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18 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/06(金) 07:11:36 ID:QZYTKKX60
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( ^ω^)ちょっと便利な異能力、のようです
第二話
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19 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/05/06(金) 07:12:34 ID:QZYTKKX60
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( ^ω^)「まあ、運がよかったってのもあるお」
お茶をじぶじぶとすすりながら、まずは、そう切り出された。
( ^ω^)「結論から言えば、僕は『失くしものをポッケから取り出せる』んだお。
いちいち言葉にするにはちょっと長いから、普段は『手繰る』って言ってるお。
で、条件がいくつかあって、それらのすべてに見事適えば晴れてさっきの通りだお」
設問1. 以上の文を読み、次の問いに答えなさい。
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20 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/06(金) 07:13:45 ID:QZYTKKX60
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Q,いきなり予想外の答えを聞かされた僕の心情を一文字で答えよ。
なお、句読点および感嘆符や記号の類は文字数に含まないものとする。
(10点、部分点あり)
A,……は?????????!?!?
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21 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/06(金) 07:18:17 ID:QZYTKKX60
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そんな僕の動揺なんて気にせず、世界は回り続ける。
地球も、安全に、決められた航路を進み続ける。
冷静に考えれば、暴走の域を超えた猛スピードで。
それでも何億年と無事故を貫く、安心と信頼の銀河製のスグレモノだ。
そんな地球のとある場所。 というか僕んちの左隣、内藤さんのおうち。
みかん、トランプ、蚊取り線香、サーファー気取りのサンタさん。
季節感が迷子なこたつの向かいで、おそらく今、世界で最も唖然の権化に近いであろう僕をも気にせず、
柔和な表情の我が恩人が開いた指を何本か折っていく。
その間また、じぶじぶとやりながら、片手は握りこぶしを作り、また、ほどいてゆき。
(;^ω^)「うん、ええっと?
あれ? 条件、全部で……うん、いっぱいあるんだお」
(;・∀・)「はあ」
(;^ω^)「……だお」
ビシリとその数を提示できなかった決まりの悪さなのか、はたまたこちらへの申し訳なさなのか、ちょっと声を落としてそう告げた。
全部置いておこう、常識とかツッコミとかとりあえずもう全部置いておこう。
でないと現実に置いてかれる。 慌てて内藤さんの言葉を追いかける。
よし追いついた。
でもまだ頭は追いつかない。
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22 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/06(金) 07:18:40 ID:QZYTKKX60
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ゲーム、漫画、アニメ。 昔からそういうものが結構好きだった。
だから、いわゆるチートじみたブッ壊れ設定も、数多く見てきた僕にとっては、
その原案者の発想力や応用方法に感心こそすれ、いまさら驚きはしない。
しかしあくまで次元が一つ低いものであれば、だ。
ホラーゲー好きが画面の向こう側に巣食うおぞましい魑魅魍魎を駆逐してきたところで、
いきなり目の前に現れたホンモノの下級霊に同じ対応ができるだろうか。
絵空事は、あくまで絵空事であるから許容できるのだ。
しかし、現実で目の当たりにしてしまったら拒絶します、ともいかない。
小粋な冗談で済まそうにも現実に、いわく「手繰られて」しまっている。
トリックを暴くための脳内シミュレートもむなしく、むしろ真実と認めざるを得ないという結論に収束しかけていた。
だから、甘受しよう。 ともかく、ともかく。
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23 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/06(金) 07:19:12 ID:QZYTKKX60
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とにかく、今回は運がよかったってことでいいのだろう。
見事、その数ある条件とやらにすべて適った。
内容を知らずしてのクリアー、初見どころか未見クリアだ。
土俵は違えど、ゲームのトップランカーでもまず無理だろう。
それにしてもシューティングとか格ゲーやってる人って動体視力や反射神経どうなってるんだろう。
ともかく、ともかく。
とにかく、運がよかった、それに尽きる。
今日がゴミの日で、たまたま内藤さんが隣人で、しかもあのタイミングで居合わせられたってことも考えれば尚更だ。
携帯の電源が落ちていなければもう一度ここを離れていたかもしれないし、もう寝ているという素直さんの心証を悪くしていたかもしれないし、
そこで心折れて逆隣のこの部屋の扉を叩くことはなかったかもしれないし、そのまますべて投げやりになって大学を辞めt
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24 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/06(金) 07:19:40 ID:QZYTKKX60
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たあん、
と。
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25 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/06(金) 07:20:07 ID:QZYTKKX60
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静寂を断ち割ったような湯呑みを置いた音が、僕の脳内に閑話休題を告げた。
ハッと我に返り内藤さんに焦点を合わせようとしたら、こたつはもぬけの殻だった。
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26 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/06(金) 07:20:45 ID:QZYTKKX60
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目の前で不可思議な現象を見せつけられた僕は、しばらくその場で固まってしまった。
無理もないだろう、失くしたはずの鍵が、初対面であるはずの隣人のポッケに入っていたのだ。
ゴミを出しに行くついでにたまたま見つけてくれた、というのは考えられない。
ダメもとでポストを確認しに行った時、ダメもとのダメ押しにそこら近辺は見て回ったのだ。
主観的に言っていいなら、くまなく。
……客観的に見られていたら、ちょっと見落としがあったかもしれないが。
それでも、植え込みとか、駐輪場の屋根だとか、ないだろうなーってとこまで探してみたのだ。
でも、そんなトンチンカンなとこになんて当然なくて。
だんだんと心が折れそうになるたびに、
(;・∀・)(っふふん、ほーら思った通りだ、やっぱりないね!
さっすが僕! よくわかってるねえ!!)
って風に強がって励ましていたのは、内緒だ。
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27 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/06(金) 07:21:14 ID:QZYTKKX60
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それはともかく、である。
じゃあ、一体どうやって?
僕が失くした鍵を、どうやって?
……僕が失くした?
差し出された鍵は、僕が最後に見たものと同じ状態を保っている。
もっとも、流石に形状なんかは事細かに覚えてはいない。
が、そこにつけ込んだ彼が適当な鍵を差し出して、僕をからかっているようにはとても見えない。
初対面だし根拠もないが、そんな歪んだ性格をした人が、いくら隣人とはいえ出会ってそうそう自分の部屋に上げてくれるだろうか。
そもそも、僕がキーホルダーを付けない主義なんてことを知ってるはずがない。
そういったレアケースは置いておこう、今はセオリーを導き出すんだ。
と、現状のミラクルケースを神棚に供え上げつつ、祀られた藁を握りしめた。
なんにせよこれ以上悪い方向に考えても精神がすり減るだけなので、疑心暗鬼のルートは一旦却下としよう。
新天地でピンチな今の僕だ、負の感情をこれ以上抱えてしまったら、鬱とやらに罹ってしまいそうだ。
待てよ。
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28 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/06(金) 07:21:34 ID:QZYTKKX60
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いくら同じ状態で現れたとはいえ、僕もこいつをなんの目印もつけずに生まれたままの姿で持ち歩いていたわけで。
さらに言えば、つい先日、鍵交換を終えて渡されたものだ。
つまり言えば、新品故に目立った傷なんかもないため、目の前のこいつが確実に僕が失くしたものであると判別する方法が、ない。
えーっと、たとえば、僕のもとに生まれてきた、「こいつ」が、「こいつら」であったとしたら?
( ・∀・)+「……合鍵?」
(;^ω^)「いやいやいや、流石に……
いくら隣人とはいえ他人の部屋の合鍵なんて持ち合わせちゃいないお。
管理人さんならともかく、僕はただの隣人さんだお」
破綻の無いよう積み上げてみた説は、つん、と崩されてしまった。
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29 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/06(金) 07:25:03 ID:QZYTKKX60
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(;・∀・)(えええと、さっき言ってた、魔法使いは置いといて……スリとか探偵とかの職の類ではなく、合鍵でもない……?)
(;−∀−)(うーん)
(;−∀−)(脳がまったく回らなぁい)
正直言って、心身の疲れもあったので早くおうちに帰りたい気持ちも強かった。
僕なりに頭をフル回転させて、脳が思考に溺れかけている。 というか普通にのど渇いた。
今日は、もう疲れた。
慣れない地、アクシデント、超常現象。
もう十分、お腹いっぱいだ。 あと普通にお腹すいた。
気になることは後日に回すとして、今回はお礼を言って帰るのもいいだろう、いやよくない。
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30 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/06(金) 07:25:38 ID:QZYTKKX60
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うん、よくない。
全ッ然よくない、ありえない。
後日になんか回せない。
このままだったら、明日になってもおそらく頭が回らない。
他人のポッケに僕の鍵? さっきの今でいつの間に?
こうも周りが見えなくなるなら、ネコが死ぬのも頷ける。
……今まで好奇心のいけにえになってきたネコ達の仇を取ってもいいが、感情とかそういう概念って物理ダメージ通るのだろうか。
でもイライラしてるときにシャドーボクシングすると少し治まるよな。
ってことは怒りには物理攻撃が効くってことだ。 なら好奇心も同じ要領でヤれるんじゃないか?
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31 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/06(金) 07:26:11 ID:QZYTKKX60
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打撃と斬撃だったら、どっちが通りやすいんだろうか。
むしろ寝込みを襲うべきか? ネコだけに。
きっとキャッとでも叫び声を上げるに違いない。
しかし、そもそも好奇心っていつ寝るんだ? 寝てるときは寝てるのか?
ネコが目を覚まさない世の中を作れば解決するのか?
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( Φ∀Φ)「……ロウカ?……イカ?……ノカ?」
(;^ω^)「表情すんごいことになってるお。
確かに、君もこのままじゃスッキリ帰れないおね。
……不穏な殺気すら出てるお? それ僕にかお? やめるお?」
(;・∀・)「っいえ!」
平和のための壮大な計画が顔にでも出てたのか、内藤さんは僕の心中を察してくれたようで、
( ^ω^)「ま、僕はもったいぶるつもりも、隠すつもりもないお?
色々考えてる顔してたから、タイミングが野暮かなって思っただけで。
ってことで、立ち話もなんだお? やっぱり、あがってくといいお。
お茶……緑茶は飲めるかお?」
かくして、好意に甘え今に至る、というわけだ。
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32 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/06(金) 07:26:52 ID:QZYTKKX60
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( ^ω^)「――大まかな条件だけ、かいつまんで言うお。
守屋くんも疲れてるだろうし、納得だけして早く帰りたいお?」
ポットと急須を持ってこたつに戻ってきた内藤さんが、もそもそとこたつを履きなおしながらそう切り出した。
伸ばしていた足を思い出し、さっと畳む。
紙一重だったに違いない、幸いぶつかることはなかった。
( ・∀・)「ありがとうございます。
その、突っ込んで聞きたいのはやまやまなんですが……」
( ^ω^)「おっお。 気にしなくていいお。
無理して聞かせることでもないし。
深く聞きたきゃいつでもカムだお」
( ・∀・)「すみません、じゃ、早速お願いします」
( ^ω^)「お。
――まず、物を失くしていること。
どこにやったか確実に失念している必要があるお」
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33 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/06(金) 07:27:15 ID:QZYTKKX60
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確実に失念、とはちょっと矛盾してる気もするが、
( ・∀・)「ようは探せばすぐ見つかるものを取り寄せるようなことはできない、と?」
( ^ω^)「だお。 そこいらの境界が結構曖昧ではあるんだけど。
学校のどこかに置いてきたーー、とかならともかく、うちの机の上にあったはず、とかだとダメなんだお。」
( ・∀・)「ただ忘れ物をしたってだけなら横着せずに戻りましょう、って感じですかね」
( ^ω^)「おっお。
あと生き物もダメだおね。 迷子や、逃げたワンちゃんなんかは取り出せないお」
( ・∀・)「じゃあ、すでに生き物じゃなくなってたら……?」
( ^ω^)「」
(;^ω^)
(;^ω^)「……え?」
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34 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/06(金) 07:27:40 ID:QZYTKKX60
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(;・∀・)「え……?」
(;´ω`)「いや、うわ……おおおん……
怖いこと言うおね……それは考えたこともなかったお。
だからやったこともないし、というかもう、おおん、試したくないお。
迷子を取り寄せようとして手ごたえ感じちゃったりなんかしたら凄まじいトラウマになるお……
うん、絶対生き物の依頼は受け付けないことにするお」
そういうと内藤さんは目をギュッとつぶり、ふるふると頭を振った。
僕も未だ知らぬ死体を握る感触を想像してしまい、同じように目をギュッとつぶりふるふると頭を振った。
(((;>ω<)))
(((;>∀<)))
しばらくしてどちらともなくやめると、同じタイミングでお茶をあおり、ため息をついた。
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35 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/06(金) 07:28:02 ID:QZYTKKX60
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( ´ω`)「ふう、切り替えていくお。
次に、探している者自身の所有物であること。
ま、他人の持ち物がどこあるかなんて知らなくて当たり前だし、そこを条件にしとかないと悪用されちゃうお」
( ・∀・)「ふむふむ。
じゃあ、例えば誰かの失くしものを、別の人が代わりに探してくれてる場合なんかもダメなんですかね?」
( ^ω^)「ダメだお。 本人が依頼してくれないと取り寄せられなかったお」
( ・∀・)(……となると、アレは僕じゃ無理かー)
( ^ω^)「で、その遺失物が原形を留めていること。」
たとえば世界の真実を紐解く鍵となる、各地に散らばった碑文のかけらを集めたりはできない、とのこと。
( ^ω^)「もっとも、そんなもんが仮にあったとしても、もはや落とし主なんてこの世に存在しちゃないとは思うけど。
そもそもそれは本人が失くしたとも言い難いおね」
まあ、極端な例だったお、と目じりを緩ませる。
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36 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/06(金) 07:28:33 ID:QZYTKKX60
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( ^ω^)「あとは……これは僕側の条件になっちゃうんだけど、ポッケに入る大きさであること、ってのもあるお。
でもこれは衣服に依存する制限だから、でっかいポッケのついた衣類さえ持ってれば大抵の落とし物だったら問題ないお」
(* ・∀・)「天才学者が四次元空間を持つポッケを発明したとすれば、どうなります?」
( ^ω^)+「おっおっお、漂流したスペースシャトルでもサルベージしてみるかお?」
(;・∀・)「うえっ!!!」
( ´ω`)「……なあんて言いたいところだけど、実はここにも条件があって。
僕が素手を突っ込まなきゃいけないんだお。
つまりは腕力次第になっちゃうから、せいぜい自転車程度が限界だと思うお」
( ・∀・)「うーん、なるほど……
こう聞いてみると確かに条件がかなり多いんですね」
( ^ω^)「お。
だけど言ったお? かいつまんだって。
ただ落とし物を手繰るぶんには気にならないことばかりなんだけど……
ちょっと捻じれた場合もあるお?
そういう場合は、クリアしなくちゃならないノルマがまだまだ色々あるんだお」
(;・∀・)「いやあ、それにしてもすごいというか、不思議というか……
やっぱり魔法じみてますよね、その力」
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37 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/06(金) 07:29:01 ID:QZYTKKX60
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さまざまな条件が整わなければならないし、範疇も限られている。
しかし、それでも内藤さんのおこなうそれは、十二分に常識では考えられない超常現象に間違いない。
これを魔法と言わずして、一体なんと言うのだろう。
( ´ω`)「だから最初に言ってるはずだお? 魔法使いの類じゃないお、って
まあ、言うなれば……」
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続けて紡いだ言葉はどこか軽快で、まるで踊るように僕の耳へと舞い込んだ。
( ^ω^)「あればよい、けど、なくてもそんなに困らない。
これはまあ、ただのしがない、ちょっと便利な異能力、だお」
第二話 ポッケの条件
おしまい