( ^ω^)ちょっと便利な異能力、のようです

第一話 内藤のポッケ

1 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/02(月) 08:51:49 ID:YaYZS2kw0
 初日から、アクシデントに見舞われた。

2 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/02(月) 08:54:19 ID:YaYZS2kw0
 寿命で全うするならば、あまりにも長い人生だ。
良手正着ノーダメノーミスでフルコンボ、そしてパーフェクトに大往生、なんてのがそもそもありえないことではある。
些細なミスを繰り返し学習し、ときには対策をして今後に挑んでこその人生だ。

 ただ、ワンミスで詰むという局面も時には存在する。

たとえば、赤信号に気付かずに車がビュンビュン通る横断歩道を駆け抜けてしまったら。
たとえば、ガス漏れに気づかずにタバコに火をつけようとしてしまったら。
たとえば、くしゃみをした拍子に自爆ボタンをポチッとしてしまったら。

とまあ、そんな極端な場面でなくとも「詰んだ」と直感する状況は存在するわけで。

(;・∀・)「……おうちの鍵がどこにもなぁい」

 ちょうど僕は今、そんなゆるめの危機的状況に直面している。

3 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/02(月) 08:54:50 ID:YaYZS2kw0
ポッケ、財布、もちろんない。
カバンを漁るも、やはりない。
淡い期待を抱いて開けた、ポストの中にも無論ない。

帰路のどこかで落としたか。
途中で寄った本屋か茶屋か。

(;・∀・)「電車や大学ならともかく、道中となると厄介にもほどがあるぞ……」


 落としたものが携帯だったならまだ望みがある。
ホーム画面からのロックはかけていないので、持ち主を特定してもらいやすい。

衛星だかなんだかを利用した探索できる機能があったはずなので、友達に携帯を借りてIDを入れればおおまかな探索もできる。

一応、利用してる通販やゲームサイトのログインにはロックをかけてるので、変ないたずらもされづらいだろう。

電話やメール、ネットは普通に使えてしまうので、まったく悪用される可能性がないわけではないが。

4 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/02(月) 08:55:23 ID:YaYZS2kw0
 次に、落としたものが財布であったら。
これは、やや危険だろう。

身分証明できるものが入ってる故、落とし主のもとに帰ってくる確率は、ある。

しかし、現金が入っていて、ちょろまかしやすい大きさのそれを、
そっくりそのまま正直に警察に届け出る御仁が、この世の中にどれだけいるだろうか。
                             モ エ ル ゴ ミ
中身だけ抜き取って公園やらコンビニやらの不要物専用火葬待機所へ放り投げる人だっているかもしれない。

 そんなわけで、財布は落とした時点で4割くらいの希望を持ちつつ、8割くらいあきらめた方がいい。

……少し比率がおかしいが、希望っていうのは少し抱いてしまうと心の中で倍くらいに膨れ上がるものなので、間違ってない。

……ほんとに間違ったわけじゃないからな!


こほん。

5 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/02(月) 08:56:03 ID:YaYZS2kw0
 そして、鍵。

普通はどうだかわからないが、僕は鍵をそのままの状態で所持している。

むかし自転車の鍵なんかにキーホルダーをつけていたこともあったが、
カバンに入れるたびにイヤホンに寄生を試みやがるのが煩わしくて、すぐにやめた。

さて、そんな単体の数センチほどの小さな金属片をどこぞの道端にでも落としたとしよう。
そんなもんを自力で見つけるのは、まず不可能だ。

可能性があるとしたら探偵か魔法使いか、もしくはびっくりするほど運のいい人か。
それでも、見つけられる確率はよくて五分五分だろう。

 じゃあ、他の人が見つける可能性はどうだろう。

たまたま歩いてた道の先にきらりと光るものがあれば、気づくかもしれない。
その道を歩く人が多ければ多いほどその確率も上がるだろう。

 だけれども、だ。

万が一にも、誰かがたまたま見つけたとして、どうなる?
その人が警察に届けてくれたとしても、それでどうなる?

その鍵には、鍵であるという情報しかないのだから、本人以外は誰が落としたものかなんて到底分らない。

かといって鍵に名前や、あまつさえ住所なんて書いてしまったら大変だ。
鍵というものには、直接的な情報を絶対に持たせてはいけない。

6 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/02(月) 08:56:57 ID:YaYZS2kw0
(;・∀・)「……せめて、電話番号くらいはくっつけといた方がよかったかな〜」


 かくして僕は、学習して、今後の対策を講じることができた。

……現状に対しては、なんの役にも立たないが。


 このままでは事態が一歩も進みそうにないので、そんなこんなは置いといて、改めてその現状を整理するとしよう。

今日は大学の入学式。

式はそこそこに、学生証をもらったり通学定期を作ったり、通学圏内を迷子にならない程度にぶらついたりして帰ってきて、今に至る。

行ったところといえば、道を除けば、大学、駅、電車、本屋、茶屋、ゲーセン二軒。
以上だ。

もちろん、どこで落としたかなんて見当もつかない。

ついてないなりに来た道を辿って探すとしても、既に日も落ちてしまっている今、見つけ出せるとも思えないし、
徒労に終わりうることも考えると非常に腰が重い。

 そんなわけで、僕は新居のアパートの自分の部屋の目の前で、小一時間ばかり立ち往生をしている……といった感じだ。

管理人さんはいつもならいるらしいが、ちょうど今日から数日間休みを取りますと掲示板にアナウンスがあった。
下見の際や入居時に話をした際には、色々と気にかけてくれるいい人という印象であったが、いないのであればどうしようもない。

かといって隣人に頼ろうにも、まだ挨拶も交わせてない手前、勇気というか踏ん切りというか、そういうのが出ずにいる。

7 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/02(月) 08:57:48 ID:YaYZS2kw0
 ポッケから携帯を取り出して時計を確認すれば22時を回ったところ。
ついでに電池は二割を切っている。

まだギリギリ迷惑という時間ではない、はずだ、が。

(;・∀・)「こんなことなら友達の一人でも作っておけばよかったかな〜」

 入学式のアナウンスで、後日クラスごとに集まって自己紹介や談笑をする機会を設けると聞いて、
じゃあ今日は焦る必要はないと散策に時間を当ててしまったのが仇になったか。

 ではそもそも友達を早速作っていたとして、果たしてどうなるかと自問すれば、首は横に傾く。

家がすごく遠い可能性もあれば、そもそも出会ったばかりの暫定友人なんて泊めてくれない可能性もある。
お泊り交渉やら道案内やらのうちに携帯の電池が切れる可能性だってある。

 とりあえず今のうちに親か大学に連絡でも入れてみようかと再び携帯を手にしたが、どうしたことだ、うんともすんとも言わない。

そういえば、最近携帯の調子が芳しくなく、そこそこの電池残量から急に落ちることがよくあった。
ダメもとで電源ボタンを押してみるも、栄養失調による意識不明を決め込んでいる。

8 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/02(月) 08:58:46 ID:YaYZS2kw0
(;・∀・)「つくづくいい感じの王手かかってるな〜、これは」

 鍵と携帯、名人顔負けの二枚落ち。
流石に命までは落とさないだろうが、このままではマズい。


 やはり見ず知らずの隣人に助けを求めるしかない、と自分の部屋から向かって右隣の扉にノックをしようと拳を顔の高さまで上げたその時、

( ^ω^)「おっ?」

(;・∀・)「えっ?」

逆隣の扉からガチャリ、と音がして、中から人の良さそうな男性が顔を出した。
両手が塞がってるらしく、肩に体重をかけドアを押し開けている。


:::


( ^ω^)「明日燃えるゴミの日だから出しに行こうと思ったところだお」

 聞けば、このアパートのルールで、翌日のゴミは前日22時以降でなければ出してはいけない決まりらしい。

内藤と名乗るこの男性は新入居者の方ですおね? と僕に問い、互いに軽い自己紹介と挨拶を交わした後、そう教えてくれた。

9 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/02(月) 08:59:31 ID:YaYZS2kw0
( ^ω^)「んで、素直さんに何か用でも?
 あの人、たぶんこの時間は寝てると思うお」

(;・∀・)「そ、そうでしたか。
 いや、素直さん? に用というより、実は……」

現状を話すと、内藤さんはなるほど、とうなずき、

( ^ω^)「それでとりあえず隣人に頼ろうと。
 ところで君んちの窓、開けっ放しかお?」

と言われ、ハッとした。

(;・∀・)「そっかその手が!
 あああ、開けときゃよかった――!!」

(;^ω^)「あ、いや、それはそれで不用心だってとがめるお。
 今回の件についちゃ解決したかもしれんけど、今後ドアの鍵閉めて窓から空き巣にでも入られたとあっちゃあ笑い話にもならんお」

ここは二階だし、と今後の戸締りを促される。

ついで彼は扉をゆっくり蹴るように大きく押し開けると、まあ入るお、と招き入れてくれた。

( ^ω^)「まあ、屋根があるとないとじゃ違うおね。
 そういう時はいったん落ち着かないと、ろくに考えも浮かばないお」

(;・∀・)「すみません、ありがとうございます」

( ^ω^)「僕はとりあえずゴミ出してくるから、くつろいでるといいお。
 トイレとか、間取りはおんなじだから」

 そう言うと、ホッ、と力を込めてゴミ袋を持ち上げなおしてドアの外へと出て行った。

10 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/02(月) 09:00:25 ID:YaYZS2kw0
ばたん。 ワシャワシャ、テクテク。 ……静寂。

 それからしばらくしても、僕は動きを止めたままだった。

同じく留めたままの視線の先は、玄関のドア。
ドアにはいくつかのマグネット。

リンゴのマグネットにはゴミの日が書かれた紙が、さくらんぼのマグネットには内藤さんと女性のツーショットの写真が貼ってある。

笑顔100%の内藤さんに対して女性の表情は険しい。 しかし、よく見ると頬を赤らめている、ような気もする。

そんな一見読み取りづらい複雑に押し込めた表情を写真として切り取られてはいるが、
それでも一般的に鑑みても美しいと評されるであろう整った顔立ちをしている。

他にもバナナやらイチゴやらの形をしたマグネットがいくつか貼り付いているが、特に仕事を与えられず自由に泳ぎ回っている。

内藤さんは果物が好きなのだろうか。 
今度お礼の品として何か買ってこよう。

11 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/02(月) 09:02:39 ID:YaYZS2kw0
 と、あれこれ考えているうちに再び足音が聞こえてきた。
だんだん近づいてきたかと思うと、目の前の扉がガチャリと開く。

(;^ω^)「うおっつ!?」

(;・∀・)「えっ?!」

(;^ω^)「いやいや、なんで玄関で待ち構えてるんだお!?
 あがっていいって言ったお?」

(;・∀・)「あ、ああ、すみません、その、ホッとしたらボーっとしちゃったみたいで……」

( ´ω`)「おーん、びっくりしたお……」

 すみません、と謝ると、いやいや別にいいお、と返される。

驚いた顔、ホッとした顔、そしてすぐ元のにこやかな顔に戻る。
感情表現が豊かな人だな、と感じた。

12 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/05/02(月) 09:16:35 ID:Eq.cRj3k0
( ^ω^)「まああがらないならそれでもいいお。
 ちょっともったいぶったようで申し訳ないけど、実は失くしものについてはすぐ解決できるんだお」

(;・∀・)「えっ?」

( ^ω^)「で、先に言っとくけど、僕は泥棒でもスリでもなければ、探偵でも魔法使いでもないお。
 解決に際しても絶対にそこを疑わないって、誓ってほしいんだけど……できるかお?」

(;・∀・)「え? えっ?」

 何が言いたいのか真意が見えてこない。
解決できて、泥棒と疑わない? それに魔法使い?

( ^ω^)「結論から言うと、こういうことだお」

ごそごそとポッケを漁ったかと思うと、

( ^ω^)つ+「ほら」

 彼が差し出した手のひらの上では、見覚えのある、きらりと光る何かが眠りについていた。



第一話 内藤のポッケ
おしまい

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