( ^ω^)愛がとにかく余ってるようです

【一日を噛みしめて】

42 名前:【一日を噛みしめて】[] 投稿日:2014/11/01(土) 20:13:27 ID:ek.tv4U.0

その日、僕の一日はとても充実したものだった。

中学以来の親友と朝から夕方までカラオケやら映画やらで遊び回り、
夜には居酒屋で共に酒を飲み、体はクタクタに疲労したものの、
代わりに得た満足感はとても大きかった。


('A`)「また近いうち会おうぜ」

( ^ω^)「うん、今日はありがとう!」

('A`)「こっちこそありがとう、じゃあな」

夜十時過ぎの駅構内で友人と手を振り合って別れ、
彼が改札を抜けてホームの方へと消えていくのを見届けてから
僕は大きくため息をついた。


( ^ω^)「明日から仕事かお……」

43 名前:【一日を噛みしめて】[] 投稿日:2014/11/01(土) 20:15:51 ID:ek.tv4U.0

明日は月曜日。

あの辛く厳しい社会人としての一日がまた始まることを思えば、
今までの幸せも濁っていくようである。

( ^ω^)「はぁ……」


僕は現在の仕事にまったく満足していない。

どんなに一所懸命業務に励んでもミスを連発し、
そのたびに上司を呆れさせてしまい、
「この仕事向いてないんじゃないか」という気持ちが心を埋め尽くす。

おまけに僕は人とコミュニケーションを取るのが苦手であり、
職場の人間関係も良好とはいえず、毎日重苦しい雰囲気で
好きでもない仕事を続ける他なかった。

( ^ω^)「行きたくないなぁ、仕事……」

44 名前:【一日を噛みしめて】[] 投稿日:2014/11/01(土) 20:17:06 ID:ek.tv4U.0

駅を出て家に着くまでの道すがら、
周りに人がいないのを良いことにグチグチと呟き続ける。

( ^ω^)「今日は楽しかったなぁ、今日がいつまでも続けばいいのに……」


「続けさせてあげようか」

ふとそんな声が聞こえたのでその方向へ首を向けると、
黒いスーツに身を包んだ背の高い男が道の端に立っていた。

彼は言う。


( ・∀・)「今日という日を、繰り返させてあげようか」

45 名前:【一日を噛みしめて】[] 投稿日:2014/11/01(土) 20:19:16 ID:ek.tv4U.0

( ^ω^)「……どういうことですか?」

( ・∀・)「実はね」


( ・∀・)「僕には、他人の一日をループさせる能力があるんだ」

( ^ω^)「は?」

まさか、と一笑に付しその場を立ち去ろうとするも、
酔っていたせいか、その男の言葉がどうにも本当の事のように感じられ
僕はさらに説明を求めることにした。

( ^ω^)「ループするって……同じ日が何度も繰り返されて、
      次の日が来ないってことですかお?」

( ・∀・)「その通り」

彼は大きく頷いた。

46 名前:【一日を噛みしめて】[] 投稿日:2014/11/01(土) 20:21:20 ID:ek.tv4U.0

( ・∀・)「これから僕が君の肩を叩く。
      すると今日という一日がずっと繰り返されることになるんだ。
      記憶を引き継いだ状態でね」


( ^ω^)「それってまさか永遠に繰り返されるわけじゃないですよね?」

( ・∀・)「それはないよ、君がもう充分だと思えば、
      僕のところを訪ねてくれればいい」

( ・∀・)「そしてまた僕が君の肩を叩けば、
      ループが解除されて君の日々は元に戻る。
      無事、明日がやって来るというわけさ」

( ^ω^)「……あなたにもう一度会える保証は無いお?」


僕の言葉に、彼はアハハハ、と口を大きく開けて笑った。

47 名前:【一日を噛みしめて】[] 投稿日:2014/11/01(土) 20:23:10 ID:ek.tv4U.0

( ・∀・)「今日という同じ一日が繰り返されるんだから、
      僕もこの時間必ずここにいることになるだろう?」

( ^ω^)「そういえばそうだお」

そこで突然彼は、真顔に戻った。

( ・∀・)「でもデメリットもある」


( ・∀・)「同じ一日を繰り返すと、その分どんどん一日が薄まっていくんだ」

( ^ω^)「薄まる?」


( ・∀・)「そう。例えば一万円を拾うという経験をした一日を繰り返すとしよう、すると、
      それがだんだん、千円拾った、百円拾った、十円拾った、一円、何も拾わなかった……

      という具合に、繰り返すごとに経験が薄まっていくわけ」


( ^ω^)「なるほど……」

48 名前:【一日を噛みしめて】[] 投稿日:2014/11/01(土) 20:25:06 ID:ek.tv4U.0

( ・∀・)「その辺を理解してもらったところで……」

彼はスーツの袖をまくると、尋ねる。

( ・∀・)「どう?今日を繰り返してみるかい?」

( ^ω^)「……」

どうせ本当かどうか分かりはしないが、
ただ肩を叩いてもらうだけで、今日という素晴らしい一日を繰り返し楽しめ、
さらに明日を先延ばしできるかもしれないのだ。


やってもらうに越したことはない。

( ^ω^)「お願いするお」

( ・∀・)「了解、じゃあさっそく」

了承を得ると彼は右腕を振り上げ、そして僕の右肩を強めにポンと叩いた。


(;^ω^)「……!」ビクッ

49 名前:【一日を噛みしめて】[] 投稿日:2014/11/01(土) 20:26:33 ID:ek.tv4U.0

叩かれた瞬間は若干の痛みを感じたが、
その他に別段変わったことはない。

( ^ω^)「……これでいいのかお?」

( ・∀・)「あぁ。今夜寝て、起きたらまた今日が始まるってわけ」

( ^ω^)「ふーん……」


( ・∀・)「あー!人助けするのは気持ちがいいなぁ!」

大きく腕を伸ばし唸ると、彼は軽く頭を下げ、

( ・∀・)「じゃあまた今日会いましょう、さよなら」

と言うとその場から足早に去った。

50 名前:【一日を噛みしめて】[] 投稿日:2014/11/01(土) 20:29:20 ID:ek.tv4U.0

(;^ω^)「本当に今日がループすんのかお、あれで……」

疑いながらもその日は家へ帰り、すぐに寝床に潜った。


これで結局明日が来てしまったら、落胆も大きいだろうなと思いつつも
僕は、誰に願うべきかも定まらないまま願う。


( ^ω^)(お願いします、明日来ないで下さい
      お願いします、明日来ないで下さい
      お願いします、明日来ないで下さい
      お願いします、明日来ないで下さい)



微かな望みに期待を寄せ目を閉じると、すぐに夢の世界へ旅立った。

51 名前:【一日を噛みしめて】[] 投稿日:2014/11/01(土) 20:30:02 ID:ek.tv4U.0

窓の外でさえずる雀の声で目が覚めた。

うんと延びをしながら、ふとベッドの横の机に置かれた時計を見ると
時刻は8時49分を指していた。

一瞬で顔が青ざめる。


(;^ω^)「ち、ちこ、遅刻……!」

急いでベッドから跳ね起きてパジャマを脱ぎながら
壁に掛けているスーツを取り、それを身につける。

髭を剃るのは無理でもせめて洗顔だけ、と思い
洗面所に向かうため居間を通り抜けようとしたとき、
テレビの画面を何気なく覗いて驚いた。

52 名前:【一日を噛みしめて】[] 投稿日:2014/11/01(土) 20:31:40 ID:ek.tv4U.0

( ^ω^)「あれ……?プリキュアやってるお……?」

怪訝に思いテレビを見つめていると、母親がキッチンから出てくる。

J( 'ー`)し「おはよう、どうしたのスーツなんか着て。
     今日、日曜なのに……」

( ^ω^)「日曜……?だって昨日も日曜……」


スマホを開いて画面を確認すると、
そこには確かに日曜日の文字が表示されていた。

ここで僕は、昨夜(今夜?)のことを思い出す。

---------------

( ・∀・)「これから僕が君の肩を叩く。
      すると今日という一日がずっと繰り返されることになるんだ。
      記憶を引き継いだ状態でね」

---------------

53 名前:【一日を噛みしめて】[] 投稿日:2014/11/01(土) 20:34:22 ID:ek.tv4U.0

(;^ω^)「ま、マジだったのかお……」

その瞬間、喜びが全身をかけ巡るのを感じた。

本当に休日がループしているのだ、
彼の言っていたことはまさしく事実だったのである、


(*^ω^)「やったお!また今日が来たんだお!
       明日はまだ来ないんだお!」

J(;'ー`)し「どうしたの突然、変な子ねぇ……
      今日はドクオくんと会うんでしょ、遅刻しないにしないと」

(*^ω^)「うん、うん!」

僕は頷くとその場でスーツを脱ぎ去った。

J(;'ー`)し「ちょっと、部屋で脱ぎなさい!」

54 名前:【一日を噛みしめて】[] 投稿日:2014/11/01(土) 20:36:36 ID:ek.tv4U.0

そしてまた僕は、友人と共に今日を満喫した。

まぁ、以前の今日と今回の今日で、
掘りごたつのカラオケボックスが普通の部屋になっていたり、
3D映画を見たのが2D映画になっていたりという違いはあったが、
これもおそらく一日が薄まったせいであろう。


その後、夜になり。

以前と同じように友人と駅で別れてからの道すがら、
以前と同じようにスーツ姿の男と出会った。

彼は僕と目が合うと、引き留めて尋ねる。


( ・∀・)「ねぇ、違ってたら悪いけど君……ループしてない?」

(*^ω^)「はい、ありがとうございます!
      あなたのおかげで今日をまた楽しめたし、
      おまけに明日を先延ばしに出来たし!とても助かったお!」

55 名前:【一日を噛みしめて】[] 投稿日:2014/11/01(土) 20:38:36 ID:ek.tv4U.0

( ・∀・)「そうか、それはよかった。で、もうループ解除するかい」

( ^ω^)「それは……」


僕は思う。

またあの地獄のような仕事の日々に戻るには
心の準備が出来ていない気がする。

もう少し今日という日を楽しんで、
明日からの仕事に励む覚悟が出来てからの方が良いだろう。

解除はそれからでいい。


( ^ω^)「……まだいいですお」

( ・∀・)「了解、じゃあ今日また会いましょう」

56 名前:【一日を噛みしめて】[] 投稿日:2014/11/01(土) 20:44:06 ID:ek.tv4U.0

次の日。
(といっても、結局また今日が来たのだが)

また同じように友人と一日中遊んだ。

気の置けない仲ならば何度同じ遊びを繰り返しても、
意外と飽きないものだ。

普段、仕事で辛い思いをしていただけにこういった
時間が余計楽しい。

一日が薄まったせいでカラオケの時間が短くなったり、
視聴する映画が少々退屈なものに変わったりはしたが、
それも些細なことだ。


そして夜、同じように男と出会う。

( ・∀・)「君、間違ってたら悪いけどループしてない?」

( ^ω^)「はい」

57 名前:【一日を噛みしめて】[] 投稿日:2014/11/01(土) 20:45:43 ID:ek.tv4U.0

( ・∀・)「ループ解除するかい?」

まだその気にはなれなかった。
労働意欲が湧いてくるまでは明日には来てほしくない。
どうせいつでも解除できるんだ、まだいい。

( ^ω^)「解除しませんお」

( ・∀・)「了解、じゃあまた今日会いましょう」




そうして僕はどんどん今日を繰り返し、明日を先延ばしにした。

58 名前:【一日を噛みしめて】[] 投稿日:2014/11/01(土) 20:49:07 ID:ek.tv4U.0

だが、いつまでたってもその明日を迎える気にはなれなかった。

同じ日を何度も繰り返すことで、仕事をしない生活に
脳がすっかり適応してしまい、
労働意欲がいよいよ失せてしまっているのだ。


( ^ω^)(まだ解除しない、まだ解除しない、まだ…)

そのうち、繰り返される一日もだんだんと無味無臭なものに変貌していく。


友人と会う時間が減り続け、次第に全く会わないようになった。

そればかりか家からもなかなか出る気がしない。
何事にも無気力となり、生きている心地さえ感じられなくなっていく。

朝起きて夜寝るまでの間、イベントらしいイベントがほぼ起こらなくなっていく。

59 名前:【一日を噛みしめて】[] 投稿日:2014/11/01(土) 20:49:59 ID:ek.tv4U.0

しかしそれでも。


( ・∀・)「ループ解除するかい?」

( ^ω^)「しない……」


仕事の始まり、というものから逃げ続けるために明日を先延ばしする。

もはや友人がどうとか関係はなかった。
働きたくない、その一心で解除を拒み続ける。

( ^ω^)(いつでも解除出来るし……まだいいんだお)


そんな日々も終わりを告げることになる。

60 名前:【一日を噛みしめて】[] 投稿日:2014/11/01(土) 20:51:04 ID:ek.tv4U.0

何度目の今日だろうか。
数十回、下手をすれば数百回目のループを繰り返した朝のことだった。


すっかり鈍りきってしまった身体を起こそうとするも、

( ^ω^)(あれ……?)

全く動かない。

筋肉に力を入れても、指の先から抜けていくようで手応えがない。

それから1時間、2時間、3時間……。

太陽が真上に上りきり、そして沈んでいく頃になっても
僕はまだベッドから抜け出せずにいた。


( ^ω^)(なんでだお……?)

61 名前:【一日を噛みしめて】[] 投稿日:2014/11/01(土) 20:52:28 ID:ek.tv4U.0

おかしな事に母が訪ねてくるようなこともない。

息子が一度も部屋から出てきていないにも関わらず、だ。

( ^ω^)(大変だお……)

大声で助けを求めようにも声すら出ないのだ、
完全な八方塞がりだ。


やがて完全に夜になり、部屋の中が真っ暗になった頃、
僕は身体が動かなくなった理由にようやく気づいた。


( ^ω^)(恐らく……一日を薄めすぎてしまったせいで、
      僕の一日に全く何の変化も起こらなくなってしまった、
      そうに違いないお)

( ^ω^)(僕の身体や精神が無気力になれば、
      それだけ僕も動こうとしなくなる……
      僕が動かなければイベントも起きないので、
      結果一日が薄まっていく……というわけかお……)

62 名前:【一日を噛みしめて】[] 投稿日:2014/11/01(土) 20:54:10 ID:ek.tv4U.0

そして、僕は恐ろしい事実に気がついた。

( ^ω^)(これじゃあ……ループ解除できないじゃないかお)


あの男はまた今日もあの道に立っているのだろうが、
何しろ全く動けないのだから、彼に会う術もない。

そして今日という一日もまもなく終わろうとしている。

今日が終われば……次にやってくるのは明日ではない。

また今日だ。

その今日も、現在の今日よりさらに薄まって……。


( ^ω^)(……)

僕は眠った。眠るより他に無かった。

63 名前:【一日を噛みしめて】[] 投稿日:2014/11/01(土) 20:57:29 ID:ek.tv4U.0

次の朝。次の夜。そのまた次の朝……。

何一つ動きのない一日を繰り返しているうちに
僕は、完全に思考を停止していた。


( ^ω^)


もはや生きているのかどうかも分からない。

彼の時間が止まってしまったのか、
世界全体が止まってしまったのか、それを確かめる方法はない。

彼の存在は一体どうなってしまったのだろうか。


……。

64 名前:【一日を噛みしめて】[] 投稿日:2014/11/01(土) 20:58:28 ID:ek.tv4U.0

日曜の夜、駅からの帰り道で俺はため息をついた。

(,,゚Д゚)「はぁ……だりぃなあ……。明日から仕事かよ」

(,,゚Д゚)「今日がずっと続けばいいんだけど……」



「続けさせてあげようか」

ふとそんな声が聞こえたのでその方向へ首を向けると、
黒いスーツに身を包んだ背の高い男が道の端に立っていた。

彼は言う。


( ・∀・)「今日という日を、繰り返させてあげようか」


〜おわり〜

inserted by FC2 system