( ^ω^)剣と魔法と大五郎のようです

十二話

474 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:19:33 ID:F4YosrFc0

('A`) 「第いっかーい、チキチキ!ロンリードッグ先生の魔法教室〜〜〜!」

从*'ー'从 「わ〜い!」

ξ゚听)ξ

 場所はハインリッヒの家の裏手。
 リビングと同程度の空き地に、木箱が三つと、どこから持ってきたのか黒板が一枚置かれている。
 その場にいるのは、チョークを持ったドクオと箒を担いだ渡辺、そしてツンの三名。

 タカラは昨日のお使いの途中で突然ぶっ倒れたため病室で寝かされていた。
 ハインリッヒはいつもの往診。
 ツンも本来ならば仕事のなのだが、連日のダメージが響き体がうまく動かないため、休みを貰っている。
 支店長であるジョーンズにはどうせ仕事が無いからと笑顔で快諾された。

 そして、同じく安静を命じられたドクオが言い出したのが、この「魔法教室」なのだ。
 確かにツンは魔法を教えてくれとドクオに頼んでいたし、望むところではあるのだが。

ξ゚听)ξ 「なんかこう、森にはぐれキメラを狩りに行くとか、そういうのじゃないの」

('A`) 「仕方ないだろ。リッヒに安静にしろって言われているし」

 それはそうだが。

475 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:20:35 ID:F4YosrFc0

('A`) 「何より、魔法は理論です。机上の空論を机上から飛び出させる夢のツールです」

('A`) 「逆に言えば、机上での勉強なくして優れた魔法使いにはなれない!」

从*'ー'从 「はーい」

ξ゚听)ξ

 師匠と同じことを言っている。
 ツンはそういう理論を習うのが苦痛だったこともあって飛び出してきたのだ。
 現時点で既に頭が痛い。

('A`) 「ナベちゃんは魔法塾でどこまで行った?」

从'ー'从 「基本式までは習いました〜」

('A`) 「よし、んじゃ一応最初から行くか。ツン、書記頼む」

ξ゚听)ξ「ええ、なんでよ」

('A`) 「お前はなまじ分ってると思っている分、そっちにいるよりこっちの方がちゃんと理解できる」

 やる気のない返事をして立ち上がった。
 チョークを受け取り、いつでもいい、という風に肩をすくめて見せる。

477 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:21:35 ID:F4YosrFc0

('A`) 「はじめに魔法を使うのに必要な魔力について話をしようか」

 生きている生命全ては魔力をもって生まれてくる。
 魔力は生命体の生命力のバランスを調整する役目を持って生み出される、というのが現在の一般的な見解だ。
 故に、魔力が著しく低下すると、死亡に至らずとも身体に異常をきたす。
 魔法使いが一般人よりも平均して五年以上寿命が短いというデータもあり、
 魔力の消耗が身体に決定的な負担をかけていることは間違いない。
 (尚、このデータの中に戦死者は含まれない)

('A`) 「だから、大抵の魔法使いは魔力が空になるような無茶は滅多にしない」

 ドクオが何か含みのある顔でツンを見た。
 ぷいっと目をそらす。
 黒板に適当な図を書いて、渡辺に分りやすいように説明を纏める。

从'ー'从 「ドクオせんせ〜い、私、魔力の固有振動がよくわからないんです〜」

('A`) 「いい質問ですね、ワタナベ君。あと俺のことはロンリードッグ先生と呼ぶように」

 魔力は、生命体ごとにまったく異なった性質を持つ。
 観察した際にその性質の違いが振動の強弱として現われることから、それを「魔力の固有振動数」という。
 振動数は同種間であっても同じになることはほとんど無い。

  ※メタ的な説明をすれば、一言に魔力といっても骨髄の型ほどパターンがあるのである。

 しかし多様な魔力も、一般にはその大元の性質を差して5〜6程度の分類に分けられる。
 これが使用できる魔法の種類を分けるのだ。

478 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:22:27 ID:F4YosrFc0

('A`) 「んまあ、「魔力には個性があって、魔法の適性を左右する」程度が分ってれば十分」

('A`) 「固有振動数ごとの法則跳躍魔法利用とか、空間魔力との共鳴作用による振動数の変換とか……」

从;'ー'从 「???」

ξ;゚听)ξ「????」

(;'A`) 「そういう踏み込んだ知識を学ぶのは研究者を志してからでも遅くないから忘れろ」

 あからさまにチンプンカンプンな顔をしたワタナベとツンを見てドクオは言葉を切り上げた。
 実際、研究者として日々魔法の研究をしている者と、ツンのように前線で戦闘利用している者は
 道具を発明する人間と、それを使い作業する人間ほど違う。
 魔法に対する意識そのものからして全くの別物なのだ。

从*'ー'从 「ドクオさんは自分で魔法考案したりしてますよね〜」

('A`) 「ああ。最近じゃ少数派だが、昔は大抵の魔法使いは自力で魔法を考案してつかってたんだぜ」

('A`) 「誰かの考えた魔法を知識として共有して使う風潮が根付いたのは魔法の歴史からいえばつい最近だ」

 ドクオはそういうが、実際問題として魔法式の研究と実践利用を両立するのは並みのことではない。
 魔法が理論とはいえ魔法式の展開は技術がモノを言うので、実用に足るレベルになるにはトレーニングは必須。
 過去に魔法使いが選ばれた一部の者しかなれなかったのは、そういった側面があったからなのである。

480 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:23:46 ID:F4YosrFc0

('A`) 「っと、そういう話はまた後にしよう。長くなるし」

('A`) 「えーっと、魔力の適正の話だったな」

 先に触れた魔力の性質には、それぞれ適切な魔法が存在する。
 それぞれの適性は便宜上の表記としてA>B>C>D>E>F(全く使えない)の段階で表記することが多い。
 ツンであれば最も優位なのが風魔法がB 次いで水C、治療魔法D、その他E以下と言った具合だ。

ξ゚听)ξ 「そういえばドクオの適正ってどうなの?無属性と火は見たけど」

('A`) 「辛うじて火がC。他は全部D。今はブーンが混ざってるから全体的にマイナス補正かかってる」

ξ;゚听)ξ 「は?それであの威力なの?」

('A`) 「上級に強化式を組み込んでやっとアレだからな。妥当だろ」

ξ;゚听)ξ(強化式組み込んでおいてあの速さなのがおかしいんだけど)

 無論適性はあくまで適性であり、最終的な魔法の効力を決めるのは本人の努力だ。
 魔法使いとしての錬度が低ければ高い適性も無駄となる。
 故に適性が高い=魔法が強いとは絶対では無い。

 ちなみに無属性というのは魔力そのものを物理的なエネルギーに変換し扱う魔法を差す。
 ドクオが良く使う防御魔法や、ツンの障壁魔法などがそれだ。
 他の魔法と異なり魔力の性質がほぼ関係ないため魔法使い本人の技量が効力に反映するのが特徴である。

481 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:24:32 ID:F4YosrFc0

('A`) 「魔法は基本的に単一の魔力でのみ実行できる」

 似た特性を持った魔力同士であっても、混ざり合えば振動の違いが反発を生み著しく劣化する。
 場合によっては使い手自身の魔力が乱れ、その場で卒倒する危険すらあるのだ。
 そのため、複数人で同一の魔法を展開する場合は、まず魔力の性質を統一する魔法を使う必要がある。

('A`) 「何より、魔力は自分自身のものでないと扱えないからな。他人に与えるって言うのはほぼ不可能だ」

ξ゚听)ξ「でも、あいつらやってたわよ」

 あいつらとは、先日剣を交えたサスガ兄弟のこと。
 一つの魔法式の展開を途中で引き渡したり、魔力を委譲したり、普通ではありえない行為だ。
 魔法式は別種の魔力が混じった時点で瓦解してしまうし、他人の魔力を受け取るなど自傷と同義である。

('A`) 「アレは、全体で見ても珍しい特異体質だろうな。双子だからって誰でも出来るわけじゃねえ」

ξ゚听)ξ 「剣も使えるし、魔法も強かったし、ドクオよりもすごいわね」

(;'A`) 「アレは向こうがおかしいの!俺は一般にしては全然すごいほうなの!」

从*'ー'从 「ドクオさんはすごいですよ〜かっこいいですよ〜」

(;'A`) 「ありがとうナベちゃん。だからせめて君だけでもロンリードッグって呼んで……」

  *   *   *

482 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:25:25 ID:F4YosrFc0

 VIPシティ中央北寄りの住宅街。
 中層の住民が集まる区画であり、VIPシティの経済運営を支える人々が住む区画でもある。
 石造りや木造の家が立ち並び、近所の公園から子供達の笑い声が響いてく穏やかな町だ。

 大五郎の憲兵の見回りが多い地区でもあり、治安はかなり良い。
 比較的近隣に位置する繁華街区画も、この区画に近いほど荒くれが少ない傾向にあった。
 一言で繁華街の街、といっても地区により住民性は違い、微妙なバランスで共生が行われている。

 住宅街の片隅にある、さほど大きくない木造の家。
 小さな庭に、これまた小さなブランコがある、傍目にはどこにでもある一般家庭に見える。

 そこに忍び寄る、怪しい二人の人影。
 コソコソと周囲を見渡し、扉の施錠を魔法で解除し、扉を開ける。
 男達が中へ侵入すると小さく床鳴りの音がした。
 先を歩いていた方がビクリと肩を震わせ、足を止める。
 緊張により早くなった呼吸。
 いくら息を潜めても心音が響き渡りそうなほど、心臓が激しく鼓動している。

 ごくり、と唾を飲み込んで、また一歩進む。
 後ろに従う相棒も慎重な足取りで床を歩き、二人は廊下を進行。
 そして、家の最奥。扉に子供らしいプレートのかかった部屋の前で二人は立ち止まった。

 互いの意思を確かめるように一瞬視線を合わせ、先を歩いていた方がドアノブに手を掛けた。
 金具が擦れ打ち合う小さな音が響く
 無音を志す二人にとっては、心臓が驚きで止まる程の大きな音だ。

483 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:26:24 ID:F4YosrFc0

 額から溢れ頬を伝う汗をそのままに、扉をゆっくりと開いた。
 片目の覗く隙間をあけ、中を窺う。
 問題ないことを確認して後ろの相棒に手で合図。
 相棒は念の為に無詠唱で魔法式を展開、罠に備えた。
 
 必要最低限の隙間から、まるで水を思わせる動きで中へ。
 衣擦れすらなく滑り込むと音も無く扉を元に戻した。
 警戒したトラップの類を感知できなかったため魔法式を霧散させる。

 扉の正面に窓。桃色のカーテンが両脇に。
 左手には机と椅子。机の上の簡易ラックには絵本が建てられている。
 小さな箪笥の脇の壁には、画用紙に描かれた子供らしい自由な絵が張られていた。

 窓の傍に、簡素なシングルベッドが置かれ、そこに小さなふくらみがある。
 二人は未だ周囲に気を配りながら、そろりとベッドへと近づいた。

 そこに横たわっていたのは、幼い少女。
 カーテンと同色の布団を首まで被り、スヤスヤと眠っている。
 整った顔立ちは幼さこそあれ、美しいと称するに十分だった。

 覗きこむ二人はしばし黙ってその顔を眺めていたが、片方がゆっくり手を伸ばす。
 男の手がゆっくりと少女の顔へ。
 長い指がその薄紅差す頬に触れた。

( ;´_ゝ`)「!?」

 その瞬間、男、アニジャの手が何かに弾かれた。
 指先が裂け、血が滴っている。

484 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:27:31 ID:F4YosrFc0

( ;´_ゝ`)「ステルスマジック!?父者め、こんな魔法まで開発してたのか?」

(´<_`; )「時に落ち着けアニジャ、単なるダメージトラップだ。見たところ発動を通知するタイプじゃない」

( ;´_ゝ`)「そうか、逆に言えばここに母者も父者はいないってことか……」

(´<_`; )「ああ、少なくとも今すぐ母者が飛び込んで来るってことは無い」

 取り乱したアニジャを、もう一人、オトジャが宥める。
 二人が再び息を潜めベッドの少女へ視線を落とす。
 瞼がムニムニと動き、眠りから覚めているようだ。

( ´_ゝ`)「イモジャ、イモジャ」

l从-∀-ノ!リ人 「……むにゅ、おっきい兄者の声がするのじゃ……」

(´<_` )「イモジャ」

l从-∀-ノ!リ人 「むにゅ?かっこいい兄者の声もするのじゃ……」

( ;´_ゝ`)「イモジャ?!それはどういう意味?!イモジャ?!」

(´<_`; )「時に落ち着け!落ち着けアニジャ!」

l从=∀・ノ!リ人 「にゅー?」

485 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:28:14 ID:F4YosrFc0

 アニジャの声に反応し、少女、イモジャの瞼が開く。
 イモジャは少々意識のはっきりしない目で取り乱す兄達を見ていたが徐々に明晰を取り戻した。

l从・∀・*ノ!リ人 「アニ兄者にオト兄者なのじゃ!!」

 二人の存在を知覚し、花が咲いたように表情が明るく変化する。
 オトジャはイモジャが完全に起きたのを確認すると首の後ろを支えその身を起こした。
 アニジャは傍にあったクッションを枕と共に背中に差し込む。
 ベッドの頭側に寄りかかって座ったイモジャは改めてその笑顔を兄達に向ける。

l从・∀・*ノ!リ人 「おひさしぶりなのじゃ!」

( *´_ゝ`)「ああ、久しぶり、イモジャ」

(´<_` )「ところで、母者たちは?」

l从・∀・*ノ!リ人 「母者と父者はちょっと前から遠いお仕事に出てるのじゃ!」

 それを聞いて兄弟は胸を撫で下ろす。
 数年前に勘当同然で家を出て以降、両親に遭遇するのは心から恐れている。
 目を合わせた瞬間に脳髄をぶちまけられる可能性があるのだ。
 自分達が親不孝の放蕩息子であることは自覚しているため、両親を恨む気は無いが
 単純な命の危機として避けて通っている。

 「お仕事」の内容には思い当たる節、というか確実な予想がついている。
 むしろ、それがあったため命の危険を冒してでもこの家に帰ってきたのだ。

486 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:29:39 ID:F4YosrFc0

l从・∀・*ノ!リ人 「姉者はお夕飯の買い物に行っているのじゃ!」

( *´_ゝ`)「そかそか、ならしばらくは帰らないな」

l从・∀・*ノ!リ人 「呼び出し魔法あるのじゃ!母者たちも呼ぶのじゃ!」

(´<_` )「時に落ち着けイモジャ。お仕事や買い物で忙しいみんなを呼んだら迷惑だろ?」

l从・∀・。ノ!リ人 「でも……せっかく家族が揃ったのじゃ……みんなで一緒にご飯したいのじゃ……」

( *´_ゝ`)「かわいいなぁイモジャは〜そうだなぁ〜もう呼んでいいんじゃないかな〜」

(´<_`; )「陥落が早すぎるぞアニジャ!完全に最期の晩餐になるぞ!」

( ;´_ゝ`)「しかしオトジャ、俺はイモジャを悲しませたくない!」

(´<_`; )「しかしだな……」

     「なら大人しく母者に謝って、ウチに戻ってきたら?」

( ´_ゝ`)「「!!」」(´<_` )

 突然会話に割って入った女の声。
 アニジャ達がその主がいると思しき後ろを咄嗟に振り返る。
 姿を確認する前からアニジャは腰の小剣に手を掛け、オトジャは魔法式を展開を始めた。

487 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:30:25 ID:F4YosrFc0

 しかし、ふり向ききると同時に二人同時に首を鷲づかみにされる。
 凄まじい力で握り締められ、体が持ち上げられた。

(  _ゝ )「ふ、ぐ、買い物に行っていたんじゃなかったのか、姉者」

( <_  ) 「また、一段と怪力になったな」

∬´_ゝ`) 「ありがと」

 声の主、アネジャは二人の首を放す。
 剛力から開放された兄弟はその場に尻餅をつき、呼吸を整える。
 首にははっきりと手の痕がついていた。

∬´_ゝ`) 「イモジャに何かあったと思ってきたら、やっぱりあんた達だったのね」

( ´_ゝ`)「通知までステルスか。父者はどこへ行きたいんだ」

(´<_` )「姉者、見逃せ。俺達はまだやるべきことを成していない」

∬´_ゝ`) 「……」

 大きく、これ見よがしのため息を一つ。
 アネジャは顔立ちこそ兄弟に似ているが、その曲線の美しい体形と柔らかな髪で確りと女らしく見える。
 状況がこうでなければ、恋人の一人も作り家を出ていてもおかしくは無い。

488 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:31:35 ID:F4YosrFc0

∬´_ゝ`) 「前々から言っているでしょ。イモジャのことは、あんた達のせいじゃない」

 兄弟は押し黙る。
 二人を睨むように、あるいは哀れむような痛みを孕んだ目で、アネジャは見下ろした。
 イモジャはどうしていいのか分らず、オロオロと三人の間で視線を泳がせている。

∬´_ゝ`) 「魔女のことは父者たちに任せて、戻ってきてもいいじゃない」

∬´_ゝ`) 「本当に反省しているなら、ここに帰って来てくれることの方が、イモジャの為になるわ」

 姿勢を低くし、そっぽを向く兄弟の頬にアネジャは優しく手を触れる。
 子供を撫でるようなその優しい手つきに二人は視線を上げた。
 慈母の如きアネジャの微笑みに、つい心を誘惑されてしまう。

∬#´_ゝ`) 「……だっしゃぁぁぁぁ!!!」

 しかし突然、慈母の手が大熊のそれに変わり、シンバルを叩くように兄弟の頭をかち合わせた。
 重い衝撃音。突然の衝撃に成す術ない二人は、大きなダメージを受ける。

∬#´_ゝ`) 「何ちょっと揺らいでんのよこのクソガキ共が!男なら意地貫きなさい!」

( ´_ゝ )「ぐ、流石だな、姉者」

( <_` )「割と本気で死ぬぞ、今の」

489 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:32:45 ID:F4YosrFc0

∬´_ゝ`) 「いい、二人ともよく聞きなさい」

 再び立ち上がり、姉者は指を二人の眉間に突き立てる。
 その眼差しは力強く、図らずも両親の面影が見て取れた。

∬´_ゝ`) 「母者も父者も私も確かにブチ切れよ。母者に至っては生の南瓜を握り潰すくらい怒ってる」

 兄弟は大きな南瓜がまるで鶉の卵の如く握りつぶされる様を想像して背筋を寒くする。
 母に見つかれば自分達の頭がそうなってもおかしくない。

∬´_ゝ`) 「でもそれは、単にあんたらがフラフラしてるからよ」

∬´_ゝ`) 「母者のデコピンで脳漿ぶちまけられたくなかったら、あんたらの言う「成すこと」をキッチリ成して、胸張って帰ってきな」

 言い終わって、ポカンとしている兄弟の頭を同時に叩く。
 骨間の軟骨が潰れるほどの重い衝撃にふらつく二人。
 アネジャは腰に手を当て、鼻から熱のある息を吐いた。

∬´_ゝ`) 「じゃ、私は夕飯の買い出しに行ってくるから、あんた達は出てくなり死ぬなり好きにしな」

( ´_ゝ`)「流石は俺達の姉者」

(´<_` )「姉者の子供になる奴に心から同情するよ」

∬´_ゝ`) 「私たちよりはマシよ」

(´<_` )「言えてるな」

( ´_ゝ`)「姉者のデコピンは痛いだけで済むもんな」

490 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:33:42 ID:F4YosrFc0

∬´_ゝ`) 「あと、さっきの罠魔法の通知、父者にも届いてるはずだから早めに逃げなさいよ」

 その背筋の寒くなる情報を置いてアネジャは家を出て行った。
 言っていた通り買い物に行くのだろう。

 その姿を見送った兄弟は顔を見合わせる。
 殺される云々は辛うじて冗談だとしても、母親達に捕まれば行動を制限されるのは間違いない。
 そうなれば早めに立ち去るのが懸命だ。

 しかし。

l从・∀・。ノ!リ人 「もう行っちゃうのじゃ?」

 彼らにとっては何者以上に愛おしい妹が眼を潤ませて見上げてくる。
 オトジャは辛うじて自分を律しているが、アニジャはほぼイモジャの下僕に近い。
 アニジャが余計な約束を口走らないうちに、オトジャは優しく妹の頭を撫でた。

(´<_` )「イモジャ、俺達は行かなきゃならないところがあるんだ」

( ´_ゝ`)「オトジャ」

l从・∀・。ノ!リ人 「……」

(´<_` )「イモジャの手と足を、必ず取り返してくる」

491 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:34:55 ID:F4YosrFc0

 ベッドに腰掛けるイモジャの身体には手と足が無い。
 腕は肩から。足は太ももの付け根からして存在していないのだ。
 生まれつきではない。奪われたのだ。
 この世で最も忌々しい、あの女に。

l从 ∀ 。ノ!リ人 「みんなで一緒にご飯を食べられないのは、イモジャのせいなのじゃ?」

( ´_ゝ`)「それは違う。絶対に違う」

(´<_` )「イモジャ、手と足が戻ったら、一緒にご飯を食べよう」

l从 ∀ 。ノ!リ人 「……くなのじゃ」

( ´_ゝ`)「ん?」

l从・∀・。ノ!リ人 「約束なのじゃ。絶対一緒にご飯食べるのじゃ」

(´<_` )「もちろんだ」

( ´_ゝ`)「俺達もイモジャとご飯食べたいしな」

l从・∀・。ノ!リ人 「指きりげんまんなのじゃ!嘘ついたら父者の髪を千本毟って飲ますのじゃ!」

( ´_ゝ`)「流石だなイモジャ」

(´<_` )「父者の髪の毛が千本もあるといいな」

   *   *   *

492 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:36:37 ID:F4YosrFc0

('A`) 「魔法使いの一段階目は、魔力のコントロールが重要だ。これが出来ないと干渉そのものが無理だからな」

 適性が高い魔力を持つ者ほど魔力操作を身に付けるのが早く、逆に適性が全く無い者は一切出来ない傾向にある。
 どれかしらの適性がB以上であれば比較的楽に操作を身に付けられるというのが一般的な見解だ。

('A`) 「はい、じゃあ魔力に触れた後は魔法式の展開について」

 ツンは一度黒板を綺麗にし、再びチョークを取る。

 魔法とはつまり、魔力を持って世界に干渉し、一時的に法則を捻じ曲げることである。
 世界を構成する法則は強固に結ばれているため、ただ魔力で干渉しようとしても全く触れることは出来ない。
 それゆえに魔法ごとに干渉する手順があり、その手順を「魔法式」。
 手順に従い魔力を注いで法則へ干渉することを「魔法式の展開(組み上げ)」と言う。

 魔法式には大体にして三つの段階があり基本、応用、発展に分かれている。
 基本はその名の通り魔法式を組み上げる基盤になる式。
 干渉する法則を指定するための式で、これが無ければそもそも干渉が出来ない。

 応用式は干渉に成功した後、具体的な現象へと書き換えるための式である。
 法則は自動で修正される性質があるため、展開が遅いと魔法そのものが失敗になる。
 ここを適当に行っても一切魔法は発動しないため、研究者達はこの応用式を見つけることに執心しているのだ。

 発展式はその名の通り、さらなる魔法の発展をもたらすものだ。
 この段階での干渉は適性がB以上必要なものが多いため、専門魔法と呼ばれることも多い。
 主に干渉した物の性質までを変化させる魔法だが、それゆえに魔法式は非常に複雑。
 場合によっては、「錬金術」と呼ばれる技術でもある。
 (具体例:水を毒に変える。鉄を金に変える。キメラを生み出す、など)

493 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:37:38 ID:F4YosrFc0

('A`) 「んで、まあ大抵の見習い魔法使いはこの魔法式を身に付けていくあたりで挫折するわけだ」

从'ー'从 ぷしゅー

ξ゚听)ξ「ドッグ、ナベちゃんは挫折通り越してパンクしてるわ」

(;'A`) 「え?!早いよナベちゃん!まだ概要だぜ?!」

从'ー'从 「空が飛べればもうそれでいい。魔法死ね」

ξ゚听)ξ「ドッグ、ナベちゃんが魔法への希望と共にアイデンティティも投げ捨てたわ」

(;'A`) 「えっと、じゃあ、ちょっと魔法に出来ることを確認して、夢を取り戻そうか」

 魔法は本来人間には再現不可能な事象を引き起こすことが出来る。
 まだまだ研究の余地は多く、万能とは言え無いがやはりその有用性は非常に高い。
 現在のこの国及び世界の発展は魔法と共にあるといっても過言では無いほどに。

('A`) 「ちなみに、大五郎の社長シブザワは剣が使えること上に魔法の開発までしてる。もうバケモンだ」

ξ;゚听)ξ「たった一人で剣と魔法と大五郎……しかも社長……」

('A`) 「何か俺達の影がかすむよな」

  *   *   *

494 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:38:30 ID:F4YosrFc0

 VIPシティの中央に位置する大五郎酒造本社。その裏手には、大五郎持ちの広場がある。
 この広場は休日になると市民に開放され、公共の運動場として活用されているが、その実体は大五郎の私兵団の訓練場だ。
 憲兵としての見回りの他に、私兵たちはこの訓練場で日々技を磨いている。

 そしてこの日、その中心には人の輪が出来ていた。
 輪を作るのは大五郎の私兵たち。
 訓練でかいた汗をタオルで拭いながら輪の中央を眺めていた。

 人の壁によって作られたリングの中にいるのは、まだ若い兵士と、大五郎社長シブザワ本人。
 兵士のほうは殺傷力を殺すため布が巻かれた手斧を。
 シブザワは右手に訓練用の木剣を持っている。
 二人を囲むギャラリーからは「殺せ」「死ね」「給料上げろ」「トソンちゃんを嫁に寄越せ」等の罵詈雑言が飛び交っていた。
 _、_
( ,_ノ` )y 「どうした?こねえのか」

ノノヒ`旦´) 「でえええい」

 兵士が斧を振り上げシブザワに切りかかる。
 しかし、シブザワは軽くこれを回避。
 相手を見失った兵士の背後に回り、がら空きの背中を木剣でチョンチョンと小突いた。
 兵士は慌てて振り返ってシブザワを確認し、がっくりと肩を落とす。
 _、_
( ,_ノ` )y「てんでなってねえ。次はどいつだ?」

( #0言0)「俺だ!日ごろの鬱憤ブチかましてやらあああああああ!」

495 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:39:20 ID:F4YosrFc0

 ギャラリーから急に飛び出したのは、憲兵隊で分隊長を任されている猛者だった。
 最近流れの傭兵にあっさりと負けたことこそあったが、決してただの雑魚ではない。
 先の兵士と同じく布を巻いた斧を振りかぶり突進。
 シブザワの肩を砕くように斧を打ち下ろした。

 シブザワはこれに自ら飛び込み、紙一重を見切ってかわす。
 同時に斧を持つ手首とわき腹をすり抜けながら華麗に打った。
 ギャラリーから「一本!」と声が上がる。
 _、_
( ,_ノ` )y 「次!こんなんじゃ俺の肩こりが取れねーぞ!」

 あからさまな挑発に兵士達はヒートアップ。
 そして仲間に揉まれる様にして一人の男がシブザワの前に送り出される。

(;-_-) 「ちょっと、俺はこういうの苦手なんだって……」

 男の中はヒッキー。若くして憲兵隊の小隊長を任されるようになったホープである。
 本人は乗り気でないようだがいずれは私兵団の中枢を担うことになるやも知れない、優秀な人物。
 _、_
( ,_ノ` )y 「誰かコイツに武器を貸してやれ」

 シブザワの眼が変わる。
 その顔から一切の油断が消え、猛獣の如き気配を纏った。
 対するヒッキーは投げつけられた剣を拾い、右手で前に突き出す構え。
 空いている左手は握って腰の裏に折りたたむ。

496 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:40:17 ID:F4YosrFc0

 誰かが兜を叩き、ゴングを鳴らした。
 先に動いたのはシブザワ。小さな予備動作で剣を振りかぶり、横なぎに胴を狙う。

 対するヒッキーはやや下がりながらそれを剣先で上に逸らす。
 剣の軌道が上へ跳ねたところで剣を素早く引き、重心を下へ、刺突の姿勢。
 しかし、その目の前にはシブザワの左手の人差し指が。
 嫌な気配を感じ、反射的に突くのをやめ体勢が崩れるのも構わず横に飛びのいた。

 次の瞬間。シブザワの指先から火の粉が飛び出し、地面に落ちて爆発した。
 少々土がえぐれ、土がうっすら焦げている。

(;-_-) 「社長に言いたかないけどあんたバカか!訓練でこんな魔法つかうなんッ?!」

 抗議の声を上げるヒッキーへさらにもう一発の火の粉。
 先ほどと同程度の爆発が襲うが、これも難なく回避する。
 _、_
( ,_ノ` )y 「なに言ってんだ。最初から実践訓練だって言っといたろ。魔法使って何が悪いんだよ」

(;-_-) 「……」
 _、_
( ,_ノ` )y 「安心しろ。威力は最低だ。派手だが、死にはしない」

 「卑怯者ー!」「死ねー!」「さっさと引退しろー!」「ミセリちゃんの耳たぶを噛ませろ!」等の罵詈雑言が再び耳を叩く。
 シブザワは左手の指先を騒音の方向へ向け、火の粉を数発ばら撒いた。
 悲鳴と共に観客の輪が少々歪む。

497 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:41:19 ID:F4YosrFc0

(;-_-) 「まともな人間いないのかここは!」

 ギャラリーに意識が向いていたシブザワへヒッキーが間合いを詰める。
 シブザワが咄嗟に指先を向け、魔法を放った。
 これを読んでいたヒッキーは身を捻り魔法を回避。
 そのまま踏み込み突きでシブザワの咽を狙う。
 _、_
( ,_ノ` )y 「おっと」

 斜めに身を引き、仰け反ってこの突きをかわす。
 ヒッキーの剣は伸びきった状態からシブザワを追撃。
 腕を鞭のようにしならせ横なぎにする。

 木剣同士がかち合い、硬い音が響いた。
 斬撃を受け止めたシブザワは、真っ向からヒッキーの剣を弾く。
 ヒッキーは無理にその場で堪えようとせず、自分ごと後退。
 シブザワはそこへ火の粉の魔法を三発、射線をやや散らせて撃った。

(;-_-) 「ぬわ!」

 みっとも無く跳躍し、ヒッキーはこれを回避。
 しかしシブザワは魔法を放つ手を止めず、次々と火の粉を撃ち出して行く。

498 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:42:00 ID:F4YosrFc0
 _、_
( ,_ノ` )y= 「ほーれ、当たっても労災は出ないぞー」

(;-_-) 「むっちゃくちゃだこのおっさん!!!」

 ヒッキーは何とか体勢を立て直し、丸いリングに沿うように全力疾走。
 僅かに遅れてヒッキーの背後を通りすぎる火の魔法がギャラリーの兵士を次々と焦がしていく。
 正に阿鼻叫喚。笑いと悲鳴と怒号が激しく沸き起こる。

 シブザワが使っているのは、火の魔法の中でもごくごく初歩の、精々マッチ程度の効果しかない魔法だ。
 それを「火の魔法を強化する魔法」によって強化し、「魔法式を保存する魔法」によって連発を可能にしている。
 (※通常、魔法式は魔法が発動した時点で瓦解するため、継続はともかく連発は出来ない)
 後者の魔法式を保存する魔法はシブザワのオリジナルで、一部の魔道具を除いて同じことを出来る魔法使いはいない。

   「もう全員でやっちまえ!!」「死ね!」「遺産寄越せ!」「シブザワさんにぶちのめされたい!」

 シブザワの暴挙に堪忍袋の緒が切れた兵士達が雄たけびを上げ一斉に襲い掛かった。
 その数、少なく見積もっても30は下らない。
 愉快そうな笑顔を浮かべたシブザワは、左手の魔法に保存していた追加の魔法式を加え火力を増強する。
 _、_
( ,_ノ` )y 「上等だ!全員根性叩きなおしてやらぁ!!」

499 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:43:16 ID:F4YosrFc0

 上がる火柱と悲鳴。
 何かの焦げる臭いが訓練場に満ちていく。
 騒動の最中、渦中から抜け出したヒッキーは呆れながらその光景を眺める。

 シブザワは確かに強かった。
 ここにいる兵士はヒッキーを除き精々分隊長クラスではあるが、それでも圧倒的過ぎる。
 武器も魔法も一切受けず、逆に的確な反撃を叩き込んでいく姿は、一企業の社長といわれても説得力が無い。
 段々、大人が子供をあしらっているようにすら見えてきた。

(゚、゚トソン 「社長はまたやっているのですか」

 いつの間にか隣に立っていた受付譲が腰に手を当てため息を吐いた。
 トソン=トソン、二人いる受付譲の片割れで、内外から人気の高い美女である。

(-_-) 「またですよ。ちょっとストレス溜まる度にぶっ飛ばされてたら兵士いなくなりますって」

(゚、゚トソン 「ここにいる馬鹿共は殺しても死にませんし、いい訓練になるでしょう」

(-_-) 「いい訓練、ねぇ」

 シブザワの周囲には、失神した兵士達が積み重なっている。
 訓練は訓練でも、精々死なずに負ける訓練くらいにしかなっていない気がするが。

500 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:44:45 ID:F4YosrFc0

(-_-) 「もしかして来客ですか?」

(゚、゚トソン 「ええ。待っていただいてますし、早めに終わっていただきましょう」

(-_-) 「とは言え、全員ぶちのめすのにはもう少し……」

(゚、゚トソン 「“ゆらり揺らめきふらつき焼きつき燃え尽き月撞き笑う夜”」

(;-_-) 「って、え?」

(゚、゚トソン 「“覇気撒き邪気裂き火気吐いて、アチチチアーチチ―――アーチフレイム”」

 トソンの目の前に浮かび上がる、赤い魔方陣。
 それがぐねりと歪み、弓の形へと変形した。
 白いトソンの手が紅蓮のそれを取ると、自動でそこに同色の矢が装填される。

(;-_-) 「何を……ッ?!」

(゚、゚トソン 「急ぎですので、古風に矢文を」

(;-_-) 「それなんか違」

 ヒッキーの言葉を無視し、トソンは弦を引いて、矢を放った。

501 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:45:27 ID:F4YosrFc0

 紅の矢が弦を離れると同時、瞬きする間も無く弓が矢に吸収され、矢の輝きが一層増した。
 矢は赤い軌跡を残し音の速さでシブザワ達を強襲。
 寸前で反応したシブザワが放った魔法と、空中でぶつかり合う。

 膨大な熱エネルギーが魔法同士の接触点を中心に拡散。
 気絶していた兵士たちの体が枯葉の如く舞い上がり、吹き飛んだ。
 ヒッキーも飛んでくる焦土や熱風から身体を守るため腕を盾にする。
 _、_
( ,_ノ` )y-~ 「どうした?客か?」

 熱風が収まると、シブザワが何事も無かったような顔で兵士を一人担いで歩み寄ってきた。
 途中でその兵士を放り投げ、懐から取り出したタバコに魔法で火をつける。

(゚、゚トソン 「はい。甥っ子のお二人がいらっしゃってます」
 _、_
( ,_ノ` )y-~ 「アニジャとオトジャか?珍しいな」

(゚、゚トソン 「二人ともお待ちです。お急ぎになりますよう」
 _、_
( ,_ノ` )y-~ 「ああ。お前ら訓練所ちゃんと整備しておけよ」

(゚、゚トソン 「それと、例の件ですがそろそろ……」

 なにやら小難しい話をしながらシブザワはトソンと共に訓練場を去ってゆく。
 残されたのは抉れた地面と兵士達の死屍累々。
 「俺達は本当に戦力として必要なのか?」という彼らの疑問に答えるものは、誰もいなかった。

  *   *   *

502 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:46:22 ID:F4YosrFc0

(;'A`) 「さて、じゃあ魔法式は後にして、魔道具についてちょっと話そうか」

 魔道具とはその名の通り魔法の効力を持つ道具のことだ。
 霊石「タリズマン」を用いて作るため一般にタリズマンと呼ぶことも多い。

('A`) 「タリズマンの中でも最もオーソドックスなのは、月のタリズマンだな」

 月のタリズマン。主に魔法使いに好まれる、魔力を一時的に備蓄できる魔道具だ。
 質のいいものであれば並みの人間数人分の魔力を溜め込めるため、
 常に魔力の枯渇に怯えている魔法使いにとってはこれ以上無い味方となる。

('A`) 「他には、魔法そのものを保存できる星のタリズマン」

 ツンのブーツなどがこれにあたる。
 展開した魔法と、その発動に必要な魔力を込めておけばいつでも使えるというものだ。
 使えばその分消費してしまうが、使う時点で展開を必要としないため瞬発力が高い。
 タリズマンごとに容量や属性が異なるためどんなものでも可能というわけでは無い、というのも特徴の一つ。
 ツンのように剣も魔法も使うものに好まれる傾向にある。

从'ー'从 「盗んだ箒で飛びだしたい」

ξ゚听)ξ 「ドッグ、ナベちゃんが非行に走りそう」

(;'A`) 「飛行だけにってか!?あと二つ、あと二つやったら実践に移るから!」

503 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:47:10 ID:F4YosrFc0

(;'A`) 「えっと次は大地のタリズマンだな」

 大地のタリズマンは魔力を貯蓄する能力は低いが、その代わりに高い魔法式の保存能力を持つ
 一度魔法式を記憶させれば、適合する魔力を注ぐだけで魔法が発動するという優れものだ。
 保存できる魔法式には限度があるため、上級となると途中までしか保存できないが、それでも展開は大幅に短縮される。

('A`) 「この前サスガ兄弟が使っていたのもタイプとしては大地にあたる」

 件の杖は複数のタリズマンが組み込まれ、あらゆる魔法の魔法式を途中まで保存している。
 故に術者が行うべきは最終的な応用式以降の締めのみでいいため、展開の速さは倍以上にもなるのだ。

('A`) 「んで、最も貴重とされる太陽のタリズマン。コイツは俺も現物を見たことがねえ」

 太陽のタリズマンは自ら魔力を生み出し放出する唯一の無機物だ。
 月の様に溜め込んだり、大地や星のように魔力を保存することは出来ないが、半永久的に魔力を生み出す。
 故に、魔法式を記憶させた大地のタリズマンと組み合わせれば事実上無限に効果を発揮するという代物である。

('A`) 「ちなみに俺は月のタリズマンを持っている。これな」

 ドクオはモゾモゾと胸元を弄りペンダントを取り出した。
 皮の紐の先に括り付けられたそれは、掌に収まる程度の木片のような石。
 タリズマンは、古代の霊木が朽ちずに化石になったものだ。
 ドクオの持っているものは比較的無加工のタリズマンそのものの形状である。

(;'A`) 「魔道具は使い方を誤ると危険なのでその性質をしっかり覚えておくこと」

(;'A`) 「それじゃ、実践練習に出ようか。ナベちゃんが非行に飛び立つ前に」

  *   *   *

504 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:47:52 ID:F4YosrFc0

 実践練習を始めて数時間。
 日が傾き、ハインリッヒも往診を終えて帰ってきた。
 彼が目にしたのは、裏の空き地で泥まみれになっているドクオ(と入れ替わったブーン)とツン。
 そして狂ったように上空を箒で旋回するワタナベの姿だった。

从#゚∀从 「お前ら。俺は安静にしてろって言ったはずだが?」

( ;^ω^)「……あれ?ドーッグ!何でお前引っ込んでんだお!」

从#゚∀从 「そんな泥だらけ傷だらけになって何してたんだ?え?」

( ;^ω^)「はいツンさん!ちゃんと言い訳して!リッヒ先生に申し開きして!」
  _,
ξ゚ ‐゚)ξ「だって、ドクオが展開が雑とかイメージが未熟とか口うるさく言うからついカッとなって……」

从#゚∀从 「要は喧嘩だな。よし、ツン、ブーンそこに座れ」

( ;^ω^)「ドーッグ!!ふざくんなドーーーーーーッグ」

 その後、ワタナベも地上に合流し、各自の傷の治療が開始された。
 新しい傷は精々擦り傷だけだったが、ツンとブーンはまだ治りきっていない傷がごまんとある。
 どちらかといえばその傷の治療がメインで、夕暮れの農地に二人の悲鳴がこだました。

ξ )ξ「うぎぎ……」

(  ω )「おのれ……ドッグ……分離したら覚えてろお」

从;'ー'从 「はわわ〜いつ見てもハード〜」

505 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:48:43 ID:F4YosrFc0

从 ゚∀从 「さてと、飯の準備するが、ツンはどうする?」

ξ゚听)ξ「うーん、この前がこの前だしなぁ……」

从*'ー'从「どうせなら泊まって行けばいいじゃないですか〜」

 ワタナベは前日からハインリッヒの家に宿泊していた。
 もともと知り合いだったこともあり抵抗は無いらしいとはいえ、ツンとしてはやっぱり少し心配。
 故に一緒に泊まってもいいが、気になるのは着替えだ。

从 ゚∀从「なんだったらウチの患者用の服貸すぞ?」

ξ゚听)ξ「ありがたいけど、そんなに泊めたいの?何を狙っているの?」

从 ゚∀从

ξ゚听)ξ

从 ‐∀从 「ふっ」

ξ#゚听)ξ「今どこ見て笑った貴様」

 結局ワタナベの熱望もありツンもお邪魔することにした。
 とは言え先日から患者として病室に入れられているので、あまり特別な感覚は無い。

506 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:49:40 ID:F4YosrFc0

 ハインリッヒとワタナベが台所に立ち夕飯を待つ間、ツンはシャワーを借りて汗と汚れを流した。
 今日出来たばかりの擦り傷に水が沁みる。
 ハインリッヒは必要以上に治療魔法を施すことを嫌うところがあり、小さな傷は消毒と止血までしかされていない
 体の、特に手足のあちこちが痛むが文句を言わず我慢した。
 中身を治療されるときの痛みに比べれば、はるかにマシである。

ξ゚听)ξ「あら、タカラ起きてたんだ」

( ,,^Д^) 「おにゃーさんたちが裏で魔法ぶちかましてた時にはもう起きてたにゃ」

 シャワーを終え、パジャマのような入院着に着替えてリビングに戻るとブーンの他にタカラがいた。
 その首にはニョロが巻きつき眠っている
 魔法を習う間、危ないので預かってもらっていたのだ。

ξ゚听)ξ「体、大丈夫なの?」

( ,,^Д^) 「まーにゃ。コイツに妙に懐かれていること以外は何の問題も無いにゃ」

 タカラが優しい手つきでニョロを解き、ツンに手渡す。
 寝ぼけ眼のニョロは、袖から素早くツンの服の中にもぐりこみ首に巻きついて再び眠りだした。
 くすぐったさに身を捩ると共に、ちょっとした違和感に気付く。

 ニョロが、少し大きくなっている気がする。

507 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:50:35 ID:F4YosrFc0

 嫌がるニョロを引っぺがし、両手で伸ばす。
 やはり出会った頃よりも長く太くなっていた。
 これまで気付かなかったのがおかしいほどの成長である。

ξ゚听)ξ「キメラだからかな…」

 とりあえず適当に結論付けてニョロを首に巻きなおす。
 蛇は本来変温動物で冷たいはずなのだが、ニョロは毛皮のせいかほんのりと暖かい。
 ニョロがズレ落ちないのを確認して、ツンもテーブルに付いた。

( ,,>Д<) 「ニャックシッ」

( ^ω^)「お?風邪かお?」

( ,,^Д^) 「かもしれないにゃー」

ξ゚听)ξ「無理ないわよ、あんた昨日びしょびしょだったもん」

( ^ω^)「湖に入ったのかお?」

( ,,^Д^) 「うーん、なんか倒れる前の記憶がものすごくあやふやなんだにゃー」

 そういいながらタカラは懐から取り出したハンカチで鼻をかむ。
 控えめな音ではあったが、中々の鼻水が出たようだ。

508 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:51:27 ID:F4YosrFc0

ξ゚听)ξ「しっかしなんでぶっ倒れたのかしらね」

( ^ω^)「一応完治してたんだお?」

( ,,^Д^) 「そのはずだったんだけどにゃー」

 タカラが頭をポリポリと掻いた。
 どこか普段よりも呆けて見えるのは気のせいだろうか。
 いや、鼻から鼻水垂れてるから気のせいではないのだろうけれど。

 あーだこーだと話していると、台所から油が弾ける音が聞こえた。
 少し時間を置いて野菜、恐らく玉葱を炒める匂い。
 香ばしくてほんのり甘い。嗅いでいるだけで口の中がじんわりと湿り気を増す。

 ツンが軽く唾を飲み込むと、ブーン腹が妙にでかい音を立てた。
 自然に視線がそちらへ。
 ブーンはやや恥ずかしそうに頭を掻く。

ξ゚听)ξ「あんた今日は何もしてないじゃない」

( ^ω^)「おーん、ドッグが見境無しに魔法使うと僕がおなか減るんだお……」

 魔力の消費はそのまま体力の消費にも繋がるため、食事量は自然と多くなる。
 ドクオは体質なのかなんなのかあまり物を食べないが、そこのバランスをブーンが上手く保っているのかもしれない。
 まあ、単にドッグと融合しているからブーンが大飯食らいという訳でもないのだろうが。

509 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:52:35 ID:F4YosrFc0

从 ゚∀从 「出来たぞー」

 三人で夕食への期待を膨らませているとハインリッヒとワタナベがそれぞれ一つずつ皿を持ってやってきた
 相変わらずの大きな皿、そしてそこに盛り付けられた黄色い……

ξ゚听)ξ「……なにこれ。枕?」

( ,,^Д^) 「」

(*^ω^)=3

从 ゚∀从 「見て分らないか?オムライスだよ」

 香りを抱いて立ち上る湯気。
 半熟のオムレツはトロリと黄身を滴らせ、室内灯の明かりを優しく反射している。
 そして、山を思わせるそのサイズ。
 見ているだけで涎が溢れる程美味そうではあるが、見ているだけで腹が膨れそうだ。
 大きさが横30cm超、縦20cm超の巨大な半球型。しかも二つ。

 そこへ、ワタナベがさらに両手鍋を一つ持ってきた。
 鍋敷きをテーブルの真ん中に引き、その上に鍋を置く。
 中身は湯気立てる、粘度を持った焦げ色の液体。
 杓子でかき混ぜると、絡み合う野菜とビーフの奥深い香りがふわりと鼻を襲った。

从 ゚∀从 「今日最後に回った家でもらってきたビーフシチューだ。それしかないから仲良くな」

 取り分けたとろとろ卵のオムライスに、ビーフシチューを優しく回しかける。
 ブーンの目は既に獣のそれと同じになっていた。

510 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:53:19 ID:F4YosrFc0

从*'ー'从 「それじゃ、いっただっきま〜す」

 スプーンの先端でオムライスをよそい、シチューのルゥを絡めて口に運ぶ。
 招き入れた瞬間に舌先を蕩けさせる優しい甘み。
 咀嚼し、混ぜ合わせ、咽の奥へ。
 野菜と肉の旨みが染み出したスープをが程よく引き立てるスパイスの按配が絶妙だ。
 じっくり煮込んだからこその、舌根を撫でるほんのりと苦い後味が癖になる。

 そして重要なのは、ビーフシチューの邪魔せず自身の旨みを活かすオムライスの存在だ。
 単品であれば少々物足りなかったであろうケチャップライスは、程よい酸味を湛え、シチューに新しい味の展開を与える。
 半熟の卵による旨みを損なわないまろやかさが全てを包括し、口の中に余分な雑味を目立たせない。

 美味い。
 一口目を飲み下して、自然に口角が上がった。
 以前にVIPシティで食べたオムライスの数倍美味しい。

(*゚゚ω゚゚)「フガッフグモッグムム!」

 ブーンは片方の大皿を一人で抱え込みオムライスを食べていた。
 辛うじてスプーンを使っているが、直接顔を突っ込み始めそうな勢いだ。

从*'ー'从 「相変わらずリッヒ先生のごはんおいしー」

从 ゚∀从 「リッヒッヒ、シチューを作ったばあさんに感謝しな」

511 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:54:13 ID:F4YosrFc0

( ,,^Д^) 「そういえばにゃー、リッヒは近くに親戚とかいるのかにゃ?」

 オムライスを半分ほど食べ勧めた頃、タカラが思い出したようにハインリッヒに尋ねた。
 ハインリッヒは口に残っていたライスを特に焦った様子も無く飲み下す。

从 ゚∀从「いんや。ここらへんに親戚はいないが」

( ,,^Д^) 「そうかにゃ。いや、独り身の割りに大きなテーブルだからちょっと気になってにゃ」

从 ゚∀从「……」

ξ゚听)ξ「そういえば、病室以外の部屋も多いわよね」

( ^ω^)): 「はふぃふぁに、ひゃふみゃにひへはほほいほ(確かに、客間にしては多いお)」

从 ゚∀从「んー」

 ハインリッヒがスプーンを置いて頭を掻いた。
 何か答えにくいことがあるのか、少々悩んでいるようでもある。
 それを見かねたワタナベが、横から口を挟んだ。

从'ー'从 「昔は他の家族が住んでた家に引っ越してきたんですよね〜」

从 ゚∀从「ああ、まあそんなとこだな」

512 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:55:02 ID:F4YosrFc0

 ひとまず納得して食事に戻ったが、まだ腑に落ちない部分がある。
 元々済んでいた家族というのも医者か治療魔法使いだったのだろうか。
 引っ越してきてから治療室や病室を改修したにしては年代の差が感じられないし間取りも自然だ。

 とりあえず本人が踏み込まれたくない気配を露骨に出しているので聞きはしない
 もしかしたら、単に奥さんに逃げられた、とかかもしれないし。

 食事を終え、タカラとハインリッヒで食器を片付ける。
 ツンは貰った餌をニョロに与えていた。

(*^ω^)=3 「いいもんくったお〜うまかったお〜」

从'ー'从 「ツンさんは明日はお仕事なんですか〜?」

ξ゚听)ξ「んーん、私もタカラも明日もお休みもらってる」

( ^ω^)「働かなくていいのかお?」

ξ゚听)ξ「私もそう思ったんだけど、そもそも仕事が無いって言われたらねえ」

 現在大五郎サロン支店は品台代わりのテーブルと売り子(ジョーンズ)用の椅子が一つ置いてあるだけだ。
 そこで肴用に入荷したナッツやドライフルーツを細々と販売している。
 酒を売っているわけではないので襲われる心配が少なく、他の傭兵もほとんどをVIPや別の街に送ってしまったらしい。
 ツン達がここに残っているのは怪我のことを聞いたジョーンズが配慮してくれたお陰である。

513 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:55:58 ID:F4YosrFc0

ξ゚听)ξ「ただ、明後日にはまたVIPから商品が来るから、それまでは出れるようになっておいてって」

 店舗も無いのにどうするのか、と思わなくも無いが何かしらの考えがあるのだろう。
 ツンたちの仕事は途中まで馬車を迎えに出ての護衛だ。
 サロン支店への妨害は激しいらしく、VIPと連絡を取り合うのも困難な現状。
 明後日の入荷も激しい妨害が予想される、とのこと。

( ^ω^)「やっと大五郎の傭兵らしい仕事が出来るおね」

ξ゚听)ξ「ま、別に大五郎で働くのが本懐ではないんだけどね」

 ツンの目的は、両親を殺した襲撃者を見つけ出し敵を討つこと。
 大五郎に属したのは少しでも情報を仕入れやすい場所にいたかったから。
 現に、ジョーンズには敵対襲撃者の情報を見せてもらえるように頼んである。
 もう何年も前のことのため生きているかすらもわからないが調べないことには始まらない。

ξ゚听)ξ「明日何も無ければ、身体も十分元に戻りそうだし、バリバリやるわよ」

 ツンは自分の手首をくりくりと回す。
 ハインリッヒの治療は凶悪ではあるが優秀で、もうほとんど痛みは無い。
 肉そのものを再生しているブーンはまだ少々かかりそうだが、ツンはほぼ全快しているのと同じだ。
 ハインリッヒに言わせればこの治療の為にツンの寿命が数年は縮んだらしいのだけれど。

( ^ω^)「何も無いといいおね」

ξ゚听)ξ「無いでしょ、もうコリゴリよ。化け物みたいな奴らと戦うのは」

  *   *   *

514 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:56:40 ID:F4YosrFc0
  _
( ゚∀゚) 「と、言うわけで。『犬』の抹殺を頼みたいんだが、できるか」

o川*゚ー゚)o 「えー?」

 サロンの中心街に白髪の多い初老の男が経営する小さな料理屋がある。
 裏路地にひっそりと佇むように営業しているため客足は少ないが味は一級品。
 静かな雰囲気も相まって、ジョルジュはこの店が気に入っていた。

 トーストにベーコンとマッシュポテト、チーズにレタスを挟んだサンドイッチを咀嚼。
 シンプルな料理であるからこそ、素材そのものの美味さが引き立つ。
 客の少なさに対しメニューの多い店ではあるが、ジョルジュの定番はこのトーストサンドだ。

o川*゚ 3゚)o 「なんていうかー、私が直接干渉するのやだなー」
  _
( ゚∀゚) 「……」

o川*゚ー゚)o 「んー、まあいっか☆好きに殺っていいんだよね?」
  _
( ゚∀゚) 「街への被害は控えてくれ。それだけだ」

o川*゚ー゚)o 「うんとねー、それは多分ダイジョブ☆」

 ニコニコと上機嫌に目の前の女はオレンジジュースを啜る。
 女というにはあまりに幼い容貌ではあるが、中身はジョルジュよりもはるかに年上の化け物である。

515 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:57:40 ID:F4YosrFc0

 魔女。
 そう呼ばれ出す以前の名もあったはずだが、ジョルジュは記憶していない。
 今まで頑なに姿を見せなかったのだが今日になって急に不可視化を解いてジョルジュの前に現れた。
 想像していた容姿とあまりにも違ったため最初は面食らったが、口調その他の要素で本物と判断している。
  _
( ゚∀゚) 「報酬は?あんたにまともに依頼するのはこれが初めてだ。何が要る?」

o川*゚ー゚)o 「んー、多分ジョルたんには無理かなー☆だから要らない☆」

 気まぐれな魔女が何故自分達に協力してくれているのか、ジョルジュは知らない。
 一度尋ねた時には「気に入ったから」とだけ答えられた。
 ある意味魔女らしいといえばそうなのだが、故に不安の種でもある。
 同じような気まぐれで「気に入らない」とされたときに、禁酒委に対してどんな影響を及ぼすか、それを危惧しているのだ。
  _
( ゚∀゚) 「そうも行かん。一対一の人間として俺には報酬を支払う義務がある」

o川*゚ー゚)o 「ふふ、さっすがジョルたん。私を対等な人間としてみてくれる人なんて、最近中々いないよ」

 内心では化け物と称していることは秘密である。
 秘密にしたところでバレていない確証は無いが。

o川*゚ー゚)o 「うんとねー。私が欲しいのはねー」

 魔女がグラスを取って一回し。
 大きめに砕かれた氷が、冷たく透き通った音色を響かせる。

o川*゚ー゚)o 「私を殺してくれる人」

516 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/20(土) 21:58:58 ID:F4YosrFc0

 ジョルジュは反射的に目をそらした。
 魔女の目は光を一切反射しない暗さを見せ、そのままでは魅入られてしまうような恐怖があったのだ。
 自然に背中に汗を流す。
 砕けた口調のせいで失念しかけるが、目の前にいる女はウィンクの気軽さで人を殺せる存在なのだ。

o川*゚ー゚)o 「ね☆無理でしょ☆」

 一転、淀みの無い満面の笑み。
 周囲には世の暗さもまだ知らない年頃の少女に見えるだろう。
 それでもジョルジュの背筋を流れる汗が引くことは無かったが。
  _
( ゚∀゚) 「……わかった。一応なにか考えておいてくれ。俺に準備できるものならば、善処しよう」

o川*゚ー゚)o 「ふふっ、ジョルたんたら真面目〜」
  _
( ゚∀゚) 「決行はいつにするつもりだ?我々もある程度の補助はするつもりだ」

 ここで言う補助とは、人避けの類のことである。
 禁酒委員会付きの軍が自ら直接戦闘に出ることはほとんど無い。

o川*゚ー゚)o 「そぅだなあー、あの子の調整ももう終わったし、明日!」

 まるで遊ぶ日取りを決めるような安易さで魔女は笑う。
 ジョルジュは自身の胃に一抹の不安を押し込めて、冷めたトーストに噛み付いた。

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