( ^ω^)愛がとにかく余ってるようです

【お湯メイカー】

71 名前:【お湯メイカー】[] 投稿日:2014/11/04(火) 22:47:01 ID:24vkDy/w0

昼飯を食べ終わり学食のテーブルで暫くまったりしていると、
熱心にスマートフォンを見つめているドクオが妙に気になり
僕は声をかけた。


( ^ω^)「何してるんだお?」

('A`)「……」

ドクオは答えず、ただ一心不乱に画面を見続けている。
その姿は痴呆のそれすら連想させて僕はぞっとした。


(;^ω^)「おい、ドクオ!聞いているのかお!」

('A`)「……あっ、なんだ、その声はブーンか」

ようやく僕の存在に気づいたドクオだったが、
それでも画面から目を離そうとはしない。


( ^ω^)「一体なにをそんなに熱中してるんだお?ゲームかお?」

('A`)「んー?まぁそんな感じかな……」

要領を得ない返事に、僕は余計それが気になってしまう。

72 名前:【お湯メイカー】[] 投稿日:2014/11/04(火) 22:47:50 ID:24vkDy/w0

('A`)「お、沸いた沸いた」

やがてドクオは満足そうに頷くと、スマートフォンをポケットに仕舞った。

( ^ω^)「もういいのかお?」

('A`)「あぁ」


( ^ω^)「なんなんだお?アプリかお?」

('A`)「うん、お湯メーカーってアプリで最近ハマっちゃってさ」

( ^ω^)「お湯メーカー?」

大抵のスマホアプリの情報はチェックしている僕だったが、
それは全く聞いたことの無いものだった。

( ^ω^)「どんなのだお?それ」

('A`)「単純だよ、お湯の沸く様子を眺めるだけのアプリなんだ」

( ^ω^)「……はぁ?」

73 名前:【お湯メイカー】[] 投稿日:2014/11/04(火) 22:49:32 ID:24vkDy/w0

拍子抜けして僕は尋ねた。

(;^ω^)「お湯が沸くのを眺めるだけ?それだけ?」

('A`)「それだけ。
   アプリ起動させたら画面に鍋に入った水が表示されるから、
   あとはスタートボタンをタップして沸騰するまで眺めているだけ」

そんなアプリに熱中できる理由が全くわからず更に僕は尋ねた。

(;^ω^)「何が面白いんだおそれ……?」

('A`)「うーん、上手く説明できないんだけど……
   なーんか止められないんだよな。これが。
   沸くまで待つ期待感とか、沸いた後の達成感とか、もうやみつきだよ」


(;^ω^)「理解できない世界だお……」

74 名前:【お湯メイカー】[] 投稿日:2014/11/04(火) 22:50:38 ID:24vkDy/w0

('A`)「まぁ騙されたと思ってお前もやってみたら?基本無料だし、
   課金しなくてもそれなりに楽しめるしさ」

(;^ω^)「課金!?そんなのに課金要素があるのかお!?」


('A`)「あぁ、俺も我慢できなくて課金してるよ、
   先月なんか仕送りの6万全部つぎ込んじゃったしさ」

(;^ω^)「お前の実家苦しいのによくそんなことを……
      ていうか課金して何になるんだお!?」

('A`)「沸かす水が早く補充できたり、コンロの火力が強くなったりとか色々だよ。
    そういう要素もなんというか魅力の一つかもな」

(;^ω^)「そんなのカスタマイズしてどうすんだお……本当に分からないお」


('A`)「まぁまぁ、だからお前もやってみろって。俺が招待してやるから」

そう言うとドクオはまたスマートフォンを取り出し、なにやら操作する。

75 名前:【お湯メイカー】[] 投稿日:2014/11/04(火) 22:51:52 ID:24vkDy/w0

すると数秒後、僕のポケットが激しく震えた。

そのポケットに入れていた僕のスマートフォンを確認すると、
ドクオからURL付きのメッセージが飛んできていた。

('A`)「そのURLで始められるから始めてくれ、そしたら俺と湯ーフレになってくれ」

( ^ω^)「湯ーフレ?」

('A`)「紹介で湯ーフレになると、紹介者とその相手の両方に
   水が500ミリリットル送られるんだよ。お得だろ?」

(;^ω^)「その水は現実の水じゃないんだおね?」

僕がおそるおそる確認すると、


('A`)「何言ってんだ、当たり前だろ?」

ドクオは真顔で答えるのだった。

76 名前:【お湯メイカー】[] 投稿日:2014/11/04(火) 22:53:49 ID:24vkDy/w0

ドクオと別れた後、最寄りの駅までの電車を待つ間に
先ほどのURLを開いて、そのお湯メイカーとやらを始めてみることにした。

アプリをダウンロードする。
データサイズはかなり小さいらしく、ほんの数秒で落とし終えた。
存在しないお湯を沸かすだけの内容なら、それもさもありなんだ。


( ^ω^)「さて……どれどれ、どんなものかお?」

アイコンをタップしアプリを起動すると、いきなりユーザー登録を求められた。

(;^ω^)「こんなアプリに登録もクソもあるのかお?」

なんとも面倒だが、アカウント名とパスワードだけでいいらしいので
取りあえず画面の指示に従って登録を進める。


( ^ω^)「えーと、アカウント名はboon_chan、パスワードはchanboon、と」

77 名前:【お湯メイカー】[] 投稿日:2014/11/04(火) 22:56:06 ID:24vkDy/w0

登録後、ジャジャーン!という派手な音と光がしたかと思うと、
CGモデルで描かれた水の入った鍋が現れた。

その下にはスタートと書かれたボタンとメニューに戻る為のボタンが有るのみで、
他には特に操作できるようなものはない。

(;^ω^)「うわぁ……シンプルだなぁ」

スタートボタンを押すと、シュボッという音と共に鍋の下に火が現れた。


( ^ω^)「後は待つだけってことかお……

      いや、まさか本当に待つだけってことはないはずだお?
      多少ミニゲーム要素はあるに違いないお」


1分待ってみたが、別に何も起こらない。


( ^ω^)「まだ何も起こらないお……」

78 名前:【お湯メイカー】[] 投稿日:2014/11/04(火) 22:57:16 ID:24vkDy/w0

それから3分が経過した。
水面にかすかに泡が出てきたが、その他に変化はない。

(;^ω^)「……まだ待つのかお?」

それからさらに3分が立ち、
お湯がボコボコと音を立て完全に沸騰しだすと、
画面にトゲトゲのフキダシで「沸騰成功!」の文字が現れた。

それだけである。

他には、戻るボタンしか出ていない。
評価画面など存在しないし、報酬アイテムもない。


(;^ω^)「ま、マジでお湯が沸くのを見るだけのアプリじゃねーかお!」

じっと画面を見続けていたせいで電車も一本逃してしまうし散々である。

怒りでお湯よりもこっちの頭が沸騰しそうだ、あやうくスマートフォンを
ホームの地面に叩きつけようかと思ったぐらいである。


(#^ω^)「時間返せお!なんなんだおこのクソつまんないアプリ!
      こんなのに金かけるなんてドクオもどうかしてるお!」

それきり、僕はそのアプリを起動することはなかった。

79 名前:【お湯メイカー】[] 投稿日:2014/11/04(火) 22:58:48 ID:24vkDy/w0

やがてそのアプリの存在すらも忘れ日々を過ごしていたが、
その日自分の部屋でテレビを何気なく見ていた僕は
とある一つのコマーシャルを目にして驚いた。


テレビ「1億ダウンロード突破!お湯メイカー!まさに話題沸騰中、
    お湯だけに!気になる人は"お湯"で検索!」


(;^ω^)「げぇ!あのクソアプリ、CMやってんのかお!」

(;^ω^)「1億ダウンロードとか嘘に決まってるお……
      誇大広告としてJAROに通報したほうがいいんじゃないかお……?」


呆れて僕はテレビの電源を落とし、ベッドの上に放り投げていた
ゲーム雑誌を引き寄せて開く。

( ^ω^)「なんか好みの新作のゲーム載ってるかな……?」

パラパラと雑誌をめくっているうち、とある見開きページで僕はまたまた仰天する。

80 名前:【お湯メイカー】[] 投稿日:2014/11/04(火) 23:02:00 ID:24vkDy/w0

(;^ω^)「"今話題のお湯メイカー、最新攻略情報を徹底チェック"……!?
       なんでゲーム雑誌にもお湯メイカーのことが載ってんだお!?」

(;^ω^)「あんな内容で攻略することがあんのかお!?
      大体、なんでいつのまにこんな世間に浸透してるんだお」

少し気味が悪くなったが、思い直すと広告というのは得てしてこういうものだ。


(;^ω^)「いっつもこうやって、変なものを売りだそうとするんだお……
      それで本当に流行ることもあるけど……
      まぁこのアプリだけは流石に無いお」


そう、最初はマスコミのゴリ押しで無理やり流行っていることにしているのかと思ったが、
世の中の変化はメディアだけではなかったことを僕は思い知る。

81 名前:【お湯メイカー】[] 投稿日:2014/11/04(火) 23:02:49 ID:24vkDy/w0

それからも、街を歩けばすれ違う人すれ違う人が、


(,,゚Д゚)「お湯メイカーにハマっちゃってさ」

( ・∀・)「お前も?俺も一日中やってるよ」


と、あのアプリの話題を口に出しているではないか。


さらには、混みあった電車に乗れば前後左右に立っている人が
みんなスマートフォンを手にしており、目に入る画面には
どれもこれも沸騰するお湯が写っている始末。


(;^ω^)(おかしいお……なんでみんなあんなのにハマれるんだお……?)

納得はいかないが、現にあのお湯メイカーは確かに流行しているようだ、
それに疑問を挟む余地はない。

82 名前:【お湯メイカー】[] 投稿日:2014/11/04(火) 23:04:00 ID:24vkDy/w0

そして大学でも、学生たちが口々にお湯メイカーを話題にする。

その日も知り合いの学生の一人が話しかけてきた。


ミ,,゚Д゚彡「内藤はお湯メイカーのランクどれぐらい?」

(;^ω^)「あ、僕それやってないんだお」

ミ,,゚Д゚彡「なんだよ、珍しいな。みんなやってんのに。
      ちょっと教えて欲しいことあったんだけどなぁ……」

彼の表情が心底失望しているように見えて、僕はドキリとした。


(;^ω^)「あ、でも……」

慌てて、なんとか話題に乗ろうとして声を出したが、


( ゚∀゚)「お湯メイカー?俺結構プロだからなんでも言ってみろよ」

ミ,,゚Д゚彡「マジ?あの硬水なんだけどさぁ」

彼は他の人とお湯メイカーで盛り上がり始めて、僕だけが取り残されてしまった。

83 名前:【お湯メイカー】[] 投稿日:2014/11/04(火) 23:05:26 ID:24vkDy/w0

気味悪さはピークに達しそうだった。

自分が合わなかったものを、誰も彼もが受け入れている現実。
僕だけが別の世界に生きているような疎外感。


「あの人、お湯メイカーしてないよ……」

「遅れてるね、どっかおかしいんじゃない?」


(;^ω^)(な……)

そんな幻聴さえ聞こえてきて、
僕は思わずポケットからスマートフォンを取り出した。

ホーム画面には、あの時から残っているお湯メイカーのアイコン。

(;^ω^)「……」

84 名前:【お湯メイカー】[] 投稿日:2014/11/04(火) 23:06:21 ID:24vkDy/w0

僕はお湯メイカーを起動し、お湯を沸かし始めた。

――1分、2分。

相変わらず、ただ水面に泡が立つだけで退屈極まりない。

だが、目を逸らす気にはなれなかった。
やめた瞬間に社会不適合者の烙印を押されそうで怖かった。


数分後、ぼこぼこ沸騰しだしたお湯を見て僕は息を吐いた。


( ^ω^)(やったお、沸いたお……)

その瞬間、わずかながらも達成感を覚えた僕自身に愕然した。


(;^ω^)(なんだおこの気持ちは……?)

(;^ω^)(いや、これは達成感じゃないお、
      ただ辛い作業から開放された喜び以外の何物でもないお……)

僕は首を振って自分をごまかした。

85 名前:【お湯メイカー】[] 投稿日:2014/11/04(火) 23:07:05 ID:24vkDy/w0

だが、それからは下り坂を転げ落ちるようだった。

最初は世間から浮いてしまわないように、
空いた時間でちょこちょことお湯を沸かす程度だったのだが、
次第にその頻度が増えていった。


('A`)「ブーン、メシ食わないの?」

( ^ω^)「ん?あぁ、これ沸かしてから食うお」

('A`)「あんだけメシに執着してたお前がこんなにハマるとはなぁ」


寝食さえ忘れて、湯沸かしに没頭する僕。

あれほど退屈で怒りさえ覚えていた、あのお湯を沸かす作業を
以前よりも受け入れている僕を変に思う暇すらなかった。

勉強もスポーツも興味がわかず、時間が取れれば湯を沸かし続ける日々。

86 名前:【お湯メイカー】[] 投稿日:2014/11/04(火) 23:11:26 ID:24vkDy/w0

やはりと言うか、どっぷりとお湯メイカーにハマり込んでくると
無課金では我慢できなくなった。


( ^ω^)(とりあえず500円で水を追加して……)

という軽い気持ちで投入する程度だったのが、それもエスカレートして


(ヽ^ω^)「なんでもっと火力が上がらないんだおっ……!
      もういいお、次は5万ぶち込んで絶対すぐ沸かしてやるお……!」


といった具合に、以前の僕なら大事に大事に取っておいた金額、
もはや生きていくのに必要な金すらお湯メイカーにつぎ込んでいる有り様で、
これは明らかに健康を害している。


その時の僕の姿は、病人や狂人と呼ばれても仕方なかった。

87 名前:【お湯メイカー】[] 投稿日:2014/11/04(火) 23:12:17 ID:24vkDy/w0

やがて僕は大学にも顔を出さなくなり、自分の部屋に篭って
ひたすら一日中スマートフォンの画面を見つめ続けるようになった。


(ヽ^ω^)「……」

お湯が沸くと次の水を買って入れ、それが沸くとまた水を買う。

それだけを繰り返し、現実の水すらわずかしか口にしない。

片付ける時間が惜しいので、
部屋の中は溜まりきったゴミが散乱していた。


ピンポーン

インターホンが鳴ったが、出る気はない。
扉の方向に顔を向けることすらせず、ただ鍋を見続ける。


「おーい、ブーン、いるか?……なんだ、カギ開いてねえじゃん、入るぞー?」

88 名前:【お湯メイカー】[] 投稿日:2014/11/04(火) 23:13:33 ID:24vkDy/w0

ガチャ

ドアノブが回ると、扉が開いた。

('A`)「どうしたんだよブーン、学校にも来ねえしよぉ……、
   うわ、部屋汚ねぇなあ」


訪ねてきたのはドクオだった。
そういえば、彼とも1ヶ月近く顔を合わせていない。


(ヽ^ω^)「……」

('A`)「なんか言えよ、心配してきてやったのに……何してんの?」

ドクオが何か話しかけてくるがその声すら邪魔だ、

そんなことよりお湯だ、お湯を沸かさなければ。


('A`)「おーい、聞いてんのか?大丈夫かお前?」

暫くただ話しかけてくるだけだったドクオは、
しびれを切らして僕の持つスマートフォンの画面をひょいと覗き込む。

89 名前:【お湯メイカー】[] 投稿日:2014/11/04(火) 23:14:48 ID:24vkDy/w0

('A`)「ったく、何してんのかと思えばお湯メイカーかよ、懐かしいな」

ドクオのその一言に、僕は敏感に反応した。



(ヽ^ω^)「……懐かしい……?」

('A`)「あぁ、そういえば俺もやってたなーって。今じゃ周りでやってる奴いないけど」

(ヽ^ω^)「な、な……」


力が全身から一気に抜けていく。

今まで、お湯を沸かすためだけに気力を持たせていたようなものだった。
その気力が水蒸気のように消えていく。

お湯だけに。


(ヽ^ω^)「もう誰もやってないのかお……?」

90 名前:【お湯メイカー】[] 投稿日:2014/11/04(火) 23:16:31 ID:24vkDy/w0

('A`)「あぁ。代わりに今流行ってんのはこれ、これだよ」

ドクオが突きつけてきたスマートフォンの画面には、一面黒しか写っていない。

一瞬、電源が入っていないのかと思ったが下の方にメニューバーが存在した。


(ヽ^ω^)「これは……?」

('A`)「ブラックドローってアプリだよ、画面を黒く塗りつぶすだけだから
   手軽に出来てハマれるぜ?お前も始めるか?だったら俺と塗り友に……」

(ヽ^ω^)「……やらないお」

僕は心の底から遠慮した。



〜おわり〜

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