( ^ω^)剣と魔法と大五郎のようです

十三話

535 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:02:50 ID:uf1.fQDg0

 そこは暗くて寒くて、寂しかった。

 息をすることも出来ずただじっと目を瞑っている。

 ぼんやりとした明かり。

 油のように粘り着くヘドロに抱かれ眠っている。

 そこは暗くて寒くて、寂しかった。

 温度を感じるのは自分だけで、それが怖くてずっと目を閉じている。

 じっとりとした闇。

 鉛のように重い水が、身体をゆっくりと押しつぶす。

 そこは暗くて寒くて、ただひたすらに寂しさばかりがあった。


  *   *   *

536 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:03:32 ID:uf1.fQDg0

从'ー'从「こっちですよ〜」

 先を行く渡辺が手を振った。
 箒を片手に女の子らしい、可愛らしい姿。
 幼少から師の下で戦士としての修行をしながら育ってきたツンにとっては出来ない仕草である。

从'ー'从 「ここです〜」

 ツンタカラブーンの三人はワタナベの案内でサロンにある刃物店を訪れていた。
 ジョーンズが紹介してくれた店で、家庭向けの調理包丁から狩猟採集用のマチェットまで扱っている。
 中々質の良い物が多く、ツンが振り回すに丁度いいナイフも複数あった。

( ,,^Д^) 「そのククリは嫌なのかにゃ」

ξ゚听)ξ「私、もうちょっと扱いやすいのが好きなのよね」

 ツンの腰には、サスガ兄弟が残していったククリが差さっている。
 適当な皮を鞘代わりにして護身用に持ってきたが、これが結構重い。
 実際のリーチはそれほどではないものの、中ほどで曲がったその刃はそれなりに長いのだ。
 破壊力と強度を増すために肉厚になっていることもあり、ツンの腕には少々余る。

ξ゚听)ξ「うーん、どれもいいなあ」

 壁に金具で陳列されているナイフを一つ一つ眺める。
 それぞれ固定されているため手にとることは出来ないが、質は良いように見えた。
 問題は少々高めのお値段だが、それなりの予算はあるのでいけるはずだ。

537 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:04:29 ID:uf1.fQDg0

 ツンがナイフ相手にうんうん唸っている間、タカラは狩猟用の弓矢を見回っていた。
 静養している間、ちょっとしたリハビリで矢を何本か切り出していたのだが、気付いたら減っていたので工面しにきたのだ。
 ついでに、予備の弦も見繕う。
 明日の仕事に支障が出ないよう、二人とも準備を怠らない。

 一方ブーンは。

〔´^ヮ^〕 「うーん、これだけの業物だと、ウチで打ち直すのはちょっと責任持てないねえ」

( ^ω^)「そうかお……ここらへんで他に鍛冶屋はいるかお?」

〔´^ヮ^〕 「言うのはなんだけれど、ここらの鍛治でウチの親父に適う奴はいないんじゃないかなあ」

( ^ω^)「おーん」

 店番の青年に小太刀を見せ、修復の相談をしていた。
 二刀には刃こぼれがいくつか目立ち、片方は遠目にも分るほど歪んでいる。

〔´^ヮ^〕 「ちょっと親父に見せてきてみるよ。よかったら、店にある物みててくれよな」

 そういって青年は二刀を持ち裏へと引っ込んでいった。
 手持ち無沙汰になったブーンはツンの隣に並び野外用の汎用ナイフを眺めだす。

 ツンは数種類の中でも少々異彩を放っていた比較的刃渡りの長いクリップポイント型のナイフに注目した。
 鋭い反りの刃先と、背から切っ先にかけてやや抉れるようにして逃げがあるのが特徴。
 以前使っていたのと同じタイプで、切ったり突いたりするのに向いている。
 ナイフは刃先からしのぎに架けての仕上げにもムラが無く、丁寧な仕事が成されているのが分った。

538 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:05:48 ID:uf1.fQDg0

ξ゚听)ξ「これ、どうかしら」

( ^ω^)「お?」

 隣で山刀を見ていたブーンに目利きを頼む。
 ブーンはナイフに鼻先を近づけ品定めを始めた。
 最後に刃先を爪に軽く食い込ませ、顔を離す。

( ^ω^)「いいと思うお。造りも確りしてるし、切れ味も上々。少なくとも、値段はぼったくりではないおね」

ξ゚听)ξ「そっか。これ手にとって見られないのかな」

 ツンがカウンターを見たところで、先ほどの青年ともう一人頑固そうな初老の男が現われた。
 この男が青年の言っていた親父だろうか。額に巻かれた手ぬぐいがとても職人らしい。
 親父のほうがブーンを手招きすると、青年がツンへ近づいてきた。

〔´^ヮ^〕「決まりました?」

ξ゚听)ξ「これ、手にとってもいいですか?」

〔´^ヮ^〕「お、意外と目利きですね。構いませんよ」

 やや余計なことを口走り、青年はナイフを固定していた金具を外した。
 手渡されたそれは間近で見てもやはり質がいい。
 握りの具合が手に馴染まないことを除けば、文句なしの一品だ。

539 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:06:49 ID:uf1.fQDg0

〔´^ヮ^〕「サービスでグリップの調整もしますよ」

 この言葉も後押しになりツンは財布を開いた。
 料金を支払い、青年はカウンターで道具を取り出しグリップの調整に入る。
 何度かツンの手を取って見比べると、「少し待ってくださいね」と言って作業を始めた。

( ^ω^)「買ったのかお?」

ξ゚听)ξ「うん。そっちは?」

( ^ω^)「歪みの修正と研ぎなら明日までに使えるようにしてくれるって」

ξ゚听)ξ「明日?随分早いのね」

( ^ω^)「代用にマチェットを買って、修繕費もちょっと盛るって条件で引き受けてもらったお」

ξ゚听)ξ「金の力ってすごいわ」

 ブーンはあっさりと山刀を選び精算を済ませた。
 刃渡りが長く、幅が比較的狭い直刀に近いものだ。
 特に握りを調整してもらうことも無く、鞘に収め腰の後ろにベルトで固定した。

ξ゚听)ξ「一つでいいの?」

( ^ω^)「どうせ予備だお。余らせても作った人に申し訳ないし、一刀で十分だお」

540 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:09:04 ID:uf1.fQDg0

〔´^ヮ^〕「ありがとうございやしたー」

 タカラも矢を数本と鏃を幾つか購入。
 ナイフのグリップの仕上げも終わり三人は店を出た。

ξ゚听)ξ「ナベちゃん、何してるの?」

从'ー'从 「この熊手、乗りやすそう……軽いし、造りもしっかりしてる……」

ξ゚听)ξ「はーい、いくよー」

 店先に立てかけられた熊手を真剣な目で品定めしていたワタナベを保護し、一向は次の目的地へ。
 中心街に軒を構える老舗の靴屋で、こちらはハインリッヒに紹介してもらった。
 先日の戦闘で削られたツンのブーツの修繕または買い替えが目的だ。

( ^ω^)「ブーツ自体を買い換えても魔道具としては使えるのかお?」

ξ゚听)ξ「うん。タリズマンを仕込みなおせば、靴自体は割りと何でも」

 全体的に痛んできていたこともあり、思い切って買い換えることに決定した。
 いっそ奮発してオーダーメイドでも良かったのだが、仕事が近いこともあって既製品を購入。
 つま先と踵に保護用の鉛を仕込むよう依頼し、一旦は店を出る。
 サイズ等の調整もあり、早くても午後になるそうだ。

541 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:09:55 ID:uf1.fQDg0

( ^ω^)「……?」

 それを待つ間どこかで食事でもしようかと相談している最中に、ブーンが突然明後日の方向を向いた。
 視線に釣られ三人も同じ方向を見る。
 彼の目は、ここからは見ることの出来ないオーマ湖の方角を向いている。

从'ー'从「どうしたんですか〜」

( ^ω^)「……魔女の、気配がしたお」

 ぼそりとした返答に、ツンは耳を疑った。
 ツンには一切その気配は分らなかったが、やはり呪いを受けている立場だと違うのだろうか。
 首元でぐっすり眠っていたニョロも目を覚まし、襟元から顔を出して周囲を見渡し始めた。
 心なしか不安な表情。何か危険な存在がいるのは本当なのかもしれない。

ξ゚听)ξ「どうすんの?」

 ブーン達が魔女を追っているのは重々承知だ。
 しかし、今は体調も万全ではない上に、武器も一本のみ。
 直接対峙したことが無くとも魔女がそんな半端な状態で相手できるほど甘くは無いことは予想がつく。

( ^ω^)「とりあえず、ここに来て初めての手がかりだし、行ってはみるお」

ξ゚听)ξ「そ、じゃアタシもいくわ」

( ^ω^)「お?」

542 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:11:49 ID:uf1.fQDg0

 ツンの言葉にブーンは面食らった顔をした。
 何言ってんだコイツ、と言わんばかりである。

ξ゚听)ξ「いざとなったら援護も出来るし、ブーツ使って逃げられるし」

从'ー'从「そ、それなら〜私もいきます〜」

( ^ω^)「……」

从'ー'从「私、これでも飛ぶのは誰にも負けたこと無いんですよ〜」

 逃げる前提ではあるが、ブーン一人よりも複数人の方がマシだろう。
 他人のこととはいえ、「勝手にやってろ」で放り出せるほど浅い付き合いでもない。
 何より、ツンはこういうときに首を突っ込まずにはいられない性分なのだ。

 それにツンとワタナベがいればブーンも下手な無茶はすまい。
 あえて足手まといになることで彼を制御しようという考えもあった。
 足手まといになる前提なのが少々虚しくはあるが。

ξ゚听)ξ「タカラはどうする?」

 ずっと黙っていたタカラに尋ねた。
 彼は腕利きの弓使いではあるが、同時に家族を持つ父親でもある。
 給料が貰えるならまだしもロクな見返りの望めない事案に自ら踏み込むかは分らない。

543 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:12:29 ID:uf1.fQDg0

( ,, Д ) 「……」

ξ゚听)ξ「タカラ?」

( ^ω^)「!ツン、離れて!」

 タカラの顔を覗き込もうとした瞬間、ブーンに襟首を掴まれ、後ろに引き戻された。
 ブーンはツンを後ろに庇うと、ワタナベにも警戒を促し、腰の裏のマチェットに手を添える。
 一体何が起こったのか分らないツンとワタナベは、戸惑う目でブーンとタカラを交互に見やった。

( ,, Д ) 「『ダメよー、ブーン。こんなところで剣なんか抜いたら騒ぎになっちゃう』」

( ^ω^)「……」

ξ゚听)ξ

 タカラが突然オカマになった。
 否、高い声色に女のような喋り方になった。
 あまりにも違和感のある言葉に、ツンは寒気を覚えた。
 タカラは虚ろな目でどこも見ておらず、操り人形のように無機質に口を動かす。

( ,, Д ) 「『久しぶりね、ブーン。とはいってもおじさん越しだけど』」

( ^ω^)「……タカラに何をしたんだお、キュート」

544 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:13:11 ID:uf1.fQDg0

 ブーンは未だに山刀から手を離さない。
 タカラがただ操られているのか、それとも入れ替わった何者なのかを判断しあぐねているようだ。
 一応ツンもナイフに手を伸ばしたが、相手がタカラなので切りかかる気にはなれない。

( ,, Д ) 「『別に何もしてないよーん☆たまたま会ったから操られてもらってるだけ』」

( ^ω^)「……」

( ,, Д ) 「『だからぁ、このおじさんのこと切っても私はなんとも無いから好きにして良いよーん☆』」

 小さな舌打ちの後、ブーンはやっと武器から手を離す。
 彼も少しとは言え親交の出来たタカラに武器を突きつける気は無いらしい。

( ,, Д ) 「『さっすがブーン☆話が早いね☆』」

( ^ω^)「……なんの用だお」

( ,, Д ) 「『んー?ちょっとダチ公にブーンのこと〆て欲しいって言われてさー。ちょっと湖に来いやゴルァ的な?』」

( ^ω^)「……」

( ,, Д ) 「『ちなみに、来なかったらこの街の人たちがどうなっても知らないぞー!』」

 ややイラッとした。
 年端の行かない子供にからかわれているような不愉快さがある。

545 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:14:14 ID:uf1.fQDg0

( ^ω^)「わかった。湖に行けばいいんだおね」

( ,, Д ) 「『そうそう☆じゃ、ちゃんと言ったからねー☆バイバーイ☆』」

( ,, Д ) 「『なお、このメッセージが終了次第、このおじさんは爆発しない!☆』」

( ,,^Д^) 「……にゃ?どうしたんだにゃ皆。そんな顔して」

 タカラの意識が元に戻った。居眠りから覚めたような顔で、どこかぼんやりしている。
 本人に事情を説明すると、やはり自覚は無かったらしい。

ξ゚听)ξ「あくまで正攻法で考えるなら、あの手の乗っ取りは直接本人に干渉しないと出来ないんだけど」

 先日タカラが意識不明で倒れた原因が魔女にあるとすると納得がいく。
 前後の記憶が無いのも、何らかの操作を受けたからと言う可能性がある。

ξ゚听)ξ「何か湖に仕込があるって考えるのが妥当よね」

( ^ω^)「だおね。君達はリッヒの家に……」

ξ゚听)ξ从'ー'从

( ^ω^)「って言ってもダメそうだおね。ついてきてもいいから、危なくなったらすぐ逃げるんだお」

ξ゚听)ξ「「は〜い」」从'ー'从

  *   *   *

546 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:15:20 ID:uf1.fQDg0

 暗く淀んだ水の中にその人は立っていた。
 あまりに小さくて少し口を開けば一飲みに出来てしまいそう。
 手がそっと鼻を撫でる。
 動きのない停止した水の中、むず痒いような心地よいような不思議な感触だった。

o川*゚ー゚)o 「調整は上手くいったみたいね」

 その人の口が動いた。
 水の中なのに透き通った声が鼓膜を揺らす。
 優しい。
 愛しい。
 鼻を押し付ける。
 小さな身体で優しく抱きしめてくれた。

o川*゚ー゚)o 「いい子」

 鼻先から伝わる体温が、体の芯に優しい熱を点す。
 鼓動がはっきりと聞こえ、ここが丸ごと母の胎内になったようだ。
 寂しくない。あれほど逃げ出してしまいたかったのに、今はこんなにも。

o川*゚ー゚)o 「これから貴方のお兄ちゃんが来るわ」

548 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:16:47 ID:uf1.fQDg0

o川*゚ー゚)o 「今までお利口にしていた分、遊んでもらいなさい」

 彼女が上を見上げる。
 その目に溢れた何かに、心がざわついた。
 憎いような。
 悔しいような。
 自然と上下の牙がこすれ合う意味不明の感情。

o川*゚ー゚)o 「来たみたいね」

 上を見上げたまま彼女が言った。
 確かに聞える、強い鼓動。
 少し前にも感じた毛先の震える生命力。
 未だ出会ったことのない、遊び相手。

o川*゚ー゚)o 「お行き。思いっ切り、じゃれ付いてきなさい」

 尾びれを一振り。
 生まれた激しい水流に乗って明るいほうへ。
 初めて本気で使う自分の力は想っていたよりも強かった。

 水面が割れる。
 見上げた空はあまりにまぶしくて、呼吸することすら忘れていた。

  *   *   *

549 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:18:00 ID:uf1.fQDg0

ξ゚听)ξ「なんか、すごい嫌な感じがする」

 ツンが静かな湖にそう呟きを落とした瞬間にそれは現われた。
 水しぶきを上げ空中に飛び出し、華麗に身を捻り再び水の中へ。
 砂浜からははるかに遠い場所にも関わらず、はっきりと見て取れるほどの巨躯だった。

( ,,^Д^) 「そうだにゃ、俺はここでアイツを見て……」

 タカラが素早く矢を取り、弓につがえる。
 しかし、潜水されてしまい狙いが定まらない。
 その間にも、現われたそれは、水中をこちらへ向かって来ていた。
 穏やかだった湖面がにわかに乱れ、規則性の無い波がぶつかり合って飛沫を上げる。

ξ;゚听)ξ「魔女がいるんじゃなかったの?!」

( ;^ω^)「そういえば本人が相手にするとは一言も言ってなかったお!」

 とりあえず危険な砂浜から避難。
 湖畔に茂る防風林まで、転びそうな勢いで退避する。

 一層高い水しぶき。
 ついに浅瀬に乗り上げたそれは図太い前足をばたつかせ、一気に岸へと乗り上げた。
 距離を取ったにも関わらず、湖の水が高波となって四人を濡らす。

550 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:19:00 ID:uf1.fQDg0

ξ;゚听)ξ「で、でかい」

从;'ー'从 「ワンちゃん?お魚さん?」

( ,,^Д^) 「」チーン

( ^ω^)「……各自、身の安全は自己責任で」

 それは、犬の頭を持っていた。
 藻のように黒ずんだ長い体毛を纏った前半身に、黒く光沢のある海獣の下半身。
 その大きさは、以前の蛇のキメラの更に三倍にも達するほど。
 伏せるようにしているため、それほど高さは感じないものの、威圧感は相当のものである。

 ツンとワタナベは素早く魔法式を展開。
 風の攻撃魔法と飛行魔法をそれぞれに組み上げる。

( ,,^Д^) 「ブーン、使うにゃ!」

 それと同時、タカラは腰に差していた近接用の小剣を鞘ごとブーンに投げ渡した。
 ブーンは空中で剣を引き抜き、やや弧を描く軌道でキメラへ接近。
 迎え撃とうと前足を振りかぶったキメラの目の下に、タカラの放った矢が突き刺さる。

( ^ω^)「おおおおお!!」

 矢を受け、一瞬ブーンを見失ったことにより、キメラが迎撃に放った前足の引掻きは僅かに直撃を逸れる。
 地に着くほど頭を低く伏せ迎撃をやり過ごしたブーンは、がら空きの脇に滑り込み、手に持つ剣を切りつけた。

551 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:19:52 ID:uf1.fQDg0

 刀身が痺れ弦を鳴らしたような金属音。
 片刃と両刃の異なる双剣は、皮膚に届くことすら出来ずに毛に絡まり止っていた。
 ブーンは無理に粘らず素早く退避。
 キメラが上体を持ち上げ、のしかかるように前足を叩きつけたのを辛うじてかわす。

从'ー'从 「“スカイウォーク”!」

 飛行魔法を発動したワタナベがツンを箒の後ろに乗せ、空へ飛び上がる。
 ツンは展開を続けながらも指で行き先を指示。
 二人は上半身を地面に叩きつけたキメラの丁度真上に来ていた。

ξ゚听)ξ「“ギロチン”!!」

 空気を圧縮し作り出した風の断頭刃。
 それを投げつけるような動作でキメラに向かって放つ。
 狙いは完璧。重みを持った風の剛刀はキメラの図太い首を

ξ;゚听)ξ「バッカじゃないの?!」

 切り落とすことが出来ず、突風を巻き起こしながら砕け散った。
 元より火力には難のある風魔法とはいえ、今ツンが放った魔法は皮鎧を着た人間程度ならば容易く両断する代物。
 それをまともに受けて傷一つ負わないというのは、頭がおかしい。いや、毛がおかしい。

552 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:21:03 ID:uf1.fQDg0

 意識を上に向けたキメラが、ツン達に目を留めた。
 ワタナベはそれなりの高度を維持しており、いくらキメラが巨大と言っても攻撃は恐らく届かない。
 ここからならツンの魔法で一方的に援護が可能なはずだ。

 上を緩やかに旋回するワタナベに気を取られ、下への警戒がお留守になっていたキメラ。
 その胴元へ、ブーンが切り込む。
 タカラは弓を引いたものの、ブーンの奇襲を考慮して、まだ矢は射らない。

 ブーンが剣を振りかぶり、下半身の毛の無い皮膚を切り裂こうとした瞬間、キメラの身体が引き絞った弓のような音を上げた。
 下半身が縮み、前足が地面を離れ、半立ちの状態。
 嫌な予感を感じ取ったブーンは、下半身を渾身の力で切りつけたが弾力のある皮膚はまともに刃を通さない。

( ;^ω^)「ナベちゃ――――」

 ブーンの叫びとどちらが早いか、キメラの巨躯が空中へ跳ね上がる。
 その反動で地面に響く衝撃と共に砂と水が大きく飛散。

ξ;゚听)ξ「?!」从;'O'从

 二人の眼前に突如現われた巨大な犬の顔。そして、開かれた口。
 間違いなく食われる。
 ツンの感覚が時間をせきとめ、まるでコマ送りのようにその瞬間が迫る。

 しかし、僅かに先行したワタナベの舵切り。
 まるで岩を削りだして作ったかの様な牙が、箒の僅か一寸ほど先でカチ鳴らされた。
 ツンは、引き伸ばされた感覚の中、キメラと目が合う。
 飼い主にじゃれ付く子犬のような純粋な輝きにツンが抱いたのは、形容し難い悪寒。

553 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:22:51 ID:uf1.fQDg0

从;'ー'从 「ふぇぇ〜〜!」

 ワタナベは回避した勢いでさらに上空へ。
 その高さ軽く見積もっても30m強。
 流石のキメラもここまでは来れまいが、ツンの魔法も有効な射程ではない。

 一方のキメラは身体を器用に反転し、落下。
 湖の水が巨大な球体状に集まり、クッションの役割となってその巨躯を受け止める。
 激しい水しぶきが周囲を濡らした。
 役目を終えた水はそのまま砂浜に染み込んでいく。

ξ;゚听)ξ(今のは……)

( ^ω^)(魔法も使うのかお……)

 今の大跳躍で全身を湖から脱したキメラは、再度首を擡げ、ワタナベ達を見上げる。
 しかし、彼女らが既に届かぬ高さにいることを確認すると、興味を失って目線を戻した。
 鼻をひくつかせ、体を重たげに捻りブーンを見る。
 完全に標的を切り替えたのか、前足を使い、ゆっくりと向きを変えた。
 
 図太い足が砂を掻く。身をくねらせ、瞬く間に加速。
 その身を矢のように、ブーンに向かって発射した。

 回避が間に合わないと判断し、ブーンは真っ向から立ち向かう。

( ;,^Д^) 「あぶにゃあ!」

 タカラの矢がキメラの首に当たるも勢いは止まらない。
 キメラは勢いのまま身を仰け反り、牙を湛える顎を開き、ブーンに叩きつけた。

554 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:23:58 ID:uf1.fQDg0

从;'ー'从「ブーンさん!」

 ワタナベが急激に高度を落とし、救出へ向かう。
 しかし、高さを保っていたため落下の速度を含めても全く間に合わない。

( ^ω^)「!」

 上方から迫る巨大な顎。
 ブーンは大きく腕を振りかぶり左へ飛びのいた。
 正に間一髪、噛みつきを回避する。

 牙と牙がぶつかり合う硬い音。
 飛んだ勢いで転がり距離を取ってからブーンは起き上がった。

 キメラが素早く身を起こし、再びブーンを目で追うが、何故か追撃は無い。
 その場で頭を振り、咳込み始めた。

ξ;゚听)ξ「?」

 ワタナベとツンはブーンの無事を確認し再び高度を上げる。
 キメラに何があったのかはわからないが、これはチャンスだ。
 ツンはワタナベに高度を上げすぎないよう手で指示し、自身は魔法の展開に入る。

 地上の二人も同様、キメラへ攻撃の態勢に移った。
 タカラは通常よりも鏃の大きい熊狩り用の矢を弓につがえ狙いを定める。
 ブーンは左手に持っていた小剣を右手に持ち替え、居合いのような構えで突進。
 右手に持っていたマチェットがいつの間にか無くなっている。

555 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:24:59 ID:uf1.fQDg0

 突進していたブーンの目の前に、キメラの口から何かが吐き出された。
 ブーンの持っていたマチェットだ。
 切っ先に血がついており、全体が唾液にまみれている。

 先ほどの噛みつきをかわし際に喉に向かって投擲していたのだ。
 口内は多少弱かったらしく、いくらかダメージはあったらしい。

 ブーンは地面に落ちた山刀を手に取らず、そのままキメラへ。
 迎撃の、前足を跳躍してかわし、首もとの毛を掴んで背中へ登る。
 剣を逆手に持ち替え、首を狙おうとしたがすぐにキメラが暴れだした。

 しばし毛を握って耐えたブーンだが、耐え切れずに振り落とされる

ξ#゚听)ξ「“エア=エストック”!」

(#,,^Д^) 「にゃあ!」

 着地で体勢を崩したブーンにキメラが這いより前足で殴りつけた。
 それを阻むように、タカラの矢が目元を、ツンの放った魔法の剣が肩口に突き刺さる。
 二人の救った極僅かな隙に、ブーンは回避。
 丸まった爪の先が左肩を掠め突き飛ばされはしたが、何とか命の危険は避ける。

( ;^ω^)「おー痛い。こりゃまたリッヒに虐められるお」

 左肩が上手く回らない。
 もう少し様子を見なければ分らないが、このまま使えなくなる可能性もある。

556 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:26:03 ID:uf1.fQDg0

 キメラは顔を振り回し顔に刺さった矢を抜く。
 刺さってはいても浅いらしく、大して血が出ているようにも見えない。

ξ;゚听)ξ「ブーン、大丈夫?!」

 ワタナベに下ろしてもらい、ツンが地上へ。
 ブーンが一人で引きつけるには敵が厄介すぎる。
 繊細な動きは今のところ見せてはいないが、図体が大きすぎて回避が回避にならないのだ。

( ^ω^)「生きてはいるお」

ξ;゚听)ξ「私も下でやるわ。ナベちゃんの魔力も温存したいし」

|木|ー'从ノシ

 ツンがチラリと視線を向けた先、ワタナベが防風林の中から顔を出した。
 このまま一人で飛んでいても無駄に魔力を消耗する。
 基本的に非戦闘員である彼女に囮をさせるわけにも行かず、それならば降りて隠れて温存してもらったほうがいい。
 一応、怖くなったら逃げて良いとは伝えたが、恐らくワタナベは逃げないだろう。

ξ;゚听)ξ「あーあ。何でこう戦ってばかりなのかしら」

( ^ω^)「ナベちゃんと逃げてもいいお。割とマジで」

ξ;゚听)ξ「こんなのあんた一人に任せてられるかっての」

 逃げないのは、ツンも同じなのだけれど。

557 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:26:55 ID:uf1.fQDg0

 キメラの雄たけび。
 怒りよりも歓喜のようで邪悪さを感じさせない。
 鼓膜が痺れるそれを終えると、キメラは耳をパタパタさせながらブーン達を睨みつける。
 すぐに上体を伏せ狙いをつけていた。
 尾ひれが、ツンたちの気持とは裏腹に楽しげに左右に揺れている。

( ^ω^)「来るお」

ξ゚听)ξ「分ってるっての」

 キメラが動く。

 二人は、左右に分かれ走り出した。
 キメラは迷わずブーンの方へ。
 ツンは途中で足を止め、キメラの背中へ向かって駆け出す。

 キメラは、上体を持ち上げてからの胴体全部を使っての叩きつけ。
 重い音が響き、ツンの視点からはブーンが潰されたようにも見えた。

 しかし、ブーンは顎と前足の間の僅かな隙間を見切ってすり抜け、腕を駆け上っていた。
 そしてたどり着いた背中に小剣を無理やりに突き刺す。
 なんとか刺さりはしたものの、より深く食い込ませる前にキメラが起き上がってしまった。
 再び振り落とされないよう、剣を残したまま自ら飛び降り距離を取る。

 そして、ドクオと入れ替わった。

('A`) 「ツン!タカラ!十五秒!」

ξ;゚听)ξ「当たり前のように言うんじゃないわよ!」

558 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:28:47 ID:uf1.fQDg0

 ツンは文句を言いながらもブーツの魔法を発動。
 地を蹴って飛び上がり、ドクオに注目していたキメラの背中へ。
 渾身の力を持って、突き刺さったままの剣の柄尻を踏みつけた。

 中ほどまで食い込む刀身。
 やっと痛みを感じたのかキメラが叫びを上げながら上半身を振るう。
 ツンは素早くその背を蹴って安全な距離まで離脱した。
 キメラは不快そうに喉を鳴らしながらツンに向き直る。

('A`) 「“穿ち、砕き、貫き、屠る。我、孤独に溺れた者―――”」

 自身からキメラの意識が離れたことを確認したドクオは、魔法の展開を開始。
 巨体が暴れる巻き添えを食らわぬよう、やや距離を取る。

 キメラは背中に走った痛みの原因がツンだと判断したのか、ツンに向かって咆哮をぶつける。
 衝撃波に近い轟音に、ツンは思わず耳を押さえた。
 鼓膜どころか頭が痺れ、足が無意識にふらついてしまう。

(;'A`) 「ッ!」

 ドクオもこの巻き添えを食らい、一時展開を中断する。
 距離を取っていたタカラだけが何とか無事に動くことが出来た。
 タカラは眉間に皺を寄せながらも、弓を引き鏃をキメラの口へ向ける。
 集中が乱れ上手く照準を合わせられないまま、苦し紛れに矢を放った。

559 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:30:55 ID:uf1.fQDg0

 矢は見事キメラの歯茎に突き刺さる。
 やはり浅いが、場所が場所だったために咆哮を唸りに変えてキメラが怯んだ。
 口を閉じた拍子に矢は抜けてしまったものの口を閉じさせれば十分である。

ξ#゚听)ξ 「ったく、うっっっさいのよ!」

 ナイフを抜き、ツンはキメラへ。
 苛立ちのようなものを見せ始めたその目の前へあえて身を躍らせる。
 キメラがツンに気付き、反射的に前足を振るった。
 雑に放たれたその一撃を食らうわけも無く、ツンは素早く後方へ回避。
 入れ替わりに矢が眉間に突き刺さり、キメラは顔を引っ込める。

('A`) 「“引鉄は軽く、撃鉄は重く――――”!!!」

 ドクオの周囲に、陽炎のように揺らめく魔力が出現。
 それが無数の礫となって、周囲に飛び散った。

('A`) 「ツン離れろ!」

 ドクオの指示を聞いたツンは、逡巡するまでも無く、更に後方へ飛びのいた。
 キメラは更にツンを追おうとしたが、ドクオの魔法の内数個が回り込み行く手を阻む。
 警戒し首を引いたその巨躯を囲むように陽炎の塊が揺らめいている。

('A`) 「“―――我、汝らを殲滅す”!!」

 魔力の塊が弾けた。軌跡を残し、キメラを強襲。
 多少の時間差を作りながらも、ほぼ一斉にキメラの身体を打ち抜いていく。

560 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:31:44 ID:uf1.fQDg0

 キメラは攻撃を受けながらも頭を伏せ、前足で抱えて守る。
 利いているのかいないのか。
 人間やまともな動物であれば即死していそうな重い音が響いているが、体が大きすぎて効果が分らない。
 ここまでまともに通った攻撃がほとんど無いので望みは少々薄いが。

('A`) 「“散りし兵、骸となれど”」

 魔法を打ち切る前から、ドクオが新たな魔法式を展開する。
 無属性ではあるようだが、ツンは見たことの無い魔法だ。
 巻き込まれても損なので、いざ攻撃を受けた時のために障壁の魔法を組む。

 最後の魔法弾がキメラの前足にぶち当たり、少し間を置いてキメラが顔を上げた。
 ダメージが無かったとは思いたくないが、少なくとも大ダメージということにはなっていないらしい。

 キメラの頭は魔法の発生源であるドクオへ。
 頭にきているのか、目が少し血走っている。

(;'A`) 「“猛りし魂、剣を握る”」

ξ;゚听)ξ(間に合わない!)

 キメラが身体を縮め、バネが跳ねるようにドクオに飛び掛った。
 ドクオの魔法も、ツンの魔法もギリギリで間に合わない。
 タカラは弓を構え矢を放ったが、キメラを止められるわけも無く。

 巨体がドクオの華奢な身体に襲い掛かる。

561 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:32:25 ID:uf1.fQDg0

ξ;゚听)ξ「ドクオ!」

 爆発のような重い音。
 勢い余ってキメラは着地した場所から数メートル滑って止まった。
 悠々と身を擡げ振り返る。

( A`) 「……“我、鎮魂を奏でる者―――”!!」

 キメラに纏わり付いていた魔力の残滓が一点に集まり一個の塊となる。
 炎のように揺らめくそれはキメラの身体に纏わりつくと、染み込んで消えた。
 そして。

(#'A`) 「“汝を―――葬送す!”」

 プツン、という張り詰めた糸が限界を迎えて切れたかのような、小さな音がした。
 その発生源は、キメラの巨大な胴。
 ツンもタカラも、音の意味が分らず、息を呑んでキメラをキメラを注視する
 一見何の変哲も無かったが、突如身をくねらせ口と鼻から血を吹き出した。

ξ゚听)ξ「ドクオ!」

(#'A`) 「ロンリードッグ様を舐めるなってんだ!」

 すり潰されて死んだかと思われたドクオが居たのは上空。
 スカートをひらめかせ旋回するワタナベの箒の後ろだった。

 ほんの刹那の間に彼女が箒でドクオを救出したのだ。
 あまりに高速で攫われたため若干鞭打ち気味のドクオでは合ったが、魔法を行使できる程度には無事である。

562 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:33:32 ID:uf1.fQDg0

('A`) 「ナベちゃんありがとう、もう下ろしてくれて大丈夫だ」

 キメラがのた打ち回り、地面に倒れた。
 それと同時にドクオとワタナベも箒から降りる。
 ツンはナイフを手に持ったまま、そこへ。
 タカラは弓をキメラに向け警戒しながら寄って来た。

ξ;゚听)ξ「死んだかと思ったわよ」

('A`) 「俺もな。ナベちゃんが来るのが見えなかったら、全部をブーンに押し付けて引きこもるつもりだった」

从;'ー'从「ふぇ〜間に合ってよかった〜」

( ,,^Д^) 「アレは何をしたんだにゃ?」

('A`) 「魔力をちょーっと変換して体内に浸透させて、内部で更に変換して内臓を破壊した」

('A`) 「体内に残った魔力はそのままあのキメラの魔力と混ざって、生命力を低下させて再生を阻害する」

ξ;゚听)ξ「エグイ……」

 ドクオはいとも簡単そうに言ったが、異常に難度の高い魔法である。
 魔力を持つ生き物は防衛本能として他の魔力を受け入れないようになっているため、浸透させるのがまず困難。
 なまじ上手く浸透させても、次の段階を発動させる前にキメラの魔力と混ざればちょっと体調を崩させて終わりだ。
 とにかく生半可な調整では成り立たず、ちょーっとで片付けられる魔法ではない。

563 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:34:13 ID:uf1.fQDg0

('A`) 「本当は、魔女を仕留めるつもりで考えてた奴だから、あんまり見せたくなかったんだが」

 ドクオが周囲の防風林を見渡す。
 丁度この砂浜を挟むように広がっているが、鬱蒼としていて奥までは見えない。
 この中で魔女が見ているのだろうか。

('A`) 「あの調子じゃ、外部からの攻撃はまともに通らないだろうしな」

 ため息。
 目線は、だらりと地面に横たわっているキメラへ。
 口と鼻から滾々と血が溢れている。
 かなり酷い具合に破壊したのが腹を捌かなくとも分った

 そして、異なる魔力が混ざったため恐らく生命機能は著しく落ちている。
 蛇キメラのような再生能力があった場合を考慮してのダメ押しだろう。
 これで死んでいなければそれはもう生き物ではない。

ξ゚听)ξ「本当に、敬服するわ、アンタには」

从*'ー'从「すごいです〜」

( ,,^Д^) 「ホントに、かなわんにゃあ」

 ドクオは照れているのか複雑そうな表情で頭を掻く。
 どこと無く不満げに見えた気もするが、とりあえず倒せたことには変わらない。
 勝利を喜び、ツンはナイフを鞘に納めた。

  *   *   *

564 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:36:03 ID:uf1.fQDg0
  _
( ゚∀゚) 「……報告にもあったがとんでもない魔法使いだな」

 湖畔を囲む林のとある木の上で、ジョルジュは双眼鏡を片手に呟いた。
 自称メランコリーズ=ロンリードッグ。本名山田孝雄。
 聞いたことの無い名のため、精々軍の上級魔法使い程だと思っていたのだが、格が違う。
 魔法の力が強いというよりもセンスが異常だ、と称するべきか。

o川*゚ー゚)o 「でしょー。ドッグって結構凄いんだよ☆」

 なんてったって私に殺されなかったんだから、と魔女は小さく続けた。
 好敵手を讃えるような、ただの好意だけではない感情を孕んでいたように聞える。
 横に並ぶ顔をチラリと見やると、、コロコロに太った鼠を見つけた蝮のような目をしていた。
  _
( ゚∀゚) 「どうするんだ。あっさり負けたみたいだが」

 魔女本人が戦わないと聞いた時点で不安はあった。
 かなりの兵を動員して人払いをしているのに、何の成果も無いというのは問題だ。
 せめて明日の襲撃を妨害されない程度にはダメージを与えたい。

o川*゚ー゚)o 「んふふー?」
  _
( ゚∀゚) 「アンタが直接戦えばすぐだろうが」

o川*゚ 3゚)o 「それじゃつまんないじゃん」
  _
( ゚∀゚) 「……あのな、アンタは遊びのつもりでも、こっちは真剣に頼んでるんだよ」

 自然と眉間に皺が寄った。
 実際の火力はともかくとして、この女は武器としては欠陥が多すぎる。

565 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:37:30 ID:uf1.fQDg0

o川*゚ー゚)o 「まあ、私もちょっとビックリかな。あの子がここまでやられちゃうなんて」
  _
( ゚∀゚) 「次の手は考えてるのか?」

o川*゚ー゚)o 「なーんにも☆」
  _
( ゚∀゚) 「……」

 やはり失敗だった。
 いくら他に手が浮かばないからと言ってこの女を頼りにするのが間違いだったのだ。
 ジョルジュは支部へ帰ろうと木を飛び降りる。

o川*゚ー゚)o 「どこいくの?」
  _
( ゚∀゚) 「報告だ」

 一度魔女を見上げ、スカートの中が見えそうになりすぐに視線を伏せる。
 魔女は枝の上にしゃがみこんでそんなジョルジュを笑った。

o川*゚ー゚)o 「もうちょっと見てけばいいのに」
  _
( ゚∀゚) 「見るも何も、どう見たってあんたのキメラの負k……」

 耳を劈く咆哮が、ジョルジュの言葉を遮った。
 驚き一瞬硬直したが、すぐさま双眼鏡を目に当てる。
 やや歪むその視線の先で、死んだはずのキメラが元気良く雄たけびを上げていた。

  *   *   *

566 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:38:20 ID:uf1.fQDg0

ξ;゚听)ξ「タカラ!!」

 ツンがナイフを収めてから、ほんの一瞬の出来事であった。
 死んだと思っていたキメラが突如動き出し、ツンたちに襲い掛かる。
 唯一動けたのは警戒心を残していたタカラ。
 彼は咄嗟に三人を突き飛ばし、自分だけがキメラの前足になぎ払われた。
 口から空気と唾液の漏れる音を残してタカラの身体はボールのように地面を転がる。

(;'A`) 「なんで…ッ」

ξ;゚听)ξ「バカッ!」

从;'―'从 「ふぇ?!」

 不意のことに完全に足が止まってしまったドクオとワタナベの襟首を掴み、ツンは魔法を発動してその場を飛びのく。
 連続で放たれた逆の前足が、ドクオの寸前を丸い爪が通り過ぎた。
 着地と同時にドクオはブーンと入れ替わり、ツンの手を離れる。
 ツンはそのままワタナベを抱き上げ、雑木林に逃げ込んだ。

( ^ω^)(ドッグ、どういうことだお)

(;'A`) 『わからねえ、あの魔法ならいくら生命力が強くても仕留められたはずだ』

( ^ω^)(……曲がりなりにも、キュートの作ったキメラってことかお)

(;'A`) 『クッソ!』

 ドクオの悪態を聞きながらも、ブーンはキメラに立ちはだかる。
 チラリとタカラに目をやると、うずくまったまま動かない。

567 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:39:46 ID:uf1.fQDg0

 巨大な体から放たれる咆哮。
 内蔵まで痺れさせる轟音を耳に指を突っ込んでやり過ごす。
 キメラが内臓を著しく損傷していることは口から飛び散る血を見れば明白。
 それでもこれだけの馬力を残しているというのは、本来では考えられない。

ξ;゚听)ξ「タカラ!」

 ワタナベを安全な場所まで避難させツンはタカラに駆け寄る。
 仰向けに寝そべる胸に耳を当てると確りとした心音が聞えた。
 意識は無いが、生きている。
 怪我の度合いも分らないがとりあえず安全圏へ運ばなければならない。

ξ;゚听)ξ「ニョロ手伝ってくれる?」

 怯えて堅くなっていたニョロを首から解き、タカラの首から顎に巻く。
 動脈をせき止めない程度に締め付け、頸部を固定した。
 あとは出来る限り衝撃が響かないようにゆっくりと引き摺って林へ運ぶ。

ξ;゚听)ξ「ナベちゃん!」

从;'ー'从 「は、はい〜」

ξ;゚听)ξ「急いでリッヒを呼んできて。私じゃどうしようも出来ない」

从;'ー'从 「わ、分りました〜」

 ワタナベが焦りながら箒に跨り、飛び立った。
 木に何度もぶつかりピンボールのように跳ねながら何とか街の方へと飛んでゆく。

568 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:40:40 ID:uf1.fQDg0

ξ;゚听)ξ「さて、私は……」

 ツンがブーンの加勢に出ようと歩き出した瞬間、ツンの足にニョロが巻きついた。
 頭を擡げ、心配げな面持ちでツンを見上げる。
 危ないから行くな、と言いたいようだ。

ξ゚听)ξ「大丈夫よ」

 ニョロを抱き上げ、タカラの傍に下ろす。
 まだ不安な顔をしていたので、頭を撫でてやった。

 その背後で、再びキメラの咆哮。
 ニョロが怯えたように首を引っ込めた。
 今はブーンが一人で相手している。時間を食っている暇は無い。

ξ゚听)ξ「ニョロ、そこで大人しくしていてね」

 魔法式を展開しながら雑木林を飛び出した。
 そこには、キメラと素手で格闘するブーンの姿。
 キメラは全くダメージが無いわけではないのか、先ほどまでよりもやや動きが鈍いように見える。

ξ#゚听)ξ「“ビートアップ”!」

 ブーンの無事を確認し、ツンは展開していた身体強化の魔法を彼に。
 そしてすぐさま別の魔法式展開へ入る。

569 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:41:28 ID:uf1.fQDg0

 魔法を受けたブーンは、すぐさまその効果を理解し、飛び上がった。
 目標はキメラの顔。
 状態を後ろへ仰け反らせ、硬く握った拳を両脇に構える。

( #^ω^)「杉浦双刀流、無刀の型―――!」

 キメラは突如膂力を増したブーンに戸惑いを見せ、動きが止まった。
 しかし、反射的にか口を開き迎え打とうとする。

( #^ω^)「鐘砕き!」

 正に鐘を打ったかのような重い金属音が響き渡る。
 上体ごと放たれたブーンの両の拳が、キメラの牙を打ち抜いた。
 左右から打ち込められた衝撃は牙の内部で反響し合い、内側から牙を破壊する。
 砕け散るとまでは行かなかったが、キメラの左の犬歯に大きな皹が入った。

 ブーンはやや反動を受けながらも着地。
 拳からは血が滴っている。

ξ#゚听)ξ「“弾けて爆ぜて吹っ飛ばす―――”!」

 歯を割られた痛みに口を開けて鳴き声を上げながら後退するキメラ。
 ツンは、手元に生み出された魔法弾の狙いを、その赤黒い口内に定める。

ξ#゚听)ξ「“ぶち抜け―――シュート=インパクト”!!」

 反動を伴い放たれた魔法弾は一直線に目標を襲い。
 丁度閉じかけたキメラの口にすっぽりと収まった。

570 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:43:29 ID:uf1.fQDg0

 閉じきったキメラの口内で、魔法弾が炸裂する。
 衝撃魔法にとって閉鎖空間は真骨頂を発揮する絶好の場だ。
 逃げ場を失った振動の波は脳にまで達し、キメラは目から血を吹きながら倒れる。

 ドクオの「外がダメなら内から」理論は正しい。
 高度な魔法の技術は無いが、ツンでも出来る方法はある。
 問題は、今の攻撃でキメラにトドメを刺せたか、ということ。

( ^ω^)(やったのかお?)

(;'A`) 『常識で考えれば、今ので死ぬなり気絶するなりしてくれるはずなんだが』

 流石に一度痛い目を見ているため(主にタカラが)、ツンもブーンも警戒を持ってキメラへ近づく。
 呼吸は無かった。しかしそれは先ほども似たようなものだ。
 死んでいたところで、このキメラが再び生き返らない確証は無い。

ξ;゚听)ξ「今の内、天叢雲で解体しましょうか?」

('A`) 「待て、あれ使わせて魔力空にされたんじゃ困る」

 入れ替わったドクオが、魔法式の展開を始めた。
 以前も見せた、糸のような魔力を張り巡らせる結界型の拘束魔法だ。
 落ち着いた展開は素早く済み、キメラの巨体を白い斑が覆い尽くす。

571 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:44:48 ID:uf1.fQDg0

(;'A`) 「これで、仮に生きてても何とか抑えこめるだろ」

ξ;゚听)ξ「死んでてくれれば、安心なんだけどね」

(;'A`) 「念の為に、燃やすか……」

 ドクオが結界を維持したまま、炎の魔法を展開する。
 これも蛇のキメラにトドメを刺した上級の魔法だ。
 体躯が大きいため、念入りに強化の式を組み込んでいる。

 しかし。

(;'A`) 「ぬおおお!?」

 キメラはやはり死んではいなかった。
 突如暴れだし、結界を掻き毟る。
 流石のドクオも新たな魔法の組み上げは諦め、結界の維持に集中。
 その間にツンは衝撃魔法の準備に入った。

(;'A`) 「クッソ!なんか変だ!」

 徐々にだが、結界が弱まっている。
 ツンの目にはキメラに破壊されているというよりも、結界そのものが消えていっているように見えた。

 ついに、前足の爪が結界を引き裂く。
 ツンは迎え撃つように裂け目に魔法弾を打ち込み、ドクオの手を引いてその場を退散した。

572 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/24(水) 23:45:42 ID:uf1.fQDg0

(;'A`) 「もしかして、あんにゃろ……ッ」

ξ;゚听)ξ「何々、なんなのよ!」

(;'A`) 「確信はねえが……」

 ドクオの言葉を遮るように、結界が完全に破られる音が響く。
 最早ボロ屑となった結界の残滓からキメラが悠々と脱出する
 そのままツンたちに襲い掛かるかと思いきや、その場に留まって身体を震わせている。

ξ;゚听)ξ「何やってんの、あれ」

(;'A`) 「まさか……いや、だとするとあの魔法で死ななかったのにも納得がいく……」

 その隙にもう一発魔法をぶち込もうかと展開を始めたツンをドクオが手で制した。
 ドクオは真剣な目でキメラを見ている。
 先ほど言いかけていた何かを確かめているのだろうか。

(;'A`) 「…………やっぱりだ」

 キメラの周囲にあった結界の残滓が解れて消えていく。
 否、非常に細かい魔法力の粒となって揮発し、キメラの身体に吸い込まれているのだ。
 それだけではない、湖が、木々が震え、その微量な魔力が引き出され、キメラの身体に集まって消える。

(;'A`) 「あのキメラ、他者の魔力を吸収してやがる……ッ!」

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