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85 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/05/21(土) 03:48:02 ID:jFySRKSg0
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(;・∀・)(ッ!!!)
不意に、体が跳ね上がった。
……。
起きた。
え、寝てた?
そう、起きたら、寝てた。
いつの間にか寝てて、今起きた。
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86 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/21(土) 03:48:44 ID:jFySRKSg0
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ちょっと便利な異能力、のようです
第四話
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87 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/21(土) 03:49:21 ID:jFySRKSg0
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上半身が跳ね起きた際、今まで自分が意識を手放していた、という結論に至るまでに、やや時間が掛かった。
どうやら、一日を振り返るうちに限界が来ていたらしい。
で、落ちた。 前兆もなくスイッチを切るように。
あるいは、風景写真の雲が消えていくアハ体験のアレのように。
どちらにせよ、悟られぬように、うまいことやられたのだ。
原因と結果が綺麗に結びついているため、これ以上なく紐解きやすい。
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88 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/21(土) 03:52:01 ID:jFySRKSg0
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それにしても万全の態勢で就寝できたわけでもないだろうに、
無意識化の僕は、ちゃっかりしっかり布団をかぶって、体力の回復に支障をきたさぬよう努めていたようだ。
実りある熟睡を求めた我が肉体は、“生活必需品”として衣服や家電と共に連れてきた、愛用の枕にしがみつく形で落ち着いたらしい。
ベッドからはみ出んばかりの、その横幅が特徴的であった愛すべきそれは、一時的に縦長へとフォルムチェンジを遂げ、
本来の使用法を無視された害意の無い拘束を受け続けていた。
お気に入りの枕を、カブトムシのごとく四肢でガッチリ。
それなりに目覚めはスッキリ爽快。 体調も、まぁ四捨五入すればバッチリ全快。
ただ、宙吊り状態になっている携帯は、僕の寝相のとばっちりを受けたようだ。
床すれすれの位置で、なんとか墜落をまぬかれている。
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89 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/21(土) 03:52:56 ID:jFySRKSg0
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ダイブ敢行へ向けての覚悟を決める猶予も与えられなかったであろう、ゲリラバンジー。
Tタイプ人格者に限らず、物好きはなんであんな行為に金払うんだろう。 普通逆じゃない?
というかどうしてあんなもんがサービスとして成立しているんだろう。
同じ人間として甚だ疑問である。
ともかく、こんな無情な状態で放置しておくのもなんなので、とりあえず引き揚げてやることにした。
半差し状態でろくに充電できてない可能性もあったが、確認のために画面をつけてみれば、
いつもの待ち受け画面と共に100%の文字が浮かび上がった。
おーけーおーけー。
それにしても、ろくに食事も与えられずにさんざと働かされた挙句、今度は逆さ吊り。
御老体ながらまったく主人に労われない。 毎度毎度の受難である。
この前出た新機種に食指が動いたので、そろそろ暇を出してやろうとも思っている。
古きには多くの知恵が詰まっている、というのは、生き物でのお話。
少なくとも携帯やパソコンなんてものは、最新の方が便利である。 一部の悲しき例を除けば。
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90 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/21(土) 03:54:33 ID:jFySRKSg0
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電池ついでに時間も確認できた。
11時11分、日曜のお昼前、か。
ささやかな偶然に遅れて気付き、もう一度画面を見てみたが、時既に遅し。
とはいえ堪能できなかったことについての感想は、あらま、くらいのものである。
昨日最後の記憶をたどってみれば、ちょうど日付が変わるか否か、といったところであったので、半日弱は寝ていたということか。
早出だと言っていた内藤さんは、とうに出かけて、仕事に励んでいるだろう。
日曜だというのに、早起きしなければならないとは、大変だ。
いわゆる休日出勤、というやつであろうか。
内藤さんが、俗に言う大きなお友達であったとすれば、
舌足らずに主人公を応援することもあたわずに、滴る涙をぬぐいながら家を出たことであろう。
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91 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/21(土) 03:55:04 ID:jFySRKSg0
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それにしても、いい天気だ。 適度に曇っていて、そこがいい。
くすぐるような風に耐えかねた木々がたまに身じろぎをして、その景色を耳にまで楽しませてくれている。
空気も澄んでいて、気温も高くない。
とても、心地がいい。
捕獲して養殖に乗り出したいほどの快適さである。
これは流石に、このまま家にいるのが少しもったいない。
よく考えれば、履修を組むのは夜でもできる。 なんなら明日でもいい。
クラスのガイダンスは水曜日、授業の開始はその先だ。
買いたいものもいくつかあるし、正直ゲーセン欲もふつふつと来ている。
がっつり遊びたい気分なのも久しぶりだし、しかしここでうだうだ時間を過ごせば、結局家にいるまま終わってしまいそうだ。
というか遊びたい。
この素晴らしき気候そっちのけで結局屋内に籠ることにはなるが、別にいい。
天気がいいってのは、外に出るためのきっかけ。
遠足や運動会なら話は別だが、普段はそれくらいの目安でいいだろう。
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92 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/21(土) 03:56:04 ID:jFySRKSg0
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さあ、そうと決まれば身支度だ。
後でやろうはバカ野郎。
ささっと軽くシャワーを浴びて、外の世界へ繰り出そう。
浴室内で大雑把に予定を固める。
染めた頭髪は傷みやすいと聞くので、一応トリートメントは入念に。
( −∀−)(……とりあえず鍵用のタグでも買って携帯番号書きこんどこうかな)
今回は事なきを得たが、また同じ過ちを犯した際、内藤さんが不在である可能性もある。
管理人さんだって、24時間起きているわけじゃない。
そういう場合にのために、これさえあれば完ぺ……って待て待て。
( ・∀−)(タグ付けといたところで失くしちゃったら家帰れないじゃんか)
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93 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/21(土) 03:56:51 ID:jFySRKSg0
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本末がすっ転んだ。
未来に希望が掛かるかもしれないが、その時どうしようもないなら、どうしようもない。
ならば、ポストに錠前とチェーンでも括りつけて、スペアキーを入れておくか。
錠前の鍵失くしたり家に置き忘れたらどうにもならないな、四桁の番号式にでもしておけば。
詳しいことは知らないが、スペアキーを作るにしても少し時間がかかるだろう。
それまでは、失くさないように、とってもとっても気を付ける。
すごくアホっぽいが、当面はこれでいこう。
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94 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/21(土) 03:57:13 ID:jFySRKSg0
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……というか鍵なんてそんなにポンポン失くすものじゃないだろうに。
なんでこんなに慎重になってるんだ、僕。
( ・∀・)(えっと、あつ、厚い辞書で肩が凝り、薄い電子辞書をビシバシと叩き割る?)
半分わざとだが、国語は、あまり得意ではない。
国語というか、頭の中の語彙の引き出しが固いのだ。
意味は分かっているが、それをつまりなんて言うんだったか、みたいなことが非常に多い。
この前もある単語を吐き出すまで数分掛かった。
あの、ほら、あああ出てこない。
少ない方のアレだ、サブカルじゃなくて、アングラじゃなくて、アレ。
ほら、そんな感じの、ちょっと頭良さそうな言い方。
くそう、モヤモヤする。
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95 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/21(土) 03:58:01 ID:jFySRKSg0
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心に移りゆくよしなしごとまみれで仕事しない脳みそ。
これに早い段階で見切りをつけていた肉体は、いつの間にか自動モードへと移行しており、気付けば体中の泡も既に流しつくしている。
上司が抜けてると部下が育つ。 そう、わしが育てた。
風呂場ってのはどうしてこうも思考が定まらないのだろうか。
ロクに構想は固まらなかったが、これ以上ここにいても仕方ない。
とりあえず、上がることにした。
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96 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/21(土) 03:58:23 ID:jFySRKSg0
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体も髪もきちんと乾かし、身支度も整えた。
よし行くか、と外出前の習慣としてパソコンを落とそうとすれば、画面が昨日のままであることに初めて気付く。
[遺失物 内藤| 検索Q]
( ・∀・)(なんつうアバウトな……検索下手っぴいか)
疲れている時というのは、それでもまだ自分はまともな思考で行動している、と思い込んでしまっているのが厄介だ。
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97 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/21(土) 03:58:44 ID:jFySRKSg0
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たとえば、「明日の朝一で食べるつもりのアイスを、忘れないように机の上に置いておこう」と。
そういった思考を、我が身で働く無数のあらゆる細胞が、咎めないのだ。
文字通りの、違和感が仕事をしない、というやつだ。
そこでおでまし、すっかりよく寝て、思考回路はオールグリーンの今日の僕。
シャワーも浴びて、さらに頭は冴えわたる。
マイナス補正を全て拭った、僕の頭脳を見せてやろうぞ。
どれ、と。 こんなのものは検索とは呼べないぜ、と。
本当の検索というものを昨日の僕に見せつけてやるべく、明日またこの場に訪れた今の僕がキーボードに手を伸ばす。
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98 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/21(土) 03:59:47 ID:jFySRKSg0
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……が、触れようとして、寸でのところで躊躇する。
待てよ、と。 お前それでいいのか、と。
今ここで腰を据えてパソコンに向かい、手早く目的を遂げたとしよう。
直後本来の予定へと行動を移せるだろうか。
そんなもん経験則から言って、答えはNOだ。
そのまま電子の世界に吞み込まれ、おそらく短時間では帰してもらえない。
やり込み要素満載にしてミニゲームも豊富、おまけモード充実。
遊び方は無限大、スプラッタにされた暇や時間は数知れない。
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99 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/21(土) 04:00:12 ID:jFySRKSg0
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たとえば、検索結果が0件の単語を見つけ出す。 これがなかなかに面白い。
最近見つけた最もカッコイイやつは「禁忌ゾグラギア・マガマリア」。
自分の中でこれを超えるものは、まあ当分出ないであろう。
……とか。
そんなことをしていればいつの間にか日が暮れ始めて、なんか今日はもういいや、と、色々どうでもよくなってしまって。
それは、ちょっと待て、ダメだ。
それでは、計画がパアだ。
シャワーを浴びて、身支度も終わってるんだ。
ここで行かなくては、自分というものがすたってしまいそうだ。
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100 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/21(土) 04:02:22 ID:jFySRKSg0
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タッチ寸前でだるまさんに振り向かれた人のモノマネ。
そんな格好で待機状態にある四肢に、新たな指示を送る。
パソコンからの誘惑を振り切り、外に出る。 いざ!
腕には強引に傍らのバッグを掴ませ、足を玄関へと向わせた。
抵抗ロール成功。 転倒も回避成功。
靴を履き、ドアを開ける。
ドアを閉める。
ドアを開ける。
靴を脱ぐ間に、ドアが閉まる。
(・∀・;)))「鍵忘れてんじゃん」
机の上のブツを回収し、改めて玄関に向かう。
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101 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/21(土) 04:02:45 ID:jFySRKSg0
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靴を履く。
ドアノブに手を掛ける、ドアを開く
ドアノブから手を離す、ドアが閉まる。
靴を脱ぐ。
(・∀・#)))))三三「携エェェ〜ッ帯ぃ!!」
この後急にお腹が痛くなり、爪が伸びていることにも気付き、結局家から出れたのは13時を回る少し手前であった。
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102 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/21(土) 04:03:08 ID:jFySRKSg0
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ザーッ、ゴボゴボボ……
( ・∀・)+「ッッマイノリティ!!!」
トイレの中で二度のスッキリがあったのは、また別のお話。
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103 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/21(土) 04:04:23 ID:jFySRKSg0
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ドアを閉める。
鍵を掛ける。
どうにかこうにか、部屋から出ることができた。
ガチャリ。
川 ゚ -゚)「む」
が、
( ・∀・)「え?」
無事に目的地に宿りつくまでには、まだ、掛かりそうだ。
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104 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/21(土) 04:05:11 ID:jFySRKSg0
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川 ゚ -゚)「ここに、新しく?」
( ・∀・)「あ、はい、初めまして、守屋です」
川 ゚ -゚)「見たところ、学生かな?」
( ・∀・)「はい、今年から羽衣大学に通うために越してきました」
川 ゚ -゚)「ほう、ハゴダイか、うちの従妹と同じだ」
( ・∀・)「ハゴ?」
川 ゚ -゚)「近所じゃそう呼ばれているんだよ。
ともかく、これからよろしく頼む。
わからないことがあれば力になろう」
( ・∀・)「ありがとうございます、ええと……
素直さん、でしたよね?
内藤さんから名前だけ聞いてます」
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105 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/21(土) 04:14:39 ID:3dGTObBs0
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川 ゚ ー゚)「ほう、もうあいつとは知り合いなのか。
で、神を信じる気にはなったのかな?」
神を信じるか、とは、初対面の人に問われると硬直してしまうワードの一つだ。
いや、別に毛嫌いしているわけでもないのだが……
やれ数時間にわたる長話を聞かされただの、やれ謎の集会場へ連れて行かれそうになっただの……
そういう体験談を聞くと、嫌でも身構えてしまうというものだ。
しかし、これについては内藤さんの話だ。
くだんの異能力についての感想を問われているのだろう。
(;・∀・)「神を、って、いきなり言われても……
確かに便利だとは思いました、すごいなあとしか」
川 ゚ -゚)「む?
……あーあー、そっちの話か。
まあこんな日のこんな時間なわけだ、問うまでもなかったな。」
( ・∀・)「?」
川 ゚ -゚)「まあいい。
出かけるんだろう? よい休日をな」
( ・∀・)「???
はあ、ありがとうございます」
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106 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/21(土) 04:20:14 ID:vyrxXzAQ0
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では、と結びの句を紡ごうとしたその時
川 ゚ -゚)「そうだ、連絡先を交換しておかないか?
何の縁であれ、お隣さん同士なんだ。
お互い、何かあった際に便利だろう?」
唐突な提案ではあったが、確かにその通りだ。
いざという時がいつ来るともわからない。
先の雲行きの怪しい発言もあったので、少し考えてしまったが、どうも「そういう」感じではない。
第一、危険人物であれば、昨日の時点で内藤さんが釘を刺してくれていたはずだ。
と、あらば、越してきて間もない今、数少ない知り合いとの連絡先は多いに越したことはないし、断る理由もないだろう。
内藤さんとも、今度交換しておこう。
( ・∀・)「そう、ですね。
じゃ、僕から、ええと……
あ、出た出た、QRコードこれです」
川 ゚ -゚)「よし、オーケーだ。
守屋モララー、間違いないか?」
( ・∀・)「はい、大丈夫みたいですね」
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107 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/21(土) 04:20:36 ID:vyrxXzAQ0
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川 ゚ -゚)「出会って早々、長々と引き留めてすまなかったな。
ほら、これが私の連絡先だ」
( ・∀・)「いえいえ、同じアパートの住人として、挨拶は……
あ、メール届きました。
素直……ひさ……きゅう、じゅん?」
川 ゚ -゚)「まあ、読めないだろうな。
くうる、と読む。
まあ、よ、ろ、し、く、っと。
よし、送信」
( ・∀・)「こちらこそよろしくお願いします……そうしん?」
川 ゚ ー゚)「ああ、早速従妹に送っておいたよ。
その、まあ多少、いや色々アレだが、仲良くして損はないはずだ。
まあ同じ大学のよしみだ、よろしくやってくれ。
じゃあ、また」
(;・∀・)「ちょ」
素直さんは足早にその場を離れたかと思うと、滑るように階段を駆け降り、そのままどこかへと去ってしまった。
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108 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/21(土) 04:21:04 ID:vyrxXzAQ0
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しばらくその場に時間ごと取り残されていた僕を、ようやくぶるると局所的に動かしたのは、右手に持ったままの携帯電話であった。
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109 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/21(土) 04:21:28 ID:vyrxXzAQ0
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ちょっと便利な異能力、のようです
第四話 交換の目的
おしまい
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