( ^ω^)剣と魔法と大五郎のようです

十一話

413 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 22:59:10 ID:vv/gHxMs0

从 ゚∀从「まーた派手に散らかしたもんだ……」

 それぞれに満身創痍の四人をみたハインリッヒは、腰に手をあてこれ見よがしにため息を吐く。
 ツンたちの身を案じて急いで来てくれたのか、額には汗が浮いていた。

从 ゚∀从「まだ往診が残ってるんだ、ちょっと急いで処置するから覚悟しろ」

ξ )ξ「ぎょええええええええ」

 ハインリッヒは素早く、的確に、そして少々荒っぽく治療を行う。
 麻酔無しでやられたものだから、ツンは絞め殺される鶏のような声を上げた。
 ただでさえ治りきっていない身体にさらに傷を増やした罰も含まれているらしい。

 ブーンも同様、傷口の消毒と縫合。
 肉が抉れてしまっているところは治し切れないとかで、止血と魔法による保護に留まる。
 そして失った血の回復を少しでも早めるために何やらよく分らない液体を口に詰め込まれていた。

( ^ω^)「そっちの二人も頼むお」

ξ゚听)ξ「……まあ、生きてるみたいだし、死なせるのはなんか後味悪いわよね」

从 ゚∀从「元からそのつもりだよ」

 ハインリッヒは倒れているサスガ兄弟に手早く止血魔法をかける。
 かなりの出血があるものの、まだ生きているようだ。しぶとい。

414 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:00:01 ID:vv/gHxMs0

 ハインは本格的な治療を始める前に、見たことの無い魔法を兄弟にかけた。
 それぞれの額に真一文字に先が入る。
 拘束魔法に似ているが、少々違うようだ。

从 ゚∀从「“命司りし精霊達よ、禁忌に触れる我が傲慢を赦されよ”」

 紡がれた魔法の糸が瞬く間に兄弟の切り傷を塞いでいく。
 傷が完全に塞がると、次に内臓や骨の再生の魔法に切り替えた。
 これが、本当に死ぬんじゃないかってくらい痛いのだ。

( ゚_ゝ゚)そ「!!」

 手始めにかけたアニジャが飛び起きて、素早い動きでその場を飛び退く。
 ブーンが動こうとしたのをハインリッヒが手で制した。
 アニジャは自分の腹を見て、状況をぼんやりと理解したらしい。

( ´_ゝ`)「俺達は、負けたのか」

( ^ω^)「お」

( ´_ゝ`)「……随分甘くなったなオルトロス。昔のお前なら容赦なく……」

从 ゚∀从「“椅子倒しますねー”」

 キリッとした顔でブーンを睨んでいたアニジャの頭が唐突に地面に打ち付けられる。
 あまりに突然のことにブーンとツンは口をだらしなく開いた。

416 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:01:28 ID:vv/gHxMs0

( ;´_ゝ`)「な、なんだ、これ」

从 ゚∀从「“はーい、もう少しなんで我慢してくださいねー”」

 次は頭が急に持ち上がり、アニジャがハインリッヒへ引き寄せられていく。
 まるで縄か何かで縛り無理やりに手繰り寄せているようだ。

从 ゚∀从「“痛かったら右手上げてくださいねー”」

( ;´_ゝ`)「うげっ」

 アニジャは地面に仰向けに叩きつけられ、そのまま金縛りにかかったように動けなくなる。
 ハインリッヒが額に刻んだ線が淡く輝いていた。
 おそらく幾つかのキーワードを切っ掛けに発動する拘束魔法なのだろう。
 見ている分には面白いくらいだが、実際やられたらたまったもんじゃないだろうな、とツンは戦慄する。

从 ゚∀从「行儀の悪い患者用の拘束魔法だ。しばらく大人しくしててもらうぞ」

( ゚_ゝ゚)「ぐえええええええええええ!」

 中断していた骨の再生を再開。
 アニジャは白目を剥いて叫んでいるがハインリッヒは一切手加減をしない。
 この様子だと、やはり麻酔魔法は併用していないようだ。

417 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:02:35 ID:vv/gHxMs0

( ゚_ゝ゚)「うごおおおおおおおおおお」

ξ゚听)ξ

( ^ω^)

( ゚_ゝ゚)「うげあああああああああああ」

ξ゚听)ξ

( ^ω^)

( ゚_ゝ゚)「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

ξ゚听)ξ「私達が蹴ったり切ったりしても、こんな声出さなかったわよね」

( ^ω^)「うんお」

( ゚_ゝ゚)「」

从 ゚∀从「よーし終わりだ」

ξ゚听)ξ「私、もう怪我したくない」

( ^ω^)「ぼくもだお」

418 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:03:19 ID:vv/gHxMs0

 オトジャもほぼ同様のプロセスで治療を施された。
 途中から悲鳴を聞くに堪えなくなったツンとブーンは耳に指を突っ込んでいた。
 いっそ放置して死なせたほうが幸せだったんじゃないかと疑いたくなるほど、オトジャはのた打ち回っている。

 やっと治療を終えた頃には兄弟は精も根も尽き果てたという様子でぐったりとしている。
 治って直ぐ再びの戦闘を警戒していたツンだが、その心配は無さそうだ。

从 ゚∀从「“はーい、じゃあおわりでーす”」

 兄弟の額から印が消える。
 体の拘束を解かれた二人は、立ち上がりはせず地面に座りなおす。

(´<_` )「何故助けた?」

 オトジャの質問に敵意の類は感じられない。
 ただ純粋に疑問を持ったのだろう。
 ツンも大よそ同じ気持だった。

 ブーンは殺す気になれば殺してお終いにすることも出来たはずだ。
 それをわざと浅い傷で抑え、その命を守った。
 ツンも無駄な殺生は絶対に拒むが、相手が自分の命を狙った殺し屋であれば少々話は変わってくる。

419 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:04:25 ID:vv/gHxMs0

( ^ω^)「お?殺さずに済むならそれがいいお」

 兄弟がさも意外なことを聞いた、という顔をする。
 互いに顔を見合わせ、次に口を開いたのはアニジャだった。

( ´_ゝ`)「お前本当にオルトロスか?」

( ^ω^)「そうだお」

( ´_ゝ`)「それにしちゃああまりにも」

('A`) 「待てよ。先にこっちの質問に答えろ」

 アニジャの言葉を遮るようにドクオが入れ変わって現われる。
 穏やかだったブーンに対し、こちらは敵意丸出しだ。
 貧弱な体つきのせいで威圧感こそ無いが、強気な態度にアニジャも黙る。

('A`) 「雇い主は?」

( ´_ゝ`)「……禁酒委員会だ」

ξ゚听)ξ「!」

420 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:05:40 ID:vv/gHxMs0

(´<_` )「アニジャ」

( ´_ゝ`)「どうせ俺達は依頼に失敗した。義理立てする必要も無いだろ」

ξ゚听)ξ「……それ、上に訴えたら禁酒委員会のことどうにかできないかしら」

('A`) 「無理だよ。傭兵の証言は客観的に有効な証拠も無きゃ受け入れられない」

( ´_ゝ`)「そゆこと。俺らを雇った証拠なんかとっくに隠滅してると思うぜ」

ξ゚听)ξ「チッ」

 傭兵が雇い主を守るため(あるいは雇い主との契約によって)虚偽の証言をすることは少なくない。
 よって傭兵の証言のみでは有効な証言としては成り立たないのだ。
 嫌疑をかけられた本人、この場合で言う禁酒委員会が否定すれば、それで終わりになってしまう。

 よって、サスガ兄弟が証言しただけでは証拠が無いのと同然なのである。
 もし禁酒委に侵入しその現場を目撃するなりする第三者がいれば、嫌疑は深くなり捜査が始まることもあるのだが。

( ^ω^)「っと、じゃあ僕からも一つ聞いていいかお?」

 ブーンが再び出てくる。
 やはり見慣れないのか、サスガ兄弟は一々驚いていた。

421 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:06:48 ID:vv/gHxMs0

( ^ω^)「僕の知る限り、あんた達は「戦争専門」だったはずだお」

( ´_ゝ`)「ああ、そう意識したことはないけどな」

( ^ω^)「なぜ、今回に限って、チャンネル国内での抹殺依頼なんか受けたんだお?」

( ´_ゝ`)「……魔女に用があったんだよ」

ξ゚听)ξ「!」

( ^ω^)「……」

( ´_ゝ`)「お前を殺せば、報酬とは別に情報をくれるって言われてな、それでオーケーした」

 ブーンは予想がついていたのか、それ以上は何も聞かなかった。
 兄弟は立ち上がって尻を叩く。
 話はお終い、ということだろうか。

( ^ω^)「僕らも、魔女を探してるお」

 立ち去ろうとしていた兄弟の足が止まる。
 少し驚いたような顔を一瞬見せて、直ぐに背を向けた。

(´<_` )「“海鳥を駆る”」

 砂浜を濡らしていた水が集まり、鳥の形を成す。
 兄弟が背に乗るのを待つように、地に足をついて羽を下ろした。

422 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:07:52 ID:vv/gHxMs0

( ^ω^)「何か情報を得たら、交換しようお」

( ´_ゝ`)「……へいへい。情けをかけられた恩があっちゃ、断れねーな」

 そう言い捨てて兄弟は水の鳥に跨る。
 オトジャが前、アニジャが後ろ。
 二人の位置が定まった瞬間、水の鳥が大きく羽ばたく。

 ふわりとその巨体が浮き上がった。
 あっという間に空高く飛び上がった二人は、あっさりと遠くの空へ消えてゆく。
 あの方角は、VIPの方だ。

ξ゚听)ξ「ったく、なんだかなー」

( ^ω^)「何がだお?」

ξ゚听)ξ「べっつにー」

 魔女を追っている、という点で何か通じるところがあるのかも知れないが、それにしてもあっさり赦し過ぎである。
 色んな場所をボッコボコにされたツンちゃんとしてはちょっと不に落ちない。
 殺せとは言わないから、せめて額に「肉」と刺青を刺すぐらいの報復はしたかった。

423 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:09:21 ID:vv/gHxMs0

('A`) 「ま、ツンの気持も分るけどよ」

 再びドクオ。ずり落ちそうなズボンのベルトを締め直し、頭を掻く。
 彼もどちらかと言えば巻き込まれた立場のためツンの思考を理解したようだ。
 同時にブーンと通じているため、ブーンの考えに反する気は無いらしい。

从 ゚∀从「そうだ、ツン。お前のペットの蛇、ウチにいるからな」

ξ゚听)ξ「え?!」

从 ゚∀从「往診に出たとき拾ったんだ。弱ってたから簡単な治療と飯与えて寝かせてる」

ξ゚听)ξ「そっか…」

 ツンはそっと胸を撫で下ろした。
 支社なりツンの部屋なりに逃げ込んでくれていればいいと思っていたが、ハインリッヒの家へ逃げるとは中々賢い。
 恐らく何度も尋ねていて覚えたからだろうが、あそこにいるならば安心だ。

('A`) 「なんだったら送っていくぞ?魔法力余ってるし」

ξ゚听)ξ「ずっとブーンにまかせっきりだったしね」

(;'A`) 「ちゃんと活躍したわ!魔法でこうぱぱーっと活躍したわ!」

ξ゚听)ξ「うん。まあそれはいいからよろしく」

(;'A`) 「そんなこと言ってると送ってやんないぞ、もう…」

424 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:10:06 ID:vv/gHxMs0

从 ゚∀从「じゃ、俺は往診があるから行くぜ。鍵は植木鉢に隠してある。勝手に入れ」

 白衣をひらめかせハインリッヒは農家へ続く道を去っていく。
 礼の言葉を掛けると片手を上げて返事をした。
 懐からなにやら取り出して飲んでいるのは、以前ツンも貰った魔力回復薬だろうか。

('A`) 「じゃ、行くぜ」

ξ゚听)ξ「うん」

 ツンがハインを見送っている間にもドクオは魔法式を展開。
 飛行移動の魔法を組み上げる。

 しかし、中ほどまで展開が進んだとき、作業が急に止まった。
 どこかに間違いがあったとかではないようだ。
 ツンがドクオの顔を見ると、顔が青い。

 元々顔色が優れているほうではないが、それにしても酷い色だ。
 生気を感じないほどで、目がみるみる虚ろになってゆく。
 ツンが心配し眉をひそめるのと同時、展開途中の魔法式が霧散。
 体から力が抜け、その体が傾く。

 慌てて支えたツンの腕に力なくしがみつき、何とか耐えた。
 息の乱れすらない。今にも死ぬ、と言った様相だ。

ξ;゚听)ξ「えっ?えっ?ちょっとドクオ?」

 戸惑うツン。もしや兄弟との戦闘で何か甚大なダメージが残っていたのだろうか。

425 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:11:30 ID:vv/gHxMs0

(; A ) 「くっそ……、もう少しもつと、思ったんだけどな……」

 悪態をつきながらも、怖ろしい速さでドクオの身体は力を失ってゆく。
 支えるために触れた首元は生きた人間とは思えないほど冷たく、ツンは戦慄した。
 尋常ではない。今すぐ死ぬといわれても疑いなく信じてしまうほど、ドクオの身体は命を失っていく。

ξ;゚听)ξ「ちょっとドクオ!ドクオ!」

 返事は無かった。
 辛うじて浅い呼吸が残っているが、あまりに弱弱しくいつ止まってもおかしくない。

ξ;゚听)ξ「なんなのよ、もう!」

 体勢を変え、ドクオを背負う。
 男としてはかなり小柄で軽いドクオではあるが、戦闘の疲労が残る今のツンにはなかなか重い
 歯を食いしばり、ハインリッヒを追った。

 まだそれほど遠くには行っていないはずだ。

ξ;゚听)ξ「リィーッヒ!!ちょっと待ってリィーッヒ!!」

 一難さってまた一難。
 静かな町を、ツンは大声張り上げて走っていった。

   *   *   *

426 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:12:13 ID:vv/gHxMs0

 チャンネル国が首都、ラウンジシティ。
 国の中枢機関が集められたこの街に禁酒委員会の本部はある。

 木の骨組みに石造り。敷地は大きいが派手さは無い
 VIPの大五郎本社とは対照的に、その佇まいは地味ながら洗練されており、国家機能の一翼の担う自負が見て取れた。
 門の上部に刻まれた黒鉄のエンブレムは、剛い正義の意思を表している。

 その内部、唯一の三階に禁酒委員会委員長、アラマキ=スカルチノフの執務室はあった。
 外観同様、無駄なものは一切無く、樫を組んだ机が一つ。
 一時的に資料を保存するための本棚が一つ。
 窓には木作りの枠に暗殺を防ぐため防護魔法が掛けられたガラスがはめ込まれている。

ハハ ロ -ロ)ハ 「ハロー、ミスタアラマキ。失礼しマス」

 補佐官ハロー=ケィフォーは執務室に入ると小さく敬礼を行う。
 部屋の主、アラマキは机に落としていた視線を一瞬チラリと上げ、直ぐにまた戻した。
 ハローは安い絨毯を踏みアラマキの前へ。
 新たな書類を机の片隅に置く。

ハハ ロ -ロ)ハ 「少し、休まれてはいかがデスか?」

/ ,' 3 「お前の仕事は、ワシの身体を気遣うことか?」

ハハ ロ -ロ)ハ 「あらゆる面で、貴方のサポートをすることデス、ミスター」

427 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:12:59 ID:vv/gHxMs0

 その返答にアラマキは渋々と万年筆をペン立てに差し、顔を上げた。
 穏やかそうに垂れた眼と、深く刻まれた顔中の皺。
 髪と眉には白が混じっており、ともすればただの温厚な老いぼれにしか見えない。
 現在来ている軍服仕立てのジャケットよりも、落ち着いた礼服の方が似合いそうだ。

 しかし、覇気と言うのだろうか。
 彼の全身から漲る生命力のようなものが彼の老いを感じさせない。
 それは執念というべきか、怨念というべきか、一介の補佐官に過ぎないハローに分ることではないが。

/ ,' 3 「ワシの補佐についたものは、大抵ほど無くやめてゆくのだが、お前はしぶとい」

ハハ ロ -ロ)ハ 「老人介護にしては、破格の給料デスので」

/ ,' 3 「ふん。つくづく、あの男が連れてきた女だな」

 あの男というのは、現在サロン支部で支部長を務めているデミタス=モリオカのことだ。
 ハローはデミタスの紹介でアラマキの補佐官の役についた。
 そのせいもあってか、アラマキはハローに対しまったくといっていいほど弱みを見せない。

 アラマキはデミタスを信用しているが信頼はしていない。
 それはデミタスの側も同じこと。
 故に二人は適切に距離を置き、禁酒委員会はこのNo1とNo2の反目により、絶妙な組織バランスを保っている。

 デミタスがハローをアラマキに預けたのは人質、のような意味合いもあった。
 互いを監視する楔というわけだ。
 そのほかにデミタスは「あの爺さん、俺の手駒が近くにいれば意地になって働くだろ」とも言っている。
 ハローとしては、そちらが本心な気もしていたが。

428 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:13:46 ID:vv/gHxMs0

ハハ ロ -ロ)ハ 「ティーを持って来させマショウか?」

/ ,' 3 「いらん」

 アラマキは席を立ち、窓へ近づく。
 ラウンジは昔ながらの町並みを維持し、二階建て以上の建物が少ない。
 三階のこの部屋からは広い範囲を見渡すことが出来る。

 逆に言えば絶好の暗殺ポイントが複数ある、ということではなるのだが。
 少なくともガラスに仕込まれた魔法は大規模な魔法でもない限りは破ることは出来ない。
 この部屋ごと吹き飛ばされれば別だが、それを言ってしまえばどこにいても同じだ。

ハハ ロ -ロ)ハ 「あまり窓際に立たれては」

/ ,' 3 「ワシの命を狙うものなどおらん」

 どういう意味を含めて言ったのか。
 街を眺めるその横顔から読むことは出来ない。

/ ,' 3 「目の前の通りのあそこは随分長く改修しているようだが」

ハハ ロ -ロ)ハ 「一月程でショウか。確か古い修道院ですね」

/ ,' 3 「……静かだ」

ハハ ロ -ロ)ハ 「穏やかな街デスよ、ここは本当に」

429 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:14:32 ID:vv/gHxMs0

 アラマキは窓から離れると、机の上の書類を手に取りハローに差し出した。
 それを受け取り、パラパラと内容の確認をしていく。
 多くが酒類根絶法に関わる刑罰を求めるものだ。

 大部分を委員会の役員達で分割してはいるが最終的な決定権はアラマキが持っている。
 故に根絶法が執行される限り、アラマキに完全な休日はない。

/ ,' 3 「今後、モリオカと連絡を取る予定は?」

ハハ ロ -ロ)ハ 「夕暮れ前には向こうからの密使が来る予定デスが」

/ ,' 3 「恐らく、オルトロスの抹殺は失敗している。モリオカは、あの犬を侮りすぎだ」

 アラマキの目は真剣そのものだ。
 デミタスは、オルトロスの弱体化を指摘し、その抹殺を引き受けた。
 舐めているといえば舐めているが、ハローとしては妥当な判断だとも思う。

/ ,' 3 「念を押しておけ。アレは危険だと」

 少々空回りにも思えるアラマキの警戒心。
 話半分に聞きうけ、ハローは執務室を後にした。

 サロンからの密使がオルトロス抹殺失敗の報せをもって訪れたのは、その一時間後のことだった。

  *   *   *

431 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:15:19 ID:vv/gHxMs0

从'ー'从「これでよ〜し」

 ワタナベは昔からちょっと抜けた女の子だった。
 学校へ行くたびに忘れ物をし、忘れ物をしなかったと思えば転んで服を破く。
 小さな頃はそれでも良かった。可愛いね、で大人たちは済ませてくれた。

 しかしワタナベももう十六歳。法律上は結婚が許される年齢になった。
 今までの自分を変え新しい自分になる。
 もう「ふぇぇ」なんて言ってられる歳では無いのだ。

 ワタナベはバケットにありったけの荷物を詰め込んで箒に引っ掛けた。
 忘れ物が無いかを30回ほど反復確認し、自身も箒に跨る。
 箒の柄にサドルとハンドルを取り付けた飛行移動専用の箒。
 生身であったりただの箒を使うよりは飛行魔法の安定性が増す。
 
从'ー'从「いってきま〜す」

('、`*川 「気をつけてねワタナベちゃん。知らない人について行っちゃだめよ」

从'ー'从 「は〜い」

( ゚∋゚)ノシ

 箒ごとワタナベの体が浮き上がる。
 周囲の空気が乱れ砂埃が舞い上がった。
 箒は方位磁針のようにゆっくりと方向を調整。
 目的の方向を向いた瞬間、爆発と大差ない轟音を上げ発進した。

432 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:16:10 ID:vv/gHxMs0

 凄まじい衝撃がイトールパン工房を揺らす。
 店主のペニサスは顔を軽く庇い、ワタナベの軌跡を目で追った。
 ロングのスカートがはためくが気にする様子は無い。

('、`*川 「あんた、仕事に戻るよ」

( ゚∋゚)bそ

 見送りを済まし、仕事へと戻ったイトー夫妻を尻目にワタナベの乗った箒はグングン加速していった。
 束ねた髪が風圧と慣性により後ろへ大きく靡く。
 手と太ももに力を込め箒を押さえ込み、軌道を修正。
 ワタナベの出しうる最高の速度で目的地を目指す。

 目的地は農の街、サロン。
 知り合いの魔法使い(及び剣士)から届いた手紙の依頼に答えるためだ。
 依頼品の詰まったバケットはハンドル部分までずり下がってきていた。
 これがワタナベの命の恩人を救うことになる。

 彼、山田孝雄かつメランコリーズ=ロンリードッグ(笑)もといドクオとはつい最近出逢った。
 お遣いに出た草咲シティで悪漢に絡まれているところを颯爽と助けてくれたのだ。
 あの時のことは恐らく一生忘れない。
 白馬にこそ乗っていなかったが、あの時のドクオは紛れも無く王子様だった。

 奥手のワタナベは普段アピールが出来ないから、こういう非常時にこそ活躍しなければ。

从*'ー'从 「待っててね〜山田さ〜ん!」

 その日少女は風になる。

433 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:17:01 ID:vv/gHxMs0

 サロンの中央街からやや外れた農地の真ん中にワタナベは着地した。
 馬や普通の飛行魔法で来るよりもはるかに速い到着である。
 空気抵抗を軽減する魔法がかかった上で、ワタナベの顔は酷い有様だ。

 バケットを肘にかけ、箒を担ぎ、ハインリッヒの家へ走る。
 空いている手で荒いながらも髪を整えた。
 憧れの人に会える。たとえ音の壁に打ちのめされた後でもワタナベの足取りは軽やかだ。

从*'ー'从「ごめんくださ〜い」

 玄関脇に箒を放り投げ、扉を開ける。
 直ぐ目の前のリビングには、不安そうな顔のツンが。
 突然入ってきたワタナベを見て少なからず驚いたようだ。

ξ;゚听)ξ「ナベちゃん?!」

从*'ー'从「ドクオさんいますか〜?」

ξ;゚听)ξ「うん、処置室に…」

从*'ー'从「え?」

ξ;゚听)ξ「ちょっと色々あった後に突然ぶっ倒れて……」

从;'ー'从「ふぇぇ!ホントですか!?」

434 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:17:53 ID:vv/gHxMs0

 ワタナベは処置室へ飛び込む。
 ハインリッヒが懸命な延命をしているが状況が悪いのは一目でわかった。

从;゚∀从「ワタナベ!グッドタイミングだ!大五郎を寄越せ!」

从;'ー'从「ふぇぇ?!」

 半ば奪い取るように大五郎を受け取ったハインは手早く開封。
 気絶しているドクオの口に漏斗を深く差し込み、中身を流し込む。
 とくとくと注がれる焼酎が渦を巻いて消えてゆく。

 カップ一杯があっという間に空になった。 
 新しい大五郎を取り出したワタナベを、ハインリッヒが手で制する。

ξ;゚听)ξ「あの、一体どうゆうこと?」

 ツンが扉から顔を出しておずおずと尋ねる。

从 ゚∀从「ああ、んー……」

( A`) 「リッヒ大丈夫だ。そこらへんは俺が話す」

从*'ー'从「ドクオさん!」

  *   *   *

435 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:18:56 ID:vv/gHxMs0

ξ゚听)ξ「つまり、ブーンとドクオの他に大五郎が融合していて、定期的に摂取しないといけないのね」

('A`) 「おう」

 ハインリッヒの家のリビングでツンとドクオ、ワタナベがテーブルを囲んでいる。
 一段落ついたと安心したハインリッヒは残っている仕事へと出て、ここにはいない。
 治療の終わっているタカラも何故か「助手」と称して連れ去られた。
 ツンは首に巻きつくニョロを撫でながらツンは背もたれに寄りかかる。

 ドクオの話は相変わらず重要な情報を切り抜いた簡素な説明だった。

 魔女の気まぐれか、ドクオとブーンの他に焼酎の大五郎が共に融合している。
 この大五郎、見た目や身体能力等にはまったく影響を及ぼさないのだが日常生活を送る内に消費。

 そして大五郎が無くなると、ブーン達は死ぬ。

ξ゚听)ξ「もうちょっと早く教えてくれても良かったじゃない」

('A`) 「俺はともかく、ブーンにとっちゃ数少ない弱点だからな。そうホイホイ話せることでもねえよ」

 厄介なことに、大五郎がどの程度の勢いで消費されるかはドクオ達にも分らないのだそうだ。
 知れず知れずの内に減り、ほとんど予兆の無いまま発作が起きる。
 魔女がドクオ達に残した言葉を信じるならば、発作を起こして1時間以内に大五郎を摂取しなければ終わり。
 他の酒類でもある程度代用は利くが、やはり最終的に必要なのは大五郎。

436 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:19:44 ID:vv/gHxMs0

ξ゚听)ξ「剣士と魔法使いと焼酎って、もう訳分らないってレベルじゃないわよ」

('A`) 「同感だ。是非魔女に言ってやってくれ」

 ドクオは椅子に凭れ、テーブルの上にあった大五郎を一口。
 一応ストレスが大きいほど消費が早いそうだ。
 今回はブーン達が予想した以上の強敵が相手だったことが起因して発作にまで至ったらしい。

('A`) 「今晩くらいまでは持つと思ったんだけどな。今朝の内に速達出しといて貰って良かったよ」

从*'ー'从 「えへへ〜大至急って書いてあったんで大至急来ちゃいました〜」

('A`) 「偉い偉い」

从*'ー'从 「お手紙貰えばどこにだって飛んでいきますよ〜」

 冷静に考えると、ドクオ達はこの根絶法の時代では常に死と隣りあわせだ。
 もしワタナベが間に合わなければ死んでいたわけだから、とんだ綱渡りである。
 下手にうろつくよりも、VIPシティに住んだほうが良いと思ってしまうのは、ツンがあくまで他者だからだろうか。

('A`) 「ま、これでしばらくの大五郎は確保できたし、安泰だ」

ξ゚听)ξ「そんなこと言ってるとまた厄介なのに襲われるわよ」

(;'A`) 「やめてよそういうの!」

  *   *   *

437 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:21:02 ID:vv/gHxMs0

( ,,^Д^) (このところ、なんか蚊帳の外だにゃあ……)

 ハインリッヒに連れ出されたタカラは、数件の往診に付き合った後、彼の指示で湖畔の砂浜へと来ていた。
 ブーン達が戦闘を行った際に残した武器の回収が、彼に命じられた仕事だ。
 とぼとぼと歩き回り、落ちていた小太刀を拾う。
 歪みと刃こぼれが酷いがブーンのものに間違い無い。

( ,,^Д^)(命張ったり精密射撃で頑張ったりしてるんだけどにゃあ……)

 真っ二つになった鞘も見つける。
 差し込もうとしたが刃が歪んでいるせいもあって上手く刺さらない。
 仕方ないので持たされた麻袋できつく包む。

( ,,^Д^) (やっぱりこの訛りかにゃ?この訛りがいかんのかにゃ?)

 もう一つ、あまり見ない形状の短剣も発見する。
 くの字に湾曲した形状で先端がやや幅広になっていた。
 肉厚で持ってみると他の短剣類よりは確実に重い。
 ブーンやツンが扱っていたものでは無いはずだから、恐らく敵対した傭兵のものだろう。
 回収しなかったのだからいらないのだろうと判断し、腰の後ろのベルトに差す。

( ,,^Д^) (それともこの髭?この髭が悪いのかにゃ?でもこの髭は俺のアイデンティティだにゃ)

 タカラ=イッコモン32歳。職業傭兵。得意武器弓矢。視力2.5。
 活躍の機会を得られない彼は肩を一段低くして任されたお使いを遂行して行った。

438 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:22:04 ID:vv/gHxMs0

 一通り武器を集め終わりタカラは背伸びをする。
 長いこと下を見て歩いていたので首筋が凝ってしまった。
 そろそろ戻ってもいいだろうか、と周囲を見渡すと、波打ち際に一人の少女が立っているのを見つける。
 いつの間にいたのか分らない。
 タカラに背を向け、湖をぼうっと眺めている。

 長い黒髪に、白い腕。全体的に華奢で後姿を見る限りはかなり幼い印象。
 濃い灰色のローブを纏っているため、余計に小柄に見えた。
 タカラは集めた武器の袋を腰の袋にくくりつけ、少女に歩み寄る。

( ,,^Д^) 「お嬢さん何してんだにゃ?一人で湖遊びは危ないにゃ」

 声を掛けると、少女が振り向き、少々驚いた顔をする。
 その後自身の身体を軽く見渡して納得したようにため息をついた。

o川*゚ー゚)o 「あちゃー、ステルス解けちゃってる」

( ,,^Д^) 「?」

o川*゚ー゚)o 「ま、いっか☆ おじさん、ブーンの友達?」

( ,,^Д^) 「にゃ?友達って程でもないけど、お嬢ちゃんはブーンの知り合いかにゃ?」

o川*゚ー゚)o 「うん、まーね☆」

 知り合いなんかよりもっともっと深い仲だけどね、と小さく続いた言葉はタカラの耳には届かない。

439 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:23:11 ID:vv/gHxMs0

 タカラを見上げる少女の顔はとても可愛らしかった。
 大きな目に形のいい鼻。唇は薄く、頬が淡い桜に染まっている。
 一言で言って美少女。自分の娘が世界一可愛いと思っているタカラも少々揺らぐほどだ。

o川*゚ー゚)o 「おじさん何してたの?ゴミ拾い?えらーい☆」

( ,,^Д^) 「ま、まあそんなところかにゃ。お嬢ちゃんは何してたんだにゃ?」

o川*゚ー゚)o 「わたしー?わたしはねー」

 少女が湖を振り返った。長い髪がキラキラと空を舞う。
 タカラも釣られてそちらへ目を向けるが特に面白いものがある訳ではない。
 周囲を囲む防風林に、遠い対岸に見える巨大な霊峰イチ山。
 水面は穏やかで、低い波が日光を不規則に反射して眩しい。

 が、その水面に僅かに変化が起きた。
 タカラたちのいる波うち際から数百メートルほど離れた先。
 それまでの波の揺れとは異なる、大地そのものが揺れているような水の震えがおきる。
 タカラがその異変に目を凝らすと、少しずつ、水面が泡立ち出した。

 泡立ちそのものは、素潜りした人間の呼気が現われたものに見えるが、規模が違う。
 大きな気泡が次々と弾けた。まるで何か巨大な生物が浮上してきているように。

o川*゚ー゚)o 「わたしはねー、ペットの様子を見に来たの!」

440 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:24:06 ID:vv/gHxMs0

 少女が何を言ったのか、タカラには良く聞こえなかった。

 激しい音と共に湖に立ち上る、巨大な水柱。
 タカラはその中に毛むくじゃらの獣の頭を見る。

( ;,^Д^) 「にゃ、にゃんですとおおお?!」

o川*゚ー゚)o 「ふふふ」

 タカラはそれをなんと称するべきか、自身の語彙を高速で検索。
 まずは巨大な犬(狼?)の頭。頬まで裂けた口からは黄ばんだ牙が覗く。
 そこから胴へかけて身体を覆う黒い剛毛と、図太い前足。

 そして下半身は犬の上半身とは全く異なっていた。。
 後ろ足も毛もなく、ただ図太い胴が真っ直ぐに続く。
 徐々に先細りし、最後は双葉のように分かれた幅広いヒレになっている。

 言うならば、鯨の下半身に、巨犬の上半身を生やした化け物。

 どう見てもまともでは無い生命体。
 最近も似たようなものと戦ったから直ぐに思考が結びつく。
 合成獣、キメラだ。

 キメラは久方ぶりの空気を愉しむような気楽さで、何度も水面を跳ねた。
 重い衝撃音が幾度と無く響き、その巨体が徐々にタカラたちへ近づいてくる。
 それまでが比にならないほど高い波が足を濡らす。

441 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:24:47 ID:vv/gHxMs0

( ;,^Д^) 「クソッ」

 タカラは素早く弓を構え、矢をつがえる。
 弦を引き絞り目に狙いを定め、放った。

 しかし、矢は舞い上がった水しぶきに飲まれキメラへは届かない。
 タカラはもう一本矢を取ろうとして諦め、弓を身体に掛ける。
 そして棒立ちの少女の手を取った。

( ;,^Д^) 「お嬢さん逃げるにゃ!」

o川*゚ー゚)o 「?なんでぇ?」

( ;,^Д^) 「なんでって、このまま襲われたら死んじまうにゃ!」

 タカラが本気で引っ張っても少女の身体はびくともしなかった。
 手こずるうちに、キメラは岸まで接近し、大きく跳ねて砂浜に着地。
 砂交じりの水しぶきがタカラと少女を襲う。

( ;,^Д^) 「にゃぁ〜もうだめにゃぁ〜!!」

 キメラに背を向け、少女を庇うように抱きしめたタカラは死を覚悟した。
 もっと子供に会えば良かったとか、後悔とか走馬灯のようなものが頭を過ぎっていく。

442 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:25:54 ID:vv/gHxMs0

 目を堅く閉じて30秒。
 タカラはまず自分が生きていることに驚いた。
 耳元で空気が震えるような音がする。
 少女を抱きしめていた腕を解きながら後ろを振り返る。

( ,,^Д^) 「」

 巨大な目と、視線が噛みあう。
 どこまでも黒い瞳に自分の顔が移った。
 耳元で聞こえていたのは、キメラの鼻息。

( ;,^Д^) 「…?!…?!」

 硬直するタカラをよそに少女の手がキメラの鼻を撫でた。
 小さな少女の手を大きく広げても三分の一にすら満たない巨大な、それをさすられる度、キメラの目が心地よさ気に歪む。
 時折ブフウ、とため息のような息まで吐いた。
 少女のローブがめくれ、中にはいていた短いスカートもひらひらとなびく。

( ;,^Д^) 「こ、これは一体……」

o川*゚ー゚)o 「可愛いでしょ?」

 怯えるタカラに対し、少女は涼しい笑み。

443 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/10/09(火) 23:26:45 ID:vv/gHxMs0

o川*゚ー゚)o 「名前は決めてないの。鯨と大山犬に彼と私の血を混ぜて作ったお気に入り」

o川*゚ー゚)o 「おっきすぎてまだ調整中だから、あんまり遊ばせてあげれないんだけどね」

 フラフラと後ずさり、尻餅をついた。
 キメラを撫でる少女の姿は母親のような慈愛に満ちている。
 年端も行かない少女が醸し出すには、あまりに違和を持った雰囲気。

( ;,^Д^) 「お、おま、もしかして!」

o川*゚ー゚)o 「安心して。貴方は私を庇った優しい人だから、今ここでご飯にするのはやめてあげる」

 振り返った少女の顔は、大人の女の妖艶なそれだった。
 造形が変わったわけではない。
 雰囲気と称するにもおこがましい、脳に直接響く強烈な気配が印象を変えて見せている。

o川*゚ー゚)σ 「もし、忘れなかったらブーンに行っておいて」

 少女の指がタカラの額に当てられる。
 そこでタカラは気付いた。アレだけの水しぶきがあったにも関わらず、少女は一切濡れていない。

o川*゚ー゚)σ「機が熟したら、逢いましょうって」

( ;,^Д^) 「魔j……ッ」

 タカラの意識は、彼方へと吹き飛んだ。

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