたらしかった。
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906 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:37:56 ID:ZVLJWc8I0
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( ,,^Д^) 「ツンはどうしたいんだにゃ?」
ξ゚听)ξ 「……私は、自分の力でやりたいんだけど」
VIPでブーンたちと出会い、大五郎に入ってタカラと仲間になり、サロンではハインリッヒに何度も助けられた。
そうでなくとも、仲間の存在の重要さは十分にわかっているつもりだ。
仲間になりたいと思う心は確実にある。
( ,,^Д^) 「もう少し、様子を見てもいいんじゃないかにゃ」
ξ゚听)ξ 「やっぱりそう思う?」
( ,,^Д^) 「だにゃ。向こうがせかしてるわけじゃないなら、ゆっくり考えた方がいいにゃ」
ξ゚听)ξ 「即断即決が信条なんだけどな」
( ,,^Д^) 「これから四日間悩んで決める、と決めればいいにゃ」
ξ゚听)ξ 「……ものは考えようだ」
何となくうまく言いくるめられたような気もしたが何となく気持ちは軽くなった。
結局先延ばしにしているだけなのだけれど、まあ、仕方がないということで。
復讐にまつわる事案だけは、今までのように勢いだけで決められることではないのだから。
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907 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:39:52 ID:ZVLJWc8I0
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ξ゚听)ξ 「……ん?」
さほど遠くないところから怒声が響いてきた。
この状況下からして。ただの喧嘩ではないだろう。
恐らくは、大五郎と根絶法側の小競り合い。
( ,,^Д^) 「また敵襲かにゃ?」
ξ゚听)ξ 「行こう。仕事仕事」
( ,,^Д^) 「ったく、矢が無くなっちまうにゃ」
ツンはナイフに手をかけ。
タカラは肩から弓を外し、矢を一本取る。
( ,,^Д^) 「いつまで続くのかにゃあ、こんなの」
ξ゚听)ξ 「どっちかが潰れるまででしょ」
( ,,^Д^) 「ま、パパ頑張って稼いじゃうにゃー」
予想通り、支店からさほど遠くないところで兵同士がもめていた。
街中だけあってまだ武器は抜いていないが、いつそうなってもおかしくは無い。
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908 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/12(日) 22:40:56 ID:ZVLJWc8I0
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( ,,^Д^) 「……ツン、行くのやめた方がいいにゃ」
ξ゚听)ξ 「なんで?」
( ,,^Д^) 「君が行くと、絶対よくない方向に行く気がする」
ξ゚听)ξ 「……確かに」
火に風を送ったり、油をぶちまけたりするのは大得意である。
できるだけ穏便に済ますのが得策の状況においては、最も不向きだ。
しかし、ツンが向かうまでも無く、敵方の一人が剣を引き抜いた。
こうなっては、こちらも武器を抜くしかない。
( ,,^Д^) 「あーあー、もう、仕方ねえにゃあ」
ξ゚听)ξ 「速攻で決めるよ。援護よろしく」
周囲に被害は出せない。
ツンはブーツの魔法を発動し、力強く地を蹴った。